著者
吉村 浩一 関口 洋美
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

左右逆さめがねを2週間着用した女性が、正常視のときの生活と同じようなスタイルを獲得するという、きわめて知覚順応の進んだ状態を示した。これにより、逆さめがねの世界に順応することがどのような変化を引き起こすかを捉えることができた。この研究成果を踏まえ、子どもたちに人間の知覚の不思議さを体験してもらい、逆さめがねを通してものを見たり行動したりする際に起こることを予想し実際に体験することにより、その予想がどのように間違っているかを論理的に考えてもらうための科学イベントを構築した。
著者
杉本 和弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、大学教育の質保証をいかに機能させ効果を高めるかを明らかにするため、「同僚制原理とそれを担保する組織・制度は歴史的にいかに変容しつつあるか、その考察から得られた知見を前提とするとき、大学を支えるアカデミック・リーダーはいかに育成されるべきなのか」を中核的な学術的問いに設定した上で、「ガバナンス」「同僚制原理」「アカデミック・リーダー育成」の3つの視点から、理念-実態-実践を接続させながら総合的に解明し、その知見を現場に還元しようとするものである。
著者
松村 博文
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、東南アジアの人々と縄文人の起源と成り立ちを、古人骨の歯と頭骨の形態学的研究により明らかにするものである。この問題では、新石器時代以降の中国からの北方アジア系集団の拡散により、先住のオーストラロ・メラネシア系集団と混血し、現代東南アジア人に至ったとする「混血モデル」と、東南アジアにはもとよりいわゆる古アジア系集団が居住しており、現代に至るまで遺伝的に連続しているという「地域進化モデル」が提唱されている。これらの二大仮説のどちらが正しいのかを、形質人類学の立場から検証するための鍵となるのが、一つには歯の形態の解釈である。もう一つの重要なアプローチは、新石器時代以前の古人骨の形態分析であり、その頭骨などの形態がオーストラロ・メラネシア系集団の特徴を持つか否かが鍵となる。本研究による歯の形態学的データの解析からは、混血モデルを強力に支持する結果が得られた。Sundadontと称すべき歯列をもつ集団は、後期旧石器時代のスンダランドに起源をもつオーストラロ・メラネシア系集団と中石器時代の東南アジア先住民に限られ、現代東南アジア人の歯の形態は、後に移住してきたSinodont型歯列をもつ北方アジア人との混血により生じた両者の中間型歯列にすぎないという見方がなされた。現代東南アジア人と類似する歯の形態をもつ縄文人の成り立ちも、同様の解釈がなされた。一方、頭骨形態の分析からも、東南アジアでの新石器時代以前のマレーシアのグアグヌン遺跡、タイのモキュウ人遺跡やベトナムのボアビン文化期の遺跡などから出土している人骨は、オーストラロ・メラネシア系集団と強い類縁関係が示唆された。また新石器時代の東南アジア人や縄文人の頭骨は、これらのオーストラロ・メラネシア系集団と北方アジア系集団の中間的特徴をもっており、両者の混血の初期段階の集団と位置づけられた。
著者
池澤 優
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は死をめぐる宗教学的視点からのアプローチ、死者儀礼、死者崇拝、死生観などについてどのような研究がなされているか、全体像を把握することを可能にするような資料の整理を、できる限り偏らない統合的な視点から提供することを目的として開始された。本年度が研究の最終年度に相当する。本年度は前年度から引き続いて、資料の収集とその整理を行ったが、特に最終年度であることに鑑み、研究成果を報告書の形にまとめることに力点を置いた。本研究は、その目的に従い、二つの課題が設定されている。一つは、様々な研究分野・方法論における現在の死の状況に関する議論を広く収集し、それをビブリオグラフィー化すると同時に、各文献が基本的に生と死についてどのような見方を内包しているかを整理する作業である。研究報告書の第一部と第二部がそれに相当する部分である。第一部は本研究によって収集・整理した文献のビブリオグラフィーであり、第二部はそれらに対して行った整理の、いわばサンプルである。これらによって、死にかかわる宗教学的研究として、どのような文献が存在するのかを検索し、それらがどのような性格のものなのか、広く現在の研究状況を把握することが可能になっている。本研究のもう一つの課題は、様々な文化における死および死者に関する宗教的な現象・行為・観念の事例を収集し、人類文化全体として、それがどのような構造を持ち、またどのような可変性を持つのかを俯瞰できるような整理を試みることである。当然のことながら、単独の研究者が多くの文化に関してこの作業を行うことは不可能であり、先ず、研究代表者が専門とする文化について、一種のサンプルを提供するのが現実的である。研究報告書の第三部がこの部分に相当する部分であって、中国の古代から中世にかけて、死者の在り方がどのように変化していったか、それが何を表していたかを論じた。本研究担当者の視点が基本的に宗教学というディシプリンからのものである以上、本報告にも一定のバイアスが含まれることは否めないであろう。しかし、宗教的な死生観が死後の存続や他界の信仰といった表面的な特性によってのみ捉えられるべきではなく、死という破壊を有意義なものに変換するすることにより、生をも有意義なものにする営みでもあったこと、それ故に我々にとっても看過することのできない現代的な意義を有するものであることを示すことができたと思う。
著者
口岩 聡
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1.ダイオキシン摂取の次世代影響を調べるため雌マウスにダイオキシンを慢性的に経口投与して胎内蓄積を起こさせた後、妊娠させ産子を得た。産子の外観や成長には異常が認められなかったが、接触刺激に対し過敏性を示すなど、行動に異常が現れた。行動異常が出現した動物では、脳内のセロトニン産生細胞が著しく減少していた。このことは、胎盤および母乳を介してダイオキシンに汚染された子どもの脳にセロトニン異常が発生し、それが行動異常を起こす原因となる可能性を示唆している。2.ダイオキシン致死量1回投与を受けたラットでは、投与後摂食障害が現れ、著しい体重減少が起こった。このラットの脳内では、扁桃核中心核、分界条床核、室傍核、内側視索前核、視床下部内側核にc-Fosタンパクの発現が見られた。これらの神経核は摂食の調節に関係しているので、ダイオキシンによる摂食障害はこれらの神経核が障害を受けるためと推察された。3.またこれらのダイオキシン急性投与を受けた動物では、視床下部外側野、室傍核、脳弓周囲核において一酸化窒素合成酵素の活性低下が認められた。これらの領域も摂食に関係する部位であり、一酸化窒素は摂食行動に関係する伝達物質である。ダイオキシンは一酸化窒素系に影響を与え、摂食行動を障害する可能性が考えられた。4.またこれらの急性投与動物において扁桃体核、内側視索前核、淡蒼球、分界条床核においてエンケファリン免疫活性増強が認められた。以上の結果は、ダイオキシンは胎盤、母乳だけではなく、成人でも大量に摂取すると脳異常ひいては行動異常が現れることを示している。
著者
尾上 圭介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

漫才、落語の音声資料を収集して文字化し、これに既存の落語活字資料を加えて、その談話構造を分析した結果、次のような見解を得た。1.落語は、(1)演者による<素材紹介>行為と(2)演者による場全体の<共感形成>行為とが重層して成立するものであり、(1)と(2)の重層は<下げ>において集約的に見られるのみならず、落語のテクスト全体において見られる。2.漫才の談話論的構造も基本的にはこれと同じである。笑う対象としての<素材>は、ボケ側の発言内容や、そういう発言をすることによってそこに形成される一つの人間像、また二人の会話の進展そのものによって構成される。それを笑うべきことだとする場の<共感形成>は、ツッコミ側の発言によって実現される。3.場全体が笑うための<素材>を効率的に構成するために、漫才において長年にわたって練り上げられた会話の運びの型がいくつもあり、その中には(A)通常の日常会話の中にもあり得る運びのタイプと、(B)漫才を代表とするような笑いの話芸の中でしか現れないような運びのタイプとが認められる。4.大阪方言では、会話を笑いにもちこむための努力と工夫が通常の会話の中でも濃厚に為される傾向が強い。それは(B)タイプの会話が日常化していると言うこともできる。5.上記(4)のことの根底には笑いを求める大阪人の気質があるが、そのような言語行動上の顕著な傾向の背後には、大阪人の気持ちの動き方、発想様式、美意識にかかわる9個の特徴が指摘できる。
著者
松宮 一道
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

人間は手を使った巧みな作業をどのように実現しているのか? 過去の研究は,手の周囲の空間に特化した知覚機能が巧みな手作業において重要であることを示唆していたが,そのような知覚機能がどのような仕組みで働くのかは証明されていなかった.本研究では,手が見えているときに誘発される視覚的な動きの錯視を発見し,この錯視は見えている手に対して位置の選択性を持つことが明らかにされた.さらに,この錯視は,自己所有感覚が誘発された手を能動的に動かしたときだけ生じた.この現象は,自分の手に対する空間位置の認識機構が脳内に存在することを示唆し,巧みな手作業を実現する上で身体性自己意識の機能的な役割を示している.
著者
五十嵐 敏雄 五十嵐 正雄
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

卵巣チョコレート嚢胞を有する不妊症患者は自然妊娠を期待して嚢胞病変摘出術を受ける。術後119名に関する多因子分析を行い、自然妊娠までは平均15ケ月間要したが、患者さんがエピナスチンなどの花粉症薬を使用した場合は平均2.7ケ月で自然妊娠に至っていた。また花粉症合併症例は3.3倍再発が多いが、3.9倍自然妊娠も多いという結果になった(95%信頼区間;1.065-15.007)。つまり、卵巣チョコレート嚢胞花粉症合併例は、再発のハイリスクだが、妊娠に関しては花粉症薬のためか早期自然妊娠しやすい。現在、自然妊娠しやすい術式を開発中で、病変のアポトーシス抵抗性からの解放も今後続けて検討していきたい。
著者
阿部 安成
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究のために実施した史料の調査と収集の対象は、現在13施設あるハンセン病にかかわる国立療養所のうちの10施設となった。本研究の課題は、ハンセン病者の<声>を聞くこと・読むこと、そしてそれを歴史社会学の学知をとおして、ハンセン病を発症したものたちは、療養所での生活をとおしてなにになり、またそこでの生活が園外の社会と国家になにをもたらしたのか、解明することにあった。いいかえれば、ハンセン病療養所におけるハンセン病者の主体化と、それをめぐる社会・国家との相互交渉の解明である。本研究にあたっての調査をとおして、療養所在園者の肉声を聞きとることの困難さと、療養所で保管されている文芸誌・文芸作品や自治会機関誌の厖大さが明らかになった。とくに後者については、文芸誌や文芸作品がハンセン病文学全集として刊行されつつあるが、いまだその全貌は把握されていないし、療養所を横断する情報交換も充分になされていない情況が判明した。いくにんからの聞きとりをおこなうなかで、ハンセン病療養所の在園者にとって、療養所の生活とは、自分がなになのか、自分のいる療養所とはどういう場所なのか、ここでの生活にどのような意味があるのか、といったいくつもの「なぜ」という問いとしてあらわれている、とわたしは受けとった。こうしたハンセン病者の問いを解明してゆくにあたって、療養所に保管されている厖大な量の文芸誌・文芸作品というテキストがその手がかりとなる。また、自治会誌などに記されている日誌などから、療養所が社会のなかでまったく隔絶した施設としてあったのではなく、慰安や寄附をめぐる園内外のさまざまな交流があったことが判明した。
著者
水島 あかね 小代 薫
出版者
明石工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、最後の三田藩主・九鬼隆義及び志摩三商会の社員だった元三田藩士らに着目し、彼らが近代神戸の都市形成に与えた影響について考察することを目的とする。“神戸ホーム(現神戸女学院)”など多くの教育施設に九鬼隆義や志摩三商会の社員が関わっていたことを明らかにした。また法務局保管の旧土地台帳や字限図などを用いて、明治期に志摩三商会及びその社員らが所有していた土地や彼らが設立に関わっていた教育施設の分布図を作成した。
著者
伊田 久美子 山田 和代 中原 朝子 木村 涼子 熊安 貴美江
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は深刻化する貧困と拡大する格差について若年層の生活の質に焦点を当てたデータのジェンダー分析を行った。特に世帯への包摂の質、つまり世帯内依存関係を視野に入れた生活の質を分析対象とした。その結果次の知見を得た。①女性は男性と異なり、自分の納得する生き方の選択(エイジェンシー)が幸福度を低下させる傾向がある(マイナス効果)。②既婚女性の暴力リスクは概して高く女性の収入増によりさらに高くなる(バックラッシュ型)。③既婚女性の幸福度は他の婚姻同居形態に比べて高いが、既婚女性間の比較では専業主婦の自尊感情は雇用者に比べて低い。④親同居未婚者は男女とも一人暮らしや既婚者に比べて収入も幸福度も低い。
著者
仁木 國雄 冨澤 一郎 金子 克己 斎藤 悟 阿部 修 香川 博之 石井 明
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

スキーの材料開発やワックスの使い方、スキー技術の理解に科学的裏付けを与える目的で、基礎科学的見地からスキー滑走原理を研究した。そのために、短いモデルスキーを用いて、静摩擦係数、低速度の動摩擦係数について、雪粒子の大きさ、雪表面の硬さなどの雪の条件をコントロールして温度依存性、速度依存性を厳密に測定した。その結果、実際のアルペンスキーよりは遅い滑走速度に関してではあるが、摩擦現象が、雪表面の擬似液体層を考慮した凝着力の温度依存性およびそれとは逆の温度依存性を示す雪のせん断応力により矛盾無く説明できる事が分かった。また、低速度でも実際のスキーやスケートで測定されている様な低い摩擦係数が実現するので、摩擦熱による融け水の生成などのような、良く滑るメカニズムを考える必要は無いことが明らかとなった。
著者
長沼 誠 金井 隆典
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

生薬青黛の主成分の1つであるイソインジゴはAryl Hydrocarbon受容体(AhR)のリガンドと考えられ、様々な免疫学的薬理作用が報告されている。AhRはILC3を介して炎症性T細胞の抑制効果を発揮し、作用機序に腸内細菌叢の関与も確認されていることから、イソインジゴの腸炎抑制作用も大いに期待しうる。すでに我々は、2016-2017年に多施設共同研究を行い、活動性潰瘍性大腸炎に対し用量の異なる青黛およびプラセボを8週間投与を行い、1日0.5g以上の青黛投与により、プラセボに比して有意に有効率、粘膜治癒率が高いことを報告してきた。しかしそのメカニズムについては明らかではない。さらに青黛投与による大腸癌抑制効果についても不明である。本研究では腸炎動物モデルを用いて青黛の腸炎抑制メカニズムと大腸癌抑制効果について検討を行っている。平成29年度は生黛成分のうち、含有率の高いindol, I3C に着目し、各々を経口投与し、急性腸炎モデルにて比較検討を行った。Indigo、I3C投与においては既報と異なり、DSS腸炎は抑制されなかった。青黛内の主成分の一つであるBetulin投与においてもDSS腸炎は抑制されない。一方でindol投与においては軽度の改善効果を認めた。無菌マウスにおける生体投与においてはDSS腸炎の抑制効果がキャンセルされるため、青黛投与で増加する菌叢にも着目した。青黛投与では特定の菌叢の増加を認め、青黛投与マウスにおける菌を抗生剤投与マウスに生着しDSS腸炎を検討したところ腸炎抑制効果を示した。また大腸癌抑制効果に関する検討では大腸癌が発生する前の早期の段階で青黛を投与しても大腸癌の腫瘍サイズの減少は認められなかったことより、青黛による予防投与は大腸癌予防の効果はないと考えられた。
著者
香西 みどり
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

炊飯における米の吸水過程は米飯の食味に影響するが、これまで米粒内の水分含量や水分分布という視点から吸水過程を把握した報告はない。本研究では米の吸水過程に着目し、加熱中断で起こる異常炊飯米の生成条件および吸水特性を明らかし、その生成メカニズムを検討した。その結果、65℃、4時間浸漬すると再炊飯しても粘らず食味が低下しており、デンプンの一部が糊化した異常糊化状態となり、吸水は進むが、米粒が割れて正常な炊飯米とならないことが明らかになった。
著者
牧野 耕次 比嘉 勇人 甘佐 京子 山下 真裕子 松本 行弘 山本 佳代子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

境界とは、二つ以上のものを区切る時のさかい(境)となるものであり、人間に関しては、身体的、心理的、社会的、霊(スピリチュアル)的境界があると言われている。本研究では、精神科における看護師の境界の調整に関する技術的要素を抽出し、その技術をどのように獲得してきたのかを明らかにした。さらに、総合病院の患者-看護師関係における境界概念に関するモデルを抽出した。
著者
山田 良広
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

法医学における歯の有効性は硬組織としての保存性の高さに起因する個人識別における役割である。従来は歯の解剖学的形態による個人識別への応用が主であったが、最近の遺伝子工学の発展がDNA分析の可能性を広げ、歯学においても、歯に含まれるDNAを利用することで新しい個人組織への情報源としての歯の可能性を示唆した。本研究は、鑑定試料として嘱託を受けた歯を想定し、実験室で各種条件下におかれていた歯からDNAを抽出、歯髄由来DNAの法医DNA鑑定における応用の可能性を研究目的とした。平成8年度は、歯髄が変性消失している歯からの有効なDNA抽出法として、髄腔壁を含む象牙質切片からDNAを抽出しそれをキレックススピンカラムを用いて精製した結果、PCR反応において良好な増幅が可能であった歯髄由来DNAを得ることができた。平成9年度は、精製された歯髄由来DNAをテンプレートとして用い、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のDループをPCR法により増幅しその多型領域の塩基配列を決定するmtDNAダイレクトシーケンス法への応用、さらに広く法医DNA鑑定で用いられているDIS80、HLADQα領域を増幅するプライマー、TH01などShort Tandem Repeat領域を増幅するプライマーをそれぞれ用いたPCR法へ応用したところ、対照とした新鮮血由来DNAをテンプレートとした結果と同等の結果を示した。身元不明死体や損壊の著しい死体で歯が唯一の身元確認の決めてになることは衆知のことである。従来の形態を主とした個人識別にDNA分析を応用することは今後不可欠になると思われ、歯由来DNAがその個人のDNAとしてDNA鑑定に用いることが可能であるといった今回の研究実績はその根拠となると思われる。
著者
森田 美佐
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、働く女性のみならず、男性も子どもも“幸せ”になる職場の女性活躍は、どうすれば実現するのかを、個人と家族の生活の質向上を目指す家政学とジェンダーの視点から、明らかにすることである。女性活躍をめぐる先行研究では、女性の離職率の低下、女性の仕事と家庭の両立を可能にする働き方の改革、女性管理職の登用等は、企業の組織の活性化はもちろん、生産性の向上などに利点があることが指摘されている。その結果、実際にそのような施策を打ち出し、女性を積極的に採用・登用する企業も増加している。研究としても、女性がキャリア形成に意欲的になれる雇用管理の在り方や、女性が昇進を望むような職場環境づくりに何が必要か等に関心をもつものが散見される。しかし日本の働く男女の意識や行動を見る限り、職場における女性活躍推進の数々の施策は、女性の労働者としての人権や、職業生活と家庭生活の充実を保障する環境づくりに向っているとは言い難い。加えて男性も、仕事のみならず、家庭や地域の中で活躍できる環境が形成されているのかどうか、疑問が残る。働く女性も男性も、ワークライフバランスの重要性を指摘されながらも、実際は、「仕事を取るか、家庭生活を取るか」の二者択一の状況の中で生活を営んでいると言わざるをえない。家庭生活を重視する労働者が、労働市場では周縁的な位置づけに留まる社会とは、家庭責任を重視すれば、男女が〝平等”に労働市場の中で二流の労働者として扱われる社会に過ぎないのではないか。これは職場と家庭の男女共同参画の実現、男女労働者の人間らしい働き方と暮らし、そして子どもが親のケアを受ける権利を保障しない。