著者
山中 敏彰 和田 佳郎
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

姿勢や歩行機能の障害が存続する難治化した慢性平衡障害者に対して前庭覚代行装(Vestibular Substitution Tongue Device: VSTD)を用いるリハビリテーション治療を試みて、長期効果を検討した。期間延長の理由により、2018年度は症例確保が進まず、1例のみの追加で合計11例に対して中期の評価を行なった。頭位の傾きを感知する加速度計からの情報を電気信号に変換して舌に設置したインタフェースに伝達する、VSTDのシステムを使用して、バランストレーニングを8週間行った。評価項目として、重心動揺検査から得られる30秒間の動揺軌跡長と歩行条件から点数化した歩行機能視標(30点満点)を用いた。重心動揺総軌長は237.5 ± 22.4 cm/30 s から 85.4 ± 15.4 cm/30 s に、歩行機能スコアは、13.5 ± 1.5から23.5± 1.6にそれぞれ変化し 両者ともに治療直後より著明な改善を示した。VSTDを取り外した後の効果を追跡観察したところ、12か月以上の時点で、重心動揺総軌長88.6± 18.9、歩行機能スコアは23.8±3.0となり、改善は、最短12か月でほぼ変動なく、効果は維持された。現在は、短期間ではあるがトレーニング効果は持ち越され維持できる傾向が示されている。
著者
鬼頭 宏 上山 隆大 鬼頭 宏
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究『医療市場の誕生とその規制に関する歴史的・実証的研究:大衆消費社会における「市場と国家」のケーススタディ』は13年度中に、その調査を終えた。本研究の基本的な目的は、世紀末のイギリスがいかに多様かつ「モダーン」な消費社会の時代に突入していたかを、とりわけ医療の現場におけるコンシューマリズムの浸透を示すいくつかのケース・スタディーを通して明らかにすることにある。これまで多くの経済史家・社会史家は19世紀とくに後期ヴィクトリア朝期のイギリスを、individualismの時代からやがてくるcollectivismの時代への過渡期と捉えてきた。古くはA.V.DiceyからDerek Fraserまで多くの歴史家が、19世紀末には肥大化し始める官僚制と中央政府の役割の増大を背景に、社会はレッセ・フェールと個人主義の気運を徐々に失い個人の福祉まで国家による規制と統制に委ねようとし始めたと論じてきたし、あるいはHarold Perkinのように、19世紀は医学や法律などの専門家集団がrespectable societyの中心を担うプロフェッショナライゼーションの時代であり、そこでもライセンスの発行や医師法・弁護士法などを通した行政の強い管理と規制が大きな役割を果たすようになったと考えてきた。後者の議論は、伝統的なジェントルマンの理念とモラルがこうしたプロフェッション社会の確立に大きく寄与したとする点で、最近のP.J.Cain+A.G.Hopkinsのジェントルマン資本主義の議論とも相通じるものがあるだろう。これらの通説をすべて否定するものではないけれども、19世紀末には医療、教育、法制度、レジャーなど様々な分野で、行政のレギュレーションの効力はむしろ急速に浸透する「市場の力」によって弱められていた。本研究は、とくに医療の分野に焦点を当て、(1)強まる消費社会の圧力が、健康を医者の権威の管理下に置くことに満足せず、市場に出回る数知れない健康器具・滋養強壮薬で買おうとする消費者を生んだこと、(2)営利目的の医療会社が生まれマーケットでの医療活動を始めたこと、(3)こうした医療の市場化が伝統的な医者たちとの摩擦を生んだこと、(4)健康を買おうとする消費者をターゲットにニセ医者が群がりでたこと、(5)多くの保険会社が医者を雇い医療検査を施して健康市場に参入しようとしていたこと、を明らかにした。
著者
渋谷 謙次郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ソ連解体後のロシアは、周辺の旧ソ連諸国に集住するロシア語系住民の庇護および保護を「同胞支援」の名のもとで、国策の次元にまで高めてきた。とりわけソ連解体後、ウクライナ領であったクリミア州はロシア語系住民が多く居住し、1954年以前は当地がロシア領であったという事実を追い風に、当地の住民がロシアとの再統合を望んでいるという「自決権」の言説をもとに2014年にロシアへの編入に乗り出した。西側諸国からは「国際法違反」が指摘されるクリミア併合について、ロシア国内の言説は正反対で、むしろ国際法と民主的手続きに乗っ取ったものという認識のギャップが深刻であることに注意を向ける必要がある。
著者
乾 博
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

漢方薬として知られるラカンカには、その果実に強い甘味物質であるトリテルペノイド配糖体(モグロシドV)が含まれ、肥満者や糖尿病患者向け低カロリー甘味料として市販されている。本研究では、ラカンカの抗糖尿病作用について検討し、インスリン分泌促進活性を見いだした。また、動脈硬化症予防の観点から、コレステロール誘導性酸化的ストレスに対する抑制効果を明らかにした。さらに、モグロシドV とそのアグリコンであるモグロールの消化・吸収・体内動態を検討した。
著者
佐藤 知己
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

現存するアイヌ語の古文献を17世紀前半、18世紀前半、18世紀後半、19世紀前半に区分し、代表的なものを分析し、各時期の特徴を明らかにした上で、400年間にわたるアイヌ語の通史について一応の見通しを与えた。概略的には、17世紀初頭の文献にみられる音韻、文法、語彙の特徴が、18世紀初頭では失われる傾向があり、18世紀後半では急激な変化が起きたということを文献を用いて実証的に明らかにした。
著者
淺野 玄 國永 尚稔
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の最終目標である野生化アライグマとマングースに対する経口避妊ワクチンの実用化は、本申請研究期間で完了できるものではないが、今回得られた知見の概要は以下の通りである。アライグマでは、卵透明帯蛋白の塩基配列と立体構造を参考に合成した3種類のペプチドに対する抗ウサギ血清において、抗体産生誘導および誘導抗体の種特異性が確認され、これらがワクチンの抗原候補として有力であることが示された。マングースでも同様に、卵透明帯蛋白の塩基配列をもとに合成した2種類のペプチドに対する抗マングース血清において、抗体の持続期間や誘導抗体の生体抗原認識能が確認され、両ペプチドのワクチン抗原としての有用性が示された。
著者
酒井 健介
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

運動負荷は、ラットの見かけのMg吸収率の増加し、骨格筋におけるTRPM7の発現量を高めた。とりわけ運動直後にTRPM7の発現量の増加が確認されたことから、運動負荷に伴う代謝性アシドーシスの影響について検討したが、塩化アンモニウム投与によるアシドーシスモデルでは運動負荷時とは異なる発現様式を示した。また骨格筋ではTRPM7以外にCLDN16が、消化管でも同様にTRPM7とCLDN16が、腎臓ではTRPM7とCLDN16に加えTRPM6の発現が認められ、運動負荷による生体内Mg動態に異なるMg輸送タンパク質が関与していることが示唆された。
著者
大形 徹
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

中国の文様、雲気文は雲だとみなされてきた。しかしその初期のものは中央アジアのヘラ鹿等の角の形状に似る。ヘラ鹿は中央アジアの代表的動物である。その特徴は長くて大きな角にある。鹿の角は毎年、落ちてはまた生えかわる。このことが復活再生観念と結びつけられた。墓葬に描かれる鹿の角の文様は、死者があの世に生まれ変わることを助ける役割を担った。中国ではヘラ鹿類は少ないため、その文様は雲気とみなされるようになった。
著者
森 文秋 丹治 邦和 若林 孝一 三木 康生
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ストレス顆粒は、ストレス状況下で、RNAとRNA結合タンパク質によって細胞質に形成される。神経変性疾患においてRNAからタンパク質への翻訳過程を制御することで、異常たんぱくの産生ならびにタンパク質の異常凝集を防ぐとされる。本研究では、多系統萎縮症患者ならびに正常対照の剖検脳組織、αシヌクレイノパチーの細胞モデル、さらに、シヌクレイントランスジエニックマウスを用いて、ストレス顆粒ならびに細胞内分解系に関連するタンパク質の動態を検討した。多系統萎縮症のαシヌクレイン封入体の形成過程、神経細胞死との関連を明らかにすることで、多系統萎縮症の予防治療戦略の可能性を示した。
著者
山田 真司
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

複数の知覚実験を実施し,それらの結果を統合することで,音楽を構成するパラメータ,音楽の印象,ゲームの印象,ゲームの遂行成績の間の機序を定量的に明らかにした。このことによって,ゲーム音楽のための科学的設計指針が得られ,求めるゲームの印象および難易度を実現するためには音楽のどのパラメータをどのように設定すれば良いか推定することが可能になった。
著者
梅川 健 菅原 和行 梅川 葉菜
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

アメリカ大統領は様々な形式で行政組織に命令を下す。その総称は「大統領令」と呼ばれる。典型は、具体的な法律を明記して行政組織に法執行を命じる行政命令(executive order)だが、オバマ政権とトランプ政権では大統領覚書(presidential memorandum)が増加している。覚書では根拠法は示さなくともよいとされる。さらに覚書の中には、大統領に法律上の権限がないはずの事柄について命じるものもある。なぜ、どのようにアメリカ大統領は法律に依拠しない形で命令を下すのだろうか。そして、憲法上の抑制と均衡から逸脱するように見える大統領の行動に、他の部局はどのように対抗しうるのだろうか。
著者
梅村 浩 川平 友規
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)ガロア理論の同値性。一般微分ガロア理論には、Malgrange 理論(2001)と研究代表者によるもの(1996)がある。 前者は幾何学的であり、後者は代数的である。 代数的にジェット空間のなす Lie groupoid を構成することにいより、 両者が同値の理論であることを示した。(2)差分ガロア理論の提唱とその力学系への応用。差分方程式の一般ガロア理論を構成した。それを閉リーマン面上の離散力学系に応用して、閉リーマン面上の力学系でガロア群が有限次元であるものを決定した。 それらの力学系のガロア群は可解であるので、閉リーマン面上の離散力学系で可積分なものを決定したと言ってもよい。(3)ガロア理論の量子化。研究代表者の学生であった F. Heiderich は我々の一般ガロア理論が微分方程式や差分方程式のみならず、 一般の Hopf 代数の作用に関する関数方程式にまで拡張できることを発見した。この理論を具体的に意味付ける研究を開始し、成果を上げ始めている。
著者
寺尾 純二 板東 紀子 室田 佳恵子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

フィチン酸(Phytic acid:inositol hexaphosphaste:IP6)は.穀類豆類に広く分布し日常摂取する一般的な食品成分であるが.その強力な金属イオンキレート力には潜在的な生理機能性が存在するはずである。本研究は消化管の酸化ストレス抑制に対するフィチン酸の有効性を明らかにすることを目指すものであるがフィチン酸(IP6)とその部分加水分解物(IP5〜IP2)の(1)キレート能(2)リポソーム膜の鉄イオン依存性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性,(3)ラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性(in vitro系)の評価を行った。その結果(1)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順にキレート能が強まった。(2)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順に抗酸化活性が強まったがIP3以上ではIP6に匹敵する抗酸化活性がみとめられた。(3)IP3はIP6と同程度の粘膜酸化抑制作用を発揮することが明らかであった。さらにラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性をex vivo系で評価することを試みた。フィチン酸投与群と無投与群(対照群)から18時間後に大腸粘膜を採取し鉄イオン誘導脂質過酸化反応を行ったところ,TBARS量,ヘキサナール量.4-ヒドロキシノネナール量においてフィチン酸群が無投与群よりも低値を示した。以上のことは、日常摂取するフィチン酸は実際に消化管での酸化ストレス防御に働くことを示すものであり.食品成分として摂取したIP6が消化管内で腸内細菌由来のフィターゼによる加水分解を受ける過程においても、生じた加水分解物が十分に抗酸化作用を発揮できることを示唆するものである。
著者
遠藤 康男 菅原 俊二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度:グラム陰性細菌のエンドトキシンまたはlipopolysaccharide(LPS)は,ニッケル(Ni)アレルギーをsensitization(感作)とelicitation(炎症発現)の両段階で強力に促進することを見いだし,これに関連して以下を解明(Clin Exp Allergy 2007;37:743-751に発表).1.炎症はTh2優位マウス(BALB/c)よりもTh1優位マウス(C57BL/6)で強力である.2.炎症はTNF欠損やT細胞欠損マウスでも対照マウスと同程度だか,TLR4変異,マクロファージ枯渇,IL-1欠損などのマウスでは微弱である.ヒスタミン合成酵素(HDC)活性が炎症に平行して増加する.炎症はマスト細胞欠損マウスでむしろ増強,HDC欠損マウスでは微弱である.5.LPSとの併用は他の金属(Cr, Co, Pd, Cu,Ag)に対するアレルギーの成立も促進する.平成19年度:以下を示唆する結果を得た(補足実験を加え論文投稿予定).Niアレルギーの発症にはマクロファージに加えNK細胞または好塩基球が関与する.2.Ni-感作マウスはCr, Co, Pd, Cu, Agに対しても反応する.3.ヒスタミンはelicitationの過程に関与する.4.LPS以外の細菌成分や関連炎症性物質(MDP, mannan, polyI: polyC, TLR2 ligands, concanavalin A, nitrogen-containing bisphosphonates)も, sensitizationとelicitationの両段階でNiアレルギーを促進する.5.LPSが存在すると,Niはelicitationで1x10^<-12>Mの極めて低濃度で炎症を誘導する(感染は金属アレルギーに対し極めて敏感にする).
著者
藤野 千代
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

盛唐期の成熟した国際文化と交流を深めることで、我が国にはシルクロード周辺の広大な文化が集約された物品が集まり、正倉院に保管された。固有な文化を持たず、世界のデザインの源流を形成するこれらのデザインは「美」の概念を調査するのに最適な素材である。正倉院宝物に描かれたデザインデータ74点について電子データ線画として完全対称性等を念頭において再構築し、金属酸化や文様の欠損といった経年変化を完全消去することで文化遺産としての先入観を排除した。その上で新しい色彩を付したことにより、人々の印象はどのように変化するかを調査した。デザイン部分だけを抽出した約150点収納の電子データベースを作成することができた。
著者
池田 博 岩坪 美兼 矢野 興一 高山 浩司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

著しい種内倍数性を示すオミナエシ科オトコエシについて、細胞学的、系統地理学的解析を行った。日本および韓国で収集した試料を解析した結果、2倍体 (2n=22)から12倍体 (2n=132) まで連続した倍数体系列が認められ、遺伝的には 1) 九州西部から韓国に分布する系統 (2n=22)、2) 北海道から滋賀県まで分布する東日本系統 (2n=44)、3) 近畿地方から九州まで分布する西日本系統 (2n=66~132) の大きく3つのグループに分けられることが明らかになった。また、オトコエシとオミナエシの雑種とされてきた「オトコオミナエシ」は、オトコエシの種内倍数体間の交雑に由来すると考えられた。
著者
岡田 智 小林 玄 辻 義人 鳥居 深雪 飯利 知恵子 田邊 李江
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,日本版WISC-Ⅳの解釈システムの構築のために,発達障害の子どもにWISC-Ⅳを実施し,検査中の行動観察,日常生活における生態学的情報についても収集した。統計解析と事例研究を用いて分析した結果,ASD及びADHD特性をWISC-Ⅳ測定値で判断することには限界があり,ワーキングメモリー指標がADHDの不注意を反映しにくいことなど解釈上での留意点が明らかになった。また,解釈の際には,WISC-Ⅳの測定値だけでなく,CHCモデルによる分析,また,ASD特性やADHD特性を踏まえた生態学的観点,検査中の行動や課題解決などの質的情報も含めた総合的解釈が重要であることが示唆された。
著者
豊見山 和行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

「尚家文書」を中心に、近世琉球の国家と社会に関する研究を行った。国家の側面に関しては対清朝関係(冊封関係)に関わる僉議を用いて、琉球の政治構造を検討した。社会の側面については、士族・百姓身分が区分される歴史的経緯などを分析した。
著者
小見山 章 加藤 正吾 伊藤 栄一 戸松 修
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

比較的若齢の造林地か豪雨等で崩壊すると、広葉樹に較べてヒノキやスギが浅根を示すことがその原因であるといわれることが多い。このことを再検討するために、岐阜県の岐阜大学農学部附属演習林において、48年生のヒノキ造林地でヒノキ主林木とそこに侵入したミズナラの根重の垂直分布を比較した。2本の試料木を選んで、地上部に関する調査を行った後に、深さ60cmまでに存在する根をトレンチ法により採取した。深さあたりの根重密度の垂直分布パターンを求めたところ、指数分布にしたがう減少パターンを示した。2本の試料木間で、深さ方向の根重密度の減少率に有意差は認められなかった。回帰式を積分して個体根重の垂直分布を計算した。地表から30cmまでの深さに含まれる根重の割合は、ミズナラ試料木で89%、ヒノキ試料木で94%となり、試料木間で根の垂直分布に極端な違いは認められなかった。また、傾斜地で、ヒノキ試料木は根を谷側に多く配置していたのに対して、ミズナラ試料木は山側に多く配置するという、根の水平分布上の違いがみられた。また、数種類の樹種の根量は、パイプモデルにしたがうことが確認された。さらに、一般に相対成長関係には樹種差が生じるが、相対成長関係式の作成に用いる変数を吟味することで、樹種差のない統一的な相対成長関係式の構築の可能性があることがわかった。これらの知見から、生物学的な根拠を元に、根の深さについて議論することができる。
著者
高松 漂太
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

昨年度、炎症誘導物質をモニター可能なレポーター細胞を用いて、種々の自己免疫疾患患者由来血清中に含まれる炎症誘導活性を測定し、SLE血清においてtype I IFN (IFN-I)活性ならびにIFN-I誘導活性が高いことを見出した。また、様々な核酸受容体欠損レポーター細胞を作成し、SLE血清によるIFN-I誘導がSTING依存的に惹起されることを見出した。本年度は、STINGを介してIFN-Iを誘導する因子について検討を行い、SLE血清中にはdsDNAが多く含まれており、それらはDNase Iに対する分解から保護されていたから、血清中の細胞外膜小胞に着目し、血清を、210,000gにて単離されるexosome分画、exosomeよりもやや大きい16,000gにて単離されるapoptosis-derived membrane vesicle (AdMVs)分画とそれ以外の分画に分け、IFN-I誘導活性を有する分画について検討したところ、SLE血清ではAdMVs分画にIFN-I誘導活性が多く含まれていることを見出した。SLEでは何らかの原因によるapoptosisの亢進、それにより生じたapoptosis関連物質の分解障害が病態に関与することが知られており、我々の結果も加味すると、SLE血清中には、apoptosis由来物質特にDNA断片が、AdMVsに内包されて存在し、それらが食作用により細胞質内に取り込まれ、dsDNA受容体のcGASで2’3’-cGAMPに変換されてSTINGを活性化し、その結果IFN-I産生が亢進する、という一連のカスケードがSLEの病態に重要であることが明らかとなった。この成果をリウマチ性疾患関連雑誌の最高峰であるAnnals of Rheumatic Disease誌に投稿し、現在under revision中である。