著者
酒井 千絵
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は大学における国際化・グローバル化に向けた取り組みを観察し、資料を収集した。特に、英語を用いる授業の実施や研究者の国際的な研究体制を支援する具体的な取り組みについて、聞き取りを行うとともに、実際にその取り組みに参加し、参与観察を行った。また、主に中国からの大学及び大学院への留学生に対して聞き取り調査を行い、日本への留学を決断した経緯や留学生活に対する評価、卒業後のキャリア展望について情報を収集した。調査を通じて、国際化・グローバル化に向けた政府の教育行政の取り組みがもつ問題点が明確化されてきている。たとえば、英語を共通語とするグローバルな研究体制の中で日本の高等教育が持つプレゼンスや地位を上げていくことをめざす一方で、日本人学生を主体とする大学学部教育では、その取り組みに呼応していく学生が一部にとどまっていること、英語圏からの留学生も一定数含まれる短期留学・交換留学と、東アジアの非英語圏からの留学生とが混在していること、などの矛盾を含むものであることが分った。2017年度はまた、オーストラリア・パースで行われた「アジアにおける女性」の学会に参加し、日本から中国へ移住する女性の経験に関する研究発表を行い、合わせて、アジア研究者の国際交流のあり方について、研究者から話を聞いた。大学や研究機関の国際化・グローバル化においては、アメリカやヨーロッパが目指すべきモデルとしてイメージされることが多いが、日本との人的交流の規模を考えると、中国をはじめとするアジア諸国の役割は大きい。日本に留学して学ぶ中国からの学生に加え、中国で学ぶ日本人や研究・教育活動に当たる日本人研究者への聞き取りは、英語を軸に成り立つ研究ネットワークと併存する、アジア圏での研究交流のあり方を示唆するものとして分析が可能である。
著者
筒井 淳也
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

女性の労働力参加について、構造要因と制度要因を区分した枠組みを用いたより立体的な理論モデルを構築し、それを数量データによって検証することができた。日本の場合、内部労働市場型の働き方が家族キャリアを考慮する女性の継続就業を難しくしており、これが意図せざる結果として女性の経済活動の活性化を阻害することになった。
著者
大岡 頼光
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自治体住民1人当り児童福祉教育費と年少人口増加率はほぼ相関がなかった。地方の子育て世帯を呼び込む政策は近隣との奪い合いに終わりがちだ。高齢者向けの保障を合理化し少子化対策に振り向けられるのは国だけだ。仏が常に出産奨励主義なのは独に対抗するためで、強い意志は19世紀末から一貫する。社会保障目的税CSGの増税を唱えたマクロンが大統領選挙に勝てたのは、高齢者の貧困率が若い世代より低いからだ。CSGはスウェーデンの課税給付金の発想(「全員が税を負担できるように、全員に十分給付する」)に似ている。また、人口減対策の財源を作るため、高卒の社会人の大学入学を公費で促し、税をより払う大卒者を増やす必要がある。
著者
魚住 明代 廣瀬 真理子 相馬 直子 舩橋 恵子
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

戦後に発展をみた欧州の福祉国家は、近年の少子・高齢化や経済のグローバル化によって、抜本的な改革を迫られている。他方で、家族の多様化や家族機能の衰退は、社会的支援策へのニーズをますます高めている。本研究は、多様化する家族のなかでも、とくにひとり親(母子)世帯に焦点を当てて、その支援策のあり方について、家族主義の伝統が比較的強く残る西欧の大陸諸国(ドイツ、フランス、オランダ)と、韓国を取り上げて、文献・実証研究の両面を通して比較研究を行った。対象国の事例から、所得保障と母親の労働環境の向上と福祉・教育サービスを軸にして、それらを横につなぐ視点に立った支援策が必要であることが明らかにされた。
著者
小野寺 理佳 梶井 祥子
出版者
名寄市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、「未成年の子ども(孫世代)のいる夫婦(子世代)の離婚や再婚」による家族関係の変化に関わって、祖父母世代が多世代を繋ぐ働き(多世代の紐帯)を果たすことにより、子世代・孫世代への支援となり得ることを明らかにすることである。平成29年度は、スウェーデン調査の2年目であった。平成29年度も、平成28年度と同様に、現地の関係各所との交渉・調整の結果、ストックホルム市とエステルスンド市両地域において調査を実施することとなった。平成29年度は、平成28年度調査から得られた結果をふまえて、社会福祉サービス部門の職員(離婚家庭に実際に関わる社会福祉士、親の離婚を経験した子どものためのサポートプロジェクト職員、家族関係のコンサルタント、高齢化した祖父母世代が入居する高齢者特別住居のスタッフ等)やファミリーセラピーを行なう民間機関のコーディネーター、当該領域の研究者(ストックホルム市の児童・青少年センタースタッフとストックホルム大学で児童心理や家族問題を研究する研究者)の意見・認識をとらえるための聴き取りを行なった。その結果、親の離婚や再婚により子どもはより豊かなネットワークを得ることができるという認識が浸透していること、祖父母による世代間支援については、祖父母自身の就労と自立、生活水準、子世代に干渉しない抑制的な態度が求められる社会であること等が影響しており、福祉が担う範囲が拡がっていること、「交替居住」について肯定的な評価が多い一方で、「交替居住」に伴うストレスに苦しむ子どもの存在があり、その子どもを対象とするサポートプログラムの実施が広がりつつあるなかで、祖父母世代がそこに関われる可能性もあること、祖父母世代が仕事をして自立して生きることと自分の関心を優先させて暮らしてきた結果として、老後の施設での生活において世代間関係の希薄さが自覚される場合もあること等が確認された。
著者
吉村 治正 正司 哲朗 渋谷 泰秀 渡部 諭 小久保 温
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

一般的に、モニター登録型のWeb調査では排他的・保守的でネガティブな回答傾向が現れやすいといわれている。この偏りを検証すべく、本課題ではモニター登録型のWeb調査に加え、住基台帳からの無作為標本抽出にもとづく独自のWeb調査を実施した。二つの調査の結果の比較から、一般的なモニター登録型Web調査の偏りは、非回答誤差・測定誤差および職業的回答者の存在のいずれを主たる原因とするとも見なし得ず、したがって網羅誤差に帰属されるべきことが明らかとなった。
著者
品田 知美 田中 理恵子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、「日本および英国の核家族において、日常の生活様式の選択および水準維持が、子どもを持つことや働きかたへの理想とどのように関連しながら現実に選択されているのか、ミクロな家族システム内で生じている力学に関する知見を得る」という第1の目的は昨年度までに概ね達成された。日本の親たちに期待されている生活様式水準については、研究協力者による雑誌分析の結果によると、とりわけ食の分野において時間短縮というトレンドが提示されているようでも、実質的には相当に質への要求が高止まりしており、母親たちへの期待値は高いのではないかという暫定的知見が得られた。また、英国および日本の双方において小学生の子どもと同居する女性に対してインタビューを実施した。家族と労働にかんしてどのような意識構造のもとで両国で日々の生活が営まれているのかについて、その差異と共通性への知見を得ることができた。現時点ではすべての実査を終えたばかりであり、内容については十分な分析に至っていない。1つ暫定的な結論を述べるならば、日本の親たちの生活時間のトレンドは、食を整える時間がやや減って、子どもとかかわる時間が増加したという、英国の親たちに接近しているにしても、インタビュー調査によれば、意味するところはかなりの違いを伴っている可能性が示唆された。最終年度には、これまでの実査で得られた知見をもとに、「子どものいる核家族のワークライフバランスを実現するにあたり、生活領域で希求されていることと、現代日本の労働システムには、どのような点において齟齬が生じているのかについて理論的に考察する」第2の目的に向けて取り組む予定である。
著者
望月 てる代
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,食事からのフラボノイド摂取量を求めるために必要な資料として,日常摂取している野菜・果実中のフラボノイド量と加熱による変化を調べることを目的とした。日常摂取することの多い数種類の野菜・果実を試料として,80%メタノールによる抽出,塩酸による加水分解を行ってアグリコンとした後の100%メタノール溶出部分を分析用試料液とした。フラボノイドの分析は,3種類の移動相を使用したグラディエント溶出による高速液体クロマトグラフィーで行った。検出器はダイオードアレイ検出器を使用し,254nmと280nmで測定した。この分析により,以下の結果が得られた。(1)大型のピーマンであるパプリカ中の総フラボノイド量は,果皮色により差異が見られ,黄色果実に最も多く,次いで赤色,橙色の順であった。総フラボノイド量を従来の緑色ピーマンと比較したところ,どの果皮色の果実も緑色ピーマンとの間に有意な差が認められた。(2)数種類の柑橘類中のフラボノイドとしては,ナリンゲニンとヘスペレチンが多く含まれており,いずれの果実においてもこの2種類が総フラボノイド量の約90%を占めていた。ミカン,オレンジのようにじょうのうを含む場合には,特にヘスペレチンの量が多くなっていた。(3)野菜類に含まれる主なフラボノイドは,ケルセチン,ケンフェロール,ルテオリンそしてアピゲニンであった。総フラボノイド量は,種類によってかなり大きな差異が見られた。ゆでる,あるいは電子レンジによる加熱の後,総フラボノイド量は一般に減少する傾向が認められた。
著者
光永 雅明
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、19~20世紀転換期の英国社会主義者たちの自然観や自然への態度を検討することにより、同国における環境保護主義の歴史的発展に光を当てることを目標とする。その結果明らかになった主要な点は以下の通りである。まず、この時期には少なからずの社会主義者が都市化を批判して農業生活を提唱し、そこに英国の自給自足化という意義も加えた。しかしその一方で、H.ソルトが開始した動物の保護をめざす運動は、都市化とより親和的なものであった。さらにG. B.ショウらは、イギリス帝国における天然資源の公的な管理が必要との議論を開始したのである。
著者
土橋 卓也 今泉 悠希
出版者
独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

高血圧患者を対象とした食塩摂取量の評価法としては、24時間蓄尿に基づく尿中食塩排泄量の測定が正確であるが、蓄尿の妥当性を評価する必要があること、反復測定が困難であることの制約がある。一方、随時尿に基づく食塩排泄量推定値を用いた評価は、減塩指導の効果判定など反復評価、経時的評価に優れ、実臨床ではより有用と考えられた。さらにBDHQや塩分チェックシートなどを用いた食塩摂取内容の評価も合わせて行うことが具体的実践指導により有効と言える。一般住民や健診施設においても、簡便な塩分チェックシートと随時尿による評価の併用が減塩指導や啓発に有用である。
著者
後藤 文子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の課題である「気象芸術学 Meteorologische Kunstwissenschaft」は、芸術の制作論的諸相において変化する時間=生命性を本質とした近代芸術・建築を、生成し変化する流体として捉える新たな美術史学・芸術学研究の方法論として構想された。植栽造園家を、本来不動な建築と植物=有機体とを結合させる存在、つまり無機的存在を有機的生命体へと媒介する重要かつ特異な「媒介者」と位置づけることで、近代植物学・園芸学と美術史学・芸術学研究の接合・統合を目指した。従来の美術史・建築史的様式論・意味論・機能論が看過してきたモダニズム建築に特有の問題点を明るみに出し、実証的に解明した。
著者
安溪 遊地 井竿 富雄 鈴木 隆泰 岩田 真美
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

幕末の長州藩士や奇兵隊等の緒隊の活躍に比べて明治維新につながる動きの精神的な支柱や政治的な影響、さらには具体的な軍事行動において仏教僧の果たした役割についての解明は研究の蓄積が少なかった。この研究では、真宗僧の活躍に注目して、その史料や口承を集めることに集中した。その結果、長州4傑と呼ばれながらほとんど史料がなかった香川葆晃について、その辞令や新潟での現地調査を踏まえて、四境戦争の前夜に長州藩の密偵として活躍したことを明らかにした。精力的な社会改革運動をおこなった島地黙雷の日記のデジタル化に着手し、吉田松陰の倒幕思想に大きな影響を与えた呉の僧宇都宮黙霖の残した膨大な手稿のデジタル化を完了した。
著者
早川 武彦 岡本 純也 早川 宏子 涌田 龍治
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

スポーツファン(ここでは「高頻度観戦者」をスポーツファンとした)の消費行動の時系列的側面、とりわけテレビ・スポーツ放送視聴との関係性を明らかにすることを目的とした本研究は、二つの方向性から研究を進めた。第一に、スポーツファンの概念的理解を進めるべく、東京都調布市の味の素スタジアム、大分県大分市の大分スタジアム、宮城県仙台市のユアテックスタジアムにおいて観戦者調査を実施し、実態分析を行った。そこでは、スポーツファンの様々な消費行動(試合を見に行く・応援グッズを買う)が、主としてテレビなど外部からの情報に依存している、という傾向が見られたものの、スタジアムへ観戦に向かわせるという行動に対してテレビ視聴が影響を与えているとは明確に言えないということが明らかとなった。スポーツファンに対して行ったインタビュー調査によれば、ファンとしてのキャリアの「入口」においてテレビ・スポーツ視聴は、応援に関する情報源として影響を与えるが、スタジアムへ足を運ばせるという行動に対して影響を与えているとは言えないということが示唆された。第二に、スポーツファンの形成プロセスに特に重要な役割を果たすと考えられるテレビ放送事業者による放送環境整備に対して理解を進めるべく、地方都市においてケーブルテレビならびに地上波放送の放送事業者に対してヒアリング調査を行った。そこでは、スポーツの中継が多くの者を引きつける「キラーコンテンツ」であるということを放送事業者が認識しているにもかかわらず、主として二つの理由から、充分な戦略を採用できないことが明らかとなった。具体的には、(1)魅力的なコンテンツ確保が地域レベルの放送事業者の財政力では困難であること、(2)たとえ財政力があったとしても複雑な放映権を巡る権利処理に膨大な時間がかかってしまうことである。第一、第二の結果より、スポーツファンは「スタジアムでの観戦」ができない場合の代替行為としてテレビによる観戦を行う傾向があるにも関わらず、放送事業者はそのようなファンの視聴特性を把握し切れていないということが明らかとなった。
著者
大野 道邦 小川 伸彦
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、記憶と文化の関係について18世紀初頭の「赤穂事件」を手掛かりに分析し「文化社会学」の理論的・経験的な可能性を追究するものである。この場合、(1)記憶は既存の文化的な「枠」に準拠して「構成/再構成」される、(2)記憶は集団や個人のアイデンティティ形成の焦点となり、新たな「文化」や「物語」として「生成」する、という仮設を設けた。研究の結果、次の知見等が得られた。1.文化論・記憶関係の諸議論を検討し、記憶と文化の関係の二重性や記憶様態の類型を理論的に明確にした。2.『假名手本忠臣蔵』の英仏訳書や忠臣蔵論等を検討し、赤穂事件記憶の演劇文化や国民文化としての成立過程の一側面について知見を得た。3.『忠臣蔵』の歌舞伎上演記録から、明治末から大正にかけての上演数の突出を確認し、これがナショナリズムの高揚と結びつく国民文化の形成に関連すると指摘した。4.事件記憶の構成において「サムライ名誉文化」がどの程度「枠」として機能したのかについて、事件論評や武士(道)関連文献を検討し理論的な知見を得た。5.「赤穂義士祭」について、義士祭・義士会および観光関係の資料を収集し義士祭の担い手やツーリズム的特性について知見を得た。6.愛知県吉良町における吉良義央関係の史跡・事績・伝承等を整理し、「対抗記憶」が形成されてきたことを確認した。7.京都・山科の岩屋寺における拝観者への対応に関する調査により、事件に関する語りを採取し分析した。8.長野南部伝承の義士踊りを現地調査し歴史的事件の芸能化に関する知見を得た。9.「銚子塚」(川崎)、「泉岳寺」(東京)、「大石神社」(京都)の調査結果を比較しつつ、義士記憶にまつわる祭祀のあり方を分析した。10.「忠臣蔵サミット」関係の資料を分析し、事件記憶の行政文化的・地域文化的な資源=資本化の動態について知見を得た。以上の調査研究から記憶と文化の関係の二重性仮説をある程度検証することができた。
著者
久木野 睦子
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、イカの殺し方および保存温度の違いがイカの鮮度保持にどのように影響するか明らかにするため、異なる4つの方法で輸送したイカの保存にともなう外套膜筋肉の物理的変化を詳細に調べた。実験は4つの実験群、生きたイカを神経切断により即殺して研究室まで2時間輸送(即殺群)、生きたイカを5℃の冷蔵ボックスに入れて輸送(冷蔵輸送群)、生きたイカを氷海水中に入れて輸送(氷海水蔵輸送群)、および活魚輸送車の水槽にて生きたまま輸送(活魚輸送群)について、その外套膜を5℃で保存し、保存にともなう物理的特性の変化を調べた。その結果、氷海水蔵輸送群では筋肉細胞中のエネルギー物質であるATPが保存開始時に殆ど消失していたのに対し、冷蔵輸送群では保存6時間後に消失し、即殺群と活魚輸送群のイカでは保存6時間後も約50%のATPが残存していた。透過型電顕による筋組織構造の観察においても氷海水輸送群のイカは保存当初より大きな筋束間乖離が認められ、レオメーターによる物性の測定においてもこのことが原因と思われる特異な破断特性が氷海水蔵輸送群の外套膜筋肉に認められた。外套膜筋肉の透明度の測定では、即殺群と活魚輸送群で透明度は良く保持され保存12時間後でも筋肉の透明度が残っていたのに対し、氷海水蔵輸送群では保存開始時にすでに透明度を失っており、イカ筋肉中に残存するATP量と符合した変化のように見受けられた。そこで、即殺したイカ外套膜の薄切片を用いて、各種濃度のATPを添加した場合の透明度保持効果を調べたところ、ATP添加による透明度の保持効果は観察されなかった。
著者
金森 寛 會澤 宣一 道端 齊
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

海産動物のホヤは,海水中の5価バナジウムを取り込み,3価にまで還元して血球細胞中に蓄えている。しかし,このホヤによる特異なバナジウム濃縮・還元機構は,未だに解明されていない。本研究計画では,ホヤ由来のバナジウム結合タンパクとその小分子モデル化合物を用いて,ホヤのバナジウム濃縮・還元機構を化学的に解明することを目指して基礎的知見を集積した。1.NADPHによる5価バナジウムの4価への還元:ホヤのバナジウム還元にはNADPHが関与していることが示唆されている。我々は,以前にedta存在下で5価バナジウムがNADPHにより4価に還元されることを報告しているが,本プロジェクトでは,アミノ酸やペプチドなどの生体関連配位子がNADPHによる5価バナジウムの還元を進行させることができるかどうかを調べた。その結果,グリシンやバリンなど,2座配位子としてしか作用できないアミノ酸は,還元を進行させることができないが,アスパラギン酸やヒスチジンなどの3座配位できるアミノ酸や,3座配位可能なジペプチドは,NADPHによる5価バナジウムの還元を進行させることができることを見いだした。2.チオールによる4価バナジウムの3価への還元:我々は,以前にシステインメチルエステルがedta共存下で4価バナジウムを3価に還元することを報告している。今回,部分的ではあるが,ntaが還元反応を進行させることができることを見いだした。アミノ酸やアミノ酸誘導体,およびペプチドの中で,4価バナジウムの還元を補助できるものがないかの探索は,現在も継続中である。ホヤ由来バナジウム結合タンパク中のリシン残基は,1,2において直接関与していない。3.ホヤ由来バナジウム結合タンパクを用いた酸化還元実験は,準備に時間がかかったため,年度内に結論を得ることができなかったが,実験は進行しており,近い将来,結果が得られる予定である。
著者
山口 文彦
出版者
長崎県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題は、イースター島で作られた記号の列が彫り込まれた木製の遺物について、デジタルデータの収集、そのようなデジタルデータ収集に必要な技術の研究、および収集したデジタルデータから言語情報を抽出することを目的としている。対象となる遺物は現在20点ほどが遺されており、中でも比較的大きなものを所有する教会に連絡をとるなど、所有者・所有機関に対して研究への協力を要請している。データ収集の方法としては、対象物を複数の方向から撮影した二次元画像から三次元のモデルを復元する方法を用いる。これは従来のレーザーを使う三次元計測に比べて、強い光を使わないため、遺物に与えるダメージが少ないという利点がある。遺物形状の計測データからは、彫られた記号の形状が得られる。遺物のデータから抽出する言語情報として、記号を文字に分類する問題に取り組んだ。これは既知言語に対する手書き文字認識の手法を参考に記号の特徴量を得て、その特徴量の違いの大きさから、文字としての分類を見つけようというものである。未解読文字の場合は正解が分からないため、既知言語を用いて手法の評価を行う。本課題の初年度にこの研究手法の基礎を作ったが、その時点での正解率は満足のいくものではなく、ひきつづき正解率を向上させる努力をしている。なお、手法を評価するために既知言語の文字データを収集・整備する必要がある。こちらは現在のところ二次元の画像データだが、研究用などに公開されている日本語手書き文字のデータを調査し、また解読が進んでいる考古学的文字としてエジプトの神官文字の画像データの調査および整理を行った。
著者
宮下 雅年
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

北原白秋の『フレップ・トリップ』(1928)の樺太イメージは、以後の樺太観光に道筋を付けた。本作における風物・風習・異民族の記述が島民の郷土の誇りに直結していった。戦後、その生まれ故郷は奪われてしまうが、だからこそ、望郷の念は募り、今もサハリン観光と言えば帰郷ツアーが中心である。そこにあるのはもはや白秋の「樺太」ではなく、往時の日常生活への思慕である。サハリン州政府も観光の好影響を重視して様々な対応を開始した。
著者
酒井 聡樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

これまでの研究では、集団間で送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。1.昼夜:昼夜で送粉者が変化することがあるため。2.花齢:花齢が進むにつれて、訪花要求量(残存胚珠・花粉)が減少するため。本研究では、これらの昼夜・花齢によって花の香りが変化するのかどうかを量・質に着目して調査し、それが雌雄繁殖成功に与える影響を明らかにする。質のデータを付け加え3年分の結果を報告する。【実験方法】ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。1.香りの時間(昼夜・花齢)依存変化 2.送粉者の昼夜変化 3.繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、雌成功:種子成熟率・雄成功:花粉残存数を比較)【結果】1.昼に比べ夜の方が香りは強くなり、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。時間によって組成比は様々に変化したが、最も類似度が高かったのは夜の香り.同士を比較したものだった。2.昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。3.雌成功・雄成功共に、昼夜での違いはなかったが、雌成功は昼夜どちらかの送粉者のみで十分だったのに対し、雄成功は昼夜両方の送粉者に訪花される必要があった。ヤマユリの花の香りが夜に強くなるのは、暗闇によって減少する視覚効果を補うためであり、昼夜両方の送粉者を呼ぶという戦略をとっているのは、主に雄繁殖成功を高めるためではないかと考えられる。