著者
田中 謙
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、解釈論及び立法論に資するような1環境法学の体系、2解釈論、3立法論の3つを総合した「環境法総論」を構築することを目的とする。当該目的を達成するために、本研究は、(1) 既存の法システムの趣旨や意味を探求する「解釈法学研究」、(2) 新しい法システムを設計する「政策法学研究」のほかに、(3) 法制度の法過程や規制過程に関する体系的な実証研究をする「法社会学研究 」を実施することによって、わが国の立法論に資することを狙いとしている。これらの研究を実施するに際しては、(4) 米国法及びドイツ法も参考にしつつ、(5) 国内外で実態調査を実施する予定である。本研究は、1環境法学の体系、2解釈論、3立法論、の3つを総合した「環境法総論」を構築することを目的とするものであるが、 具体的には、1環境法学の体系(実体法システムの体系化)、2解釈論(合理的な解釈方法の確立)、3立法論(制度設計に役立つ立法政策論の確立)、という3つの視点から検討するとともに、これら3つを総合した「包括的な環境法総論」を構築することを模索するものである。さらに、環境法は、「持続可能な発展」と「環境公益の実現」を究極的な目標としているといえようが、これら2つの目的を実現するうえで要求される「環境法の基本的な考え方」について明らかにするとともに、これら基本的な考え方を「環境法総論」 のなかにどのように位置づけることができるのかという問題についても検討したいと考えている。以上のように、本研究は、最終的には、効果的な環境法総論について検討するものであるが、平成29年9月から米国カリフォルニア大学バークレー校「法と社会」研究センターに滞在しているということで、平成29年9月以降は、米国において、さまざまな文献を収集して論点を整理しているところである。
著者
丹沢 秀樹 佐藤 研一 熱田 藤雄 高原 正明
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

口腔悪性腫瘍は多段階的に発癌すると考えられているが、具体的モデルは提唱されていない。大腸癌では遺伝子的発癌モデルのもとにAPC遺伝子による集団検診も検討されている。口腔癌発生の具体的遺伝子モデルを求めることができれば遺伝子的スクリーニングも可能と考えられる。この場合に使用する遺伝子の候補として、発癌過程の早期に異常を起こすと言われているAPC遺伝子は非常に有望と思われる。我々は既に、口腔癌においてAPC遺伝子異常を高率に報告し、腺癌の癌抑制遺伝子と考えられていたAPC遺伝子が、実は、口腔扁平上皮癌においても重要な役割を果たしている可能性を世界で初めて報告した。本研究において、(1)口腔悪性腫瘍の組織分化度とAPC遺伝子異常の関係、(2)口腔内腫瘍発生部位別のAPC遺伝子異常率、(3)前癌病変におけるAPC遺伝子異常の検出率等を調べた。その結果、APC遺伝子は(1)分化度の高い腫瘍におけるほうが分化度の低い腫瘍におけるよりもその異常率が高く、(2)口腔内のどの部位においても悪性腫瘍発生に関与している可能性があり、(3)前癌病変の代表である白板症においては約8%の異常が検出され、この異常率は推定される白板症の癌化率とほぼ一致していた。今後の課題としては、APC遺伝子異常が癌化の結果なのか原因なのかを考察するために、(1)APC遺伝子周囲のマイクロサテライト領域を調べる、(2)さらに多くの前癌病変を調べる、(3)口腔癌に伴った前癌病変を調べる等が考えられる。また、臨床診断への応用も試みる段階になってきたと考えている。
著者
津川 秀夫
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、入眠時の呼吸パターンに着目し、睡眠改善に有効で安全な心理学的手法の開発を志向したものである。本研究により、(1)睡眠段階1と2において、呼気の時間が吸気よりも短くなること、(2)睡眠段階1と2の呼吸パターンに基づく呼吸調整によって、眠気が喚起され入眠潜時が短くなること、(3)精神疾患を有する者に対しても本法を安全に実施できること、が明らかになった。
著者
長岡 浩司 韓 太舜 藤原 彰夫
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、主として量子推定理論と量子相対エントロピーに注目し、統計学的・情報理論的視点を通して量子系の情報幾何学の深化を図るとともに、幾何学的視点を通して量子系の統計学的・情報理論的諸問題に新しい光を当てることをも目指して研究を行った。主要な研究成果は以下の通りである。1.忠実な量子状態(正則な密度行列)全体の成す多様体上に導入されるFisher計量と(α=±1)-接続の成す双対平坦構造の一連の量子力学的対応物をできる限り統一的な視点のもとに整理するとともに、量子情報幾何構造の一般理論といくつかの個別構造の特徴、物理的・情報理論的意義などについて考察を行った。2.無数に考えられる指数型分布族の量子対応物のうち、推定論的に重要な意義を持つSLD(対称対数微分)にもとづいた量子指数型分布族に注目し、特に純粋状態から成る量子指数型分布族上の双対平坦構造が、複素射影空間(=純粋状態空間)上のFubini-Study計量(=SLD計量)の成すケーラー構造と密接に関係することを示した。また、純粋状態空間上ではRLD (右対数微分)に基づいたリーマン計量(RLD計量)は発散してしまうが、複素化された余接空間上ではこの計量は有限にとどまり、かつ推定論的な意義も保たれることを示した。これらの結果は未だ部分的知見に留まっているが、情報幾何の量子化・複素化への一つの方向性を示したものと言える。3.ボルツマンマシンは確率的ニューラルネットワークの一種であり、その平衡分布の成す集合は指数型分布族を成すことが知られている。我々は量子相対エントロピーおよびBKM計量から導かれる量子情報幾何構造の観点からボルツマンマシンの量子対応物を考え、古典的な場合との類似と相違について明らかにした。4.量子通信路の推定問題についてさまざまな研究を行い、情報幾何構造との関連を明らかにした。5.その他、関連研究として情報理論、量子情報理論、確率過程の情報幾何などに関する研究を行った。
著者
鈴木 岳之 郭 伸 佐藤 薫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

神経炎症を惹起する細胞として、ミクログリアに焦点を当てた。In vitro条件下でミクログリアを活性化処理し、そこから放出される内因性因子を解析した。その結果、活性化ミクログリアよりグルタミン酸が放出され、神経毒性を示すことを明らかにし、この過程にATPが関与することも示した。このグルタミン酸の放出作用はグルタミン酸トランスポーター機能変動を介する作用であることを明らかにした。また、疾病治療にリンクする知見として、抗うつ薬であるパロキセチンがミクログリアの活性化を抑制する知見を得た。これは、神経疾患に対する新たな治療アプローチを示すもので、今後の薬物治療戦略の確立に貢献できる研究成果である。
著者
井上 史子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、フィンランド、オランダ、シンガポール、日本の各高等教育機関を訪問し、職業教育やアントレプレナーシップ教育の状況について聞き取り調査を行った。おもな訪問大学は、フィンランドはJAMK University of Applied Sciences、Metropolia University of Applied Science、オランダはAmsterdam University of Applied Sciences、シンガポールはSingapore University of Technology and Design、National University of Singapore、Nanyang Technological University、日本は九州大学QRECの各高等教育機関である。JAMK University of Applied Scienceでは大学における研究開発活動や教育プログラムの外部への提供等について教育開発担当者や質保証担当者にヒアリングを行った。また、当該大学で学ぶ留学生にも学修成果についてのヒアリングを行った。Singapore University of Technology and Design(SUTD)では、教学担当の副学長よりシンガポールにおける専門職養成の現状について話を聞くとともに、カリキュラム担当者より当大学におけるカリキュラム内容についてヒアリングを行った。SUTDでは工学の専門教育に加え、デザイン思考の授業やHASSと呼ばれる教養科目も組み込んだカリキュラムを設計しているとのことであった。教員のFDについては、授業はティーム・ティーチングで行うためそれが相互研修となり、教育力向上に役立っているとのことであった。なお、シンガポールではすべての大学にアントレプレナーシップセンターが置かれている。
著者
早田 幸政 林 透 堀井 祐介 前田 早苗 望月 太郎 島本 英樹 工藤 潤
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本調査研究は、ASEANの急速な経済発展を背景に、活発化している国境を越えた大学間の教育交流や学生・職業人等による人的移動におけるASEAN地域を包括した高等教育質保証の役割を解明することにあった。今回の調査では、国設の大学評価機関である「マレーシア質保証機構(MQA)」の高等教育質保証システムの概要や特質を把握することができた。MQAの中心的役割は、高等教育質保証の基盤であり国の質保証基準に対して基本的視点を提示する「マレーシア資格枠組(MQF)」を運用することにあった。こうした国レベルの高等教育質保証の仕組みを訪問調査、書面調査の双方の手法を用いて把握しその意義の分析に取り組んだ。また、マレーシアにおいて教育研究面で高い評価を得ている「マレーシア国民大学」、「テイラーズ大学」への訪問調査も実施した。これらの調査を通じて、上記MQAによる外部評価に合格するために各大学がどのような対応をしているか、について十分な知見を得ることができた。具体的には、これら大学は、自身の大学の質保証を行うために、独自の「内部質保証」システムを構築し、「ラーニング・アウトカム」の測定・評価を軸に同システムを効果的に運用していることが明らかとなった。このことは、次年度以降のASEAN諸国の高等教育質保証の実態調査を行う際にも大きく役立つ成果であった。
著者
堤 良一 岡崎 友子 藤本 真理子 長谷川 哲子 松丸 真大
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、現代日本語の指示詞の現場指示の方言差を明らかにするとともに、各方言が採用する空間認知の分割方法と、それと連関するような文法現象を見極めることで、日本語の指示詞の現場指示の使用のされ方と、その他の言語現象との関わりを探ろうとするものである。今年度は、次年度以降に実施予定である本格的な実験に向けて、実験のデザインを行った。そして、そのデザインの妥当性を検討するために徳山大学(山口)、尾道市立大学(広島)、愛媛大学(愛媛)の3大学で実験を行った。収集したデータは方言帯ごとにグルーピングし、それぞれの差を見ることとなる。具体的な傾向としては、研究代表者と研究分担者(岡﨑友子氏)が、岡山方言について言及したことがあるように、話し手と聞き手との間程度の距離の対象についてアノで指示する話者が一定数存在し、それは瀬戸内海沿岸の地域の出身者に多いような傾向が見て取れる。しかしこれは今後継続的な実験を続け、データの数をある程度取らなければ断定的なことは言えないというような状況である。実際に実験を行いながら、実験の妥当性、公平性他、様々な点で問題点が見つかったが、その都度微調整を行いながらデータ収集を行った。現段階では、次年度に向けて均等な環境での実験が遂行できる準備が整いつつあると考えている。収集したデータについて、統計的な処理を施すことができるかどうかについて、平成30年3月24日(土)、東洋大学岡﨑友子(共同研究者)研究室にて、検討会を行った。統計学の専門家である小林雄一郎氏から有益なコメントをもらい、データベースの作り方等を今後さらにつめていく必要があることを確認した。
著者
川田 俊成 児玉 基一朗 岡本 芳晴 山本 福壽
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

4種類の天然型フェニルプロパノイド配糖体、アクテオシド(1)、コナンドロシド(2)、プランタマジョシド(3)、およびイソアクテオシド(4)の合成を行い、フェニルプロパノイド配糖体ライブラリーの一部を構築できた。いずれの化合物についても全合成に成功したのはこれが最初の例である。合成方法は新規に開発した方法を用いた。即ち、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル2,6-ジ-O-アセチル-4-O-カフェオイル-β-D-グルコピラノシドを中間体として用い、これにラムノース、キシロース、グルコース各残基をそれぞれイミデート法により導入して化合物1、2、3の各アセチル・ベンジル誘導体の合成を行った。これら各誘導体はメチルアミンによる脱アセチル化、パラジウム炭素触媒下1,4-シクロヘキサジエンを水素源とする還元法でベンジル基を脱離した。この過程で、反応条件を制御することにより化合物1から化合物4のベンジル誘導体に変換する方法を確立した。さらに、カテコール部分の保護基をベンジル基からtert-butyldimethylsisyl基(TBDSM基)に変更する改良を試みた。その結果、総収率を約3.0%から約7%に向上させることに成功した。合成した4種類の化合物を用いた抗菌性試験として、ナシ黒斑病原菌、Altanaria altanata Japanese pear pathotype (O-216)およびNon pathogenic Altanaria altanata(O-94)を用いた胞子発芽試験を行った。その結果、プランタマジョシドに胞子発芽促進活性を有することが明らかになった。このことは、フェニルプロパノイド配糖体の化学構造と生物活性に相関のあることを示す一例と云える。
著者
岩田 みゆき
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

この研究は、幕末期の在地社会における「風説留」と総称される情報記録について検討したものである。江戸時代後期以降、在地社会では上層民らを中心に、多くの政治・経済・文化・対外情報が収集され、記録され、相互に情報交換も行われていた。本研究では、それらの情報記録の所在調査や複数の家の情報記録の内容の比較検討を行い、それぞれの特徴について明らかにした。また、豪農が記録した情報の一部を翻刻し報告書にまとめた。
著者
長谷川 千洋 博野 信次 小幡 哲史 宗佐 郁 田中 達也 横山 和正
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は情動の神経基盤を調べることを目的に,幸福情動を賦活させる手段として実験参加者に催眠暗示を行い,脳のどの部位で賦活化が生じているかについてfMRIを用いて測定した。予備実験として催眠感受性の高い実験参加者に対してfMRI環境下での情動賦活法としての催眠の有用性を確認した後,安定した幸福情動の産生が確認された実験参加者に対して聴覚提示による催眠誘導を行い幸福情動産生時と非幸福情動産生時の違いを調べた。この結果,幸福情動産生時での共通の賦活部位として補足運動野が示された。関連研究として,情動及び催眠に関する実験研究も行い,情動の脳内メカニズムの解明を試みた。
著者
神野 由紀 辻 泉 山崎 明子 溝尻 真也 中川 麻子 飯田 豊 塩谷 昌之 塩見 翔 松井 広志 佐藤 彰宣 今田 絵里香
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

大量生産の既製品が安易に購入できるようになった20世紀半ば、自己表現としての手作りが大衆化していく。本研究では雑誌調査などから、女性の手芸に対して男性は工作と呼ばれる手作り趣味が興隆した背景を明らかにした。男女の手作りは近代的なジェンダーの枠組みの中で、それぞれの領域を発展させていった。両者の関係は女性解放運動の影響、あるいは男性の家庭生活への接近などにより揺れ動きつつも、それを完全に越境することが困難な時代が続いた。しかし今日、こうしたジェンダーの枠組みを超えるような新たな手作りの文化も生まれてきていることも明らかになった。
著者
和氣 愛仁 矢澤 真人 宇陀 則彦 永井 正勝 高橋 洋成
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、資料画像にテキスト情報を付与し、画像から文字あるいは単語等のテキストデータを検索できるようなシステム(「アノテーション付与型画像データベースシステム」)について、さまざまな人文学資料を共通の枠組で扱うことを可能にするために、共通のユーザインターフェイスと標準的なデータ構造モデルを作成し、汎用データベースプラットフォームシステムを構築した。本研究ではこのプラットフォームを利用し、古代エジプト語神官文字パピルス資料、明治期日本語文典資料、古代シュメール・アッカド語楔形文字年度版資料のデータベースを構築した。
著者
嘉原 優子
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

バリ(インドネシア)とラオスにおいては、公的教育機関や私的サークルにおける一対多の舞踊伝承形態を、従来の師と弟子といった一対一の関係の教授形態と比較し、民族舞踊を中心とした伝統芸能の伝承システムの変化について考察した。バリでは、30代から70代の6名の女性舞踊家へのインタヴュー内容を比較検討し、各世代の女性舞踊家の舞踊習得過程を明らかにした上で、民族舞踊の伝承システムの現代的変容が伝統文化に与えた影響について考察した。ラオスでは、国立音楽舞踊学校の現状を調査し、卒業生たちの舞踊家としての将来が、今後の観光業の発展に支配さていることを明らかにした。しかしながら、現時点では、バリでみられるような新しい観光文化の創出には至っておらず、現状では近隣諸国における観光産業の模倣としてのラーマーヤナ復活にとどまっている。日本では、東美濃地域の農村歌舞伎と奥三河花祭りの伝承の現状を調べた。農村歌舞伎は、戦中戦後の中断をはさんで、近年、盛んに演じられるようになっているが、かつて村人の最大の娯楽のひとつであった歌舞伎が、過疎化・少子化の進む現状にあって、行政から地域活性化の機能を担わされていることがわかる。また、奥三河の花祭りでは、過疎化の進む地域を超えて、地域外の伝統芸能に関心を抱く人々によっても伝承され、その一部の人々は実際に祭礼を支えていることが確認された。農村歌舞伎、花祭りのいずれもが、学校教育との関係を築き上げ、教育の一環として地域の伝統を伝承していこうと試みている。日本と、バリ・ラオスにおける民族舞踊伝承の現状における相違は、前者が地域に伝わる伝統芸能をもっぱら地域活性化のために活用しようとしているのに対して、後者は同じく地域の活性化を目的としてはいても、それが現金収入を得るためといった個人的な目的のための手段としても捉えられている傾向が強い点にある。
著者
岸川 正大 島田 厚良
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

心身障害児(者)は「早く年をとる」とも言われ、剖検例でも脳を含めて老化の徴候とも言うべき年齢不相応な形態学的肇化がしばしば見られる。そこで、愛知県コロニー脳及び組織保存機構に登録されている症例を含めて、10歳代18例、20歳代8例を含む15歳以上の36症例について、海馬、海馬傍回、青斑核でのAT8陽性の過剰リン酸化タウ蛋白(NFT、Neuropile threads)、抗ユビキチン抗体陽性像、ストレス蛋白(αBクリスタリン、Hsp27、Hsp70)の発現頻度などを検討した。その結果、AT8陽性像は10歳代でも16.7%、30歳代は50%に、40歳を過ぎるとほとんどの症例に過剰リン酸化タウの蓄積が見られた。福山型筋ジストロフィー症など、NFTが早期から出現することが知られている疾患を除外しても、10歳代で6.3%、20歳代で43%にAT8陽性像を認めた。また、抗ユビキチン抗体陽性像はAT8の所見に類似した像を呈する一方で、神経原線維変化とは別に雪の結晶類似の構造物(仮称:UPSS=Ubiquitin Positive Snow-like Structure)が広範に散見された。その本態はMicrogliaなのかSwollen oligodendrocyteなのかの鑑別が今後の検討課題として残った。一方、これら異常タウやUPSSなどが出現している症例でも老人斑は全く認められず、一般に見る高齢老人の脳とは少々異なっていた。また、αBクリスタリンは陽性像が見られるものの、Hsp27、Hsp70ではほとんど陰性で、症例の積み重ねと生化学的検索が必要である。
著者
岸江 信介 中井 精一 佐藤 高司
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

大都市圏言語が近隣の地域言語にどのような影響を及ぼしているかを探るため、東京、名古屋、大阪各周辺地域において様々な角度から言語調査を実施した。群馬各地で行った新方言調査では東京若年層とほぼ同じ傾向が独自に進んでおり、名古屋近郊の大垣市調査においても名古屋の影響が大きく、さらには富山など北陸地方へと広がりつつあることが判明した。大阪からの影響としては四国地方の中でも特に徳島への影響が大きいことが諸調査から明らかとなった。
著者
林田 直美 高村 昇 鈴木 眞一 南 恵樹
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島県では、福島第一原子力発電所事故後、小児を対象とした甲状腺超音波検査が行われている。この検査では、約半数の小児で小さな結節やのう胞が認められているが、小児における甲状腺所見の頻度についての報告はないため、日本人一般における甲状腺超音波検査を行った。その結果、対象者の約半数に甲状腺のう胞が認められ、結節は0.7%にみられ、福島県と同様の頻度であった。成人での調査では、これより多い頻度で結節を認めた。甲状腺を4年間観察したところ、大半の小児でのう胞の有無や大きさが変化することがわかった。
著者
加藤 毅
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、昨年度に引きつづき、人的資源管理論や大学マネジメント、大学職員論をめぐる新動向や政策展開などに関する先行研究や文献等のレビューを継続実施すると共に、優れたマネジメントを実践している大学役職員を対象とするインテンシブなインタビュー調査を継続実施した。初年度に実施したアンケート調査と継続的に実施しているインタビュー調査を通じて得られたデータを分析することにより、 昨年度までの作業を通じて構築したホワイトカラー総合職モデルをベースとして、大学職員の成長プロセスをモデル化するとともに、SDのあり方も含めて育成のための枠組みについて検討を行った。一般職員、初級管理職ともに、現状は定型作業と習熟業務のみで仕事のおよそ70%を占め、自身の知識やスキルとの比較で難度が高いと答えるものはわずか16%という低い水準にある。しかしながら、状況に甘んじることなく仕事の質を高めようと努力する者も一定割合存在する。そこで行われているのが、①業務改善行動、②IR活動、そして③人間関係構築である(中分類)。さらにその延長線上に、高度の仕事(プロジェクト)を自らの手で作り出すという可能性も開かれている。我が国の大学職員には、ルーティンワークに埋もれることなく、自身の努力と成果次第でさらなる成長にむけて前進する道が開かれており、多くのハイパフォーマーはこの道を通って生まれてきているのである。さらに、そこで実現している高度業務について、①タスク完結性の高い課題選択、②技能多様性の高い業務デザイン、そして③リーダーシップの高度化、という三つの次元から構成される構造モデルを構築した。さらに、これらのモデルの妥当性を検証すると同時に発展的なインプリケーションを得ることを目的として、新規アンケート調査の設計作業に着手した。
著者
松浦 正朗 城戸 寛史 山本 勝己 加倉 加恵
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

顔面欠損を有する患者にどのような他者が見て自然と感じるかを調べるために8種類のエピテーゼの装着を想定した画像をコンピュータで制作しアンケート調査を行った。その結果、静止したエピテーゼよりも健側と同調してまばたきするエピテーゼがより自然に感じることが解明された。次いで実際に健側と同調してまばたきをする装置を試作した。1つは赤外線照射でまばたきを探知する方法、もう1つはまばたきにより細いワイヤーを振動させ、それを電流に変換する方法である。両方法とも正確にまばたきを探知でき、小型の動力部も製作できた。今後、臨床への応用が可能な段階にすることができた。
著者
山下 東子
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、缶詰用にも刺身用にも持続的に利用できる海洋資源の一つとしてキハダマグロを挙げ、そのフードシステムの解明を試みたものである。キハダマグロは、まだ資源が危機的状況には至っておらず、管理方法によっては十分に持続的利用が可能なものである。そのためには、稚魚と成魚の漁獲量を相対的に管理し、稚魚の段階で獲り控える漁業に対して何らかのメリットを与えるような資源管理の仕組みが必要である。