著者
矢野 環
出版者
同志社大学
雑誌
文化情報学 (ISSN:18808603)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.60-53, 2007-03

利休以前の、京の茶人による茶湯書。香道で著名な志野家の点前と、不住庵梅雪、進藤山城守の点前の相違などを記述する。戦前に名前は知られていたが、内容がこれまで不明であった。底本は「煎茶礼要集」(古田織部からの聞き書きを元に正保二年成立)とともに収められている。戦前に紹介された写本は、「山上宗二記」を伴っていた。底本もその形跡を留める。全体として織部の伝書であったかどうかは未詳だが、かつて紹介された写本の「宗二記」は、織部改修本であった。「志野殿被仰聞書」の本文は茶湯点前であり、特に最後に詳細な手続きを記載している。
著者
加藤 直志
出版者
同志社大学
雑誌
同志社国文学 (ISSN:03898717)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.163-151, 2011-03

まず、日本の子ども達の学力の傾向を踏まえ、教育心理学者藤村宣之の提唱する「協同的探究学習」による「わかる学力」向上の重要性を確認した。次に、「協同的探究学習」を国語教育で行うに際して、〈テクスト論〉に関連した、日本文学研究者からの提言が参考になると述べた。その後、実際の授業を紹介し、「自己探究」と「集団討議」を組み合わせる(=対話させる)ことが「わかる学力」の向上にも繋がるということを明らかにした。
著者
廣田 收
出版者
同志社大学
雑誌
人文學 (ISSN:04477340)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.84-163, 2004-12
著者
石田 信平
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.2227-2285, 2007-01

研究ノート(Note)営業秘密は退職後の労働者による競争会社への漏洩によってその財産的価値が滅失する場合がある。そのため、多くの企業が退職後の競業避止特約を締結することによって、その漏洩を防止しようとしている。しかしながら問題は、こうした退職後の競業避止特約が労働者の職業選択の自由と衝突する点にある。 本稿では、以上のような営業秘密保護と退職後の競業規制について、アメリカの不可避的開示論の形成と展開を踏まえた検討を行った。ここで不可避的開示論とは、あるときは、わが国の不正競争防止法と類似する統一営業秘密法から直接競業差止という法的効果を導出する機能を果たし、あるときは、競業避止特約と秘密保持特約の限界を問う機能を果たす法理論であり、以上の問題に考察を加えるにあたって非常に示唆に富む議論を含んでいる。 本稿では、こうした不可避的開示論に関する裁判例、学説を分析し、日本の競業避止義務の課題と方向性を抽出することを試みたところ、労働者の競業避止義務には、労働者の背信性を軸とした「公正競争」の原理から要請されるものと、代償と軸とした「契約」の原理から要請されるものがあるという仮説を得た。わが国の裁判例は競業避止特約について明確な要件、効果が設定しているとは言いがたく、本稿では、この二つの原理によって、要件、効果を精緻化していくべきであるということを示唆した。
著者
韓 守信
出版者
同志社大学
雑誌
基督教研究 (ISSN:03873080)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.59-80, 2007-12

本研究では、「盧溝橋事件」以降の皇民化政策および総動員体制下における朝鮮総督府の宗教政策についての分析を、非西欧系宗教と西欧系宗教との比較を用いて行なった。総督府は、それまでのスタンスを転換し、それぞれの宗教に対して異なった方法論を用いなかった。とくに、英米との対決構造が明確になるにつれ、この傾向はますます強まっていった。キリスト教の宣教師たちが半島を撤収したのち、仏教、儒教、キリスト教を戦争協力へと駆り出そうとした総督府には、もはや非西欧系宗教と西欧系宗教の区別は存在しなかった。この時期の総督府の宗教政策には、それまでの宗教政策に見られた方法論的な差異は存在しなかった。それらはすべて「直線的な政策」であった。
著者
西村 卓
出版者
同志社大学
雑誌
經濟學論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.456-438, 2011-12

論説(Article)明治9(1976)年8月に、京都府乙訓郡の1つの村=上植野村で玄米窃盗未遂事件が発生した。同村は、近世以来、畿内非領国の1つの特徴である、多くの領主が所領とする「相給」村で、かつ独特な水利慣行を維持してきた村であり、自治的で平準的な村柄を特徴とする村であった。そういった村内で、村人が起こした事件に対して、村は当時の法を受け入れつつも、村として事件の「犯人」とその家族を救済するために、家族の「必至難渋」を伝えることにより、憐憫の処分を強く訴えるのである。この事件は、明治維新以降の近代化の過程のなかでも、村の自治=相互扶助性が強く維持されていることを示す事例である。In August 1876, an attempted theft took place in Kamiueno village in Kyoto prefecture of Japan. This village had two distinguishing features. The first was that this village was the territory of many lords during the Edo era. The second was that the village had its own system of water supply. Both characteristics indicate that this village was self-governed and created equality among the people in the village. During the trial, the village appealed to the court of justice to show leniency to the culprit. This incident shows that a village could be self-governed and reciprocal help among village people strongly after the Meiji Restoration.
著者
根岸 一美 渡辺 裕 武石 みどり 桑原 和美 井手口 彰典 坂本 秀子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

1921年(大正10年)に宝塚少女歌劇において上演された新舞踊『春から秋へ』について、楳茂都陸平による舞踊譜の解読と原田潤による楽譜の演奏解釈を行い、この作品の復元上演を実現した。この活動を通じて、1)『春から秋へ』が舞踊的にも音楽的にも西洋の前衛性を備えた斬新な作品であったことを明らかにし、2)舞踊学、演劇学、音楽学、文化史学といった多様な視点からの宝塚歌劇研究の一つのモデルを提示することに成功した。
著者
井上 祐子
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.67-80, 2010-09

論文(Article)本研究は、生活相談員が必要と認知する対人福祉サービスの構造を検討することを目的とした。調査対象は、京都府にある223の高齢者福祉施設に勤務する生活相談員とし、192名から回答を得た。仮説モデルは、「相談面接」「援助計画策定」「ネットワーク形成」「権利擁護」「危機管理」を要素に構成した。仮説モデルのデータへの適合性は、構造方程式モデリングを用いて検討した。その結果、CFIは0.913、RMSEAは0.080と統計学的な許容水準を満たしていた。以上の結果から、生活相談員の対人福祉サービスの体系化に際しては、上記の5領域を重視することの必要性が示唆された。Purpose:This study is intended to examine the structure of personal social services that are recognized need by social workers working in welfare facilities for the elderly. Method: Questionnaires were sent to 223 welfare facilities for the elderly in Kyoto prefecture, and responses from 192 social workers were analyzed. The hypothesis model was structured with "Consulting interview", "development of care plans", "network formation", "advocacy" and "crisis management". This hypothesis model was examined using Structural Equation Modeling (SEM). Result: This model performed well in term of CFI=0.913,RMSEA =0.080, and met the level of statistical tolerance. Conclusion:The result of this study suggested that the above five factors were important for the systematization of personal social services.
著者
宮木 康博
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.2115-2174, 2006-02

わが国では、主に薬物犯罪に対する捜査方法として、おとり捜査が実施されてきた。薬物犯罪は、被害者が存在せず、秘密裡に行われることから犯罪の解明に困難を伴う。それゆえ、おとりが購入者を装って対象者と接触し、取引後に逮捕するといった捜査手法が用いられているのである。他方、おとり捜査はこうした犯罪類型に対して効果的であるとしても、対象者に働きかけて犯罪を実行させるという特質を有することから、無制限に許容されるわけではない。 では、おとり捜査が違法と判断された場合、被誘発者の刑事手続および刑事責任にいかなる影響を及ぼすのであろうか。おとり捜査のリーディングケースとされる昭和28年3月5日決定では、「犯罪実行者の犯罪構成要件該当性又は責任性若しくは違法性を阻却し又は公訴提起の手続規定に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものとすることはできない」と判示した。この判示からは、違法なおとり捜査の訴訟法的効果を及ぼすことに否定的であると解することもできる。しかし、本決定に対しては、「その後のデュー・プロセス思想の進展の中で最高裁が今日もなおこの立場に固執しているかは疑問であり、その判例は実質的拘束力を失っている」とも指摘され、学説は一般に、法的効果が生じることを肯定している。また、近時の平成16年7月12日の最高裁判決は、おとり捜査が違法となる余地を認めており、違法と判断された場合の法的帰結を検討しておく必要性は増しているように思われる。 こうした検討にあたって有益と思われるのがドイツの動向である。ドイツでは、1980年代以降、違法なおとり捜査の法的帰結について判例上興味深い変遷をたどっており、それに対する学説の議論も活発になされている。そこで、本稿では、わが国の違法なおとり捜査の法的帰結について検討する足がかりとしてドイツの判例・学説を整理し、若干の考察を加えた。
著者
水島 洋平
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.81-89, 2011-03

論説(Article)本稿の目的は、Anderson and Bushman(2002)が提唱したGeneral Aggression Model(以下、GAM)を用いて、男性家族介護者が高齢者虐待を引き起こすメカニズムを、衝動的攻撃と戦略的攻撃の視点から明らかにすることにある。本稿の分析で用いるGAMは、攻撃行動が生起するまでの段階が想定されており、男性家族介護者による高齢者虐待生起のメカニズムを明らかにするうえで有用であると考えられる。分析の結果、家事や介護行為に追われて内的状態を吟味するための時間的余裕がない、あるいは、介護に没頭してしまうことによって認知的資源に余裕がない男性家族介護者は、即時的評価を通じて衝動的攻撃を行なう可能性が高いことが導き出された。一方、長期間の介護生活を送ることによってもたらされる家事や介護行為への慣れ、介護の否定的側面のみならず肯定的側面への気付き、家族会に参加して介護困難を吐露するなど、内的状態を吟味するための時間や認知的資源に余裕がある男性家族介護者は、衝動的攻撃を選択せず、再評価を通じて状況を再解釈し、戦略的攻撃を行なう可能性が高いことが導き出された。最後に、男性家族介護者の「社会的孤立」を防ぐことが、男性家族介護者による高齢者虐待防止のための介入策や支援策のひとつになりうることを提案した。
著者
田嶋 英行
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.63-99, 2014-07

ソーシャルワークは,クライエントの「存在を基盤にしたよりよい状態の増進」を図ることを目標としている。彼らがその環境と相互に影響し合う接点に介入し,さらに彼らが環境と「適合」することを目指していく。ただしその環境は,これまで,おもに自然科学としての生態学にもとづいて捉えられてきた。しかしながらクライエントは,もともと生態学が対象とするような有機体一般とは異なり,「実存」としてさらには「世界内存在」として存在する。それゆえ本稿では,クライエントが実際にそのように実存することをもとに,そもそも彼らにおける環境とは何かを明確にしたうえで,さらにそれら両者が適合することの意味を明らかにする。
著者
新倉 純樹
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.73-83, 2013-09

論説(Article)近年、日本では急速に少子高齢化が進行し、少子高齢化によって、多くの弊害が発生している。その一つが本稿の主題でもある少子高齢化によって生じる、財政上の世代間不均衡の問題である。世代間不均衡の問題は、少子高齢化によって、財政における高齢者向け支出が拡大し、その支出を支える現役世代が減少していることに端を発している。また、高齢者向け支出が拡大し、日本の財政運営の持続可能性が危ぶまれる中、抜本的な解決策が講じられているとは言い難く、その負担は将来へと先送りされていることもまた大きな問題である。世代間の不均衡の問題を考えるにあたり、まず人口構造の変化、すなわち高齢者層の相対的な増加によって、高齢者層の政治的発言力が高まった結果、高齢者層向け支出が拡大する一方、若年者層向け支出が縮小されるという政治的なバイアスがかかっている。さらに、高齢者層の政治的発言力の上昇は、人口構成の問題だけでなく、投票率にも表れている。若年者層よりも、高齢者層のほうが、投票率もまた高い状態にあるからである。本稿ではそれらのことを踏まえ、世代別の政治的発言力を人口構成上の観点からだけでなく、世代別の投票率も加味することによって分析を行っている。2009年に行われた衆議院議員総選挙の世代別投票率を用いて、若年者層向け支出として児童福祉費及び義務教育費を、老年層向け支出として老年福祉費に対してそれぞれどのような影響を与えるか、実証的な分析を行った。その結果は、若年者層投票率の上昇が若年者層向け支出の拡大を、高齢者層投票率の上昇が高齢者向け支出の拡大を促す、というものであった。本稿では、以上のような実証分析の結果を踏まえ、若年者層投票率が低いことに財政上の世代間不均衡の問題を深刻化させる原因の一端があることを指摘する。そして、世代間不均衡を解消するために、抜本的な対策が必要であることを主張している。
著者
後藤 正英
出版者
同志社大学
雑誌
一神教学際研究 (ISSN:18801072)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.79-100, 2007

現在のEUの移民問題をめぐる研究においては、移民を排除しようとする人々の間で、かつてのような人種主義的・民族主義的な排外主義ではなくて、いわば「啓蒙主義的排外主義」と呼びうる現象が見られることが指摘されている。つまり、現在の移民反対論者たちは、リベラルな価値観を前提にした上で、それゆえに、リベラルな価値観を受容しない人々(男女の平等、政教分離、表現の自由を理解しようとしないイスラーム教徒たち)を排除しようとするのである。リベラリズムによる宗教批判は、かつては、近代ヨーロッパのユダヤ人たちが直面した問題であった。ヨーロッパのリベラルな知識人たちは、ユダヤ人への市民権授与には積極的であったが、そのリベラリズムのゆえに、ユダヤ教については否定的な態度をとったのである。このようなユダヤ教批判に対抗して、近代ユダヤ教の父として知られるモーゼス・メンデルスゾーンは、市民的地位における平等とユダヤ教の伝統を維持することが両立可能であることを主張しようとした。彼は、法的平等を獲得する条件としてユダヤ教の内容上の変更を求めてくるような要求には徹底して反対の立場を取った。
著者
浅野 有紀 横溝 大 藤谷 武史 原田 大樹 清水 真希子 松中 学 長谷川 晃 田村 哲樹 松尾 陽 加藤 紫帆
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究2年目に当たる本年度は、トランスナショナルローを巡る法的・政治的問題についての理論研究をさらに進めると共に、組織規範動態WGと国際金融規制WGにおいて、実証研究に向けた本格的検討を開始した。先ず、理論研究については、3回の全体研究会を開催し(2017年7月、8月、及び、2018年2月)、共同研究者や国内の他の研究者による報告を基に意見交換を行い、知見を深めた。具体的に扱ったテーマは、「トランスナショナル・ローと法哲学の課題――多様な正統性と機能主義的考察」、「グローバルな土地収奪のトランスナショナル・ローの観点からの研究」、「解釈主義的法理論とトランスナショナル・ロー」、「立法過程と政治学の応用」、「批判法学から法多元主義、法多元主義から批判法学へ-無意識的な『法の帝国』化について」、「グローバル・ガバナンスと民主主義-方法論的国家主義を超えて」である。また、実証研究については、組織規範動態WGが2回の会合を(2017年9月、12月)、国際金融規制WGが1回の会合を(2018年3月)開催し、実証研究を進める際のテーマの選定や方法について検討を重ねた。その上で、各研究分担者が、3年目以降にさらに理論又は実証研究を進展させるべく、その基礎となる論稿を中間的成果として日本語・英語で執筆・公表した。具体的には、'Self-regulations and Constitutional Law in Japan as Seen From the Perspective of Legal Pluralism'、「法多元主義の下での抵触法」、「グローバル・ガバナンスと民主主義」、「グローバル化と行政法の変容」、「ソフトロー」、「コーポレートガバナンスと政治」、「グローバル資本規制」等である。