著者
藤木 大介
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

作文等,人が文章を綴る際,心(頭)の中でなにが起こっているかについては,これまで主として認知心理学の領域で研究されてきた。例えば,アイデアを練るとか,それを言語化するとかいったことは示されてきた。一方,これらの行為がどのように心の中でなされるかについては明確な説明がなされていない。そこで本研究では,どのようにして文章を綴っているかについて仮説を立て,その正しさを検証する実験を積み重ねていく。
著者
森田 晃司 平田 伊佐雄 津賀 一弘
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、要介護者の咀嚼能力と腸内細菌叢に着目し、咀嚼能力の向上により腸内環境叢の種類や多様性が変化し短鎖脂肪酸が増加する影響について調査することで要介護者の肥満や便秘以外にも全身状態を改善させる可能性を明らかにすることを目的とする。客観的咀嚼試験による咀嚼能力をはじめとする各種口腔機能、シーケンサーによる腸内細菌叢の測定に加えて短鎖脂肪酸、免疫グロブリン、α―アミラーゼ活性、セロトニン、特異的IgE、経皮水分蒸散量やBMI・便秘・口臭を解析することで咀嚼能力と肥満や便秘など全身状態との関連を観察研究と介入研究から明らかにする。
著者
白石 成二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

臓器移植や造血幹細胞移植後などの患者に免疫抑制剤サイクロスポリンやタクロリムスを投与すると下肢を中心とした劇痛を発症する。この疼痛は鋭利な金属で刺されるような、電気が走るような発作性の痛みで、NSAIDsやオピオイドの効果がなく難治性であり、カルシニューリン阻害薬誘発疼痛症候群(Calcineurin inhibitor induced pain syndrome: CIPS)として報告されているが、未だに有効な治療法がなく、多くの移植患者のQOLを低下させており治療法の開発が求められている。本研究は、CIPSの発症メカニズムを明らかにし有効な治療法を開発することである。
著者
下向井 龍彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

従来、当事者相互の決意・合意・一味団結を神仏に誓約する中世の起請文に対して、奈良・平安時代の起請については、発議・禁制などとされ、中世の起請文とは異質なものと理解されてきた。藤原実資の日記『小右記』に散見する「起請」の記事を検討すると、公卿(右大臣・大中納言)・右近衛大将として実資が関わった摂関期宮延社会の起請は、(1)近衛府起請、(2)殿上起請、(3)公卿起請、の三つに分類できる。(1)は儀式での精勤を求める天皇の譴責に対して、近衛大将が勤務内規と賞罰を定め、近衛府官人・舎人全員で遵守誓約するものであり、(2)は天皇に日常的に奉仕する場である殿上における風紀・勤務状況について、やはり天皇の意向や要求・譴責を受けて、摂関が内規と罰則を定め、殿上人全体でその遵守を誓約するものであり、(3)はとくに受領の昇進・遷任(次の受領のポスト)を左右する成績判定を行う受領功過程において、財政監査上の重点チェック項目(たとえば賀茂斉院禊祭科の完済証明を受けているかどうか)について、絶対見逃さないことをいうことを、受領功過程に参加する公卿全員が遵守誓約するものである。いずれの起請も、自分たちで制定した内部規律を当事者自らが遵守することを誓約するものであることが明らかになった。また「起請宣旨」「起請官符」として布告されるから、起請そのものが「官旨」「官符」と受け取られることになるが、それは起請にもとづく宣旨官符なのであって、起請=官符宣旨なのではない。起請とは、あくまでもその内規なり合意事項の遵守を誓約することであった。このような摂関期の起請の考察をとおして、摂関期の法=規範形成のありかたに新知見を提示し、とくに「公卿起請」には、受領人事の公平性を確保しようとする公卿集団の自己規制機能があったことを明らかにした。
著者
平之内 俊郎
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究成果の概要(和文):主に以下の成果が得られた.(1) 混標数で十分たくさん1の冪根を含むような完備離散付値体に対するMilnor K群の構造の計算(2) p 進体上の楕円曲線の積に対するサイクル写像の像及びChow 群の構造の計算(3) 可換代数群に付随するMilnor型K群の構成と応用
著者
菅野 雅元
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

小児のアトピー性皮膚炎(AD)発症に関して、母乳による育児は賛否両論あるが、科学的には確定していない。 完全母乳栄養・育児(母乳のみで育児)の母子の出生コホート研究において、AD発症群と非AD群において、「母乳成分の何が違うのか?」という観点から母乳中の自己成分による炎症性サイトカイン産生誘導活性(DAMPs活性)の比較検討を行った。我々の結果から、その活性物質は飽和脂肪酸である事が同定できた。 では、飽和脂肪酸がどのような機構で皮膚や消化管に存在する自然リンパ球で炎症性サイトカイン産生を誘導・増強し、それがどのようにアレルギー疾患発症(特にアトピー性皮膚炎発症)に繋がるのかを明らかにした。
著者
谷本 能文 藤原 好恒
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、(1)先に見いだした有機光化学反応に対する10Tクラスの強磁場効果の機構の解明、(2)さらに強磁場による新しい化学反応制御の可能性を模索することにある。(1)では、フェナントレン(Phen)とジメチルアニリン(DMA)をメチレン鎖で連結した連結化合物(Phen-(CH_2)_<10>-DMA)のエキサイプレックスケイ光の強磁場効果をナノ秒レーザー分光法により研究し、2T以上の磁場ではΔg機構による磁場効果が起こることが解明された。またアントラキノン(AQ)にメチレン側鎖をもつ誘導体(AQ-CO_2-(CH_2)_<n-1>-CH_3)のミセル中の光半により生成するラジカル対の強磁場降下のメチレン鎖長依存性、ミセルの種類の依存性をレーザー閃光法により検討したところ、δg機構による磁場効果が強磁場中で起こることが解明された。(2)では、金属銅と硝酸銀水溶液などの金属と水溶液系の酸化還元反応により生成する金属樹に対する強磁場効果を検討した。銅棒(5Φ X 250mm)と硝酸銀水溶液からの銀樹の生成反応(Cu+2Ag^+→Cu^<2+>+2Ag↓)では、金属樹の生成が磁場勾配により顕著な影響を受ける。すなわち強磁場中では銀樹がほとんど生成せず磁場の弱い箇所で主に生成することが明らかになった。この新しい磁場効果は、常磁性イオンである銅のイオンが勾配磁場効果により磁場に引き寄せられるためであることが解明された。また、反磁性結晶の成長が磁場配向するという新しい現象を見いだした。以上の研究から、「強磁場反応化学」というべき新分野の開拓の端緒を得ることができた。
著者
前田 照夫 續木 靖浩 磯部 直樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

現在中国全土におけるジャイアントパンダ(パンダ)の生息数は約1,000頭,この数は年々減少しており,やがては絶滅の可能性がある。このパンダ絶滅を回避するため,本研究は,パンダの人工繁殖に関する現在の問題点を整理し,パンダの人工繁殖に関する国際学術研究(日中共同研究)の企画を行うことを目的として,パンダの人工繁殖に取り組んでいる日本および中国における代表的な施設を調査した。その結果,(1)自然交配における雄と雌の相性と自然交尾不成立の問題(2)精液採取法の問題(3)精液の凍結保存法の問題(4)雌の発情鑑定の問題がパンダの人工繁殖における重要な点であると考えられた。先ず(1)に関して,複数の雄雌を飼育している場合でも,自然交配がうまくいかず,ましてや1ペアしか飼育していない動物園等の施設では自然交尾が成立する可能性が極めて低く,人工授精の必要性が明確となった。(2)については,現在雄に麻酔を施し,電気刺激法で精液を採取する方法が採用されているが,今後は人工膣を装着した犠牝台の改良も含め,雄にストレスを与えない形での精液採取法の開発が必要であると考えられた。(3)については,依然として古典的な精液保存液が使用されており,斬新な凍結保存液の採用が必要であると考えられた。(4)に関して,雌の発情回数が極めて少なく(通常1年間に1あるいは2回)また,交尾可能な発情期間が短い(2日程度)ため,自然交配あるいは人工授精適期が判断できないところに問題であることが明確となり,性ホルモンのアッセイを含め今後の改良が期待されている最大の問題点であると考えられた。以上の調査結果を基に,国際学術研究の企画書(科学研究費補助金(海外学術調査)を含む)を準備し,応募する予定である。
著者
古東 哲明 高橋 憲雄 原 正幸 中村 裕英 青木 孝夫 桑島 秀樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.研究実習・研修会の開催と実践的コラボレーション:臨床哲学研究会(計100回)および人間文化研究会(計20回)を開催した。新皇ゼミナール(計30回)を通じ広島県の政・財・官のトップリーダーへの思想啓蒙活動を行った。また研修講演会(計10)を開催すると同時に、実技指導、ワークショップを行なった。2.海外調査・研修:原、町田、菅村が中国(武漢/昆明/西安)へ、中村がイタリア、島谷がポーランド、大池がアフリカ、辻が韓国、村瀬がフランス、堀江がドイツ、桑島がアイルランドへ渡航し、現地調査・資料収集にあたるとともに、海外研究者との研究交流を行った。3.電子装置整による研究環境づくり:購入したパソコンを駆使し、データベース構築を充実させ、内外の研究者や関心ある医療現場・学校教育・宗教的治癒現場のスタッフ、一般市民との交流環境を整備した。4.資料室・機械室設営と図書収集・工房環境整備:思想資料室、芸術工房を整備し、芸術学、応用倫理学、現代思想、日本思想に関する諸文献を収蔵し、研究者が常時閲覧できるようにするとともに、カメラやTVなど各種電子機器による実習環境を整えた。5.理論構築と実践的技法の探求:上記資料の精密な解読により、研修や調査と関連づけながら、諸論文を執筆しあたらしい哲学や実践理論や倫理論や美学を構築し論文を作成し、各学会で公開すると同時に、綿密な報告書を作成した。6.機関誌及びニューズレターの編集と発刊:執筆者を内外ひろく募り、新規購入の印刷機器を駆使し、『臨床哲学研究』第5〜8号を発刊した。ニューズレター『制作科研通信』等を定期的に発刊した。
著者
青木 孝夫 原 正幸 樋口 聡 桑島 秀樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

申請書の研究の目的に示したように、藝道に代表される日本の伝統的藝術観は、西欧の近代的藝術観から疎外される形で成立したが、現代文化に於いて重要な意義を担っており、作品に結実する独創性の美学とは別の藝術的実践の美学を支えている。その藝道思想の現代的活用の探求を進め、美的文化の日常的実践やその身心観を考察した。天才や独創性の神話を離れて展開した藝術は、複製技術の普及と絡み広範な美的実践として姿を現し、従来の藝術の境界を突き崩し拡大している。この点の探究を、研究の実施計画に従い、各分担者が進めた。その具体的内容を記す。青木は、上記の事態を習い事や美的教養の伝統に即して解明し、また文化の日常的な実践や礼儀・作法など藝道の名では呼ばれていない、実践するアートの享受と自己涵養の思想的解明に尽力した。樋口は現代の文化的実践が前提する東洋的身心観の特性を西欧との比較の上に探究を進め、知的藝術観とは異なる身心の涵養に関わる東洋的身心観及び藝術観を考察した。原は、現代の文化実践を支える東洋の礼楽思想や音楽的実践などを、東西の古典に即し比較学的に推進した。桑島は、現代文明が生み出した美的理念でもある崇高が、所謂藝術現象に限定されない広汎な文化現象と関わることに着目し、その淵源を理論的歴史的に探究し、なお現代文明に於ける文化実践の意義を検討した。以上を受けて青木が総括した。本研究の意義について簡単に述べる。習い事や美的教養また東洋的身心観の解明を進め、人間性の身心両面に亘る涵養と表現の問題を、何よりもまず〈藝術〉として了解してきた日本の伝統を解明した。以上を基礎に、その発展的形態である藝道・武道・礼法・躾け・嗜み・スポーツなど、広義のアートと呼ばれるべき文化的実践の意義を現代的文脈に於いて解明し、それが現代文明が必要とする身心の全面的「教養」即ち涵養と関わることを解明した点が格別重要である。
著者
利島 保 樋口 聡 鳥光 美緒子 坂越 正樹 藤川 信夫 小笠原 道雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

ポスト・モダン的状況下における教育科学の課題に関して日独協力研究を実施した結果、下記の諸点について新たな知見が得られた。美学、身体性の観点から:「ミーメーシス」は美学の特殊な術語として理解されてきたが、「模倣」「倣う」「写す」という日本語の意味の広がりにおいて捉えるとき、ゲバウア、ヴルフ等のドイツにおける研究と連関させられる。模倣の身体性、芸術制作の創造性とともに日本の伝統的な学びのスタイルが模倣と習熟にあったことが学びの復権として改めて注目されるべきである。環境問題の視点から:環境は今や教育の一対象領域にとどまらず、今日の教育を再構築する根底的視点となっている。ドイツにおいても「持続可能な発展」のキーワードのもと、多様な文化的能力、課題発見・解決能力の形成がめざされており、日本での「生きる力」「新学力」との共通教育課題が確認された。研究の全体を通して以下のことが指摘される。教育学のポストモダン体験以降、理論レベルでは人間形成に関する理解の流動化が認められた。実践レベルでも「教育の実定性」への懐疑から、近代学校教育の周縁部で新たな人間形成理解が胚胎しつつあった。近代の理性に基づいた知から感性、身体性に基づいた教育の知への転換は、閉塞状態にある今日の教育と教育学の枠組みを組み換え、新たに展開する可能性を示唆している。その契機となるものが、芸術や環境との身体を伴った相互体験、プログラム化されない他者との一回的出会い等であることも明らかにされた。
著者
荻野 龍平
出版者
広島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

花粉症患者が、花粉アレルゲンと似たアレルゲンを含む果物や野菜を食べることによりアレルギーを発症する、花粉-食物アレルギー症候群 (PFAS) の報告が増加している。しかし、PFASを発症する患者と花粉症のみを発症する患者の違いは明らかになっていない。この原因の一つとして、適切な動物モデルが存在していないことが挙げられる。本研究ではPFASの病態解明を最終目標として、より臨床に近い、経皮 (皮膚の傷から) と経鼻 (鼻の粘膜から) の2つの経路からシラカバ花粉を投与し、シラカバ花粉-リンゴアレルギーモデルマウスを作製する。この研究の成果は、PFASを回避するための足掛かりになるものと予想する。
著者
藤本 成明 ムサジャノワ ジャンナ 佐藤 斉 星 正治
出版者
広島大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

放射線の影響を理解するためには、外部被曝ばかりでなく内部被曝の影響評価が重要であるが、現在のところ、防護上で両者の影響は同等とされている。最近、我々は放射性微粒子による内部被曝が強い生物学的影響を示す場合があることを報告した。本研究では、この内部被曝実験を展開し、分子生物学的解析によりその障害作用とメカニズムの詳細を解明することを目的とする。本研究は放射線被曝の防護と安全に関わる極めて重要な国際共同研究である。
著者
小池 一彦 山下 洋
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

サンゴを含むサンゴ礁の多くの動物は,褐虫藻と呼ばれる藻類と共生している。しかしこの共生藻を親から受け継ぐことは希で,多くの場合,環境中から褐虫藻を取り込む。従って,サンゴ礁には単独の褐虫藻が存在しなければならない。この共生ソースとなる褐虫藻は,サンゴ同様に褐虫藻を体内に共生させる「シャコガイ」から排出されてきたものかもしれない。実際,シャコガイの糞には生きた状態の褐虫藻が密に詰まっている。この研究ではシャコガイの糞に含まれる褐虫藻を詳細に調べ,シャコガイの幼生とサンゴの幼生に糞を与え,褐虫藻が感染するか調べた。その結果,何れもが糞に由来する褐虫藻を取込み,共生が成立可能であることがわかった。
著者
太田 茂 杉原 数美
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

熱帯地域で摂取され、パーキンソン病関連疾患の環境因子としての可能性が考えられるトゲバンレイシ植物より、テトラハイドロイソキノリン(TIQ)誘導体を含む10数種類の物質の構造を決定した。これらの1種は、神経細胞においてプロテアソーム阻害に伴う不要タンパク質の蓄積、小胞体ストレス応答の亢進を惹起した。
著者
VARGHESE VARUN
出版者
広島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

The goals of the research will be achieved through two objectives. The first objective of the research is to develop an ICT platform that implements an ethical, attractive, and personalized algorithm that will prioritize the reduction of CO2 emissions. The ICT platform will provide users with a choice between the novel algorithm and traditional algorithms (such as profit maximization and travel time reduction). The second objective of the research is to conduct a randomized control trial in Higashihiroshima to quantitatively evaluate the adoption and effectiveness of the ICT platform.
著者
小松 賢志 DOMINIQUE Sm CORRY Weemae 田内 広 松浦 伸也 WEEMAES Corry SMEETS Dominique SMEETS Domin WEEMAES Corr 遠藤 暁
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ナイミ-ヘン染色体不安定症候群(Nijmegen Breakage Syndrome:NBS)は、小頭症、鳥様顔貌、免疫不全および高発癌性を特徴とする染色体不安定症候群である。細胞学的には放射線高感受性と染色体不安定性など毛細血管拡張性運動失調症ATと類似した所見を示す。NBSの原因染色体を同定するため、我々は各種ヒト染色体ならびに放射線照射により断片化した染色体のNBS細胞への微小核移入を試みた。この結果、8q21-24の領域だけがNBS細胞の放射線感受性を回復させることからNBS遺伝子を同領域にマッピングした。続いて、近親婚のオランダ人家系を用いたホモ接合体マッピングでNBS遺伝子を8q21の7cMの領域にさらに限局した。同様に、NBSの3家系と5例の患者でハプロタイプ解析を行った結果、D8S271からD8S270までのlcM以内の領域に1例を除く8例すべての患者で遺伝子型が一致し、NBSの連鎖不平衡が示唆された。このことは、NBSには創始者効果が存在し、NBS原因遺伝子はD8S1811の近傍に位置すると考えられた。現在、この結果を機能的相補性により確認するために、候補領域からスクリーニングされたYACおよびBAC DNAの移入によるNBS細胞の放射線感受性回復試験を行っている。またNBS遺伝子のクローニングを目的として、D8Sl811マーカーを中心とした約500kbの領域の遺伝子地図の作製を進めており、いくつかの既知および未知のcDNAクローンを単離している。一方、ATMおよびNBS遺伝子機能の1つとしてDNA損傷によるp53を介した細胞内シグナル伝達経路が示唆されている。放射線照射後の細胞内p53およびp21をウェスタンブロットで測定した結果、NBSとAT細胞のp53ならびにp21発現が正常細胞に比較して低下していることが明らかとなった。しかし、NBS細胞ではAT細胞にみられるp53発現時期の遅れはなく、発現低下量もAT細胞と異なっていた。このことはNBS原因遺伝子とATMとの厳密な機能の違いを示唆された。
著者
吾郷 由希夫 中澤 敬信 近藤 昌夫 鈴木 亮
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、統合失調症の確度の高い遺伝的要因としてのコピー数変異に着目し、7q36.3微細重複によるVPAC2受容体過剰活性化の病態生理学的意義の解明と、難治性統合失調症の克服に向けた新しい治療技術・創薬戦略の基盤構築を目指す。具体的には、①患者由来細胞とマウスモデルを用いた病態神経基盤の解明と創薬モデルとしての妥当性検証、②生理活性物質等の脳内(部位特異的)送達技術の開発を行う。