著者
伊藤 耕三 木戸脇 匡俊 酒井 康博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、超分子を利用した新規高分子材料の創成を目指しており、超分子構造の一種であるポリロタキサンを応用して、側鎖が軸高分子上を自由に動く様々なスラディンググラフトコポリマー(SGC)を合成し、これを用いて新しいミクロ相分離構造と物性を示す高分子材料を構築することを目的としている。本年度はまず、軸高分子(ポリエチレングリコール)の長さが一定で、グラフト鎖の長さと数が制御されたSGCの合成を試みた。我々のこれまでのポリロタキサンの修飾法は、多数あるシクロデキストリン(CD)水酸基に対してランダムに置換基を導入していたため、1つのCDに対する置換基の数や位置を厳密に定義するのは困難であった。本研究では予め官能基を導入したCDを用いてポリロタキサンを合成し、反応サイトを限定する。CD誘導体については、初めはMono-hydroxy α-CDのように市販されているものを購入して使用した。あるいは、多くの論文や成書で確立した合成法が報告されているので、それらに従い合成することも可能である。一方、グラフト鎖の導入方法としては、酸クロライドなどの水酸基と反応性の高い末端を有する高分子を結合させる方法と、ポリロタキサンからモノマーの重合反応により高分子鎖を成長させる方法が考えられる。本研究ではまず、精密な反応の制御が可能なリビング重合の一つであるATRP法により、モノマーとして疎水的なブロック鎖を形成するメタクリレート誘導体を用いた重合反応を試みた。合成した試料の同定は主にNMRによって行い、また、分子量の評価には本年度新たに導入した示差屈折計検出器を用いた。尚、本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(S)・課題番号:20221005・研究代表者:伊藤耕三)の採択に伴い、平成20年8月11日付けで廃止となった。
著者
田畑 仁 佐伯 洋昌
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

物性“ゆらぎ"の1現象であるスピングラスは、隣り合うスピンを並行に揃えようとする強磁性相互作用と、反並行に揃えようとする反強磁性相互作用が混在した状態、つまり、“フラストレーション"と“ランダムネス"とが競合した際に生じる興味深いスピン状態である。前述したように、スピネル型結晶構造を持つフェライト化合物(FeO){Fe_2O_3}を薄膜化することにより、室温を超える高い温度でのクラスター(スピングラス)グラス材料の合成に成功した。ホップフィールドによればスピングラスを示すハミルトニアンが、脳シナプスにおける情報伝達モデルと同値とされており、スピングラスを利用した脳型素子が期待される。一方、双極子“ゆらぎ"についても、人工格子技術を用いたペロブスカイト型酸化物において、双極子グラスとも言うべきリラクサー材料を対象として、双極子ゆらぎを人工的に制御することに成功している。さらにスピン秩序と双極子秩序を併せ持つ物質(マルチフェロ材料)を、ガーネット型フェライトにおいて実現し、これをトンネルバリアとして、スピングラスと強磁性金属によりサンドイッチしたスピンTMR素子は、スピンフィルタ機能を有すると共に、外場により強誘電性による双安定ポテンシャルおよび、強磁性によるゼーマン項を利用する事で多値論理回路への適応が可能となると思われる。このように、スピンおよび双極子の協調現象および“ゆらぎ"機能を利用する事で、新しい光エレクトロニクスが期待される。
著者
中村 仁彦 今川 洋尚 野地 朱真 岡田 昌史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の成果は以下の4点でまとめられる.・複数のヒューマンフィギュアなど大規模な構造可変リンク系に適用可能な高速順動力学計算法を開発した.この計算法を用いるとN個のリンクからなる系の動力学シミュレーションに必要な計算量がO(N)となり,さらにO(N)個のプロセスで並列計算を行うことにより計算時間をO(logN)に短縮することができる.これは現在提案されている最も高速な順動力学計算法と同じ計算複雑性であるのに加え,構造可変リンク系に適用可能であるという特徴を持つ.これにより,接触を含む複雑な運動を実時間の数倍程度の時間でシミュレートすることができる.・逆運動学計算を用いて,数個のリンクの位置を指定するだけで全身のポーズを決定することのできる計算法を開発し,CGアニメーション生成に応用した.従来のCGアプリケーションと比べて容易に自然なアニメーションを生成することができ,作業効率が大幅に向上することが示された.・上記動力学計算法と逆運動学計算のインタフェースを応用して,力学的整合性を満たすヒューマンフィギュアの運動生成を行う方法を開発した.これにより,簡単なインタフェースで力学的なバランスなどを考慮した運動を自動的に生成できるようになった.・力学計算を用いたゲームなどのアプリケーションに必要なインタフェースを考案した.力学シミュレーションを用いることにより,サーカス,アクロバットなどモーションキャプチャの難しい運動も扱えることを実証した.
著者
荒川 泰彦 三浦 登 濱口 智尋 三浦 登 冷水 佐尋 難波 進 池上 徹彦 荒川 泰彦 森 伸也
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

本特定領域研究プロジェクトは、日英の優れた材料開発、特徴ある測定手段、理論グループの支援を総合的に融合して、ナノ構造デバイスに関する物理的基礎研究の飛躍的進展を図り、これを背景に次世代の光・電子デバイスの可能性を提示することを目的として、1999年から5年計画で日英の相互交流、共同研究を主眼として遂行された。わが国と英国のこの分野における第一線の研究者が重要な知見を挙げ、プロジェクトとしての成果を十分達成した。本年度は、5年間の研究の総括を行うために、ナノ物理およびナノエレクトロニクスに関する日英国際シンポジウムをわが国で開催することを活動の主眼とした。総括班メンバーは、領域代表者および計画研究代表者からなる。なお、三浦、濱口は、プロジェクト実施期間中にそれぞれ東京大学と大阪大学を定年になったため、荒川および冷水に交代している。具体的には、これまでの研究活動の総括として、ナノ物理・ナノエレクトロニクスに関する日英国際シンポジウムを、【日英ナノテクノロジーシンポジウム-物理から情報素子およびバイオまで-】として、平成17年3月16日(水)に東京虎ノ門パストラルで開催した。この会議では、英国のこの分野における主要メンバーを招聘するとともに、わが国の第一線の研究者である特定領域メンバーが中心となりプログラムを構成した。講演者は、L.Eaves教授(University of Nottingham)、安藤恒也教授(東京工業大学)、D.A.Williams博士(Hitachi Cambridge Laboratory)、M.Skolnick教授(University of Sheffield)、荒川泰彦教授(東京大学)、J.M.Chamberlain教授(University of Durham)、原田慶恵室長(東京都臨床医学総合研究所)であった。また若手研究者によるポスター発表も行われた。有意義な情報交換を行うとともに、日英研究協力の将来の発展に向けて討論が行われた。
著者
大串 和雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、1973年9月11日のクーデターに至るチリの民軍関係を、軍の側に焦点を当てて考察したものである。本研究の一つの焦点は、アジェンデ政権(1970~73年)に先立つフレイ政権期(1964~70年)に現れた、軍の規律逸脱行動である。チリの伝統的民軍関係では、立憲秩序の尊重(文民統制)と、軍内での規律の厳守(上官の命令への絶対服従)という二重の規律が機能していた。しかしフレイ政権の後半に、主として低給与と装備・補給品不足の不満を原因として、中堅・下級将校の抗議行動が現れた。この抗議行動はこれまで充分に研究されてこなかったが、非常に大きな拡がりを持っていたことが確認された。フレイ期の抗議行動の動機は非政治的で利益集団的なものであったが、いったん、二重の規律が破られると、それが政治的規律逸脱行動に発展するのも容易になった。また、抗議行動によって軍人と文民の双方が軍が持っている力を再認識することになり、文民から軍への働きかけも増加した。フレイ政権後半から始まるチリ政治の両極化と暴力の増大はアジェンデ政権期に加速化し、軍を政治化させるとともに、もともと軍が持っていた反共意識を先鋭化させた。人民連合の革命を支援する軍内秘密組織も結成されたが、圧倒的多数の将校は反政府感情に煮えたぎった。クーデター派が海・空軍で優位を確立した後も、陸軍総司令官がクーデターに反対であるため、なかなかクーデターには踏み切れなかった。上官への服従の伝統がまだ強く残っていたため、クーデターを強行すれば少なからぬ陸軍の部隊が総司令官の命令に従い、クーデター派と政府派の軍の間で内戦になる恐れがあったからである。結局、1973年8月下旬に陸軍総司令官が辞任し、クーデターに道が開かれた。
著者
堀 準一 小椋 正
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

日本人一般小児に顎関節症がどの程度の発症頻度があるかを鹿児島大学のグループが1984年に調査した結果によると9.8%(10〜18才)であった。すなわち,10人に1人の割合で三大症状(顎関節雑音,顎関節部疼痛,開口障害)のうちどれか一つの症状があることが解った。また,顎関節症の初発症状は顎関節雑音であり,初発期は中学生で高校生になると激増することも解った。その後,多くの研究者による顎関節症の発症頻度についての報告がなされ,この疾患が増加傾向にあるといわれているが,調査の方法(アンケート調査,問診,臨床診査など)や症状(前期三大症状の他,頭痛や異常顎運動など)の取り扱い方の違いなどのため比較出来るものがなく,増加しているかどうかは解っていなかった。そこで今回著者らは,顎関節症の発症頻度が日本人一般小児において8年前より増加しているかどうかを同一の方法論によって確かめることにした。また,顎関節症の発症頻度に地域差や環境差があるかどうかを確認するために,東京都と8年前に調査した鹿児島市において行った。その結果によると,小学生(5,6年生)2.0%から8.0%,中学生8.1%から12.5%,高校生12.0%から17.2%へと全てにおいて増加していることが解った。さらに,顎関節症の発症頻度は東京都内中学生11.9%に対し,鹿児島市内中学生12.5%で,東京都内高校生17.6%に対し,鹿児島市内高校生は17.2%と殆ど差がなかった。しかし,東京都内と鹿児島市内の中学生,高校生ともに顎関節症の発症頻度は男子よりも女子が高頻度を示したが,統計的な有意差は示さなかった。以上のように,若年者顎関節症は地域差はないものの増加傾向にあることが確認されたことを考えると,この疾患の予防法を早期に確立する必要に迫られている事が解る。今後,この研究を継続し予防法を確立する予定である。
著者
森 陽太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

バテライト形炭酸カルシウムはその熱力学的不安定性から自然界にはほとんど存在しない。しかしながら100nm程度の一次粒子が凝集して二次粒子を形成していることから多孔質体であることが期待されている。材料利用を視野に入れた場合、生成メカニズムや粒子径の制御などその基礎的物性を知ることが重要になる。昨年度はこれらの基礎的物性について引き続き検討を行った。天然セルロースに対しTEMPO触媒酸化を適用することでセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基を導入することができる。この試料に対し軽微な機械処理することで出発物質に応じた径を有するセルロースナノファイバーゲルが得られる。このセルロースナノファイバと形炭酸カルシウムを複合化についても研究を行った。複合化処理としては未乾燥のナノファイバーフィルムに塩化カルシウム水溶液と炭酸カリウム水溶液を交互に通過させることにより試料の作製を行っている。この試料ではフィルム表面での若干の炭酸カルシウム生成が確認されている。また、セルロースナノファイバーゲル中で緩やかに炭酸カルシウムを結晶成長させた場合、他の高分子ゲル中では見られない200μm程度の特異的な形状を有する結晶が得られた。この花弁状の結晶はセルロースナノファイバの径には依存せず、セルロースナノファイバのような高結晶性で商アスペクト比を有するゲル中で物理的拘束を受けることで特異的に生成すると考えられる。これらの詳細な生成メカニズムについては現在検討中である。
著者
石川 統 NORMARK Benj MORAN Nancy BAUMANN Paul 佐藤 恵春 森岡 瑞枝 青木 重幸 NORMARK Benjamin 深津 武馬 佐々木 哲彦
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.本国際学術研究を通じて,社会性アブラムシ類の生態を詳細に検討することが可能になった.アメリカ合衆国コロラド州およびアリゾナ州で行った.Thecabius populimonilisの調査の結果,従来,非移住性の生活環をもつと考えられていたこの種が,アリゾナでは移住性の生活環を,コロラドでは移住性と非移住性の生活環を併せもつことが明らかになった.また,ゴール内のアブラムシを分析した結果,本種の非移住性生活環は移住性生活環から,有翅虫のゴール内産仔と,それに有翅虫の無翅化を経て二次的に進化したという,いわゆるGP仮説を支持する証拠が得られた.アイダホ州北部で行ったClydesmithia canadensisの調査からは,ミトコンドリアDNAの塩基配列の比較などから,この種はゴール内で産仔された第3世代1齢幼虫が(有翅虫の替わりに)寄主植物の根に自力で移住する生活環をもつことが判明した.2.アブラムシ類は一部の特殊なグループを除けば,すべてが菌細胞内に原核性の細胞内共生微生物(共生体)を保有している.これまでの研究によって,アブラムシは窒素老廃物を他の多くの昆虫類のように尿酸ではなく,グルタミンおよびアスパラギンに換える能力をもち,共生体がこれらのアミノ酸から不可欠アミノ酸を合成するという窒素再循環系をもつことを明らかにした.これは有機窒素に乏しい植物師管液を食物とする吸汁性昆虫に共生体が普遍的に存在することの説明になる.しかし,今回,同じ同翅目の吸汁性昆虫であるドビイロウンカを調べた結果,共生体を利用した窒素再循環のしくみが必ずしも一様ではないことが明らかになった.ウンカは窒素老廃物を一般の昆虫と同じく尿酸へ転換するが,それを排泄することなく組織内に蓄積し,酵母様共生体のもつウリカーゼを利用し,必要に応じてそれを利用可能な有機窒素へ変えていることがわかったからである.これはむしろ,系統学的には縁の遠いゴキブリの場合に似ている.アブラムシとウンカのこのようなストラテジーの違いは,2つの間の増殖性の違い,および移住に伴う飢餓にさられる期間の違いを反映するものであろう.3.アブラムシの共生体は進化的には大腸菌と近縁のプロテオバクテリアγ3亜族に属するバクテリアである.共生体は菌細胞内にあるとき,ある種のストレスタンパク質であるシンビオニンを選択的,かつ多量に合成している.シンビオニンは大腸菌GroELのホモログで,後者と共通に分子シャペロンの活性をもっているが,それに加えて,後者にはみられない特異的機能として,エネルギー共役性に基づくリン酸基転移活性をもっている.このときのシンビオニンのリン酸化部位はHis-133で,これに対応するアミノ酸残基はGroELではAlaである.2つのタンパク質のアミノ酸配列(550残基)には86%の同一性があり,大部分のアミノ酸置換が類似的置換であるなかで,ほとんどコドン-133だけが3連続塩基の置換による非類似的アミノ酸置換をうけており,その結果としてシンビオニンの新たな機能が創出されている.今回の研究ではこの点をさらに確かめる目的で,系統的にきわめて近縁な3種のアブラムシのもつ共生体のシンビオニン(遺伝子)の構造を比較した.この結果,3者間のアミノ酸配列の同一性は99%以上で,550残基のうちコンセンサスでない部位はわずか5箇所のみであった.この1つが部位133で,1つの種ではHisなのに対し,他の2種ではAsnであり,しかも他の4部位は何れも類似的置換であった.これらの結果は,シンビオニンのコドン-133は分子進化的にみたとき一種のホットスポットであり,共生体はこの部位におこる突然変異をポジティブに選択することを通じて,シンビオニンに新たな機能を創出し,細胞内環境に適応しつつあることをうかがわせる.4.この他に,例外的に原核性共生体の替わりにアブラムシに保有されている酵母様共生体の分子系統学的位置の検討,アブラムシ腸内細菌類の同定とその進化的起源等についても多くのデータを得た.
著者
岸 雄介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

転写因子であるSox2は、大脳を構成する神経系前駆細胞において発現しており、その未分化性の維持に重要な役割を果たしていると考えられている。このため、神経系前駆細胞の未分化性の制御機構を理解するためには、Sox2の制御機構の解明が必要だが、これについては未だほとんど知見がない。本研究では、Sox2のタンパク質量の制御や転写活性の制御を明らかにすることを目的とする。本科研費を申請した時点で、i)Sox2が神経系前駆細胞だけでなく分化した細胞でも発現していること、ii)分化に伴って細胞内局在を核内から核外へと変化させる可能性を示唆する結果を得ていた。しかしながら、マウス胎児大脳新皮質の組織免疫染色によってii)がin vivoでも存在するかどうかを検討したところ、残念ながらin vivoにおいてSox2が核外に存在することは確認できなかった。一方、咋年度にSox2の制御をin vivoにおいて検討する過程で、遺伝子の転写制御に重要である事が知られているヒストン修飾を免疫染色によって検討していたところ、その染色強度がニューロンの成熟過程で大きく変化している事を見いだした。ヒストン修飾については、これまで個々の遺伝子座において変化することは知られているが、ここで観察されたように核全体で変化しているという報告は少ない。21年度はこのヒストン修飾の核全体での変化からヒントを得て、核全体でのクロマチンの凝集状態が、ニューロンの成熟過程で大きく変化していることを見いだした。また、この変化がニューロンの成熟に重要な役割を果たしていること、この変化にクロマチンリモデリング因子複合体が重要な役割を果たしていることを見いだした。現在この研究成果についての論文を投稿すべく準備中である。
著者
大下 誠一 牧野 義雄 川越 義則
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

水中にマイクロ・ナノバブル(MNB)を発生させ、ナノバブルに注目して0.6nm〜6μmの範囲にある粒子径を評価した。さらに、バブルの存在が期待される水の動的特性をNMR緩和時間T_1から検討した。水は超純水製造器(Direct-Q,日本ミリポア(株))で調製し、MNBの生成にはマイクロバブル発生システム((株)ニクニ製を改良)とマイクロバブル発生装置OM4-MDG-020((株)オーラテック)を用いた。バブル径測定にはゼータサイザーNano-ZS(シスメックス(株))を用いた。前者のシステム稼備後1時間まではデータが安定せず、バブルのピーク粒径は340nm、分布範囲は120nm〜6μmであった。稼働後1.5時間には、ピーク粒径(190nm)は小粒径側にシフトした。2時間後にバブルの発生を停止した時点で、分布範囲は50nm〜1μm、ピーク粒径は120nm付近であり、これは1日後まで安定して観測されたが、2日後に165nm付近になった。また、後者のバブル発生装置を45分稼働させた場合、酸素MNBの生成後15日間は、ナノサイズのバブルが安定に存在した。一方、酸素MNBにより溶存酸素濃度が上昇し、40mg/L程度の高濃度になった。水中に微細なバブルが存在すると、水分子のネットワークに影響してT_1の変化が期待される。しかし、酸素が常磁性を有するため、単純にはT_1からバブルの影響を抽出できない。そこで、常磁性のMn2+を添加して酸素の常磁性をマスクした。10mM のMn2+溶液を調製し、これに酸素MNBを生成させた水を準備した。その結果、溶存酸素濃度(DO)が7.6mg/LのMn2+溶液に対して、この溶液に酸素MNBを生成させた水(DO=33.6mg/L)のT_1が顕著に増大した。この結果は、水中におけるナノバブルの存在を支持するものであると判断された。
著者
吉村 浩太郎 岡崎 睦 長瀬 敬 吉村 浩太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ヒト頭皮から採取した毛乳頭細胞の遺伝子発現解析を、マイクロアレイおよびRT-PCRにより行った。マイクロアレイにより繊維芽細胞と比較したところ、ケモカインリガンドやインターロイキン、細胞周期関連遺伝子、プロテオグリンカンに有意な発現増強が認められた。またRT-PCRでは既知の毛乳頭細胞マーカー14種の遺伝子発現を検討したところ、繊維芽細胞と比較して2種の遺伝子で有意な発現増強、1種の遺伝子で有意な発現低下を認めた。これらの遺伝子群の発現パターンにより、毛乳頭細胞と繊維芽細胞を識別することが可能になった。毛乳頭細胞に対して21種のリコンビナント蛋白および化合物を与えて培養したところ、このうち数種の物質には増殖促進作用があることが判明した。またこのうち2種の成長促進因子は特に増殖促進作用が強く、毛乳頭細胞増殖培地用添加物質として使用できる可能性が示唆された。FACSを用いてヒト毛包の上皮系細胞の表面抗原解析を行った。表皮角化細胞と毛包内角化細胞を比較したところ、後者のみにCD200陽性細胞とCD34陰性または弱陽性細胞が10%以上含まれており、毛包組織切片に対する免疫染色における染色パターンを鑑みて、この細胞集団に毛幹細胞が多く含まれることがわかった。また、この細胞集団におけるケラチンの発現を見たところ、バルジマーカーとされているケラチン15の陽性率は60%程度であった前年度までにラット足裏皮膚に毛乳頭細胞を移植する方法(サンドイッチ法)を検討し、毛包誘導能を検定するモデルとして有用であることがわかった。毛乳頭細胞の移植法の検討を行った。サンドイッチ法の他、チャンバーを用いた移植法、注射による移植法、皮膚切開に埋入する移植法などを比較検討した。サンドイッチ法は、表皮・毛乳頭間の相互作用が良好に担保され、毛包誘導には優れた方法であることがわかったが、臨床応用は困難であり、その他の移植法を開発していく必要があることがわかった。
著者
三浦 宏文 小松 督 飯倉 省一 下山 勲 TADASHI Komatsu
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究は,宇宙機(宇宙ロボット,人工衛星など)の姿勢制御に関するものである.平成4年度は微小重力を模擬するために,剛体を6自由度で支える実験機構を設計し,作成した.平成5年度は主に垂直成分の微小重力模擬装置の制御について詳細な研究を行った.これまでは,微小重力を3次元的に模擬するのは難しいので,空気軸受けなどで2次元的な支持装置を作って実験するのが普通であった.そこで,本研究では,特別の創意工夫によって,3次元的に空中に浮遊する物体の模擬装置を開発した.姿勢についてはジンバルによって3方向に自由に,重心周りに回転できるような構造にし,重心の移動に関しては,水平方向には空気軸受けによって2次元の自由度を与え,垂直方向にはカウンタバランスを備えること(平成4年度)、およびロードセルを備えて加速度を検出してフィードバックをかけること(平成5年度)で重さをキャンセルした.空気軸受けのための空気は,ボンベを装置に搭載することによってチュウブによる外乱を防いだ.宇宙機の姿勢制御には,本研究ではまったく新しい方法を提案しようとしている.それは,宇宙機を複数個に分割し,それらをユニバーサルジョイントで結合し,このジョイントには内力が発生できるようなアクチュエータが備えられていて,相対運動を引き起こすことによって全体の姿勢を制御しようというものである.平成4年度は、おもにこの研究を行い、最終年の平成5年度はロードセルによる微小重力制御系についてのより実用を目指した研究を行い理論と実験の良い一致を見た.
著者
久恒 辰博
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

成体になっても、記憶をつかさどる海馬では、新しくニューロンが生まれ、新しく神経回路ができている。近年の研究から、この新しい神経回路は、社会コミュニケーションの成立に欠かすことができないエピソード記憶の形成や維持に探く寄与していることがわかってきた。そのため、新生ニューロンによって形成される新しい海馬回路を調べ上げること、すなわちアダルトニューロジェネシスによるヘテロ脳回路の動的アセンブルを明らかにすることは、コミュニケーションの脳内機構の理解につながる。本研究では新生ニューロンによって形成される新しい海馬回路を可視化することを研究目的とした。新生ニューロンを除去する方法としては放射線照射を利用し、新しい研究手法であるOpto-fMRIを用い、新生ニューロン回路のあぶり出しを行った。海馬新生ニューロン回路の生理的特性を調べるためにOpto-fMRI解析を行った。Thy1プロモーターの制御下で光感受性チャネルChR2(チャネルロドプシン2)を発現する遺伝子組み換えラットを用い、光ファイバーを海馬歯状回部位に挿入し、MRI装置内で青色半導体レーザー光源(473nm)のを用いて光刺激した。新生ニューロンのはたらきを調べるために、ガンマ線照射(10Gy)により新生ニューロンを除去した遺伝子組み換えラットを準備し、同様の実験を行い、結果をコントロールラットと比較した。光刺激の有無によるBOLD信号の変化を4.7Tesla小動物用MRI(Varian)を用いて導出した。これらのMRIデータを脳機能解析ソフトであるSPMを用いて統計学的に解析し、集団解析を行った。その結果、新生ニューロンを除去した放射線照射ラットでは、コントロールと比較して、CA3領域における有意なBOLD信号の低下が観察された。アダルトニューロジェネシスは海馬回路の機能的連結に深く寄与していることが示唆された。
著者
徳山 英一 西村 清和 末広 潔 平 朝彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度に実施された調査により、極めて高解像のイザナギ海底音響画像記録とディープトウ・サイスミックス・プロファイルを取得することが出来た。イザナギ海底音響画像記録からは東京海底谷の河床で活断層と解釈される構造が発見された。また、この活断層を横切るディープトウ・サイスミックス・プロファイルから明瞭な″とう曲構造″が併せて発見された。この変動地形は1923年の関東地震の震源位置とほぼ一致することから、関東地震により引き起こしたものと推測される。平成7年度はディープトウ・サイスミックス探査、さらにピストンコアによる採泥を実施した。ピストンコアの採泥は9地点で行われた。その内4点が東京海底谷を横断する活断層を狭む地点で実施された。採取されたコアは即座に処理され、以下の測定が採取日に行われた。1)MST(間隙率、P波速度、磁気強度をコアを非破壊で計測する機器)計測。2)コアの記載。3)間隙水の化学分析。4)水銀注入式の間隙率の測定。5)帯磁率異方性の測定。その結果、東京海底谷から採取されたコアからはイベント堆積物が2つ確認された。上位のものは海底から35-40cm下の地点、下位のそれは150cmから下に存在する。この2つのイベント堆積物は巨大地震により誘発された可能性があり、上位のイベント堆積物が1923年の関東地震に関連するものであれば、堆積速度から判断して、下位のイベント堆積物は1923年から250年程度さかのぼるものと推定される。平成8年度はイザナギ画像と水深値を統合して3次元海底音響画像を作成した。この結果から、活構造の分布を3次元的に捉えることが可能になった。またコアサンプルに関しては、ソフトX線写真撮影、化学分析を実施した。断層近傍から採取された堆積物の主成分、さらに微量元素の測定結果からは、断層運動に伴う湧水現象を示す特徴的シグナルを今回は見いだすことが出来なかった。
著者
加藤 照之 CATAPANG Her KOSHIBA Frit PARK PilーHo FEIR Remato GERASIMENKO ミハエル BEAVAN John 小竹 美子 平原 和郎 中尾 茂 笠原 稔 GERASIMENKO Michael D HERBERT Cata FRITZ Koshib PILーHO Park RENATO.B. Fe MICHAEL Gera JOHN Beavam FEIR B. Ren
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

西太平洋地域は収束するプレート境界が複雑に入り組み、多くの海盆やトラフがあって地震や火山噴火の活動の盛んな地域である。この地域のプレート運動とその境界の非剛体的変形を検出して監視することにより各種の地殻活動の予測に役立てられると同時にプレート運動の機構がより詳しく明らかにされると期待される。最近のGPSによる基線解析では1000kmを1cmの精度で計測することが可能である。そこで本研究では、これまでの日米科学協力事業等による基礎調査をふまえて西太平洋地域にGPS連続観測網を構築した短期間の観測研究により当該地域の変位場を明らかにすることを目的とした。本研究では、IGS(国際GPSサービス機構)のグローバル観測網の手薄な地域に観測点を建設して資料を蓄積すると同時にIGSによるデータを取り込みながら得られたデータを解析して観測点の速度ベクトルを算出するという観測と解析を並行して実施するという方式をとった。平成7年度には気象研究所と共同で南鳥島に連続観測点を建設したのを手始めに、トラック島、マニラ、大田、ウラジオストックに観測点を建設しいずれも現地収録方式により観測を開始した。また、平成8年度にはポートモレスビ-に観測点を建設した。これにより、別途設置した石垣島とパラオとを合わせ8点のGPS連続観測点を建設し、IGSの他の観測点と合わせ西太平洋に1000kmスケールのGPS連続観測網を建設することができた。この観測網から取得できた1995年7月からのデータを用いて基線解析を実施しつつある。ここでは最高精度による基線解析を実施するため新たにfiducial freeによる解析方法を考案した。この方法ではIGSグローバルサイトの観測点を取り込み、観測網全体がバイアスを持たないようにしたうえ、どの観測点も固定しないで解くという方法を用いる。ソフトウェアはBernese software Ver.4.0を用い、IGS精密暦を使って解析を実施した。こようにすると、座標の絶対値は正確には求められないが、基線は正確に求められる。このようにして基線を求めた上でHeki(1996)によるつくば(TSKB)の速度を与えて固定し、全観測点の位置座標を決定する。このような解析を毎日のデータについて実施し、各観測点の時系列を得た上で直線近似によって速度ベクトルを求める。求めた速度ベクトルをマップにまとめたところいくつかの新しい事実が判明しつつある。1)マニラの観測点は北西に約4cm/yrの速度で移動しつつあり、フィリピン海プレートによる圧縮の影響が顕著である。2)石垣の観測点は南南東へ約6cm/yrで移動しつつあり、フィリピン海プレートが押している影響は見られない。このプレート境界はむしろカップリングは弱く、背孤である沖縄トラフが拡大しつつあるのを見ているものと考えられる。3)グアムはフィリピン海プレートないにあるにも関わらず、その変位速度は剛体的変位から考えると速度が小さすぎる。マリアナトラフの拡大の影響を受けているものと考えられる。4)大田、上海、イルク-ツク等の東アジアの観測点はすべてヨーロッパに対して東向きの変位を持ち、インドプレートの北方への衝突による大陸地殻の東への押し出しの影響を見ているものと考えられる。以上を要するに、本研究によって西太平洋地域にはじめてGPSの連続観測網が構築され、テクトニクス研究の基礎を築くことができたと同時に、日本の南西諸島,フィリピン,マリアナ諸島などにおいて従来の剛体的プレートモデルでは説明できないようなプレート境界部における非剛体的変位が明らかになりつつある。このことをふまえ、今後もこの地域にGPS観測点を増強すると共にその観測領域を東アジアに拡げ,当該地域のテクトニクスを明らかにすべく観測研究を強化する予定である。また、本観測網は「海半球ネットワークプロジェクト」(新プログラム:研究代表者 深尾良夫)に引き継がれ、引き続き観測を続行する予定である。
著者
金嶋 聰 川勝 均
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

阿蘇火山広帯域地震計ネットワーク観測(ASO94)の実施中の阿蘇火山は、表面活動サイクル(数年程度の周期を持つとされている)中の『湯溜り』と『土砂噴出』のステージにあった。観測期間中においては、15秒に及ぶ長周期の微動の発生と爆発的な土砂噴出が顕著な現象であった。これまでに短周期の微動の起こり方や土砂噴出などに対応して、数種類の長周期微動が観測されている。これら長周期微動は、継続時間20〜30秒を持つ1〜2サイクルの孤立したイベントとして観測されることが多い。また周期15秒を基本モードとし、7.5秒や5秒程度の高次モードを持ち(川勝ほか、1994)、震源は中岳第一火口の南西深さ1から1.5kmである点(松林ほか、1995)で共通している。さらに、基本モードの波形を用いてモーメント・テンソル解を推定すると、等方震源成分と火口列に平行(北北西-南南東)な鉛直クラック成分の混合と解釈できる解を持つ。以下にこれまでに分類できている2種類の長周期微動についてその特徴をまとめる。(1)連続的な短周期微動発生が無い“静穏"期(1994年4、11月):引きで始まり、最初に短周期(2Hz程度)の振動を伴う。基本モードが卓越する場合や高次モードが優勢な場合がある。(2)土砂噴出が頻発している時期(1994年9月):押しパルスが卓越するが、小さい引きで始まる事が多い。短周期振動は伴わない。高次モードに対応する周期(5-7秒)が卓越する。爆発的な土砂の噴出の100秒程前に、超長周期の押し(膨張)の変位が生じる。この変位に伴い、長周期微動と同じ震源位置を示すパルスも発生する(松林ほか、1995)。このパルスは長周期微動(2)に類似した特徴を備えているが、多くの場合卓越する周期はより長く、長周期微動の基本モードの周期(15秒)程度である。噴出の直前には長周期微動(1)と酷似したシグナルが現れ、小さな短周期振動がはじまる。この短周期振動が30〜40秒継続した後、大きな引きの長周期パルスに伴い短周期振動の振幅が急増する。この時刻が概ね火口湖からの土砂噴出に対応する(川勝ほか、1995)。噴出開始後、超長周期変位は収縮に転じ、長周期パルスの振幅は小さくなる。収縮が止まると短周期振動も終了する。長周期微動(1)は、始まりが引きであること、および土砂噴出直前の波形に似ていることから、震源での減圧による収縮とそれに続く振動と考えるのが自然である。最初の短周期微動は水蒸気の移動など圧力解放のきっかけに対応している可能性が考えられる。長周期微動(2)は、押しが卓越すること、土砂噴出直前の膨張に伴うパルスに類似すること、から高温ガスとの接触による地下水の突発的蒸発がもたらす震源での圧力の増加に対応する可能性が考えられる。
著者
山内 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究実施計画書にしたがい、本年度も文献調査およびフィールドワークを行った。文献調査は、現代に生きる狩猟採集民、伝統的漁撈民・農耕民の先行研究に加えて都市居住者(先進国および発展途上国)を収集し、体格・栄養摂取量・身体活動量のデータを分析した。また霊長類、先史人類の考古学的研究についても、方法論の違いに注意を払いながらデータ収集、分析を行った。データ分析、とくに方法論の違うデータの比較・統合について利用可能性の高い手法について学んだ。フィールドワークは、研究計画書に記載したとおり、インドネシア共和国の都市居住者(中部ジャワ州の州都スマラン市)について、とくに子どもの肥満に焦点をあてて測定調査を行った。また、コミュニティー全体を対象とした調査としては、南太平洋ソロモン諸島の首都近郊の村居住者を対象として調査を行った。調査内容は、1)身体計測・血圧測定、2)食物摂取量調査、3)安静時代謝量測定、4)身体活動量測定であった。成果発表としては、計画書に記載した通り、国際学会(14^<th> European Congress on Obesity, Athens, Greece)で発表した。また、インドネシア共和国中部ジャワ州のDiponegoro大学において招待講演を行った。さらに日本相撲協会主催の相撲医学研究会で発表を行った。今後、国際学会発表(10^<th> International Congress on Obesity, Sydney, Australia)を予定している。発表論文(別紙参照)としては、国内高齢者の身体活動量とフィットネス、パプアニューギニア高地民の農村居住者と都市移住者の身体活動量および体格・体組成に関する比較研究をはじめとして、海外の研究者と協力してアフリカ(カメルーン)狩猟採集民、日本人大学相撲選手、中国都市部および農村部の学童、トンガ王国の思春期の少年少女について公刊した。
著者
坂井 修一 五島 正裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

次世代省電力マイクロプロセッサの実現に向けて、次のような成果を得た(主な成果のみを記す)。ベースとなるマイクロプロセッサのサイクルレベルシミュレータを、チップ・マルチ・プロセッサ方式とクラスタ型スーパスカラ方式の2種類について作成した。次に、省電力要素技術として、システムレベルにおける低消費電力化技術の研究と、低消費電力のソフト・エラー対策の研究を行った。システムレベルにおける低消費電力化の要素技術として、(1)分岐予測器を利用したホット・パス検出器の開発、(2)Signatureに基づくプログラム・フェーズ検出の改良、(3)OSのサポートによるスレッドレベル並列の動的見積もり、(4)オンチップ・バスの直列化による電力削減、(5)チップ・マルチ・プロセッサの不均質キャッシュ共有などの研究を行い、それぞれ詳細レベルシミュレーションなどによって性能と省電力の両立が示され、これらの有効性が検証された。低消費電力のソフト・エラー対策として、(1)縦横パリティーを利用したキャッシュでのソフト・エラー対策、(2)連想メモリにおけるソフト・エラー対策、(3)ソフト・エラーとプロセスばらつきの対策などの研究を行い、それぞれCADによるデザインや詳細レベルシミュレーションによって、プロセッサの低消費電力化と高信頼化が両立する技術の確立に成功した。以上を総合して、次世代プロセッサにおける省電力化・高性能化の方法論を知見としてまとめあげることができた。
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

我々は、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のサブユニットGluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingがALS患者の脊髄運動ニューロンで選択的に低下していることを明らかにした。GluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingはRNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA type 2(ADAR2)により特異的に触媒されるので、この分子変化は、ADAR2の活性低下によると考えられる。ADAR2の活性を規定する因子のひとつに総mRNA量、ADAR2 mRNA対GluR2 mRNA比が明らかにされているが、ADAR2のmRNAには多くのsplicing variantが存在することが知られており、翻訳タンパクの活性が異なることが報告されているため、variantの発現量により活性への影響が異なり、ひとつの調節機構として働いていることが考えられる。今回、RT-PCR、ノーザンブロッティングによるADAR2 mRNAの分析により、新しいsplicing variant 2種を見出し、他のvariantと共に発生段階、脳部位による発現パターンの違いの有無を検討した。新たに見出されたvariantの1つはADAR2に存在する二個の二重鎖RNA結合部位をコードするexon2のexon skippingであり、frameshiftにより下流のexonに新たなストップコドンを生じていることから、活性型タンパクに翻訳されるとは考えにくいsplicing variantである。第2のsplicing siteはexon 9に位置し、long C terminusをコードするストップコドンの83塩基下流に位置する。このsplicing variantは従来のlong C端を持つisoformに翻訳され、活性型ADAR2をコードする。この2種のvariantを加え、理論的には48種のRNA splicing variantが存在すると考えられる。とくにC端には4種のvariantがあり、long C terminus 2種のみが活性型ADAR2に翻訳され、ADAR2活性制御に主要な役割を持つと考えられる。ヒト小脳の核分画抽出物によるウェスタンブロッティングでは、long C terminusを持つメジャーバンド2種が確認できた。このことは、ADAR2は多数のmRNA splicing variantを持ちながら活性型タンパクに翻訳されるものはそのごく一部であり、splicingを通じで活性調節を行っている可能性を示している。ALSの神経細胞で、この調節機構がどのような変化を受けているかを解明することは病因の解明につながると考えられる。