著者
東 伸昭 入村 達郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

化学物質、放射線等の外界からの多様な刺激に応じて、体内では免疫細胞の脱顆粒、細胞交通の変化など様々な応答が生じる。この変化において、組織間の仕切りや顆粒内構造を形成するマトリクス分子とその複合体の性状は大きく変化すると考えられる。本研究では、細胞外マトリクス改変酵素としてのヘパラナーゼに着目し、その発現、局在と活性調節、酵素切断依存的な細胞応答の変化などについて3点に焦点を絞り検討した。1.ヘパラナーゼを検出するための抗体の調製とその性状解析疾患モデル動物のマウスに発現する内因性ヘパラナーゼ発現を検出するためのツールとして、16種類の抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体を新規に確立した。その結合様式を解明するとともに、新規sandwich ELISAの系を含む複数の検出系を確立した。2.マスト細胞におけるヘパラナーゼの発現とその機能解析結合組織型マスト細胞にヘパラナーゼが高発現することを見出した。この細胞が顆粒内に蓄積するヘパリンがヘパラナーゼによって低分子化されることを見出した。この切断の結果としてヘパリンの細胞内外での動態が変化すること、さらにマスト細胞顆粒内のエフェクター分子の活性が転写非依存的に調節される可能性を見出した。3.好中球におけるヘパラナーゼの発現とその機能解析骨髄、末梢血、末梢組織など様々な部位に分布する好中球についてヘパラナーゼの発現分布を検討した。この結果、ヘパラナーゼが多数を形成する亜集団に分化依存的に発現することを見出した。また、基底膜浸潤におけるこの酵素の寄与を示した。マトリクス分解を司る酵素を発現する亜集団、しない亜集団の存在が予想された。
著者
吉川 昌之介 牧野 壮一 笹川 千尋
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1986

近年分子生物学の進歩により病原細菌のビルレンスを支配する遺伝子を分子遺伝学的に解析し、発症の分子機構を素反応のレベルで解析し、その結果を総合的に一連の生化学的反応として理解することが可能になりつゝある。本研究は感染症の立場からのみならず、細胞侵入性、すなわち生きた菌が生きた上皮細胞(本来食作用をもたない)に侵入して増殖(一次細胞侵入性という)し、さらに隣接細胞に順次拡散(二次細胞侵入性という)していくという純生物学的にも極めて特異な発症機構を示す赤痢菌をとりあげ、その病理発生機構を分子レベルで理解しようというものである。細胞侵入性に関与する巨大プラスミドを分子遺伝学的に解析し、SalI制限酵素地図を作成し、その上の少くとも7ケ所のビルレンス関連領域を同定した。SalI断片G上には116KDの蛋白を支配するvirGシストロンが存在し、その産物の所在を決定し、それが二次細胞侵入性に必須であることを見出した。SalIーF断片上には30KDの蛋白を支配するATに富むvirFシストロンが存在し、本プラスミド上に存在する他のビルレンス関連遺伝子の発現を転写レベルでポジチブに制御している。連続したSalI4断片、BーPーHーD上には領域1から5と名づけた10数個のビルレンス関連遺伝子群があって、B端に存在するvirBシストロンは33KDの蛋白を支配し、その転写はvirFによってポジチブに調節されている。さらにvirBのコードする蛋白がipaB,ipaC,ipaDをはじめとし、領域2〜5に存在するビルレンス関連遺伝子群の転写をポジチブに調節していた。他方、染色体上に存在するビルレンス遺伝子の一つ、kcpAもクローン化し、蛋白産物を同定し、その役割を明らかにした。ミニセル法および塩基配列の決定によりこの領域には13KDの蛋白をコードする単一のシストロンkcpAが存在することが明らかになった。
著者
笹川 千尋 戸辺 亨
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

赤痢菌の感染初期段階における感染分子機構を解明することは、細菌性赤痢発症の本態を理解する上でも、またその感染を初期段階で阻止する手段を講じる上でも重要であり、本研究では、赤痢菌の細胞侵入機構と細胞侵入後の菌の細胞間感染に必要な細胞内運動機構に各々焦点を絞り研究を実施した。赤痢菌の細胞侵入機構の研究:赤痢菌の細胞への侵入には、本菌の分泌するIpaB IpaC,IpaD蛋白(Ipa蛋白)がa5blインテグリンに結合することが重要であることをすでに報告したが、この結合によりどのような細胞内シグナル伝達が活性化され最終的に菌の取り込みに必要なアクチン系細胞骨格繊維の再構成およびラッフル膜を誘導するかを解析した。その結果、(i)Ipa蛋白を休止期の細胞へ添加すると、細胞接着斑構成蛋白であるパキシリンやFAKのチロシンリン酸化とビンキュリン、a-アクチニン、F-アクチンが細胞内に凝集する。(ii)Ipa蛋白に対する当該細胞内反応はRhoにより制御されている。(iii)赤痢菌の細胞侵入に於いて出現するラッフル膜の誘導には、さらにType-III蛋白分泌装置よりVirA蛋白をはじめとする一連の分泌性蛋白が上皮細胞内へ注入されることが不可欠である。赤痢菌の細胞内・細胞間拡散機構:本現象に係わる赤痢菌のVirG蛋白と宿主蛋白、特にアクチン系細胞骨格蛋白との相互作用を解析し以下の知見を得た。(i)VirG蛋白のアクチン凝集能に必要な領域は、本蛋白の菌体表層露出領域にあり、特にN-末端側のグリシン残基に富む領域が重要である。(ii)VirGの当該領域と結合する宿主蛋白として、ビンキュリンとN-WASPが同定され、その結合はいずれも細胞内赤痢菌から誘導されるアクチンコメットの形成に不可欠である。
著者
池田 喬
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究「オントロジカルな環境内行為論-ハイデガーの<行為>概念に基づく展開と構築」の最終年度にあたる平成二一年度には、本研究の三つの主要課題である(1)初期ハイデガー研究、(2)フッサールをはじめとする現象学研究、(3)認知科学の動向調査のそれぞれについて以下のような成果を挙げた。(1)初期ハイデガー研究についてはまず、本研究計画の柱であった本国での新資料整備という目的達成に向けて、初期講義録の一冊を翻訳・出版することができた(ハイデッガー全集58巻『現象学の根本問題』虫明茂との共訳)。また、初期ハイデガー研究の成果を活かした二本の論文が公刊された。まず、『存在と時間』の発話作用や言語行為の分析がもつ哲学的含蓄をアリストテレスの「声(フォネー)」の概念との比較検討の上で明らかにした論文が「現象学年報」に掲載された。この論文は本研究の目指す環境内行為論を特に言語行為論の面から展開したものである。さらに、行為者にとっての環境世界の実在性をめぐって、『存在と時間』第一篇の道具的存在性の議論を「存在者的実在論」として提示、その妥当性をハイデガーによるアリストテレス『自然学』の解釈から跡づける論文が「哲学・科学史論叢」に掲載された。この論文は、ハイデガーの環境内行為論がもつ存在論的主張を、ドレイファスやカーマンらの先行するハイデガー実在論研究への批判的取組みの中から最大限に引き出したものである。(2)フッサールをはじめとする現象学研究については、まず、日本現象学会第三一回大会にて英語で行われたシンポジウム「今日の世界の哲学状況におけるフッサール現象学の射程(邦題)」において、Sodertorns大学(スウェーデン)教授ハンス・ルイン氏と東洋大学講師武内大氏の発表に対するコメンテーターという立場で、フッサール現象学の今日的意義について発表・討議した。この発表では、ハイデガーの環境世界との関連の深い後期フッサールの生活世界論がもちうる反自然主義としての哲学的射程を主に論じた(その内容は次号「現象学年報」に掲載される)。また、フッサールに関する国内唯一の専門的研究機関である「フッサール研究会」の年報に、初期ハイデガーが環境世界体験や事実的生経験と呼んだものと『イデーンII』におけるフッサールの環境世界論の関係を明らかにする論文が掲載される。(3)最後に、認知科学の動向調査については、S.ギャラガーとD.ザハヴィという現在最も注目されている、現象学派の「心の哲学」論者による共著(The Phenomenological Mind : an Introduction to Philosophy of Mind and Cognitive Science)の翻訳に従事した(石原孝二監訳で勁草書房から出版予定)。
著者
橋本 祐一 石川 稔 青山 洋史 杉田 和幸 小林 久芳 谷内出 友美 松本 洋太郎 三澤 隆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

タンパク質の機能や存在状態(細胞内での局在・分布や安定性・寿命)はその3次構造に依存している。したがって、特定のタンパク質の3次構造の制御は、その機能や存在状態の制御に直結する。また、特定のタンパク質の3次構造の異常に基づく多くの難治性疾患が存在する。本研究では、(1)タンパク質の3次構造を制御することによって作用を発揮する各種核内受容体リガンドの創製、(2)タンパク質の異常な3次構造に基づく細胞内局在異常を修正する化合物群の創製、ならびに(3)特定のタンパク質の生細胞内での分解を誘導する化合物群の創製、に成功するとともに、(4)関わる分子設計として共通骨格を利用する手法を提案した。
著者
鈴木 増雄 野々村 禎彦 羽田野 直道
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

我々は「量子解析」と呼ばれる新しい数学を導入した。これは演算子の演算子による微積分学である。まず、Banach空間で演算子を引数とする関数を演算子で微分することから出発する。量子解析によると、Banach空間の演算子Aについてdf(A)=(df(A))/(dA)・dA (1)としたとき、この演算子微分は(df(A))/(da′)=∫^1_0f^<(1)>(A-tδ_A)dt (2)の形で表わされる。ここで、f^<(n)2>(x)は通常の意味での関数のn階微分、またδ_Aは内部微分で、次式で定義される:δ_AQ=[A,Q]=QA-QA.強調したいのは、式(1)においてdf(A)/dAは単に演算子dAを変形する超演算子ではなく、括りだされた形でコンパクトに式(2)のように表わされている点である。演算子微分を導入する方法は何通りかある。シフト演算子S_A(B):f(A)→f(A+B)を導入すると、代数学的に定式化することができる。この方法により、演算子の関数のLaurent級数を定義することができる。他にも、補助演算子{H_j}を導入する定式化もある。これを用いると、多演算子関数f({A_j})の微分も容易に定義できる。ここで、補助場演算子は以下の3条件を満足するように定める:(i)[H_j,H_k]=0,(ii)j≠kに対して[H_j,A_k]=0,(iii)[H_j,[H_k,A_k]]=0.我々はこの量子解析を、演算子の積公式を導くのに用いた。これにはlog(e^<zA>e^<xB>…)を自由Lie代数の要素(つまり交換関係)で展開するのが必要である。量子解析からこの展開係数があらわに計算できる。また、Dynkin-Specht-Weverの定理の拡張を与えた。この定理は上のような展開係数を求めるのに従来使われてきたが、その方法と我々の新たな方法との関係を明らかにした。このような議論は時間依存するハミルトニアンの時間発展演算子にも適用することができる。更に、量子解析をBanach空間だけでなく上に有界でない演算子についても定式化した。これを用いて、久保の線形応答理論やZubarevの非平衡統計力学の理論を新たな視点から再定式化した。非平衡散逸系のエントロピー演算子を自由Lie代数の要素で表わすことに成功した。
著者
加藤 隆史
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

歯や骨などの生体内部で作り出される有機/無機複合体は温和な条件で形成する精緻な構造を有する環境適応材料と考えられる。これまでにこのバイオミネラルの形成過程に倣い、高分子の相互作用を利用して人工の有機/無機複合体の構築を行ってきた。本研究では液晶性を示す有機化合物をテンプレートに用いて、無機微粒子の結晶成長を行う事により、その配向制御を試みた。炭酸ストロンチウムはその強い負の複屈折率を有することから、光学材料の添加剤に利用されている。平成21年度は液晶性有機高分子をテンプレートに用いて炭酸ストロンチウムのナノ結晶を温和な条件下において結晶化させ、巨視的に配列した有機/無機複合体を作製することに成功した。結晶成長溶液におけるストロンチウム濃度の違いにより、得られる結晶の配向やモルホロジーが変化した。これらの薄膜は、巨視的に配向を揃えており、偏光顕微鏡観察において、ステージの回転に伴い明暗を繰り返した。テンプレートとなる液晶キチンマトリクスのキチン繊維の表面官能基の配列が薄膜結晶の成長に影響を及ぼした。透過型電子顕微鏡による電子線回折測定は、炭酸ストロンチウム結晶の(001)面、または、(110)面がキチンマトリクスの表面と相互作用していることを示した。このような配向制御の知見を生かして、層状水酸化コバルト/イオン液体複合体の構築や有機高分子マトリクスの熱架橋による炭酸カルシウム薄膜の3次元凹凸構造の形成制御を行った。
著者
三好 信哉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

水分子と固体表面の相互作用は,電気化学,不均一触媒,更には腐食問題など様々な現象と密接に関連していることから,これまでに精力的に研究が行われてきた.また近年は,表面の影響が顕著に表れるナノ空間材料を用いた水分子輸送の制御などに関しても盛んに研究が行われている.例えば次世代のエネルギー生成デバイスとして期待される固体高分子型燃料電池では,マイクロボーラス層と呼ばれる細孔径10~100nmの炭素系ナノ細孔を用いることで,電極で生成される水蒸気の輸送特性が向上することが報告されている.代表長さが数十nm程度のナノ空間においては,気体分子の衝突相手の大部分は固体表面となることから,気体-固体表面間相互作用,特に散乱挙動の理解は輸送特性の定量的な予測を行うためには必要不可欠である.そこで本研究では入射エネルギー35~130meVの水分子線を使用し,入射分子線のベクトルと表面法線ベクトルを含むin-plane面内に加え,in-plane面外,即ちout-of-planeでも散乱計測を行っている.また,吸着,表面滞在,脱離という一連のプロセスの解析をMDシミュレーションによって行っている.分子線散乱実験では散乱分子の質量流束と並進エネルギーの角度依存性を計測した結果,入射エネルギーが64,130meVの場合はin-plane面内は10bular散乱となり,out-of-planeへの散乱の広がりは小さいことが示された.一方、吸着エネルギーと比較して低い入射エネルギー(35meV)の場合,表面法線方向,及びout-of-planeへの散乱分子が増加し,拡散的な散乱挙動になることが明らかになった.MDシミュレーションによる解析では,入射エネルギー35~130meVの範囲で,大部分の分子は表面に長時間(16~18ps)滞在した後に散乱すること,表面滞在中の適応過程や散乱分子の特性が,法線,接線方向,更にはそれら二つの方向に垂直な方向ごとに異なることが示された.
著者
中屋 宗雄
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

(はじめに)我々は,ヒト鼻粘膜におけるヒスタミンH3受容体の存在を免疫組織学的にその局在を明らかにし過去に報告したが,マウスにおけるその存在は不明であった.マウスにおけるヒスタミンH3受容体の存在を確認し,その働きを検討するために研究を行った.また,鼻アレルギーマウスの過敏性を非侵襲的に他覚的に評価する方法について研究した.(方法)正常マウスおよび鼻アレルギーマウスにおけるヒスタミンH3受容体のmRNAの存在と,免疫組織学的にその局在を検討した.また,鼻アレルギーマウスにヒスタミンH3受容体刺激薬・拮抗薬の投与を行いその効果を検討した.さらに,ヒスタミンH1受容体拮抗薬とヒスタミンH3受容体刺激薬の相互作用についても検討した.また、鼻アレルギーマウスの過敏性を非侵襲的に他覚的に評価するために,Penhを使用しその評価を行った.(結果)マウスの鼻粘膜におけるヒスタミンH3受容体の存在を,PCR法により確認することができた.また,正常マウスおよび鼻アレルギーマウスのいずれにもヒスタミンH3受容体のmRNAの発現を認めた.免疫染色でも,その局在を確認できた.ヒスタミンH3受容体刺激薬投与により鼻アレルギーマウスの鼻症状(くしゃみ・鼻掻き)を有意に抑制し,有意な鼻粘膜好酸球の減少を確認できた.H3受容体拮抗薬は鼻アレルギーマウスの鼻症状を増悪させたが,有意差は認めなかった.ヒスタミンH1受容体拮抗薬とヒスタミンH3受容体刺激薬は単剤投与より,併用投与の方が有意に鼻アレルギー症状を抑制した.有意に鼻粘膜の好酸球も減少させた.鼻アレルギーマウスの過敏性変化を経時的にみたが,Penhで経時的に抗原刺激後の反応が増加することが確認でき、これらの反応増加は抗原刺激後のくしゃみ・鼻擦り回数の増加と鼻粘膜好酸球の増加と相関した。(まとめ)マウスにおいて,ヒスタミンH3受容体の存在をmRNAレベル・蛋白レベルで確認できた.また,ヒスタミンH3刺激薬は鼻アレルギーマウスの鼻症状を改善し,ヒスタミンH1拮抗薬と併用することで,単剤投与より作用の増強を確認できた.さらに,Penhを使用して鼻アレルギーの過敏性変化を非侵襲的に評価することができた.
著者
川本 隆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

教育の危機と改革が叫ばれて久しい。そこで論じられている数多くのホットな争点のうち、高等教育機関における研究活動に深く関連するものに、初等・中等教育と大学教育との《接続》がある。この問題への社会的関心を喚起したのが、中央教育審議会答申『初等中等教育と高等教育との接続の改善について』(平成11年12月16日付け)である。これと連動するかたちで申請者は、所属する日本倫理学会の大会において二年連続(平成13年および14年)のワークショップ「公民科教育と倫理学研究の《つなぎ目》」を企画・運営してきた。本研究のねらいは、中教審答申の以前から取り組まれてきた教育と研究の接続の試みを《公民科教育と倫理学研究とのアーティキュレーション》(すなわち、二つの活動の「分節化・接続・連携」)という観点から吟味し、福祉と人権をどう教えるかを軸に教育と研究のあるべき協力関係を探り当てようとするところにある。三年間にわたった研究の開始と同時に、所属部局を教育学部・教育学研究科へと移した研究代表者のポジションをフルに活用して、関連分野の研究者との交流や情報交換を深くかつ広く展開することができた。研究期間中の《アーティキュレーション》の特筆すべき成果としては、検定を通過し平成19年度より高校現場での使用が始まった公民科現代社会教科書の分担執筆および編集委員を務めた『現代倫理学事典』(弘文堂、2006年)の刊行が挙げられよう。後者は初等・中等教育の教員を主要な読者として想定している。また2004年11月よりスタートした人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「グローバル化時代における市民性の教育」(日本学術振興会)に企画段階から関与し、そのサブグループ(公共倫理の教育)の世話人を務めている。本研究とも密接な関連性を有するプロジェクトであり、それが目指す社会的提言に本研究の成果を盛り込む所存である。なお平成19年度より同じく基盤研究(C)の交付を受けて、「シティズンシップの教育と倫理(ケアと責任の再定義を軸として)」がスタートすることになった。これが本研究をさらに発展・深化させるものであることを付言しておきたい。
著者
下地 秀樹 山崎 鎮親 太田 明
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.25-44, 1992-03-30

Niklas Luhmann, der mit seiner Systemtheorie einen unubersehbare EinfluB auf verschiedene Disziplinen ausubt, beobachtet, zusammen mit Padagoge K. -E. Schorr, das Erziehungssystem aus seiner eigenartige Perspektiv. Seit 80er Jahren, angereizt durch Problemstellung Luhmanns, die Selbstthematisierung der Padagogik und Refexion auf Reflexion des Erziehungssystems impliziert, sieht sich die Padagogik gezwungen, die Uberlegungen uber die padagogische Selbstverstandnis anzustellen und die Gegenuberstellungs-oder AnschuluBpunkt gegen oder an die Systemtheorie klar zu machen. Der vorliegende Beitrag bring die Problematik zwischen Systemtheorie und Padagogik (I), uberblickt die systemtheoretische Voraussetzung des Erziehungssystems (II), disktiert dann die Reaktion der Padagogik auf das systemtheoretische Verstandnis des Erziehungssystems (III), und schlieBlich betrachtet, was Luhmanns Systemtheorie fur Theorie der Erziehung leistet (IV).
著者
伊藤 たかね 萩原 裕子 杉岡 洋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,語レベルの言語処理にかかわる心内・脳内メカニズムを明らかにすることを目的として,事象関連電位(ERP)計測の手法を用いた実験を行った。具体的には,複文の特徴を示す複雑述語(サセ使役)および,動詞の屈折を取り上げ,いずれの場合にも規則による演算処理と,レキシコン内のネットワーク的記憶という,質の異なる処理メカニズムが働いていることを示唆する結果を得た。
著者
宮岸 真
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

RNAiは非常に効果的な遺伝子抑制法であり、簡便で、効果の高い遺伝子機能の解析法として、注目を集めている。しかし、最近、siRNAによって、非特異的な抑制効果であるインターフェロン応答が励起されることが報告され、その詳細な解析が急務となっている。本研究課題では、ベクター系によって発現されるsiRNAによるインターフェロン応答の解析を行うと共に、二本鎖RNAによって誘起されるインターフェロン応答のパスウェイの解析を行った。初年度、数種類のsiRNAベクターのインターフェロン反応を、2',5'オリゴアデニレースシンセターゼ(OAS)の発現により調べたところ、どれもインターフェロン応答を起こしていないことが分かった。そこで、次に、より長い二本鎖RNAを発現するベクターを作製し、それによって生じるインターフェロン反応について解析を行った。発現系としては、tRNAプロモーターおよび、U6プロモーターを用いた2つの発現系を使用した。また、インターフェロン応答は、PKRのリン酸化、発現量をウエスタンブロッティングにより解析すると共に、OASの発現をリアルタイムPCRにより、定量することにより調べた。その結果、50、100塩基対を発現するtRNA連結型のベクターは、PKRのリン酸化、発現量、OASの発現量を増加させることから、インターフェロン応答を誘起していることが分かった。また、二本鎖RNAのセンス鎖にミューテーションを挿入することにより、このインターフェロン応答を軽減することができることが判明した。RNAiライブラリーを用いた二本鎖RNAによるアポトシスパスウェイの解析に関しては、数百のシグナルトランスダクションの遺伝子に関して、検索したところ、今回新たに、JNKからミトコンドリアに至るパスウェイおよび、MST2、PKCαからERK2に至るパスウェイが関与していることが分かった。
著者
古米 弘明 栗栖 太 片山 浩之 鯉渕 幸生 藤田 昌史 春日 郁朗 片山 浩之 鯉渕 幸生 藤田 昌史 春日 郁朗 益永 茂樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

合流式下水道雨天時越流水(CSO : Combined Sewer Overflow)に含まれる未規制リスク因子(健康関連微生物、微量化学物質)に着目し、これらが受水域に流出した場合に、どのような挙動を示すのかを評価した。雨天後の東京湾において、未規制リスク因子を含めた汚濁物質の動態をモニタリングすると共に、CSO の東京湾への負荷経路として重要な隅田川に着目して、晴天時および雨天時に24 時間の採水を行った。また、お台場周辺に特化した3 次元流動モデルの精緻化を行い、大腸菌群の挙動を解析した。
著者
藤田 護
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度には、文献調査及び予備的現地調査を実施した。これを基に、本年度はボリビアにおける長期現地調査を実施した。この現地調査においては、参与観察の手法に基づき複数の組織(NGO、ラジオ局)において活動に同伴し、これらの機関の補助的業務を自ら担いながら、民族誌的データの収集に尽力するとともに、アイマラ先住民の人々が自らをどう見ているかに関する、現地でも限られた人間しか存在を知らない未公刊の貴重なラジオドラマ資料(脚本、音声資料、視聴者のお便りなど)へのアクセスを多数得るとともに、重要関係者への聞き取り調査を実施し、また現地で公刊されたおもにアンデスの言語人類学と社会人類学に関する文献のさらなる収集作業を行った。これらはすべて日本国内ではアクセスできないデータであるため、今回の現地調査は有意義な結果を上げることができた。これらの作業と並行して、博士論文執筆のための大枠の構成・目次案を定め、研究指導教官および現地で研究上のアドバイスを受けている研究者との打ち合わせを行った。また、アイマラ語での聞き取りデータについては文字起こしを進め、正確さを期すためネイティブの話者との確認作業を継続した。本年度の調査で収集した題材を基にして、博士論文に関するコロキアムを次年度に実施する予定である。また、次年度において、日本では日本ラテンアメリカ学会(使用言語は日本語)で、また現地ではボリビアの国立民族学・民俗学博物館で開催される民族学の年次大会(使用言語はスペイン語)で、本年度の研究成果を部分的に報告することを予定している。
著者
山崎 淳
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的:物性研究所の研究室が要求する実験装置の開発を通して、工作室と研究室の設計・加工技術の共有化をはかり、独創的な実験装置開発環境の場を整備することにある。今年度主要なテーマは、非球面ミラー光学系を利用したテラヘルツ(THz)領域の光学実験装置用(反射型)の放物面ミラーの製作である。最重要課題は、サブμmの面精度を出すための切削・研磨技術の開発である。研究概要:日立精機のNC旋盤TS15を使い切削・研磨を行った。ミラーの材料は、アルミ合金A5056,ANB79を使った。切削バイトは、仕上げ用にダイヤモンドバイトを使用した。研磨用として、ローターをNC旋盤に取り付けた。研磨用バフは、アルミナの研磨剤を配合したものを使用した。放物面ミラーの半径は100mmである(軸上焦点距離101.6mm)。切削時にバイト先端部の振動、キリコが原因でスジ目を形成した。これが面精度に影響したため、切削条件の最適化を行ったところ、周速300mm/min(1μm/rev)、切り込み量50μm未満であった。また、振動を最小限に抑えるため、フォルダの突き出し部分を45mm以下(太さは25mm×25mm)とした。研磨時にヤケによりミラー面が黒くにごったので、洗油にて冷却しながら行ったところ鏡面研磨が可能となった。研磨条件は、周速100mm/min(12.5μm/rev)、ローター回転数14400回転であった。研究結果:仕上げ加工を数回行った後、半導体レーザー(550nm〜670nm)にてミラー面に照射したところ回折現象が確認された。研磨を数百回行った後同様に確認したところ回折現象は見られなかった。ビームエキスパンダーにて拡大したHe-Neレーザー光をミラーに入射、集光させたところ、ビームスポットサイズは、THz領域に十分利用可能な大きさであった。本研究でサブμmの面精度の切削・研磨技術を確立した。
著者
秋田 喜代美 小田 豊 芦田 宏 鈴木 正敏 門田 理世 野口 隆子 箕輪 潤子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は幼小移行を園文化から学校文化への移行という文化的観点から、3対象調査により検討を行った。第1は、描画と面接での短期縦断卒園前と入学後の日本と台湾の子どもの比較文化調査である。幼児の不安は仲間関係や生活全般であり、台湾が学業不安が高いのとは対照的であった。物理的差異から文化的規範の差異の認識に時間がかかることも明らかにした。第2の保護者縦断質問紙調査の日台比較からは、日本の保護者の方が基本的生活習慣・集団生活・情緒・人間関係への期待が高いことを明らにした。第3に幼小人事交流教師調査により使用語彙の相違、幼少人事交流での適応過程の相違を明らかにした。
著者
羽田野 慶子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本年度の研究業績は以下の通りである。1.身体をめぐる教育の一つである学校の運動部活動を対象としたフィールド・ワークのデータをもとに、子どものスポーツ実践とジェンダー意識の形成とのかかわりについて考察した論文を執筆し、学会で口頭発表を行うとともに、学会誌へ投稿し、査読つき論文として発表した。調査は関東地方のある公立中学校の柔道部で行なったもので、論文では、女子部員と男子部員が同様の練習に従事しつつも(活動内容におけるジェンダーの平等)、常に男女が空間的に分離される位置関係を保つ様子(活動空間におけるジェンダーの分離)や、男性優位の力関係が壊されないような練習方法が実践されている様子を記述し、子どもがスポーツ実践を通して社会におけるジェンダー関係を学び、身体化していくメカニズムとして描き出した。2.日本における身体をめぐる教育の歴史的展開過程の一環として、昭和恐慌期の東北農村娘身売り問題を取り上げ、当時の新聞記事、および新聞報道を受けて身売り防止運動を大々的に展開した愛国婦人会の活動に関する資料を収集・整理するとともに、売春に関わる女性(娼妓、芸妓、酌婦、女給等)の本籍地別、稼業地別人員統計のデータベース化を行なった。1930年代における東北農村娘身売りの社会問題化は、子どものセクシュアリティに対する教育的介入、とりわけ女子に対する純潔規範の大衆化の契機として位置づけられ、明治・大正〜昭和初期に発展した廃娼運動と、戦後における性教育の展開とをつなぐ歴史的事象といえる。以上の作業で得たデータを用いた論文については、現在執筆中である。
著者
西島 央 藤田 武志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

現行学習指導要領におけるクラブ活動の廃止、学校と地域の連携、教育の市場化といった教育改革のなかで、中学校や高校では、部活動を縮小・廃止したり、地域と連携/委譲を図ったりする動きがみられる。このことが、教師による生徒指導や進路指導、生徒の学校への関わり方や進路選択のありようといった学校のその他の教育活動場面や、生徒のスポーツ・文化活動への参入機会にどのような変化をもたらすかを明らかにすることが本研究の目的である。そのために、東京都、静岡県、新潟県を中心に、中学生、高校生を対象とする質問紙調査、並びに部活動改革に取り組む中学校における観察・インタビュー調査を行ってきた。これらの調査によって得られた主な知見は以下のとおりである。部活動に対する生徒のかまえには活動本意の志向性と人間関係本意の志向性がある。活動本意志向の生徒にとって部活動改革は望ましいが、人間関係本意志向の生徒にとっては、学校で行われる部活動でしか享受され得ない人間関係形成の場を失うことになる。学業だけではないさまざまな場面が学校には準備されていることは、学業に興味のない子どもたちにも学校に対する前向きなかまえをもたせるように働いており、部活動に積極的に関わることが学業成績や将来展望にプラスの影響を及ぼしている。部活動が、ジェンダー・サブカルチャー形成の場として機能している。スポーツ・文化活動への参入機会には、出身家庭の文化的経済的状況や地域性によって差があるが、その格差は、学校で部活動が組織されていることによって縮減されている。部活動の地域との連携や移行という取り組みは、第一に、指導者の外部化によって活動が競技志向に傾くと同時に、顧問教師の関与が下がるため、生徒指導の機会が縮小する。第二に、かえって地域社会や保護者の学校への期待が明確化し、その役割や責任が強調されるという矛盾した結果を生み出している。
著者
川口 大地
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

脊椎動物の大脳発生におけるニューロン産生期には、すべての未分化な神経系前駆細胞が一斉にニューロンに分化するのではなく、ある決まった割合で一部の神経系前駆細胞が選択されてニューロンに分化する。この選択メカニズムとしては非対称分裂が主に考えられてきた。しかし、本研究の前年度までの結果から、この選択にNotch-Delta経路による側方抑制機構が貢献していることがin vitro、in vivoにおけるDll1の過剰発現の実験により示唆されていた。本年度は、Dll1コンディショナルノックアウトマウス(Dll1cKOマウス)を用いた解析を中心に行った。Dll1のニューロン分化選択における必要性を検討した結果、Dll1を少数の神経系前駆細胞でのみKOするとDll1KO細胞は未分化性が維持されたが、殆どすべての神経系前駆細胞でDll1をKOした場合はニューロン分化が亢進する結果が得られた。さらに、Dll1をすべての神経系前駆細胞でKOしたマウス大脳皮質においてニューロン前駆細胞として知られるBasal前駆細胞が一過的に増加することがわかった。この結果は、ニューロン分化が亢進してBasal前駆細胞が増加したが、過剰なニューロン分化亢進により神経系前駆細胞が枯渇して最終的にはBasal前駆細胞の数が減少したことを示唆している。以上の結果は、神経系前駆細胞間におけるDll1の発現量の違いが分化運命選択に寄与している事を示唆しており、側方抑制機構が働いている事が支持された。これまでの結果からDll1の発現細胞はニューロン分化が促進することを示したが、Dll1の発現が細胞増殖や細胞死に与える影響についても検討した。Dll1を過剰発現した細胞が一定の培養期間でどの程度増えたのかを数えた結果、コントロールのDll1を過剰発現していない細胞との差はみられなかった。また、細胞死に関しても核の凝集からその数を調べたが、コントロールと差はみられなかった。従って、Dll1発現は神経系前駆細胞の細胞死や増殖には影響を与えずにニューロン分化を促進することが明らかとなった。