著者
丹治 愛
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.ガブラー版『ユリシーズ』の第4挿話(「カリュプソー」)から第6挿話(「ハーデス」)までを、河出書房版を参考にしながら実際に日本語になおし、かつ、それぞれの挿話についてこれまで独自に収集したデータのなかから、読解上とくに重要と思われるものを選び、それを注釈として添付した。2.第7挿話(「アイオロス」)および第9挿話(「スキュレーとカリュブディス」)については、各種の参考書を読みながら、そのつど日本語訳に役立つと思われる情報をデータベースのかたちで保存した。3.第11挿話(「セイレーン」)については、日本語訳の作業と注釈づけの作業を同時に進めているところである。いろいろな作業行程をこころみることによって、以後の作業にとっていちばん効率のよいかたちを模索したいと思う。4.たしかにガブラー版はそれまでのどの版よりもテクストとしての妥当性を主張しうる版であろう。しかしながら、ジョン・キッドの「ユリシーズのスキャンダル」という論文以後、その妥当性はかなり揺らいでいると見なければならない。たとえ反ガブラー派の批評家たちが問題にする箇所のほとんどーあえて97%以上と言っておこうーが、コンマかセミコロンか、あるいは大文字か小文字かといった、日本語になおした場合にはほとんど表面に浮かびあがってこない細部であるにしても、残る3%のなかにはわれわれにとってもひじょうに重要と思われる論点がふくまれている。そのようななかでわれわれにとって重要なのは、いずれの版も絶対化することとなく、テクストの妥当性を相対的に判断していく態度であろう。
著者
長尾 敬介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々が立ち上げた国内唯一のI-Xe 年代測定装置を用いて、太陽系初期の惑星形成史を解明するため、非平衡コンドライトや太陽風を含む角礫岩質コンドライトの年代を調べた。この結果、多くのコンドライトが炭素質コンドライトより2000-5000 万年後にリセットされたことを示しており、この間に母天体で水質変質などの変成作用が継続したことが分かって来た。また、中性子照射されたこれら試料に含まれる微量ハロゲンの定量も可能になってきた。
著者
橋場 弦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.まず第1の課題として、古代ギリシア人の公共圏と民主政コードの歴史的形成を跡づける証拠を、碑文史料および古典史料の解読を通じて収集し、民主政コード全体の構造を把握することに努めた。その結果として、アテナイにおける民主政コードとは、近代的憲法とは異なり、首尾一貫した体系を持つものではなく、歴史的に形成された社会的諸規範、文化コードの複雑な連合体であることが判明した。いわば民主政とはアテナイ人にとって制度というよりは伝統文化であり、生活様式に他ならなかった。2.第2に、特に古典期のアテナイ社会において,常設された警察権力なしにどのようにして市民たちが日常の社会的紛争解決を実現していたかを,おもに前4世紀の法廷弁論に描かれた公私の紛争事件を素材として探究し,そこに超越的権力の介在なしに働いていた市民的公共性の理念を読み取ることに努めた。その結果として、市民同士の紛争解決にあたっては、当事者の親族友人、あるいは地縁共同体を同じくするメンバーが司法的な援助を行うのみならず、純粋に善意の第三者といってよい「通りすがりの人々(hoi parontes)」が不正を見かけた場合に、市民の公的な立場から助勢を申し出ることも重要であることが分かった。3,以上の考察から、アテナイ民主政の公共圏は、親族・友人・同年齢集団・同区民・フラトリアなどの中間団体を構成要素として多重的な構造を備えており、また各市民は、時にはそれぞれの帰属集団の利害を超えた公共心から行動することが期待されていたと結論できる。
著者
福島 康記 菊間 満 有永 明人 加藤 衛拡 赤羽 武 永田 信
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

林野所有権の特徴は、耕地のそれのロ-マ法的な単一絶対的性格に対して、過渡的性格を広く残しているところにある。地租改正・林野官民有区分とその後の林野政策において大面積の入会地の国公有化を図り、そのことが、各地に複雑な過渡的所有を生んでいったのである。国有林野においても、様々な地元利用の制度化にみられるように、部分的な利用権を認めたうえではじめて成立する所有権でしかなかった。山梨県有林もその例であり、入会団体の保護義務の代償に産物・土地売り払い代金と土地利用代金の一部交付など、現代に至るまで地元関係を存続させている。最近の共有地の観光開発に関して、開発の形態や利益の地元保留など所有形態が一定の影響を与えている。現代経済体制は資本がすべてに優越し、林野的土地問題は一国の資源・土地問題の一環に組み込まれているのだが、林業内部の矛盾は林野的所有の資本に対する優位として現れ、小規模所有者にあっては林業放棄を、大規模所有者にあっては伐採規模縮小と伐採の間断化をもたらしたが、そのことが素析生産に重くのしかかり、業者数の著しい減少が見られる。農家の林業について、農山村畑作地帯の複合経営農家において、間伐期を迎えて間伐木の自家生産が収益を生むようになり林業への積極性が生まれ、林業が農林家の再生産の安定的契機になろうとしている地域がある。諸外国においても、環境保護対策やレクリエ-ション需要の高まりに対応するため、森林所有権に対する制限が課せられる趨勢にある。アメリカ合衆国のいくつかの州において林業施業に対する制限が強化され、ドイツにおいて連邦森林法が制定されて、森林を国民休養の場として利用する休養林と入林権の規定が設けられた。
著者
細谷 幸子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、西洋近代医療の一端を担う看護職をめぐる諸状況の分析から、イスラーム社会における西洋近代医療と宗教の関係性の理解を促すことにある。西洋近代医療においては、治療・看護を目的として、患者身体への直接的介入がおこなわれる。しかし、イスラームが異性身体への関わりを禁止行為とし、人間の排泄物等に触れることを不浄をしているがゆえに、イスラーム社会に住む人々は、西洋近代医療を受容しながらも、身体をめぐるさまざまな倫理的問題に直面せざるを得ない状況に置かれている。本研究では、イラン・イスラーム共和国をフィールドとし、患者身体への直接的な接触(ボディ・ケア)を主業務とする看護職に注目する。民族誌的手法による総合的アプローチをとることで、イスラーム社会における西洋近代医療と宗教の動態的関係性を捉えようとする。平成15年度の研究実績は、以下の通りである。平成15年4月から6月までは、日本国内で、これまでの現地調査で得た資料の整理・分析と、文献研究をおこなった。その後、平成15年7月には、ロンドンにおいて、イギリス在住イラン人慈善家たちの活動と、イラン国内の病院や介護施設における看護・介護実践との関連性について調査をおこなった。平成15年10月から12月には、イラン・イスラーム共和国、テヘランを拠点として、これまでの調査・研究で不足していた情報の収集と、インタビューのテープ起こしをおこなった。平成16年1月から3月には、日本国内で文献研究をおこなうと同時に、イランの看護、介護と医療をテーマとして、看護専門雑誌で連載を受け持ち、小論を発表した。(研究発表の欄を参照)
著者
堀田 昌英
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,国際インフラストラクチャ整備におけるコンフリクト管理手法の構築を目的としている.本年度は,前年度に開発した集団支援システムを国際援助機関が直面している被援助国の利害調整に応用するため,本システムのプロトタイプの機能拡張を行った.実際に国際的なインフラストラクチャ整備をめぐるコンフリクト管理を担っている機関との協力関係を構築した.はじめに,本研究で開発した集団支援システムの適用可能性を検討するにあたり,前年度行った事例調査の結果を踏まえ,資源配分の利害調整に特化した情報共有システムの作成を行った.具体的には,スマトラ沖地震による津波で被災したタイ南部を対象に,救援物資・生活支援物資の配分の最適化モデルを構築した.現地の救済機関にこのシステムを実際に使用してもらい,実際の資源配分問題における有用性に対する評価が得られたとともに,汎用化に向けて改善すべき点が提示された.この結果を基に,社会基盤整備事業における交渉の関係国及び仲裁・調停機関が情報共有媒体として本システムを活用することを考慮し,前年度に作成した集団支援システムのプロトタイプの改良及び機能拡張を行った.具体的には,ジオコーディング精度の向上,議論内容に含まれる地点情報に基づき論点を地図上の該当位置に対応させる機能の付与である.今回のシステム改良により,主要な論点の空間的な分布と相互関係が視覚的に把握できるようになり,地理的文脈の強い国際コンフリクトへの活用に適したシステムとなった.また次年度より,本研究で開発した集団支援システムは国際協力機構と協力の上,バングラデシュ国パドマ橋建設事業及びインド国幹線貨物鉄道事業において環境社会配慮施策の策定支援に実際に用いられることが決定した.本研究を通じて,多国間の利害調整に貢献し得る問題構造化技術を提示し,新たなコンフリクト管理手法の枠組みを構築することができた.
著者
山口 猛央 高羽 洋允 酒井 康行 中尾 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

生体膜ではイオンゲートが存在し、イオンシグナルが来たときにだけ細孔を開閉する。情報伝達シグナルにより細胞内外の特定イオンや物質の濃度を調節することが可能である。人工膜中にセンサー(包接ホスト)やアクチュエーター(環境応答ゲル)を組み合わせ、シグナルを認識したときにだけ細孔を高速に開閉する分子認識イオンゲート膜の開発に成功している。この膜はカリウムなど特定イオンが来たときにだけポリマー鎖が細孔内で膨潤し細孔を閉じる機能を有する。本研究では、この情報シグナル認識機能を人工代謝機能へと応用した新規なハイブリッド型人工臓器を提案する。情報認識膜の表面に細胞を成長させる。細胞の一部が死滅すると全体の細胞へ悪影響を与え(生体では炎症など)、機能を維持できない。多くの細胞はカリウムポンプにより細胞内でカリウム濃度が高い状態を維持している。通常、細胞内部でのカリウムイオン濃度は4000ppmであり、血漿中の濃度は200ppmである。細胞が死滅すると細胞膜が破壊されカリウムイオンが外部へ流れ出す。膜がこの情報物質を認識し死滅細胞近辺だけポリマー鎖が膨潤し親水化すると、死滅細胞近辺の細胞が表面から剥がれる。さらに膜細孔も閉じ細胞質は透過側へは流れでない。拡散によりカリウムイオン濃度が低下するとポリマー鎖は収縮し、初めの状態と同じように細胞が増殖し細胞組織を再構成する。これを繰り返すことにより、常に組織は新しい細胞と代謝され、長期間機能を維持する。生体においては、食細胞などにより細胞が消化され代謝が促進されているが、ここでは人工膜界面が細胞死の情報を認識し代謝する役割を担う。死細胞から放出されたカリウムイオンを膜が認識し、死細胞を選択的に系から除去できることを確認した。さらに、炎症性物資をも除去することにより、このシステムでは素早く細胞が復元されることも確認した。
著者
樋口 広芳 仁平 義明 石田 健 加藤 和弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究ではまず,都市におけるカラスと人間生活との摩擦の現状について広く調査した.その結果,ゴミの食い散らかし,人への襲撃,高圧鉄塔への営巣による停電,列車や航空機との衝突など,さまざまな種類の摩擦が生じていることが明らかになった.次に,そうした個々の摩擦の事例について,発生の状況や仕組をいろいろな情報収集と野外観察から明らかにした.ゴミの食い散らかしは,カラスが食物として好む生ゴミが手に入りやすい地域を中心に発生していた.具体的には,プラスチック製のゴミ袋に入れられて路上に放置される地域,とくにその状態が朝の遅い時間まで続くところで頻発していた.生ゴミが大量に出され,カラスの食物になることは,カラスの個体数を増加させる根本原因になっており,それがカラスと人間生活とのさまざまな摩擦の発生につながっていることが示唆された.人への襲撃については,5月から6月に集中し,カラスの巣の付近で発生すること,親鳥が巣やヒナを防衛するための行動であることなどが明らかになった.襲撃は人の背後から飛んできて行なわれ,後頭部を足で蹴るという例が多かった.蹴られることによって頭から出血する例もあるが,大部分は大きな怪我には至らない.高圧鉄塔への営巣による停電は,絶縁上必要な距離を保っている,電線と鉄塔の接地部分の間にカラスが造巣したり,はさまったりすることによって発生していた.関東地方では,カラスによる停電事故が毎年40〜50件起きている.列車や航空機との衝突は,時速数100キロの速度で走ってくる新幹線や航空機を鳥がよけきれずに発生していた.空港では,空港が漁港,河口,ゴミの大規模処分場などの付近につくられている場合に衝突が多発していた.そうした場所にカラスなどが数多く生息しているからである.
著者
曽根 悟 笠井 啓一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1960年代末以降民鉄各社は相次いで電力回生ブレーキを用いた車両を導入し、現在ではJRを含めて新造車のほとんどが回生車となっている。この変化に合わせて、饋電システムの設計・回生車の制御を見直したのが本研究で内容的に直流饋電システムと交流饋電システムとに分けて記述する。1.直流饋電システムの回生車運転線区向け設計・制御回生失効確率を減らすための有効な方策として、変電所無負荷送出電圧の低減または電車線許容最高電圧の増加、変電所の電圧変動率の低減または定電圧制御、饋電線抵抗の低減を明らかにした。回生余剰エネルギーの吸収設備として変電所等へのインバータ・抵抗・蓄積装置等の導入は、これらの設備が有効に活用できる条件が複雑で、必ずしも一般性がないことも明らかにした。2.回生車を導入する線区向けの交流饋電システムのあり方直流饋電システムは原則として全部並列饋電されるので停電はないが、交流では横流防止、保護上の観点から単独饋電となり、異電源セクションで停電することが多い。この場合回生車のセクション通過を可能とするために、多くの可能性の中から、以下の方式有望なものとして選定し、開発を進めた。セクション制御方式としては(1)微小並列切替え方式、(2)瞬時切替方式、(3)微小時間切替方式、(4)抵抗セクション方式、これらに対応する車両の制御としては、(5)、(1)〜(3)に対応する架線側PWM制御変換回路の主変圧器偏磁防止機能付制御、(6)(4)に対応する自励回生電圧位相制御3.PWM制御交流回生車のビート・トルクリプル抑制制御将来の交流回生車の主流となる標記の方式の実用上の最大の妨げである、複変換器間干渉を除去し、トルクリプルを低減する制御方式を開発した。
著者
林 幹治 坂 翁介 北村 泰一 湯元 清文 田中 義人 國分 征 山本 達人
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(A)
巻号頁・発行日
1990

グローバル地球変動磁場観測システムの開発を行なった。リングコアーによるフラックスゲート磁力計に組み合せるディジタルデータロガーのタイプ、設置地域の違いによる次の3タイプがある;モデルA(オーロラ帯など高緯度用、委託観測による1カ月週間毎のテープ交換)、モデルC(中緯度を中心とした日本周辺用、委託観測による3週間毎のテープ交換)、モデルE(赤道地域でのデータ取得のために半無人記録装置、一部フラッシュメモリーカードの導入)。記録感度とサンプリングレイトはA、C、Eモデル各々について、125pT-1Hz,50pT-1Hz,7.5pT-3秒とした。開発の仕上げとして、各地でのフィールド観測を実施した。想定した問題が実地観測では予想以上の複雑さで現れた。電源関係(停電対策,蓄電池充電,データ取得の停止と再開),機器温度環境(過剰対応),機器の操作ミス(合理的な操作性)など,各モデルとも,半年以上の期間に渡り,問題への対応を現地との連携で(主にプログラムROMの改良交換)進めた結果,不可抗力と思われる(落電,盗難,重機器による地下埋設部の破損)を除けば,安定にデータが取得することのできる水準に達した。遠隔地データ取得の将来を目指した実験として,静止衛星(ひまわり)を利用して北海道(女満別)よりの磁場データの取得実験を開始した(郵政省通信総合研究所,運輸省気象庁地磁気観測所の関係者の協力を得る)。観測データは,貴重な高時間分解能データとして超高層物理研究に各分担者が利用するとともに一部は学術情報ネットワーク上に公開され,国内外の研究者の利用に供されている。
著者
森村 道美 木内 望 高見沢 実
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、「地区別計画」と「住宅マスタープラン」の策定状況に関して、東京都23区の担当者にアンケートとヒアリングを行った。「住宅マスタープラン」については、参加したコンサルタントにも行った。アンケートの内容は、(1)プラン策定のプロセス、(2)プランの自己評価、(3)より展開すべき視点、(4)プラン運用上の問題点、等である。23区は、計画に係わる諸条件がそれぞれ異なることから、同一の尺度で比較することは難しいが、結果から次のことが判った。(住宅マスタープランについて)-I・II章i)1区を除いた22区が、'93年末までに、極めて短期間で策定を終了している。ii)プランの策定作業の出発点、あるいは途中の段階で、すべての区で住宅に係わる専管組織(5〜10名)を発足させている。iii)策定されたプランについては、区もコンサルタントも一応の出来と自己評価しているものが多いが、住宅市街地像・地区別住宅像の明確化、用途地域などの都市計画との関係については、今後の課題としている指摘も多い。iv)プランの運用を評価するための委員会や審議会等の常置組織を持っている区は3区(予定を含めると6区)しかなく、プランの運用はひとえに担当部局の力量に掛かっている。(地区別計画について)-III・IV章v)研究を開始した'92年(平成4年)6月に都市計画法が改正され、都市計画マスタープランの一環として「地区別構想」の策定が義務づけられることとなった。vi)23区の殆どすべてが、法改正以前に、企画部がとりまとめる「総合計画」や、都市計画部がとりまとめる「まちづくり方針」等の中で「地区別計画」を検討していた。vii)「総合計画」と「まちづくり方針」との調整には、各区がさまざまな工夫を行っている。V・VIは、都市計画マスタープランに関して、(社)日本都市計画学会(市町村の都市計画マスタープラン研究小委員会、研究代表者が主査)でとりまとめたものである。
著者
金子 隆之 安田 敦 青木 陽介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

東アジアにおける噴火監視と噴火研究の基礎となる活動データの大規模収集を行うために,MODISとMTSATデータを利用した「複数の衛星を利用した準リアルタイム東アジア火山観測システム」の構築を行い,主要147活火山の常時監視を行った.これらのデータの解析結果に関して,ウェッブサイトを通じて広く公開すると共に,より詳しい噴火状況を知るため,高分解能衛星データや地上観測データを組合せて,統合的解析を試みた.
著者
前川 宏一 東畑 郁生 石田 哲也 内村 太郎 牧 剛史 半井 健一郎 龍岡 文夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

(1)土粒子間の連結空隙構造をセメント系複合材料の微細空隙構造モデルに導入し,物質平衡-移動-反応-変形解析に関する数値プラットフォームを開発し,拡張熱力学連成解析を土粒子間隙水の圧力と変形にまで連結させて,地震時の構造-地盤液状化解析と,構造中のコンクリートの過渡的な変性を追跡する多階層連結解析コードを完成させた。(2)コンクリートおよび地盤材料の水分保持能力の温度履歴依存性を実証し,過渡応答時の水分平衡モデルの精度を向上させた。大径空隙でブロックされる水分が高温時に急速に開放される状況が解明され,従来の定説を大きく変える契機を得た。セメント硬化体からのカルシウム溶出と自然地盤における吸着平衡モデルを,水和反応の過渡的状態に対して拡張した。(3)水和生成ゲルおよびキャピラリー細孔内の水分状態からセメント硬化体の巨視的な時間依存変形を予測するモデルを完成させ,分子動力学を適用し温度依存性に関するモデル化の高度化を図った。(4)鋼材腐食生成ゲルと周辺コンクリートのひび割れ進展,さらにゲルのひび割れへの浸入を考慮することにより,様々な条件下でのかぶり部コンクリートの寿命推定を可能にした。(5)飽和及び不飽和地盤中にRC群杭を設置した動的実験を実施し,初期振動状態から一気に液状化する厳しい非線形領域での杭と地盤の応答を詳細に分析した。土粒子構成則と多方向固定ひび割れモデルの結合で,地中埋設構造応答をほぼ正確に解析できることを示した。(7)非線形時間依存変形の進行モデルを弾塑性破壊型構成則の一般化で達成し,時間成分を取り除いた繰返し作用の影響度を、数値解析連動型実験から抽出することに成功した。ひび割れ面での応力伝達機構の疲労特性を気中・水中で実施し,高サイクル疲労に対応可能な一般化モデルを構築し,直接積分型高サイクル疲労破壊解析を実現した。
著者
井上 直彦 平山 宗宏 埴原 和郎 井上 昌一 伊藤 学而 足立 己幸
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

昭和60年度より3年間にわたる研究を通じて, 人類の食生活と咀嚼器官の退化に関する, 現代人および古人骨についての膨大な資料を蓄積した. これらについての一次データと基礎統計については7冊の資料集としてまとめた. ここでは3年間にわたる研究結果の概要を示すが, 収集した資料の量が多いため, 今後さらに解析作業を継続し, より高次の, 詳細な結論に到達したい. 現在までに得られた主な結論は次の通りである.1.咀嚼杆能量は節電位の積分値として表現することが可能であり, 一般集団の調査のための実用的な方法として活用することができる.2.一般集団におけるスクリーニングに際しては, チューインガム法による咀嚼能力の測定が可能であり, そのための実用的な手法を開発した.3.沖縄県宮古地方で7地区の食料品の流通調査を行ったところ, この地方では現在食生活の都市化がきわめて急速に進行しつつあり, すでに全島にわたる均一化が進んでいることが知られた.4.個人群の解析により, 繊維性食品の摂取や咀嚼杆能量が咀嚼器官の退化と発達の低下に重大な影響を与えていることが確認された.5.地区世代別の群についての解析では, 骨格型要因, 咀嚼杆能量, 偏食, 繊維性食品, 流し込み食事などが咀嚼器官の発達の低下に強く関連していることが知られた.6.古人骨の調査では, 北海道, サハリンなどに抜歯風習があったことが知られた. このことと関連して, 古人骨調査が咀嚼器官の退化や歯科疾患の研究のみではなく, 文化と形質との相互関係を知るためにも有効であることが知られた.7.今後の方向として時代的, 民族学的研究, 臨床的, 保健学的研究, 文化と形質の相互関係などが示唆された.
著者
土屋 昌弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

将来の高速・高密度光記録用の光源として500nm以下の波長領域で十分な強度を発することのできる素子の模索が行われている。この方法には主として二つの流れがある。一方は禁制帯幅の大きな半導体材料を半導体レーザ構造に用いる方法で、他方は比較的短波長・高出力の半導体レーザと非線形光学結晶とを組み合わせた2次高調波発生(SHG)による方法である。前者はコンパクトで実装等には従来技術との整合性が良いが、半導体材料そのものによって到達可能な波長領域が制限される。後者は系がやや複雑になるものの、半導体よりは困難さの少ない非線形結晶さえあれば、前者の方法で到達した波長の少なくとも2分の1の波長領域まで到達できる。このような観点から、半導体レーザと非線形光学結晶の組み合わせは究極の短波長光源と成り得る。この考え方に対して、従来は非線形結晶の高性能化に重きが置かれた研究が主流であったが、筆者等は半導体レーザの駆動方法に改善の余地があることを見い出しその改善により「半導体レーザ+非線形結晶」からなる複合系の最適化を検討した。本年度は、SHG効率が基本波のパワーに比例することに着目し、励起光源である半導体レーザをパルス駆動させ、光パワーの2乗の平均値が最大となる動作モードを模索した。実験的には、(1)市販の690nmInAlGaP系半導体レーザを利得スイッチ法により駆動し約50psのパルス発生が500MHz繰り返し周波数で可能であることを見い出し、(2)それによって生ずるスペクトル広がりがSHG効率の劣化を招くことを指摘し、(3)その問題点に対して、レーザからの出力光の一部を回折格子により波長を選択しそれをレーザ自体に戻すことにより次のパルスの種としてスペクトルの狭窄化を図るセルフシ-ディング法を適用することによって、スペクトル半値幅を0.12nm以下とすることに成功した。このスペクトル幅は高効率のSHG素子または材料の波長幅と比較しても十分に狭く、簡単な理論的な予測によれば従来のCW光源に対して20培の効率向上が期待できる。
著者
大森 房吉
出版者
東京大学
雑誌
震災豫防調査會報告
巻号頁・発行日
vol.54, pp.116-124, 1906-03-09
著者
柳田 勉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニュートリノの小さな質量を説明するSeesaw機構によれば、その小さい質量は非常に重いMajoranaニュートリノが存在することを予言する。この重いニュートリノは宇宙の温度がその質量より高ければ大量に生成される。その後、宇宙が膨張し、重いニュートリノの質量より宇宙の温度が下がってくると重いニュートリノの崩壊が始まる。ここで重要なのはMajorana型の質量がレプトン数を破る点である。このために、重いニュートリノはレプトンへの崩壊と反レプトンへの崩壊が可能になる。CPが破れていればレプトンへの崩壊率と反レプトンへの崩壊率は互いに異なる。つまり、この崩壊によりネットなレプトン数が生成される。この生成されたレプトン数はKRS効果によりバリオン数に変換される。このようにして、宇宙のバリオン数が生成される。本研究では、この機構と観測されたニュートリノの質量が矛盾しないことを示した。宇宙のバリオン数の生成を考える上で宇宙のインフレーション後の再加熱過程の考察は不可欠である。本研究の最終年度では、インフラトンの崩壊を超対称性重力理論の枠内で考察した。超対称性が破れると重力子の相棒のグラビチーノが質量を持つ。その質量は超対称性の破れをクォークやレプトンの世界に伝える方法によって異なり、現在のところ未知のパラメターである。上記のバリオン数生成機構はこの超対称性の破れを伝える機構に重要な制限を与える。本研究では、宇宙のバリオン数と矛盾しない超対称性の破れを伝える機構として、Gauge mediationとAnomaly mediationが選ばれることを示した。この結果は来年度から始まるLHC実験により検証されると期待できる。
著者
岡山 博人 佐方 功幸 石見 幸男 白髭 克彦 大矢 禎一 石見 幸夫
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

当研究の主たる課題であり、発癌の根底機構をなす足場依存性・非依存性細胞周期機構の解明に向けて研究を推進し、重要な進展を得た。特に、足場消失に伴い、染色体DNAの複製開始に必須なCdc6タンパクの発現が転写停止とタンパクの分解促進によって遮断されること、このタンパク分解に、少なくとも2種類のユビキチンリガーゼと1種類のカテプシン様システインプロテアーゼが関わっていること、その一つはG1期で作用することが示されているCdh1-APであり、その働きに癌抑制因子p53が必要であること、更にこれらの系によるCdc6タンパクの分解制御にTsc-Rhebシグナル伝達経路が深く関わっていることを見出した。一方、G1期サイクリン依存性キナーゼのなかでCdk6/サイクリンD3の複合体が、阻害タンパクの影響を受けないこと、その結果、増殖刺激が無い状態で細胞の増殖促進効果を発揮し化学発癌に対する細胞の感受性を著しく引き上げること、更に、骨細胞分化を負に抑制することを明らかにした。他方、細胞周期チェックポイント制御に関して、以下の知見を得た。Myt1キナーゼはCdc2の抑制的キナーゼであり、ツメガエル卵の減数分裂においては、Mos/MAPK下流のp90rskキナーゼがMyt1と結合し、その活性を阻害している。また、体細胞周期においてPolo様キナーゼPlx1がMyt1と結合しリン酸化することによってその活性を阻害することを見出した。更に、様々な基質中の二重にリン酸化されたDSGモチーフ(DpSGFXpS)を認識するSCFb-TrCPユビキチンリガーゼが、ツメガエルおよびヒトのCdc25Aにある新規な非リン酸化型DDGモチーフ(DDGFXD)を認識し、分解に導くことを見出した。
著者
樋渡 雅人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、ウズベキスタンにおける地縁共同体(マハッラ)を題材に、社会ネットワーク分析(Social Network Analysis)手法を用いて、調査地のコミュニティ内の社会ネットワークの重層構造を、図示的、定量的に析出しつつ、コミュニティの内部構造に即した開発政策を検討することである。本年度は、現地における調査活動を本格化し、本研究の中核となるデータを収集した。本年度前半は、日本においてこれまでの研究成果の発表や既存データの分析を行ったが、10,11月には、ウズベキスタンのホレズム州のマハッラにおいて、昨年度以降、準備を進めてきた家計調査及び世帯間ネットワーク調査を実施した。230世帯の一集落(エラット)全体をカバーする全数調査を、現地の教師や大学生、20人近くの協力を得て行った。今回の調査の特徴は、各世帯個別の家計調査と併せて、世帯間の関係性を分析するためのネットワーク・データを体系的に収集した点にある。ネットワーク・データのクロス・チェックは予想以上に手間のかかる作業であったが、調査地の住民、とくに教師の方々の多大な協力を得て、質の高いデータの収集を完遂することができた。帰国後は、データの入力作業を進めるとともに、以前に収集したアンディジャン州のマハッラのデータとの比較などを進めている。なお、報告者の就職のため、特別研究員としての本研究は、最終年度を残して打ち切られることになったが、今回収集したデータの解析は今後進めてゆく。
著者
横山 伊徳 中野 等 箱石 大 杉本 史子 高野 信治 吉田 昌彦 井上 敏幸 井上 敏幸 梶原 良則 小宮 木代良 杉本 史子 高野 信治 宮崎 修多 吉田 昌彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

天領豊後日田の広瀬家に伝わる未整理の史料群(大分県日田市・広瀬資料館所蔵「広瀬先賢文庫」)について文書構造を検討して目録を作成し、研究・教育に活用可能な状況を創り出した。また、同史料に基づく共同研究を実施し、近世後期から幕末維新期にかけての広瀬家を中心とする地域ネットワークの実態を、政治情報・経済情報・思想言説という、三つの視角から究明し、報告書にまとめた。