著者
平田 直 長谷川 昭 笠原 稔 金澤 敏彦 鷺谷 威 山中 浩明
出版者
東京大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2004

1.臨時地震観測による余震活動調査震源域およびその周辺に、約100点の臨時地震観測点を設置して余震観測を行った。対象地域の速度構造が複雑であることを考慮し、余震が多く発生している地域では、平均観測点間隔を5km程度、震源域から遠い領域では、それよりも観測点間隔を大きくした。この余震観測により、余震の精密な空間分布、余震発生の時間変化、余震の発震機構解などが求められた。余震は、本震、最大余震、10月27日の余震の3つの震源断層の少なくとも3つの震源断層周辺域とその他の領域で発生していることが分かった。3次元速度構造と余震分布との関係が明らかになった。本震の震源断層は、高速度領域と低速度領域の境界部に位置していることが明らかになった。余震分布は、時間の経過とともに、余震域の北部と南部に集中した。27日のM6.1の余震の直前には、この余震に対する前震は観測されなかった。2.GPSを用いた地殻変動調査震源域にGPS観測点を10点程度設置し、正確な地殻変動を調査した。本震の余効変動が観測された。内陸地震の発生機構に関する基本的データを蓄積した。3.地質調査による活断層調査震源域およびその周辺において、地質調査を行い、地震に伴う地形の変化、また活構造の詳細な調査を行った。4.強震動観測による地殻及び基盤構造の調査強震動生成の機構解明のために、本震震央付近で大加速度を記録した点周辺に10台程度の強震計を設置し、余震の強震動を観測した。余震の強震動記録から、地殻及び基盤構造を推定し、強震動が発生した機構を明らかにした。
著者
二宮 敏行 深道 和明 竹内 伸 増本 健 新宮 秀夫 小川 泰
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

クエイサイクリスタル(準結晶)は,從来の結晶学では存在しないとされていた対称性を持ち,1984年の発見以来,急速に発展しつつある新しい個体研究の分野である. 昭和63年度から重点領域研究「準結晶の構造と物性」が発足することを考慮し,本研究班の研究会は,広く準結晶に興味を持ち研究を進めている人人を含めて,62年11月に開催された.本年度の主な成果は次の通りである.1.準結晶構造の幾何学準結晶構造については,これまで主として,5回対称,20面体対称についての議論が多かったが,8回対称,24面体対称についての具体的モデルなどが提出された. これは,最近中国で実験的に見出された構造(NiーCr系)と対応するもので,準結晶の物理の具体的な広がりをもたらすものである.2.電子状態一次元系について,電子波束の伝播の様子の特異性などが調べられた. これは,重点領域研究で予定されている一次元準周期超格子中の電子の振舞についての実験に示唆を与えるものである. 一次元系の電子状態の理論的扱いに,新しくLie代数の方法などが提出された. また,二次元系についても,あるタイプの厳密解や,電気伝導などが調べられた.3.試料作成,物性準結晶に予想される特異な物性を実験的に観測するためには,良い試料を得ることが必須である. 普通の冷却法で作られ,融点直下での焼鈍に安定な準結晶Al_<65> Cu_<20> Fe_<15>が見出された. この試料は単相で0.2mmの大きさに達しており,成長機構の解明や物性の測定に重要な役割を果すと期待される. また, ひずみの小さな準結晶の作成のため,4元合金(磁性,非磁性のもの)の開発が行われた.
著者
岩崎 貴哉 金澤 敏彦 松澤 暢 三浦 哲 壁谷澤 寿海 多々納 裕一
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2007

2007年7月16日10時13分, 新潟県上中越沖の深さ約17kmを震源とするマグニチュード(M)6.8の地震が発生した. この地震により, 新潟県と長野県で最大震度6強を観測し, 大きな被害をもたらした. 発震機構は北西-南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型で, 地殻内の浅い地震である. 今回の地震は, 未知の伏在断層で発生したもので, 震源断層の実態を明らかにするためは, 海陸を通じた地震観測により余震の精密な空間分布等を求める必要がある. 特に, 今回の地震は堆積層に覆われた地域で発生しており, このような地域で余震の分布から震源断層の実態を明らかにすることは, 今後の同様の地域での地震発生を考える上で重要である. そこで, 平成19年度の本調査研究では, 海底地震計及び陸上臨時観測点を合計79台設置し, 余震の精密な空間分布等を求め, 今回の活動で発生した断層の正確な形状等を把握し, 本震の性質の推定等を行なった. その結果, 余震域の南西側は南東傾斜の余震分布が支配的であり, 北東側では北西及び南等傾斜の分布が混在することがわかった. 北東側と南西側では構造異なり, 両地域の間が構造境界になっているらしい. また, このような地域での地震発生を理解することは, 同様な他の地域における地震発生予測にも不可欠であり, 社会的にも強く要請されることである. 更に, 本調査研究では, 強震観測・建物被害や地震による災害の救援などを調査から被害の特徴と要因を明らかにし, 震源断層に関する理学的研究と連携させて実施した. 強震観測によれば, この断層面は, 震源域南西側の余震分布でみられる南東傾斜である可能性が強いが, 本震の位置はこの北西傾斜の地震群の中にある可能性がある. GPS観測では, 観測点が陸域に限られているために, この地震の断層モデルを特定するには至らなかったが, 予稿変動を捉え, その時定数(decay time)0.35-2.83日と求まった.平成20年度は, その研究成果をとりまとめた.
著者
保城 広至
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、実証に入る前に、本プロジェクトに必要とされる基本的な知識の底上げ、特に理論と方法論を幅広く吸収することに努めた。理論的には、1950年代から始まり、1970年代に急速に廃れていった地域統合論の研究群を一通りサーベイし、90年代以降における新しい地域主義論との相違が何であるのかを把握することに努めている。ただしこれはまだサーベイ中であり、先行研究が主張していること以上の新規な視点が提出できるとは考えていない。仮に興味深い知見を発見することができたなら、平成22年度中に、紀要か研究ノートとして和文雑誌に投稿する予定である。また、今世紀に入って雪崩のように出版されている、東アジア地域主義に関する書籍や論文のサーベイも同時進行中である。方法論的には、一つは中級統計、もう一つは定性的研究の方法論を集中的に学習している。前者は昨年度と同様ミシガン大学の統計セミナーに参加して、今回はMLE(最尤法)の基礎を学習した。今後データを集めた後、計量的な分析を加える予定である。また、定性的研究の方法論としては、報告者の従来のディシプリンである外交史アプローチは、どのようにすれば理論化が可能かという問題に一つの解答が出たため、それを国内の学術雑誌に投稿し、「学界展望」として採用された。今秋掲載の予定である。本来の予定であればすでに実証研究を始めているはずであるが、理論的・方法論的知識をより広く、より深く習得た方がおそらく実証も行いやすいという判断により、今年度はそちらの部分に力を注いだ。報告者は4月より就職するため、残念ながら今回のプロジェクトはいったん打ち切りとなるが、民間あるいは他の科学研究費補助金を申請して、本プロジェクトを継続していくつもりである。
著者
田中 研之輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、米国現地調査、都市民族誌の最先端の蓄積のレビュー、フィールドワークの方法論の整理、ならびに都市民族誌の翻訳作業を平行して進めてきた。現地調査では、米国不法移民の労働世界と生活世界に迫るために日雇い労働者の一人としてストリートで仕事待ちをしてきた。具体的には、カリフォルニア・サンフランシスコ北部の郊外都市の路上で日々仕事待ちを続ける米国滞在資格をもたない主にメキシコ、グアテマラ、エルサルバトル、ニカラグア出身の男性達と一緒に、平均して、一日3時間、ときには、朝9時から5時まで8時間ストリートで仕事を待ち続け、ときには、賃金交渉人として、また、自身もこれまでに、引越し手伝い、物品搬送・搬入、ペンキ塗り(補佐)、屋根清掃、庭清掃、水道業、などの日雇い労働をしてきた。このようなフィールドワークの手法は、従来の参与観察法[Participant Observation]から観察参与法[Observant Participation]への認識論的・方法論的革新として位置づけることができる。これらの調査結果をもとに、昨年度までの国内での若年滞留層の社会的排除に関する研究との日米比較へと今後展開していく。都市民族誌の現代的到達点については、初期シカゴ学派都市社会学の都市民族誌の系譜から「バークレー学派」への展開について系譜を整理してきた。方法論においても、従来のフィールドワークから「リフレクシブ・フィールドワーク」の構築に向けて認識論に関する文献を読み込んできている。さらに、現代都市民族誌の代表的著作である、ロイック・ヴァカンの『身体と魂』とイライジャ・アンダーソンの『ストリートのコード』の2作の翻訳作業も計画的に進めてきた。これらの成果は、今後国内外の学会で報告される。
著者
村田 拓司 福島 智 中野 泰志 伊福部 達 大西 隆 苅田 知則
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.選挙のアクセシビリティの研究平成16年度:電子投票と選挙に関する新見での選管担当者と障害有権者への聞取調査の結果、有権者は同システムの有用性に満足するもそのアクセシビリティ配慮がより広範には活用できていないこと等が明らかになった。17年度:新見調査を踏まえ、都市部の四日市での同様の調査の結果、(1)高齢者の筆記の不安解消、点字の書けない全盲者や知的障害者が独自に投票できたが、(2)両市とも電子投票導入時や機種選定時の障害者の参加機会がなく、引きこもりがちな障害者向け啓発が困難で、配慮とニーズの齟齬があり、(3)電子投票の信頼性への要求が高く、(4)投票機も改良の余地があり、(5)第三者認証、最低限アクセシビリティの法文化も必要なこと等が明らかになった。2.総合支援システムの研究16年度:(1)模擬電子投票後アンケートの分析やバリアフリー専門家討論会による電子投票のアクセシビリティ調査、(2)上記の新見調査の結果、電子投票機の最低限アクセシビリティの確認と、より多様な障害者向けユーザビリティに残る課題、アクセシビリティ等の客観的評価手法やその配慮保障のための法制整備の必要性等が明らかになった。17年度:四日市調査等の結果、(1)点訳選挙公報等の情報入手が困難で、(2)知的障害者も支援次第で参加可能なこと等、選挙参加促進の総合支援策の必要性が明らかになった。3.選挙とまちづくりの研究16年度:バリアフリーのまちづくりのための当事者参加型ワークショップの分析の結果、投票環境整備にはまちの日々のあり方が重要で、障害者のバリアを、彼らを交えたワークショップを通して体験的に理解する必要性が明らかになった。17年度:四日市調査の結果、公共施設の投票所のバリアフリー化が進むも最寄りの小規模集会所等を投票所にするのに難があること等が明らかになった。
著者
黒田 日出男 林 譲 久留島 典子 田中 博美 宮崎 勝美 保立 道久 鈴木 圭吾 加藤 秀幸
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究は,日本史の主要な画像史料の一つである肖像画に関する基礎的な調査と研究を行ってきた。その成果は、以下の通りである。第一点。東京大学史料編纂所は、明治時代以来、肖像画を模本の作成という手段によって蒐集してきた。現在までの蒐集点数は約900点に及んでおり,それらの紹介は急務であった。本研究では,全点を4×5判白黒フィルムで撮影し,四切りの大きさに引き伸したうえで、それらについての基礎的調査を行い、新たな目録を作成した。これによって,史料編纂所の所蔵する肖像画模本は多くの研究者の関心を集めよう。第二点。この引伸写真を光ファイリング・システムに取り込んで,簡単なデータベースとし,身分・職業・性別・老若・時代によって検索できるようにした。これによって,史料編纂所々蔵の肖像画模本から,日本の肖像画の特徴の幾つかを把握できるであろう。第三点。本研究では,各種の日本史叙述や自治体史叙述を悉皆的に点検し、肖像画情報に関する調査カードを合計約27000枚作成することができた。予算の制約によって、そのデータベース化までは実現できなかったが、このカードを検索することによって、日本史叙述における肖像画情報の全体を把握することができる。そして第四点。肖像画の個別研究によって、幾つかの新説を提出することができた。たとえば,文化庁保管の「守屋家本騎馬武者像」の像主名についてであり,高師直像とする通説に対し,新たに師直の子息師詮像であるとの新説を提出した。肖像画研究の方法論についても,幾つかのシンポジウムや研究会において発表し,今後の研究の発展のための基本的な論点を提出することができた。また,1996年3月には,史料編纂所主催で「肖像画と歴史学」と題するシンポジウムを開催し,当日は257名もの出席者と討論を行うことができた。
著者
氏原 正治郎
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.1-9, 1959-03-24
著者
米道 学
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

(目的)房総半島には他の地域から隔離されたヒメコマツ個体群が分布されているが1970年以降マツ材線虫病によってよって急激に個体数を減少させている。1960年代には房総半島には10,000本以上のヒメコマツが生存していたと推定されているがマツ材線虫病等により現在100本以下となった。生存個体はある程度マツ材線虫病に抵抗性を持つ可能性がある。千葉演習林では、保全の一環として実生と接ぎ木による増殖を行っている。今回、実生苗木でマツ材線虫を接種して材線虫抵抗性の検証を行った。また、接ぎ木の成功率が高くないことから挿し木による増殖を試みた。(方法)人工林由来の前沢6号(9本)・前沢9号(17本)・天然林由来の西ノ沢7号(31本)の実生苗木(3家系)で強病原力材線虫(Ka-4)を接種(5,000頭/本)した。対照として千葉演習林抵抗性アカマツ実生苗木(1家系20本)・感受性アカマツ苗木(1家系19本)にも同様に接種を行った。挿し木は、実生苗木の2家系(各40本合計80本)と接木クローン1家系(20本)で行った。挿し床はプランターに鹿沼土を敷き床とした。全プランターはビニール袋に入れて密閉状態とした。密閉状態のプランターの置き場所はビニールハウス内とした。プランターの半分で温床マット(実生各20本合計40本・接木各10本)を敷き半分を露地(実生各20本合計40本・接木10本)とした。さし穂は全て発根促進のためIBA0.4%を5秒間浸漬した。(結果と考察)材線虫を接種した人工林由来(2家系)の枯死率35~56%、天然林由来(1家系)の枯死率の枯死率が55%で対照として接種した抵抗性アカマツの15%より高く感受性アカマツ74%より低い結果となった。ヒメコマツ苗木の抵抗性は抵抗性アカマツと感受性アカマツの中間程度の抵抗性が示唆された。今後、家系数を増やして接種を行い抵抗性の検証をする必要性があろう。挿し木では接木の穂を挿し付けた個体では発根が無く、実生由来の穂を挿し付けた2家系で発根が確認されたが、大半が枯死していた。発根率が温床有りで30~35%、露地で35~45%であった。今回の発根率からヒメコマツの挿し木は可能であろうが、苗の大半が枯死したことから発根後の養苗が課題となった。
著者
廣瀬 明
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

以前にわれわれが提案したWalled LTSAはその開口面での壁面が、導波管を単純に切断したものと同等であった。そこに、次の2つの新構造を導入した。(a)開口端の方形終端形状を自由な曲線とし、特に漸近的な開口として等価的な開口面積の増大を図る。(b)金属壁に溝(トレンチ)をつけ曲線開口と滑らかにつなぐ。これらの構造によって、8-12GHzの広い帯域にわたって5dB程度以上の直接結合の低減を実現した。またアンテナのスケーリングによって、同様の構造がさまざまな周波数帯における直接結合低減に役立つことも示した。
著者
稲葉 哲郎
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

今回の研究においては,1995年の参議院選挙の選挙運動期間中に大学生639名を対象に調査をおこなった。調査票は政治的知識,法定選挙媒体への接触,候補者のテレビ広告の利点と欠点の評価,デモグラフィック要因などの項目からなっていた。接触については,「偶然見た」「自分から進んでみた」という回答を合計したものを接触率とした。候補者の新聞広告への接触率は30%であり,また政党の新聞広告では29%であった。候補者のテレビ政見放送への接触率35%と比べるとやや低いが,政党のテレビ政見放送の接触率24%と比べるとやや高いものであった。今回は単なる接触だけでなく,その媒体についてどれだけ注意を払ったかを尋ねたが,いずれの媒体についても「一応注意をはらった」「かなり注意をはらった」を合計しても回答者の1割ほどにしかならなかった。政治的知識との関連をみたところ,政治的知識の高い層がいずれの媒体にもよく接触をしていた。テレビ広告の利点と欠点については,「ますます選挙にお金がかかるのでよくない」(53%)「お金のある候補者が有利になるのでよくない」(50%)と選挙にお金がかかることへの懸念が多く見られたが,アメリカで話題になっているような対立候補の欠点をあげつらうような広告が放映されることへの不安はあまりみられなかった。一方,利点としては「候補者がどんなひとかよくわかってよい」(39%)「政治に関心を向ける機会が増えるので望ましい」(38%)という意見が多く,候補者をよく知るための手段として評価されていた。評価の規定因としては政治的知識をあらかじめ想定していたが,テレビ広告にお金がかかることについて,政治的知識の高い層で懸念が特に多かった。
著者
今井 知正 村田 純一 黒住 真 門脇 俊介 信原 幸弘 野矢 茂樹 宮本 久雄 山本 巍
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

自然主義をめぐる哲学的思考の歴史的遺産を再検討したうえで、現代の哲学的自然主義をめぐる論争状況を直接に主題化し、根本的な論点について、各研究者がそれぞれの立場から検証作業を行なった。その結果、現代的な自然主義と反自然主義の対立を一挙に解消することはできないとしても、いくつかの重要な成果が得られた。(1)認識論的自然主義はアプリオリな知識を説明し得ないとされてきたが、暗黙的概念了解と想像による概念連結を根拠として、自然主義的立場においてもそうした知識が説明可能であるという見解が得られた。(2)色彩概念は長らく物理的説明に委ねられ哲学的アプローチに乏しかったが、現象学やウィトゲンシュタインの知見を参照することで、色彩概念が自然主義的還元を許さない多次元性をもつことが示された。(3)自然主義批判の立場はまた、哲学の基礎付け主義や強い意味での正当化要求と、極端な自然主義や懐疑論が裏腹の関係にあり、それらのいずれもが、人間の実践的世界における自由や合理性、真理や正・不正の経験の「内在性」に基づくことを示すことによっても展開できる。(4)ウィトゲンシュタインの後期哲学にも、通常の自然主義とは異なる、人間の「自然誌的」過程における実践に意味や規範の前提を求める「超越論的自然主義」が見られる。(5)日本思想史における「倫理」の位置づけ、現代世界における「公共哲学」の可能性などを問う中で、自然主義の限界を明らかにする作業も行なった。
著者
遠藤 珠紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題は、朝廷官司の構造およびその変遷を追い、朝廷全体の政務運営システムについてまとめることを志すものである。殊に中世朝廷の文書・人事行政の基幹を担った外記局、宮中の日常品の調達を担った宮内省管下の諸官司に注目し、その中世的体制の在り方・いわゆる「官司請負」の実態、成立時期などを明らかにした。またその基礎作業として各官司の補任状況の一覧化を進め、中世史研究の遂行に必須である史料類の収集・解読、紹介に努めた。
著者
裴 寛紋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度から取り組んでいた、宣長の朝鮮への視座という問題にかんしては、上代文学会の学術誌『上代文学』102号(2009年4月)に、「『古事記伝』が作った「皇大宮の始り」の物語-「韓国」は「空国」なり-」として掲載されたことに続いて、次に、韓国学会に向けての発信を試みた。2009年4月18日、韓国外国語大学(韓国ソウル市所在)で開かれた韓国日語日文学会春季学術大会における口頭発表は、そうした目論見の切り口であった。報告の題目は「「韓」の痕跡と否定-宣長を読む立場から-」とし、上記の投稿論文の前提になる問題意識、すなわち、「韓」をめぐる論争に焦点を絞ったものである。要は、宣長の時代の知識人にとって、「韓」そのものは主題や関心事ではなかったこと、彼らが意識していたカラとはあくまで「漢」であったことを、当代の一般認識(彼らの「常識」)の検討から明らかにした。そのカラに対する強い反発ないし克服が、宣長の「皇国(ミクニ)」という問題につながっていることは、いうまでもない。『古事記伝』が、「原典」としての『古事記』に求めた「皇国」の「古代」の意味を、そこに見出すことができる。以上の内容は、「本居宣長の「韓」-近世日本の古代論-」として、韓国日語日文学会の学術誌『日語日文学研究』第70輯2巻(2009年8月)に投稿し、掲載された次第である。
著者
鰐淵 秀一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度の研究成果としては、まず植民地時代フィラデルフィアにおける自発的結社の生成の中心的人物であるベンジャミン・フランクリンの『自伝』を史料として、都市社会における公共性について自発的結社と個人の関係という視点から論じた論文である「商業社会の倫理と社会関係資本主義の精神:『フランクリン自伝』における礼節と社交」と題して、『アメリカ研究』第45号(2011年3月発行)に発表した。ここでは、フランクリン個人の活動の分析を通じて、図書の貸借のような私的な個人の社交が公共性、すなわち都市における公共図書館の設立に至る過程が見出され、自発的結社とそれが体現する公共性が礼節と社交という商業的イデオロギーに基づくものであったことを明らかにすることが出来た。また、1750年の自発的結社の一つである教育機関フィラデルフィア・アカデミーの創設を当時の都市社会的コンテクストのなかで検討した研究報告を、2010年8月6日に北九州アメリカ史研究会(於福岡大学)で発表し、研究者たちとの活発な意見交換を行うことが出来た。この研究は論文の形式にまとめられ、現在『史学雑誌』に投稿中である。また、昨年度予定していたアメリカ合衆国への調査旅行を今年度三月に実現し、フィラデルフィアでの史料調査と共に初期アメリカ史の指導的歴史家との研究に関する情報交換を行い、研究課題の総括と共に今後の研究の方向性を得ることが出来た。フィラデルフィアではペンシルヴァニア歴史協会およびアメリカ学術協会での史料調査を遂行した。ここでは、研究課題の一つである植民地都市における自発的結社と植民地政府との関係を明らかにするための基本的な史料として、フィラデルフィア市会の議事録等の複写を入手した。これにより、これまでに収集したペンシルヴァニア植民地議会議事録や植民地参事会議事録等と共に、植民地都市の公的領域における政府と市民的組織の関係を考察することが出来た。
著者
谷口 義明
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本年度は昨年度に購入したイメ-ジ増倍管付きのCCDカメラを用いた高速星像検出システムによる観測を行いデ-タ解析を行った。このデ-タに基づき、木曽観測所における星像ダンスの性質を定量的に解析した。このような研究は国内では初めてのものである。1)観測:観測は東京大学理学部天文学教育研究センタ-木曽観測所の105cmシュミレット望遠鏡の主焦点部にカメラを取り付けて行った。観測期間は4月から12月で計10晩以上に及んだ。CCDカメラは約10分角の視野をビデオレ-トで撮像する事ができるので、その視野中に写る全ての星像を解析することができる。解析可能な星の限界等級は約16等である。2)デ-タ解析:観測デ-タはSVHSビデオに集録され、その後1画面ずつディジタル化して写野中に写っている星像の位置を30ミリ秒毎に測定し、その動きを調べた。デ-タ解析は東京大学木曽観測所現有のパ-ソナルコンピュ-タX68000と国立天文台のSpark Stationを用いてなされた。3)結果:写野内の複数の星像の動きの相関を調べることで、星像の動きはわずか10分角の視野の中でも複雑な動きを示すことがわかった。独立した動きをしている領域は1.5ー2分角である。既ち、1枚のtipーtilt鏡で星像ダンスの補償をできるのは木曽観測所の典型的な観測条件のもとでは2分角以内であることが分かった。また、ビデオレ-トのフィ-ドバックで補償する場合、星像サイズを約2割小さくできることがシミュレ-ションの結果判明した。
著者
丸山 真人 中西 徹 遠藤 貢 永田 淳嗣 松葉口 玲子 中西 徹 遠藤 貢 永田 淳嗣 松葉口 玲子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

人間の安全保障は、人間が安心して生活できることを保障するものであるが、そのためには地域での経済活動が自立していなければならない。本研究は、その条件として、地域コミュニティが確立していること、経済生活の中に廃棄物の再利用システムが埋め込まれていること、希少な自然資源の利用者が相互の利益を尊重し調整し合う制度を有していること、女性に自立の機会が与えられていること、環境教育が充実していること、などを明らかにした。
著者
浅間 哲平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

マルセル・プルーストが1890年代から1900年頃までにどのような蒐集と関わりを持っていたのかを調査するにあたり、以下の二通りのアプローチを試みた。まずはロベール・ド・フザンサック=モンテスキウ(1855-1921)との交際について研究した。1895年には、ある批評家が「愛好家たち」という評論でモンテスキウを批判したことから論争が起き、詩人は「職業芸術家」という論考で反駁を試みた。1896年にはプルーストの処女作『楽しみと日々』が出版され、べつの批評家ジャン、ロランがこの作品はモンテスキウの影響下にある愛好家の作品であるという論評を発表している。このような事実に着目し、1893年から1896年におけるプルーストとモンテスキウの関係を二人の書簡、当時の新聞・雑誌などから詳細に追っていき、二人の作品がどのような関係を持っているのかを検証していった。プルーストと蒐集家モンテスキウの関係を具体的に調べることで、モンテスキウが発表する芸術コレクションに対する論評にプルーストが実際に関心をもって接していたことを示す証拠をいくつか発見することができた。次に、プルーストは1890年1900年頃までの間に残した実在する芸術家についての美術評論のなかで、蒐集(コレクション)がどのように描かれているのかについて総合的な見地から研究した。プルーストは、レンブラント(1606-1669)、シャルダン(1699-1799)、アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721)、ギュスターヴ・モロー(1826-1898)、クロード・モネ(1840-1926)についての評論を残している。これらの評論でそのコレクションがどのように論じられているのか検討した。
著者
近藤 和彦 西川 杉子 鶴島 博和 西沢 呆 小泉 徹 坂下 史 青木 康 秋田 茂 勝田 俊輔 秋田 茂 青木 康 金澤 周作 勝田 俊輔 小泉 徹 西沢 保 坂下 史 鶴島 博和 富田 理恵
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は、ブリテン諸島(現イギリス・アイルランド)地域の歴史をヨーロッパおよび大西洋の関係のなかでとらえなおし、古代から今日までの期間について、自然環境から民族、宗教、秩序のなりたちまで含めて考察し、そこに政治社会をなした人々のアイデンティティが複合的で、かつ歴史的に変化した点に注目することによって、旧来のホウィグ史観・イングランド中心主義を一新した、総合的なブリテン諸島通史にむけて確かな礎を構築したことにある。
著者
井上 純哉 足立 正信 石田 哲也 前川 宏一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

一般に局部変形の卓越する部材や鋼材が局部座屈する領域が内在する場合,すべての挙動を数値解析で追跡することは未だ困難である.そこで本研究では,実験によって代表させた領域での局所変形と力の関係に関する情報をそのまま構成則開発の検証データとするシステムの構築、並びに上記システムを構築する上で不可欠となる新たな解析手法及び設計手法の開発を目的とした.その結果,新たな知見として以下に列挙する研究成果を得る事が出来た.(1)解析-実験システム間の通信プロトコルの雛形の開発開発された通信プロトコルはデータ形式の拡張性・データの大規模化・分散/並列環境を考慮し,一般に広く用いられているDocument方式を採用した.開発された通信プロトコルを用い,小規模LAN内で通信試験を行い検証した結果,非線形性が小さい領域では概ね問題なく動作する事が確認された.(2)エレメントフリー確率有限要素法の開発材料の不確定性のみならず,複雑なRC構造物を容易にモデル化する事を可能にする事を目的に,エレメントフリーガラーキン法を摂動展開及びPolynomial Chaos展開を用いて拡張した確率有限要素法を開発した.開発された手法を様々な境界条件におけるモンテカルロシミュレーションの結果との比較により,その有効性及び効率性を示す事が出来た.(3)自己質量調整型仮想材料モデルの開発地中鉄筋コンクリート構造の接合部および隅角部に対して,自己質量調整型仮想材料モデルによって配筋を生成し,施工が前能で,しかも曲げせん断力を適切な裕度で伝達できる設計を提示した.本研究成果の特質としては,せん断破壊の寸法効果が顕著となる大型部材に対して特に有効である事が言える.