著者
渡辺 元
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本年度は主として中枢の性分化に関する以下の研究を行った。(1)視床下部-下垂体-性腺軸における雄性機能の正常な発現には、新生子期のLHRHが重要な役割を果たしている。内分泌かく乱物質の多くはエストロジェン用作用を有し、LHRH分泌を抑制することから、本研究ではLHRHの分泌を抗血清で免疫学的に中和するモデルを用いて、新生時期の内分泌かく乱物質の暴露が雄ラットの生殖能力に与えると予想される変化について解析した。その結果、出生後6日間LHRH抗血清を投与した雄ラットでは、成熟後精巣に精子形成は正常と判断されたが、成熟雌に対して交尾行動をほとんど示さず、射精に至らなかった。視床下部の内側視索前野にの存在する性的二型核の断面積を比較したところ、抗血清投与群では雄より小さい、雌に近い傾向を示した。以上のことから、中枢の性分化期に、LHRHの分泌が抑制された場合は、成熟後の生殖能力に重大な欠陥をもたらす危険性が示された。(2)新生時期の中枢の性分化時期の雌に、エストロジェン作用を有する内分泌かく乱物質としてオクチルフェーノールを投与した。成熟後、中枢の周期性を調べるため、卵巣を除去しエストラジオールを投与して、LHサージの出現を検討したところ、実験群ではLHサージが欠如していた。次に、雌の交尾行動を調べるために正常な雄ラットと同居したところ、雌の交尾行動の発現頻度および強度は正常に比べ有意に低値であった。視床下部の内側視索前野にの存在する性的二型核の断面積を比較したところ、オクチルフェノール投与群では雌より大きく、雄に近い傾向を示した。
著者
千賀 裕太郎 土屋 俊幸 朝岡 幸彦 三橋 伸夫 鎌田 元弘 廣田 純一 柏 雅之 堀口 健治
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

地域住民・NPO・企業・行政のパートナーシップを構築することで、多様な地域再生活動を展開する「中間支援型組織」としてのグラウンドワーク組織の普及・定着に関する研究を行った。このなかで、グラウンドワークが農村を含めた全国各地においていかに活動を展開し、地域住民、地域企業等の参加を組織し、環境改善および雇用創出を通じて地域の持続的活性化へと結び付けてきたのか、その構造を明らかにし,特に弱い経済条件の地域におけるグラウンドワークの更なる普及・発展の条件を明らかにした。
著者
柏木 謙
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では、周波数軸上での強度・位相変調による光パルス合成技術を利用して、ダークパルス、特にダークソリトンの合成とその非線形光学応用について検討を進めた。まずは、光パルス合成が可能な素子である光パルスシンセサイザを用いて、ダークパルスを高精度に生成する技術を開発した。続いて、光パルスシンセサイザで合成したダークソリトンを正常分散ファイバに伝搬させて、理論通りの光強度でソリトン伝搬することを実験的に示した。さらには、高強度では高次ソリトン圧縮によりパルス幅が減少すると共にスペクトルが拡大することを確認した。
著者
沢田 こずえ
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

将来、大気CO2濃度の上昇による植物の光合成促進に伴って、土壌へのC供給量が増加すると予想される。土壌へ易分解性Cが添加されると、もともと土壌に存在する有機物の無機化が促進(正のプライミング効果)または遅延(負のプライミング効果)される。また、人間活動の発展に伴って、大気中のN化合物濃度が増加した結果、土壌へのN負荷量も増加している。土壌へ無機態Nが添加されると、プライミング効果が抑制または促進される。本研究は、「N供給能が低い日本森林土壌では、プライミング効果に与える無機態N添加の影響が大きい」という仮説を検証するために、高知県スギ林とヒノキ林土壌において、プライミング効果に与える無機態N添加の影響を評価することを目的とした。結果、ヒノキ土壌では、グルコース添加によって負のプライミング効果が起こった。また、土壌有機物由来微生物バイオマスCが増加した。ヒノキは糸状菌が優占するので、糸状菌が体内に炭素を貯めこむことによってCO2放出が抑えられるのかもしれない。一方、スギ土壌へグルコースのみ添加した場合は、プライミング効果は起こらなかったが、グルコースとともに無機態Nを添加した場合、正のプライミング効果が起こった。また、58日間で添加グルコースCを上回るCO2-Cが積算で放出され、C収支がマイナスとなったことから、スギへのC・N添加の影響は極めて大きいことが分かった。また、この時土壌有機物由来微生物バイオマスNの代謝回転が速くなった。以上から、①ヒノキでは、無機態N添加の有無にかかわらず正のプライミング効果が起こらなかった、②スギでは、無機態N添加によってバイオマスNの代謝回転が早まり、正のプライミング効果が起こったことが分かった。
著者
中條 拓伯 城 和貴
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成18年度は量子コンピュータの命令セットについて,シミューレータによる動作検証を進めるとともに,FPGAによるエミュレータテストベッドボードの実現を試みた.また,国内外の旅費を中心に用いてさまざまな研究者の意見や成果発表を行った.申請者はすでに,ShorやGroverのアルゴリズムを解析し,汎用量子コンピュータに必要とされる具体的な命令について検討を行い,従来の計算機アーキテクチャの観点から量子コンピュータの持つべき命令セットを洗い出している.さらに,その命令セットを実現する汎用の量子コンピュータアーキテクチャの内部ブロックの仕様を確定し,データパスはそれぞれのユニットの制御信号の設計を行った.ここで提案するアーキテクチャは,まずShorの因数分解アルゴリズムに代表される数種の量子アルゴリズムを検証した結果より抽出された量子命令セットを含む.そして,進展が目覚しい量子通信分野において,その基礎理論となる量子テレポーテーション理論を用いてコンポーネント間の情報伝達を行い,さらに量子コンピュータにユニークな,量子初期化レジスタ,量子が絡み合った状態のEPRペアから構成されるEPRレジスタ,量子ALUをコンポーネントとして含む量子ユニットと従来のモデルとしてのフォンノイマン型ユニットを融合した形態のハイブリッドアーキテクチャである.また,これまでのプログラム内蔵方式とソフトウェアを柔軟に継承することが可能になる.本アーキテクチャが,大規模な量子計算を量子ワイヤリングで全て構成された量子回路で処理するような完全な量子コンピュータが数十年後に実現されるであろうその一歩手前のプロトタイプとして位置付けられるという点で意義高いものと考える.
著者
堀田 政二
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本課題では,あるサンプル集合(陽サンプル)と,その原点対象となる鏡像サンプル(陰サンプル)を一つのガウス分布で表現する分布を提案し,これらから導かれる統計的パターン認識手法を開発し,これまで発見的に拡張されてきた相互部分空間法や複数サンプルの同時クラス分類を効率的に行う手法を統計的に導くことを可能とした.これらの手法を画像認識,音声認識,動画像認識などの大規模データに適用して,その有効性を確認した.
著者
CHRIS Weaver 佐藤 容子 ROMANKO Rick 船倉 正憲
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

この二年間に渡る集中的研究では、東京農工大学の入学試験における英語個別学力検査の評価(評定)尺度の用い方について調査研究を行った。本研究プロジェクトは、多面的側面を持っており、それは三つのテーマに大別される。第一のテーマは、評価尺度のパフォーマンスの詳細な分析に関わるものであった。この調査研究は、ラッシュ測定理論を用いることにより、どのようなタイプの評価尺度に改善が必要かを同定したばかりでなく、評価尺度のパフォーマンスを改善していくための洞察をもたらした。第一の研究テーマから得られた最も重大な知見は、テスト項目が要求する諸要素と評価尺度の適合性を最大化することの重要性である。この研究プロジェクトの第二の研究テーマは、四年間の期間において本学の入学試験の英語個別学力検査で用いられた異なるタイプのテスト項目と、評価尺度との間に生じた相互作用についての調査研究に関わるものであった。このタイプの分析は、評価尺度のパフォーマンスが、いかに当該の入学試験の全般的パフォーマンスの重要な側面の多くを支える基礎となっているかという点について、数多くの洞察をもたらした。またこれに関連するもう一つの調査研究により、様々に異なる英文の設問として用いられたテスト項目の難度は、異なるタイプの評価尺度に基礎をおいており、英文の読みやすさ指数より得られた英文難度の推定値とも、また英文の語彙レベルとも、関係性がないことが見出された。この研究プロジェクトの第三のテーマは、今後の展望として、大学の管理運営に携わる者や学力検査問題作成者、またカリキュラム設計者及び教授者が、受験者に関するきわめて重要な情報を得るため、評価尺度をいかに十全に活用しうるかを説明するものである。
著者
岩井 紀子
出版者
東京農工大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

奄美大島における森林性カエルの保全につなげるため、林道敷設や伐採がカエル成体の餌資源量や幼生の生存に与える影響を評価した。カエルが一晩に動く範囲内における林道、林内間で餌資源である地上徘徊性昆虫のバイオマスに相違は見られないこと、また、林齢によっても影響を受けているとは言えないことが明らかとなった。林道や伐採が複合的にカエルに与える影響について、今後の解析に不可欠な多くのデータを得ることができた。
著者
黒田 裕 ISLAM MonirulMohammad ISLAM Monirul Mohammad
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

現在のところワクチンもないデング熱は、東南アジアの広い地域で公衆衛生上の問題となっている。デングウイルスは、DEN1~4の4種類の型に大別され、それらのエピトープ領域とウイルス型に対する抗体の特異性を解明する事は重要な研究課題である。本計画では、抗体認識の特異性に直接関わる可能性が高いデングウイルスのエンベロープ糖タンパク質(以下、Eタンパク質)の第3ドメイン(以下、E3D;96残基)に注目し、その変異体解析を行い、抗体認識機構(及び部位)を分子レベルで解明する。平成23年度では、デングウイルス3型及び4型由来のE3Dを、pET発現系を用いて大腸菌で発現し、通常の精製法(ニッケルレジン、HPLC)で、高純度に精製した(培地1L当たり30mgの収量)。高純度に精製した3型E3D及び4型E3DのX線結晶構造をそれぞれ、1.8Åと2.2Åの分解能で決定し、座標をPDBに仮登録した。さらに、3型E3D、4型E3Dに対するポリクロナル抗体を作製した。また、3型E3D及び4型E3Dの抗体認識部位の数残基を互いに入れ替えた変異体(Epitope Grafted Mutant; EGM)を8種類構築し、大量発現し、精製した。現在、EGM変異体とE3Dを型特異的に識別する抗体の相互作用をElisa法で解析中である。これらの相互作用解析の結果を上記の高分解能X線結晶構造と比較することで、抗体のウイルス型特異性の物理化学的な解明が期待される。
著者
高橋 延匡 SHAPIRO Stua RALSTON Anth KERSHNER Hel SELMAN Alan 中森 眞理雄 大岩 元 都倉 信樹 牛島 和夫 野口 正一
出版者
東京農工大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

わが国の大学の情報処理教育のカリキュラムは米国に比べると著しく遅れているというのが通説であった。本研究代表者および分担者は情報処理学会の「大学等における情報処理教育の改善のための調査研究」で中心的な役割を果たし,コンピュータサイエンスのモデルカリキュラムJ90の作成に貢献した。しかし,J90を各大学で具体化して実現するには,授業時間配分や担当教員の割り振りなど多くの問題を解決しなければならないことが明らかになった。そこで,本年度は,米国で,過去にコンピュータサイエンスのモデルカリキュラムを各大学で具体化して実現する際にどのようにしたかを調査することにした。まず,予備調査として,ACM(米国計算機学会)が1988年に発表したコンピュータサイエンスの見取図である9行3列のマトリクス(以下では「デニング図」と呼)をカリキュラムの評価に使うことが可能かどうかを検討した。デニング図の各行は1アルゴリズムとデータ構造,2計算機アーキテクチャ,3人工知能とロボティックス,4データベースと情報検索,5人間と計算機のコミュニケーション,6数値的計算と記号的計算,7オペレーティングシステム,8プログラミング言語,9ソフトウェアの方法論とソフトウェア工学に対応する。デニング図の各列は(1)理論,(2)抽象化,(3)設計に対応する。個々の大学のコンピュータサイエンスのカリキュラムについて,その各授業科目をデニング図の27(=9×3)の枠にあてはめてみることにより,そのカリキュラムの特徴が明らかとなる。さらに,もう一つの予備調査として,ACMが1991年に発表したコンピュータサイエンスの頻出概念について,カリキュラム評価の手法として使うことが可能かどうかを検討した。ACMの頻出概念は(A)バインディング,(B)大規模問題の複雑,(C)概念的および形式的モデル,(D)一貫性と完全性,(E)効率,(F)進化とその影響,(G)抽象化の諸レベル,(H)空間における順序,(I)時間における順序,(J)再利用,(K)安全性,(L)トレードオフとその結果,の12から成る。検討した結果,ACMの頻出概念はきわめて重要なものを含んでいるが,(a)これら12個の概念は互いに独立であるか,(b)これら12個の概念はコンピューサイエンスを完全に覆っているか,についてさらに詳しく検討する必要があることがわかった。以上の予備調査を行った上で,米国ニューヨーク州立大学バッファロー大学計算機科学科を訪問し,共同研究を行った。研究の方法は,デニング図を含むカリキュラム評価方法やコンピュータサイエンスの頻出概念について,日米双方の研究代表者・分担者が見解を述べ,互いに賛否の意見を出し合う,という形で行った。この過程で,バッファロー大学ではデニング図を用いて自己点検・評価を行っていることが示された。ACMの1991年報告書では「広がり優先方式」(以下,「BF方式」と呼ぶ)によるカリキュラム編成方式が紹介され,それを実現するために多数の「知識ユニット」が提案されている(もちろん,それらの知識ユニットを組み合わせて,学問体系に沿って教える伝統的なカリキュラムを編成することも可能である)。このBF方式カリキュラムについても議論した。米国分担者達はBF方式カリキュラムを試みたが,現在は伝統的なカリキュラムに復帰しつつあるという見解であった。ACMのSIGCSE研究会の研究発表の内容を調べた結果,非BF方式カリキュラムに対する支持が強いことが確かめられた。もっとも,教育は必然的にBF的面を有するものであり,BF方式カリキュラムが妥当であるか否かという問題は,知識ユニットをどの程度の大きさにするのが適切であるかという問題に帰着され,今後の検討課題となった。本研究の期間中に,ACMのSIGCHI研究会から人間と計算機のコミュニケーションを主題とするカリキュラム案が発表された。このカリキュラム案に伴って紹介されている演習課題についても検討した。この分野は日本が大きな貢献をすることが可能な分野であり,今後の研究課題とすることにした。
著者
ベグム S
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、再生可能な木質バイオマスの量や質を決定する形成層活動の制御機構を細胞生物学的に明らかにすることを目的とした。そこで、交雑ヤマナラシとスギを用いて、形成層活動休眠中の冬期の樹幹に人為的な加温処理(約22℃)を行い、樹幹温度の上昇のみで形成層細胞の分裂開始が誘導されることを明らかにした。さらに、樹幹への局部的な加温処理をモデル系として、形成層再活動に伴うデンプンや脂質など貯蔵物質量の変化パターンを詳細に解析した結果、形成層細胞や師部柔細胞内に含まれる貯蔵物質量が細胞分裂や細胞分化に伴い減少することから、光合成年よる同化産物の供給が制限されている時期において、デシプンなどが細胞分裂開始に必要なエネルギーの供給源であると結論づけた。また、形成層細胞内の微小管を蛍光抗体染色法で観察し、微小管の低温に対する感受性が、形成層細胞の活動期と休眠期では異なることを明らかにした。一方、形成層活動の開始時期と最高気温、平均気温、最低気温との関連性を統計的に解析し、形成層活動の開始時期には最高気温との間に密接な関連性があることを明らかにし、形成層活動を制御する温度閾値を計算した。これらの結果を基に、形成層活動開始時期を予測するために有効な新しい形成層活動指標(Cambial reactivation index ; CRI)を提案した。さらに、CRIには樹種や形成層齢による特性があり、形成層細胞の温度に対する感受性の違いが形成層活動の開始時期の違いを制御していることを明確にし、冬期や初春の気温が上昇した場合の形成層活動の開始時期の変化を予測した。
著者
岩本 理
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

近年、電位依存性ナトリウムチャネルは抗疼痛や鎮痛作用の分子標的として注目されている。本研究ではサキシトキシン骨格を基盤とすることで電位依存性ナトリウムチャネルのサブタイプ選択的リガンドの創製を志向した、柔軟な合成手法によるサキシトキシン類の全合成について検討を行った。これまでの研究において、サキシトキシン骨格の構築に成功している。しかしこれらの手法は依然、本研究の目的である「多様な構造展開が可能な柔軟な合成手法」を満足できなかったため、依然として残っていた問題点を解決しつつ新たな反応と方法論を開発した。まず、炭素骨格形成時における工程数を短縮させるために、応用例の全くないニトロン-ニトロオレフィン型1,3-双極子付加環化反応と続く化学種選択的な変換反応をワンポット法と組み合わせる手法を開発した。そして従来法では理論上、(-)-デカルバモイルオキシサキシトキシンよりも工程数が必要な(+)-β-サキシトキシノールをより短段階で合成し、(+)-サキシトキシンの形式全合成を達成した。さらに、サキシトキシン骨格形成時における脱保護の必要性に関する問題を、立体配座を制御し、不安定構造を安定化する手法を用いて克服した。これにより12段階25%で得られるサキシトキシノール保護体をサキシトキシン構造活性相関の共通物質として供給可能となった。また、本化合物の有用性を示すべく各官能基の変換について検討を行いα-,およびβ-サキシトキシノールと13位アジド体の合成、そして(+)-デカルバモイルサキシトキシンおよび(+)-ゴニオトキシン3の全合成に成功した。
著者
寺岡 徹 有江 力 鎌倉 高志
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

(1)我々が構築したdifferential cDNA libraryから、付着器形成時、侵入時に特異的に強く発現している病原性関連候補遺伝子をマクロアレイ、RT-PCRにより選抜した。その中から特異性の高かった、FMI1(Functional gene of Magnaporthe Infection 1; クローン#B19)、FMI2(クローン#B48)、MGH61A(Magnaporthe Glycoside Hydrase family 61A;クローン#B59)を選抜して、それら遺伝子の構造解析、ゲノム解析を行い、当該遺伝子の破壊株を作出して、付着器の形態形成ならびにイネ葉への感染過程における機能を解析した。いずれも既報の遺伝子と高い相同性を示すものはなかったものの、部分的にいくつかのドメインを保持していた。FMI1はN末端にセリン残基に富んだ配列と核局在性シグナル様配列をコードし、そのC末端側にsucrase/ferredoxinと部分的相同配列をコードしていた。当該遺伝子の破端株は付着器形成の異常、侵入の遅延をもたらした。FMI2はdual specificity phosphataseの活性ドメインを一部コードしていた。当該遺伝子破壊株は付着器形成の異常をもたらしたが、両遺伝子とも顕著な病斑形成能の低下はもたらさず、その発現も接種後3-4日以内の肉眼的病斑形成以前に限られていた。MGH61Aはシグナル配列を持つ分泌型タンパク質で、5'側の一部にglycoside hydrase family 61と相同性の高いドメインを保持していた。当該遺伝子の破壊株は付着器形成、侵入、病斑形成の低下をもたらした。(2)ベトナムを中心として、世界各地で分離されたイネいもち病菌の病原性レースと交配能について、自然交配能を有する雲南産ならびにアメリカ産イネいもち病菌を基準に調査したところ、ベトナム菌株は病原性レースは多様性に富むものの、交配能を保持している菌株は見いだせなかった。ただ、今まで報告されたことのない二本鎖RNAウイルスを見出した。本ウイルスは容易に水平移動し、いもち病菌の生育、病原性を低下させた。
著者
岡野 一郎
出版者
東京農工大学
雑誌
東京農工大学人間と社会 (ISSN:13410946)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.55-64, 2005-03-26

今日の環境問題を「共生」という視点と結びつけるとき,まず思い浮かぶのは,「人間と自然との共生」ということであろう。人間が自然を管理・支配しようとすることが問題なのであり,自分たち人間と自然とが同じ存在価値を持つことを認め,両者が両立するような関係を構築していくべきだということになる。人間と自然が「共に生きられる」条件を見いだすことが急務であることは歴然たる事実である。だが,それは,人間と自然が「共に生きよう」とすることで実現できるものであろうか?つまり,人間と自然の共生を阻むものは,自然と「共生」しようとしない人間の意識や文化の問題なのだろうか?本稿では,環境破壊の要因として,人間の側での文化なり意識なりを措定することが可能かどうか,主に加藤尚武の議論(加藤 1991)を追いつつ検証していきたい。
著者
清水 本裕
出版者
東京農工大学
雑誌
東京農工大学人間と社会 (ISSN:13410946)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.183-195, 1996-04-01

奥泉光の『バナールな現象』(1994)は滅法おもしろいが難解な小説である。滅法おもしろいのはなぜか。それは,登場人物の会話や内省や日記を通して,現実と幻想,言葉と虚構,歴史と倫理,大学と学問,日本人とユダヤ人,ワープロと日記,ニーチェと仮面,湾岸戦争,モダン・ジャズ等々の興味深いテーマについて,それ自体平凡ならざる知的な考察がユーモア溢れる筆致で惜しげもなく呈示され,それが小説の豊饒な細部を形成している,という点に負うところが大きいであろう。では難解であるのはなぜか。それは,登場人物についての情報が分散され,出来事の叙述が時間の流れに従わず,また,現実シーンと幻想シーンの区別が明瞭でないために,この小説の中でいったい何が起こったのか,どのような出来事が描かれたのかが,一読して容易には把握しがたいからである。私たちはテクストの枠内でストーリーのつじつま合わせに努力せねばならない。しかし,推理小説めいた味わいもあって,つじつま合わせもそれなりに結構楽しい。現代小説ってこれだから大変なんだよね,などとつぶやきながら,私たちは「磯野家の謎」を探るごとくに精読再読し,時間と空間の枠組,おもな登場人物,あらすじを,たとえば以下のように再構成して納得しようとするだろう。
著者
深尾 百合子 池田 浩治 並木 美太郎 高木 隆司
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

レポート等の文章を書く能力を養成するための教材を作成した。理工系の留学生の最終目的が科学技術論文,レポート,レジュメを書くことを考慮して,題材を基礎科学分野(中学・高校レベル)からとった。開発教材は15のトピックからなっている。これらの教材の開発については「理工系留学生を対象としたボトムアップ型の作文指導および教材開発」という題で研究発表を行った。上記の教材を使って留学生を対象に作文指導を行ったところ,1つの教材に対して様々な解答文が可能であることが明らかになった。そこで,科学技術文として適切な解答文はどのようなものであるかを明らかにするために,教材[木炭の燃焼]を使用して日本語母語話者73人の解答文を収集した。これらの解答文を工学部専門教官3人(分担者を含む)に評価してもらい,この結果について分析を行った。評価の高かった解答文の分析により,科学技術文として不可欠な要素が抽出された。また,評価の低かった解答文データから,不適切とされた箇所を取り出し分類した。この研究結果を,論文「科学技術作文教材の開発およびモデル解答作成のための解答文分析」にまとめた。また,工学系学部日本人学生のレポート文を収集し,レポートの「考察」部分(一部結果を含む)の文章をデータベース化した。これらの文章を工学部専門教官に「考察」として適切な構成,表現であるかを評価してもらい,共通する欠点をまとめた。また,個々のレポートについてのコメントも記述した。
著者
夏目 雅裕
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

トマトの根滲出液に含まれる青枯病菌の走化性誘引物質の探索を行った。トマト根滲出液を酢酸エチル抽出画分、活性炭吸着画分および非吸着画分に分画して走化性誘引活性を調べた結果、活性炭非吸着画分が最も強い活性を示し、活性炭吸着画分にも活性が認められた。活性炭非吸着画分のアミノ酸分析を行い、根滲出物に含まれる量のアミノ酸混合物と分析に用いた画分の活性を比較した結果、アミノ酸以外の誘引物質の存在が示唆された。非宿主植物であるイネ、ナタネ、アルファルファの根滲出物の各画分の活性を比較した結果、トマトの活性炭非吸着画分が他の植物より強い誘引活性を示した。
著者
斎藤 拓
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高分子フィルムの超臨界流体下における応力測定を可能にさせ、二酸化炭素圧力が高くなりフィルムへの含浸量が増加するのに伴い応力や弾性率が低下して延伸しやすくなることを定量的に明らかにした。ポリプロピレンを二酸化炭素雰囲気下の低温で熱延伸するとサイズが数十nmの微細なナノ空孔が形成され、超臨界二酸化炭素雰囲気下の高温で熱延伸すると結晶化度を著しく増大することを見出し、それらの高次構造形成メカニズムに関して小角X線散乱測定の解析結果などに基づいて明らかにした。このような結晶高次構造制御により多様な物性を有する材料が得られた。
著者
小畑 秀文 増谷 佳孝 佐藤 嘉伸 藤田 廣志 仁木 登 森 健策 清水 昭伸 木戸 尚治 橋爪 誠 目加田 慶人 井宮 淳 鈴木 直樹 縄野 繁 上野 淳二
出版者
東京農工大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

本申請課題においては、5年間にわたる研究成果のとりまとめと、研究成果を社会・国民に発信することの2つが目的であった。第一の目的である研究成果のとりまとめにおいては、計算解剖学の目的、研究組織、計画班および公募班それぞれの研究成果(著書・論文のリスト、特許を含む)と共に、計算解剖学という新たな領域としての状況、計算解剖学主催による学術研究集会およびアウトリーチ活動、諮問委員による研究評価、などを含め、研究成果報告書として取りまとめて印刷・製本した。また、同報告書の内容に研究成果をより理解しやすいように一部の動画をも含めてCDも作成した。これらは関係研究機関に配布した。第二の目的である研究成果の社会・国民への発信に関しては、2つの取り組みを行った。一つは、「3Dプリンタで臓器モデルを作ろう!」と題した中学・高校生向け講座である。これは日本学術振興会主催の「ひらめき☆ときめきサイエンスプログラム」の一つとして2014年8月21、22日の2日間にわたって名古屋大学にて開催したもので、CT画像から臓器を抽出し、それを3Dプリンタで打ち出すまでを体験させた。次代を担う世代に計算解剖学の成果の一端を分かりやすく紹介したものである。二つ目は東京農工大学にて開催した「計算解剖学」最終成果報告シンポジウムである。計算解剖学プロジェクトで新たに開発された基礎から応用(診断・手術支援)までの研究成果を関連分野で活躍する研究者・技術者に対して広く紹介した。また、専門的・学術的な立場から計算解剖学の現状評価と今後の方向性や課題を議論し、次のステップへの礎とした。