著者
石井 啓豊
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、図書館が担ってきた社会的共有のための知識資源基盤としての役割をネットワーク上で実現する知識資源コモンズに注目し、特に、ピアプロダクションに基づく知識資源コモンズ(KRCP)と伝統的図書館の成立に関する組織論的、経済学的な理論枠組みを明らかにすることである。本年度は21年度末に実施した市民による資料アクセス行動の調査結果の分析を行い、リアル書店や図書館、ネットワーク上の書店や情報源へのアクセスなど多様な側面に関する行動実態が明らかにした。また、一般市民がネットワーク上で知識資源を共有できる代表的なサイトについて、提供内容、方法、知識資源の形成、サイトの経済的裏付け等に関する調査を行った。この2調査と公共図書館のサービス展開に関する調査(21年度)、および文献調査に基づいて図書館とKRCPに関する多面的な検討を行い、論点整理と理論的枠組みの可能性を探った。主な論点と検討事項は、(1)図書館の機能特徴と組織的位置付けの分析、(2)図書館サービス展開の構図の検討、(3)コモンズの視点からみた図書館協力活動の分析、(4)ネットワーク利用者の資料アクセス行動、(5)経済制度の理論を援用した図書館制度成立の理論化の検討、(6)知識資源コモンズに関して、知識資源共有過程と機能、目的領域と活動領域、参加者、コミュニティ、コモンズ成立の組織論、知識資源の社会的配分などの論点と問題構造の検討などである。その結果、伝統的図書館成立の理論化の基本的構図と図書館によるコモンズ的活動の構図を得ることができた。その構図は必ずしも図書館の社会的機能としての知識資源共有を担うネットワーク上のコモンズの可能性を示唆するものではなかったが、一方、それを知識資源の社会的配分問題として理論化することの可能性が明らかになった。
著者
立脇 洋介
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

従来の異性交際に関する心理学的研究では、親密化過程と崩壊過程に関するモデルが別々に提出されてきた。そのため、いずれのモデルも関係の変化のダイナミズムを十分に説明できていない。そこで、本研究は異性交際中の感情に注目し、親密化過程と崩壊過程とを包含するモデルの構築を試みた。本年度の研究の成果は以下の四点にまとめられる。第一に、異性交際中の感情を測定する尺度を開発し、論文「異性交際中の感情と相手との関係性」として発表した。第二に、時系列調査によって、関係の変化と意識の変化との関連を分析した。調査期間中に関係が変化した人では、情熱感情と尊敬・信頼感情とが大きく変化していたのに対し、親和不満感情はほとんど変化していなかった。したがって、関係の親密化や崩壊には否定的感情より情熱感情や尊敬・信頼感情などの肯定的感情の方が関連している可能性が示唆された。第三に、異性交際中の感情と個人特性要因との関連について検討した。不安傾向の強い人は親和不満感情と攻撃・拒否感情だけでなく、情熱感情も感じやすいこと、回避傾向が強い人は情熱感情や尊敬・信頼感情を感じにくく、攻撃・拒否感情を感じやすいことが明らかにされた。したがって、不安傾向の高い人は異性の友人関係より恋愛関係を構築し、回避傾向の高い人は親密な関係を構築しにくいと考えられる。第四に、異性交際をテーマとした流行歌を視聴する前後での気分の変化を、実験によって検討した。流行歌視聴前に比べ、気分がポジティブに変化することが明らかになった。
著者
河崎 衣美
出版者
筑波大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

屋外環境に曝される石造文化遺産に初期に付着する微生物のうち、初期対応の必要性が高いと考えられる地衣類について修復材料を適応した際の文化遺産建造物基材に対する定着挙動を調査した。基質強化が施された試験体への地衣類の付着は撥水処置のみ施された試験体と比較して著しく少ないことがわかり、基質強化処置の重要性が明らかとなった。基材の化学的劣化の要因となる地衣類の二次代謝産物の有無を分析する方法を構築した。
著者
伊藤 益
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.69, pp.102-105, 2005-03

二〇〇一年九月二四日、ひとりの友を喪った。淑徳大学教授阿内正弘、享年四二.どこ(どの地)で亡くなったのか、厳密にはわからない。上越線の電車に乗ったまま亡くなり、死亡時刻も特定できないからである。死亡原因は、心臓疾患によるものとされた。だが、心臓のどの部分に病魔が生じたのか、それもまた定かではい。 ...
著者
長田 年弘 木村 浩 篠塚 千恵子 田中 咲子 水田 徹 金子 亨 櫻井 万里子 中村 るい 布施 英利 師尾 晶子 渡辺 千香子 大原 央聡 中村 義孝 仏山 輝美 加藤 公太 加藤 佑一 河瀬 侑 木本 諒 小石 絵美 坂田 道生 下野 雅史 高橋 翔 塚本 理恵子 佐藤 みちる 中村 友代 福本 薫 森園 敦 山本 悠貴
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究課題は、研究代表による平成19-21年度基盤研究(A)「パルテノン神殿の造営目的に関する美術史的研究―アジアの視座から見たギリシア美術」の目的を継承しつつ再構築し、東方美術がパルテノン彫刻に与えた影響について再検証した。古代東方とギリシアの、民族戦争に関する美術について合同のセミナーを英国において開催し、パルテノン彫刻をめぐる閉塞的な研究状況に対して、新しい問題提起を行った。平成21年開館の、新アクロポリス美術館の彫刻群を重点的な対象とし撮影と調査を行ったほか、イランおよびフランス、ギリシャにおいて調査を実施した。研究成果を、ロンドンの大英博物館等、国内外において陳列発表した。
著者
山本 早里 槙 究 熊澤 貴之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

景観法の趣旨である地域再生を目論み、景観色彩を改良する手法を開発することを目的とし、地域の特性、合意形成、審美性の3軸から考察した。国内の景観計画において色彩を地域別に誘導していないところが多いことが明らかになり、仏国では協議システムが運用されていることがわかった。また、向こう三軒両隣の配色の重心を考慮した景観色彩設計法の有効性を検討した。被験者誘導の実験を行い、色彩規制の効果について考察した。以上から、日本の色彩誘導のあり方は景観法の趣旨が活かされているとは言い難く、そのため、様々な専門家が関わる協議システムが参考になり、街路景観はその特徴によって個別の対応が望ましいことを明らかにした。
著者
秋山 学 秋山 佳奈子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

慈雲の『法華陀羅尼略解』には唯識学的注記が認められる.彼は『雙龍大和上垂示』において,唯識は八識を説くが,密教では「菴摩羅識」をも説くと述べる.慈雲は,天御中主尊が菴摩羅識に当たるとするが,この尊は高天原の神であり,彼の『神儒偶談』には「高天原虚空観」が述べられる.「菴摩羅識」は法界体性智に当たるが,『論語』15-42には,孔子が瞽者を敬ったとある.孔子は瞽者を儒教尚古主義の体現者と認識していたが,瞽者は眼識をも欠くため,彼らの生は「菴摩羅識」に基づく.こうして慈雲は,儒教尚古主義と「高天原虚空観」「法界体性智」に通底する地平,つまり儒・仏・神・密の結節点を『法華陀羅尼略解』に説いたと言える.
著者
安仁屋 政武
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究期間の2010 年度から2014 年度までの4年間で氷河後退により面積が8.43km2減少した。最大の後退はサン・キンティン氷河の3.35km2であった。その他顕著な後退をした氷河は、コロニア、シュテフェン、HPN3、フィエロ、ベニートである。一方、サン・ラファエル氷河、グアラス氷河、レイチェル氷河(以上氷原西側)、ピスシス氷河、パレッド・スール氷河、レオン氷河(以上氷原東側)、エクスプロラドーレス氷河(北側)、はほとんど変化しなかった。細かく変動を見ると、2013-15年の1氷河当たりの後退速度は2011-12の1/5、2012-13の約1/3となっており、後退速度が鈍化した。
著者
篠原 康
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

極性半導体の例としてGaAsを対象にコヒーレントフォノンの生成過程を微視的な理論から明らかにした。また、SbとSiについてコヒーレントフォノンの観測過程のシミュレーションを行った。さらに研究の実施計画にはない点として、応用数理に基づく効率的な固有値解法をBogoribov-de Genness方程式に適用し、その有効性を実証した。GaAsに対して、これまでに開発した手法を適用し、その生成機構の第一原理シミュレーションを行った。これまでに明らかにしてきたSiやSbと同様、Raman過程に伴うコヒーレントフォノンの励起機構が第一原理的に再現されることを確認し、極性半導体のGaAsにおいても既存の理解が適用できることを示し、力の絶対値を評価した。さらに、極性半導体特有のメカニズムである瞬間的な表面電場の消失に伴う物理過程を特徴づけるBornの有効電荷の計算を行った。既存の研究では定常電場を含めた自由エネルギーを最小にするアプローチで第一原理的に計算されていたが、我々は電場を断熱的に加えることで定常電場を模したシミュレーションを行い、我々のアプローチで、理論の先行研究、および実験値と良い一致を見、本アプローチで定常電場がかかった状態をうまく記述できていることを示した。論文をまとめる為の計算結果は概ねとり終わっている。コヒーレントフォノンの生成過程の第一原理シミュレーションでは、Siに対しては十分な結果が得られたが、Sbについては、十分な精度を計算で達成するためには莫大な計算コストがかかることが判明したため、他の物質でのシミュレーションも合わせて論文にまとめる方針を検討している。前年度デュアルディグリープログラムで培った応用数理の知見を活かし、高効率固有値解法である櫻井杉浦法をBogoribov-de Genness方程式に適用し、高効率計算が出来る事を実証し、超大規模系の理論計算の可能性を示した。
著者
渡邉 信 中嶋 信美 河地 正伸 彼谷 邦光 加藤 美砂子 宮下 英明 白岩 善博
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は将来のBotryococcusを用いた石油代替資源開発に資するため、Botryococcus炭化水素生産代謝経路の生合成経路やその調節機構並びに大量増殖機構に関わる生物学的・化学的研究を行った。その結果、1)鉄成分が細胞やコロニーの形状、そしてオイル生産に与える影響が大きいこと、2)Botryococcusの63株の生産する主要炭化水素は直鎖アルケン型(race A)、トリテルペン型(race B)、テトラテルペン型(Race L)および上記3つの型のいずれにも属さない種々の構造のものが含まれるマルチ型タイプに分類されたこと、3)BOT-70はMEP経路を使ってテルペノイドを合成していること、4)炭化水素合成時にはSAMサイクルが活性化されていること、5)B.brauniiの大量発生には亜熱帯地域の夏季の成層形成・日照が重要であり、また窒素分濃度の高い水域にはB.brauniiはほとんど出現しないこと、6)細胞増殖が飽和する以上の光エネルギー(40μmol photons/m^2/s)が光合成生産を介して炭化水素生産等の物質生産に振り分けられていることが示された。
著者
庄司 学 八木 勇治 永田 茂 丸山 喜久 村尾 修 藤井 雄士郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、ライフラインシステムの中でも電力、都市ガス、上水道・下水道、道路網、通信に焦点をあて、東日本大震災のような地震と津波の作用が複合化する「地震津波複合災害」を対象とした上で、ライフラインシステムの物理的及び機能的被害と復旧支障の相互連関を精度よく表現する数理モデルを構築し、被害を受けた後の応急復旧過程の問題構造を定量的に明らかにした。
著者
池田 真利子
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

平成26年度は①H25年度までに調査したシュプレー沿岸域における開発計画のその後の展開に関する調査,②新選定調査地である旧西ベルリン市ノイケルン地区における調査を行った.まず,ベルリン市はEU域におけるドイツの経済・政治的中枢化に伴い,リスクの低い投資先として注目され,特に住宅を含む土地価格が地域的に偏在性を示しつつも上昇傾向にある.メディアシュプレ-計画はこうした開発動向に先駆けて,河岸域の開発特性をメディア関連産業の集積誘致と特色付けることにより,地域の全体的な開発を期待したものであった.しかし実態としては,旧市有地等の売却促進であり,必ずしも市民が望む開発ではなかったことが大きな市民運動の発生と区投票の開催をもたらした.また,旧東西境界域に属する同地域では,統一前後より以下2点の要因からアーティスト・市民主導による文化・創造的利用が積極的になされていった.1点目は旧東西境界域であるために,歴史的建造物や産業・工業遺産群が未修復の状態で残存していた点,2点目は第二次大戦後すぐに旧東独領に位置したため地権の所在が不明確であった点である.こうした状況下において,1990年後半以降には一時的な土地利用形態としてテンポラリーユースが利用されていったが,こうした文化創造的な場所性は観光産業振興においても積極的役割が期待され,2014年には一部地域において同計画が見直されることとなった.一方,ベルリン市インナーシティ地区の構造再編は,旧西独地域へと及びつつあり,当該年度は中でもノイケルン地区北東部ロイター街区におけるアーティスト,小売店事業主(商業,サービス業)を対象に経営形態や開設年,立地選択理由等に関する聞取り調査を行った.その結果,ロイター街区の改善過程においてアーティストは,カフェ・バーなどの集積を誘発している点において地域改善を促しているということが明らかとなった.
著者
佐藤 政良 NIYAMAPA Tan BAHALAYODHIN バンショー 佐久間 泰一 真板 秀二 小池 正之 BANSHAW Bahalayodhin TANYA Niyamapa NIVAMAPA Ton VUDHIVANICH バラウト PONGSATORN S TANYA Niyama VARAWOOT Vud JESDA Kaewku BANSHAW Baha 杉山 博信
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

戦後に建設されたタイ中央平原における近代的灌漑システムの現状を末端農村レベルまで調査し、独立的といわれるタイ農民の協同的水管理行動について検討した。チャオブラヤ川流域における乾期の絶対的水不足環境の下で、政府の努力に関わらず、Water Users′Group(WUG)が十分に機能せず、とくに乾期の水配分が政府の意図通り計画的に実施できていないことを明らかにした。末端レベルでは、圃場条件に応じた水管理が行われ、用水配分は一般に上流有利になっていて、水条件のよい農民だけが3期作を実現できる。用水確保のため、必要な限りではあるが協同で水路維持事業を実施している。圃場整備実施に対しても、村としての事業参加が見られ、大半の農民が参加している。しかし道水路密度,換地方法,不賛同者地区除外の仕方などに日本との違いがあることが指摘された。補助金等の政策技術によって、WUG活動へのインセンティブを高めることが必要である。中央平原稲作地帯における大型トラクタ走行の阻害要因であるBangkok clayey soilに対する動力学的試験を行い、繰り返しねじりせん断試験における繰返し回数の増加につれて、ねじりせん断ひずみと間隙水圧が増加することを見いだした。乾燥密度と載加周波数がねじりせん断応力に及ぼす影響も明確になった。流域保全に関しては,メクロン川流域における土壌侵食および浮遊土砂流出と流域特性を解明するため、(1)流域および降雨特性、(2)タイの他諸河川との比較によるメクロン川の浮遊土砂流出特性、(3)浮遊土砂流出量推定式、(4)支流のクワイ・ヤイ川、クワイ・ノイ川およびランパチ川の浮遊土砂流出特性,の検討を行い、流域上流部に対して下流部の方が浮遊土砂のより大きな供給源になっていることを明らかにした。流域の長期的・持続的利用にとって、開発農地における土壌流亡対策の実施が重要であることを指摘した。
著者
寺山 由美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ダンス学習における表現について再検討してきた。体育授業におけるダンス教育においては、「意図して動くことがすなわち表現である」ということを学習内容として捉える必要があるだろう。ただ無意識のうちになんとなく動くのではなく、「私の気づき」「私のイメージ」を意図的に身体運動に反映させて動くことができる教育を促すべきであろう。
著者
茂呂 雄二 篠崎 晃一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、幼児の言語に関する、メタ認知を測定する研究方法を開発し、これを用いて幼児自身の方言-共通語の違いに関するメタ認知と使い分けの能力の発達過程を明らかにする。そしてこの知見をもとに、従来の単線型の言語発達理論に対して複線型の理論を開拓することを目的にした。以下の3点を行った。(1)個別実験にもとづく横断的方法によるデータ収集(2)自然談話の分析に基づく、幼児・児童のジャンルの使い分け能力の発達過程の記述(3)音声メタ認識を形成していない児童に対する形成実験の実施(1)については、成人から収集した方言音声に関する正誤判断課題、ならびにその簡約版としての質問紙型テストを作成し、実施した。幼児から中学生を被験者として得た資料から、小学校中学年からメタ言語能力の質的な転回が見られることが明らかになった。(2)については、幼児期から小学校への移行過程のビデオ資料と、児童の一日の言語生活資料を文字化してデータベースを構築した。(3)については、研究の方法論を整備し、異音韻を含む語でありながら、かな文字では区別不可能な単語対を文字化させる、『かな文字コンフリクト課題』を創案し、小学校低学年児童と高学年児童に実施し、音声に対する自覚の変化を追跡した。
著者
高田 裕光
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

うつ病心理教育の為のweb自己カウンセリングシステムは、これまで我々によって試行されている(宗像、高田ら、2009)。本研究は、回復期統合失調症の心理教育の為に家族や回復期にある本人が利用できるWEB心理教育システム作成を目的とし、本年度はまず、そのコンテンツ作成計画を立案した。統合失調症は、難治化させやすい遺伝的気質を持つ症例とそうでないものがある。その疾患の性質と難治化させやすい遺伝的気質との混同が、一般のみならず専門家にもみられる。遺伝的気質の弊害を克服するために特定のセルフケアによる心理教育をする必要がある。なかでも、(1)調節物質セロトニン神経伝達が不足した場合、緊張物質ノルアドレナリン分泌を調節しがたい損害回避遺伝子を持つため、神経質で思い込みや妄想を持ちやすい不安気質者には、クールダウンの為のセルフケア、また報酬物質ドパミン神経伝達が不足した場合は、報酬不全の遺伝子があり、生真面な執着気質者には「まあいいか」と心の声を10回以上行うというセルフケア、また鎮静物質ギャバ神経伝達不足も伴うことから、対人緊張をさける単独性指向がある自閉気質者には心のサポーターをもつセルフケアが必要である。(2)難治化する統合失調症は、これらの気質を持つ症例が一般的であるので、思い込みや妄想、感情的巻き込み、強い・高い・急激な音声などの高感情表出を避ける環境形成を家族や援助者に心理教育する必要がある。(3)緊張物質ノルアドレナリンを減少させるためにメジャーリーガーがガムを噛むように、「関係者以外に愚痴る(咀嚼運動)」セルフケアを自己練習したり、また相手の意見を繰り返し、私表現で自分の意見をつぶやく自己練習が必要であり、これらをweb上で行うプログラムを計画した。
著者
山田 有芸
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

家庭内言語が外国語であるニューカマーの児童(以下、ニューカマーの児童)の支援ニーズを包括的に捉え、支援の実態と有効な支援について検討を行った。本研究の成果は、中学生以上が主に対象とされてきたニューカマーの子どものうち小学生児童の支援ニーズに特化し、事例検討、事例校検討、質問紙調査、インタビュー調査、フィールドワークという様々な調査手法を用いて彼らの支援ニーズを詳細に明らかにした点にある。特に学校における支援ニーズに着目し、学校で提供できる支援と提供者(支援者)について二ューカマーの児童本人への調査を通じて明らかにした点に特徴がある。本人が日常的に発する支援ニーズを明らかにすることで、日常的かつ長期的な学校支援のあり方について重要な示唆を与えることができると考える。交付申請書では研究課題を5つ提示したが、研究を進める過程でニューカマーの児童本人の支援ニーズをより具体的に検討するため研究課題①~④の分析の再検討を行った。まず、ニューカマーの児童に提供される支援についてソーシャルサポートの観点から詳細に整理するため、研究課題①~②(二ューカマーの児童の支援ニーズを回顧法または観察によって明らかにした。)の分析方法を再検討し、最終的な分析結果を出した。次に、研究課題③では学校教育実践に多大な影響力をもつ学校教員の役割に着目してデータの読み込みを行い、学校教員が捉えるニューカマーの児童の支援ニーズと学校実践の実態を明らかにする分析を最終的に行った。研究課題④では、様々な母語背景をもつニューカマーの児童を対象としたインタビュー調査を実施した。母語の違いを越え児童に共通の支援ニーズと個別特徴的な支援ニーズを過去、現在、未来という異なる時間軸をもとに取り上げた。また、担任と日本語指導担当教員に質問紙調査を行い、教員間で支援ニーズの捉え方に違いがあることを指摘した。
著者
泉 直志
出版者
筑波大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

理科授業の中でアーギュメントを促すための教授方略を創出することを視野に入れ、日本の生徒の実態把握、及び、諸外国での理科授業におけるアーギュメントの取り扱いについて分析を行った。日本の生徒の実態については、論拠が明示されず実験事実のみを主な理由として主張が行われる傾向があることが明らかとなった。諸外国での理科授業におけるアーギュメントの取り扱いについては、最終学年までに期待されるアーギュメントの到達目標がフレームワーク中に明記されており、学年の進行に伴いアーギュメントの能力が複雑化することがNGSSから見いだされた。授業の具体的展開については今後の課題としたい。