著者
中島 直也 福田 友紀子 梁 広石 饗庭 三代治 津田 裕士
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.302-305, 2007-06

リウマチ因子陰性の多発関節痛を訴える高齢者を診療する際に, RS3PE症候群Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema Syndromeは鑑別すべき疾患の1つである.当該症候群と診断した4例について,診断・治療における留意点を指摘した.何れの症例も高齢者(76〜85歳)であり,突然の発症,対称性多発関節炎,両側手背足背のpitting edema,およびリウマチ因子陰性が共通した所見であった.プレドニゾロンの投与が著効を示したが,その減量は注意深く行う必要性があると判断された.
著者
長岡 鉄太郎 守尾 嘉晃 高橋 史行
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

PDGF、FGF、VEGFを抑制するTKIであるNintedanibの肺高血圧症(PH)治療薬としての有用性を検証した。ヒト肺動脈の血管内皮細胞と平滑筋細胞を用いて、内皮間葉転換(EndMT)と平滑筋細胞増殖に対するNintedanibの抑制効果と、PAHラットへの慢性投与の効果を確認した。Nintedanibは、平滑筋細胞の増殖とリン酸化ERK/AKTの発現を減少させ、内皮細胞のEndMT誘導を抑制した。PAHラットへの慢性投与により、肺血行動態と肺動脈中膜と内膜の増殖が改善した。以上より、NintedanibはEndMTと平滑筋増殖の抑制を介して新規PAH治療薬になり得ると考えた。
著者
鯉川 なつえ
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

我が国の女性アスリートの活躍はめざましく、ついにアテネ五輪に出場する女性が史上初めて男性を上回った。しかし、女性アスリートは男性アスリートとは異なり、「月経」があるため試合におけるコンディショニングに特に配慮しなければならない。また、月経が周期的に起こる選手であっても、月経前から月経中はスポーツ外傷が多いという報告や、競技成績が悪いという報告もあり、せっかくのトレーニングが水の泡と消えてしまう可能性もあるだろう。しかし、諸外国の月経コントロールに関する調査報告は非常に少ない。そこで本研究は、早くからピルが認可され、手軽にピルを使用できるアメリカの女性陸上競技者と、日本の女性陸上競技者を対象に、月経異常の発症、月経による競技パフォーマンスの影響および月経コントロールの実態についてアンケート調査を実施し、諸外国の月経に関する現状を明らかにすることを目的とした。本研究は、日本の学生陸上競技者42名(20.0±1.3歳)およびアメリカの学生陸上競技者34名(19.4±1.4歳)計76名を対象とし、比較検討を行った。その結果、月経が停止した経験のある人は、アメリカに比べ日本のアスリートの方が有意(p<0.01)に多かった。また正常月経の者は、月経に伴う症状は日本とアメリカに差はないが、日本のアスリートは月経によるパフォーマンスの低下を有意(p<0.05)に感じていた。ピルの使用経験や知識はアメリカのアスリートの方が有意(p<0.05)に多かったが、競技活動に有効に利用されていない現状がうかがわれた。
著者
井下 綾子
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

日本人の先天性難聴原因遺伝子の中で最多であるGJB2遺伝子変異(コネキシン26)の発症原因の探求を目的とした。GJB2遺伝子変異モデルマウスの聴覚発育段階での内耳の機能・組織学的評価の結果、高度難聴およびコルチ器形成不全を認めた。これらは柱細胞内のmicrotubules形成やGERのアポトーシス遅延との関与が判明し、将来的なGJB2遺伝子変異難聴の根本的治療確立に大きく貢献するものと考えられる。
著者
形本 静夫 青木 純一郎 内藤 久士
出版者
順天堂大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ソフトボ-ル部活動が児童の体格および体力、特に健康に関連した体力要素に及ぼす影響を1年間にわたり追跡研究した。また、同時に練習時の運動強度およびエネルギ-消費量ならびに練習による尿中成分の変化についても検討を加えた。被験者にはソフトボ-ル部活動に定期的に参加している小学校4年生男子7名と5年生男子6名の計13名と日頃規則的に身体活動を行なっていない5年生男子6名を用いた。なお、5年生部員は翌年の8月の時点でトレ-ニングを中止した。練習時間は冬季が約2時間、夏季は4〜5時間であった。部員が冬季および夏季にそれぞれ平均1時間53分および4時間31分練習に参加したときの運動強度は、被験者のVo_2maxの46±11および39±13%に相当し、冬季の方が高い傾向にあった。また、1時間当たりのエネルギ-消費量も冬季(235±62kcal)が夏季(200±59kcal)よりも高い傾向にあった。しかし、部員が夏季に1日5時間の練習に参加したときのエネルギ-消費量は彼らの1日のエネルギ-所要量の約1/2の1000kcalに達し、栄養学的な配慮が不可欠であることが示唆された。また、練習による蛋白尿の出現は冬季に17例中8例(±〜+)、夏季に18例中11例(±〜++)に認められたが、++の反応(3例)は夏季のみにしか観察されなかった。1年後、トレ-ニングを継続した4年生部員の身長、体重、除脂肪体重、握力、背筋力、垂直跳び、反復横跳びおよび最大換気量ならびにVo_2maxの絶対値には有意な改善が認められた。しかし、体脂肪率や体重1kg当たりの最大換気量およびVo_2maxに有意な変化は見られなかった。このような傾向は夏以降トレ-ニングを中止した5年生部員や対照群の児童にも観察され、定期的なソフトボ-ルへの練習参加が児童の体格や健康に関連した体力要素に及ぼす影響は必ずしも明らかではなかった。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.102-108, 2007-03

本研究の目的は,「生産性」に関して逆方向の発達課題を担っている児童期と老年期にある者が交流をもつことによりもたらされるものについて,発達心理学の観点から考察を行うことである。考察の対象としたのは,偶然交流をもつようになった孤独な老人と寂しさや問題をもつ少年が,交流を通して独特な形で支え合い,老人の死後も少年の心を支え続けるようになる過程を描いた2つの小説,「博士が愛した数式」と「夏の庭」である。なぜそのようなことが可能になったのかの分析を行い,1)老人のもつ能力や特質が少年達の発達課題の取り組みに合っていて,そのサポートができたこと,2)少年たちは他の大人から道具的・情緒的サポートを受けたり,存在を認めてもらうことが少ない少年だったという2つの要因が抽出され,そのことが双方が相手の「役に立っている」という気持や,自分が相手から必要とされ大切にされているという気持をもたらし,Eriksonの相互性が成立したことが示された。老人と少年との間にこのような交流がいつもおこるわけではなく,老人の状況,少年側の状況,交流の中味,それらの条件が整った時のみに,相互性の体験がもたれることが論じられた。
著者
冨木 裕一 坂本 一博 鎌野 俊紀
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.338-346, 2004-12-22
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年わが国では大腸癌が増加しているが,その原因として食生活の欧米化により,脂肪の摂取量が増加したことが要因のひとつと考えられている.高脂肪食は肝の胆汁酸産生と分泌を亢進させ,便中胆汁酸の増加をきたす.実際に大腸癌患者の便中胆汁酸は健常者より高濃度であり,その組成も二次胆汁酸のデオキシコール酸(DCA)とリトコール酸(LCA)が多い.また,食生活の欧米化に伴い,血清コレステロールレベルの上昇も認められるようになっているが,コレステロール低値群に悪性疾患が多いことは以前より注目されている.消化管癌患者のコレステロールレベルをコントロールと比較すると,早期癌でも有意に低値を示したことから,担癌者の低コレステロール血症は経口摂取の低下や栄養状態に起因するものではなく,癌の早期から脂質代謝系に何らかの異常が生じている可能性があることが示唆された.大腸癌に関しては環境的要因が大きく作用するため,大腸癌の予防には食物や身体活動などの生活習慣の改善が重要と考えられている.しかし,それだけで予防できるとは言えないため,早い時期から定期的に検査を受けることも大切である.
著者
須賀 康
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.24-32, 2003-05-30

皮膚は外界からのダメージに対して生体を保護し,体内からの水分蒸発を防ぐ働きがあります.主たる役割を有する場所は表皮であり,ダメージに対抗するため,細胞骨格,膜骨格などを有しています.遺伝的な要因で「表皮バリアーの準備が十分にできない」という事態を生ずれば,先天性角化異常症(角化症)という病気が起こります.私は,このような角化症の病態生理・分子生物学的な解析に携わってきた経験を生かし,角化症の原因となる<細胞骨格・膜骨格の異常>について動物モデルを作成し,今後の病態解明・遺伝子治療などに役立てる試みを行って参りました.これらの動物モデルは,今後の先天性皮膚疾患の患者に対するex vivo遺伝子治療を考える上でも大変有用と思われます.すなわち本療法は,表皮基底層の幹細胞(stem cell)を見つけて培養,ノックイン法の技術により疾患遺伝子を正常遺伝子で置換します.そして,悪い遺伝子を取り除いた培養表皮シートを使って患者さんの表皮を植え変えてしまう方法です.表皮シートは患者本人由来ですから,拒絶されることはありません.このため,本療法は皮膚科領域の中では最も理想的な方法と考えられ注目されています.
著者
水野 基樹 田中 純夫 臺 有桂 北村 薫
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.29-37, 2006-03

近年,思春期教育に対する取り組みが,学校での自己完結的な活動から保健所との協働による有機的な連携へとシフトしてきている。地域社会における関係機関が連携を図り,各々の役割や機能を明確化することで,家庭教育の支援や思春期に噴出する性の問題等への健全育成活動に資するシステムの構築が望まれているのである。本稿では,地域保健システムへの取り組み,とりわけピアエデュケーター養成セミナーを事例として取り上げ,セミナー運営の仕組みを境界としてではなくシステムとして組織を把握するという観点から組織論的に検討を加える。加えて,ピアエデュケーター(大学生)がコーディネートしたピアグループ活動に参加した中学生を対象にして,自己肯定意識尺度を用いた質問紙調査を実施して,思春期教育への介入成果を測定した。結果は,「対自己領域」の項目において,全国平均データよりも明らかに上回っていた。また,ピアエデュケーターに対する自由記述による質問紙調査からも,ピアグループ活動を支持する意見が多く聞かれた。よって今後は,地域保健システム構築のための手段として,ピアエデュケーター養成セミナーの充実を図ることが重要である。各分野の専門家が有機的に協働システムを構築して,組織の境界を超えた思春期教育を展開する必要があると考えられる。地域社会と学校教育機関が主体となった新たな協働の場の創出が求められているのである。
著者
伊藤 美千代
出版者
順天堂大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究では、全国規模の無記名自記式質問紙調査により、炎症性腸疾患患者の職業発達の実態を明らかにした。難病をもちながら働くための職業発達は「無理なく働ける仕事内容、職場の選択」「症状や障害による仕事遂行への影響」「職場における困難への対処法の存在」など12項目の因子から構成され、それぞれの因子が地域における就労支援や家族支援、頼りに出来る人の存在などの環境要因と関連を有していた。
著者
市川 銀一郎
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.145-156, 2003-07-31
被引用文献数
1

当教室では内耳から聴中枢に至る各種情報を電気生理学的,またそれに準ずる手法の内から,非侵襲的に得られる聴性誘発反応・脳電図・双極子追跡・fMRIなどを用い《聴え》を見ることにより,聴覚障害の精密な部位診断法確立を目的として検討を行ってきた.聴覚情報は聴器から聴覚中枢路を上行し,聴中枢を経て言語中枢などに情報を提供する.1970年代よりmedical electronicsの発展が聴覚情報についての微細な検討を可能にした.1997年には日本脳波・筋電図学会(現日本臨床神経生理学会)による各種の誘発電位測定指針作成に当たり,当教室は聴性誘発電位の測定指針の作成を担当した.現在,わが国で実施されている本反応検査はこの指針に従っている.われわれは聴覚情報が内耳から聴中枢に上行する過程を連続的に<見る>ため対数時間軸表示による記録を行い臨床応用している.脳電図(脳等電位図;Brain mapping)は頭皮上に投影される電位分布を見ることにより聴覚路の動態を知る手がかりとなり,当教室はわが国で最も早くその研究に着手した.双極子追跡(Dipole tracing)は音の情報が上行する過程につき連続的にその位置,方向などを<見る>ことができる.fMRIでは聴皮質近傍の情報に限られるが,純音と語音とでは優位半球が異なるなど感音難聴における語音明瞭度の低下に関する病態を<見る>方法としての可能性を秘めている.これらの手法は,いづれも利点・欠点を有するが中枢聴覚路の病態を論ずる場合,有用な情報を提供してくれる.一方,耳音響放射(Otoacousitic emission;OAE)は蝸電図と共に詳細な内耳機能を非観血的に<見る>ことができる安定した現象である.近年,急速に臨床応用が成されている.途半ばではあるが,聴覚障害の詳細な病態をreal timeで<見る>ことにより速やかな診断・治療が行われる時代が近づいている.《聴え》を見ることは生涯の夢である.
著者
松村 ちづか
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医療短期大学紀要 (ISSN:09156933)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.31-40, 2002-03-29

在宅痴呆性老人家族介護者Hさんが,痴呆の義母の辛い介護体験を乗り越え,自己を強化し,介護体験を肯定的に人生に意味づけていく過程を「自己強化のプロセス」と規定し,そのプロセスと,そのプロセスに関わる他者の関わりが,介護者の内面にどのような意味をもたらしているかを半ライフヒストリー的手法を用いて探求した。その結果,Hさんは,混乱・引き受け・ネットワーキング・選択・変化・自己実現というプロセスを経て,痴呆性老人の介護体験を自己の人生に肯定的に意味づけていた。また,その過程に重要な関わりを持つ他者として,家族や血縁の身内・介護する痴呆性老人自身・他介護者・ペットなどの動物や星などの自然があり,様々にHさんの内面に影響していた。Hさんは,痴呆の介護という困難な状況を自己の人生に肯定的に意味づけていったが,その核になるものとして,Hさんの生育過程の中での自己を大切にするあり方があり,そのあり方が他者との関わりの中でさらにエンパワーされ,介護体験と共に,そのあり方,生き方を変化させていったと考えられた。
著者
杉山 智子 松井 典子 深堀 浩樹 須貝 佑一
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-9, 2008-03

本研究は,アルツハイマー型中期認知症患者にADLケアを行うときに生じる抵抗に際した望ましい認知症ケアのあり方を検討することを目的とした。老人病院認知症病棟に入院中の自立歩行可能なアルツハイマー型中期認知症患者7名とケアスタッフ20名を対象に患者1人あたり各40時間の参加観察法を実施した。ケア開始時に抵抗がみられた場面のうちケアの完了時に患者の笑顔が伴った場面のケアを「満足できたケア」,伴わなかった場面のケアを「満足できなかったケア」,ケアが完了できなかった場面のケアを「中断したケア」とし,声かけ,ケア所要人数ならびに時間について,統計学的分析を行い,それぞれのケアの特徴を検討した。各ケアとケア所要時間との関連では,排泄,身支度,食事で「満足できたケア」は「満足できなかったケア」よりもケア達成までの時間が有意に長かった。また声かけとの関連では,「満足できたケア」の方が「満足できなかったケア」よりも,ケア中の日常会話が有意に多く観察された。ケア抵抗時におけるかかわりにおいて,時間をかけ,日常会話を取り入れてケアを行うことで患者が満足できる,すなわち望ましいケアの実現に結びつくと考えられた。
著者
川崎 誠治 石崎 陽一
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

GV/SV比40%以下のグラフトを含む左葉グラフトを用いた生体肝移植でも成績は良好であった(1年生存率100%、5年生存率94%)。左葉グラフト移植後に門脈血流量の著明な増加が認められた。また移植後門脈圧と移植後二週間の一日平均腹水量に相関が認められ、移植後の門脈圧が25mmHg以上の症例では大量の腹水が認められた。移植後門脈圧が25mmHgでは脾動脈結紮、脾摘などの門脈流量調節が必要と考えられた。
著者
檀原 高 岡田 隆夫 高宮 信三郎 藤岡 治人 大草 敏史 藤沢 稔 前田 国見 深沢 徹 榎本 冬樹 藤本 幸雄 高崎 覚 各務 正 木南 英紀
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.502-508, 2004-01-30

平成15年6月6日に順天堂医学教育ミニワークショップが開催された.80名を越える教員が参加し,良質の多肢選択問題を作成するために討議を行った.会議に先立ち,平成14年度医師国家試験成績・共用試験のCBTと学内試験(基礎医学・臨床医学および卒業試験)との良好な正の1次の相関があることが示された(相関係数:0.65〜0.80).これらの結果が示すように,本学の学内試験は医師国家試験とCBTにとって良質な問題が作成されていることが示唆される.
著者
浜野 光之 中島 宣行 川合 武司
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

今年度は、大学生男女バレーボール選手を用いて、特に、トーナメント方式の東日本インターカレッジおよび全日本インターカレッジを中心に、競技開始前の心理的競技能力および状態不安とパフォーマンスの関係を明らかにしようとし、以下のような結果を得ることができた。また、中国遠征の機会を得た男子チームのデータも収集することができた。(1)競技開始2時間前および直前の状態不安は、平常時よりも高くなる傾向が伺えた。(2)トーナメント方式のインカレでは、緒戦や拮抗した展開が予想されるようなチームと対戦する競技開始前の状態不安は、他の試合の時よりも高くなる傾向がみられた。(3)競技開始前の状態不安とパフォーマンスとの関係は、現在のところ一定の関連性は認められていない。(4)競技終了直前の状態不安は、勝利を収めた試合では低下し、敗戦の場合は変化しないか上昇する傾向がみられた。(5)全日本・東日本インターカレッジよりも、自我関与度の強い関東リーグ戦の方が、全体的に強い状態不安を示した。(6)女子選手の方が男子選手に比べて全体として高い状態不安を示す傾向にある。
著者
金子 育世
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

第一言語および第二言語としての英語によるライティングとスピーキングに現れる愛情表現と哀悼表現における類似点と相違点を観測するため、米語母語話者と日本人英語学習者を被験者として生成実験を実施した。ライティング実験においては被験者全員に同じ条件下でラブレターとお悔やみの手紙を書かせ、日本人英語学習者による手紙には英語母語話者による手紙に観察されるパターンとは異なるパターンが観測された。スピーキング実験ではテープレターを作るという設定のもとで手紙を読ませ、日本人英語学習者は愛情表現よりも哀悼表現において習得が進んでいることが示唆された。
著者
中村 恭子 広沢 正孝 細見 修 山倉 文幸 鈴木 利人
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

統合失調症患者は中強度の歩行運動で快感情やリラックス感が増加し、不安感が減少、クロモグラニンA値やコルチゾール値が減少した。また、患者は一般成人より運動前から不安感やα-アミラーゼ値、クロモグラニンA値が有意に高く、運動後のアミラーゼ値の増加やクロモグラニンA値の減少が著しかった。患者は一般成人より体力が低いため、中強度の運動が精神的ストレス軽減をもたらす一方で身体的ストレスとなる可能性が示唆された。そこで、多様な運動強度に対するストレス反応を比較した結果、微細運動のフェルデンクライス・メソッドATMが低強度や中強度の運動よりも患者の心理的・生理的ストレス値の軽減に有効であることが判明した。
著者
中村 洋
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.372-376, 2008-09

中高年にみられる関節痛のもっとも多い原因が変形性関節症osteoarthritis(OA)である.保存的治療として,安静,保温,運動療法に加えて,薬物治療が行われる.アセトアミノフェンは容易に購入できる鎮痛薬で,本邦では一日1.5gまで使われる.痛みが強い場合は非ステロイド性消炎鎮痛薬nonsteroidal anti-inflammatory drug(NSAID)であるインドメタシン,ジクロフェナック,ロキソプロフェンといった薬を使用するが,上部消化管障害などの副作用に注意が必要である.これらの薬剤はシクロオキシゲナーゼcyclooxigenase(COX)を抑えることによって,痛みや炎症の原因となるプロスタグランディンE_2(PGE_2)の産生を抑制して効果を発揮する.近年,胃腸障害を軽減するため,COX-2選択的阻害薬が使われるようになってきた.関節内へ薬剤を直接注入する治療法も医療機関では行われている.ステロイド剤は即効性があり,効果も劇的であるが,副作用を避けるため頻回に用いないほうがよい.ヒアルロン酸はその物理的性質と抗炎症作用により,OAの症状を軽減するとされている.副作用が少なく,定期的に注入して効果をあげている.現在販売されているサプリメントにはさまざまな種類があるが,グルコサミンはその作用が科学的に議論されている唯一の物質である.グルコサミンのOA治療への歴史は1960年代のドイツにさかのぼる.その後,1990年代後半から北アメリカで大ブームを巻き起こし,いくつもの臨床治験が行われた.有効性を示す研究結果があるが,否定的な意見もある.一方,グルコサミンの基礎的研究は盛んに行われており,抗炎症作用,軟骨分解酵素の抑制作用が明らかにされ, OAの症状を軽減するだけでなく,進行を抑制する可能性が克く示唆されている.
著者
池田 真一
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

運動は筋インスリン感受性を亢進することで、メタボリックシンドロームや2型糖尿病の予防・治療に極めて有効であるが、その分子メカニズムは明らかにされていない。我々は、運動により骨格筋内の抗炎症性マクロファージであるM2マクロファージ数が増加し、これにより、筋インスリン感受性の亢進が起こっていると仮説した。C57BL6Jマウスに一過的トレッドミル走を施すと、骨格筋内のM2マクロファージ数は増加し、これに伴い筋インスリン感受性の亢進も認められた。しかしながら、運動前に全身のマクロファージを枯渇させる薬剤であるクロドロネートリポソームを投与すると、運動後に認められたM2マクロファージ数の増加、筋インスリン感受性亢進の両方が起こらなかった。このとき、いくつかのシグナル伝達経路の活性化を検討したところ、インスリンシグナル(Akt-AS160)やAMPK経路は運動やクロドロネートリポソームによる変化は認められず、PKC経路が運動により活性化されており、この活性化はクロドロネートリポソームにより抑制された。これらのことから、運動による筋インスリン感受性亢進は、M2マクロファージがPKC経路を介して引き起こしていることが示唆された。