著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医療短期大学紀要 (ISSN:09156933)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.44-53, 1992-03-25
被引用文献数
1

学業-職業志向が異なる女子青年においては,性役割に関する自己認知の様相が異なるだろうという仮説のもとに,性役割と関連する特性について看護学生と社会科学専攻の女子大生を比較検討した。その結果次のことが示された。1)理想自己については,看護学生の方が女性性に該当する特性をもちたいとしていた。2)現実の自己に関しては両群間にほとんど差はなかった。しかし3)自己を認知する時の中心的な軸,及び4)自我同一性と性役割特性との関連の仕方において相違が見られた。社会科学系専攻の女子大生においては,外界に積極的能動的にかかわり一人でやっていく力-男性性-をもつかどうかが,自己認知の中心的な枠組みで,個の力をもつ者は全体的に好ましい特性をもつし,「確かな自分」をもつこととの関連も非常に強かった。それに対し看護学生においては,共同性や関係性-女性性-の方が自己認知の枠組みとして重要であり,他者とのかかわりに関する肯定的な特性をもつことが,個の力をもつことと同様に「自分の確かさ」と関連することが示された。
著者
牛澤 美恵子 北島 靖子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医療短期大学紀要 (ISSN:09156933)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.14-24, 1995-03-25
被引用文献数
1 1

本学学生の子どもに対するイメージとその変化について幼稚園・保育園実習前,実習後,小児病棟実習後の3期について調査し分析した。その結果,幼稚園・保育園実習を経験することにより,多項目の肯定的なイメージが強まった。また小児病棟実習により「きれい」の項目が強まり,「純粋」「好奇心」「明るい」「楽しい」「みずみずしい」の5項目のイメージは幼稚園・保育園実習後よりも弱まった。しかし幼稚園・保育園実習前と比較すると弱まった項目は無く,「正直」「楽しい」「おもしろい」「きれい上「子どもと話したい」「一緒に遊びたい」「だっこしたい」「守ってあげたい」「子どもに触れたい」「好き」の10項目が強まっていることがわかった。子どもに対する肯定的なイメージを強める小児病棟実習の条件は,患児とのコミュニケーションがよくとれること,小児病棟実習を楽しかったと思えることであった。また小児病棟実習が楽しかったと思えることに影響を与える,患児に関する実習条件は,コミュニケーションレベル,病状,状態の変化である。効果的な小児看護教育のために学生のレディネスに合わせた実習条件を整えていくことが重要であると考える。
著者
小谷野 康子 宮本 真巳 森 真喜子 立石 彩美 小泉 仁子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、精神科外来デイナイトケアにおける感情活用能力促進プログラムの有効性を明らかにすることである。弁証法的アプローチを用いた当該プログラムに衝動性コントロールの目的で1年以上参加している患者1事例にインタビューを実施して介入後の変化についてグラウンデット・セオリー・アプローチを用いて質的帰納的に分析した。当該プログラムは、患者の感情制御、思考の修正、行動の変化に貢献していた。その結果、患者は社会での新しい役割に関与し、健康的で現実的な生活を模索する新たな生き方を獲得していた。
著者
荒賀 直子 白石 安男 元永 拓郎
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.508-518, 2002-03-22

アトピー性皮膚炎患児(以下AD患児と略)を養育している母親からの日常生活に関わる多様な訴えの奥にある育児に関する不安や心配を理解し,母親への心理面への支援をおこなうことは母親の心身の健康維持に重要であり,児のADの改善に良い影響を与えると考えられる.これらのことを踏まえてAD患児の母親の心理面への支援に必要なことを検討する目的でADと診断されている3,4,5歳児の母親44名を対象に,育児に関する不安項目・日本版STAI(State-Trait Anxiety Inventory)・その他の項目を用いてADではない3,4,5歳児の母親108名との比較により分析・検討した.その結果,本研究の対象となったAD群の母親,対照群の母親共に育児に関する不安要因は特性不安に関連する<児の年齢>・<就業>・<私は生き生きと育児している>・<気が滅入ることがよくある>・<とても心配性であれこれ気に病む>の5項目と状態不安に関連する<夫と一緒に育児していると感じる>・<同居家族数>の2項目であった.AD群の母親では児の年齢が上がること,母親が就業していることは不安を大きくし,同居家族数が多いことは不安を小さくし,また母親の心的状況は,不安はありながらも夫と協力して生き生きと育児をしており,夫と協力し不安なく生き生きと育児をしているが気がかりや心配があり不安が大きい対照群との相違が明らかになった.これらのことからAD群の母親の心理面への支援には重要他者(夫・医師など)との良好な関係が必要であることが示唆された.
著者
柳田 美子 山田 浩平 鯉川 なつえ
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂大学スポーツ健康科学研究 (ISSN:13430327)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-39, 2008-03

We conducted a survey on the effects of the intake of natto, which is said to contain many isoflavones,on the menstruation related syndrome of females.The subjects were 79 students of sports science and 57 humanities students from universities located in Chiba Prefecture.The results of the survey were as follows: 1) 82.6% of the students replied that they experienced menstruation related syndrome at the time of menstruation. 2) More sports science students experienced physical pains like lumbago during menstruation than did humanities students. On the other hand, more humanities students experienced mental difficulties,saying that they could not concentrate on study during menstruation as compared with non-menstruation time. 3) As to the intake frequency of natto, more students of low intake frequency experienced physical pain and/or mental trouble than those of high intake frequency. 4) According to the above results, it is suggested that the intake of natto has some positive effect on reducing menstruation related syndrome.
著者
島内 憲夫
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.410-420, 2007-09
被引用文献数
1

本研究の目的は,ヘルスプロモーションの視点から主観的健康観(健康の定義)の年齢差・性差・年次差を明らかにし,その類型化を試みることにある.ヘルスプロモーションとは,「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし改善することができるようにするプロセスである.」この健康の決定要因は,遺伝,ヘルスサービス,ライフスタイル,環境要因が考えられるが,ヘルスプロモーションの主眼は,ダイエット,定期的な運動や禁煙そして家族や友人などとの良い人間関係,音楽や絵画などの趣味活動,さらには自然とのふれあいなどといったような幅広い健康的な生活習慣形成にある.人々の健康的な生活習慣形成は,科学的な証拠Evidence Based Medicine(EBM)に基づくと共に,ライフコースの中で生じる人々の様々な日常的諸経験や物語Narrative Based Medicine(NBM)にも基づいてつくられている.健康社会学では,この健康的な生活習慣の形成過程を「健康の社会化Health Socialization」と呼んでいる.健康の社会化とは,「人々が当該社会における健康知識,健康態度そして健康行動の様式を内面化することによって,真の自由と幸せを獲得する過程である.」本研究は,その過程の中でも「健康知識」と「健康行動の様式」を媒介する「健康態度」に注目し,その中心を成す「人々の主観的健康観」の類型化とその性差・年齢差・年次差を明らかにしようとした.なぜなら,生活習慣病が蔓延している現代社会において,人々の幅広い健康生活習慣を支援するシステムを構築するためには,まず人々がNBMの視点から形成している主観的健康観も明らかにしなければならないからである.本研究によって得られた人々の主観的健康観は次の6つに類型化された. (1)「病気がない,身体が丈夫,快食・快眠・快便」といった身体的な健康観 (2)「幸せ,家庭円満,生きがいの条件」といった精神的な健康観 (3)「仕事ができること,人間関係がよい」といった社会的な健康観 (4)「心身ともに健やかなこと」といった身体的・精神的な健康観 (5)「心も身体も人間関係もうまくいっていること」といった身体的・精神的・社会的な健康観 (6)「人を愛することができること,何事にも前向きに生きられること」といったスピリチュアル(霊的・魂的)な健康観 そして主観的健康観は,年齢差,性差,年次差があること,また加齢や時代の移り変わりと共に身体的健康観から精神的,社会的,スピリチュアル(霊的・魂的)な健康観に拡大していることが明らかになった.
著者
坪内 暁子 奈良 武司 丸井 英二 内藤 俊夫 加藤 聖子 重松 美加 山崎 浩 FAN Chia-kwung CHANG Nen-chung Chang LEE Yunarn-jang CHANG Yu-sai TSAI Ming-dar JI Dar-der SUKATI Hosea Mlotshwa TU Anthony T.
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

台湾、日本、サントペ・プリンシペでの調査の結果、台湾と日本では医学生であっても感染経路や被害の状況を正確に把握していない、治療に関し最新の正しい情報がないため恐怖心がある、台湾の調査では「対策」の講義の機会のある公衆衛生学科の学生のほうが医学科の学生よりも正確に理解していること等がわかった。HIV/AIDSが日本国内に入って来て約20年が経過したが、新規感染者数は増加傾向にあり低年齢化してきている。日和見感染症や喫煙との関係が深いことは後述する調査で明らかとなった。HIV/AIDSの感染経路となるDrugや喫煙と併せて、正しい基礎知識と予防策を学校教育の中で教えていくことが重要である。
著者
工藤 綾子 稲冨 惠子
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. テーマ「災害時における集団避難生活者の感染予防意識と行動」を第14回日本在宅ケア学会学術集会(聖路加看護大学)にて発表した。回答者は117名。男性44.4%、女性55.6%である。本調査では(1) 集団避難生活者の感染症意識は災害発生時期や集団非難の規模の影響をうけている。(2) 避難期間の長さによって体調の変化、集団避難生活の仕方(清掃範囲・清掃場所)などの清掃意識に影響を与える。(3) 避難生活中の感染症予防行動がとれていない人は30%みられる。感染予防行動は水確保の影響を受けており、医療関係者派遣と同時に、早い時期の水確保が感染症予防と拡大防止につながることが明らかにされた。2. 全国の県庁・市役所の災害防災課担当者への調査結果:611箇所から回答を得た。災害時に充分対応できるかと感染症の知識の両項目には関係がみられ、知識が不十分な場合には充分な対応ができないと捉えていた。また、災害時に感染症の知識が不十分と答えた人と対策が必要な細菌・ウイルスはなにかわからないと答えた人には有意な関係がみられた。最も注意する感染症は「呼吸器系の感染症」が最も多く264名(43.5%)であった。「消化器系の感染症」138名(22.7%)では、災害時に対応できる人数が21~30人と答えた人の項目に有意な関係がみられた。仕事内容と災害時の対応では、「地域住民の安全対策」担当と災害時の対応が充分な対応ができるともできないとも言えないと答えた人とは有意な関係がみられた。防災担当する人には、感染症に対する知識が求められることがわかった。3. 今後の課題:行政調査の結果を学会に発表し、1.2の結果をもとにマニュアルを作成する。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.130-135, 2006-03

本稿では,高等養護学校でおこった2人の少年の思いがけない変化を描いた山田洋次監督の映画「学校II」をとりあげ,何が2人の少年を変えたのか,そこに教師の働きかけ・教育はどう関与していたのかを教育心理学の観点から分析し,それに基づいて大人は子供にどのようにかかわったらいいのかについての考察を行った。教師の熱心な働きかけによっても変わらなかった2人の少年が立ち直った要因として,1)教師ではなく仲間からの思いがけない働きかけ 2)少年たちの気持を理解しようとし,共感的にかかわる教師の対応 3)自分にも何かができるということの経験,4)教師による学習や自己統制への指導,が抽出された。以上の分析に基づき,子どもの発達的変化を促すものとして,大人との暖かく支持的な関係,親密な仲間や様々な他者との交流(子どもが他者をケアするような関係も含めて)が重要であり,そこで受容感や自分が有効性をもち必要とされている存在なのだという自己効力感を経験することが子どもを変えることが指摘され,更に子どもの能動性・自発性にもとづく教育だけでなく,時には大人が主導的にやらせて子どもに基本的な力をもたせて,自発的にやろうとした時にできるように準備を整えておくことの必要性が論じられた。
著者
徐 守宇 内藤 久士 高澤 俊治 池田 浩 黒澤 尚
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.160-166, 2005-06-30

目的:本研究では,阻血により筋肥大が引き起こされるか否か,さらに血流制限を行った筋の遺伝子発現,蛋白生成を調べることによって筋組織増殖が起こるメカニズムを検討した.対象および方法:SDラットを用い,右後肢腓腹筋と足底筋を切除することによって,ひらめ筋肥大を起こさせるモデルを作製した.コントロール群Control,腓腹筋と足底筋除去のみ群(OP),30分阻血のみ群(RBF)と腓腹筋と足底筋除去する同時に30分阻血群(OP+RBF)の4群に分けた.阻血を行う群は1週間に2回,全部で4回(各群同じパターン),後肢右側を血流制限した.コントロール群は自然飼育した.2週間後に屠殺し,採取したひらめ筋は,重量測定の後タイプI,およびタイプII筋線維のATPase染色と各タイプの面積測定を行った.さらにヒートショックプロテイン(HSP)72をウェスタンブロッティングにより分析した.結果:腓腹筋を切除することによって,ひらめ筋の肥大を起こさせるモデルを作ることができた.OP群,RBF群,OP+RBF群の順で筋重量と筋面積が高値を示し,OP+RBF群がOP群,RBF群およびコントロール群に比べていずれも有意に高値を示した。HSP72の亢進も筋増殖と高い相関を示した.結論:1,筋肥大に伴ってHSP72の発現が亢進することが明らかとなった. 2.適当な阻血により筋肥大をきたすことが証明された.
著者
竹井 謙之
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.487-491, 2007-09

最近わが国でも肥満が著明に増加しつつありますが,肥満に高い率で合併する疾患の一つに脂肪肝があります.脂肪肝は従来,進行しない良性の肝疾患と考えられていました.しかし,今や脂肪肝は生活習慣病の一つであると共に,メタボリックシンドロームや動脈硬化の発症・進展と直接関わりを持つことが明らかになりつつあります.肝臓は食事由来のブドウ糖を取り込んで肝細胞内に蓄え,空腹時など,諸臓器の需要に応じてブドウ糖を血液中に放出します.一方,膵臓から分泌されたインスリンは肝臓に作用して,ブドウ糖の取り込みを促進し,食後の過血糖を抑刺します.脂肪肝になると,肝臓におけるインスリン作用の減弱-インスリン抵抗性-が現れ,血糖制御の変調を招きます.また,インスリン抵抗性があると,これに打ち勝ってインスリンの作用を確保しようとして,血液中のインスリン濃度が上昇するため,インスリンの負の作用である脂肪合成亢進作用,血圧上昇作用,動脈硬化促進作用が前面に出ます.肥満・脂肪肝と高血圧や糖尿病,高脂血症はインスリン抵抗性を基盤としてそれぞれを増悪させていくわけです.アルコールを飲まない人にも脂肪性肝炎が発症することがあり,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれます.脂肪肝がまず存在して,そこに様々なストレスや障害因子が加わり,炎症の出現NASH発症に至ると考えられています.NASHは炎症を伴わない脂肪肝よりもさらにインスリン抵抗性が顕著であり,病態形成やメタボリックシンドロームの惹起に重要な役割を果たしています.また,NASHは炎症の持続から,肝臓の線維化を来して肝硬変,さらには肝がんまで進展しうる疾患です.メタボリックシンドロームの基盤病態として,また進行する肝臓病として,NASHを捉え,適切な対応をしていく必要があります.
著者
湯浅 資之 上野 里美 谷山 洋三 吉武 尚美 岡部 大祐 アウン ミョーニエン
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

脳の電気化学反応で生じるメンタルヘルスと異なり、生きる意味や人生の目的を質的に認知するスピリチュアルヘルス(SH)は、WHOも健康の定義へ加えることを討議しているが、SHに関する国民の共通理解も無い日本など慎重な国の棄権により追加は見送られている。独自の死生観を持つ日本人に適合したSHとは如何なるものか。本研究者らはその問いに対し「生き方を自己選択すること」との仮説を立て、本研究でこれを実証する。海外の文献を検討してSHの定義と分類、測定法を整理し、アジアや日本でSHに対する意識調査を行い、科学的かつ学際的見地から日本人に適合するSHの定義仮説を検証し、結果を普及するための書籍化を目指す。
著者
染谷 明正 長岡 功 鈴木 香
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

グルコサミンは関節機能の改善効果をもつ機能性食品素材として広く知られている。申請者らはこれまでグルコサミンの抗炎症作用および、その分子メカニズムを解析してきた。一方、その過程でアンチエイジング作用があることを示唆する結果が得られた。本研究では、グルコサミンの新たな機能としてのアンチエイジング効果およびそのメカニズムについて調べる。そのためにアンチエイジング作用を発揮するためのグルコサミンタターゲット分子を同定し、老化細胞ならびに老化モデル動物を用いて同定された分子の作用メカニズムを検証する。
著者
千葉 百子 稲葉 裕 篠原 厚子 佐々木 敏 下田 妙子 金子 一成
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

カザフスタンとウズベキスタンに跨るアラル海は琵琶湖の100倍、世界第4位の画積だったが、現在は約1/4の面積となり、20世紀最大の環境破壊といわれる。その結果、強い砂嵐が北西から南東にかけて吹くなど、気候変動も起きている。アラル海東側には原因不明の健康障害を訴える住民が増加した。2000年からこの地域の疫学調査に着手した。罹患率の高い貧血、呼吸機能障害、腎機能障害に関してその原因究明を行ってきた。腎機能に関してカドミウムによる障害ではないかと考えた。生体、食事、環境試料を分析したがカドミウムが原因とは考え難い。これまでに世界各地で採取した多数の飲料水を分析してきたが、この地域の飲料水中にはかなりのウランが含まれているものが多かった。そこで本研究ではウランを中心に健康被害調査を行った。2004年9月にクジルオルダ州の2村で無作為抽出した218名の学童を対象に調査を行った。そのうち155名が2005年2月の調査にも応じてくれた。対象学童から飲料水、尿、血液の提供を受けた。飲料水中ウラン濃度の高いものは約40μg/L、低いものは検出限界以下であった。全例の飲料水中および尿中ウランの相関係数はr=0.263であった。尿中クレアチニン(CR)濃度がウラン濃度と平行して増加していた。尿中蛋白濃度はウラン濃度の増加に伴って上昇したが(r=0.272)、NAGおよびβ2ミクログロブリンはウラン濃度と無相関であった。尿中の元素でウランと相関があったものはヒ素(r=0.608)とチタン(r=0.650)であった。飲料水中で有意な相関があった元素はストロンチウム(r=0.800)、鉄(r-0.719)およびカルシウム(r=0.719)であった。飲料水中ウランと腎臓機能障害の指標(NAG、β2MGなど)と直接関係するか否か今後も検討を続ける予定である。
著者
宮内 輝幸 奥村 康 平野 隆雄 片山 仁
出版者
順天堂大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近年、医療の分野における診断器機はめざましい発展をとげており、とりわけX線CTやDSAなどの開発・改良は著しく、もはやこれらなくしては高度医療が成り立たなくなっているといっても過言ではない。その結果として必然的に水溶性ヨード造影剤の使用頻度が増し、それにつれて多彩な副作用の発生が臨床上重視されている。しかしながらその発生機序についてはすべてが解明されているわけではなく、一部の症状では明らかに何らかのアレルギー反応の関与が疑われるものの、良好な実験モデルが作成できないことなどの理由から、とくに免疫学的機序の研究が遅れている。そこで我々は、今後の研究の展開の一助となることを期待して、実験系の確立すなわち動物(マウス)の免疫方法、抗体産生系の確立および免疫学的検出法の確立をめざし、以下の実験方法を試みた。抗マウス抗体であるDNP-KLHをBALB/cマウスに免疫し、血清中のIgEを増加させる抗体産生系を確立させ本研究に応用した。DNP-KLHを免疫した群と水溶性ヨード造影剤だけで免疫した群、さらに両者を同時に免疫した群にわけて、各群のIgE抗体産生の程度を比較した。抗体検出方法としてはELISA、PCA、FACSを用いた。その結果、1.水溶性ヨード造影剤は免疫反応に直接的には関与しない。少なくとも抗造影剤抗体の存在は否定的であると考えられた。2.しかしながら、水溶性ヨード造影剤の存在下で本来のIgE抗体産生が増強する可能性がある。3.この反応・変化にはインターロイキン(IL-4)が関与していると考えられた。4.現在までのところ造影剤の種類(イオン系と非イオン系、モノマー型とダイマー型)によって免疫反応への影響の仕方に有意差があるかどうかについては断定的な結論は出せない。遅発アレルギーの検討とあわせて今後に残された研究課題と考える。
著者
田中 裕 岩渕 和久 中村 有紀 岡本 健 平野 洋平 石原 唯史 近藤 豊 末吉 孝一郎
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

多臓器不全は大きな侵襲や重篤な感染症が契機となることが多く、治療に難渋しその死亡率も未だ高い。生体侵襲時には補体活性化が生じ、TMAが引き起こされる。TMAは全身臓器の微小血管の血栓形成と、血管内皮細胞障害を呈する。しかし生体侵襲時の補体活性化による多臓器不全の機序については明らかでない。本研究目的は侵襲時の多臓器不全の病態を補体活性化によるTMAという新たなる視点から解明することである。侵襲時における、(1)補体活性の定量評価、(2)TMAとの関連、(3)補体活性化と白血球・血小板連関、(4)補体活性の制御による多臓器不全抑制の検討を行う。
著者
土橋 祥平
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究では、成長期、特に発達早期の運動不足が将来的な認知機能に悪影響を及ぼす可能性について検討を行い、その対抗策の基盤となる分子メカニズムの解明を目指す。初年度は、生活習慣病に起因した認知機能低下を想定し,2型糖尿病を誘導するモデルラットを対象に、通常飼育群、活動制限による運動不足群を設定し、成長期の運動不足が成年期以降の認知機能に影響するか否かについて、エピジェネティック制御機構の観点から解明する。2年目以降は、成長期の中でも最も脳の可塑性が活発な発達早期における運動不足経験がその後の認知機能の変化に及ぼす否かについて実験動物を用いて検討する。