著者
平山 晴子 樅木 勝巳 椎名 貴彦 志水 泰武
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.6, pp.270-274, 2014 (Released:2014-06-10)
参考文献数
24

グレリンとは,主に胃から分泌される,28個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである.他のホルモンにはないグレリンの特徴として,3番目のセリン残基に脂肪酸による修飾を受けていることが挙げられる.この脂肪酸修飾がグレリン受容体を介した作用発現には必須である.生体内にはグレリンの脂肪酸修飾を持たない型も存在し,デスアシルグレリンと呼ばれるが,脂肪酸修飾を欠くというその構造上,グレリン受容体に対しては不活性型である.しかし近年では,デスアシルグレリンのグレリン受容体以外の経路を介する作用についても多数の報告がなされている.グレリンの作用としては,成長ホルモン分泌促進や,食欲亢進,エネルギー消費の抑制をはじめとし,循環器系への作用,消化器系への作用と,その作用は非常に多岐に渡る.グレリンの消化管運動に対する作用としては,胃や小腸,大腸の運動性を亢進させることなどがこれまでに報告されている.また,消化器疾患におけるグレリンの関与についてもさまざまな知見が報告されており,今後の研究の展開が期待されている.我々はこれまでに,in vivoの実験系を用い,グレリンの脊髄腰仙髄部の排便中枢を介する大腸運動への作用について研究してきた.本稿ではこの結果について,実験系も含め紹介する.
著者
劉 志偉
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.121-135, 2018

本稿は、実生活では日々耳にするものの、日本語教材には取り上げられることがほとんどなかった言語現象であるラ行音撥音に注目して考察を行った。音声学や音韻論における専門用語を可能な限り避け、日本語学習者にとって分かりやすい学習ルールを提案することが、その目的である。具体的には、まず、マスメディアを中心に集めた用例をもって、ラ行音撥音の全体像を明らかにした。続いて、筆者自身が来日以来、記録してきた学習メモに基づいて、ラ行音撥音の中で、学習者にとっての難点と考えられる箇所を示した。そして、以上の点を踏まえた上で、ラ行音に由来する撥音を体系的に理解する学習ルールを提案した。また、近畿方言を含む「準標準語」を学習する際に、上記のルールが援用できる可能性についても言及した。日本語学と日本語教育が「別居」状態にあると言われる中、日本語学習者の視点を重視し、いわゆる標準語に限定せず、方言を視野に入れて学習する必要性、また、通時的観点を部分的に取り入れることがより効率的な現代語の学習に繋がる可能性を、「越境する日本語」という枠組みで捉えるものである。
著者
須田健二 五味弘
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.239-240, 2014-03-11

組合せテストの品質を保ち、かつテスト回数を少なくするためのテスト技法として直交表とオールペア法(被覆表)が知られている。しかし今まではその生成ツールの使いやすさやテスト回数が少ないなどの理由からオールペア法の方がより多く利用されてきた。また、組合せの個数を 2個に固定するなど限定的な使用が多かった。そこで我々が開発している万能型直交表生成ソフトGaloisと代表的なオールペア法の生成ソフトであるPICTに対して、因子数やその水準数、強さが与えられた時のテスト回数と網羅率を求めた。そして、それらを比較検討することにより,テスト対象のソフトウェアにより適した技法として、直交表とオールペア法のどちらを選択するべきかの指針を与える。
著者
宮井 輝幸 秋山 正行 中川 稔 矢野 陽一郎 池田 三知男 市橋 信夫
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.591-594, 2012-11-15 (Released:2012-12-31)
参考文献数
16
被引用文献数
1

コーヒー,紅茶および緑茶の各種試料に,Bacillus属細菌(B. cereus, B. subtilis, B. coagulans) 芽胞を接種し,85℃30分間(食品衛生法におけるpH 4.6以上の清涼飲料水の殺菌基準) 加熱処理した後,その試料の保存中における生育挙動を調べた.コーヒー,紅茶試料では,牛乳を添加した場合,B. cereusとB. subtilisの菌数の増加がみられたが,牛乳を添加していないコーヒー,紅茶および緑茶の各種試料(pH調整の有無;コーヒーの焙煎度;紅茶の抽出温度;コーヒー,紅茶への砂糖添加) では,Bacillus属3菌種の菌数の減少がみられた.これらのことより,85℃30分間の加熱殺菌条件で製造した牛乳無添加の各種飲料中にBacillus属3菌種が生残していたとしても,コーヒー,紅茶および緑茶の抗菌性により商業的な無菌性が保証される可能性が示唆された.
著者
藤本 雅子 北村 達也 船津 誠也 Masako FUJIMOTO Tatsuya KITAMURA Seiya FUNATSU
出版者
甲南大学
雑誌
甲南大学紀要. 知能情報学編 = Memoirs of Konan University. Intelligence & Informatics Series (ISSN:18830161)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.103-113, 2022-02-01

標準語話者の有声,無声の破裂音/g/,/k/の調音と音声の特徴を/agise/,/akise/の検査語を用いて検討した.音声では閉鎖区間,formant onset time (FOT),子音区間は/k/が/g/より長く,先行母音と後続母音は/g/に隣接する場合に/k/に隣接する場合より長かった.先に報告した同じ話者の調音上の特徴に,閉鎖区間が/k/が/g/より長いこと,閉鎖のタイミングが/k/が/g/より早いことがあった.これらはそれぞれ音声上の閉鎖区間が/k/が/g/より長かったこと,/g/に先行する母音が/k/に先行する場合より長かったことに対応する.MRIの/g/,/k/の最大閉鎖フレームのトレース画を用いた計測では,/k/は/g/に比べ正中面上の閉鎖の範囲が長い傾向が見られたが,咽頭面積は個人差が大きく/g/と/k/で一定の傾向が確認できなかった.
著者
田中 求
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.13-24, 2014-07-01 (Released:2017-08-28)
被引用文献数
2

コウゾやミツマタなどの国産和紙原料が激減する中で,それを用いた本来の「和紙」そのものも消えつつある。本稿では和紙原料の主要産地であった山村の動態から,和紙原料生産の現状と問題点を明らかにする。対象地域は高知県いの町柳野地区である。柳野地区の和紙原料生産は,生業と作業形態,買い取り価格が変化する中で衰退していた。ミツマタは焼畑で栽培されてきたが,植林によりほぼ消滅した。コウゾも家屋の周囲などでのみ栽培されているに過ぎない。雇用労働への収入源の転換で栽培者が減る中で,作業は労働交換ではなく雇用労働に変わり,コウゾの収入源としての魅力は薄れていった。さらには,台風による被害で輸入コウゾが増加する一方,高齢化で十分な管理が行えないコウゾが増え,買い取り価格は下がり,イノシシのコウゾ食害は農家の栽培意欲を削いだ。そして,土佐コウゾが売りさばけずに余る,という状況に至っていたのである。柳野での和紙原料生産は消滅の危機にあるといえよう。

1 0 0 0 OA 支那研究

著者
服部宇之吉 著
出版者
明治出版社
巻号頁・発行日
1916
著者
松田 理 オリバーB. ライト
出版者
一般社団法人 日本真空学会
雑誌
Journal of the Vacuum Society of Japan (ISSN:18822398)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.336-343, 2010 (Released:2010-06-10)
参考文献数
42
被引用文献数
1

Ultrashort light pulses absorbed in a medium generate both bulk and surface acoustic waves: we focus here on imaging the surface waves and on monitoring the bulk acoustic waves that propagate in the depth direction. This is done in the time domain by delayed probe light pulses. For the bulk acoustic waves, the generated frequency ranges up to 1 THz. Some studies concerning the ultrafast electron-phonon relaxation in metal films, high frequency generation in semiconductor quantum wells, and high frequency shear acoustic wave generation and detection are reviewed here. For the surface acoustic waves the generated frequency ranges up to 1 GHz, and time-resolved two-dimensional images of the propagation are obtained with micron lateral spatial resolution. This imaging method is applied to anisotropic crystals and phononic crystals to elucidate their acoustic properties.
著者
鈴木,規之
出版者
日本造船学会
雑誌
日本造船学会論文集
巻号頁・発行日
no.162, 1987-12

In this paper the extended penalty function approach to dynamic contact problems recently proposed by Asano is further discussed. The equation of motion, in which velocities as well as displacements are constrained by the physical consideration, coincides with the one based on the virtual work principle given by Asano. The optimal penalty numbers in this approach are discussed by using a simple two-element model. The obtained results are applied to the finite element analysis of contact-impact problem of two elastic rods and the validity of the present method is confirmed through the comparison of the numerical results with the exact solution based on the one-dimensional wave propagation theory. The present method is also applied to the friction-excited vibration of a two-dimensional elastic block on a sliding belt, and it is shown that the kinematic coefficient of friction can be lower than the static one in the camplete system even when they are assumed to be equal to each other on the interface between the block and the belt.
著者
矢島 領 今岡 楓太 輪湖 哲也 黒田 裕子 松元 一明 木津 純子 片山 志郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.135, no.12, pp.1397-1402, 2015-12-01 (Released:2015-12-01)
参考文献数
18

Stomatitis frequently occurs during chemotherapy and radiotherapy for cancer. Because of its pharmacological properties including anti-inflammatory activity and stimulatory effects on endogenous prostaglandin synthesis, rebamipide has been suggested as a potentially effective treatment against stomatitis. In the present study we tested the stability of oral rebamipide solutions prepared in our hospital pharmacy using sodium alginate as a thickener to increase retention of this agent in the oral cavity, and the addition of different flavoring mixtures intended for use in enteral diets to reduce the bitterness of rebamipide and sodium alginate. Samples of oral rebamipide solution prepared with 13 kinds of flavoring and sodium alginate were evaluated in terms of their appearance, redispersibility, pH, viscosity, and rebamipide content immediately after preparation and 1, 3, 7, and 10 days after storage at room temperature under ambient light or in a cool, dark place. After 10 days of storage, favorable stability was observed in four sample solutions supplemented with green apple, pineapple, yogurt, and tomato flavoring mixtures intended for use in Elental® diets. These oral solutions may have potential clinical application.
著者
川口 正代司
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.94-101, 2016-01-20 (Released:2017-01-20)
参考文献数
40

マメ科植物と根粒菌の共生は地球上で最も成功した相利共生の一つである.この共生により,マメ科植物は窒素栄養分が乏しい環境でも生育することができる.一方,根粒の形成と窒素固定には多くの生体エネルギーが消費されるため,根粒の着生数は植物によって厳密に制御されている.この制御には根粒形成のオートレギュレーションと呼ばれる制御系が深くかかわっており,これは葉と根の遠距離コミュニケーションによって構成されている.オートレギュレーションの現象の発見から,今日の分子レベルでの理解まで,遠距離コミュニケーションの全容について紹介する.