著者
清水 雄也 小林 佑太
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.111, 2023-11-15 (Released:2023-11-15)
参考文献数
17

Kei Yoshida's recent book Philosophy of the Social Sciences: An Introduction is the first introductory textbook on the philosophy of the social sciences written in Japanese. It concisely expounds on a wide range of topics in the discipline, while its explication of those topics is not impartial or neutral as the author himself says. This paper gives a critical review of the book. The first half of it briefly overviews and assesses the book as a whole. The latter half of the paper reconstructs the gist of the author's exposition of the naturalism/interpretivism debate and criticizes it.
著者
戸髙 南帆
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.59-74, 2023-07-15 (Released:2023-10-13)
参考文献数
35

本稿では、子どもに家事を教えることに着目して、性別役割分業意識を平等化する可能性を検討する。「子どもの生活と学びに関する親子調査」のペアデータを用いて、親子それぞれの性別役割分業意識をふまえながら、小学校高学年から中高生の子どもを対象に、母親が家事のしかたを教えるという行為の効果を探った。その結果、女子と比較して、男子は「男性は外で働き、女性は家庭を守るほうがよい」という性別役割分業を支持する傾向にあるものの、母親に家事を教えてもらった経験がある男子ほど、性別役割分業を支持しない傾向がみられた。この傾向は母親の性別役割分業意識などを考慮しても確認された一方で、女子については有意な効果が認められなかった。このことから、子どもが男子である場合、性別役割分業に沿わない家事という行為を教えること自体が、ジェンダー意識を問い直す契機となり、意識の平等化を促す効果をもっていることが示唆された。
著者
早川 勢也 山口 英斉 梶野 敏貴
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.547-552, 2022-08-05 (Released:2022-08-05)
参考文献数
25

現在の宇宙に多様に存在する元素,そのうちの最も軽い数種類の元素が初めて合成されたのが,ビッグバン宇宙開始後3分から20分ほどまで続いたビッグバン元素合成(Big Bang Nucleosynthesis, BBN)である.BBNによる軽元素同位体,特に重水素と4Heの推定生成量は,観測と非常に良く一致することから,宇宙背景放射ゆらぎの観測と並んで標準宇宙論を支持する大きな証拠の一つとされる.一方で,7Liの生成量はそれらより10桁近く少ないものの,理論・観測の不定性をそれぞれ慎重に考慮しても,理論による推定値が観測値の3倍程度になってしまうという「宇宙リチウム問題」が存在し,宇宙核物理学分野で長年の未解決問題となっている.この原因を巡っては,低金属星の観測からBBN直後の7Li量を推定する解析方法に残る問題点,標準BBN理論を超える未知の物理を組み込む必要性,宇宙磁場ゆらぎのような宇宙論的効果,あるいはBBN計算に必要な原子核反応率データの不定性や問題点など,いくつかの可能性がさまざまな分野の研究者によって検証されてきたが,未だに解決には至っていない.BBN中では7Liは陽子との反応によって壊れやすいため,7Li生成量の大半は,実際にはBBN後に残る7Beの崩壊に由来する.つまり,7Beの増減を左右する原子核反応が7Li生成量の鍵を握る.7Beの生成に関する核反応率は比較的よくわかっている一方,7Be量を減らす反応が近年注目され,複数のグループによる実験が報告されている.特に,BBN中に多数存在する中性子が誘起する7Beの破壊反応が重要な反応と考えられている.しかし,中性子は半減期約10分で陽子にベータ崩壊し,7Beは半減期約53日で7Liに電子捕獲崩壊する不安定核である.不安定な核同士の反応を直接測定するのは技術的に難しく,BBNに新たに定量的な制限をかけるまでには至っていなかった.我々は,この困難を克服するために「トロイの木馬法」という間接手法を用いることで,最も重要な7Be(n, p)7Liおよび7Be(n, α)4He反応を新たに測定した.これは,不安定な中性子の代わりに重陽子を標的として用い,そこへ7Be不安定核ビームを入射し,7Beと重陽子中の中性子の準自由反応の情報を抜き出す,という手法である.この実験によってBBNエネルギー領域でのデータを必要十分な精度で拡充することができ,特に,これまで未測定であった7Li第一励起状態への遷移の寄与7Be(n, p1)7Li*を初めて明らかにした.本研究と過去の実験データとを併せて,最も整合性が高いと考えられる反応断面積の励起関数をR行列解析によって導き出した.これにより,BBNエネルギー領域を含む広いエネルギー範囲(10-8–1 MeV)にわたり複合核である8Be共鳴構造に伴う不定性も含めて合理的に評価し,BBN計算に必要な精度の熱核反応率を導き出した.この反応率をBBN計算へ適用した結果,7Be(n, p1)7Li*反応チャンネルの寄与によって,7Liの推定生成量を1割ほど下方修正する可能性を示した.本研究では,この未測定であった反応チャンネルが7Be+n反応の重要性をより強調する結果となったとともに,この反応のみによる問題解決の可能性は,より定量的な意味で排除された.原子核物理の不確実性が一つ解消した今,宇宙論的効果などさまざまな理論的仮説による宇宙リチウム問題の解決法が,より高精度で検証できるようになるものと期待する.
著者
坂本 治也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.5-17, 2021 (Released:2023-11-16)
参考文献数
41

既存研究では,新自由主義の進展が市民社会の活性化をもたらすことは通説的見解とされてきた。しかし,新自由主義を政策パッケージではなく人々の間で共有されるイデオロギーとして捉えた場合,本当に新自由主義の進展が市民社会の活性化に結びつくといえるのであろうか。この点を検討するために,本稿では自己責任意識と市民的参加の関係を定量的に分析する。本稿では,独自に開発した指標を用いて,2つの異なるタイプの自己責任意識を測定する。分析の結果,2つの自己責任意識は市民的参加に対してそれぞれ負の関係性をもつことが明らかとなった。自己責任意識が強ければ強いほど,人々は市民的参加を忌避する傾向が見られる。イデオロギーとしての新自由主義の進展は,市民社会の活性化につながるどころか,むしろ市民社会を衰退させる可能性が高い,という通説的見解とは真逆の結論が得られた。
著者
薄井 春香 佐藤 哲也 北口 紗織
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
pp.TJSKE-D-23-00015, (Released:2023-10-18)
参考文献数
43

This research focuses on picture books, a medium for childhood reading, during which gender stereotypes are formed. The colors of the clothing of characters in picture books and the words they utter reveal characteristics of gender expression. The results showed that gender and age were among the most prominent characteristics in depicting characters in picture books, with red used more frequently for females and less bright shades for males. The proportion of colorful colors was higher among children, and the ratio of achromatic colors increased with age. These results are consistent with previous studies on color images and the evolution of color preferences with age. In the text, it was found that the differences between men and women in the way they perceive things are reflected in the text. These results suggest that picture books may influence the formation of children’s gender images and color preferences.
著者
安藤理著
出版者
東洋館出版社
巻号頁・発行日
2011
著者
畠山 薫 貞升 健志 甲斐 明美
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.238-243, 2011-05-20 (Released:2015-04-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

1950 年代に東京都内で分離された狂犬病ウイルス 10 株と日本の狂犬病固定毒株である小松川株,高免株,西ヶ原株ならびに動物用ワクチン株 RC-HL 株および世界各地の狂犬病ウイルス 86 株の核タンパク(N)遺伝子領域における系統樹解析を行った.東京都で分離された株は,2 グループ (Tokyo 1,Tokyo 2) に分類された.2 グループとも,ヨーロッパ,アフリカ,アジア,アメリカからなる広域クラスターに属していた.Tokyo 1 グループは,1930 年代,40 年代にアメリカ合衆国西海岸のイヌから分離された株とサブクラスターを形成し,Tokyo 2 グループはロシアハバロフスクの racoon dog やバイカル湖地域の stepped fox から分離されたウイルスと同じクラスターを形成する小松川株と近縁であった.これらのことから,1950 年代に東京都内で流行していた狂犬病ウイルスは,ロシアおよびアメリカ由来のウイルスと関連性があったものと推測された.
著者
大藪 泰
出版者
一般社団法人 色材協会
雑誌
色材協会誌 (ISSN:0010180X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.486-492, 2002-10-20 (Released:2012-11-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1
著者
⻆谷 詩織
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.184-205, 2023-03-30 (Released:2023-11-11)
参考文献数
188

2021年から文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」が開催されるなど,ギフティッド児の理解とその支援の必要性が広く認識され始めている。本稿は,ギフティッドの的確な理解と,それに基づく今後の教育心理学分野における研究や実践の発展を目的とする。まず,世界的に共通理解のなされているギフティッドの定義と特性を押さえる。次に,日本における関連研究を概観する。その上で,ギフティッド研究や実践に取り入れると有効と思われる観点を4つあげる。まず,(1)ギフティッド児であれば誰もが特別な支援を要するわけではないという点を確認した上で,誰が支援を要するのかを明確にする。また,(2)ギフティッドの判定や診断の問題と,当該ギフティッド児が身を置く教育環境において特別な支援やプログラムを要するか否かとを分けて考える必要性を論じる。関連して,(3)ギフティッド判定において,その子に潜在的な才能があるかどうかとそれを発揮できるかどうかは分けて検討することの重要性を論じる。最後に,(4)現行の教育制度や実践に存在するギフティッド教育の要素を活かす可能性について論じる。
著者
谷村 省吾
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.106, no.6, pp.F2-F21, 2003-03-20 (Released:2017-10-02)

トポロジーが自明でない空間の上では場の値を一価連続関数で表示できないことを,いくつかの例を挙げて説明し,ファイバー束の理論の動機づけを与える.この理論にもとづいて空間の並進対称性や回転対称性が自発的に破れる機構を見つけたので,簡単に説明する.場と空間の関係を双対性の観点から見直し,可換代数と位相空間が互いに双対であるというゲリファントの定理を説明する.最後に,非可換幾何学の思想を紹介する.