著者
西村 可明 田畑 理一 岩崎 一郎 雲 和広 杉浦 史和 塩原 俊彦 荒井 信雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,ロシアにおいて市場経済化が開始されて十年以上経過した時点で,既に市場経済が成立したといえるのかどうか,経済成長の中長期的展望はいかなるものかについて,経済学的に正確な見解を提示することにある。そのために,(1)1992年以降のロシア経済の発展動向の分析,(2)経済改革の進捗状況の分析,(3)マクロ経済の推移と展望,(4)企業・ミクロ経済制度の考察の課題に,研究分担者・協力者による共同研究を通じて応えようとするものである。我々のある程度結論的な見解は,次の通りである。すなわち,(1)ロシア経済は1992年以降外部から移植された市場経済制度にもとづく経済活動を通じて、持続的な経済成長が確保されるようになっていることから,基本的には市場経済が成立したと見なしうること,(2)その事はミクロレベルでは企業のコーポレートガバナンスの形成によっても裏付けられること,(3)但し金融市場の整備は遅れていること,(4)経済改革の動向は一義的に分明ではなく,自由経済への接近と国家資本主 義的動きとが錯綜していること,(5)ロシア経済は長期的には人口減少の問題を抱えているが,独自のイノベーションなど技術革新が無くても,先進国からの平均的技術の輸入によってキャッチアップしながら成長を続ける巨大な可能性があることの5点に要約できる。この様な見解は,我々の研究成果の中で提示されておりそれは,大別すれば,(1)ロシア・マクロ経済の発展動向と見通しに関するもの,(2)ロシアにおける経済改革の動向に関するもの,(3)ロシアにおける経済体制の現状に関するもの,(4)ロシア企業・金融機関の制度的・実証的分析にかかわるもの,(5)その他に分類することができる。
著者
佐野 正博
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、マイクロプロセッサーの開発とパーソナル・コンピュータ技術の歴史的発展が相互に関連しあいながら歴史的に発展してきたプロセスを技術史的視点および技術論的視点から実証的に分析することを通じて、イノベーションの歴史的構造、および、技術の歴史的発展構造の解明をおこなった。まず総合技術史に基づく長期的視点から計算機技術の歴史的発展の流れにおけるマイクロプロセッサー技術の歴史的位置づけをおこなうとともに、マイクロプロセッサーという製品が持つ特殊性の解明をおこなった。すなわち計算機技術の歴史的発展におけるcalculatorとcomputerへの分化、それぞれの時代における上位市場と下位市場の編成のあり方という視点から、計算機技術の歴史的発展をマクロ的視点から取り扱うことで、世界最初のマイクロプロセッサー4004が「電卓生まれのマイクロプロセッサー」として歴史的に登場した理由を解明するとともに、パーソナル・コンピュータ用CPUとしてマイクロプロセッサーが利用されることになることの歴史的意味の分析をおこなった。マイクロプロセッサーのこうした用途は、一部の専門家を別として最初から広く社会的に認識されていたわけではない。そのためマイクロプロセッサーを利用した製品は、どちらかといえばMarket-oriented型ではなく、Technology-oriented型の製品イノベーションとなっていることを論じた。パーソナル・コンピュータの製品イノベーションに関しても、市場の需要というよりは、ムーアの法則にしたがってパラノイア的にマイクロプロセッサーの集積度向上を追求するインテルなどの研究開発によるマイクロプロセッサーの技術的発展が、パーソナル・コンピュータの製品イノベーションを根底的に規定してきたことを明らかにした。
著者
秋野 晶二 林 倬史 坂本 義和 山中 伸彦 鹿生 治行
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

PC産業は、細分化された分業構造を基盤としながら、絶えざるイノベーションを特徴として成長を続けてきた。この継続的イノベーションは、部品・周辺機器産業におけるイノベーションと、そのイノベーションを方向づけるバスアーキテクチャのイノベーションとの二重のイノベーションにより実現され、それを可能にする企業内、企業間の開発・生産ネットワークが形成されてきた。ここでは製造機能、開発機能、販売機能のグローバルな分業構造が新たに見られる一方、製造機能は、規模/範囲の経済性を有効に機能させるための水平的統合・垂直的統合が見られる。
著者
鈴木 広光
出版者
奈良女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

平成17年度研究実績は以下の通りである。1.平成16年度に高精密デジタル画像化した嵯峨本『伊勢物語』(慶長13年初刊本)の印字と版面に写り込んだインテル・クワタの痕跡から以下の事柄が判明した。該書の印刷に使用された木活字は縦12・6mm、横14.2mmを全角とし、縦寸法2〜4倍に規格化されたものである。(2)組版はベタ組みである。(3)インテルの幅は2.6mmである。これらのデータをもとに、2DビジュアルCGによる組版想定図を作成した。2.該書の印字悉皆調査をコンピュータ上で行い、印字の精細な異同識別によって、使用された木活字が2130種にのぼることが判明した。この印字悉皆調査の結果を「印字標本集」として、本研究課題の研究成果報告書に公開した。3.研究協力者高木浩明を中心に、嵯峨本『伊勢物語』初刊11伝本の全丁調査を行い、部分異植字という組版上の特色とその具体的異同状況を明らかにした。この成果も研究成果報告書に公開している。4.上記の研究成果を、「嵯峨本『伊勢物語』の活字と組版」と題して、日本近世文学会平成17年度秋季大会(於奈良女子大学、2005年11月5日)で口頭発表した。この発表にもとづく論文を学会誌『近世文芸』に投稿した。5.コンピュータを用いた書誌学、印刷史研究の方法の開発について、開発協力者津田光弘(研究協力者)と連名で、「嵯峨本『伊勢物語』の木活字及び組版分析モデルに関する報告」と題して、第11回公開シンポジウム・人文科学とデータベース(2005年12月3日,於大阪樟蔭女子大学)で口頭発表した(発表者はプログラム開発者の津田)。
著者
酒井 憲司 浅田 真一
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

1.温州みかん48個体データに関して実施した1998年〜2005年の収量アンサンブルデータを取得する。これに対して、RSMを用いた大域的モデリングを行い,さらに決定論的非線形予測の意味での1年先収量予測をいった.高精度の予測に成功し,ダイナミクスが有効に再構成されていることが確認された.2.また,データ集合の分布についても予測を行い,おおよその豊凶の予測が集団レベルでも可能であることが示されたが,大域的モデルでは精度向上が限界のようであり,局所モデルの必要性が認められた.3.上記で開発した手法をハイパースペクトルおよびマルチスペクトル画像に適用するためのアルゴリズムを開発した。ニューラルネットワークスを用いた,局所ダイナミクスの同定である.カリフォルニア大学から提供されたピスタチオ収量データについて適用し,有効性を検討した.4.代表的なカオス制御の手法であるOGY法を用いて,同定されたダイナミクスに適用した.良好に不安定平衡点を安定化することに成功した.5.研究成果発表のためのワークショップを,「カオス・複雑系の生態情報学」国際ワークショップと共催した。研究成果報告書を刊行した。6.研究協力者1)浅田真一:神奈川県農業技術センター・主任研究員(温州みかん栽培試験と葉内養分検出)2)Nikolay Vitanov:ブルガリア科学アカデミー教授(時空間データの非線形解析)3)Devola Wolfshon:デンマーク王立獣医農科大学准教授(画像解析による花数計測)4)Alan Hastings:カリフォルニア大学デービス校・環境・生態系学科・教授(生態系のカオス解析)
著者
乙部 厳己
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

通常のWiener空間を含む一般のガウス測度の導入された連続関数の空間における、指定された値以上の関数からなる自然な凸集合に対して発散定理を定式化した。それによって発散定理の性質が速度のマルコフ性よりもむしろ、ガウス測度とその最大値のもつある種の正則性によって制御されていることを示した。またフラクタル集合上のパーコレーションの臨界確率を数値解析によって得たほか、特異な外力項を持つ相互作用粒子の運動を可視化、レヴィ型の雑音項を持つ偏微分方程式の解の挙動の可視化などに成功した。これによって新しい知見のもとで正則性に関する予想とそれに対する数学的に厳密な証明を与えることにも成功した。
著者
和泉 潔 松尾 豊
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

テキストマイニングによる動向分析手法の開発、人工市場シミュレーションソフトウェアの開発、実データによるシステム評価の3つの研究要素について、当該研究期間において下記の研究実績が得られた。以下の内容について海外および国内の学術誌での研究成果の発表を行った。本分野の発展および人事養成のため、新規国際および国内研究集会の設立に貢献した。1.テキストマイニングによる動向分析手法の開発:経済新聞記事データを用いて、テキストマイニング(関連用語のカテゴリ分類、各単語やカテゴリの頻度及び共起関係の分類)を実行して人工市場シミュレーションの入力データを作成するプログラムを構築した。分析手法の性能評価のために、国際金融情報センターの発行した解説記事による経済動向分析を行った。同じテキストデータで金融関係者が判別した結果と比較したところ、訓練データに対する正答率のテストでは平均92.2%、外部データに対する交差検定テストでは平均71.9%の高い精度を示すことができた。2.人工市場シミュレーションソフトウェアの開発経済動向分析結果を入力として受け取る人工市場シミュレーションを行うプログラムの作成を行った。テキストマイニングプログラムと連携し統合的なシミュレーションを行うためのデータ連携手法を開発した。実際のテキストデータと市場データを用いて実証実験を行った結果、100試行の平均で約67%の価格変動をシミュレーションにより再現することに成功した。3.実データによるシステム評価前述のテキストマイニングプログラミングと人工市場シミュレーションを統合した意思決定支援システムを構築した。システム評価のために実際のテキストデータと市場データを用いて、市場安定化のための行動方略を提示させたところ、実際の市場価格の分散を70%以上低減することができる方略を示すことができた。
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

我々は、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のサブユニットGluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingがALS患者の脊髄運動ニューロンで選択的に低下していることを明らかにした。GluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingはRNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA type 2(ADAR2)により特異的に触媒されるので、この分子変化は、ADAR2の活性低下によると考えられる。ADAR2の活性を規定する因子のひとつに総mRNA量、ADAR2 mRNA対GluR2 mRNA比が明らかにされているが、ADAR2のmRNAには多くのsplicing variantが存在することが知られており、翻訳タンパクの活性が異なることが報告されているため、variantの発現量により活性への影響が異なり、ひとつの調節機構として働いていることが考えられる。今回、RT-PCR、ノーザンブロッティングによるADAR2 mRNAの分析により、新しいsplicing variant 2種を見出し、他のvariantと共に発生段階、脳部位による発現パターンの違いの有無を検討した。新たに見出されたvariantの1つはADAR2に存在する二個の二重鎖RNA結合部位をコードするexon2のexon skippingであり、frameshiftにより下流のexonに新たなストップコドンを生じていることから、活性型タンパクに翻訳されるとは考えにくいsplicing variantである。第2のsplicing siteはexon 9に位置し、long C terminusをコードするストップコドンの83塩基下流に位置する。このsplicing variantは従来のlong C端を持つisoformに翻訳され、活性型ADAR2をコードする。この2種のvariantを加え、理論的には48種のRNA splicing variantが存在すると考えられる。とくにC端には4種のvariantがあり、long C terminus 2種のみが活性型ADAR2に翻訳され、ADAR2活性制御に主要な役割を持つと考えられる。ヒト小脳の核分画抽出物によるウェスタンブロッティングでは、long C terminusを持つメジャーバンド2種が確認できた。このことは、ADAR2は多数のmRNA splicing variantを持ちながら活性型タンパクに翻訳されるものはそのごく一部であり、splicingを通じで活性調節を行っている可能性を示している。ALSの神経細胞で、この調節機構がどのような変化を受けているかを解明することは病因の解明につながると考えられる。
著者
酒井 憲司 星野 義延 神崎 伸夫 笹尾 彰 渋沢 栄 岡本 博史 田村 仁 浅田 真一
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

研究背景:本研究のモチベーションは農林地の時空間変動を引き起こすメカニズムの究明に必要な方法の探索である。即ち、耕地、果樹園、森林の各種属性パラメータの時空間変動が内在的な決定論的ダイナミクス、確率過程、環境外乱の何れによるものか、もしくはそれらの貢献度を定量化したいということである。そこで、本研究では、耕地、果樹園、森林、草地など生物生産の場における時空間変動メカニズムの解明のための技術として、カオス時空間解析手法を開発し,耕地、果樹園、森林における時空間変動データに対して当該解析手法を応用して変動メカニズムの解明を行い、その有用性を実証することを目的とした。農林生態系を対象として工学的なアプローチを実施しようとした場合、(1)データサイズ問題、(2)オブザベーション問題、(3)マニピュレーション問題、の3課題を克服しなくてはならない。データサイズ問題とは、農林生態系の諸現象においては年に1点というようなスケールでしか時系列データが得られない場合も多く、非線形時系列解析などが数千点以上のデータサイズを要求するのに対して極めてデータサイズが小さい。この極めて短い時系列データを如何にして非線形時系列解析の枠組みに適用させるかという問題がデータサイズ問題である。これについては、第1部で扱った。ここでは、データサイズ問題をアンサンブル時系列によるダイナミクスの再構成として課題化した。大域的線形・局所線形ダイナミクスの再構成を試み、1年先の収量予測によって手法の妥当性を示した.第2部ではオブザベーション問題を扱った.特に,航空ハイパースペクトル画像,マルチスペクトル画像を用いて温州みかんおよびコナラの個体レベルでの収量推定の可能性を明らかにした.
著者
舩山 日斗志
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、散開星団に属する恒星の高分散分光観測を行って、恒星が持つ鉄の存在度(金属量)を測定して、散開星団の金属量の一様性について調べた。その結果から、太陽系外惑星をもつような金属量の高い恒星の形成過程を探ることを目的としている。以下に本年度の成果を挙げる。1.2007年度までに行った高分散分光観測で取得した、プレアデス星団に属する恒星とプレセペ星団の恒星のスペクトルから、天体の金属量を測定した。特に、プレアデスについては、単一研究としては過去最大数の22天体の金属量を測定した。結果、プレアデスで属する恒星のもつ金属量は一様であることがわかった。この結果は、金属量の測定精度が高い先行研究で得られた値と一致しており、このごとからプレアデスに属する恒星は一様な金属量をもつことが示唆された。また、プレアデスには系外惑星をもつような高い金属量を示す恒星は存在しないととが示唆された。プレセペについては11天体の金属量の測定を行い、この11天体が一様な金属量をもつことがわかった。2.各星団の金属量の一様性について、より定量的な議論を行うため、観測天体数を増やすことを目的として、2009年1月・2月に岡山天体物理観測所と県立ぐんま天文台で高分散分光観測を行った。そして、プレアデスに属する恒星をあらたに6天体、プレセペの13天体のスペクトルを取得した。また、対象とする星団の数を増やすことも重要であり、あらたにコマ星団に属ずる恒星10天体の観測もあわせて行った。3.鉄以外の元素についても測定可能であるか、模索した。結果、これまで取得したスペクトルがらα元素や鉄族元素の測定を行うととが可能であるととがわかり、特にSiやNiのような可視波長域に吸収線が多い元素については、十分な精度で存在度の測定できることがわかった。これまで、プレアデスの11天体について13元素の存在度の測定を行った。
著者
田井 健太郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究プロジェクトでは、近世兵法書を用い、中世に展開された武術の特性について、戦闘技法構造の側面と萌芽的武士倫理性との関連の側面から明らかにした。また、兵法書の中での近世初期の武士倫理が、戦闘者的武士身分観と士的武士身分観の混在状態から、武を司る者による徳治という倫理観への発展がみられることを明らかにした。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の計画に基づき研究を進め、マルチリンガリズム研究会(http://jsl-server.li.ocha.ac.jp/multilinualism/index.html)(本科研のメンバーで設立)で、研究成果の一部を公表するとともに、主な研究成果をスイス・フリブールで開催の「The Fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」(http://www.irdp.ch/13/linkse.htm)で発表した。この国際学会では、本科研グループで、個別発表とともに「Multilingualism in Japan」というコロッキアを主宰し、日本社会における多言語習得の実態およびそこにおける課題に関する議論を展開した。研究の主なテーマは以下の通りである。1.中国語・韓国語・日本語話者によるコードスイッチングとターンテイキング2.中国語・韓国語話者による第三言語としての日本語の習得3.One Person-One Language and One environment-One Language仮説検証4.韓国語・日本語・英語話者における言語転移5.マルチリンガル児童のアイデンティティの発達6.多言語話者による言語管理7.環境の違いが多言語能力へ与える影響このような多角的な観点からの研究によって、日本社会における多言語習得の実態の解明に迫った。本研究の成果は報告書にまとめられる予定である。
著者
上坂 充 中川 恵一 片岡 一則 遠藤 真広 西尾 禎治 粟津 邦男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

医学物理および医学物理士のあり方については、日本医学物理学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会や厚労省関連の諸委員会にて長年議論されている。代表者らが主な活動の場としている日本原子力学会や日本加速器学会などに加わっている多くの学生、研究者、理工系大学教員が医学物理に興味を持ちその発展に参画したいと考えている。それらの方々が、放射線医療の新科学技術の開発研究を行っている。アメリカではこの40年で5,000人以上の医学物理士が単調増加的に誕生しているが、それには新技術の開発と普及が定常的に行われたことの証でもある。今の日本ではライナックを始め、国産治療装置が撤退し、輸入品に席巻されている。「研究開発型」医学物理士に掛けた思いは、輸入品のメンテナンスのみでなく、欧米のような機器開発を伴った医学物理の学問の創成と人材育成である。その議論の場を円滑に運営するため、日本原子力学会に「研究開発的医学物理」研究特別専門委員会を設立した。議論の対象として以下のテーマを設定した。1.イメージガイドピンポイント照射システム開発(1)X線・電子線(2)イオンビーム(3)中性子(4)レーザー、2.生体シミュレータ開発(1)DDS(Drug Delivery System、薬品送達システム)設計(2)人体線量分布高精度評価(3)薬剤流れの解析(4)治療計画の高度化、3.教育プログラムの充実と人材育成(1)欧米を目指したカリキュラム(2)大学院生の奨学金(3)ポスドク制度(4)留学。ここまで4回委員会(9月4日午前、28日、11月1日、2月28日午前)と2回の研究会(第6,7回化学放射線治療科学研究会、9月5日午後、2月28日午後)を開催し、上記テーマについて深く議論を行った。結果、1については白金が入ってX線吸収と増倍効果のある抗がん剤シスプラチンミセル、金粒子を手術して注入せず注射でがん集中させて動体追跡できる金コロイドPEG、シンチレータとPDT(光線力学療法)剤を一緒に送達してX線PDTを行う、3つのタイプのX線DDSの開発が始まったことが特記事項であった。また陽子線治療しながらPETで照射部が観察できる国立がんセンターの手法も画期的である。2については、粒子法による臓器動体追跡シミュレーションの可能性、CTのダイコムデータ形式からのシミュレーションメッシュデータ生成、地球シミュレータを使ったDDS設計など、日本に優位性のある技術が注目された。放射線医療技術開発普及のビジネス価値の定量分析(リアルオプション法など)も実用化に向けて有用である。教育体制につては、特に北大、阪大、東北大、東大にて整備されつつあった。これら革新的研究テーマと人材育成プログラムを、すでにスタートした粒子線医療人材育成プログラムのあとに用意すべきである。その際国際レジデンシー(研修生)など欧米機関との連携も重要である。アメリカMemorial Sloan Kettering Cancer Centerがその窓口としての可能性が高くなった。本活動は日本原子力学会研究専門委員会としてもう2年継続できることとなった。特定領域研究相当のものを立案してゆきたい。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科研グループが設立した「マルチリンガリズム研究会」などを通して、研究を進め、その成果を雑誌や国際学会で発表するとともに、その成果に基づいた「多言語同時学習支援」の国際シンポジウムや試行プログラムも実施し、「多言語併用環境における日本語の習得、教育、及び支援」に関する全体の研究実績を報告書にまとめた。主な研究実績の概要は以下の通り。1.幼児から成人までを対象に、(1)1人1言語・3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。環境1言語仮説(2)思考言語と優越言語(3)言語環境の変化(4)品詞(5)言語選択(6)アイデンティティ(7)場所格(8)テンス・アスペクト等の観点から、タガログ語・英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・中国語等の多言語併用環境における日本語習得の実態が解明された。(これらの主な成果は、スイスでの国際学会「The fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」のProceedings(CD-ROM版)として出版。)2.国際シンポジウム「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援」をマルチリンガリズム研究会と日本語教員養成機関(大学院>とで共催し、3力国(+台湾)での多言語学習・習得の実態の報告を受け、多言語同時学習支援プログラムと多言語併用環境での日本語の教育や支援のできる日本語教員養成プログラムの研究・開発に着手できた。3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。
著者
高宮 いづみ 白井 則行 遠藤 仁
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、エジプト・アラブ共和国南部に位置するヒエラコンポリス遺跡の一角で発掘調査と分布調査を実施し、エジプトの初期国家形成期において、穀物(麦)の調理の専業化がどのように進行したのかを考察するとともに、それらと集落の都市化および文化・社会の複雑化との関係を明らかにすることを目指した。調査と研究の結果、前4千年紀前半から集落の中に家政を遙かに超える規模の穀物調理施設が主に集落縁辺部に存在するようになっており、穀物調理と関連して集落の構造化が進行した可能性を示唆した。
著者
嶺崎 寛子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は「ムスリマ(イスラーム教徒の女性)によるイスラーム言説の創出および利用の実態を、彼女たちの日常実践と法識字レベルとに注目して明らかにすること」である。本年度の研究では、1)イスラーム言説にかかるムスリマの主体的活動について研究するとともに、2)2011年に起きた革命といわゆる「アラブの春」についての情報収集と分析を行った。本年度は具体的には、1)イスラーム言説の利用について、女性説教師の活動を事例として、権威というキーワードを用いて論じた英語論文を完成させた。この論文はオランダ・ライデンの著名な出版社、ブリル社から刊行された論文集に査読を経て掲載された。この本にはインデックスの語句の選定・語句説明の執筆、アラビア語の英語表記の方法等の決定、分担執筆など、論文だけではなく包括的な形で関わった。MLを立ち上げ、世界各国をフィールドにする多国籍の他の執筆者とEメールで意見交換しつつ、決定し、分担して執筆する過程で、学術的な国際的ネットワークを築くことが出来たことも今年度の成果である。2)アラブの春で宗教界が果たした役割について、現地紙等を資料にキリスト教、イスラームについて整理・分析を行った。日本語で読める、宗教界にフォーカスしてアラブの春を分析した研究はなかったため、本論文はアラブの春を多角的に理解するため、一定の貢献をしたといえよう。(嶺崎寛子「エジプト、1月25日革命を読む-宗教の視点から」『国際宗教研究所ニュースレター』70.東京:国際宗教研究所、pp.11-16)。
著者
徳田 功 福田 弘和 池口 徹 郡 宏 池口 徹 郡 宏
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

視交叉上核(SCN)におけるニューロン群のネットワークモデルを生理実験に基づいて忠実に構築し,数値解析を行うことにより,哺乳類のサーカディアンリズムの動的メカニズムの理解を目指した。ラットSCNスライス計測データからニューロン間の結合構造を推定し,ネットワークモデルを構築して解析を行ったところ,スライスデータで観測される位相波を再現することが出来た。ニューロン間に位相差を生じる位相波は時差ボケ機構などにおいて重要な役割を果たしていると考えられる。また,概日リズム制御を目標に,電気化学振動子の結合系に対して遅延フィードバックを適用し,クラスター状態の制御が可能であることを確認した。さらには,植物遺伝子発現データの位相応答特性の計測結果に基づいて,特異点摂動から同期状態の制御を試みた。
著者
根岸 隆之
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では内分泌撹乱化学物質のヒトにおけるリスク評価、特に神経発達影響のリスク評価について有用な情報を提供するためにカニクイザルを用いた神経発達影響評価系の確立を試みた。まず、カニクイザルの神経発達を分子生物学的に評価した結果、生後直後から60日にかけて急激に発達することを明らかにした。また、この時期に甲状腺ホルモンを欠乏させると抑制性神経伝達システムの発達が妨げられることを明らかにした。加えて影響評価に適したカニクイザル胎仔由来神経系細胞の培養法を確立した。
著者
三成 由美 徳井 教孝 内山 文昭 酒見 康廣 大仁田 あずさ 山口 祐美 鶴田 忠良 和才 信子 川口 彰
出版者
中村学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

児童に生きる力を発揮させ、健康管理能力を高める事を目的に、望ましい食習慣と規則正しい排便習慣の形成のための日本型薬膳食育プログラムを開発し評価した。食と健康の意識・実態調査と学校給食にヘルシーメニューを導入することで知識は向上した。さらに、食育CD-ROM、解説書・カレンダーを作成して3ヵ月間、児童に配布し評価すると効果は認められた。これらの教材は学校現場の食育で利用価値が高まると考えられる。
著者
藤本 啓二
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

細胞表層にポリマーからなるシールド層を形成させ、さらに外側に種々のバイオアフィニティを提示させることにより多様な細胞からなる組織体を形成させた。次に組織再生を視野に入れた細胞の構造化に向けた表層改質条件の検討を行った。また、このアフィニティを利用して基板上に細胞を2次元あるいは3次元状に配列し、セルチップなどの技術への展開をはかるための基盤技術の確立を行った。また、リガンド・レセプター間結合を高め、細胞表層改質のために、リガンド固定化部位、光反応性部位、アフィニティ部位および解離性部位からなる多機能性ナノ分子(ポリマーナノツール)を作製した。これにより、細胞の移動性を光によって制御することができた。