著者
島 伸和 伊勢崎 修弘 兵頭 政幸 山崎 俊嗣
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、海底電位差磁力計を新たに開発し、背弧海盆であり海底拡大がはっきりしているマリアナトラフをターゲットにして、マリアナトラフの詳細なテクトニクスの解明と、マリアナトラフ付近での電気伝導度構造の推定を行なった.開発した海底電位差磁力計は、すでに実用段階に入っており、その大きさとしては世界最小レベルであり、機動力という点でも優れている.また、この電極には、FILLOUXタイプの電極を採用して、このタイプの電極を国内で安定した性能で作る体制を整えた.海上での観測で得られた海底地形、重力、地磁気データを解析することにより、次のように詳細なテクトニクスをあきらかにした.(1)北緯16〜18度付近は、約6Maに海底拡大を開始した.拡大速度(片側、以下同じ)は20mm/年程度と遅い.(2)北緯16度以北では、拡大開始時の拡大軸の走向は北北西-南南東であった.つまり、トラフ北部では西マリアナ海嶺の走向にほぼ平行であるのに対し、南へ行くに従い西マリアナ海嶺とは斜行するようになる.トラフ中部及び北部では、現在の拡大軸の走向は南北に近い.(3)北緯14度以南のトラフ南部では、海底拡大は3Ma頃開始し、拡大速度は35mm/年程度と中部・北部よりやや速い.中軸谷が存在せず、地形的には東太平洋海膨型の速い拡大の特徴を持つ.(4)北部マリアナトラフにおいては、リフフティング/海底拡大の境界は北緯22度付近にある.北緯20〜22度では約4Maに拡大を開始した.1年間設置して観測した海底電位差磁力計によるデータの初期的な解析結果より、マリアナ島弧火山下には、70kmの深さに部分溶融と見られる電気伝導度の高い領域があることがわかった.また、マリアナトラフ下には、数10kmのリソスフェアに対応すると考えられる低電気伝導度層が存在することを明らかにした.
著者
高嶋 礼詩
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

今年度はヒマラヤ山脈と同様の衝突帯である,ヨーロッパアルプス西縁部のフランスプロバンス地域と日高山脈西縁部の北海道中軸帯において,白亜系の構造地質学的・層序学的検討を昨年度に引き続き行った.1)フランス南東部の研究結果フランス南東部のDigne周辺地域は,第三紀のアルプス造山活動によって,白亜系が東傾斜の軸を持つ南北性の褶曲と東傾斜の南北性の衝上断層群による変形を被っている.同地域の白亜系について,微化石を用いて詳細な年代を解明することにより,衝上断層による地層の欠損量を定量的に計測した.また,白亜系を不整合に覆う前縁山地堆積物の時空分布から,同地域における衝突に伴う構造運動の時空変遷を考察した.2)北海道中軸部の研究結果衝突帯の前縁部である夕張山地から石狩低地帯に至る地域と,幌加内・朱鞠内から羽幌・小平にいたる地域の2箇所で,広域で詳細な地質図を完成させた.特に前者の地域では塊状泥岩が卓越し,岩相的に単調であるために,同地域の構造を把握することはこれまで全くなされてこなかった.しかしながら,微化石による精密な化石基準面を同定し,それらを広域にマッピングすることにより,岩相上識別不能な同一時間面をトレースすることが出来た.また,夕張山地の白亜系の泥岩中には,数10層の凝灰岩層も挟まれているが,各凝灰岩を識別することが困難なために,鍵層として用いられることもなかった.しかし,各化石基準面と組み合わせることにより,他の地域(羽幌・小平)にまで対比できることが明らかになった.これらの鍵層・化石基準面に基づく地質構造の解析の結果,双珠別衝上断層,芦別岳衝上断層,桂沢衝上断層という,3つの大規模な衝上断層を発見した.さらにこれらの断層によって,それぞれ10km以上の短縮が起こっていたことを解明した.以上の結果により,日高山脈西縁部の複雑な褶曲・衝上断層構造が復元され,島弧衝突帯前縁部における構造を解明することが出来た.この結果の一部をCretaceous Researchに投稿し,受理されている.これまで行ってきた,ヒマラヤ山脈,アルプス山脈,日高山脈の研究結果から,大陸間,島弧間の衝突過程における山脈の形成と,衝上断層の発達過程を比較検討した.その結果,島弧間の衝突では,前縁山地の地質体における衝上断層系の発達のみであるが,大陸衝突では,地殻深部の変成岩ナップの大規模な前進が起こり,前縁山地堆積物に変成を起こしながらのし上がっていくことが明らかになった.
著者
秋根 茂久
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

不斉情報の自在な記録を可能にする分子素子の開発を目指し、メタロヘリセンの合成と機能化について研究を行ってきた。本度は、直鎖状オリゴオキシムの末端のベンゼン環部分にアリル基などのらせん固定化部位を導入した配位子を合成し、金属と錯形成させてメタロヘリセンへと導くことを検討した。ここで、金属としては、亜鉛(II)-ランタン(III)や亜鉛(II)アルカリ土類の組み合わせを用いることとした。らせん型金属錯体のらせん構造の固定化について、閉環オレフィンメタセシスによる検討を行ったところ、第二世代のGrubbs触媒を用いた条件で反応が進行した。特に、亜鉛-カルシウムの系では、単離収率64%で環化体が得られた。また興味深いことに、cis体のオレフィンのみが生成していることが明らかとなった。亜鉛-ランタンの場合には副反応が進行するために収率は低下したが、この場合も環化体の生成はcis選択的であった。また、らせん型構造とならない亜鉛(II)ホモ三核錯体の場合は、cis,trans体の混合物(32:68)が得られた。一方、金属と錯形成させていない配位子のオレフィンメタセシスではtrans体が主として生成した。これらの結果から、直鎖状配位子をらせん型金属錯体に変えても十分にメタセシス反応が効率的に進行し、その際に、生成するオレフィンのcis/trans比が逆転するということがわかった。このように、Grubbs触媒を用いた閉環メタセシスが不斉情報保存のためのらせん構造の固定化反応に有用であることを明らかにした。
著者
大見 美智人 林 泰弘 北園 芳人 小池 克明
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では電気探査とMT法とを併用して地下浅部・深部の比抵抗分布を明らかにし,それから3次元的な温度分布構造を推定するための手法について検討した。この目的のために九州中部の阿蘇山を研究対象に選んだ。本研究の成果は以下のようにまとめられる。1.ラドンの移動の数値シミュレーションとラドン原子数算定理論により,ラドン濃度の空間的分布から,幅・傾斜方位・傾斜角度に関する断層の形状を推定することが可能になった。また,熱水の通路となる断層上のラドン濃度は,火山性地震などに起因して大きな時間的変動を示すことが明らかとなった。2.衛星画像と数値地形モデルとの組み合わせにより,熱水流動に影響を及ぼす断裂系の分布形態(走向・傾斜,分布密度)が推定できるようになった。3.一般に坑井データは分布密度が低く,深度も限られており,直接データを補間しても温度分布の特徴が得られない。これを改善するためにニューラルネットワークと地球統計学とを組み合わせたところ,地表面から標高2kmの深度までの温度分布が3次元的に推定できるようになった。この分布モデルから断層の存在が温度分布に及ぼす影響や熱水の流動形態が把握できる。4.活断層のように最近動いた履歴のある断層であれば地表面近くで比抵抗が低下する。断層の深部での比抵抗は一様でなく,特に破砕度が大きいと推察される部分の比抵抗は低い。阿蘇山火口西側の断層の推定分布域では比抵抗の異方性が顕著で,TEモードとTMモードとでは分布傾向が大きく異なる。5.阿蘇山火口西側においてMT法によって推定された比抵抗と数値シミュレーションに基づく推定温度との関係を検討し,概ね温度が高いほど比抵抗が高くなるという傾向を明らかにした。また,同じ温度でも熱水の上昇域で比抵抗が低下する現象も見出された。
著者
香西 克俊 境田 太樹 福士 恵一 石田 廣史 東上床 智彦
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

TOPEX/POSEIDON衛星高度計データをもとに日本海南部におけるナホトカ号船首部漂流期間を含む1993年1月から1997年12月までの海面高度場を推定した.船首部漂流期間中,漂流期間前と比較して,隠岐諸島北部海域の海面高度は能登半島北部海域より海面高度が約80mm上昇し,その結果,プイ南側に位置する沈没地点付近の等高線間隔が密になり,等高線の向きも南北方向に傾く様子が見られる.この海域の海面勾配は等高線に対して直角方向110kmに対して海面高度差が約140mmあり,これは地衡流速に換算して南南東向き約0.24ノットの流速である.船首部漂流期間終了後,隠岐諸島北部海域の海面高度は能登半島北部海域の海面高度に比較して大きく下降し,その結果,沈没地点付近の等高線間隔は漂流期間中に比べて広がり,等高線の向きも東西方向に傾く様子が見られる.TOPEX/POSEIDON衛星高度計データによる時空間平均海面高度場では捉えきれない空間スケール100km以下の小規模低気圧性渦の存在を地衡流向流速場により明らかにした.そして風速が10m/s以下の期間の漂流軌跡はこの低気圧性渦による南東流の影響を強く受けている可能性を示唆した.ERS-2搭載高度計データをもとにナホトカ号沈没船体からの漂流重油を追跡した結果、軌道に沿った推定表層地衡流量は沈没船体からの漂流重油の海面における湧出点位置に大きな影響を与えていることが確認された。特に推定表層流向は沈没位置に関する湧出点位置の方位角とほぼ一致し、また推定表層流量が大きくなればなるほど重油湧出点位置は沈没位置から離れることが明らかになった。
著者
福井 勝則 大久保 誠介 羽柴 公博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

AM帯域に混在する電磁波の観測を行い, 地震発生の1ヶ月前から電磁ノイズが増加し始め, 10日前にピークに達し, その後低下し(空白期間といえる部分が存在), 地震に至るという例が多数見られることを示した. 岩石破壊試験を実施した結果, 電磁ノイズなどの予兆現象が地震のかなり前にピークを迎えることは解釈が難しく, 破壊の集中あるいは水の移動により, 空白期間が発生した可能性が高いことを示した.
著者
大河内 信夫 藤澤 英昭 鈴木 隆司 大河内 信夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は伝統技能を教育学的な検証を経て学校教育の現場で活用できる題材として開発し、実践によって評価しようとしたものである。具体的には3つの代表的な取り組みを行った。第1に、伝統の刃物づくりの調査とそれを題材としたDVDの製作、第2に銅鏡の製造過程の調査と製作マニュアルとしてのCD製作、第3に伝統的な養蚕の実践とできた繭から絹糸を取り出し小型のランプシェードをつくる題材の開発と実践をおこなった。DVDとCDは千葉県下の市教育委員会へ配布し、その教育的評価を調査した。実践的な検証の取り組みでは、附属小学校において、銅鏡づくりは鋳型づくりと研磨を主に体験して製作し、ものをつくるにはいろいろな道具と時間がかかることを体得した感想が多かった。教員養成学部の授業実践として銅鏡づくりと行灯づくりに取り組み、教員資質にとってものづくりが重要であることを実証した。技能に裏付けられたものを作る能力を定着させる方法論が次の課題である。
著者
筏津 安恕
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

プーフェンドルフの自然法論をヨーロッパ精神史のなかに位置づけるために資する可能性のある文献を収集・検討した。また、今年度も八日間チューリッヒ大学に滞在して、後期スコラ学派に関する文献調査を実施した。本研究は、自然法の学問としての自立化と、その枠内でのローマ法の訴権のシステムから独立私法のした一般理論の誕生の秘密を解明するという二つの柱からなる。ヨーロッパ私法の一般理論は、ローマ法の近代化のプロセスにおいて誕生するが、ローマ法の内在的な発展の力によっては、私法の一般理論を形成することは不可能であったという想定のもとで、私法の一般理論の誕生を促進した神学と哲学の影響を解明することに留意した。今年度は、神学の影響をみるために、後期スコラ学派のスアレスとレッシウスの研究を行った。ヨーロッパ大陸法系の制定法文化の成立のためには、私法の一般理論が必要不可欠であるが、これを構築するために、意思概念が重要な役割を果たす。意思概念が神学の影響によることは比較的よく知られているが、それがどのようなルートで法学に影響を及ぼすことになったのかということは、未解明の問題である。今年度の研究で、スアレス、デカルト、プーフェンドルフのラインをたどることができることが判明した。私法の一般理論の誕生のためには、もう一つ体系の配列の仕方についての考え方が問題であり、これについては、後期スコラ学派に属するレッシウスを中心に検討している。後期スコラ学派の道徳神学としての自然法論の内部で、restitutioを中心とした私法学が形成されており、ローマ法の現状回復を意味するrestitutio論を、損害賠償の意味でのrestitutio論に拡大し、これを中心とした私法の一般理論が模索されていたことが解ってきた。最終年度においては、restitutio論を中心とした一般理論の構築の試みから、グロチウス、プーフェンドルフの契約理論を中心とした一般理論への転換の理由を解明することが課題となる。
著者
泉池 敬司 羽鳥 理 真次 康夫 古谷 正 高木 啓行 林 実樹広
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

H^∞のイデアル構造とその上の作用素の研究が目的で、代表者は次の結果を得た。1)H^∞の極大イデアル空間の自明点の集合に関するはスアレスの問題の解決。2)素イデアルに関するゴルキンとモルチイーニの問題の解決。極小のκ-hullに関するゴルキンとモルチイーニの問題の解決。極大イデアルの共通部分で表せるイデアルの十分条件を与えた。3)互いに特異な測度の特異性、および測度の絶対連続性が極大イデアル空間に表現できることを示しH^∞+Cでの割算問題に応用した。4)表現測度の台が極大となるための十分条件を与えた。この証明の方法は応用範囲が広いことがゴルキン、モルチイーニ氏との共同研究で分かった。また可算性の研究の1つとして、QC-level集合、非解析集合を研究した。5)合成作用素の空間の本質ノルムによる連結成分を決定した。6)中路、瀬戸氏とトーラス上の逆シフト不変部分空間の研究を行ない、自然に得られる作用素が可換になるときの部分空間を決定した。7)Yang氏とはトーラス上で、逆シフト作用素が縮小的な部分空間を決定した。研究分担者の古谷氏は長氏とlog-hyponormal作用素を研究し、Riemann-Hilbert問題に1つの解を与えた。またω-hyponrmal作用素のkernelに関するAluthge-Wangの問題の解答を与えた。真次氏はn次元空間の単位球上の関数空間の研究を行い、荷重バーグマン・プリバロフ空間に対して、Yamashita-Stoll型の特徴付け及び等距離写像の決定を行った。羽鳥氏は可換Banach環上の環準同形写像の表現定理を与え、環準同形写像が線形写像となるための十分条件を与えた。高木氏は関数環上の荷重合成作用素の次の性質を明らかにした。1.閉値域 2.本質ノルム 3.Hyers-Ulam stability定数。
著者
西田 治文 朝川 毅守 瀬戸口 浩彰 村上 哲明 青木 誠志郎 ARMAND Rakot 湯浅 浩史
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

平成11年度は、下記地域に分担して最終調査を行い、10年度調査の資料と合わせて順次成果を刊行する予定である。調査に付随した話題の一部は、普及書にゴンドワナ大陸をめぐる植物分布の記事として西田、浅川が紹介したマダガスカル村上が、特にチャセンシダ科、ゼンマイ科の標本を採集した。すでに10年度に西田らとともに収集した資料の遺伝子的解析に着手しており、広分布種とされているレガリスゼンマイに多くの種内変異があることなどがわかり始めている。ボリビア・アルゼンチンボリビアで西田は、シダ類のフサシダ科、チャセンシダ科、シシガシラ科の、青木はタバコ属のそれぞれ遺伝子解析用資料および乾燥標本、、液浸標本を採集した。アルゼンチンではタバコ属を南部パタゴニア地域で広範に採集した。タバコ属内の遺伝子移動に関する論文を投稿準備中である。シシガシラ科の資料は、これまで形態のみで推定されてきた系統関係を検証するために解析が進んでいる。ニューカレドニア浅川が、第三期珪化木化石収集を行い、多数の資料を得た。10年度にマダガスカルで採集したペルム紀および白亜紀材化石とあわせて、比較解剖を進めている。ヤシ科、ヤマモガシ科などの材がみつかっている。ボルネオ瀬戸口が、キナバル山周辺で採集を行い、ビカクシダ属、ヤシ科、ゴマ科など系統解析用の資料を収集した。すでにビカクシダ属については10年度採集のマダガスカルの標本を含め、多の熱帯地域の資料解析が進んでおり、発表の準備をしている。全体として、シダ植物から被子植物まで、いくつかの分類群について、南半球での異なる分布形態とその成立過程が説明できる新たな結果が得られつつある。
著者
青木 繁 BUI Huy Duon YANG Wie KNAUSS Wolfg 北川 浩 岸本 喜久雄 YANG Wei HUY Duong BU WEI YANG WOLFGANG KNA MAIGRE H. RAVICHANDRAN ジー ROSAKIS Ares NAKAMURA Tos 天谷 賢治
出版者
東京工業大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究は,日米中仏の4ヶ国の研究者の共同研究により実施するのもので,材料の破壊プロセスにおける微視的な内部構造変化について総合的に検討するとともに,それらを踏まえたメゾスコピック材料モデルを構築することを目的とする.すなわち,本研究では,原子レベルならびにナノレベルにおける微視的アプローチ,不均質材料,材料界面,高分子材料,複合材料の損傷・破壊モデルの検討,および,衝撃荷重や環境など外因の影響を踏まえた材料モデルの考察など,種々の立場から,材料モデルの構築を進めるとともに,相互に協力,啓発を行い,それらを統合化した材料の寸法尺度,時間尺度に対する階層構造を的確に捉えたメゾスコピック材料モデルの構築を目指している.本研究において設定した調査テーマは下記の通りである.(1)分子動力学法を基礎とする材料モデルの構築,(2)材料の損傷・破壊現象のミクロとマクロメカニクス,(3)界面強度特性とミクロ・マクロ材料モデル,(4)不均質材料の特性発現機構と損傷機構のミクロ・マクロモデル,(5)複合材料の損傷過程とミクロ・マクロモデル,(6)ミクロ構造を考慮した高分子材料モデルの形成とマクロ特性,(7)破壊のプロセスゾーンの損傷モデル,(8)衝撃荷重下における材料の破壊モデル,(9)材料の環境強度に及ぼす電気化学因子のモデル化また,東京工業大学,カルフォルニア工科大学,エコールポリテクニークにおいて共同研究を実施するとともに,中国,カナダ,アイルランド,ポルトガルにおいて調査研究を実施した.それらの結果,材料の内部微細構造の変化のダイナミクスを多面的に捉えるための分子動力学法,境界要素法,有限要素法などの種々の方法に基づくモデリング手法についての知見が得られた.
著者
稲垣 良典
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

さきに提出した研究実施計画にもとづいて次の通り研究課題に関して研究を行った。(1)哲学史における最も精密な形而上学的・神の存在論証であるといわれる『第一原理について』を大学院の演習において取りあげ、スコトゥスが認識の確実性、概念の明晰さ、言語の一義的な明確さに留意しつつ、形而上学的議論を進めていることを確認した。(2)同じく大学院の演習においてトマスの『有と本質について』を取り上げ、トマスにおいては事態そのものの知解をめざすことに重点がおかれ、確実性、明晰さ、一義性への留意はむしろ背後に退く傾向があることを確認した。このことはスコトゥスにおいて形而上学の学(scientia)的性格が確立されたことと関係がある。そしてスアレスを経て、近代のウォルフへと受けつがれる学としての形而上学の伝統はスコトゥスにおいて確立されたものであることが確認された。(3)最近刊行が開始されたヘンリクス・デ・ガンダヴォの批判版を入手して、スコトゥスが専らそれとの対決において自らの形而上学を構築したヘンリクスの基本思想の理解につとめた。またMediaeral Studies(1987ー88)に収載された14世紀の存在概念の一義性に関するテクストにもとづいて、スコトゥスが存在の一義性の立場を形成するに至る経緯をあきらかにしょうと試みた。しかし、この点に関する研究はまだ発表の段階に達してはいない。これらの研究を通じて、認識理論においてはオッカムにおいて決定的な転回がなされるのにたいして、形而上学においては決定的な転回はスコトゥスにおいて行われているとの見通しが確認されたと思う。
著者
若松 新
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1978年のスペイン憲法は、1949年のボン基本法(現行ドイツ憲法)の影響下で制定された。1970年代半ばに、スペイン、ポルトガル、ギリシャでは、独裁制が終わり、自由民主化改革が始まった。この改革は、1989年前後の東欧市民革命と比較できる。フランコ旧体制下では、自給自足経済から開かれた市場経済へ変化した結果、政治体制も西欧化した。東欧市民革命では、経済的破綻が政治改革をも必要とした。1976年に成立したUCD(民主中央同盟)のスアレス内閣は、与野党協調路線を取って、政権への支持基盤を固めた。特に憲法制定に際しては、各党の少数の代表者計7名からなる「特別(起草)委員会」が妥協案作成に貢献した。この点で、ボン基本法制定時の3人委員会と同じ役割を果たした。またスペイン憲法制定時には、単純多数の賛成のみならず、圧倒的多数の賛同が計られた。この点でドイツのヘッセン州憲法制定時の多数派工作の実態と同じであった。1982年に成立したPSOE(スペイン社会労働党)のゴンサレス内閣は、保守層の支持獲得に腐心して、NATO残留政策を選択した。だが、50%以上の議席数の支持を得たゴンサレスの強力な指導力に足して、「議会野党」は精彩を欠いていた。D・L・ガルリイドは、両内閣と議会の権力構造を、象徴的な政治機構図に描いた。また、U・リ-ベルトは両内閣と議会の強弱関係を分析した。リ-ベルトによれば、1976年のスアレス内閣は「(政府)と対等な議会」の範疇に属する。他方、1982年のゴンサレス内閣時のスペイン国会は「政府に従属する議会」であった。ドイツで生まれた「建設的不信任投票制度(後任の首相の選出と現首相の解任を同時に行う制度)」がスペイン憲法113条に輸入され、スアレス少数政権下では政治の安定が計られたのである。
著者
平田 憲 福島 美紀子 木村 章 松本 光希
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

ロドプシンやIRBP、アレスチンといった網膜特異的蛋白の遺伝子のプロモーター部位にはPCE-1領域(CAATTAA/G)とOTX領域(TGATTAA)というシスエレメントが存在しており、OTX領域にはCRXとよばれるホメオボックス型転写因子が結合することが知られていた。我々の一連の研究は、PCE-1領域に結合する転写因子を同定し、網膜特異的遺伝子の発現にそれらがいかに関わりあっているかを検討することにあった。我々はまずPCE-1領域をプローブにしてサウスウェスタン法にて、RXと呼ばれるホメオボックス遺伝子を同定した。次に抗RX抗体を用いて、ウェスタンブロット法と免疫染色法を行い、RXが網膜特異的に存在し、網膜視細胞層以外にも内顆粒層や神経節細胞層など網膜全体に存在することを示した。さらにEMSA法にてRXがPCE-1領域に結合するのを確認した。また変異をつけたプローブによるEMSA法にて、RXとCRXという似通った転写因子が結合領域のコア(ATTAA)の前の2塩基対(CAかTG)によって結合特異性が違ってくることを明らかにした。次いで我々はCATアッセイにてRX, CRXによる綱膜特異的遺伝子のプロモーターの転写調節活性を調べた。RXもCRXもアレスチンやIRBPプロモーター活性を量依存的に増加させた。それに対しアレスチンプロモーターのPCE-1領域のみに変異をつけるとRXによる活性のみが低下した。さらにRX, CRXの領域特異的なプロモーター活性をみるため、PCE-1とOTXをつないだCAT遺伝子を作成し、RX, CRXを導入して実験を行ったところ、PCE-1ではRXのみが、OTXではCRXのみが活性を増加させた。これらのことから、網膜特異的遺伝子の発現にはPCE-1とOTX領域が必要であり、それぞれRX、CRXという転写因子が領域特異的に結合し、活性化していることが明らかにされた。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザのコナトゥス論との比較を通して,コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較を通して,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・完全性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザのコナトゥス論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,『Suarez Opera Omnia』の物体論・運動論及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「原因性」・「実体性」に関する該当箇所の翻訳を試みた。4.スピノザのコナトゥス論及び物体的世界の構成に基づき,スピノザ哲学の頂点である「最高善」・「第三種の認識」について検証を行った。すなわち,最高善とは「コナトゥスの自覚化」において見いだされるものであり,第三種の認識は人間存在全体の統合的本質である「コナトゥスの認識」に他ならないのことが明らかになった。
著者
藤田 悠
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.存在を主題とする西洋形而上学の歴史に絶えずついてまわる「無」の問題を検討する上で、まずカントの「無」の概念に関する叙述を解明する予定だったが、さらにそれに先立ってベルクソンの哲学を参照する必要性が出てきた。というのも彼は、西洋形而上学の根本的な誤りを「無」の概念のうちに読み取り、それを繰り返し批判しているからだ。しかも興味深いのは、ジル・ドゥルーズが慧眼をもって洞察しているように、この概念が一種の仮像性を帯びており、その限りにおいて人間知性にとって不可避だということをベルクソンが認めていたということ、そしてカントと同様の手法を用いてこれに対処しているということである。ベルクソンが「かくてわれわれは絶対無の観念を獲得するが、こうした無の観念を分析するならば、それが実際には全体の観念である…ということを知る」と語っていることからも、彼がカントと同一の問題圏のうちに立ちながら、これを批判していたのではないかという見通しを得ることができた。2.次いで、ジョルダーノ・ブルーノの思想を検討した。彼の無限宇宙論の主張の背後には絶えず、空虚ないし無に対する拒絶があるからである。ここでもまたベルクソンの場合と同じように、カント的な問題意識が根底に存することが認められた。「ありうるもののすべてであるものは、自らの存在のうちにあらゆる存在を含む唯一のものです。他のものはみなそうでなく、可能態は現実態に等しくありません。なぜなら、現実態は絶対的なものではなく、制約されたものだからです」と彼が語るとき、念頭に置かれているのはスコラ的な空虚の概念である。3.またスアレスの原因論においては、「自然物の生成」という非本来的な原因性が論じられる際、「欠如」の概念が、形相と質料と並列されたかたちで、「生成の出発点」としての意味を持たされていることを確認した。
著者
山本 芳久
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、一言で言うと、近世のスコラ学という世界的に未開拓の分野における「人間の尊厳」という概念の構造を詳細に探求することによって、従来の思想史の空白部分を埋めるとともに、人間の尊厳という問題に関する哲学的な議論の土俵を広げていくような新たな視点を提示していくことである。「人間の尊厳」や「人格」といった概念に関する中世と近代の連続性・非連続性の具体的な詳細を明らかにするための最大の手がかりは、中世末期から近世初頭にかけてのスコラ学における人間論の探求にある。だが、本邦においては、近世のスコラ学に関しては、社会思想史に関する若干の研究を除けば、哲学的に見るべきところのある研究は未だ殆ど為されていない。また、世界的なレベルで見ても、この分野は未開拓の分野であり、そこには哲学的探求のための非常に豊かな鉱脈が埋もれていると言える。それゆえ、本研究は、そのような鉱脈の中においても、とりわけ、近世スコラ学における「人格(persona)」概念と法哲学(自然法と万民法)に着目し、人間の尊厳の存在論的な基礎づけに関する哲学的探求を、近世スコラ学のテキストとの対話の中で遂行することを目的としている。本年は、とりわけ、トマス・アクィナス(1225-1274)とスアレス(1548-1617)における自然法と万民法概念の構造を哲学的に分析しつつ、更に、現代の社会哲学のなかでスコラ的な法理論の持ちうる積極的な役割を明らかにした。
著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、16世紀スペインの後期サラマンカ学派(c. 1576-1600,メディナからバニェス)の思想を考察し、初期近代政治思想史におけるその地位と意義を検討するものである。中世スコラ学の刷新を試みた同学派の権力・国家論は、後に主流となる主権論とは別の観点から脱中世型権力理解を提示した点で注目されることを明らかにし、その成果を、著書や口頭報告の他、講義やメディア報道により、多様な読者、聴衆に向けて公にした。
著者
荻野 弘之 大橋 容一郎 田中 裕 渡部 清 勝西 良典 谷口 薫
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

過去4年間の研究を集約して以下のようなまとめを得た。(1)西洋古代哲学の領域では、実践的推論の結論を字際の行為に媒介する「同意」の概念から派生した「意志」に相当する「われわれのうちにあるもの(如意)」(epi hemin)に関して、後期ストア派、特にエビクテトスとマルクス・アウレリウスにおける展開が跡づけられた。これについては07年度末までに、単行本として成果の一端を刊行する予定。(2)アウグスティヌスの内面的倫理思想の分析として、正戦論の祖とされる聖書解釈の検討により、中世盛期スコラ学の自然法思想との相違が明らかになった。これらについては単行本の形ですでに刊行された。(3)同時にこの概念が、仏教的な「如意」の思想として近代日本思想史に接続する状況を跡づけた。その結果、西川哲学を、孤立した(独創的な)日本独自の思想としてのみならず、明治期の西洋哲学の受容史のうちに置き据えることにより、これまで仏教、特に禅との比較でのみ論じられがちであった西田哲学を、キリスト教の受容史の視点から読み直すという新しい視座を獲得しつつある。これについては渡部によって引き続き研究が継続される。西田に関しては新カント派を経由するかたちで大橋によって、また東西の比較霊性史の見地から田中によっても積極的な提題があり、とりわけ「自覚」と「意識」「人格」の概念的な結びつきが改めて問われることになった。清沢満之の新しい全集の刊行もあって、今後はストア倫理学と仏教思想、キリスト教修道思想の微妙な関係を歴史的、構造的に問題にしていく可能性が開かれつつあることは大きな前進といえよう。(4)残された課題も依然として多い。そのうちでも、近年英米圏の哲学において「後悔」「自信(自負)」といった感情の分析が、モラル・サイコロジーの手法によって、また哲学史研究としても隆盛を見せている、こうした研究動向を睨みながら、従来の思想史の読み直しがどういった可能かについては、今後の課題でもある。
著者
阪東 恭子 BRAVO SUAREZ Juan Jose
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

平成18年度は、分子状酸素を利用した選択酸化反応に高い活性を示す担持Au触媒に関して、(1)プロピレン(PE)選択酸化によるプロピレンオキシド(PO)合成に高い活性を示すことが分かったAu-Ba/Si-TUD(メソポーラスアモルファスチタノシリケート担持Ba添加Au触媒)について、in-situ UV, XAFSを用いた反応速度論的解析を行い、反応機構を解明するとともに、(2)平成17年度に開発した新規プロパン選択酸化反応用触媒の更なる高性能化の検討を行った。(1)水素(H_2)と酸素(O_2)を用いたPEの選択酸化によるPO合成反応に高い活性を示すAu-Ba/Si-TUDにおいて、反応条件下でUVを測定すると、チタンサイト上の過酸化物(Ti-OOH)に帰属させる吸収が見られることをH17に見いだしているが、この吸着種が本当に反応中間体であるかどうか確かめるため、PE存在下と、PEなしの水素/酸素のみの条件下でのin-situ UV, XAFS測定を行い検討した。その結果、UVより、Ti-OOH種はH_2+O_2反応後PEの導入により速やかに反応し、消費されること、XAFSにより見られる4配位構造に帰属されるプリエッジピークの反応初期の減少速度から推定される反応速度が、PO合成の見かけの反応速度にほぼ等しいことから、Ti-OOH種は反応中間体であり、しかも、Ti-OOHとPEの反応によるPO生成過程が律速段階であることが分かった。(2)水素(H_2)と酸素(O_2)を用いた、プロパンの選択酸化についてさらに検討を行った結果、担体の種類によって生成物選択性が大きく変化することを見いだした。しかも、それらの反応が200℃以下の低温で効率よく進行することをさせることが可能であることを見いだし、より低環境負荷型の新しい選択酸化反応プロセス構築への知見を得ることができた。