著者
上田 直子 中村 仁美 大栗 誉敏
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本の南西諸島に棲息する毒蛇ハブの毒成分は、意外にも生物の様々な組織にある脂質やタンパク質を分解する酵素が主成分であり、それらが加速進化して多様性を増すとともに、極めて高い特異性とユニークな性質を獲得してきたことが明らかとなりました。またハブ毒は、貴重な創薬シーズ(種)としても注目されています。本研究は、それらの毒成分が、毒を産生する組織である毒腺で、どのようにつくりだされるのか、その分子機構の解明を目指した研究です。
著者
東郷 俊宏
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、病因、病態、病理に関する唯一の専書として中国医学史上、特異な位置を占める『諸病源候論』(610年成立、巣元方撰)について、その疾病分類の特徴を分析することにあった。また疾病を67門、1739種に分類する本書の疾病記述は、漢代以降に成立した医学文献の内容を多く継承しており、かつその疾病定義が日本、中国の別を問わず後世の医学書にしばしば引用されてきたことを鑑み、本書の他の医学書への影響関係をも分析対象とし、中国医学における疾病観の変遷を探る基礎的な作業とした。具体的な成果としては、両年度を通じ最善本(宋版)を用いた経文のデータベース入力作業を進め、さらに宋改以前の旧態を存すると考えられる『医心方』との校合作業を行った。最終年度に当たる平成13年度はこの成果をもとに、本書と先行する医学経典(『素問』『霊枢』『傷寒論』『金匱要略』)、および本書の疾病分類を採用した日本、中国の医学全書(『医心方』『太平聖恵方』『聖済総録』)との引用関係、相互関係を明らかにするべく、対照表をも含めた総合データベース作成に着手した(平成14年度中完成予定)。作業量が膨大となったため、総合データベースはまだ完成をみていないが、作業過程において明らかになった事項を以下に2点挙げたい。1.計画段階で予想したとおり、『諸病源候論』の記述は先行する医学書の記述を大量に含むが、必ずしも原文とおりの引用ではなく、病因の説明などを補い、原本には見られなかった因果関係を明確にする場合が多く見られる。2.『諸病源候論』の引用書目は多種にわたるが、同一種の疾病の記述に関して、諸書の記述をあえて一貫性のあるものにまとめることはせず、内容的に矛盾、相違する部分に関しては別項目をたて、複数の書の記述を併存させるように編集している。
著者
春日井 真英
出版者
東海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

四年にわたる調査研究を通じて至った結果は、十一面観音、牛頭天王(津島信仰)を個々に考えてはならないと言うことであった。これまでは、個々の問題を検討していたが地域を通じて考えてみると、この二柱に加えて地蔵も重要な機能を有していることが伺われるのである。そこには、神仏習合思想に基づく思想を見て取ることができ、この事を解明する手段として「牛頭天王島渡り」の祭文の研究が急務と言うことになる。この祭文に寄れば、津島神は牛頭天王であり、その本地は薬師如来となりそこには行疫神であると同時に施薬を行うという相反する機能を有しているのである。東三河各地を検討してみると素蓋鳴神社(進雄社)が多々存在し、その名を有する神社での祭礼に鬼が顕れるのだが、その鬼達の姿は喜々としている様に見受けられる。また、豊橋市の安久美神戸神明社の鬼祭と地域の宗教施設などを検討してみると、地域全体(ここでは豊橋市)が牛頭天王と十一面観音によって護られているかの様な構造を有していることが判る。この事は、名古屋市も同じであり、名古屋城を中心として各恵方に観音を配置するという構造とも重なるのかも知れない。とくに、尾張部では鬼こそ出ないものの山車によって天王(津島あるいは牛頭天王)が祀られている事を考えれば、東三河地区での様に鬼の顕れる祭祀が、山車という象徴的な祭祀に変化してきていることが伺われる。
著者
富田 広士
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

この研究プロジェクトは、研究計画調書および交付申請書提出段階では、民主化・経済自由化を軸に、1.スーダン・アフリカの角(エチオピア、エリトリア、ソマリア、ジブーティ)と2.エジプトの比較を行おうとした。研究分担として、1.を英国レッディング大学政治学科教授、ピーター・ウッドワード氏、2.を私が担当することになっていた。しかし、研究を開始して1年後の平成10年度交付申請書提出段階において、本務校の事務担当者より、研究組織上外国人を含めることはできず、また実際研究代表者1名による個人研究であるので、そのような形で研究を遂行してほしいとの指摘を受けた。そこで、日本学術振興会担当課に、交付申諸書記載事項の変更を届け出るべきか照会したが、その必要はないとの返答を得た。こうした経緯を踏まえ、平成10、11年度には、エジプトの民主化と経済自由化の研究に集中した。分担地域1.については、ウッドワード教授との研究レビューに止めた。研究成果報告書第1部は、エジプト革命以降サーダート政権までを中心に、従来発表した研究に加筆修正を施した。また第1部、「終りに」において、新たに、7月23日革命以後1990年代半ばに至るエジプトの政治過程を概観している。第2部は、研究計画調書で問題提起した、1960年代エジプトにおける経済自由化の萌芽に関する研究である。第8章を除く全ての論稿は、このプロジェクト期間中に調査あるいは執筆を行ったものである。第11章では、60年代前半のソ連・東欧における経済改革の影響がエジプトに及んだ経緯をある程度分析することができた。今後、エジプトにおける経済自由化の萌芽の問題を軸に、1960年代後半の出来事を追跡して、日本におけるエジプト研究の中で、一つのまとまりとオリジナリティを持った研究に仕上げるつもりである。
著者
速水 正憲 井戸 栄治 三浦 智行 ZEKENG Leopo MUBARAK Osei ALLAN Dixon ROBERT Chegg
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.エイズ関連ウイルスについては、これまでにHIV-1及びHIV-2がヒトから、SIVがアフリカの数種のサルから分離され、また、遺伝子解析からそれらの相互関係が明らかにされてきた。現在では、エイズウイルスがアフリカに由来することは、ほぼ定説となっている。従って、エイズウイルスの起源と進化を理解する上で、アフリカにおける調査は不可欠である。特に、この3年間は、中央アフリカのカメルーンにおける調査を開始、展開することができた。特にこの地域では、非常に変異したHIV-1のO型を初めとして、種々のHIVが混在していることから、重感染とリコンビネーションの存在を確認することをも目的とした。2.カメルーンの首都にある、ヤウンデ大学附属病院を中心に、西部のドゥアラなど都市部にある血液センターでスクリーニングによりHIV陽性となった検体や、東南部や北東部の地方都市において症状からHIV感染が疑われる患者から、また、南東部のピグミー人から、約300検体の血液を採取した。約300検体の血清についてPA法によるスクリーニングの後、WB法、IFA法による確認試験およびHIV1型・2型の鑑別を行った。血清学的にHIV感染が疑われた血液中のリンパ球を用いて、ウイルスのpol遺伝子インテグラーゼ領域とenv遺伝子V3領域をnested PCRで増幅し、それらの塩基配列の分子系統解析を行った。3.pol遺伝子とenv遺伝子による分子系統解析の結果、カメルーンには、HIV-1groupMのcladeA(70%)を初めとして、B、C、D、E、Fの各cladeとO型も少なからず存在(7%)した。またHIV-2も1例であるが検出した。特に、同一患者から2種類のsubtypeのウイルスゲノムが見つかる重感染は、47例中4例(それぞれHIV-2aとHIV-1cladeA、HIV-1groupOとcladeA、HIV-1clodeAとcladeC、HIV-1cladeCとHIV-1cladeF)でみられた。また、pol遺伝子とenv遺伝子の解析結果から、属するsubtypeが互いに異なる、リコンビネーションと考えられる症例が2例みられた。4.カルメーンのように種々のHIV分子種の存在する地域において、HIVにおける重感染が、HIV-2とHIV-1間、HIV-1groupOとHIV-1groupM間、HIV-1groupMの各subtype間を問わず起こりうることが示された。おそらく、同一のclade内での重感染も容易に起こりうるものと考えられる。このことは、ほぼ単一のcladeBを中心とする、我が国における重感染を考えて行く上での新しい知見となりうる。また、重感染あるいはその結果としてのリコンビネーションは、調査した全検体中10%前後(6/47例)という少なからぬ頻度で起こっていることが示された。HIVの分子進化については、従来容易に起こりうる変異の積み重ねによるものと考えられていたが、加えて、リコンビネーションがウイルスの生き残り戦略の一つとして果たしてきた役割も考える必要がある。以上の結果は、HIVの起源と進化を解析するうえでの、新しいアプローチになりうる。また、このことは、HIV感染と免疫に関して、従来の理解を改める必要性を提起するものであり、今後、ワクチン開発を始めとしてHIV対策を考えて行く上で、重要な基礎情報となるものである。
著者
メジアニ ヤーヤムバラク
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

トランジスタ内に生じるプラズラモン共鳴を利用したテラヘルツ(THz)帯動作デバイスの研究開発が活発化している。プラズモンの共鳴周波数は電子密度、ドリフト速度、およびゲート長によって定まる。プラズモン共鳴は、THz帯電磁波(THz波)放射源となるとともに、プラズモンの非線形性によって、注入THz波によるプラズモン励起によって整流効果が得られることが理論的に示されている。本研究では、小型集積化プロセス技術が利用可能な半導体材料を用いて開発した回折格子状HEMTをTHz帯電磁波の検出器として利用し、実験的にTHz波検出とその構造・材料依存性を明らかにした。
著者
酒井 啓子 飯塚 正人 保坂 修司 松本 弘 井上 あえか 河野 毅 末近 浩太 廣瀬 陽子 横田 貴之 松永 泰行 青山 弘之 落合 雄彦 廣瀬 陽子 横田 貴之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

9-11事件以降、(1) 米国の中東支配に対する反米意識の高まり、(2) イスラエルのパレスチナ攻撃に対するアラブ、イスラーム社会での連帯意識、(3) 国家機能の破綻に伴う代替的社会サービス提供母体の必要性、を背景として、トランスナショナルなイスラーム運動が出現した。それはインターネット、衛星放送の大衆的普及によりヴァーチャルな領域意識を生んだ。また国家と社会運動の相互暴力化の結果、運動が地場社会から遊離し、トランスナショナルな暴力的運動に化す場合がある。
著者
大木 康 尾崎 文昭 丘山 新 長澤 榮治 永ノ尾 信悟 鎌田 繁
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、具体的成果として二つの部門からなる「アジア古籍電子図書館」が実現された。1)「漢籍電子図書館」の構築に関しては、本研究所が所蔵する漢籍約8万点の中から、資料自体の価値と希少性、他機関の所蔵状況、見込まれる需要などを多面的に考慮し、貴重漢籍約500点が選定され、約15万コマからなる画像データが作成され、全文画像データベースとして、国内外に先駆けて大量の画像が公開された。これは、既に完成している漢籍目録データベース(これも国内外に先駆けて構築されたもの)と連動するものであり、両データベースの価値を相互に高め合うことになった。この成果は、漢籍に関する総合データベースのパイロット・スタディとなるものであり、その意義は国際的なものである。なお、作成に際しては、国際的な汎用性と将来性を考慮し、古籍電子図書館の標準フォーマットを提示し、台湾国家図書館と中国国家図書館の実務担当者と、国際共同研究の可能性について討議した。2)「西・南アジア古籍電子図書館」の構築に関しては、西アジア研究の資料である「ダイバー・コレクション」目録の全文テキスト入力(アラビア文字・ローマ字転写表記)を行うとともに、画像データ入力も完成した。この他にも「エジプト議会議事録」「エジプト新編地誌」「トルコ語官報」(いずれもアラビア文字資料)について、テキスト情報と画像情報を連係したデータベースの作成を進めた。南アジア古籍資料としては、東京大学総合図書館所蔵の「サンスクリット写本コレクション」の画像データベース化を実現した。上記の諸資料は、当該地域を含めて世界的に希少な資料であり、電子図書館によって世界の各地から利用することが可能となり、世界の学界に貢献するところ大である。
著者
松井 幸夫 倉持 孝司 柳井 健一 藤田 達朗 松原 幸恵 元山 健 愛敬 浩二 江島 晶子 元山 健 愛敬 浩二 植村 勝慶 江島 晶子 大田 肇 小松 浩 榊原 秀訓 鈴木 眞澄
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現代の日本の政治改革において参照されたのは、イギリスをモデルとした小選挙区制、二大政党と政治的リーダーシップ、選挙による政権交代等であった。しかし、当のイギリスやその影響下の諸国では、ウエストミンスター・モデルと呼ばれる、このような政治システムの変容や再検討や、そこからの離脱傾向が強まっている。本研究は、このような実態と理論状況を明らかにし、現代立憲民主主義の憲法理論構成の方向性を明らかにする視座を得た。
著者
小西 秀樹 岡本 哲和 吉岡 至 廣川 嘉裕 脇坂 徹 窪田 好男
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小泉政権以降、中央政府および地方政府における政策形成の場で、重視される価値がどのような変容を遂げているのかを明らかにすることが本研究の目的である。事例研究のひとつの結果としては、ポピュリズム的価値の重要性の高まりが、政策の形成と実施におけるNPOの役割増大および住民投票の増加と関係している可能性があることが示唆された。一方で、2008年大阪府知事選挙時に実施したサーベイ調査では、有権者のポピュリズム的指向およびネオリベラリズム的指向のどちらもが、投票意思決定に影響を及ぼしていなかった。これら2つの価値がいまだ優勢である可能性は高いものの、一方でそれが退潮していく兆しがあることが明らかにされた。また、市町村合併や首長選挙についても政治的・政策的価値の変化をみることができた。
著者
河合 知子 久保田 のぞみ 佐藤 信
出版者
市立名寄短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

今年度は、米飯給食における地元産米利用とその実態について、北海道の稲作地帯(空知管内)と畑作酪農地帯(十勝管内)の給食だよりを基に比較検討した。米飯給食の実施回数については、空知地域が週当たり平均米飯実施回数3.5回に対して、十勝地域のそれは2.6回であり、稲作地帯の学校給食の方が米飯を取り入れている回数は多い。また、使用している米については、十勝地域については何ら紹介がないのに対して、空知地域は、地元産米使用と紹介している学校給食が17センター中8センターある。米の生産地である空知地域は学校給食に地元産の米を積極的に取り入れている。米飯給食の導入が他の献立内容にどのような影響を与えているのか、使用野菜数との関係、白飯と味付けご飯との割合、他の献立内容との関わりについて分析した。1食当たり使用野菜数は、空知地域の平均が37.8種類、十勝地域のそれは40.3種類であった。米飯給食の週当たり実施回数が少なくても、使用野菜数の多い学校給食もあれば、またその逆のケースもあり、米飯給食の実施回数と使用野菜数にはっきりとした相関は見られなかった。さらに、米飯給食のうちどの程度白飯が出されているか(以下、白飯率という)について分析すると、白飯率が下は30%台から、多い学校給食においては90%を超えたところもあり、その幅は大きい。個別に、丼物、カレーライス、混ぜご飯などの味付けご飯の時と白飯の時の献立内容を比較すると、味付けご飯の場合は総じて、漬け物と汁物だけの献立であることが多く、白飯の献立内容と比べて満足度に欠ける。献立の多様性は必要ではあるが、おかず類の充実には白飯率を上げることも一案と考えられる。
著者
吉田 久美 亀田 清 近藤 忠雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

目的赤小豆(Vigna angularis)は日本では文化的にも独特の位置を占める豆で、とくにその色が珍重されるが、未だに種皮色素の構造も、その加工食品である飽の色についても化学的な知見がほとんどない。本研究では、種皮色素の化学構造を明らかにすること、および、製餡加工工程において、種皮色素がどのように餡へと移行して餡の紫色が発色するのかを解明することを目的に行なった。方法および結果赤小豆種皮から色素を抽出して分析する条件の検討を行ない、トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル水溶液で抽出し、逆相HPLCで分析する手法を確立した。赤小豆種皮には、二種類のアントシアニンとは違う発色団を持つと推定される色素が含まれることを初めて見いだした。そこで、これらの色素の単離精製法を検討した。溶媒抽出後、アンバーライトXAD-7カラムクロマトグラフィー、次いでゲルろ過カラムクロマトグラフィーを行うことにより、かなり色素の純度の上った色素を微量であるが得た。同時に、ケルセチンを同定した。種皮色と餡色の違いを明らかにする目的で、製餡加工工程試料から成分を抽出して、HPLC分析を行なった。渋切り水には、色素はほとんど含まれず、無色のポリフェノール成分が多く溶出することがわかった。さらし餡に、種皮に含まれる2種の色素が存在することがわかり、同時に、餡では、無色のポリフェノール量い対する色素の含有量が増えていることがわかった。渋きり操作により、赤茶色系統の発色をするポリフェノール類が除去されることがわかった。
著者
長尾 慶子
出版者
東京家政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

食材の加熱に関する一連の実験研究において、これまでに水分量の異なる食材モデル系および各種実用食材を対象に種々の加熱実験を行い、食材加熱面から内部一次元方向xの位置の温度φ(t)と加熱時間tとの関係が,指数式1-exp[-t/τ(x)]で表されること、その式に現れる遅延時間すなわち時間定数τ(x)と試料加熱面の面積Sとの比が、各試料の熱拡散率αとベキ指数の関係[S/τ(x)=k・α^n]にあることを明らかにした。引き続き平成17-18年度の研究助成テーマでは乳化系(水系と脂質系の混在系]を加熱食品モデルにとりあげ、その熱拡散率に及ぼす成分的要因を、乳化の型(O/WまたはW/O)を含めて熱移動現象を追跡し定式化を試みたものである。初年度(平成17年度)は卵黄を乳化剤として分散油相体積分率(Φ)を0.3〜0.8まで変化させたマヨネーズ様の水中油滴型(O/W)乳化系試料を調製し、分散油滴径の大きさとその分布状況が系の伝熱機構に如何に影響するかを検討した。その結果、油相体積分率が小(すなわち水の割合が大)の試料になるほど、みかけの熱拡散率が大となり、試料加熱時の内部温度上昇曲線から算出した時間定数τ(x)の逆数との間に両対数グラフ上で正の相関があることを報告した。この結果を受けて、平成18年度は卵黄に代わる乳化剤として、親水性ならびに疎水性の食品用乳化剤を選択し、同様に分散相体積分率(油または水)を0.3〜0.8に変えたO/W型乳化系およびW/O型乳化モデル系を調製し、昨年度と同様な加熱実験、熱物性値の測定・算出、粘度、分散相粒子の顕微鏡観察と画像解析を行った。その結果、乳化の型が異なっても(すなわち分散相が油や水に関らず)、系内の熱移動を支配しているのは試料の水の量と試料固有の熱拡散率であり、系中の水の割合が多い程みかけの熱拡散率が大となり、内部温度の上昇速度が増す(すなわち 1/τ(x)が大)ことが確認された。またW/O型乳化試料は、O/W型のそれと比較して、試料調製時の撹搾速度や加熱により不安定であること、みかけ粘度やCassonの降伏値も低いこと、分散相である水滴粒子径の分布範囲が広く最多頻出径が3μm(O/W型では1.5μm)と粒径が大であることが明らかとなった。単純な水・油の系に、分離を抑制するために加えたこんにゃくマンナン粉末は熱伝達方式が伝導伝熱を維持する役目を担っていたが、結果として試料全位置での内部熱移動が抑制された。すなわち、マンナンゲルが水を捕捉し熱の移動に関る自由水が少なくなるものと推測された。
著者
長友 康行 高橋 正郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

グラスマン多様体への調和写像の線型方程式による特徴づけを利用して、対称空間上に等径関数を構成し、さらにラドン変換により、それら等径関数が球面上の等径関数に変換されることを示した。また、複素射影空間から複素射影空間への定エネルギー密度関数をもつ調和写像のモジュライ空間を線形代数的データを用いて記述した。最後に、エルミート対称空間から複素グラスマン多様体への正則写像に関しても同様の結果を得ることができた。
著者
川島 慶之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

糖尿病の合併症の一つに難聴が知られている。一部にミトコンドリア遺伝子変異が関与していることが明らかになってきているが、多くは、障害部位、障害原因とも明らかではない。一方、肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病症状を自然発生する突然変異の糖尿病モデルマウス(db/db)がジャクソン研究所で発見され、糖尿病およびその合併症の発症機構の解析究明に汎用されている。我々は、db/dbが難聴を発症し、そのホモ接合体はヘテロ接合体、野生型に比べ早期にABR閾値が上昇することを確認した。さらにDPOAEでもホモ接合体は早期からDPレベルの低下を認めた。このため、難聴の主因は蝸牛血管条障害であると予想したが、光学顕微鏡では有意な血管条障害やラセン神経節細胞の脱落は認めなかった。しかしながらレプチン受容体の内耳発現を確認するためにC3H/HeJのコルチ器を免疫染色したところ、外有毛細胞の不動毛において発現が見られた他、neonateの動毛において強い発現を認めた。これらの結果より、これらのマウスにおける聴覚閾値の上昇は、外有毛細胞の何らかの障害を含めた複数の機序が関与しているものと想定している。
著者
西 基
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9年5月,科研費支給の決定を受け,同年の秋までに食事等の生活習慣を主たる項目とする自記式質問票を完成し,主として札幌医大第一外科およびその関連病院の協力のもとに,胆嚢癌の病因に関する症例対照研究を開始した.平成12年末までに,症例51例およびこれらと性・年齢(±3歳)を同じくする対照102例から,質問票を回収した.なお,胆嚢癌の症例の集まりが悪く,途中から胆管癌の患者も対象とした.症例の内訳は,男28例,女23例平均年齢は72.6歳,胆嚢癌18例,胆管癌33例であった.発生を促進・抑制する因子のオッズ比を男女の通算で計算した.発生を有意に(P<0.05)促進するものは,1.満腹になるまで食べる,2.魚肉ソーセージ(月1回以上),3.生卵(月1回以上),4.漬物(毎日),5.ドリンク剤(毎日),6.乳酸飲料(週1回以上)であった.危険率10%では,7.油っこい食品を好む(5段階で4以上),8.ハム・ソーセージ(週1回以上)も促進因子となった.発生を有意に(P<0.05)抑制するものは,1.昼食を抜く(5段階で3以上),2.夜食を食べない(5段階で3以上),3.芋(週3回以上),4.パン(週3回以上),5.納豆(週3回以上),6.干魚(週1回以上),7.ヨーグルト(週3回以上),8.チーズ(週1回以上),9.緑黄色野菜(週3回以上),10.林檎(週1回以上),11.バナナ(月1回以上),12.ウーロン茶(週1回以上),13.牛乳(毎日),14.飲酒(毎日)であった.危険率10%では,15.牛肉(月1回以上),16.蜜柑(週1回以上)であった.以上から,食事量が多いことが発生を促進し,野菜・果物・乳製品などが抑制すると考えられた.魚肉ソーセージ・ハム・ソーセージ・乳酸飲料・漬物などは加工品であって,加工により加わった何らかの因子が発癌を促進するのかもしれない.毎日の飲酒が抑制的に働くのは意外であった.油脂を多く含む食品や生卵は,胆嚢の運動に影響を与えるが,これが何らかの影響を及ぼすのかもしれない.なお,生活の不規則性・喫煙・農薬使用・園芸の経験は結局有意とはならなかった.
著者
長谷 正人
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

山田太一のさまざまな作品を映像作品として見直し、さらに山田太一氏本人や関係者へのインタビューも行って、70年代から80年代にかけての日本のテレビドラマがどのようにしてポストモダン的なイメージ社会を準備し、そしていかにそれを「後衛」の視点から批判したかを明らかにした。
著者
武田 邦宣
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ハイテク産業における合併規制の違法性判断基準のあり方について、米国および欧州との比較から、日本法への示唆を得ることを目的に研究を行った。2004年度に「ハイテク産業における企業結合規制」にて米国反トラスト法における規制事例を網羅的に検討した後に、その後の米国法をフォローするとともに、改正後のEC集中規則の適用事例を整理・検討している。そこでの成果は、独占禁止法の適用余地が少ないと考えられてきたハイテク産業においても独占禁止法適用の価値は大きく、またこれまでの伝統的産業とは異なる全く新しい違法性判断基準作りが必要というものである。「市場獲得のための競争(competition for the market)」は、その分析基軸になるものと考えている。ECではしばしばそのような考え方を規制事例に確認することができ、米国においても政権による揺らぎはあるものの、同様の反トラスト法思想は既に存在するものと考えられる。以上のような比較法研究と同時に、日本法との比較を行うための準備作業を進めた。具体的には、我が国におけるこれまでの企業結合規制の特色を抽出するために、過去の公表相談事例を整理・分析した。本年度はその成果を「企業結合規制にみる公取委の市場画定・市場分析手法」にて公表することができた。また、昨年度のジョンソン&ジョンソンの事例に見られるように、市場の国際化に伴い外国会社同志の合併が大きな問題になるものと考えられることから、市場画定、独禁法の域外適用の問題について基礎研究を蓄積しつつある。
著者
糸久 正人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

申請者は「イノベーションを追及することは競争優位の源泉になりうるのか?」という問題意識のもとに、主に製品開発プロセスの視点から先発企業(イノベーター)と後発企業(イミテーター)の企業活動について調査分析を行ってきた。前年度の成果としては、後発企業でありながら電気電子製品の分野において高いグローバルシェアを誇る韓国サムスン電子の製品開発プロセスについて分析を行い、『リバース・エンジニアリング型開発プロセス」という概念を打ち出した。これは、通常、機能設計→構造設計へと至る「フォワード・エンジニアリング型開発プロセス」に対して、日本企業などのあるイノベーティブな製品を前提に、そこから構造設計→機能設計→構造設計へとさかのぼっていく製品開発プロセスである。以上の研究成果を踏まえて、本年度は主に3つの方向性に研究を拡張した。一つ目は、上記サムスン電子とブラウン管および液晶パネルメーカーであるサムスンSDIの製品開発戦略を『製品アーキテクチャ」の視点から捉えた研究である。具体的には、藤本(2003)の「アーキテクチャの両面戦略」のフレームワークを用いて同社のブラウン管TV、液晶TV事業を中心に分析したところ、サムスン電子は技術の寄せ集め的で業界に参入し、その後、BRICsなど各市場向けにカスタマイズを行う『内モジュラー・外インテグラル戦略」を、逆にサムスンSDIは自前の技術を利用し、その後、広範囲な顧客に汎用品として販売する『内インテグラル・外モジュラー戦略」をそれぞれ志向することで高い競争力を維持していることがわかった。二つ目は、先発企業の製品開発プロセスに焦点を当てた研究である。具体的には、様々なツールをクロスさせて、3次元CADCAEなどを活用したデジタルエンジニアリング、ロバストネスを達成するタグチメソッドなどを活用して、高品質の製品をいかに早く開発するのか、という問題に対して、インタビュー調査およびアンケート調査から分析を行った。この研究成果に関しては、まだ未公開であるが、現在『組織科学』に投稿中である。三つ目は、製品開発の視点からやや離れて、効率的な生産および需要予測の方法について調査分析したものである。この視点では、現在のところ、先発企業VS後発企業という比較分析が十分でないので、この点は今後の研究課題としたい。
著者
金山 権 座間 紘一 座間 紘一 小松 出 任 雲 金山 権
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本調査研究が目指したことは、中国の内陸地域、沿海地域、外国の三極関係の枠組みの中で、(1)地域間の商品、労働力、資本の流れ、(2)地域開発の波及効果および開発後の地域間経済関係の変化と地域経済構造の変化、(3)地域開発に対する中央政府、地方政府の対応、(4)外資、沿海部企業の内陸部地域への進出のあり方などを分析することを通じて、中国の地域格差是正と統一市場形成のあり方を占おうとするものであった。成果では、西部地域と国内・国際経済ないし企業とのリンケージに関する研究として最初の1,2、3章がそれに当てられている。第1章は、マクロ指標の分析を通じて、西部地区経済は全体としてはまだその国内・国際的リンケージは弱く、それは、西部経済の発展が遅れた結果であると同時に、西部経済発展の阻害要因にもなっている事を明らかにしている。2,3章は,それは自動車、ミシンの個別企業と紡織産業での産業と個別企業におけるリンケージのあり方を取り上げている。その他の研究は西部地域や四川省の産業開発、産業集積、農業の産業化、農村の近代化、少数民族地区の開発、生態建設など、西部地区開発をめぐる多様な問題を取り扱っている。中国側の強力研究者の論攷も含めて、多様な側面を多角的に、深く掘り下げたものとなったと思われる。成果は以下の10編の論文から構成されている。(1)西部地域と国内・国際経済とのリンケージ、(2)中国進出日系企業の沿海地域と西部地域のリンケージ、(3)東部地域紡績企業の西部地域進出の展開と問題点、(4)中国西部地区工業化の若干の問題、(5)資金投入と経済成長、(6)西部地域における産業集積の形成と発展、(7)四川省少数民族地区での西部大開発効果、(8)「社会主義新農村建設」と「三農」問題の解決、(9)四川省農業産業化の発展、(10)四川省の生態建設、である。