- 著者
-
久田 孝
- 出版者
- ファンクショナルフード学会
- 雑誌
- Functional Food Research (ISSN:24323357)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, pp.13-18, 2021-09-12 (Released:2022-01-27)
- 参考文献数
- 16
2010 年,和食好きにとって興味深いHehemann et al. による論文がNature から発表された.彼らは海洋細菌のポルフィランやアガロース分解酵素の遺伝子が,日本人の腸内のBacteroides plebeius に水平伝播されていることを示した.調べたのは日本人13 名と北米人18 名で,5 名の日本人のみから検出され,かつての日本人の未加熱の海藻を摂食する習慣がこの伝播をもたらしたのでは,と考察されている.日本の一部のマスコミでは「海藻を利用できるのは日本人だけ」と取り上げられた.はたして,海藻多糖類分解菌は日本人の腸にしかいないのだろうか? 食用の大型海藻類は光合成色素により三つ,紅藻類,緑藻類,褐藻類に分類される.緑藻類の持つ多糖類は陸上植物と共通するものが多いが,紅藻類ではアガロース,カラギナン,ポルフィラン,褐藻類ではアルギン酸,フコイダン,ラミナランなど,特徴的な水溶性多糖類が含まれている.ヒト腸内菌による各種多糖類の分解に関する研究も1970 年代から多く見られ,Salyers(バージニア工科大)らの実験では,ヒト腸内で優勢のグラム陰性菌であるBacteroides 属10 種のうち8 種のラミナラン分解能, B. ovatus 近縁種のアルギン酸分解能が示されている.われわれが自らの糞便からの分離を試みた場合も同様の菌種が分離されたが,これらの菌種は,洋の東西にかかわらず成人から普通に分離されている.通常食で飼育したラットでは,盲腸内容物からアルギン酸分解菌が検出されなかったが,2% アルギン酸食で2 週間飼育したラットではすべての個体から104-9/g レベルで検出された.また,アルギン酸とラミナランを摂取させたマウスでは,それぞれB. acidifaciens とB. intestinalis が特異的に増加し,その分離菌はそれぞれ主にコハク酸と乳酸を生成した.現在,これらの海藻多糖類とそれに感受性を持つ腸内常在菌(susceptible gut indigenous bacteria, SIB)と宿主健康への相互作用について検討中である.