著者
橋本 栄莉
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.200-220, 2015-09-30

本論の目的は、独立後南スーダンで流通する予言を事例として、様々な出来事に直面するヌエルの人々が、予言やその背後にあるクウォス(神、神性)を介してどのように新しい経験の可能性を見出しているのかについて検討することにある。100年以上にわたり語り継がれる予言は、内戦や開発援助、国家の独立など、ヌエルの人々が直面する新しい状況を把握する方法と密接に開わってきた。予言の総体は知られていないものの、予言は人々の関心のありようや出来事とともに日々発見され、語り直されている。エヴァンズ=プリチャードとリーンハートのナイル系農牧民の宗教性に関する議論は、当該社会の変化と不可分に結びついた神性と経験のありようを、対象社会の人々の視点から抽出しようとするものであった。彼らの議論を手がかりとしながら、本論では、ヌエルの人々がどのような要素を検討することで予言や予言者の「正しさ」を見出していたのかに着目する。予言に関する人々の語りと対話、予言者を祀った「教会」の実践、近年の武力衝突という異なる場面で人々が吟味していたのは、過去に自分たちの祖先がクウォスに対して犯してしまった過ちや自身の周辺で生じるクウォスの顕れ、そしてその中で再び見出される自分たちの新しい「経験の領域」であった。本論は宗教性や経験に関する理論的検討を行うものではないが、南スーダンで生じている暴力や混乱を理解する上で、二人の人類学者が取り組んできた問題系がいかに無視しえないものとして残されているのかを例示するものである。
著者
村田(澤柳) 奈々子
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.26, pp.151-184, 2011-01-05

20世紀初頭、排外的民族主義が興隆する中で、国民国家形成途上のバルカン諸国は対立を深めていた。1906年に勃発したブルガリア、東ルメリア、およびルーマニアでの、ギリシア系コミュニティに対する暴力事件・迫害行為の結果、大量のギリシア系住民が、難民としてギリシア王国に流入した。ギリシアは、これら難民にいかに対処するかという問題に、国家としてはじめて直面することになったのである。本論は、難民定住と土地分配に関する立法措置へと至る、1906年〜07年のギリシア議会の取り組みと、法案・法律の具体的内容を詳細に跡づけるとともに、ギリシア・ナショナリズムの政治言説において、国境外のギリシア系住民がどのように位置づけられ、いかにしてギリシア国民として受け入れられたかを検討する。ギリシア系難民の発生は、オスマン帝国領マケドニアの領土獲得めざすギリシアとブルガリアの武力衝突、マケドニアのヴラヒ人の民族帰属をめぐる、ギリシアとルーマニアの対立を背景としていた。ギリシア議会は、これら難民を、ギリシア愛国主義精神の体現者と見なし、国力増強の一助とすべく、市民権・国籍を付与する特別措置を講じた。さらに、政府との協調により、定住のための土地と資金の提供を可能とする法的枠組みづくりを急いだ。難民の定住地とされたテッサリア地方では、オスマン時代からの大土地所有(チフトリキ)制が維持されていた。難民の定住政策は、この大土地所有制下にあった地元の分益小作人を、小規模自作農に転換させる政策と連動することで、農業近代化の契機ともなった。1907年4月制定の法3202号は、困難な財政事情の下、新たなコミュニティ建設のための国家支援を保障する内容を含む点で評価できる。本論で考察する、難民問題解決にむけたギリシア議会での活発な議論と、早急かつ実効ある立法措置に向けての真摯な取り組みは、腐敗と無秩序に支配されたとされる20世紀初頭のギリシア政治にあって、特筆すべきものである。さらに、難民が領土拡張主義政策の「殉教者」と位置づけられ、彼らの国内定住に向けての現実的な施策が採られたことは、バルカン諸国のナショナリズムと対峙したギリシア国家が、自国領としての併合を目指していた地域の完全な獲得を、もはや困難なものと考えていたことを暗示する。オスマン帝国を特徴づけた、多民族共生の社会は終焉を迎えようとしていた。1906年に起こった、国境外のギリシア系コミュニティからの難民流入と、国内におけるコミュニティ再編は、その前奏に過ぎない。二度のバルカン戦争、第一次大戦、そして1922年の対トルコ戦争での敗北によって、ギリシアは、さらに大量のギリシア系難民を受け入れることになる。本論で論じた立法措置は、これら難民の受け入れに際し、ギリシア政府の基本方針として引き継がれてゆくことになる。
巻号頁・発行日
9999

大阪から広島,下関を経て萩までの瀬戸内海の海岸風景を橋本貞秀(橋本玉蘭斎)が描いたもので,幕末の元治元年(1864) に発行されました。
著者
柳井 徳磨 野田 亜矢子 村田 浩一 安田 伸二 浜 夏樹 酒井 洋樹 柵木 利昭
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.153-156, 2002-09

14歳の雄カナダオオヤマネコの左頚部皮膚に発生した扁平上皮癌の病理学的特徴を調べた。剖検では,左頚部皮膚は潰瘍を伴い著しく肥厚し,皮下には形状が不規則な黄白色腫瘤が左耳下腺部および左下顎に認められた。組織学的には,腫瘤は分化型扁平上皮癌の浸潤増殖からなり,高度な線維化を伴っていた。この癌は広範囲で深い浸潤を示し気管周囲にまで到達していた。免疫組織学的には,腫瘍細胞の細胞質ケラチンおよびサイトケラチンAE1およびAE3に対する陽性反応が認められた。本腫瘍の形態学的特徴はネコのそれとよく類似していた。
著者
松本 美鈴
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 68回大会(2016)
巻号頁・発行日
pp.105, 2016 (Released:2016-08-04)

目的 塩麹により牛肉が軟化し,うま味成分が増加することは,三橋等により既に報告されている.本研究では,塩麹を塗布した牛もも肉の保存条件および加熱条件などを変えて,塩麹による肉の軟化効果を検討した.方法 <10℃保存>牛もも肉に肉重量の10%塩麹(株式会社河野源一商店)または塩水(食塩濃度12%)を塗布し,それぞれ10℃で1,3および24時間保存し,沸騰水中で肉の中心温度が80℃に達するまで加熱後,冷却し試料とした.<25℃保存>牛もも肉に塩麹,塩水またはpH5に調整した塩麹を塗布し,25℃で1時間保存し,沸騰水中または低温(80℃水中で)加熱後,冷却し試料とした.<測定項目>加熱後の重量保持率,レオメーター(山電)を用いたテクスチャー試験によるかたさ,歪率,凝集性などを測定した.結果 <10℃保存>塩麹添加によりいずれの試料もかたさ変化率が無添加に比べて有意に小さく,やわらかくなった.また,保存時間が長いほど軟化しやすい傾向がみられた.一方,塩水添加試料では物性値に有意差がみられなかった.<25℃保存>沸騰水中加熱試料では,テクスチャー測定値に有意差がみられなかった.しかし,低温加熱試料においては,pH5調整塩麹試料は無添加および塩麹より凝集性が小さく,肉が崩れやすくなった.以上の結果より,塩麹による牛もも肉の軟化には,保存温度は25℃より10℃が好ましく,低温加熱が有効であることが分かった.
著者
河村 善也
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-12, 1992
被引用文献数
3 5

帝釈峡遺跡群に属する観音堂, 堂面, 穴神, 馬渡の4遺跡から産出した哺乳動物化石の層序学的な分布を, 現在までに得られた資料をもとにまとめた. これらの遺跡から産出した哺乳類の約69%は現在もこの地域に生息する種類で, その大部分は後期更新世の後半から連続してこの地域に生息していたものと考えられる. 一方, 全体の約19%は現在この地域には分布しないが, 他の地域には生息している種類で, これらは後期更新世から完新世にかけてのいろいろな時期に, この地域から絶滅したと考えられる. 残りの12%は絶滅種で, それらはすべて後期更新世末までに絶滅したと考えられる. 現在この地域に分布しない種類や絶滅種のこの遺跡群における消滅層準の年代は, 32,000から21,000年BPの間 (ヒョウ), 21,000から16,000年BPの間 (ニホンモグラジネズミ, ヒグマ属, ゾウ科の動物), 16,000から12,000年BPの間 (ニホンムカシハタネズミ, ブランティオイデスハタネズミ), 10,000年BP頃 (ヤベオオツノシカ), 6,000から5,000年BP頃 (オオヤマネコ) で, これらの年代は各種類の本州におけるおおよその絶滅時期と対応する可能性が高い.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ア-キテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.650, pp.90-95, 1999-10-04

KANAZ FOREST OF CREATION ART CORE / Architect: Kyoto University Kobayashi Masami Lab., Japan Development & Construction 「金津創作の森」では,住民登録を経て正式に町民となった様々なジャンルのアーティストたちが暮らしながら作品を制作している。20haを超える緑豊かな敷地内では,ガラスや陶芸の工房が既に稼働し,一般を対象とした工芸教室も行わ…
著者
藤松 孝裕 廣田 真史 藤田 秀臣 岡田 修 鈴置 純
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.68, no.673, pp.2534-2541, 2002-09-25 (Released:2008-03-28)
参考文献数
19

The deformation of the interface between a water drop and silicone-oil surface impacted by it was examined in detail. Special attention was directed to the influences of the water-drop diameter dL on the deformation of oil surface and on that of the water drop itself after the impact with the oil surface. The drop diameter was varied from 1.9 mm to 4.1 mm. The influences of dL on the shape of oil cavity at its maximum depth and on the drop shape at its maximum spread were observed conspicuously in case of minimum oil viscosity of vT=5 mm2/s. It was also found that both the maximum cavity depth ratio DM/dL and the maximum diametral deformation ratio dM/dL became smaller as dL was increased. These deformation parameters DM/dL and dM/dL could be well correlated with the impact velocity of drop uL for each oil viscosity. Moreover, in Case B, C and D, DM/dL could be correlated by a dimensionless group ReTLWeTL, and dM/dL was correlated by Re2LOh for highly viscous silicone oil of vT ≥ 5 × 103 mm2/s.
著者
宮下 登麻
巻号頁・発行日
pp.1-129, 2016-03-25

首都大学東京, 2016-03-25, 修士(工学)
著者
後藤 和文 高橋 陽子 中西 喜彦 小川 清彦
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.27-33, 1988

鶏の受精卵を使って,本来は卵殻内で行われる胚の発生•発育を,台所用ラップを利用した培養器内で行い,ふ卵開始後72時間以降の一連の過程を観察した。いずれの個体もふ化までに至らなかったが,培養器素材とした台所用ラップ2種(ポリエチレン製,ポリ塩化ビニリデン製)の胚発生に及ぼす影響を比較し,また,減菌した粉末状卵殻を添加することによる奇型発生への影響についても検討し,以下の結果を得た。<br>1) 本実験条件下での胚の生存率は,ふ卵開始後10日目で60.7%,15日目で41.1%であり,20日目までにほとんどの胚は死亡した。しかし20日以上生存したものが107例中7例見出され,最長生存日数は23日であった。<br>2) 培養胚の成長状態は,体重,くちばし長,脚部の長さ等を指標とした場合,通常ふ卵区のものに比べ,ふ卵12日目以降,徐々に遅延がみられ,16日目以降では約2日の遅延が認められた。しかし,体肢の大きさとは無関係に,ふ化日に近づくにつれ,通常ふ卵区のものと同時期に,卵黄の腹部への吸収が行われた。<br>3) 培養器素材として用いたポリエチレン製ラップは,ポリ塩化ビニリデン製のものに比して生存率が高かった。<br>4) 卵殻の添加により,くちばし•足指における奇型の発現が低減することを見出した。
著者
小塚 陽子 小野 真知子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.39-46, 1994-03-05

南九州の重要な畑作物である甘しょの用途拡大を図るため,甘しょを調理素材として再評価することが必要である.甘しょの家庭料理あるいは調理済み加工食品としての用途はてんぷらや大学いもなどに極めて限定されていたが,近年新しい特性を持つ系統(低でんぷん,低糖分甘しょ等)が育種され,新食品素材として新しい調理法の開発が可能となってきた.さらに最近の健康食指向が高まりつつあることに伴い,ビタミン・ミネラル等が豊富に含まれている甘しょを手軽な形で摂取できることが望ましいと考える.甘しょには,カロチン系統と呼ばれるβ-カロテンを多く含有しているだいだい他の品種,またアントシアン系統と呼ばれるアントシアン色素を多く含有している紫色の品種,一般的によく知られている黄色品種ほか,数多くの品種が存在している.これらの品種の中から,第一報においては黄色系統の甘しょを鶏肉ソーセージに添加したものについて報告した.今回新たに開発された低でんぷん甘しょは水分音量が多く,ジュースに向く品種と考えられている.これらの品種の完全利用を目的とし,ジュースヘの調理音吐の検討ならびに,より付加価値の高い加工食品の開発を試みた.品種間の評価,官能検査等を行い,多少の知見が得られたので報告をする.
著者
紀好弼 著
出版者
安川亨
巻号頁・発行日
1881