著者
清水玲那 橋口恭子 小川克彦
雑誌
第74回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, no.1, pp.373-374, 2012-03-06

日記がブログになったように、昨今では新聞、書籍など様々なものの電子化が進んでいる。便利さや手軽さが叫ばれる一方で、紙の方が「なんとなく」良いという声もあり、便利さだけではない要素が利用者の心理にはあると思われる。しかし、紙と電子を比較する先行研究では、使う瞬間にのみ着目したものが多かった。 本論文では、学生にもっとも身近である単語帳を対象に、紙あるいは電子メディアを使った際の記憶力の比較実験について述べる。その結果、次の日までなら使い慣れた媒体の方が記憶に残りやすいが、1週間後には日常の利用頻度に関係なく紙媒体の方が記憶に残りやすいということがわかった。
著者
中村 遼 海老澤 健太郎 奥澤 智子 李 忠翰 関谷 勇司
雑誌
インターネットと運用技術シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2022, pp.40-47, 2022-12-01

本研究では,Equal Cost Multi-path (ECMP) を拡張することで既存の ECMP の欠点を解消した新しいロードバランス手法を提案する.一般的なハードウェアルータの持つ ECMP 機能はトラフィックをフローごとに複数のネクストホップに分散することができる.つまり ECMP をそのままロードバランサとして利用できれば,専用の機材を導入するのと比較してコスト面,運用面における負荷が少ない.しかし ECMP は,フローのハッシュ値とネクストホップ数によってパケットの転送先を決定するため,ネクストホップとなるサーバの数が増減した場合,既存のコネクションが異なるサーバに届き切断されるという問題がある.本研究では,この問題を解決するため ECMP を拡張した ECMP with Explicit Retransmission (ECMP-ER) を提案する.ECMP-ER は Layer-3 の ECMP を基礎としており,既存の経路制御プロトコルで動作する.その上で ECMP-ER では,ルータが ECMP の経路について,現在のネクストホップに加えて過去のネクストホップ情報も保持する.サーバの増減時に異なるサーバに届いたフローのパケットは,サーバがルータへ再送し,さらにルータが過去のネクストホップを参照して再送することで最終的に適切なサーバへ転送される.本研究では ECMP-ER を P4 スイッチを用いて試作し評価した結果,ECMP では 20% 以上のコネクションが切断される状況においても,ECMP-ER は全てのコネクションを維持したままトラフィックを分散できることを確認した.
著者
吉水 淑雄 瀬戸 敦子
出版者
岐阜女子大学
雑誌
岐阜女子大学紀要
巻号頁・発行日
no.48, pp.19-28, 2019-02-28

わが国の旅行業界では,日本人による海外渡航者数減少という課題に直面している。特に若者の海外旅行離れが叫ばれているが,これまでの我が国の海外旅行はどういった特徴があり,当時の日本人は何を目的に海外へ出かけて行ったのか。本稿では,これまでの日本人の海外旅行の経緯をまとめ,今後の日本人海外旅行市場がどうなっていくのかを考察した。 まずは,これまでの日本人の海外渡航者数を明らかにする。そして日本人の海外旅行の変遷をたどった。富裕層で,限られた人しか行くことの出来なかった海外旅行は,日本政府による海外渡航規制緩和,旅行会社による海外パッケージツアーの誕生で第一次海外旅行ブームを迎えた。その後,格安航空券や旅行代金の値下げも伴い1980年代には第二次ブームが起きた。現代は,海外旅行は日本庶民にとって特別なものではなくなり,簡単に安く海外に行き,買い物や食べ物を楽しむ旅行へと変化していったことがわかった。
著者
佐藤 宏樹 大西 鮎美 寺田 努 塚本 昌彦
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:21888760)
巻号頁・発行日
vol.2022-HCI-200, no.34, pp.1-7, 2022-11-01

人間の目は明るさの変化に対応して感度を調整し,その明るさに順応することで視覚機能を維持する.周囲が明るくなるときの順応を明順応,暗くなるときの順応を暗順応と呼ぶ.しかし,トンネルや建物への出入りのような急激に明るさが変化する場面では,明るさの変化に目の順応が追い付かず視力が低下し事故につながる恐れがある.そこで本研究では,明るさの急激な変化に対応するため,LED と遮光フィルムを用いて目に入る光の量を制御し,明順応と暗順応を支援するウェアラブルデバイスを提案する.提案デバイスは明順応を支援するために,周囲が明るくなる直前に LED の光を目に照射して明るさに目を慣れさせる機能と,明るくなると同時に遮光フィルムを用いて明るさの変化を緩やかにする機能をもつ.また,暗順応を支援するために,暗くなる直前に遮光フィルムで目を覆い暗さに目を慣れさせる機能をもつ.各機能による視力の低下を抑制する効果を評価した結果,LED を用いた明順応の支援では視力の低下を抑制できる可能性が示唆されたが,遮光フィルムを用いた明順応の支援については視力の低下を抑制する効果は確認できなかった.また,遮光フィルムを用いた暗順応の支援は LED を用いた明順応の支援と比べて視力の低下を抑制する効果が低いことがわかった.
著者
椎名 規子
出版者
拓殖大学政治経済研究所
雑誌
拓殖大学論集. 政治・経済・法律研究 = The review of Takushoku University:politics, economics and law (ISSN:13446630)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.47-81, 2018-03-15

わが国では,非嫡出子の相続分を二分の一と定めた民法900条1項4号但書の規定は,平成25年9月4日の最高裁違憲決定を受け,同年に改正された。しかし依然として,民法上の子の法的地位は,親の婚姻の有無により区別されている。これに対して,欧米各国は,子の法的地位について,親の婚姻の有無と切り離し,子の法的地位を一元化して平等を実現している。しかしかつては,欧米でも婚外子に対して著しい差別的政策を行った。その差別の根拠は,キリスト教の婚姻倫理にあるとされる。そこで本稿は,近代法にも大きな影響を与えたローマ法において,キリスト教の国教化が,婚姻制度や子の法的地位にどのような影響を与えたかを考察する。本稿では,まずローマ法の家族法の特徴および婚姻制度を概観する。ローマ法の初期の時代では,自由な婚姻が認められ,婚姻制度に対する法的規制は最小限にとどめられていた。また婚外子への忌避は,家父権の基礎である家族財産への侵害という実際的理由に基づくものであり,倫理的色彩はなかった。その後,アウグストゥス帝は,ローマの社会の頽廃の防止と人口増加の目的のために,婚姻改革を実行した。このアウグストゥス帝の改革は,西洋の歴史において初めて道徳的・倫理的観点から,婚姻制度に対して法的介入を行なったものである。その後,キリスト教が国教化されるに従い,婚姻制度に対する法的規制には,宗教的倫理が加えられるに至る。キリスト教倫理の下では,神の認めた婚姻のみが適法な男女の関係であった。このように婚姻制度の趣旨が変容するに伴って,子の法的地位も変遷し,婚外子は,さらに苛酷な状況に置かれることとなった。
著者
千葉 麻由 橋本 直
雑誌
研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:21888914)
巻号頁・発行日
vol.2020-EC-55, no.13, pp.1-6, 2020-03-11

分身という表現はこれまで多くのフィクションの中に登場し,特にゲーム作品においては敵を欺いたり攻撃範囲を広げたりするためのギミックとして用いられている.本研究では,VR における分身の操作を想定し,本体の動作と分身の動作を両立可能な操作手法を提案する.提案手法では,分身を VR 空間中にある基準点に対して本体と常に対称な位置に表示する.本体と分身が互いに逆方向に移動することで,ユーザの行動範囲を拡大できる.本稿では,提案手法の検証のために風船割りゲームを実装し,評価を行った結果について報告する.
著者
有田 亘 アリタ ワタル Wataru Arita
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.1-20, 2013-03-31

Many clothing styles of young Japanese women are driven by a desire to make themselves "look cute". However, girls dressed in the Lolita fashion, which is characterized by feverishly pursuing dollish or princess-like girly "cuteness" (kawaii), seldom show any interest in being looked at as "me in a cute dress." These are gestures to block other people’s eyes. And at the same time, they do not hide their great pleasure in seeing "lovely dressed girls" rather than being seen as lovely girls. For them, wearing Lolita fashion seems to have become a means not to "see" lovely things, but to "be seen as lovely". Japanese culture is often classified as a "shame culture," in which an aspect of "see or to be seen as" something is accompanied by cultural and political asymmetry between men and women or an aspect of being too much concerned about people’s eyes, as if suffering from scoptophobia. In these girls’ unique fashion, we might be able to find a possibility of transformational subversion against such conservative attitudes. Using interviews, we would like to examine this phenomenon from the viewpoint of media theory.
著者
寺内 衛 寺内 かえで Mamoru TERAUCHI Kaede TERAUCHI
出版者
甲南大学マネジメント創造学部HSMR編集委員会
雑誌
Hirao School of Management Review = Hirao School of Management Review (ISSN:21860165)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.101-122, 2021-03-31

2019年末に中国・武漢で確認されたSARS-CoV-2感染症によるパンデミック(COVID-19パンデミック)は,2021年1月現在,世界中で累計罹患者数並びに累計死者数ともに増加の一途をたどっている.日本では人口比で他国と比較すると罹患者数及び死者数は少ない方ではあるものの「科学的知見並びに科学的方法に基づかない“対策”」の結果として新規感染者数の制御が不能となり,11都府県に対して2回目の緊急事態宣言が発出されるに至っている.「科学的知見並びに科学的方法」に基づく「感染症対策の基本」に立ち戻ることこそがCOVID-19パンデミックを収束させる唯一の方法である.
著者
末木 新
出版者
東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻臨床心理学コース
雑誌
東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース紀要
巻号頁・発行日
vol.34, pp.108-115, 2011

わが国における自殺関連行動及ぴメディア報道・利用に関するデータを用いてメディアの持つ自殺への影響を検討した研究のレビューを行った。これらの研究を概観したところ、研究は主に、1)自殺と特定のメディアの報道・利用との関連、と、2)自殺報道の内容、に関する研究の二種類が見られた。これらの研究では、有名人及ぴ一般人の自殺に関するメディア報道が自殺に影響を持つこと、ニュースバリューのあるものに偏った報道がなされるために報道からバイアスのかかった知識を得る可能性があることが示唆された。これらの結果は、海外における研究結果と概ね一致していた。今後の研究課題としては、1)インターネットを中心とした新しいメディアの自殺誘発効果の検討、2)メディアが自殺を誘発するメカニズムの解明、3)ガイドラインに沿った介入研究及び自殺予防教育の実施、が挙げられた。
著者
高井 昌吏
出版者
桃山学院大学
雑誌
桃山学院大学社会学論集 = ST.ANDREW'S UNIVERSITY SOCIOLOGICAL REVIEW (ISSN:02876647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.31-71, 2017-10-20

In the late 1960 s, Hiroshi Kawaguchi, the former movie actor and TVpersonality, felt challenged by the documentary film “A Dog’s Life” (originaltitle: Mondo Cane) produced by Italian film director Gualtiero Jacopetti.While pursuing the ‘authenticity’ of documentary, Kawaguchi alsoperformed as an actor and was involved in the production of a televisionprogram. The program of Hiroshi Kawaguchi was different from JunichiUshiyama’s television documentary ”Wonderful World Travel”, as theformer tried to represent the ‘authenticity’ of documentary whileemphasizing the impact of the image, whereas the latter pursued‘education’ and academics through his program. This is, in a sense, a resultof focusing on creating a program from the perspective of the ‘masses’instead of from the perspective of ‘modern citizens’. Their directions weredifferent, yet their educational background, parents’ occupations andcultural capital were related to each other. In the mid-1980 s, however,“Kawaguchi Hiroshi Adventurer Series” directed by the former actor whoplaced great emphasis on ‘authenticity’ became viewed as a parody ofadventure and exploration by the audience amid a rumor that the programwas ‘staged’. In other words, although Hiroshi Kawaguchi’s documentaryprogram began as a pursuit of ‘authenticity’, it was ironically criticized interms of its ‘authenticity’ and ridiculed. This was due to changes in theattitudes of TV viewers, especially of the audience of documentary shows.In the meanwhile, Junichi Ushiyama also entered the academic world, suchas the “Visual anthropology”, and as a result, his television documentarybecame accepted as an ‘educational program’.
著者
田中 良英
雑誌
宮城教育大学紀要
巻号頁・発行日
vol.55, pp.65-81, 2021-01-29

2006年の「世界史未履修問題」に象徴される、近年の日本社会における「歴史離れ」に関しては、歴史研究者・歴史教育者の双方に危機感が広がり、それが2022年度からの高等学校における歴史系教科再編の背景ともなっている。本稿では、この「歴史離れ」への対応策の一つとして、学校教育以外の場においても児童・生徒に歴史への関心を喚起し得るものと予測される、最近の歴史系エンターテインメント作品、とりわけ歴史漫画の現状の確認を図った。当初の予想に反し、近年の歴史漫画は数が増加しているのみならず、扱う時期・地域・テーマも多様化しており、さらには学術的な知見と重なる内容を持つものも多い。それゆえ、これらを通じて歴史への関心を涵養すること、そして歴史を多様な観点から眺め思考することを伝える方途にも、大きな有効性が見込めるように思われる。ただしその一方、内容が低年齢層の講読に適さない作品もあり、そのまま活用することには一定の困難も予想される。また、もともと歴史に関心がない読者にいかにして手に取ってもらうか、そして歴史的背景に関する解説などが付されていない作品にどのような補完的情報を具体的に追加すべきかなど、今後の課題も見いだせる。
著者
菅野 文夫 KANNO Fumio
出版者
岩手大学教育学部社会科教育科
雑誌
岩手大学文化論叢 (ISSN:09123571)
巻号頁・発行日
vol.7/8, pp.39-55, 2009-03-31

岩手県二戸市の川嶋氏所蔵文書のうち南部信直書状を含む14点は,現在巻子1巻に表装されている。これを表装順に列挙すると,以下の通りである。C 年欠 5月18日 南部信直書状D 年欠 5月29日 南部信直書状E 年欠 6月27日 南部信直書状F 年欠 7月12日 南部信直書状H 年欠 7月22日 南部信直書状 年欠 3月 1日 南部信直書状A 年欠 4月16日 南部信直書状B 年月日欠 南部信直書状断簡 年欠 6月 9日 南部利直黒印状 慶長 9年後 8月19日 南部利直黒印状 慶長14年10月11日 南部利直黒印状 元和 6年 5月 5日 南部利直一字書上 寛永 5年 3月 6日 南部利直黒印状G 天正19年 7月12日 親輔書状 上記のうち年代順にA~Hを付した8点は,天正19(1591)年9月に終熄した九戸一揆の最中に書かれたものである。宛先はすべて糠部郡九戸野田の領主野田政義であり,発給者はGが南部信直の腹心と思われる親輔なる人物で,他はすべて信直その人である。 九戸政実ら陸奥国糠部郡の領主たちによっておこされたこの一揆は,「郡中諸侍其外下々迄,京儀をきらい申内存候間」の文言によく表れているように,前年の奥羽仕置に対する百姓を含む広範な階層を巻きこんだ抵抗であり,葛西大崎一揆などと一連の,豊臣政権の全国統一に対する最後の抵抗であった。ただし糠部にあって豊臣政権を代表したのが三戸南部氏信直であり,一揆が九戸氏によって指導されたことが,この事件を一層複雑なものとしている。三戸と九戸の対立は,15世紀末以来一世紀にわたってこの地域で繰り広げられた領主間の戦国化の動きの,いわば到達点というべき性格をもっていたからである。 九戸一揆の過程で,信直は糖部郡内の多くの領主に自陣に加わるようあらゆる手だてを講じたはずである。次節で述べるように,少なく見積もっても数ヶ月間は一揆勢力が郡内を席巻したといってよい。その間諸領主に宛てられた信直書状は相当な量だったはずである。にもかかわらず,現在残されている郡内領主宛の三戸からの書状はA~Hの8点のみである。なぜこれ以外は残らなかったのか。さまざまな説明が可能だろう。三戸から九戸城へ,さらに盛岡城の建設という城下の移動も大きな要素かもしれない。近世盛岡藩過程でのある種の政治的な意図も十分考えられる。とはいえここでは,失われてしまった文書のことはさておいて,さしあたり,辛うじて残されたこの貴重な8点にこだわってみたい。 そもそもこれらは,1961年刊の『岩手県史』3巻に掲載されて以来周知の史料であり,その後刊行された中世陸奥北部をあつかう史料集にも繰り返し収録されてきたものである。しかし本稿ではあらためて原本調査に基づいて翻刻作業をおこない,そこから読みとれる九戸一揆の様相を検討してみたい。