著者
新山 智基
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度の大きな成果は、昨年度の調査を盛り込んだ博士論文「顧みられない熱帯病〈ブルーリ潰瘍問題〉に対する感染症対策ネットワーク構築と小規模NGOの役割」を執筆したことである。本論では次の5点について明らかにしている。第1に、グローバルな感染症対策ネットワークの構築可能性の論議に向け、感染症を取り巻く状況やミレニアム開発目標などの動向に加え、NGOのかかわり、ネットワーク構築といった先行研究の検討を行った。第2に、顧みられない熱帯病・ブルーリ潰瘍問題が抱える問題を明らかにした。第3に、第2で明らかにした問題に対して、どのような対策・支援が実施されてきたのか、ブルーリ潰瘍問題に取り組んできた国際機関(WHO)、政府(被援助国)、NGOの3者を取り上げながらの考察を試みた。第4に、支援団体のなかでも日本で数少ないブルーリ潰瘍支援団体である「神戸国際大学ブルーリ潰瘍問題支援プロジェクト」を取り上げ、活動などの分析を行った。第5に、以上のようなことを踏まえ、これまでブルーリ潰瘍問題に対して、どのような形での支援が展開されてきたのかを考察している。また、2011年3月には、ブルーリ潰瘍対策専門家会議(WHO Annual Meeting on Buruli Ulcer)での報告"An Integrated Approach to Education Aids in West Africa"を行った。
著者
間瀬 剛
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者はLHC加速器を用いた超前方中性粒子測定実験LHCfに参加している。LHC加速器は平成21年3月に世界最大のエネルギーである3.5TeV+3.5TeV陽子同士の衝突を成功させた。また6月には100μradの角度をつけて衝突させることにも成功している。また低エネルギーである450GeVの衝突を2009年に引き続き行った。LHCf実験は上記のすべての条件でデータ取得を行い、450GeV衝突では約5万のイベントの検出、3.5TeV衝突では約5000万イベントの検出に成功している。申請者は平成21年1月31日から平成21年7月3日まで平成21年度優秀若手研究者海外派遣事業(特別研究員)に採用され、当該期間にLHC加速器のあるCERNで研究に従事した。申請者はLHCfメンバーの一員として24時間シフトを組んで共同研究者とともにデータ取得にあたった。さらに得られたデータのキャリブレーションとして使用している2007年度に行われたSPSビーム実験の再解析を行ない、LHCf実験で得られたエネルギー決定のパラメータを新しいものに更新した。過去に行われたシミュレーションに用いられているCosmos/Epicsというコードのバージョンが古いものであったため、新しいものとはエネルギー損失等に若干の差異がでることが予想された。そこでバージョンを最新のものにして新たにシミュレーションを行い、先人とは独立した解析によって新しくパラメータを決定し、以前のものと1%程度の相違があることを確認した。また新しいバージョンでのシミュレーション結果を使用して検出器のエネルギー分解能やエネルギースケールの評価を行った。
著者
永井 雅代
出版者
独立行政法人国立長寿医療研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は神経変性疾患の共通の病理学的特徴である、タンパク質の異常凝集体の形成に酸化ストレス、特に脂質過酸化反応が関与して神経細胞死を引きおこしていることを明らかにし、脂質過酸化反応を食品成分により抑制することで神経変性疾患の発症を予防するための基盤データを得ることを目的としている。これまでにパーキンソン病の凝集体の主要構成タンパク質であるα-シヌクレイン(Syn)に対し、ω-3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)は、in vitroにおいてタンパク質の重合化反応を促進し、凝集体を形成、この凝集体構成タンパク質にはDHA酸化物(PRL)による修飾が生じていることを明らかにした。そして、DHAが神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に対して濃度依存的に毒性を示し、細胞内活性酸素種の産生増加とともに、細胞内のPRL修飾タンパク質がミトコンドリア、核・膜画分でDHA濃度依存的にPRL修飾タンパク質が顕著に増加していることを報告した。さらに、α-シヌクレイン遺伝子を導入したSH-SY5Y(Syn-SH)細胞もSH-SY5Y細胞と同様にDHA濃度依存的に毒性を示した。蛍光免疫染色法による観察から、DHAを添加したSyn-SH細胞の細胞内にはSynの増加とその凝集体の形成促進が認められた。加えて凝集体形成を促進すると報告されているリン酸化Synの増加が観察された。これらの結果は、神経細胞においてDHAによる酸化ストレス亢進はSyn凝集体形成とともに神経細胞死を促進することを示している。SH-SY5Y細胞にDHAとともに食品成分を添加することでDHAによるタンパク質凝集および神経細胞死が抑制されるかどうか検討したところ、大豆イソフラボンを予め添加して培養したSH-SY5Y細胞においてSyn/DHAによる神経細胞死を抑制することが分かった。しかしながら、DHAによる神経細胞死は抑制しないことから、大豆イソフラボンは抗酸化作用とは異なる機序で神経細胞死を抑制していると考えられた。
著者
松崎 拓也 増田 勝也
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

構文解析など基本的な言語処理を施した大量のテキストデータを用いて、そこから必要な情報を動的に抽出することで種々の言語処理技術を高精度化することを目指し研究を行った。具体的な成果として、大規模半構造化データベースに対する高速な検索システムを開発し、それを応用した知的テキスト検索システムを実現した。また、大量テキストデータから動的に抽出した統計量を従来の解析モデルに統合する枠組みに関する基礎研究を、構文解析および共参照・照応解析を対象として行い、それぞれについて高精度な解析システムを実現するとともにテキストベースとの統合へ向けての知見を得た。
著者
吉井 秀夫 SEONG JeongYong
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度は、研究代表者の吉井の指導の下、研究分担者が日本および中国における資料の実見調査を精力的におこなった。中国での調査については、5月に遼寧省の朝陽・瀋陽周辺の鮮卑系考古資料を見学し、この地域の騎馬に関わる文化が、4・5世紀の百済の馬具とどのような関係にあるのかについて検討をおこなった。日本での調査については、これまで研究分担者が訪れる機会のなかった中部・関東地方の資料を集中的に調査することにした。5月には、大室古墳群に代表される、長野市周辺の渡来系考古資料の見学と検討をおこなった。また岡山県でおこなわれた、古代山城である鬼の城についてのシンポジウムに参加して、百済山城との関係を議論し、城門を復元中の鬼の城の現地を見学した。7月には福井県・東京都・群馬県・埼玉県・千葉県で資料調査を行った。福井県では、福井県立郷土若狭歴史民俗博物館などを訪れ、若狭を中心とする渡来系考古資料の実見調査をおこなった。東京都では、東京国立博物館および宮内庁書陵部が所蔵している日本各地出土の渡来系考古資料(主に馬具類)を集中的に見学した。群馬県・埼玉県・千葉県では、群馬県観音山古墳・観音塚古墳、埼玉県埼玉古墳群、千葉県金鈴塚古墳など、関東における環頭大刀や青銅製容器が多量に出土した古墳の現地を訪れ、また出土資料を見学して、百済との関係について検討をおこなった。個人的な事情から、今年度の研究費による調査を中断せざるをえなくなったが、昨年度の調査と含め、日本および中国において、百済との関係が深い考古資料の概要を大まかに把握することができたのが最大の成果であった。この成果をもとに今後も、引き続き百済の対外交渉について、東アジア的な視角から研究を進めていきたい。
著者
征矢野 清 石松 惇 中村 將 東藤 孝
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ハタ科魚類は雌性先熟型の性転換を行うなど生物学的に興味深い特徴を有する魚種である。また、世界中の熱帯・温帯域に広く分布し、極めて美味であることから次世代の種苗生産対象魚として世界的に注目を集めていおり、水産的価値の高い魚種でもある。しかし、その成熟・産卵過程はほとんど明らかにされていなかった。我々は本研究を実施する前にカンモンハタの生殖腺発達に関する予備的研究を行い、沖縄周辺海域に生息するカンモンハタが月周期と完全に同調して成熟し、満月大潮直後に生息場であるサンゴ礁の礁池を離れ産卵することを見いだした。しかし、満月直後に起こることが予想される卵巣での劇的な生理変化を観察するには至らなかった。そこで、本種の成熟および産卵過程を月周期と関連づけて詳細に調べるとともに、産卵関連行動とそれに伴う生殖腺の生理変化を、組織学的・内分泌学的に解明する事を目的として、本研究を実施した。本研究により得られた主な成果は以下の通りである。1.カンモンハタは満月大潮後に生息地である珊瑚礁池から外洋に移動して産卵することを、目視及びバイオテレメトリー手法により裏付けた。2.生殖腺は月周期と同調して発達し、飼育環境下でも満月大潮から数日後に産卵することが確認された。3.生殖腺発達様式は他のハタ科魚類と類似しているが、北方系のマハタなどとは異なり、明瞭な月周性を持つことが分かった。4.産卵は水温が上昇する5月以降に起こり7月下旬まで続づくことが分かった。5.一尾の雌個体は満月大潮後の一産卵時に数日に分けて成熟卵を放出することが分かった。本研究の成果はカンモンハタの生殖腺発達を理解するだけでなく、種苗生産対象魚として注目されている他のハタ科魚類の生殖腺発達を理解する上でも貴重な情報となる。また、南方系海産魚に多く見られる月周産卵の機構解明にも役立つことが期待される。
著者
泉 利雄 阿南 壽 松家 茂樹
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

生体内で骨形成を促進するSrは,骨粗鬆症の薬として使われている.骨補填材骨と一体化するため骨補填材として使われるガラスにSrを添加して作製した試作ガラス粒子は,骨再生を促進する可能性があることが示唆された.ガラスから骨組織内へSrが徐放されるためと考えられる.試作ガラス粒子を硬化させ骨内欠損部を埋めるために 酸と練和して硬化体を作製した.γ‐ポリグルタミン酸を使用した場合は骨欠損部から硬化体が流出しやすいが,骨形成を促進する可能性が示唆された.
著者
杉山 芳樹 石橋 修 世良 耕一郎
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.われわれは、17名の口腔扁平苔癬患者(疾患粘膜群)および86名の健常者(健常粘膜群)の頬粘膜の頬粘膜を採取し、PIXE法による微量元素分析を行い比較検討した。2.疾患粘膜群、健常粘膜群から24種の必須元素および11種の汚染元素を検出した。3.このうちカルシウム、セレン、ルビジウムは、疾患粘膜群では健常粘膜群に比較して有意に低値を示した。4.口腔扁平苔癬は30歳以上の女性に好発する。そこで、30歳以上の女性について疾患粘膜群14検体、健常粘膜群15検体を比較した。30歳以上の女性では、リン、鉄、亜鉛、ストロンチウムが疾患粘膜群で有意に高い値を示した。5.われわれの研究により、口腔扁平苔癬患者の口腔粘膜には金属アレルギーの原因といわれるd-遷移元素が高い値を示すことが証明された。
著者
木村 雄一
出版者
埼玉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の成果は、ポスト・ケインジアンの一人として、現代経済学の形成、イギリス労働党の政策実施、開発経済学等に多大な影響を与えたニコラス・カルドア(1908-1986)の経済思想を、以下の諸点から明らかにしたことである。(1)LSEにおける理論形成、(2)第二次世界大戦後の福祉国家構想、(3)発展途上国の開発経済理論・政策、(4)EC加盟論争とポンド切り下げ、(5)支出税構想や選択的雇用税に関する政策、(6)ケンブリッジ学派の経済成長・所得分配に関する理論的貢献と政策、(7)成熟化したイギリス経済への処方箋、(8)フリードマンのマネタリズムや均衡経済学批判、(9)社会民主主義のヴィジョン。
著者
伊地 哲朗
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の交付申請書で掲げた主たる目的は、タジキスタン内戦の和平交渉と仲介外交に関する事例研究の完成、および国際紛争、特に内戦形態の武力紛争をめぐる和平交渉と仲介外交に関わる包括的理論構築の基盤づくり、の二つであった。具体的には、1)主権国家、国連、地域機関、非政府組織など様々なアクターの仲介的役割、2)そうした多種多様な仲介者間の連携・調整、3)国際的仲介のタイミング、および4)国際的仲介案の合意形成、といったテーマを取り上げた。タジキスタン和平プロセスのインプリケーションや教訓、国連による紛争仲介の変化、「紛争成熟度」概念などに関して、近々研究成果の公表を目指している。
著者
松岡 正子 謝 茘 袁 暁文 李 錦 耿 静 蔡 清
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、2008年の.川大地震で被災したチャン族を対象として、復旧復興の現状と問題点を国家とチャン族の視点から分析し、民族文化創出のメカニズムについて考察した。被災地は、政府主導の「中国式復興モデル」によって急速に復旧し、街は近代化され、一部の農村は民族観光村に一変した。しかしそれらは外部者の政府側が主導し、住民は参画しなかったため、従来の自然と共生したチャン文化とは異なる文化が創出された。
著者
金 憲経 鈴木 隆雄 吉田 英世 島田 裕之 齋藤 京子 古名 丈人 大渕 修一
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

都市部在住後期高齢者におけるサルコペニア有症率は22.1%であった。サルコペニア高齢者の特徴を調べるために、サルコペニアと判定された304名とサルコペニアと判定されなかった正常者1,073 名の調査項目を比較した。その結果、サルコペニア群は正常群に比べて、年齢が高く、下腿三頭筋周囲、骨密度、BMI、筋肉量は有意に低値を、健康度自己評価で健康だと回答した者の割合、定期的な運動習慣を持っている者の割合は低かったが、外出頻度が少ない者の割合は高値を示した。既往歴においては、高血圧症、高脂血症は正常群より低い割合を示したが、骨粗鬆症の既往はサルコペニア群38.2%、正常群30.7%、60歳以降の骨折歴はサルコペニア群28.6%、正常群22.9%、過去1年間の転倒率はサルコペニア群26.5%、正常群16.4%といずれの項目においてもサルコペニア群が有意に高い割合を示した。以上のことから、サルコペニア高齢者は、転倒のみならず骨粗鬆症に伴う骨折危険性が高いことが示唆され、その予防策の早期確立が重要なポイントであることが強く示唆された。サルコペニアの早期予防を目的とした運動、栄養補充の効果を調べるために、介入参加者155名をRCTにより運動+栄養群38名、運動群39名、栄養群39名、対照群39名に分け、運動群には週2回、1回当たり60分間の筋力強化と歩行機能の改善を目的とした包括的運動指導を、栄養群にはロイシン高配合の必須アミノ酸3gを1日2回補充する指導を、3ヶ月間実施した。その結果、四肢の骨格筋量および通常歩行速度は運動群、栄養群、運動+栄養群の3群で有意な増加が観察された。しかし、下肢筋力を評価する膝伸展力は運動+栄養群のみで有意な向上が観察された。これらの結果より、サルコペニア予防のためには、運動指導に必須アミノ酸を含んだ栄養を補充する複合介入がより効果的であることを検証した。
著者
峯木 茂
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ピレン資化性細菌Mycobacterium sp.H2-5を無機培地でピレンを炭素源として培養し、ピレン分解に関与するジオキシゲナーゼ(ピレン酸化酵素)のサブユニットであるNidAとNidBを取得した。NidBはピレン分解時に特異的であり、大サブユニットNidAと結合してジオキシゲナーゼを構成するとされているので、この遺伝子がピレン資化能のプローブとして利用できそうであった。N末端付近のアミノ酸配列情報から当該タンパク質の遺伝子nidAとnidBを獲得して、塩基配列を決定した。次いで、その配列情報から蛍光標識したプローブを作製し、蛍光in situ hybridization(FISH)解析をする予定であったが、標的となるmRNA量が少ないためにやや難しいと考えられたので、先ずは豊富に存在すると考えられる、16S rRNAに対するFISHを試みることにした。H2-5株のFISHに先立ち、E.coilに対して、Alexa Fluore 488で5'末端を蛍光ラベルしたユニバーサルプローブEUB338およびアンチセンスであるNONEUBを用いてFISHを行った。菌体をパラホルムアルデヒドで固定し、ゼラチンコートしたスライド上に結合させた。次に、上記プローブをハイブリしたのち、蛍光顕微鏡で観察した結果、EUBとDAPIに関して、明瞭なシグナルをうることができた。次いで、TSB栄養培地で純粋培養したH2-5株のFISHを同様な方法で行った。その結果、EUB338とDAPIで強いシグナルが得られたものの、E.coliに比べると不明瞭であった。現在、シリコナイズしたスライドガラスを用いてlysozymeとachromopeptidase処理をしてプローブの浸透性を向上させるべく、実験を継続している。
著者
上村 大輔 大野 修 末永 聖武 有本 博一 宮本 憲二
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009

長い炭素鎖を持ち、繰り返し構造の無い海洋生物由来天然分子を巨大炭素鎖有機分子と呼ぶ。これらは、その特異な構造とともに強力な生物活性に特徴がある。本研究では、海洋生物に共生する微生物の大量培養やメタゲノム的手法といった新しい方法論を導入する事で、新規巨大炭素鎖有機分子の探索を試みた。また、新規化合物の発見のみに満足することなく、それらの生物学的存在意義、生合成限界、生物活性、特異な化学反応を視野に入れて研究を展開した。その結果、複数の重要化合物の単離と生物学的役割の解明に成功し、巨大炭素鎖有機分子の概念の確立に貢献した。
著者
森 哲 COOK S. P. COOK Simon Phillip
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は、研究開始時期が冬季であったため、調査地と対象種の選定を主とした予備的調査を行った。亜熱帯域におけるトカゲ類の温度生理を温度環境の異なる地域間で比較し、また、温度選好性が異なると推測される複数種が存在する場所と、単一種のみが存在する場所を選び、それらの間でそれぞれの種の温度特性を比較することを目的として、適切な種と調査地の確定を行った。また、選定に際しては、京都大学理学研究科の戸田守助手と琉球大学熱帯生物圏研究センターの太田英利教授のアドバイスをあおいだ。まず、既存の文献データから琉球列島に生息するトカゲ類の分布域と選好環境の情報を調べ、対象種として、オキナワトカゲ、バーバートカゲ、および、ヘリグロヒメトカゲを選抜した。これをもとに、調査候補地として、沖縄北部の山原、伊江島、久米島、伊平屋島、伊是名島、および、奄美大島を選んた。本年度は、このうち沖縄島北部の山原と伊江島へ1月に赴いて実際の環境を巡察し、山原は上記3種が生息する環境として、伊江島はオキナワトカゲとヘリグロヒメトカゲが生息する環境として、調査対象にふさわしい場所であると判断した。他の地域へは、平成17年度の4月に赴く予定である。また、2月には、体温と逃走速度との関係を実験下で調べるための実験装置であるレーストラックの作成準備にとりかかった。この実験では、野外で捕獲してきたトカゲを様々な体温条件下で逃走させる必要があるが、既存のインキュベーターを用いてトカゲの体温を変化させることが可能であることを確認した。
著者
小川 和夫 良永 知義
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

単生類Neoheterobothrium hirameは、1990年代半ばに突然新種として日本近海のヒラメに出現した寄生虫である。天然ヒラメの貧血症の原因寄生虫であり、ヒラメ資源への影響が懸念されている。本研究では、本虫の起源を明らかにする目的で、アメリカ合衆国大西洋岸のサザンフラウンダー、サマーフラウンダー、チリ産ヒラメ1種からNeoheterobothrium属虫体を採集し、ヒラメのN.hirameと形態学的・分子生物学的に比較した。サザンフラウンダーから得られた虫体は、ヒラメに寄生するN.hirameと形態学的に差が認められず、また、18S rRNA領域、ITS1-5.8S RNA-ITS2領域、ミトコンドリアのCOI領域のいずれにおいても、塩基配列に大きな差は認められなかった。この結果から、サザンフラウンダーに寄生する虫体はN.hirameであり、本種が近年日本近海に侵入し、ヒラメを宿主として定着したものと結論付けられた。従来、サザンフラウンダーにはサマーフラウンダーを宿主とするN.affineが寄生するという報告があった。そのため、N.hirameがN.affineと同種である可能性も残っていた。そこで、本研究いおいて、サマーフラウンダーから得られたN.affine2虫体について、形態学的再記載とITS1領域の塩基配列の配列決定を行い、N.hirameと比較した。その結果、この2種は別種であることが強く示唆された。ただし、今回は得られたN.affineの数が少なく、今後に検討の余地が残された。チリ産のヒラメ類Hippoglossina macropsから得られたN.chilensisの形態ならびにITS1と28S rRNAの部分領域の塩基配列を決定した。その結果、本虫はN.hirame・N.affineと大きく異なり、これらとは別属である可能性が示唆された。
著者
朴澤 泰男
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

今年度の研究では、主に次の2つの成果が得られた。第一に、高校3年生を起点としたパネル調査のデータを用いて、大学進学選択の規定要因を分析し、成果をワーキングペーパーにまとめた。明らかになったのは、性別や家庭の所得、学力など個人属性がそれぞれ進学行動に影響していることのみならず、そうした要因をコントロールしても、出身県における大学教育供給のあり方の違いによって進学チャンスが異なることである。第二に、同じ調査データを用い、日本学生支援機構の第一種奨学金(予約採用)に申し込み、そして採用されるのはどのような家庭背景をもつ高校生なのかという問題を分析した。成果は2008年5月開催の日本高等教育学会大会で、「予約奨学金に採用されるのは誰か?」と題して発表する。奨学金が低所得層からの大学進学を促すか否かを検討するには、その前提として、必要な人に奨学金が届けられているかを検討しておく必要があるためである。分析の結果、次の四点が明らかになった。第一に、所得や学力をコントロールしてもなお、都道府県別奨学金採用枠の相対的に多い県に住んでいる高校生ほど、予約奨学金に申請する可能性が高い。しかしながら第二に、採用枠の多寡は、(申請の有無にかかわらず)予約奨学金の採否に影響を及ぼさない。第三に、採用枠の少ない県に住んでいる高校生ほど、予約採用制度のことを十分知らない傾向にある。したがって第四に、採用枠の少ない県ほど予約採用制度について十分知られておらず、そのため、(優れた学生で経済的理由により修学に困難がある者であっても)申請も行わない、といった家庭が少なくないことが示唆される。
著者
広瀬 啓吉 SHAIKH Mostata Al Masum SHAIKH Mostafa Al Masum
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度、文の情動の程度を数値として表し、そこに含まれる感情の指標を抽出することを進めた。本年度は、その手法を高度化するとともに、得られる指標を合成音声に反映させることを中心に研究を進め、下記成果を達成した。1.ニュース文について、動詞に着目して各句の肯定/否定の程度を評点として数値化した上で、順接、逆節といった句間の関係から、文全体の肯定/否定の程度を評点として与える手法を開発した。評点を用いて、英語音声合成フリーウェアのMARY音声合成システムの韻律を制御することを行った。お祭りのニュースなど、文内容が肯定的な場合は基本周波数/発話速度を上げ、事故のような、否定的な場合は、下げることを基本とする制御を行うことにより、文内容にふさわしい合成音声を得た。2.認知モデルの立場から、喜び、悲しみなどの感情を、肯定/否定、興奮/抑制といった軸によって定式化し、文内容に含まれる感性情報を抽出する手法を開発した。肯定/否定、興奮/抑制の値によりMARY音声合成システムの韻律を制御することを行い、合成音声の聴取実験により抽出した感情が適切に反映されることを確認した。3.音声からそこに含まれる情動/感性を抽出する手法について、音響部分の構築として、スペクトルの周波数と時間方向の変化の特徴と韻律的特徴を用い、Support Vector Machine等による判別を行うことで、定型文に限定されているが、肯定と否定の情動の判別率90%を達成した。4.人間が生活する際に発生する種々の音から、人間の活動を推定する手法(Life Logging)の開発を進めた。音声認識で使われているMFCCを特徴量としたHMMを用いることで良好な音認識が可能なことを示した。
著者
竹村 治雄 清川 清 間下 以大
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

学習システム自身がユーザ自身やユーザ周囲の状況(コンテキスト)を的確に把握し、コンテキストに応じて学習コンテンツの提示内容や提示手法を動的に変更することで移動中の連続した学習を支援する、適応的かつ連続的な学習支援システムを対象とした研究開発を行った。
著者
生駒 久美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は、20世紀初頭のアメリカ・モダニズム小説を読漁することを通じて、19世紀リアリズム小説における男性感傷の問題を考察してきました。その結果、モダニズム小説と比較することで、リアリズム小説において、男性登場人物達の感傷が称揚されていることに注目してきました。モダニズム小説に関して言えば、アーネスト・ヘミングウェイの『日はまた昇る』における主人公ジェイクは、感傷的(女性的)な男性登場人物コーンに批判的であるのに対し、(男性性を象徴する)若い闘牛士には強い憧憬の念を抱いています。ウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』におけるジェイソンは、恋愛感情よりも家長として振る舞うことを優先します。モダニズム小説において感傷とは女性性を指し、否定的な意味しか持ちませんでした。しかし、それにもかかわらず男性登場人物の感傷(もしくは女性性)の抑圧は必ず失敗に終わるのです。モダニズム小説における男性感傷は、抑圧の失敗といった形で担保されていると見なすことが可能です。一方、社会をありのままに捉えようとするリアリズム小説家は、主に女性の共感に基づいたユートピア的共同体を称揚する感傷小説に反発し、社会から疎外され、苦悩する男性への共感をしばしば描きました。例えば、ウィリアム・ディーン・ハウェルズの『サイラス・ラパムの向上』における、事業に失敗したラパムに対する上流階級トムの共感、マーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』におけるインジャン・ジョーに対する主人公トムの共感、ヘンリー・ジェイムズの「密林の野獣」における愛する者の墓前でむせび泣く男に対する主人公マーチャーの共感を挙げることができます。このように、男性感傷という主題は、モダニズム小説においては、失敗を前提としながら抑圧されるものであったのに対し、リアリズム小説においては重要であったことを確認してきました。