著者
井上 眞理 湯淺 高志
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

イネ科およびマメ科作物の子実の成熟および発芽過程について主に活性酸素およびラジカルスカベンジャーの機能に注目して調べた。吸水後のコムギおよびオオムギ種子のアリューロン細胞で生成されるH_2O_2は、抗酸化物質であるアスコルビン酸により消去されることを明らかにした。また、子実の登熟過程において、穂発芽抵抗性のコムギ"農林61号"は、ラジカルスカベンジャーであるアスコルビン酸による発芽抑制効果が登熟後期の開花28 日目から顕著となり、H_2O_2を消去するカタラーゼ活性が著しく高くなった。さらに、コムギのアスコルビン酸散布処理は、いずれの登熟ステージにおいても有効な穂発芽抑制物質となることが示された。デンプン種子だけでなく、油糧種子の成熟や発芽過程についても基礎的な知見を得た。ラッカセイでは、H_2O_2処理により90%以上の発芽率を示し、対照区に比べ著しく改善された。含水率は子葉および下胚軸ともに吸水に伴い漸増したが、下胚軸の増大は顕著だった。水の動態を示すT2は、下胚軸では吸水1日後から5日目まで漸増し自由水が出現した。乾燥子実へのH_2O_2処理により下胚軸および幼根においてエチレン生成が3倍となることが明らかになった。そこで、エチレン応答性遺伝子群の発現を正に制御する転写因子抗GmEin3 抗体によるイムノブロットを行った結果、H_2O_2処理によりラッカセイの下胚軸および幼根に明瞭な交差シグナルが早い時期から検出された。また、ダイズ種子の成熟過程の子実の成熟過程における含水率の変化とオートファジー関連遺伝子であるATG8ファミリーとの関係にも着目し、GmATG8i は含水率の低下に伴い開花28日目からその発現程度が低くなることも合わせて報告した。
著者
河崎 善一郎 牛尾 知雄 森本 健志
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

降雨および雷放電をこれまでになく高精度かつ高時空間分解能で観測するシステムを開発した。このシステムは,Ku帯広帯域レーダおよびVHF帯広帯域デジタル干渉計から構成され,時間分解能1分,空間分解能十数メートルで雷嵐の降雨構造および雷放電進展構造を標定することが可能である。さらに本システムを実時間で運用するシステムを開発し,試験観測を行った結果,雷嵐の詳細構造が明らかとなり,有用性が示された。
著者
柳渾 一希 (2008) 柳澤 一希 (2007)
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は,昨年度までのシミュレーションモデル・数理モデルに主に基づいていた研究を発展させ、地域公共施設の再整備に取り組むためのより実証的な研究を実施した。第一に、電子自治体の推進のなか近年の自治体に急速に普及している公共施設予約システムについての研究を行った。この予約システムによれば、施設の利用目的や利用頻度などの施設需要などを精緻に把握できるため、ここから得られる情報をもとにした、新たな公共施設管理手法の開発も可能であると思われる。このため、アンケート調査により現状の予約システムの普及状況を把握し、今後の公共施設管理についての見通しをたてた。第二に、昨年度開発した競合して立地する施設と他施設との利用圏の重なりの影響を考慮した施設利用者密度の幾何学的分析手法に基づく重要構造分析モデルを実際の観測データをもって検証した。具体的には、鈴木ほか(利用者の選好に立脚した通所型高齢者施設の利用構造と配置の分析、日本建築学会大会学術講演梗概集、F-1、pp.649-650、2002)により観測された高齢者福祉施設の利用者分布の状況を、多重ボロノイ図にもとづき解析し、開発した分析手法の有用性を示した。第三に、昨年度開発した施設再配置モデルを再検討し、施設閉鎖とともに施設移転を考慮した最適配置シミュレーションにより最適な施設統廃合についての試算を行った。この際、地域の将来人口・公共施設の建築年数・公共施設の空室率の3要素のうち、いずれの要素から優先順位をつけるかにより、閉鎖・移転施設の組合せにより統廃合後の施設利用者の負担が大きく変わることを確認した。同モデルは統廃合計画の効果測定にも有用である。
著者
溝井 和夫 笹嶋 寿郎
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

脳神経外科領域において、これまで手術ナビゲーションシステムは脳腫瘍摘出術、定位的脳手術、電極刺入術などに用いられて来たが、その応用範囲は限られている。本研究では、手術ナビゲーションシステムの応用範囲を脳血管外科の分野にも拡大することを目指した。まず、3次元CT血管撮影(3D-CTA)、3次元回転血管撮影(3D-RA)、3次元超音波血管撮影(3D-UA)などの3次元脳血管画像情報を手術ナビゲーションシステムに導入する基礎技術を開発し、ファントム実験や臨床例において位置表示の精度を3次元的に計測した。その結果、位置の誤差は1~2mmであり、十分に臨床使用が可能な精度と考えられた。更に3D-CTA、3D-RA、3D-UAを統合したリアルタイムアップデートの可能な3 次元脳血管画像誘導手術法を開発し、その精度評価を行った。その結果、位置の誤差は2mm程度であり、これも十分に臨床使用が可能な精度と考えられた。
著者
坂尾 誠一郎 巽 浩一郎 笠原 靖紀
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

慢性血栓塞栓性肺高血圧症における血栓内膜摘出術検体より分離した肉腫様細胞は、肺動脈原発血管内肉腫(intimalsarcoma)に非常に近い特徴を有することが示された。また肉腫様細胞ではmatrixmethalloproteinase(MMPs)遺伝子発現が著名に上昇していたため、抑制実験としてMMPs阻害薬のbatimastatの投与実験を施行した。その結果invitro、invivo共に腫瘍細胞増殖抑制効果を示し、以上からbatimastatによるintimalsarcomaへの臨床応用の可能性が示唆された。しかし、当初の目的である摘出血栓からの造血幹細胞分離・臨床応用に関してはさらなる検討が必要である。
著者
清水 祥一 木方 洋二 塚越 規弘 杉山 達夫 横山 昭 赤沢 堯 S.C Huber 片岡 順 西村 正暘
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1987

別紙(様式5)に記している様に、3年間にわたる共同研究実施期間中、名古屋大学農学部(NU)からはノースカロライナ州立大学(NCSU)に計11名の研究者がおもいた。一方NCSUからNUに12名が来訪した。これらはいづれも比較的短期間の滞在による研究交流ではあったが、主題にかかげたバイオテクノロジー領域における両大学研究者間の科学的知見の交換に益すること大きく、将来にわたる共同研究実施計画に関して有用かつ重要な成果をもたらした。就中NCSUの研究者、Drs.Parks,Thompson,Huber,Petters,Theilの来学の意義は大きい。これがもとになって、NUの若手研究者、及び大学院学生が渡米することとなった。また、NCSUの関連研究者訪問の道も開かれた。たとえば、NUからは三木清史(大学院学生)がDr.Petters研究室に赴いて6ケ月研究した。近く木全洋子(大学院学生)はTheil教授のもとでPh.Dを取得するため渡米する計画である。また、佐々木卓治はNCSUの招へいプログラムによって10ケ月間Food Technology学科においてSwaisgood教授と共同研究を行った。Biochemistry学科のHead,Dr.Paul AgrisがNUにおいて行ったDNA,RNAの生物物理学に関するセミナーもはなはだ高度のものであった。これ等すべてが両大学の研究者に益するところはまことに大きいものであった。直接本研究計画に名を連ねたものに加えてNCSUのJapan Center長、Mr.John Sylvesterは第2年次NUの非常勤講師として来学し、大学院学生に対して特別講義を行った。それは日米の学術交流プログラム、特にNCSU-NUの学術提携の現状並びに将来を展望するものであり示唆に富むものであった。本共同研究が実施される契機になったのは、NCSUのS.Huber教授が外国人客員教授としてNUに6ケ月滞在し、赤沢、杉山等とともに行った共同研究と、また大学院学生に対する指導である。それ等の具体的成果として、別紙に示す様な論文が発表されている。
著者
廣瀬 慧
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は,まず,因子分析の変数選択に関する研究を行った.因子分析モデルにおける変数選択は,例えば,社会科学,心理学の分野では,アンケート調査でどのアンケート項目に基づいて分析を行うのがよいかを決めるために必要となる.また,ライフサイエンスの分野では,数万の遺伝子の中からどの遺伝子が癌などの病気の原因となるのかを発見する際に重要な役割を果たす.そこで,L_1型正則化推定法に基づいた新たな変数選択法を提案した.因子分析モデルでは,各変数に対応する因子負荷量が複数あるため,通常のlasso推定法にあるような,係数1つ1つに対してスパースな解を導く罰則項を適用すると,適切に変数選択を行うことができない.そこで,複数のパラメータをグループとみなし,グループごとに変数選択を行うGroup Lassoを導入した.提案したモデリング手法をKendall(1980,Multivariate Analysis(2nd. ed.)Charles Griffin)の求人データに適用し,観測変数の背後に潜む因子を明らかにした.構造方程式は,分析者が観測される多変量データの複雑な因果構造に関する仮説を立て,その仮説から現象の因果を検証することを目的とする多変量解析手法で,心理学,社会科学生物学や医学など諸科学の様々な分野で応用されている.このモデルに含まれるパラメータを最尤法で推定すると,推定が不安定となりやすく,特に誤差分散の推定値が負となる不適解問題が発生することがあり,解決すべき重要な問題として知られている.この問題に対処するために,ベイズアプローチに基づくモデルの推定を行った.パラメータの事前分布として,Akaike(1987, Psychometrika, 52, 317-332.)の事前分布に基づいて,新たな事前分布を提案した.さらに,事前分布に含まれるハイパーパラメータの値を選択するために,モデル評価基準を導出した.提案した一連のモデリング手法を個人消費低迷の原因についての因果分析の実データに適用し,その特徴と有効性を検証した.
著者
鈴木 元
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

遺伝的揺らぎ研究:これまで、肺癌検体を用いたmRNAマイクロアレー解析、細胞レベルにおける各種実験結果より、POLD4遺伝子の重要性を多角的に解明してきた。POLD4発現低下は細胞レベルで、肺癌発生と密接な関連を有するタバコなどによるDNA損傷修復活性の低下をもたらす。外的損傷がない状態でもG1/S期およびS期における細胞周期チェックポイント活性化を誘発し、染色体断裂頻度の上昇を伴う。平成25年度はこのチェックポイント活性化につながる機序の解明を行った。すなわち、POLD4発現低下はDNA複製・修復能低下により2本鎖切断を誘発し、ATMの活性化を引き起こす。その結果p27遺伝子産物の分解抑制によりチェックポイントの活性化が導かれることが明らかとなった。細胞膜揺らぎ研究:ハイブリッドリポソーム処理により、種々のがん細胞においてアポトーシスが誘発される。我々は、その過程で本来細胞内に極めて微量にしか存在しないリン脂質が増加すること、また、そのリン脂質の下流代謝物のひとつである、スフィンゴ脂質組成が変化することを明らかにしてきた。さらに、これらスフィンゴ脂質組成変化の責任遺伝子を同定したところ、その責任遺伝子が癌で高発現していることが明らかとなった。この責任遺伝子の癌における機能を明らかにするため、ノックダウン、過剰発現を主体とした実験系を構築し、解析を行った結果、この遺伝子は癌細胞の転移に必要であることが明らかとなった。以上の結果はハイブリッドリポソームは、癌転移能亢進のため細胞が高発現している遺伝子産物の活性を利用して、抗癌剤としての作用を発揮するという機序を示している。
著者
三浦 正幸
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

カスパーゼは細胞死のメディエーターとして機能するシステインプロテアーゼであり、生体防御機構においても重要な役割を担うことが知られている。そこで、カスパーゼの活性化を可視化するツールとして、FRETを用いたインディケーター、SCAT3(Sensor for activated CAspases based on FRET)を発現するショウジョウバエ系統を作製した。ショウジョウバエの脂肪体は感染時に抗菌ペプチドを産生する器官として知られている。我々は、ショウジョウバエの遺伝学的手法(GAL4/UASシステム)を用いてショウジョウバエの脂肪体にSCAT3を発現させ、感染後のカスパーゼ活性検出を試みた。ショウジョウバエ腹部にE.coliをマイクロインジェクションした後に、時間経過毎に脂肪体を取り出し、単一細胞レペルでのカメパーゼ活性を観察した。その結果、E_coliの注入後30分の間において、脂肪体細胞の一部の細胞で、細胞死を誘導するのに十分なカスパーゼ活性が観察された。感染後の免疫担当細胞におけるカスパーゼ活性化動態の単一細胞レベルでの観察はこれまでに報告が無く、新しい知見である。カスパーゼ活性が観察されたのは一部の細胞だけではなく、それ以外の細胞においても、微弱な、あるいは一時的なカスパーゼ活性が検出された。この活性が、持続し細胞死を誘導するものかどうかについて、E_coli注入後6時間の脂肪体細胞を観察したところ、活性化が見られなかったことから、感染後初期に誘導された一時的な活性化であることが考えられ、E_coliの感染初期においてカスパーゼが何らかの生理機能を果たしていることが示唆された。
著者
中村 滝雄 横田 勝 今淵 純子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本における刃物製品は貴重な鉄で製作されてきたと同時に、経済性、機能性や耐久性などが要求されることから、軟鋼に高炭素鋼をつけるツケハガネ(鍛接)といわれる伝統的な製作方法が用いられている。そのことによって鉄に柔軟性と強靭性を与え、優れた刃物製品を製作することができたのである。本研究で取り上げた種子鋏は、伝統的な鍛冶技能を有した刀鍛冶師が多く居住し、良質の砂鉄が豊富に産出していた種子島において製作が始められたツケハガネによる道具である。現在、種子島において全て手打ちで製作している牧瀬氏が製作する種子鋏は、伝統的な鍛冶技術で製作さているのが特徴的であり、優れた切れ味とともに品質も高く美しい形態をしている。本研究および調査結果の概要は次のとおりである。(1)種子鋏製作における作業環境や道具の調査を詳細に行って、牧瀬氏が製作した独特な道具と特徴を持った鋏の形態や機能の関係を考察した。(2)映像によって製作工程の記録を行うと同時に、伝統的なツケハガネ方法で製作された種子鋏の構造と機能的な特徴を解明した。(3)製品おける鋼の組織や硬度など顕微鏡観察によって材料工学的な解析を行うと同時に、他産地の製品と熱処理による硬さの比較検討を行った。その結果、種子鋏独自の性質を出現させていることが分かった。これらは徒弟制度の中で牧瀬氏が勘と経験によって修得したものであり、伝承されてきた種子鋏製作技術や伝統的な鍛冶技術の保存という点で貴重な資料となった。また、種子島における砂鉄の調査や技術の伝承方法の推察も予備的に行った。
著者
森 隆司
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

生体の顆頭安定位での骨関節隙を,CT画像から再構築した顎関節の全体について3次元的に計測して,顆頭安定位の形態的な適合性を検討することが本研究の目的である。結果の概要を,以下に示す。1.顎関節骨形態の3次元再構築法:CT画像の下顎窩と下顎頭の形態の2次元座標を計測し,その座標値を3次のスプライン関数で補間する。次いで,形態輪郭線上の1画素ごとに,新たにサンプリングした2次元座標値を積み重ねて上下方向の点列を作成する。この点列を補間して曲線化し,矢状面の骨の輪郭線を描画した後に,曲線の始点から終点までを5画素ごとに2次元座標をサンプリングし,約0.25mm間隔で3次元構築のための構成点の座標値を抽出する。そして,この座標値から顎関節の骨形態を再構築した。2.骨関節隙の計測法:下顎窩を構築する構成点の一つから,すべての下顎頭の構成点への3次元的距離を算出し,その距離が最短となる下顎頭の構成点を選び出して,この距離を選出した構成点での下顎窩-下顎頭間距離とする。そして,骨関節隙の量は隣接する3個の構成点での下顎窩-下顎頭間距離を平均した値とする。骨関節隙の様相は,隣接する3個の構成点で規定される部位の面積の総和を算出することで検討した。3.顆頭安定位での形態的適合性:下顎窩と下顎頭が2mm以内で近接する部位が占める面積の割合の平均は,下顎頭の外側前方部:56.4%,同じく外側後方部:36.0%,中央前方部:45.4%,中央後方部:31.1%,内側前方部:38.7%,内側後方部:18.9%であった。すなわち,外側部では,下顎頭と下顎窩とが2mm以下のわずかな間隙を介して対向している部位が多いことになる。これは,下顎窩と下顎頭の形態は,咬頭嵌合位(中心咬合位)では外側部がより適合していることを意味していて,顆頭安定位での形態的特徴の一つであると考える。
著者
三浦 篤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は19世紀後半の日本とフランスにまたがる美術交流の実態を、双方向的な視野の下に三つの側面から総合的に解明しようと企てた。すなわち、第1段階として、日本美術からフランス美術への影響現象であるジャポニスム(日本趣味)を研究が進んでいないアカデミックなサロン絵画を中心に調査した。フィルマン=ジラールのような重要な画家の例を発掘したほか、オリエンタリズムの延長としての異国趣味的なジャポニスムが広く存在したことが明らかになった。他にアジアの寓意像、絵の中の文字、陶磁器についてもジャポニスムとの重要な関連性が見出された。第2段階として、アカデミックな画家の中でも好んで日本の美術工芸品を蒐集し、かつ日本近代洋画家たちの指導者でもあったラファエル・コランについて分析した。その結果、コランのジャポニスムは異国趣味とは異なり、印象派のような造形的なジャポニスムとも異質であることが分かった。春信、光琳、茶陶への趣味が物語るように、それは日本美術と本質的に共鳴する美意識に基づく特異なジャポニスムである。その意味で、コランが日本人の弟子を多く育てたことは決して偶然ではない。そして第3段階として、逆にフランス美術の日本美術への影響現象である、フランス留学した日本の洋画家たちにおけるアカデミスム絵画の摂取について研究した。山本芳翠や黒田清輝を始めとする渡航画家たちは、ジェローム、ボナ、コラン、ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ、バスティアン=ルパージュらから、アカデミスム、古典主義、自然主義など多様な絵画様式を摂取して帰国した。日本近代洋画の礎となった画家たちの個性的な受容の有り様が見えてきた。以上のように、従来は別個に研究されていた三つのテーマを相互に連関させながら調査することで、日仏美術交流史の重要な断面をダイナミックに浮かび上がらせることができた。研究に新たな1頁を付け加えることができたと確信する。
著者
岸 邦宏
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度はロジット型価格感度測定法(Kishi's Logit PSM ; KLP)の精緻化に重点を置いて研究を進め、モデルの評価指標の信頼性について明らかにした。平成14年度はその結果を受けて、KLPを用いて公共交通機関の運賃と利用者数について分析を行った。適用事例を以下に示す。1.北海道におけるコミューター航空北海道宗谷南部地域において空港が建設され、コミューター航空が就航された場合の運賃評価について意識調査を行った。業務目的と観光目的、目的地が道央圏と首都圏について分析を行い、それぞれの運賃評価と市場規模を考察した。2.北海道新幹線の函館開業時北海道新幹線が函館まで延伸された場合の函館〜東京・東北地方の運賃について意識調査を行い、利用目的によっての詳細な運賃評価から、北海道新幹線開業時のサービス提供方策を提言した。また、KLPのさらなる理論構築を目的として、公共事業に対する住民の負担金領の評価と道路構造改良による心理的負担軽減の価値について適用を試みた。前者は北海道の4都市における除雪事業について、住民の望む除雪水準とそれに対する住民の費用負担意識を分析した。その結果、住民は除雪水準の向上に対して費用負担の増加を受け入れることが明らかになった。後者については、山間部における高規格幹線道路の安全性に対する価値を通行料としてKLPで評価した。そして、KLPの評価指標のうち、基準価格を用いて心理的負担軽減の価値を求め、道路解消による心理的負担軽減の便益を算出した。以上、主に4つの意識調査を行い、KLPによる利用者の運賃評価と利用者数についての検討、そして公共事業の価値の評価手法としてKLPの理論構築を行った。
著者
横山 淳
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

1.背景我々の長期的な研究目標は,近年提案された第一原理手法である細胞動力学理論を人体の臓器器官に応用し,臓器の形態形成メカニズムや細胞の集団戦略を理論的に解明することである.特に,糖尿病との関連から実験的知見が豊富である膵臓細胞の組織形成をターゲットとする.その為にまず,細胞内エネルギーが一定に保たれるメカニズムを解明し,堅牢なエネルギー論に基づいたミトコンドリアのモデルを構築する.次に組織形成に向けた細胞間相互作用を担う情報伝達物資の,膵臓細胞における分泌・受容機構のモデル化を行う.2.結果(1)ミトコンドリアが細胞内ATP濃度を一定に保つメカニズムの有力な仮説のひとつであった"feedback control theory"は,激しく変わるATP需要に十分に耐えられないことが近年の理論研究から示されている.そこで我々はATP-ADP交換体の熱力学的平衡により細胞内ATP濃度が一定に保たれるという新しい仮設を提唱した.本仮説に基づいたモデルは,100倍以上変化するATP消費速度においてもATP濃度が一定に保たれ,かつミトコンドリア数の変動に対してもロバストであることが理論研究から認められた.本論文はJournal of Theoretical Biologyに投稿され,現在審査中である.(2)膵臓細胞の情報伝達物質の分泌・受容機構のモデル化として,フィックの法則を細胞膜の境界条件に応用した情報伝達物質分泌の新しい空間モデルを構築した.本モデルをテストケースとしてGnRH分泌細胞に応用したところ,情報伝達物質の拡散性が小さい方がより遠くまで情報を伝達できるという画期的な現象を発見した.これは拡散性が小さい程,分泌細胞の近くに情報伝達物質が滞留し,より細胞発火の閾値に近い状態を維持する為,僅かしか情報達物質が伝わらなくても細胞の発火を引き起こす為に起こる.本研究成果によりSociety for Mathematical Biologyからポスター賞が授与された.
著者
佐藤 亮一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、地震で崩壊した建築物領域の識別を可能とするために、散乱電力分解法の一つであるNNED(Non-Negative Eigenvalue Decomposition)と偏波回転補正を組み合わせる手法を提案した。PolSARデータの画像解析結果より、提案手法が有効であることを示した。また、NNEDで生じる「余り電力」も、補助指標として有効活用できることも示した。さらに、円偏波相関係数と正規化した相関係数の組み合わせは、積雪時かつ様々な方向に配置された被災住宅の観測に有効であることも明らかにした。
著者
山田 知充 井上 治郎 川田 邦夫 和泉 薫 梶川 正弘 秋田谷 英次
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

降雪や積雪などの雪氷現象に関わる災害の中で, 新聞に報道されるものは社会的関心が高く, 日常生活に深い関わり持っている. 雪害は自然現象と人間社会との関わりであるから, 地域や季節および時代により雪害の内容や発生機構は変化する. 本研究では新聞記事からの雪害事例収集を統一的に行い, 雪害記載カードを作製し, これを基に雪害のデータベースを作製した. 北海道, 秋田県, 新潟県, 富山県, 石川県, 滋賀県, 京都府, 福井県, 兵庫県について, それぞれの地方新聞を用いて, 豪雪年(昭和55-56年冬期)寡雪年(昭和61-62年)の2冬期分につき約1,800件のデータベースを完成した.一方, 雪害と自然現象を対比するため, 対象地域の2冬期分のアメダスデータを磁器テープから地域別に編集し, フロッピーデスクに収録した. 雪害の発生, 規模, 内容の地域特性と自然現象を比較するため, 本年2月末, 対象地域一体の126地点にわたって積雪調査を実施した.いずれの地域も, 雪害件数の最多は道路や鉄道等の交通等の交通障害, 次いで雪が原因となった交通事故であった. 豪雪年は道路除雪が不備なため, 走行車両の減少と低速走行のため, 事故件数は減る傾向にあるが, 除雪が完備すると事故件数の増加が予想される. 豪雪年には建物の倒壊や雪処理中の人身事故が目だつ. 京都, 滋賀では列車の運行規制, 道路のチェーン規制, 北陸地方では屋根雪処理中の転落事故, 東北地方では他県での降雪による列車の遅れ(もらい雪害), 北海道では空港障害が多く, 雪害の種類や規模の地域的特徴が明らかとなった. 雪に対する防災力が地域と季節によって大きく変化するため, 雪害を発生させる降雪量は地域差が大きい. 小雪地では数mm/dayの降雪で雪害が発生するが多雪地では40mm/day程度である. 社会の進化に応じて雪害の様相も変化するため, 雪害の予測や対策のために継続した調査が必要である.
著者
田村 恒一
出版者
山形大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、小型簡易風力発電機による雪庇生成阻止機能を考慮し、豪雪地域での人身事故の抑止効果に関する基礎的検討を行った。先ず、風力エネルギーの効率良い取り込みのために、風車翼と起動力の関係を検証した。風車翼の種類は翼面寸法が同じ9枚の平板翼と曲面翼とし、翼の傾き角度は風向に対して10、20、30、40度の場合、また、風車自体の向きを風向に対して正面、±22.5、±45度と変えた時の起動力データを測定した。測定結果から、平板、曲面翼とも翼角が大きくなると起動力も大きくなり、曲面翼は平板翼の25%増となった。風向に対する風車の対向角度変化の測定データより、風向に対して45°風車がずれていても平均で風力エネルギーの54%を取り込むことができるという結果を得た。さらに、米沢市のアメダス・データを検討した結果、冬季の風向発生頻度の約86%、頻度と風速の積値では93%が西北西を中心に±45度の範囲にあり、風車は風向追随型ではなく固定型で実用上十分で、雪庇対策効果や構造強度的にも好都合と考えられる。基礎実験データを参考に、ハブダイナモを用いた風車二機を試作した。風力発電機の直径は二機とも約1200mmで、ライト管210型9枚翼とVU管100型6枚翼とした。試作風車を二階屋根東側端(季節風の風下、雪庇の生成位置)外側に固定し、傍に風向・風速計を設置して、風速・風向と発電電圧のデータを収集し、加えて雪庇生成や積雪状況の観測を行った。試作した風力発電機は二機とも、起動風速は1m付近と自己起動性が良く、1.4m付近で発電電圧が6Vを超え、蓄電も十分行えることが確認できた。微風で風車が回転するため、風車設置位置での雪庇の生成が押さえられ、風車両脇の雪庇も支えを失い、早期に落下することが認められ、適切な風車の配置によって、雪庇生成が抑制されると考えられる。複数機設置することにより、より有効な抑制効果が期待できる。
著者
松尾 秀哉
出版者
聖学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

政権形成交渉に要する「時間」は、(1)国家元首の権限および行動、(2)政党システムの破片化の程度によって決定され、さらにその政権形成交渉期間にどの程度、連立の焦点となったイシューを具体的政策案として提示しうるか、が新首相のイメージを形成し、その後のリーダーシップに影響を及ぼして命運を決する。ベルギーの首相(2008年3月~)イブ・ルテルムは(首相在任中)「扇動者」のイメージが付きまとい、そのため短命政権で終わったのである。
著者
平松 亜衣子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、現代クウェートにおけるイスラーム復興運動について、政治的領域だけでなく経済・社会的領域における影響について検討しようとするものである。本年度は、まず5月に開催された日本中東学会年次大会において、「現代クウェート議会における投資のイスラーム適格性をめぐる議論」と題する研究報告を行った。本発表では、クウェートの金融部門においてイスラーム的な規範を重視しようとする動きが観察されることについて、クウェートの政府系ファンドであるクウェート投資庁の投資活動に関するクウェート国民議会の議論を材料に明らかにした。本発表では、近年膨大な石油収入を獲得している他の湾岸アラブ産油国においても類似の潮流があることを念頭におきつつ、クウェートの事例を紹介した。また、湾岸アラブ産油国の政府系ファンドについては、近年大きな関心が寄せられるようになっているものの、その実態について分析した研究がなされてこなかった。本研究はこの研究上の空白を埋めるという点においても意義がある。次に、7月に実施した現地調査では、議会におけるクウェート国民議論の全貌が記された議事録を入手した。また、調査対象であるイスラーム主義系の国会議員へのインタビューのほか、クウェートの政府系ファンドであるクウェート投資庁では同庁幹部へのインタビューおよび資料収集を行うことができた。現地調査で収集した資料をもとに、9月に中国・北京で開催された、日本・中国・韓国・モンゴルの中東学会に属する研究者が一同に会する国際会議であるアジア中東連合において、"Overseas Investments and "Shari'a Compliance" in the Arab Gulf Countries : A Case of Study on Kuwait Investment Authority"と題する研究報告を行った。そこでは、四力国を代表する中東専門家たちからコメントを受けた。それらをふまえて、10月に開催された国際ワークショップ"Technology, Economics and Political Transformation in the Middle East and Asia"において、"Where should Kuwait's Oil Wealth Be Invested?-Islamists' Demands in Kuwaiti National Assembly"と題する報告を行った。上記3つの研究報告をもとに、12月には『日本中東学会年報』に「現代クウェートにおける政府系ファンドと投資のイスラーム適格性」と題するペーパーを提出、査読審査のうえで掲載が決定した。2月には、チュニジアやエジプトで民主化への革命が連鎖的に生じたことから、『中東・イスラーム諸国民主化ハンドブック』が商業出版されることになり、同書の「クウェート」の章を執筆した。