著者
境野 直樹
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

当初は近世英国都市喜劇群のコンテクストを補強する目的で開始された研究であったが、中世宗教劇にみられる神と人との契約、信仰の問題を離れ、人間相互の契約に潜む暴力的収奪の構図の来歴をさぐるうちに、「犯罪者」「秩序の攪乱者」がバラッド、パンフレットに繰り返し表象されつつも「外部からの侵入者」「他者」の記号を纏わされることで、巧みに共同体共通の敵として排除される構図が骨太に浮上してきた。そこでPedlers Frenchと呼ばれる犯罪者の隠語や、罪状に応じた犯罪者の呼称を記したパンフレットの夥しい再版の経緯をたどりつつ、そうしたローカルで些末なはずの出版物がやがてホリンシェッドの『年代記』を構成するにいたる過程に犯罪者を他者として排除する力の介在を、またバラッドがその性格上、古い世界の宗教的モラルに依拠しつつもスキャンダラスな同時代の出来事を記述することで、倫理観に生ずる揺らぎ、さらには演劇におけるpedlerがrite of misruleの司祭として、あるいはwise foolの系譜に連なる登場人物として機能するさまに、時代の動揺とバランスを模索する状況を確認した。さらに、諺を累積することで成立している物語詩が、バラッド同様その性格上古いモラルに収斂するかに見えて、新しい社会の価値観に揺れるさまをも確認することができた。本研究の鍵となる記号Pedlerは、本来物々交換の媒介者として古い経済体制を、そしてface to faceの人間関係の媒介者であったはずだ。そのpedlerが巨大な、それゆえ顔の見えない資本主義という怪物の棲む近世の大都会と出会うとき、彼が出会うのは、一斉に神に顔を向けるエヴリマンではありえない。そこには互いに反目し収奪しあう近代の人間たちの世界が待ち受けているのであり、そのすべての汚辱と悪を、外部からの攪乱者のレッテルとともに、彼は背負わされるのである。
著者
首藤 重幸
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

カリフォルニア州に進出した日本企業(牧揚経営)がおこした水質管理法違反の事件を素材にして、次の点を検討した。検討素材とした日本の親会社の基本認識は、子会社を設立する国や州の環境関係法令(本件の場合は、水質管理関係法令)を知らないままに、法律で禁止されている汚染物質を地表に散布し、民事的課徴金と刑事責任を追及されるということのようである。企業の海外進出には多額の投資を必要とし、様々な経営上のリスクが発生することについては十分な研究をして進出するのであろうが、進出場所での日本とは異なる環境法的規制の調査が不十分な場合に、どのような経営責任を追求されることになるかを、この事件は示している。そこから日本企業が海外に進出した際に発生するかも知れない環境汚染をめぐる様々なトラブル(これを環境行政リスクという)に対して、どのように予防的対策を講じるべきかの、日本企業が海外進出するさいの環境行政リスク管理ともいうべきものの必要性と内容が理解されることになる。さらに、上記の諸点の検討と並んで、日本人の役員、アメリカ白人のマネージャー、そしてメキシコ人の現場労働者という組織構成から、これらの間でのコミュニケーションの困難が、それが環境関連法規違反を導いたという事実があり、上記の環境行政リスク管理という観点からは、企業スタッフ間のコミュニケーションという点にも注目せざるを得ない。
著者
内田 千秋
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1 会計監査役の民事責任上のフォートについて会計監査役の一般的な任務(監査・証明)の性質は手段債務として理解されており、「同一の状況にある通常程度に注意力がある会計監査役」と当該会計監査役の行動とが比較されたうえで、フォートが判断される。そこで、本研究期間では、不正の事例と誤謬の事例に分類したうえで(不正の事例は、横領の事例と粉飾決算の事例とに分類される)、会計監査役の民事責任に関する判例の検討・分析を行った。横領の事例においては、法定監査の前提となる内部統制の評価を行ったかどうかを重視する傾向が見られ、隠蔽手段の巧拙、横領額の多寡・頻度がフォートの判断要素とされていることが明らかになった。他方、粉飾決算の事例では、隠蔽手段の稚拙・粉飾決算の期間・会社の経営状態などがフォートの判断要素とされていた。また、判例の全体的な検討により、会計監査役の監査は試査を原則とするも(その内容は職業基準により決定される)不正の何らかの端緒が発見された場合には行うべき試査の程度を高めるべきであると判断されてきたことが明らかになった。このテーマについては、近く「早稲田法学」(早稲田大学紀要)に投稿する予定である。2 会計監査役の民事責任における損害と因果関係について本研究期間ではまた、会計監査役の民事責任における損害・因果関係のうち、対株式取得者(株式譲渡・増資引受による)責任に関する裁判例について検討・分析を行った。特に、会計監査役の法定監査による計算書類の信頼性と、買収者側の買収監査(いわゆるデューディリジャンス)の必要性との関係に焦点をあてており、買収者が買収監査を行わなかった場合には、判例が買収者のフォートを認定し因果関係を否定しまたは損害賠償額の減額を行っていること等が明らかになった。このテーマについても、2007年内の投稿を予定している。
著者
宮坂 道夫 藤野 豊
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

ハンセン病問題を「物語的正義」論の観点から再検討することが、本研究の目的である。そのために、(A)資料・文献研究と(B)聞き取り調査を併用しながら、以下の点について理論構築を行った。1)パターナリズムとしての絶対隔離政策、2)患者団体による患者の権利運動の展開とその社会的受容、3)<語り手>としての患者と<聞き手>としての知識人の乖離と責任の所在、4)<伝え手>としてのマスメディアの責任、5)病者に対する社会的な<無関心>と<偏見>の形成と存続、6)医療についての<正義>に求められるべき特質(<語り手><伝え手><聞き手>それぞれの立場の責任、および公正な意思決定の手続きとはいかなるものか)。本年度の実績としては、理論研究と資料研究の双方で順調な成果を見た。研究代表者の宮坂は、単著『ハンセン病重監房の記録』を来年度初め(平成18年4月14日予定)に刊行する予定である。これは、本研究で行った聞き取り調査、資料調査などの結果を盛り込み、特にハンセン病療養所に設けられていた懲罰施設(とりわけ収監者が多数死亡した過酷な懲罰施設であった栗生楽泉園の「重監房」)に焦点を当てて概説したものである。そのような施設において、患者に保障されるべき裁判を受ける機会が与えられず、療養所職員の裁量罰として不当な監禁が行われた実態を明らかにし、さらには、それらがメディアや国会等でいかに論じられ、廃止に至ったかを検証した。患者らは、こうした不当な人権侵害について、戦前から訴え続けていたのだが、保健医療などの専門職、マスメディア、国会議員、および一般国民が、それを聞き入れるまでに長い時間がかかった。共同研究者の藤野は、『近現代日本ハンセン病問題資料集成 補巻』(全8,9巻)を刊行した。これは、『近現代日本ハンセン病問題資料集成 戦前編』(全8巻)および『同 戦後編』(全10巻)に引き続き、ハンセン病問題研究の一次資料の集成であり、この問題を研究する上での重要な基礎的資料となるものと考えられる。
著者
本田 逸夫
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

丸山眞男の青年期=反動化の時代の経験、つまり彼の収監等の受難と同時代の「自由主義」的知識人の「実践的無力」は、日本の国家と思想の言わば病根を示すものだった。すなわち、「国体」は疑問の提出自体を許さない「直接的」「即自的」「統一」であると共に無際限に「精神の内面」へ侵入する権力であり、知識人の思想も表面の(外来)イデオロギー体系と深層の呪術的な(無)意識との乖離から、異端排撃への同調・屈服とその自己正当化に陥りがちだった。これらの問題性の克服の志向こそ、丸山の思想・学問の形成と展開を主導していた。そしてそこで特に重要な役割を演じたのが、--自由主義の批判者でありながらも、「大転向」の時代に良心に基き「時潮と凄絶に対決」すると同時に他者への寛容をも示した--師、南原繁との持続的な(思想的)対話であった。丸山は、(「古層」論等に至る所の)「存在拘束性」の徹底した追究を通じて日本思想の深層の問題を剔抉し、あわせて(おそらく南原を含む)日清戦後世代の知識人の国家観や天皇観の脱神話化につとめた。更に晩年の彼は、「伝統」や「正統」の研究が示す通り、超(むしろ長)歴史的な価値(=個性的人格・良心等)の「客観的」存在を唱える南原の思想に近づいていった。自由主義論に即していえば、その作業は、相対主義にも不寛容にも陥らぬ自由主義を支える(そして、主体形成の前提を成す「思想的な座標軸」でもある)所の「絶対的価値」ないし「見えない権威」--その歴史的な探求と重なっていたのである。
著者
冨谷 至 矢木 毅 岩井 茂樹 赤松 明彦 古勝 隆一 伊藤 孝夫 藤田 弘夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

「東アジアの法と社会」という研究題目の下、4年間に渡って続けてきた我々の共同研究の成果として、以下の成果を報告する。第一は、国内国外で二度にわたって国際シンポジウムをおこない、東アジアにおける空間的、時間的座標のうえに死刑・死罪を考え、各時代、各地域の相違が浮き彫りにされたことである。その適用理念は、応報にあるのではなく、一に予防と威嚇にあることである。それは今日の中国の死刑に実態をみれば、罪と罰が均衡をかくこと、死刑廃止の議論が希薄であることからもわかる。各担当者の課題を深めて論文にした当研究の成果報告『東アジアにおける死刑』(科学研究費成果報告:冨谷篇)において、かかる東アジアの死刑の歴史的背景、本質が明らかにされている。報告書には、スウェーデンのシンポジウムには、参加できなかった藤田弘夫、岩井茂樹、周東平の各論考の収録し、社会学の視座からの死刑問題の考察、現代中国の死刑制度をテーマとする。さらに報告書は、さきの平成15年のセミナーの報告も加えたもので、英語でなされたセミナーの報告は、英文で、その後の主として日本側の研究分担者、および周東平論文は日本語で掲載している。なお、本研究のさらなる成果として、京都大学学術出版会から、平成19年に『東アジアにおける死刑』(仮題)を出版する予定である。我々の研究成果が今日の日本の死刑問題を考える上で、寄与できるのではないかと自負している。
著者
粟屋 憲太郎 伊香 俊哉 内海 愛子 林 博史 永井 均
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

第2次世界大戦において日独が行った数多くの残虐行為に対し、連合国はそれをどのように認識し、対処しようとしたのか。これまで個別分散化していた戦犯裁判研究を総合的に明らかにするため、大戦初期の連合国による戦争犯罪認識の形成過程から戦犯処罰方式の決定に至るまでの過程、さらに対日戦犯裁判政策の形成・実施・修正・終了のプロセスを全体的に明らかにすることを目指し、連合国による対日戦犯裁判政策に関する政策文書を収集・分析した。
著者
篠田 太郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

雲解像モデルCReSSを用いた数値実験によって、中国華中域平野部上における日中の大気境界層の発達過程を示した。この過程において、乾燥対流境界層からforced cumulus境界層→、そしてactive cumulus境界層への遷移過程を示した。Active cumulusの発生は自由対流高度の急激な低下の時刻と一致していた。自由対流高度の低下は、地上付近の相当温位の増加と逆転層下端の飽和相当温位の極小値の減少によるものであることを示した。また、組織的な感度実験の結果から、初期条件において水蒸気量が多い場合、大気の安定度が小さい(不安定な)場合、地表面が湿っている場合にactive cumulusの発生時刻が早くなることを示した。Active cumulusによる水蒸気の鉛直輸送により、大気境界層は厚くなり、その上層における水蒸気量が増加することも示した。
著者
原田 利男
出版者
独立行政法人国立高等專門学校機構
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

1. 研究目的我が国の稲作における水の供給には農業用水路が用いられる場合が多い。稲作において、水管理(中干し、間断潅水など)が重要なポイントであるので、用水路に堰を入れ稲田へ取水するが、空梅雨の夏季には閉鎖性水域になりやすく、水質悪化の原因となる植物プランクトンが大量発生する。数年前から取り組んできた省ェネ型酸素供給装置は、水深の浅い所(0.5m)でも機械的拡散が生じない流動特性を備えている理由で、用水路の表層水を取水する稲作に適用し、水環境改善について検討する。2. 実験方法宇部市平原(かつては稲作地域であった)で実験を行なった。小高い所に設けられた、灌漑用貯水池から放流される用水路が、東西南北四方に交叉した処から西へ約5m行った場所を選定した。北方が源流であり、東西南方面へ水を供給している。西側を試験区、東側を対照区として表層水の分析を行なった。用水路(幅約1m、水深0.5m)に装置(消費電力80W,水流動65L/min.)を設置し、装置から約20m離れた川底から装置へ水を吸引循環した。流速は0.2cm/sec.であった。3. 実験結果および考察(1). 溶存酸素濃度(DO):試験区は対照区と明確な差が出た。日中には、過飽和(試験区は19.9mg/L以上、対照区は12~14mg/L)になるが、朝方には、対照区では0mg/Lを示し、試験区では、日没から3mg/L以上で推移した。(2). ろ過速度:GFBろ紙で試験区の採水1Lを速やかにろ過できたが、対照区では約0.5Lで目詰まりを起こした。粒度分布の結果、目詰まりの原因として1μm以下の微細粒子の存在が考えられた。(3). 藻類の発現:表層水のクロロフィルaや濁度の値は試験区の方が良好であった。また、試験区では、溶存炭素濃度、DO、pHの測定結果は、光合成が盛んに行なわれたことを示した。試験区の川底に約100mに渡りアオミドロがグリーンベルト状にへばり付き、藻内に多くの微生物が共生し、良好な水環境を形成した。
著者
岩崎 俊樹 山崎 剛 余 偉明 大林 茂 松島 大 菅野 洋光 佐々木 華織 石井 昌憲 岩井 宏徳 野田 暁
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

ダウンスケール手法に基づくメソスケール予報システムを作成し、農業気象と航空気象へ高度利用法を検討した。予測精度を向上させるためには、物理過程を改良し、初期条件と境界条件を最適化することが重要であることが示された。農業分野では、清川だしの強風といもち病の予測可能性を明らかにした。航空分野では、ドップラーライダーとダウンスケールシステムを組み合わせた、空港気象監視予測システムの可能性を検討した。
著者
中谷 敏昭
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,中高年者や高齢者の健康づくりとしてトレーニング施設ではなく,自宅(イン・ハウス)で効果的なトレーニングを実施させるためのシステムの開発と実践をおこなった.まず,定期的なトレーニングを専門家の指導の元に3ケ月あるいは6ケ月(週に2回あるいは1回の計24回)行わせ,その後に運動継続を目的としたフォロー教室と健康づくりのための情報誌を作成して体力の変化を検討した.その後,イン・ハウスで行う筋力トレーニングのための活動筋の自覚的疲労感を指標とした強度スケールを開発し,生理学的強度との関係を若年男性と中年女性を対象に検討した.その結果,アームカール運動をもちた筋力トレーニング時の強度スケールは若年男性および中年女性とも,運動回数の進行とともに増加し筋電図仕事量でみた生理学的強度やBorg-RPEスケールとも強い相関関係をしました.その後,中年女性を対象に自宅で週に3回のアームカール運動(「かなり効いてきた」と感じる回数まで)を2〜3ケ月間行わせたところ,等尺性肘屈曲力と「限界」と感じる回数が増加し,筋力と筋持久力の改善に効果的な方法であることが明らかにできた.また,本研究の片側アームカール運動のトレーニングでは,反対側(非トレーニング側)の筋力と筋持久力が改善されcross-education効果を生じさせた.以上のことから,本研究のイン・ハウスの筋力トレーニングで利用するための活動筋の自覚的疲労感を指標とした強度スケールは筋力と筋持久力を改善させる指標としては安全で効果的な内容であることが示された.
著者
加藤 内藏進 加藤 晴子 赤木 里香子 湯川 淳一
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の最終的な目的は,地球温暖化などに伴う地域気候の『変化の兆候』について(東アジアを例に),科学的視点と感覚的視点を双方向に駆使して,いち早く把握出来る『眼』を涵養するための教育プログラム開発にある。本年度は,前年度までの成果を更に発展させて取りまとめた。また,研究遂行の結果,気候変化を捉える際のベースとなる詳細な季節サイクル自体を把握する『眼』の育成が特に重要との認識が更に高まったので,その取り組みも重点的に行った。ドイツにおける5月の雨が子供を成長させるというモチーフの民謡は,気温が季節的に急昇温する時期(5月)の雨という意味が大きいことが,気象データも併せた分析によって示されるなど(論文掲載),日本の春との違いを比較できる格好の素材を提示した。一方,唱歌『朧月夜』を接点とした前年度の中学校での研究授業を分析し,春の温帯低気圧・移動性高気圧の周期的通過に伴う気象状況の特徴について,『朧月夜』の歌詞からもそれなりに的確にイメージ出来ており,気象データによる学習への活用の可能性が示唆された。また,『中間的な季節』にも踏み込んで,日本の季節サイクルと唱歌や絵画の鑑賞や色による季節の表現を軸に,学際的な研究授業を本年度も行い成果を分析した(岡大・教育学部,「くらしと環境」)(論文掲載)。更に,冬から春への進行に注目して,唱歌『早春賦』を軸に,その表現活動と気象・気候の特徴に関する学際的授業を,岡山城東高校で実施した。また,秋から冬への時期に注目し,日本海側での『時雨』を軸に,気象状況の把握と時雨を歌った和歌(新古今集等)の鑑賞に関する国語と連携した授業開発を行った。生物との連携に関しては,地球温暖化に関連するミナミアオカメムシの分布北上の実態,タマバエ類の発生期と寄主植物フェノロジーの同時性のずれなどについて研究成果を発表するとともに,本の分担執筆や各地での講演により,研究成果の普及に努めた。更に,房総半島や日本海側の海岸植生で,キク科植物に虫えいを形成するタマバエ類に関する分布調査を行い,分布北限等を確定した。一方,地球温暖化と日本付近の気候変化の昆虫への影響に関連して,昆虫類の年間世代数の増加,分布域の変化,昆虫と餌植物の同時性のずれ,高温による発育障害や繁殖障害,等,一筋縄ではいかない影響の絡み方を意識させるような研究授業を,岡大・教育学部の初等理科内容研究の講義で実施し,その成果や問題点を分析した(2011年5月に気象学会で発表予定)。なお,学校現場での参考になるよう,3年間の成果をまとめた冊子体の報告書も作成した。
著者
木内 徹 福島 昇
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

英米の演劇に登場するアフリカ系およびアフリカ系アメリカ人の登場人物、英米のアフリカ系およびアフリカ系アメリカ人劇作家の作品、英米の演劇におけるアフリカ的要素などを精査し、その共通の特徴、あるいはその差異と各劇作品の主要テーマとの関連を検証する。黒人の演劇における影響の範囲は幅広く、文学を初めてとして、歴史、奴隷制度、音楽、などを調査しなければならない。
著者
江口 浩二 高須 淳弘 大川 剛直
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本課題では、内部構造や外部構造を持つテキストデータとネットワークデータに対して確率的に表現された潜在構造を推定する技術を開発する。ここでいう内部構造とは、たとえば、テキストデータにおいてトークン(単語)が属性で特徴づけられたものを指し、ネットワークデータにおいては各頂点または辺が属性で特徴づけられたものを指す。また、外部構造とは、たとえば、所与のネットワーク構造における各頂点にテキストデータ群が関連付けられた状況を指す。このような複雑な構造をもつ大規模なデータから低次元の潜在構造を推定することで、様々な実問題に利用可能な「知識」を抽出する。情報の検索、推薦、予測と、時系列解析などに応用する。
著者
松本 淳 遠藤 伸彦 林 泰一 加藤 内藏進 久保田 尚之 財城 真寿美 富田 智彦 川村 隆一 浅沼 順 安成 哲三 村田 文絵 増田 耕一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

1950年代以前のアジアモンスーン諸国における紙媒体気象データをデジタル化したデータセットを作成し,20世紀全体でのアジアモンスーンと台風の活動や経路の長期変動を解析した。その結果,日本の冬季モンスーンが弱まり,冬の期間が短くなる傾向や,フィリピンで夏の雨季の開始時期が近年遅くなる傾向,東南アジアで降雨強度が強まる傾向,台風発生数の数十年周期変動,台風の低緯度地方での経路の長期的北上傾向等が見出された。
著者
向井 紳
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では研究代表者らが開発した氷晶テンプレート法により作製したマイクロハニカム状モノリス体の複合化による高機能化を目指した。まずはÅオーダーからサブAmオーダーのサイズを有する活性種をモノリス体に固定化する技術を確立した。これらの技術を利用し、光触媒、液相用固体酸触媒、イオン交換体として利用でき、流体に対する抵抗が非常に低いモノリス体の製造に成功した。さらに有機-無機ハイブリッドを前駆体に用いることにより、高い耐熱性を有するモノリス体の製造にも成功した。
著者
石川 健三 鈴木 久男 中山 隆一 河本 昇 末廣 一彦 JACKIW Roman WIEGMANN Pau 細谷 裕
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

低次元場の理論の研究とその応用をテーマとする本研究では、量子ホール効果の場の理論、重力の量子論並びに弦の量子論が中心的課題として取り上げられた。これら物理学の基本的諸問題に関する多方面にわたる研究が展開され、以下の成果があげられた(1)極めて特異な量子的な物理現象である量子ホール効果の厳密性に関して、ホール系のガス状態が負の圧縮率を持つことが示され、さらにこのことより縦抵抗が有限な値をとる現実の実験状況下でもホール抵抗の値が厳密に量子化されることがしめされた。また、量子的な多体効果が重要な働きをしている分数量子ホール諸問題について、空間の対称性を最大限に保つvon Neumann格子表現を使い、相互作用によりfluxが凝縮し、Hofstadterのbutterflyスペクトルと同様なものになる一粒子状態を持つflux相に基ずく新しい平均場理論が提案された。この意味で、Hofstadterのbutterflyスペクトルと分数量子ホール効果の関連が初めて明らかにされた。(2)時間や空間の反転に関する不変性を破る超伝導では量子ホール系と同様に電磁場に対するChern-Simons項が導かれる。磁場の役割をp波のCooper対凝縮がし、u(1)対称性が破れているときのChern-Simons項の係数には補正があること等について解明された。(3)任意次元に一般化された偶数次元のChern-Simons作用が無限階質量殻上既約という極めて特殊なゲージ対称性の構造を持つ理論であることが示されまたこの理論の量子化に成功した。(4)3次元Chern-Simons重力と4次元BF理論を格子上にのせる試みに成功した。(5)ストリング理論におけるD-Particleの有効理論のコンフォーマル対称性が示され、またハミルトンーヤコービ方程式を用いたストリングの新しい定式化にせいこうした。(5)超弦理論について、その相転移がヒッグス場による対称性の破れと解釈できる相転移点まわりでの物理量の計算について、定量的に解析する技術の開発に成功した。(6)量子情報理論における量子的絡み合い状態についてのエントロピーの持つ関係式の導出に成功した。
著者
尾形 良彦 種村 正美 遠田 晋次 庄 建倉 鶴岡 弘 田村 義保 佐藤 整尚 川崎 能典 島崎 邦彦 間瀬 茂 柴田 里程 ANDREA Llenos SEBASTIAN Hainzl JEFFREY J. DAVID Vere-Jones
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ETAS(epidemic type aftershock sequence)などの統計的点過程モデルで各地の地震活動の確率的予測を行う同時に,モデルを物差しにして静穏化・活発化などの地震活動異常を検出できる解析手法を確立した.地震活動予測からの逸脱による地震活動異常の空間パタンから,断層内の非地震性すべりによる地殻のストレス変化との因果関係を実証研究した.このような地震活動の異常性が殻歪変化のセンサーとして有用である.さらに地震活動異常とGPSによる地殻変動データとの整合性を確かめ,大地震の前駆的なすべり現象の解明に迫った.
著者
斎藤 博 向井 茂 寺西 鎮男 谷川 好男 藤原 一宏 浪川 幸彦 内藤 久資 齋藤 博
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1.Alexeev,Sankaran教授を招いて1997年5月に名古屋大学においてモジュライ多様体の研究集会を開催し、アーベル曲面のモジュライに対する結果を発表するとともに一般次元主偏極の場合のトーリックコンパクト化について議論した.また、6月の数理解析研究所でもう一度会って、理解を深めることができた.この方面では(1、5)型と(1、4)型の場合に標準レベル付偏極アーベル曲面のモジュライ空間と対応する正多面体多様体の間の双有理写像を具体的に構成した.対数多様体の概念を使うと見通し良くなることと可積分系との関係がこの研究で得られた新しい知見である.2.夏からは研究計画3)の幾何学的不変式論に本格的に取組み1997年12月にはMumfordのものとは違ってlinearizationの取り方によらない商多様体の構成を発見した.これについては具体的な例でその有効性を検証中である.また、幾何学的不変式論の基礎を検証し、不変式環の有限生成性や簡約代数群の線型簡約性の証明を簡素化することができた.3.1996年度より続いている3次超曲面の周期写像の研究では幾何学的不変式論で得られるモジュライ空間と対称空間の数論的商を比較し、モジュライ空間としてふさわしいコンパクト化の候補を見つけた.これは本来問題としていたK3曲面のモジュライ空間のコンパクト化についても示唆を与えている.次数の低い場合に安定K3曲面の候補を色々実験している.
著者
剣持 直哉
出版者
宮崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

タンパク質をコードしていないRNA (ncRNA)が多数発見され、生体システムにおける重要性が明らかになりつつある。一方、これらのRNAは通常種々の修飾を受けているが、その意義は全く不明である。RNA修飾と自己免疫疾患との関連を明らかにするために、本年度は、SLE患者で自己抗原となるrRNAに対する人工抗体の作製を行うとともに、ゼブラフィッシュにおいてRNA修飾に働く核小体の低分子RNA(snoRNA)の機能を阻害し、生体におけるRNA修飾の役割を検討した。1. 人工抗体ライブラリーを用いた抗RNA抗体の作製ファージディスプレイ型の人工抗体ライブラリーから、28SrRNAの自己抗体結合部位を認識する抗体クローンを8種類単離した。得られた人工抗体のrRNAに対する特異性はELISA法にて確認した。抗体クローンの塩基配列を決定しデータベースを解析した結果、新規の抗体であることが明らかになった。2. ゼブラフィッシュにおけるsnoRNAの機能阻害とRNA修飾snoRNAは通常イントロンにコードされている。そこで、U22、U26、U44、U78の各snoRNAについて、ゼブラフィッシュにおいてこれらsnoRNAがコードされているイントロンのスプライシングを阻害した。その結果、ゼブラフィッシュ胚に共通した表現型として、発育遅滞、頭部の形成不全、色素沈着の遅れなどが観察された。また、いずれも約1週間で致死となった。一方、U26のノックダウン胚から抽出したrRNAを用いて修飾の状態を質量分析計で調べたところ、U26が標的とする部位の修飾が低減していた。これらの結果より、ゼブラフィッシュの初期発生においてRNA修飾が重要な役割を果たしていることが初めて明らかになった。