著者
岡田 真幸 鵜山 淳 岡村 有祐 三宅 茂 寺薗 貴浩 山本 一宏 髙石 吉將 近藤 威
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.799-804, 2019-07-10

Ⅰ.はじめに 頚部の外傷が原因で動脈解離や動脈瘤形成などの血管損傷を来すことはよく知られている5,14,22,27).内頚動脈系・椎骨動脈系の損傷は脳虚血症状を引き起こすため,脳神経外科医が治療を担うことが多い.外頚動脈の動脈瘤形成の多くは仮性動脈瘤であり,脳への血行動態に影響を及ぼさず,有痛性(ときには無痛性)の腫瘤で発症し,出血破綻の程度によっては出血性ショックや気道閉塞に至る15,24,25).過去には,原因不明の頚部腫瘤としてドレナージや生検を試みて大出血を来したことが報告されている20,21).一方で,特発性とされるものの中に出血のない真性の動脈瘤も含まれているようで,長期間経過観察のみで何ら病状の進行がなかったとの報告2,11)も散見され,症状が進行性であるかどうかを見極める必要がある. 形成外科,耳鼻科,血管外科などで治療されることが多いが,アテローム性頚部頚動脈疾患を治療する機会の多い脳神経外科医にとっては日常よく経験している手術領域であり,直達術あるいは血管内治療のどちらの治療法にも熟達していることにより,症例ごとに適切な治療の選択が可能である.今回われわれは,脳神経外科医にとっては遭遇する機会の少ない,頚部外頚動脈仮性動脈瘤を直達術にて治療したので,文献的考察を加えて報告する.
著者
寒 重之 宮内 哲
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.247-252, 2018-03-01

自己の表象と認識を担う脳部位の検討から,内側眼窩前頭前皮質,背内側前頭前皮質,前帯状皮質,楔前部および後帯状皮質から成るcortical midline structures(CMS)の重要性が明らかになってきた。これらの部位は安静時における同期的な活動を示す安静時ネットワークのデフォルトモードネットワークやサリエンスネットワークを構成する領域であり,これらのネットワークの異常と精神・神経疾患との関連が近年数多く報告されている。さらに,CMSを構成する領域の多くが痛みの認知に関わっており,そのことが他の感覚にはみられない痛みの特徴を生み出しているように思われる。また,病的な痛みの発生と維持には,脳における痛みの認知機構の異常が関与しているとの考え方が受け入れられるようになってきており,慢性痛患者を対象とした研究によってCMSとCMSに密接に関連する脳部位において構造的・機能的な変化が生じていることが数多く報告されている。痛みの認知に関係する多くの領域が自己に関連する情報の処理に関わっているという事実は,痛みの認知特性や慢性痛の病態を考えるうえでも,脳において表象される自己を考えるうえでも,貴重な視座を与えるものとなるだろう。
著者
原田 祐輔 長谷川 利夫
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.324-336, 2014-08-15

要旨:仕事のストレス要因とストレス反応の関連性を明らかにすることはストレス対処に寄与すると言われているが,作業療法分野において,働く領域ごとにストレス要因やストレス反応を比較した研究は見られない.本研究では,訪問リハビリテーションに従事する作業療法士(以下,訪問OTR)・病院に勤務する作業療法士(以下,病院OTR)を対象とした仕事のストレス要因,ストレス反応に関する実態調査を行った.結果として,訪問OTRは,病院OTRと比較するとストレスは低く,メンタルヘルスは良好であるということが示唆された.また,両群共にストレス反応に最も影響するストレス要因として「やりがい・適性」が抽出された.
著者
和足 孝之 稲田 遥 松本 謙太郎 志水 太郎 北川 泉 徳田 安春
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.166-167, 2014-02-15

「誤診」に着目した国際学会 われわれは2011,12年と引き続き,2013年9月23~25日に米国シカゴのNorthwestern Universityで催されたDiagnostic Error in Medicine(DEM)の第6回International Conferenceに参加した.本総会は,臨床現場におけるdiagnostic error(誤診)をいかにして減らすかに着目し,自分が経験した診断エラーやリスクマネジメントの紹介や,今後の解決策の模索などについて,各発表やシンポジウムでも例年活発な議論が行われている. 今回,筆者らは本学会でメインとなるM and Mカンファレンスで,“Is it a Cold or Not ? That is the problem.”というタイトルで40分間の口演発表をする機会を得た.症例は36歳女性.発熱,咽頭痛,鼻水,倦怠感を主訴に救急受診し,感冒の診断で帰宅となるも2日後にDICによる脳出血で救急搬送されたケースである.最終診断は急性前骨髄性白血病であった.この症例の論点として,感冒と診断する際のピットフォールやさまざまなバイアス,また診断時の直感的診断と分析的診断の使い分けについて考察をまとめて発表した.Cook County HospitalのKaren Cosby医師(Rush大学准教授)がModerator,San Francisco VA Medical CenterのGurpreet Dhaliwal 医師(UCSF准教授)が“Professor” Discussantとして診断推論のコメントを加え,会場も交えての活発な意見交換が行われた.
著者
水野 高昌 鈴木 久義 奥原 孝幸 上原 栄一郎 山口 芳文
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.273-283, 2011-06-15

要旨:作業療法士が行っている感情労働に焦点をあて,作業療法士の業務において求められている感情労働の構成概念を明確にすることを目的に研究を行った.医療施設および福祉施設に従事する100名を選択し調査対象とした.調査方法は郵送によるアンケート調査で無記名の自記式とし,回収されたデータはBerelson Bの内容分析によって分析した.分析の結果,対象者への感情労働は9カテゴリーが抽出された.対象者への感情労働として抽出されたカテゴリーは,先行研究に類似したものと「プログラムの工夫」など作業療法士独自のものも見られ,本研究によって作業療法士が感情労働を行っていることが示唆された.
著者
高橋 伸佳
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.830-838, 2011-08-01

はじめに 「熟知している場所で道に迷う症状」を地理的障害と呼ぶ。ただし,意識障害,認知症,健忘症候群,半側空間無視など,他の神経症状や神経心理症状によって説明可能な場合は除外する。地誌的障害,地誌的失見当,地誌的見当識障害,広義の地誌的失認なども地理的障害とほぼ同義である。従来の文献にしばしば登場する「地誌的記憶障害」は,自宅付近の地図や自宅の間取りを想起して口述・描写することの障害[地理的知識の視覚表象能力の障害1)]であり,本稿でいう地理的障害とは異なる。 「熟知している場所」は,自宅付近,職場付近など発症前からよく知っていた場所(旧知の場所)だけではない。入院した病院内など発症後頻繁に行き来することによって,新たによく知るようになった場所(新規の場所)も含まれる。地理的障害では通常,旧知の場所でも新規の場所でも道に迷う。しかし,稀には新規の場所のみで症状を呈する例がある。これは健忘症候群における逆向性健忘と前向性健忘との関係に似ている。健忘症候群では通常この両者が併存するが,稀にはどちらかが孤立性に発現することがある2)。旧知の場所の中でも発症に近い時期に住んでいた場所では症状がみられ,発症から遠い時期の場所では異常がない症例3,4)の存在などは,逆向性健忘の「時間勾配」を思わせる。地理的障害では,現在まで旧知の場所のみの症例は報告されていない。しかし,理論的にはその存在が推定される。 筆者らは地理的障害を症候と病巣の違いから街並失認(agnosia for streetsまたはlandmark agnosia)と道順障害(defective root findingまたはheading disorientation)の2つに分類した5)。一言でいえば,前者は街並(建物・風景)の同定障害に基づくものであり,視覚性失認の一型と考えられる。後者は広い地域内における自己や,離れた他の地点の空間的定位障害であり,視空間失認に含まれる。 街並失認は相貌失認と合併して生ずることが多く,その存在自体は古くから知られていた6,7)。環境失認(environmental agnosia)8),場所失認(agnosia for place)などと呼ばれたこともある。筆者は多数例の検討から,その症候や病巣を整理し,地理的障害全体の中での位置づけを示したにすぎない。この症候を街並失認と呼ぶことにしたのは,物体失認,画像失認,相貌失認などと同様,「街並(建物・風景)」という視覚対象に対する失認であることを明確にするためである。最近まで,神経心理学の中で地理的障害に関する研究が後れをとっていたとすれば,孤立性の症状を呈する症例が少ない,検査方法が確立されていない,などの点とともに用語の混乱にその一因があったのではないかと思われる。 一方,道順障害は従来ほとんど注目されていなかった症候である。筆者らは街並失認の症候,病巣の分析を進める過程で,これとは異なる地理的障害の1例に出会った。街並失認での患者の訴えが「(よく知っているはずの)回りの景色が初めてみるように感じる」であるのに対し,その症例の訴えは「(よく知っている)目の前の交叉点をどの方角へ曲がればよいかわからない」というものであった。これは,私たちが道をたどる際に,現在いる地点の周囲にある建物・風景を確認するだけではなく,目的地の方角を意識していることとよく対応する。この方角定位能力が選択的に障害されている症例と考えられた。その後,さらに同様の症例を経験し,1990年9)と1993年5)に日本神経心理学会総会で発表するとともに,3例をまとめて原著論文10)とした。 本稿は街並失認と道順障害について,原著10,11)およびその後の総説12-15)や著書16)に記載した内容を総括し,さらに最近の知見を加えたものである。
著者
中川 国利
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.1019, 2008-07-20

生を受けた人間は必ず死を迎える.人は死を悟ったとき,大いに落胆し歎き悲しむのがつねである.しかし,死を従容として受け入れ,身近な人々との別れを惜しみながら死に逝く人も稀ながら存在する. 80歳代後半のSさんは7年前に大腸癌の手術を受けた.進行癌ではあったが術後の経過は良好で,好きなゴルフを夫婦で楽しんでいた.久しぶりに来院したので胸部X線写真を撮ると,肺に腫瘍を認めた.そこで,呼吸器内科に紹介した.しかし,肺癌はすでに転移し,また高齢のため,単に対症療法が行われることになった.
著者
館農 勝 中野 育子 白木 淳子 館農 幸恵 金澤 潤一郎 白石 将毅 河西 千秋 氏家 武 齊藤 卓弥
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.1403-1411, 2018-12-15

抄録 近年,ADHDの診断を求めて精神科を受診する者の数が増えている。今回,ADHDの診断補助ツールとして活用可能な25項目から成る質問紙を開発した。質問紙はHokkaido ADHD Scale for Clinical Assessment in Psychiatry(HASCAP)と名付け,0点から4点の5件法で回答を求めた(100点満点)。ADHD群104名(平均63.4±15.8点)と健常対照群361名(平均27.5±17.5点)の結果から,感度,特異度を求め,カットオフを設定した。その結果,HASCAP合計点45点で,感度83.7%,特異度83.1%であった。今度,さらにデータを集積し,より実用的な質問紙にしていきたいと考える。
著者
鈴木 俊明
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.65, 2005-01-01

アシュワーススケール(Ashworth scale)1)は,1964年にAshworth Bが発表した痙縮の評価法である.当初は,多発性硬化症の痙縮を評価する方法として発表されたが,Bohannonらは脳血管障害片麻痺患者の痙縮を評価する方法としてアシュワーススケール変法(modified Ashworth scale)2)を発表した.現在は,痙縮を呈するすべての疾患の筋緊張評価に用いられている.本項では,アシュワーススケールとアシュワーススケール変法について理学療法臨床での応用も含めて解説する. アシュワーススケールとアシュワーススケール変法 アシュワーススケールとアシュワーススケール変法は,他動運動時の筋緊張の客観的評価法である.患者を背臥位でリラックスさせ,評価する筋を他動的に動かしたときの抵抗感(いわゆる筋伸張時の抵抗感)によって評価する.アシュワーススケールは5段階(グレード0:正常な筋緊張,1:四肢を動かしたときに引っかかるようなわずかの筋緊張亢進,2:グレード1よりも筋緊張は亢進するが四肢は簡単に動かすことができる,3:著明な筋緊張の亢進により四肢の他動運動が困難,4:四肢が固く,屈曲,伸展できない),アシュワーススケール変法はアシュワーススケールのグレード1をさらに細かく,グレード1とグレード1+の2つに分けた6段階に分類される.グレード1(筋緊張は軽度亢進で,関節を伸展あるいは屈曲したときに引っかかるような感じが生じた後にその引っかかりが消失するか,または関節可動域の終わりにわずかな抵抗感を呈する),グレード1+(筋緊張は軽度亢進で,関節可動域の1/2以下の範囲で引っかかるような感じが生じた後にわずかな抵抗感を呈する)は痙縮の特徴であるジャックナイフ現象と廃用症候群による筋・皮膚短縮を反映するものである.
著者
近藤 直樹 日浅 芳一 岸 宏一 藤永 裕之 大石 佳史 大谷 龍治 和田 達也 相原 令
出版者
医学書院
雑誌
呼吸と循環 (ISSN:04523458)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.1117-1120, 1993-11-15

フェノチアジン系向精神薬により誘発された致死的心室性不整脈の1例を報告する.症例は55歳,男性.二度の大動脈弁置換術の既往がある.1991年暮れ頃より,弁不全のため再度置換術の予定となった.同年頃よりうつ状態のためフェノチアジン系向精神薬やスルピリドを内服していた.1992年3月,失神発作があり,モニター心電図上,心室頻拍,Tor-sade de Pointes(Tdp)などの致死的不整脈を認めた.薬剤の中止にて不整脈は消失した.その後これらの向精神薬を再開後,再び同様の不整脈が発生したため,薬剤の中止と永久ペースメーカーの植え込みを行った.術前の不安感のため少量のフェノチアジン系向精神薬を再開した.術後10日目失神発作があり心室頻拍,Tdpの頻発を認めた.これら不整脈発作時には電解質は正常であった.術12日後,多臓器不全で死亡した.致死的不整脈の発生に,心血管系に作用が弱いフェノチアジン系向精神薬の関与が疑われたため報告した.
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.26, no.12, pp.1269, 2019-12-01

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著者
平山 恵造
出版者
医学書院
雑誌
Brain and Nerve 脳と神経 (ISSN:00068969)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.436, 1974-04-01

1937, 1938, 1939年にわたつてH.KlüverとP.C.Bucyが,猿の両側の側頭葉切除に際して現われた症状を記述した。すなわち,①生物,無生物,有害物,無害物を問わず,逡巡することなく接近する行動,すなわちLissauerの連合型精神盲,または視覚失認を思わせるような行動を呈する(psychic blindness)②物をやたら口にもって行き,口中に入れ,噛み,なめずり,唇でさわり,鼻先でにおいをかぐなどの動作がみられる(oral tendencies).食べられないものは捨て,食べられるものはのみ込む。③目にうつるものは生物,無生物を問わず,あちこちと視線を送り,それに反応する。周囲の事物,変化に対しあたかも強いられたかのごとくに反応する(hyper—metamorphosis)。④怒り・不安の反応が消失し,危険物をさけなくなり,無表情となることもあり,情動行為が変化する。ときには攻撃的反応をとることもある。(emotionalbehavior changes)⑤性行動が変化し,heterosexual,homosexual,autosexualなどの性行動がみられる(increased sexual activity)。 これら症状が,さらに一層基本的な障害によつて生じたものでないか,もつと根本的な機序が働いているのではないかということは人々の考えるところであるが,KlüverとBucyもその検討を加えたすえ,そのような型にまとめることは望み難いとしている。
著者
内田 敦子 土居 敏明 難波 倫子
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.503-505, 2007-06-01

要約 31歳,女性.ネフローゼ症候群の治療中に,円形の落屑性局面が体幹を中心に次々に出現するようになった.病理組織学的に不全角化を伴わない角質増生,顆粒層の減少,有棘層の菲薄化がみられ,臨床症状と併せて連圏状粃糠疹と診断した.ネフローゼ症候群の改善と尿素軟膏の塗布により,皮疹は約2か月後には軽快した.本疾患は,悪性腫瘍や結核に合併することが多く,消耗性疾患のデルマドロームの一型と考えられている.
著者
小野 茂良
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚泌尿器科 (ISSN:21886156)
巻号頁・発行日
vol.3, no.5, pp.216-218, 1949-05-01

連圏状粃糠疹は明治39年に遠山博士によつて初めて記載されてから現在迄に200例近くの症例が報告されている.最初から寄生性皮膚疾患と考えちれ,從つてその治療としてはサリチル酸,レゾルチン,クリサロビン,タールパスタが用いられ或いは大陽燈照射や自家血清療法も併用されたが,何れによるも治癒し難いものでありた.然るに現在に至るもなお確實な病原菌の檢出は不成功であり,また一方本症は組織學的に角化症で,特に,毛嚢及び汗腺開口部に角質増殖が著明であることから,ビタミンA大量療法を試みて奏効した1例を經驗したのでこゝに報告する.
著者
田村 邦夫
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.267-271, 2000-03-01

目的 酸性粘液多糖類はアニリン系塩基性色素と反応してメタクロマジー(異調染色)を起こす.例えば,トルイジン青水溶液で多くの組織成分は青色に染まるが,粘液や軟骨などは色素が本来有していない赤色調が出現して赤紫色に染まる.メタクロマジー自体は古くから知られていて,Ehrlichによれば「ある色素で組織学的要素を染める場合,要素が色素溶液とは異なった色調で染色される」と定義されている.溶液中でもメタクロマジーはアニリン系塩基性色素と酸性基を有する高分子化合物の間で起こり,最大吸収波長が長波長側にずれることが確認されている.病理組織学においてはメタクロマジーを起こす物質はコンドロイチン硫酸,ヒアルロン酸,ヘパリンなどの酸性粘液多糖類や核酸,アミロイドなどがある. メタクロマジーの反応機構は-SO3H,-COOHなどの酸性基を有する酸性粘液多糖類や-PO4を有する核酸とアニリン系塩基性色素がイオン結合する化学反応と理解されている.酸性色素やラック性色素(色素自体に染色性はないが,塩類を結合させることにより染色性を獲得する色素)でもメタクロマジーは観察されるが,これらの色素についての発現機構は不明であり,塩基性色素とは異なった発現機構によるものと考えられている.また,その組織化学的な意義についてもほとんどわかっていない.このため,特別な断りがない限りメタクロマジーといえばアニリン系塩基性色素によるものを指している.
著者
濵田 昌史 小田桐 恭子
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.461-466, 2016-06-20

POINT ●国際的に使用される顔面表情運動の評点法には3つある。 ●40点法(柳原法)ではある程度の予後診断が可能である。 ●Sunnybrook法は麻痺後遺症の評価に有用である。 ●エレクトロニューロノグラフィー(ENoG)検査は現時点で最も信頼度の高い電気生理学的評価法である。 ●唾液分泌機能検査にも予後診断的価値がある。
著者
勝見 さち代 村上 信五
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.137-143, 2010-04-30

Ⅰ はじめに 顔面神経麻痺の評価法には大きく分けて2つの方法がある。1つは顔面全体の印象を概括的に捉えて麻痺程度を評価する方法(gross system)で,もう1つは顔面表情の主要な機能を区分して幾つかの単位に分け,それぞれを個別に評価し,その合計で麻痺程度を評価する顔面部位別評価法(regional system)である。現在,臨床において汎用されている評価法は,gross systemではHouse-Brackmann法があり,regional systemでは40点法(柳原法)がある。前者は主に聴神経腫瘍術後の麻痺を対象として考案され,後者は主にBell麻痺,Hunt症候群による麻痺を対象としてわが国で考案された。また,後遺症評価に重点をおいたSunnybrook法もある。 本稿では,現在臨床的に用いられている代表的な評価法について解説する。
著者
濵田 昌史
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.176-180, 2017-04-30

●目的 ・顔面神経麻痺の重症度診断(予後評価) ・顔面神経麻痺の経時的評価 ・顔面神経分岐別評価 ●対象 ・Bell麻痺やRamsay Hunt症候群 ・外傷性麻痺,医原性麻痺 麻痺発症早期から回復期までの全過程において使用可能である(図1)。
著者
山田 啓之 羽藤 直人
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.63-66, 2019-04-30

当直医へのコール ●Bell麻痺:一側の顔面神経麻痺のみを呈し,他の脳神経麻痺などの随伴する症状がない症例 ●Ramsay Hunt症候群:顔面神経麻痺のほかに難聴やめまいも呈している症例 ●外傷性麻痺:事故などで頭部外傷を受傷した症例 ●脳梗塞:一側の顔面神経麻痺を呈しているが,前頭筋の麻痺がない症例
著者
門家 千穂 氏家 寛 和気 洋介 岡久 祐子 黒田 重利
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.187-190, 2004-02-15

はじめに DiGeorge 症候群,軟口蓋心臓顔貌症候群(velo-cardio-facial syndrome),円錐動脈幹異常顔貌症候群(conotruncal anomaly face syndrome)は症状に共通点の多い疾患であるが,これらはすべて22番染色体長腕11領域の微小欠失を持つことから,最近は22q11.2欠失症候群と呼ばれることも多くなってきている。22q11.2欠失症候群は元々小児科領域の疾患であったが,近年,本症の成人例では高率に統合失調症様症状を呈するという報告が相次いでおり,その罹患危険率は一般集団の約25倍とされる7)。一方,統合失調症の2%に22q11.2の微小欠失が認められ,これは一般集団の80倍である4)。本邦では22q11.2欠失症候群で統合失調症様症状を呈した例の報告は調べたかぎりでは7例3,5,8)しかなく,その臨床像の特徴の描出にはさらなる症例の蓄積が必要である。今回,我々は統合失調症様症状を呈した22q11.2欠失症候群の1例を経験し,その臨床像と治療反応性において若干の知見を見いだしたので報告する。