著者
長谷川 岳
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.556-561, 2016-10-15

要旨:本論は,家族の希望により約7年間長期入所し当施設で最期を迎えた事例に対し,洗濯を通して死去される前まで事例らしく生活を送れるよう援助できた実践の報告である.A氏は衣類の整理にこだわりがあった.そこで,A氏が在宅生活で行っていた洗濯が,役割のある作業になる可能性があるのではないかと考え,導入した.洗濯は,開始してから体調不良時以外,拒否することは一度もなかった.またA氏は家族に自己の存在をアピールするようになり,日々の生活の一部として定着した.また役割をもつことにより,自分が自分らしくいられる礎となった.そして洗濯を最期まで継続して行え,A氏らしく過ごすことができた.
著者
長尾 宗典 小林 隆司
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.637-645, 2018-12-15

要旨:介護保険下の通所リハビリテーション(以下,通所リハ)には,利用者を通所リハから他の社会参加の場へ移行させる役割が求められている.本研究では,以前に通所リハを利用していた脳卒中当時者4名にインタビューを行い,どのような経験を経て通所リハ利用を終了したのか,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:TEA)を用いて解明した.4名は生活や身体の改善実感を得て,生活への自信を強めて活動圏を拡大させていた.外部からの働きかけで,4名は通所リハ利用終了後にどんな生活を送るかに向き合った.通所リハ利用終了の際は,本人が送りたい生活実現に向け自己決定するプロセスが重要なことが示された.
著者
淺井 仁
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.703, 2005-08-01

ロンベルグ徴候(Romberg's sign)とは,閉足立位時に開眼から閉眼することによって,開眼時よりも身体の動揺が大きくなり最後には転倒に至る現象を指す.ロンベルグ徴候は,ドイツの神経内科医であるMoritz Heinrich Romberg(1795-1873)によって著された「Lehrbuch der Nervenkrankheiten des Menschen(英名:A Manual of the Nervous Diseases of Man)」の中に記述されている1).この本は,彼の仕事が最も充実した時期と考えられる1840年から1846年の間に書かれ1853年に英訳されたものであり,各種の神経症状が神経学や神経生理学に基づいて体系化されて詳しく記述,解説されている1). ロンベルグ検査は,厳密には失調症の原因の鑑別に用いられてきており,ロンベルグ徴候が陽性の場合には,脊髄性の運動失調を疑うことになる.これに加えて平山は,閉眼閉足起立試験をロンベルグ試験とすると,前庭機能障害にみられる閉眼立位時の動揺も一種のロンベルグ徴候と考えたほうが実際的であると述べ,閉眼閉足起立試験によって身体の動揺が起こる場合をすべてロンベルグ徴候陽性とし,これを脊髄癆型後索性ロンベルグ徴候,前庭性ロンベルグ徴候,および下肢筋力低下による末梢性ロンベルグ徴候に分類している2).前庭性ロンベルグ徴候は閉眼後の身体動揺は次第に増強するが転倒することは少ないというものであり,下肢筋力低下による末梢性ロンベルグ徴候は特に腓骨筋の筋力低下により閉眼時の横方向の動揺が増えるというものである3).
著者
佐野 伸之 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.229-238, 2016-06-15

要旨:介護予防事業では,高齢者の活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションが期待される.本研究の目的は,デイサービスを利用する217名に対して,作業参加と外出頻度や障害重症度,歩行能力,ストレス反応との関連を検討することであった.研究仮説に基づく構造方程式モデリングでの検証の結果,障害の重さは作業参加に抑制的に働き,作業参加は外出頻度を促し,ストレス反応を抑制する効果があった.また,歩行能力は外出頻度を促す働きがあった.作業療法士は,クライエントの障害重症度に配慮しながら,本人にとって大切な活動への関わりを改善することで,社会参加の充実や精神的に安定した生活に結びつける支援が行えると考えられた.
著者
矢吹 朗彦
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.735, 1999-05-10

単純子宮全摘において,肥大した子宮腟部を正確に摘出することは案外難しい.例えば側方をかじるように取ってしまうとか,逆に傍腟結合織内に深く入り込んで,腟と傍腟結合織の切断端が離れ,出血が心配されるなどはよく経験することである. 切離がうまくいかない最大の理由は,仙骨子宮・膀胱子宮靱帯を一括挟鉗,切離することが困難なためである.しかし,仙骨子宮靱帯と膀胱子宮靱帯を別々に切離すると腟断端と靱帯が離れてしまい,その間からの不愉快な出血に遭遇することがままある.
著者
北村 新 宮本 礼子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.392-402, 2018-08-15

要旨:日本の作業療法領域におけるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,GTA)による研究の現状と課題を文献検索で検討した.使用されているGTAの種類の調査,内容分析による研究目的の分類,Consolidated Criteria for Reporting Qualitative Research(COREQ)を使用した報告内容の分析を行った.2001年から2016年にかけて33文献が検索され,GTAの種類は,修正版が21件と最も多かった.研究目的は8カテゴリーに分類され,クライエントやその周囲の人の思い・経験に焦点を当てたものや,家族や他職種との社会的相互作用が挙げられた.報告内容の分析から,研究結果の信憑性や正確性に関わる複数の記載不足が,研究の質を高めるうえでの課題であった.
著者
塩津 裕康
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.81-88, 2017-02-15

要旨:脳卒中を呈したクライエントに対して,Cognitive Oriented to daily Occupational Performance(CO-OP)を基盤とした訪問作業療法を実施した.この実践では,自身の目標であった調理などの作業を,問題が生じない方法を自ら考えながら練習することで,それらの技能も獲得できた.この経験を牡蠣養殖の仕事といった他の作業へ応用することにより,その技能を獲得することができた.在宅における自立支援を考えた際に,自ら問題に気づき対処する方策を獲得することは非常に重要であり,本実践の有用性が示唆された.加えて,一連の技能獲得に麻痺手を有効活用するなどの計画を立てたことで,麻痺側の上肢使用頻度が向上し機能も回復した.
著者
澤田 辰徳 建木 健 藤田 さより 小川 真寛
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.167-178, 2011-04-15

要旨:本研究は,「作業療法」と「リハビリテーション」に対する一般市民の認知度を調査することを目的とした.2つの言葉に対する街頭アンケートを4都道府県で行った結果,542人からのデータが得られた.得られたデータはテキストマイニング手法により分析し,クラスター解析を行った.2つの言葉は各11のカテゴリーに分類された.「リハビリテーション」の構成要素は機能回復に関連しているものが多かった.「作業療法」は抽象的な内容やわからないというものが混在していた.これらのことから,一般市民にリハビリテーションという言葉は認識されつつあるが,作業療法という言葉そのものや,作業療法の内容に関する認識は低いことが示唆された.
著者
岡田 靖雄
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.657-660, 1998-06-15

■島村俊一の狐憑病調査 憑きものに関心をもつものにとって,本誌の「シリーズ・日本各地の憑依現象」はありがたい。その第2回「山陰地方の狐憑き」3)は島村による現地調査にふれていないので,『東京医学会雑誌』の第6巻(1892年)から第7巻に8回にわたり連載された「島根県下狐憑病取調報告」8)の内容を紹介したい。 島村は1891年(明治24年)7月8日に出張を命じられて14日に東京を出発。尾道で1名の狐憑病患者をみ,23日松江着。出雲・石見・隠岐の3国をめぐり啓蒙講演もし,8月29日に松江をたって9月2日帰京。その間に人狐憑き29名(男9,女20),犬神憑き(外道憑き)2名(男女各1),狸憑き1名(男),野狐憑き2名(男)の計34名をみた。名称はちがっても同病なので狐憑きと概称すると島村はいう。診断は錯迷狂〔パラノイア〕4,躁狂4,ヒステリー狂およびヒステリー15,酒精中毒症3,続発痴狂1,老人痴狂1,マラリアおよびチフス3,関節炎1,肺癆1,卵巣のう腫1。狐憑きとされた状態像は,躁状8,錯迷5,熱性譫妄5,ヒステリー発作15,腫物1である。患者が狐憑きとみとめられたのは,責めをうけたのちに自白してが10名,他よりただちに狐憑きと目されたのが24名である。
著者
梅林 大督 原 政人 橋本 直哉
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.985-991, 2018-11-25

はじめに Augmented reality(AR)とは,現実環境において視覚・聴覚などの知覚に与えられる情報をコンピュータ処理により追加,削減,変化させる技術である5,11).コンピュータ上で作成した仮想画像,映像,音声などを現実世界に反映する技術を示す.すでにわれわれの生活に広く浸透しており,スマートフォンやカーナビゲーションなどに用いられている.カーナビゲーションの実際を図示する(図1).カーナビゲーションは古典的には紙媒体の地図を読むことからはじまる.その後,ディスプレイの地図上に矢印を走らせることで経路を確認するナビゲーションが一般化された.これに対してARカーナビゲーションでは,ディスプレイの代わりにフロントガラスなどへ映像を投影して現実空間と融合させる手法が利用される.位置情報に付帯する情報を,ナビゲーションシステムを用いてフロントガラスに投影して現実視野と融合させたもの,これがARカーナビゲーションである.このナビゲーションシステムは自動車だけでなく,手術におけるナビゲーションにも有用であり応用されてきた.本稿では,AR技術の脊椎手術への応用の実際について紹介する.
著者
平井 覚
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.45-55, 2019-01-15

はじめに 医療機関における転倒・転落はインシデント報告のなかでも頻度が高く,日本医療機能評価機構医療事故防止事業部1)の報告では2015年に発生した医療事故3,654件中,転倒・転落事故は793件(21.7%)である.そのうち影響度分類レベル3b以上となる例は10%(2.1%が死亡,7.9%が障害残存の可能性が高い)を占め,入院期間の延長に加え,入院に至った原因疾患よりもさらに深刻な状況に陥る可能性もある. 松山市民病院(以下,当院)での転倒予防対策は2004年から「職種横断・多職種で取り組む」ということをテーマに活動を展開してきた.入院から退院まで患者・家族そして病院にも不利益が生じないよう病院全体で取り組むという姿勢が対策の基本理念である.ただし,対策を展開していくのに最も問題になるのが転倒・転落事故に対する職種間の意識の温度差である. 病院内で起こる転倒・転落事故の約80%は病棟(病室,廊下,トイレ)で発生する.したがって初動対応を行うのはほとんどが看護師であり,それに対する危機意識が高いのも事実である.理学療法士は院内で直接患者の転倒・転落事故に遭遇する機会が少ない.日々の業務で,患者の療養生活における転倒へのリスク回避へ強い危機意識をもって業務にあたる理学療法士がどれほどいるであろうか.理学療法士は,病院組織のなかで動く医療技術スタッフとして,患者の低下した身体運動機能を可能な限り改善することを業としている.患者の入院生活上の移動能力にも視点を置き活動度の判断を病棟スタッフと協議・判断していくこと,またチームとして転倒予防対策に寄与できることが特に望まれていることではないだろうか. 本稿では患者の安全を各職種の専門性を超えて包括的に考慮し,チームとしての行動に反映できる理学療法士像について筆者自身の経験を通しての知見を述べたい.

1 0 0 0 肩甲骨骨折

著者
松村 昇
出版者
金原出版
雑誌
整形・災害外科 (ISSN:03874095)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1331-1337, 2017-09-01

肩甲骨骨折は比較的まれな外傷であるが,大部分は多発外傷を合併する。肩甲骨は周囲を筋組織に包まれているため,骨折が生じた場合でも比較的安定性が保たれる。また豊富な血流により骨癒合も良好であることから,骨折例の多くは保存的に加療され,おおむね良好な治療成績が期待できる。一方で骨折部位や転位の有無により臨床症状は異なる。肩峰骨折のうち遠位骨片が下方へ偏位もしくは転位した症例では,術後の偽関節や変形癒合により二次性の肩峰下インピンジメントを生じる可能性がある。烏口鎖骨靱帯より近位での烏口突起骨折は肩鎖関節部の不安定性を生じることが多い。肩甲骨体部骨折後に変形が残存すると,肩甲胸郭関節が不適合となり肩甲帯の易疲労感や怠感,筋力低下が残存することがある。肩甲帯部複合損傷では不安定性により肩甲帯機能低下につながる。これらの症例では観血的手術も選択肢の一つとなる。
著者
野辺地 郁子 松川 るみ 永井 堅 永井 宏
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1434-1437, 2002-12-10

はじめに 近代の医療進歩は目覚しく,日々刻々と発展し続けている.周産期医療においても同様であり,周産期死亡率の低下は,医療技術の発展により,より安全に分娩を迎えることができていることを証明している.これに伴い最近,妊産婦自身の分娩に対するニードも高まり,分娩の安全性のみでなく,満足度や快適性を求める妊産婦が増えてきているのが現状である. 近年では,フリースタイル分娩という考え方が医療従事者のみならず,妊産婦のなかでも定着しつつある.しかしフリースタイルバースとの表現は日本のバースエデュケーターによる国産英語で,外国の文献などによると分娩体位の自由に関してはfree positionが一般的であるが,分娩時の行動を合わせてフリースタイルと表現しているものと思われる.すなわち,陣痛時から分娩時に至るまで産婦の好む体位で自由に動き出産を迎えることである.このため,産婦は自分の意思が尊重され,自分も分娩に参加したという意識を高めることができる.産婦が自分自身の分娩を知り,分娩中の不快や苦痛を上手く緩和することにより,身体的にも精神的にもリラックスへとつながる.リラックスは分娩の進行に対してとても大切な要素であるといえる.当院では座(坐)位分娩を中心とした分娩管理を行っている.そこで,いわゆるフリースタイル分娩をからめて当院の分娩管理について述べたい.
著者
古野 真実子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
2019-10-10

はじめに 取り組みの背景 静岡県伊豆の国市は伊豆半島の付け根に位置している(図1)。2019年4月1日現在,高齢化率:32.6%(地区幅:25.5〜52.6%),65歳以上ひとり暮らし世帯率:18.2%,高齢者のみ世帯率:31.5%,高齢者に占める要介護認定率:13.9%で,65歳以上の12人に1人は認知症(介護認定を受けて把握している者のみ)である。 また,1つの市とはいえ,市街地・中山間地・山間地と区分けられ,人口・産業・移動問題と地域課題が地区により分化されている特徴がある。そのため,地区課題は市内51地区(住民自治組織単位)により全く異なり,個別性を持った対策が各地区単位で必要となっている。 静岡県伊豆の国市では,地域コミュニティ再生のきっかけとして,市内に「手づくりベンチ」を設置するベンチプロジェクトを進めてきた。「地域の見守りの目の発掘」やベンチの製作者と活用者との出会い・交流も意図したこの取り組みを紹介する。
著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.897-905, 2018-08-01

はじめに酸素はヒトの生命維持に必須な分子である。もう少し細かく述べると,酸素はヒトの細胞のアデノシン三リン酸(ATP)産生に必須な分子である。酸素が欠乏するとエネルギーが不足し,生体機能の維持ができなくなる。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化,つまり電子伝達系に共役して起こる一連のATP合成反応において,酸素は電子の最終的な受容体として機能しており,酸素が不足すると,NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFADH(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)といった一連の補酵素の酸化と,酸素分子の水分子への還元反応が立ち行かなくなる。その持続的な欠乏は,生体機能の失調を経て個体の死に至る。これが,古典的な酸素観である。 しかし,このような古典的な酸素観は,ここ20年ほどの研究により見直しが進んでいる。哺乳類をはじめとする高等生物は,酸素が生命維持に必須な分子であるのに,その酸素を体内で生合成する仕組みをもたない。高等生物を構成する多臓器は常に「酸素不足」のリスクに曝されており,それ故,生体は低酸素に応答する仕組みを進化的に獲得してきた,とする考え方が支配的になってきている。
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.718, 2017-05-15

「水族館にいる魚には白内障が多い」ことを,ずっと以前この欄に書いた。仙台で学会があったときの経験からである。 たまたまこの話を思い出して,急に気になった。「なぜ?」という疑問からである。
著者
古川 誠志 斉藤 仲道 丸山 義隆 小田 東太
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.1091-1094, 1996-08-10

薬剤性膵炎のなかでエストロゲン製剤の占める割合は約5%であり,また高脂血症が膵炎に合併する頻度は4〜53%と報告されている.なかでもIV型高脂血症の患者にエストロゲン製剤投与後に急性膵炎を発症している報告が多い1).近年トリグリセライドと凝固線溶系,動脈硬化との関係やエストロゲン投与がもたらす血清脂質変化が明らかにされた.本症例は高トリグリセライド血症の患者に起きたエストロゲン誘発性急性膵炎であるが,エストロゲン,高トリグリセライド血症.膵炎の関係を考えるうえで興味ある症例と思われた.また本例を通じて,エストロゲン製剤を多用する産婦人科領域でもその適切な使用と代謝に及ぼす影響についての調査の必要性を感じた.
著者
泉家 康宏
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.392-393, 2016-10-15

近年,骨格筋は単なる運動器ではなく,様々な生理活性物質—いわゆるマイオカイン—を分泌する内分泌臓器として働くことが明らかとなってきた。このようなマイオカインの発現プロファイルは,有酸素運動とレジスタンス運動で異なることがわかってきた。マイオカインを介した臓器間ネットワークの解明は,運動療法の臨床的有用性の分子機序解明のみならず,新規バイオマーカーや治療標的の同定につながる可能性があると考えられる。
著者
作見 邦彦 土本 大介 中別府 雄作
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
細胞工学 (ISSN:02873796)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.175-180, 2012-01-22

細胞内で最も豊富なヌクレオチドはATPである.ATPはRNAポリメラーゼの基質として利用されるだけでなく,エネルギーの貯蔵と伝達,シグナル伝達のメディエーター分子,リン酸基供与体,補酵素など様々な細胞機能に必須の分子である.細胞が活性酸素(ROS)や活性窒素(RNS)による様々なストレスに曝されるとヌクレオチドは酸化や脱アミノ化,ハロゲン化など多様な化学修飾を受けることが知られている.通常,ATPの脱アミノ化で生成されるイノシン三リン酸(ITP)は正常な細胞内ではまったく検出されない.しかし,ITPをイノシン一リン酸(IMP)に分解するイノシン三リン酸分解酵素(ITPase)を欠損したマウスの解析から,ITPとdATPの脱アミノ化体であるデオキシイノシン三リン酸(dITP)は常に生体内で生成されており,ITPaseによって分解されないと,心機能不全や細胞増殖阻害など様々な生体障害の原因となることが明らかになってきた.生体内におけるATPやdATPの脱アミノ化反応は,一酸化窒素(NO)由来の無水亜硝酸(N2O3)によるアデニン塩基のN6位のニトロソ化を介して起こると考えられる.
著者
竹田 里江 山下 聖子 宮田 友樹 竹田 和良 池田 望 松山 清治 船橋 新太郎
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.384-393, 2016-08-15

要旨:日常生活場面を取り入れ,個人の興味・関心に配慮したワーキングメモリ課題を開発し,保続性の反応を呈する統合失調症患者に実施した.その結果,保続性の反応が改善し,BACS-Jのワーキングメモリ,運動機能,遂行機能の改善を認めた.また,意欲や活力,心の健康の改善が得られた.これらの結果は2回目介入時に再現性を認めた.本課題は,実生活の一場面をモデルに,思考・計画・判断・意思決定をするという特徴をもち,個人の興味・関心や遂行能力にテーラーメイドできる.興味・関心に配慮することは,課題に対する注意集中,記憶,思考,選択のしやすさに繋がり,潜在能力を喚起し,認知機能や意欲の改善に寄与することが示唆された.