著者
渡辺 達三
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.193-208, 1992-12-25

松平定信は致仕後,自らを楽翁と号し浴恩園の整備を進め,そこにハスの品種を多数集め,それを観賞し,蓮譜『清香譜』を完成させている。それまでは,ハスの品種観念も曖昧で,品種数も数種とり上げられているたすぎなかったが,『清香譜』では九十余種記載されていたといわれ,蓮譜史上,画期的な意義を有する。しかし,その『清香譜』は戦後,散逸し,その実像は明らかでない。また,翁のハスの観賞についても,その実態についてはほとんど知られていない。そこで,本稿では,楽翁のハスの観賞の態度・あり様について,また,その大きな事績である『清香譜』について考察するものである。
著者
張 宇飛
出版者
佛教大学中国言語文化研究会
雑誌
中国言語文化研究 (ISSN:13466305)
巻号頁・発行日
no.19, pp.33-49, 2019-08-01

小論は明治期におけるロシア作家コロレンコの受容を整理し、小山内薫が雑誌『新小説』で発表した評論「露国の小説家ウラヂミール・カラレンコ」が魯迅の「摩羅詩力説」のもう一つ材源であることを明らかにするものである。小山内薫のこの文章は明治期におけるコロレンコを最も全面的に紹介した文章である。この文章の中で、コロレンコの小説「末光」についての紹介はちょうど魯迅の「摩羅詩力説」の結論部分が参照した内容である。この材源の発見は留日期の魯迅が明治期の刊行物の外国文学の評論や翻訳を通し、自らのテキストに引用したことを呈して、「魯迅とコロレンコの関係」という課題の研究、ひいては留日期の魯迅と外国文学、とりわけロシア文学の受容という研究に資するものであると考える。魯迅コロレンコ「摩羅詩力説」小山内薫明治日本
著者
森下 翔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.449-469, 2014

本論の目的は科学実践における存在者の「実在性(reality)」について、人類学的な考察を試みることである。科学が歴史主義的・実践論的に理解されるようになって以来、私たちの持つ科学のイメージは大きく変化してきた。本論は科学実践における実在性をめぐる議論について、近年の実践論的科学論が科学実践における実在性の概念を局所化・歴史化したことを評価しつつ、そのプロセスを「表現と物質性の接続」というスキームへと還元してきたことを批判する。本論では地球物理学の一分野である測地学における「観測」と「モデリング」の実践について記述することを通じて、「観測網」や「図」などの具体的な構成要素と密接に結びついた-「表現」や「物質性」に還元される手前に存在する-存在者のさまざまな実在化の様態を示す。考察では「実在化のモード」という概念の導入を通じてこれらの様態の関係を考察し、実践における存在者の実在形態の多様性を分析する方途を模索する。
著者
金 延景
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

新宿区大久保には,韓国人ニューカマーの集中居住地区であると同時に,商業業務中心地区としての性格を強く帯びたコリアタウンが形成されており,エスニック景観が顕著にあらわれている.本研究では,大久保コリアタウンの形成過程とその変容を明らかにすることを目的としている.<br> 韓国系施設は1990年代から2000年代初頭にかけて主に職安通りを中心に分布し,段階的に裏通りから表通りへ,2階以上から1階へ拡散しながら,ハングルの看板や広告を中心としたエスニック景観を形成し始めた.当時のコリアタウンでは,韓国食料品店,韓国料理店,ビデオレンタル店,不動産,美容室,教会や寺など韓国人ニューカマーに向けた韓国現地の商品や情報,そして日本の生活に必要なサービスやコミュニティを提供する場として機能していた.<br> そして,2003年ドラマを中心とした第1次韓流ブームにより,日本人観光客が急増したことで,コリアタウンは大久保通りへ拡散し,2005年頃にはコリアタウンのメイン通りとされた職安通りよりも大久保通りの方に多くの韓国料理店や韓流グッズ店が出店されるようになった.2009年のK-POPを中心とした第2次韓流ブームにより,大久保コリアタウンは一層拡大し,裏通りや2階以上へ再び拡散する一方,「イケメン通り」への出店が顕著にみられた.エスニック景観は,ハングルから日本語に変わり,韓流スターのサインやポスターを飾り,スクリーンやスピーカーを設置して映像や音楽を流すなど韓流スターを媒介としたエスニック景観へ変化した.<br> こうしたコリアタウンの変化には,第2次韓流ブームの他,2008年のリーマンショック以降,円安・ウォン高により日本人の間でブームとなった韓国旅行が影響している.2008年から2009年にかけては,一時期,大久保では比較的売り上げや客数減っていたことから,韓国の観光名所である明洞で日本人顧客が求めていた商品やメニューが積極的に投入されたとみられる.&nbsp;
著者
青木 健
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.25-47, 2005-06-30

本稿の目的は、古代のパフラヴィー語文献資料と、現代イランの現地調査を総合して、ゾロアスター教における聖地の概念を明確にすることにある。先ず、文献資料から、古代ゾロアスター教の聖地は、(1)「移動・純粋聖火型」と(2)「定着・他信仰融合型」に分類できることが指摘される。しかし、それぞれのケースは、ゾロアスター教史上、謎めいた展開を遂げている。次に、イランの現地調査から、現代ゾロアスター教の聖地は、(1)「神官レベルでの聖地」と(2)「平信徒レベルでの聖地」に分類できることが指摘される。そして、これらの各聖地は、古代の(1)、(2)と密接な関係があると類推された。ここに、古代の文献データと現代の現地調査データをリンクさせる根拠がある。その結果、(1)系の聖地は、ゾロアスター教の教義に忠実だが、神官団だけの占有物であり、(2)系の聖地は、イランの民間信仰に聖火を被せたものであることが立証された。古代から現代に至るまで、ゾロアスター教の聖地は大きくこの二系統で構成されているのである。