著者
辻 孝
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年度は、細胞操作による歯の形態制御に向けて、上皮・間葉細胞層の接触面積によって再生歯の歯冠の幅と咬頭の数を制御可能であることを示した。平成21年度では、歯の大きさの決定に関わる分子の検索を進め、sonic hedgehogの発現領域と歯冠の幅が相関していることを見出し、歯の形態形成制御において当該分子が制御に関わる可能性を示した(投稿準備中)。さらに平成21年度は、歯の形態形成に関わる遺伝子の機能を利用して再生歯の形態制御の技術開発を目的として、形態制御に密接にかかわる遺伝子の探索を行った。胎齢11-18日の歯胚を用いてAgilent Whole Mouse Genomeアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイル解析を行ない、対象となる41,252遺伝子から、歯の誘導と初期発生時期であるPlacode期またはCap期で高発現であり、かつ歯胚発生への関与が知られていない185遺伝子を選出した。再生歯の形態制御に関与する候補遺伝子を解析するため、これらの遺伝子群についてCap期の臼歯歯胚における遺伝子発現をin situ hybridization法で解析した。その結果、歯の形態形成を制御しているCap期のエナメルノットで発現する5遺伝子、歯胚の大きさを決定すると考えられている陥入した上皮で発現する10遺伝子、歯種ごとの形態を制御しているCap期の間葉で発現する6遺伝子、咬頭形成を制御すると考えらえているEarly bell期のエナメルノットで発現する6遺伝子を見出し、歯の形態形成に関与する可能性のある新規30遺伝子を同定した。以上の成果より、本研究課題において歯の形態を制御する細胞操作技術を開発できたと共に、新規遺伝子の機能解析を進めることにより、形態形成制御遺伝子の応用による再生歯の形態制御技術の開発が期待される。
著者
藤井 雅寛
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病の原因ウイルスである。一方で、近縁ウイルスHTLV-2の白血病発症への関与を示す結果は得られていない。このHTLV-1とHTLV-2の病原性の違いに、それぞれのトランスフォーミング蛋白Tax1とTax2が深く関与していることを、我々は報告してきた。この違いの分子機構について以下の新たな成果を見出した。1、Tax1はマウスのT細胞株(CTLL-2)の細胞増殖をIL-2依存性から非依存性にトランスフォームするが、この活性はTax2よりも著名に亢進し、この活性の違いに、Tax1のみが持つPDZドメイン結合配列(PBM)が必須である。ヒトパピローマウイルス(HPV)も子宮頚がんに関与する悪性型と関与しない良性型サブタイプに分けられるが、悪性型HPVのトランスフォーミング蛋白E6のみがPBMを持つ。Tax1からPBMを欠損したTax1変異体のトランスフォーミング活性は、E6のPBMを付加することによって野生型Tax1と同程度まで回復した。Tax1はPDZドメインを持つがん抑制遺伝子Dlg1ならびにScribbleとPBMを介して結合したが、同程度の結合がHPV由来のPBMを付加したTax1変異体においても観察された。これらの結果はTax1によるがん抑制遺伝子Dlg1とScribbleの不活化がトランスフォメーションに関与することを示唆するとともに、これらのがん抑制遺伝子が複数の発がんウイルスの病原性に関与する共通な標的分子である可能性を示す。2、NF-kB2がTax1とTax2のトランスフォーミング活性の違いに関与することを報告している。この違いにJax1のアミノ酸225-243の領域が関与することを明らかにした。この領域はHTLV-1とSTLV-1(サルT細胞白血病ウイルス1型)のTax1では極めて高く保存されていたが、HTLV-2とSTLV-2のTax2においては保存されていなかった。これらの結果は、この領域が病原性に深く関与することを示唆する。
著者
大池 真知子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題は、社会運動における小説の働きを、アフリカのHIV/エイズをめぐる社会運動を例に考察した。アフリカのHIV/エイズのキャンペーンでは、映画、演劇、テレビ・ラジオ・ドラマといった視聴覚を使う物語芸術が応用されている。これらは受け手の五感に作用して、主人公との一体化をもたらし、HIV/エイズ問題にたいする共感的な態度を熟成する。それに対し小説は、社会の異性愛主義言説を主人公が内面化していく過程を批判的に表象する。読み手は距離をもってその過程を追体験し、分析的かつ情緒的にエイズ問題を認識する。視聴覚に訴える映画等と言語のみを用いる小説という両物語芸術は、HIV/エイズの社会運動において補完的な働きをしている。
著者
中山 文 成田 静香 野村 鮎子 濱田 麻矢 西川 真子 松尾 肇子 林 香奈
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究の目的は、現代中国の中国文化(文学・演劇・映画など)に表れたジェンダーを明らかにすること、および文化の根底にある中国人のジェンダー観念を歴史的に考察することであった。我々は、平成15年度〜16年度(2003年4月〜2006年3月)にかけて、これをテーマとする研究会を計22回開催し、平均して毎回14〜15名の参加者を得た。2004年3月7日の国際シンポジウム「中国演劇におけるジェンダーの表象」では、パネリストとして、中国から中国の女性演劇である越劇の監督である楊小青氏、中国戯劇家協会の重鎮で『中国戯劇』の副主編である黎継徳氏を迎え、日本側からは中山文(神戸学院大学)、伊藤茂氏(神戸学院大学)、細井尚子氏(立教大学)が加わり、中国の越劇と日本の宝塚との比較やジェンダーの表象について討論した。また、2005年6月25日〜26日には、日中の女性演劇の比較をテーマとする国際シンポジウム「男らしさ・女らしさの作り方-越劇と宝塚」を開催した。宝塚からは、草野旦氏(演出家)・磯野千尋氏(宝塚歌劇団専科、男役)・一原けい氏(宝塚歌劇団専科、女役)、越劇(中国の女性演劇)からは、楊小青氏(演出家)・陳雪薄氏(杭州越劇院、男役)・周俊氏(杭州越劇院花旦、女役)を迎え、実演を交えて、一般にも広く公開した。このほか、研究会では、中国のジェンダーを歴史的に考察するための入門書『中国女性史入門-女たちの今と昔』(人文書院2005年3月)を編纂・出版した。この書は、中国女性の歴史を、婚姻生育・教育・女性運動・労働・身体・文芸・政治ヒエラルキー・信仰の8つのテーマに分けて解説したもので、すでに書評などで高い評価を得ている。
著者
石神 健
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

新規薬剤となりうる天然生理活性物質の立体化学決定を目的に合成研究を行った。抗ピロリ菌活性を有するサンタロール型セスキテルペン類に関しては、タンデム型ラジカル環化反応による効率的構築法を確立した。抗腫瘍剤Topsentolide類に関しては、全立体異性体を合成し、絶対立体配置の決定と生物評価を行った。抗真菌剤Majusculoicacidの合成に関しては、キラルビルディングブロック新規構築法を確立した。
著者
湯川 和典 吉田 謙二 竹内 典子
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

セマフォリン受容体のplexin-A1を欠損するマウスは、精神疾患で異常となる驚愕反射のプレパルス抑制(PPI)試験において、14週齢以上のマウスで障害が顕著となった。また自発活動量増加と毛繕い行動亢進、加齢進行性のミクログリア過剰活性化と脱髄所見を認めた。したがってplexin-A1欠損マウスは、ミクログリア関与の示唆はあるが未だ本態不明の精神疾患の発症機構解明に繋がる新規知見を得るための有用なモデルと判明した。
著者
若林 芳樹 岡本 耕平 今井 修 山下 潤 大西 宏治 西村 雄一郎 池口 明子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は,日本で本格的にPPGIS(参加型GIS)を実践していくための方法論的基礎を確立することを目的として,内外での既存の実践例を調査した上で,日本の実情に即したPPGIS の応用の仕方を検討した。研究にあたっては,課題を次の四つのサブテーマに分けて取り組んだ:(1) PPGISの理論的・方法論的枠組み(2) PPGIS のための技術開発(3) PPGIS の実践例の調査(4) PPGISの実践的応用。
著者
藤谷 泰
出版者
京都府立久御山高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

報告者はこれまでに高等学校で「DNA塩基配列を用いた植物の同定と進化の解明」という授業を実施してきた。この授業では、植物のDNAの抽出から遺伝子の増幅、その塩基配列の決定から分子系統樹の作成を主眼としつつ、植物の観察同定、実体顕微鏡下での外部形態の観察を加えた内容を実施してきた。この授業の中で最大の課題は、「PCR増幅をいかに成功させるか」であった。授業を円滑に実施し、生徒に大きな達成感を抱かせるには、何としても生徒がサンプルにした植物の塩基配列の解読に成功する必要がある。これまでの経験上、PCRに成功しなかったサンプルは、ターゲットにしている遺伝子を内部プライマーを用いて2分割してPCR増幅させるとうまくいく場合が多かった。塩基配列が短いほどPCRが成功する確率が飛躍的に増大するようだ。そこで本研究では、植物系統分類学で用いられる遺伝子の汎用内部プライマーを開発することを目的とした。(1) プライマー設計の対象とする遺伝子は、植物系統群類学で用いるrbcLをターゲットとした。設計はprimer3 plusを使用して行なった。(2) 最初に設計したのは、過去の取り組みの中でrbcLを2分割してシーケンスしてきたが、2分割のつなぎ合わせの部分が読み取りにくい場合が多かったので、その部分をカバーするプライマーの設計を行なった。(3) 次に、rbcLは1400塩基程度なのでこれを4~6分割して読み取りができるようにプライマーを設計した。(4) 過去の実験でPCR増幅に成功してきているDNA抽出サンプル16種類(シダ、裸子、被子植物)を用いて、設計したプライマーのPCR成功率をスクリーニングした。(5) 成功率の高いプライマーを用いて、これまでのプライマーではPCR増幅ができなかったサンプルのPCR増幅を行なった。以上の結果、すべての植物に対応できるプライマーの開発はできなかったが、設計したプライマーを用いてPCR増幅を数種類テストすれば、これまで解読できなかったサンプルについても、解読できることがわかった。今後、このプライマーを用いて標本庫等の古いサンプル等にも適用して、実用化を検討する予定である。
著者
堀 準一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

既2年度に得られた、アンケート調査、咬合圧力結果に加え最終年度は、マウスガード装着有無による発声分析の資料収集分析を行った。これら得られた資料のまとめを行った。本研究の目的が、コンタクトスポーツにおけるマウスガードの必要性をその機能から確認することと従来多用されている既製品の歯科学的問題点を明らかにし、本来あるべき専門家(スポーツデンティスト)によるカスタムメイドマウスガードの必要性を検討することである。検討結果から、既製品の問題点として、従来の報告で示されている違和感と話しづらいの2項目が確認された。また、マウスガードの主な役割である異常な外力に対する衝撃減衰能についても、既製品のパンフレットに示されている製作方法に従うと、咬合接触点が不安定で、接触歯に非装着時より大きな力が加わり、ガードの役割をしていないことが明らかにされた。加えて、咬合圧力がある限られた領域に集中するため、マウスガードの破壊につながりやすいことも示された。発声については、一律の設計では、発声に大きな問題を訴える者も多く、すべての者が、後舌母音ならびに前舌母音の両関連音に問題を認め、アンケートによる問題点を明瞭に裏付ける結果を得た。これらを改善し、違和感のないマウスガードにて、マウスガードへの抵抗をなくしいままで以上に普及の計るには、カスタムメイドの必要性が明確且つ具体的に示されるとともに、カスタムメイドマウスガードの製作にあたり、設計において、個人的な要望を満たす学問的裏付けとなる検討の必要性も示された。
著者
平田 純一 近藤 宏一 木下 明浩 斉藤 雅通 山崎 正史 塚口 博司 春名 攻 土居 靖範 平井 孝治
出版者
立命館大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

本地域連携研究は,京都府,滋賀県,京都市を対象地域とし,対応する行政機関との連携をはかりつつ研究活動を継続してきた.研究期間内に大規模小売店舗法から大規模小売店舗立地法へと大規模小売店舗の主点調整に対する枠組みの変更もあり,現在ではいわゆるまち作り3法(改正都市計画法,改正建設基本法,大規模小売店舗立地法)によるまち作りとあわせた大規模小売店舗の立地調整が基本となってきた.こうした商業活動を巡る環境の変化と併せて研究期間内には商業活動自身にも大きな変化が発生した.複数の大規模小売業が破綻または大規模なリストラを行う必要が発生した.こうした商業活動を巡る大きな変化を目の当たりにしつつ,本研究プロジェクトでは,対象地域の各自治体における商業調整方法の変化や中心市街地活性化計画等の説明を受けつつ,大学の研究者が独自の研究計画に従った,研究を進め相互交流を図った.研究成果はいくつかに分類することができるし,今回の研究成果のすべてを研究報告書に取り入れることはできなかったが,今後個人ベースで今回の研究成果をより精査することと併せて,学内で研究グループを維持し,行政の担当者との交流を含めて来年度の研究成果の本格的なとりまとめを行うことを予定しており,学内的な予算措置も講じた.本研究では,京都府,滋賀県,京都市における商業活動状況の特性を明らかにすることを目指して,商業統計データの詳細な分析により,地域間の商業活動の比較分析を行った上で,京都府下および滋賀県内における具体的な研究対象地域を設定し,ここにおいて各種の調査を行った上で,これらの地域に対する具体的なまち作り計画を検討した.ここで対象とした地域は,京都府京都市伏見区の大手筋を中心とした商業地区と滋賀県草津市の中心市街地である.伏見地区では,TMOによる具体的な中心市街地活性化計画を策定中であり,これが完成した時点において,この地区がどのようになるのかを歴史的検討と併せて評価を行った.草津市後威信市街地では,大手スーパーSEIYUが撤退跡市を含む隣接地域の将来経計画が大きな課題となっており,これらを含めて検討を行った.こうした検討を行う上で,両地区の通行量調査,来街者調査,消費者の買い物動向調査を行い,これらの調査結果もとりまとめている.こうした調査は,これまで行政主体のものが多く,ここではこれらの内容にとらわれることなく,独自の調査を行った.
著者
鈴木 英之進 安藤 晋
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

多視点・多粒度型知識発見のためのデータマイニング手法として,データの重要部分を確率的クラスタリングにより要約し,情報量規準をもとに色相を割り振る方法を考案した.この方法は,医療検査データで有効性が示されたわれわれのプロトタイプラインの拡張となっている.この方法の有効性をテキスト画像データであるウェブページデータを対象として調べ,Googleに比較して再現率,適合率,および発見時間の全てにおいて優れていることを示した.この手法を改良・発展して最終手法とし,ウェブページデータやネットワーク侵入データなどに適用してその有効性を定量的に評価した.ウェブページデータを用いた実験は,多数のウェブページの内容をA4用紙1枚の表示結果から把握する課題について行った.一定時間に多数の質問を課す形式のため,評価指標としては被験者たちの正解数を採用し,Googleに比較して約35%増加することに成功した.画像やキーワードに関する個別処理は必要であるものの,知識発見のために適切な複数の視点と粒度で情報を可視化するという当初の目的を達成できたと考える.ネットワーク侵入データを用いた実験は,ウェブページへのアクセス履歴からの予測問題について行った.不正アクセス検知に関する再現率・適合率,珍しい不正アクセスの発見,可視化結果の見易さなどに関して良好な結果を得た.研究過程において,多目的型探索手法,情報量評価指標,および述語データ用クラスタリングなども開発してそれらの有効性を確認したその他,仏国カン大学と協力してアイテム集合トランザクションデータ可視化手法を開発し,良好な結果を得た.サッカーに代表される各種時空間データへの適用も進め,可視化と知識発見の両面で成果をあげた.
著者
松尾 哲矢
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の主な結果は以下の通りである.1.スポーツ競技者養成の《場》に着目し,学校運動部と民間スポーツクラブを自ら相対的自律性の獲得(正統性の獲得)のために独自に再生産戦略システムを有する《場》として捉え,それぞれ異なる《場》で養成された競技者の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相の差異を両下位《場》の教育戦略,象徴戦略の視点から分析することが目的であった.本研究の分析対象者は,全国上位の高校サッカー競技者で,中学校,高等学校を通して学校運動部に所属する194名と民間スポーツクラブに所属する78名であった.主な結果は,以下に示す通りである.1)学校運動部,民間スポーツクラブの両競技者ともに幼少期の相続的文化資本に差異はみられなかった.学校運動部および民間スポーツクラブの競技者間で現在の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相において差異がみられた.2)現在の身体化された文化資本(ハビトゥス)の様相の差異に関して,教育,象徴の各戦略の視点から検討され,特に民間スポーツクラブにおいて勝利志向の隠蔽のみならずその勝利志向を暗黙の内に前提化するようなハビトゥス形成に教育戦略や象徴戦略が巧妙に機能していることが示唆された.2.スポーツ競技者養成の下位《場》である民間スポーツクラブに着目し,指導者の有するスポーツ観,《場》に対する表象,親との関係性等から,スポーツ競技者養成の《場》の正統性をめぐる再生産戦略の諸相を教育戦略,象徴戦略,対人戦略という視点で明らかにするとともに,《場》の構造とハビトゥス形成のダイナミズムについて検討することが目的であった.本研究の分析対象者は,フルタイムの契約職員,専任職員,自営業主として勤務する民間スポーツクラブ指導者273名(サッカー83名,水泳111名,体操競技79名)であった.なお,比較分析のために,筆者が行った民間スポーツクラブ競技者の調査結果(2001)が必要に応じて用いられた.主な結果として,スポーツ観,《場》の表象において,指導者と競技者間で相同性が認められたが、競技者において,より限定的で強い意識や表象を有している場合がみられた.この両者間の相同性と異質性から,伝承の二重性のダイナミズムが示唆された.
著者
甲斐 健人
出版者
愛知教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は「底辺校」の運動部員が獲得する文化を通して学歴社会における学校文化を問い、「課外スポーツの経歴」と社会的再生産に関する基礎的知見を得ることにあった。申請者は一農業高校サッカー部を対象とし参与観察を行いながら事例研究を実施した。サッカー部員には積極的入部希望者と1年生は全員部活動に入らなければならないという校則に従った消極的入部者とがいた。実際に活動している人数は部員登録人数よりもはるかに少ない。アルバイト、友人や彼女との約束などの理由で部活動に参加しないのは「当然」であり、練習に何人の部員が参加するかを予測しにくい。さらに、農業高校のカリキュラム上、日常的に実習、当番などで時間を拘束されるために部活動運営はますます厳しい状況にある。彼らにとって部活動は空いた時間に行う「趣味」ともいえるだろう。このような状況においては予定された練習計画を十分に消化することは難しく、現実的には長期の練習計画は作成されていない。結果的には優秀な「スポーツの経歴」を獲得することは困難である。彼らの多くは中学時代の成績によって選別され農業高校に進学し、学校に対してあまり多くを期待していない。彼らの行動は各自がその時々で行動する必要性を感じるか否かによって決定され、校則などは実質的にはあまり意味をもたない。既に彼らは学校文化、学歴社会を相対化していた。その背後には家庭において学校で教えられる価値観とは違う価値観を身につけているなど、家庭の影響を指摘できる。3年生9名の進路は進学4名(短大2、専門学校2)、就職5名。両親の学歴、職業と彼らの進路を考えたとき「スポーツの経歴」が社会的再生産につながっている可能性が示唆された。
著者
佐久間 春夫
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、試合などでの比較的長時間の注意集中を求められるオープン・スキル系の選手を対象に、競争ストレス下での注意能力の変動について明らかにするとともに、競技パフォーマンス向上の為の注意メカニズムの検討とバイオフィードバック技法の方略を明らかにして随意的コントロールの可能性についての検討を行った。実験ではサッカー、ラクロスなどのオープン・スキル系種目の重要な要素とされている「息の合う」プレーを注意力を構成する一要素と捉え、協同作業における精神生理学的特徴について調べた。重回帰分析を行った結果、「息が合う」ことに影響を及ぼす要因として、息づかい、心拍数が見いだされた。この結果に基づき、注意力を維持する呼吸法についての検討を行った。呼吸法として、順腹式呼吸法、逆腹式呼吸法、太極拳式呼吸法を取り上げ、心拍数と脳波を基に調べた結果、逆腹式呼吸法と太極拳式呼吸法で、覚醒水準が保て、α波と負の相関が見いだされ、呼吸法と脳波のパターンを組み合わせたバイオフィードバック・システムの構築についての基礎的なデータを得た。次に、事象関連電位(CNV, PINV)を用い、競争ストレスによる注意機能の低下現象を明らかにした。特に、前頭部における低下を見いだせたことは、これまでの注意モデルに客観的な生理学的検証を示したといえる。さらに、触れることによる注意水準の維持を狙った健康運動を用い、情動や認知機能に及ぼす影響を調べた。認知機能の指標としてP300を用い、積極的な効果を検証すると共に、右半球の前頭部におけるα波の顕著な出現を見いだし、情動面の改善にも有効なことを見いだした。
著者
石川 国広
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、学校カリキュラムへのアドベンチャー教育導入の可能性を検討することである。ここでいうアドベンチャー教育とは、体験教育・体験学習をベースにしたPA(Project Adventure)のことを指し、体育学のみならず教育学や心理学の領域の理論や知見を統合した教育活動といえる。宮城県では、県教育庁が主導でMAP(みやぎアドベンチャープログラム)事業と銘打って、PAJ(Project Adventure Japan)の指導のもと、全県(仙台市を除く)をあげて学校教育に取り入れる方針で、平成11年度より動き出した。平成13年度は、前年度よりも小学校の指定校が6校増えて小・中・高校とも各7校となり、平成14年度の全学校への普及・展開に備えている。最終的には、小学校328校、中学校159校、高校85校の合計487校における全ての教育活動でのMAPを取り入れた実践と、全ての教員のMAPの理解が目標とされている。最終目標が高く、教育庁からのトップダウン形式での導入なので、現場の教員の戸惑いや不安、無関心も多く、指定校でも進行状況には格差があるのが現状である。問題点としては、講義や資料のみでは教員側の理解を深めることが出来ず、体験を積み重ねる必要があり、指導者養成に時間と労力がかなりかかる点。実践場面での難しさとしては、PAの理念やコンセプトを既存の授業等に織り込む点と、教案通りに授業が進行するとは限らず、学習者の状況や反応を見た上で、臨機応変にその場で教案を書き換える能力が教員に問われる点等があげられている。しかし、積極的で意欲的な教員が中心となって徐々に定着している例も見られ、成果も上がってきており、今後の展開が期待される。提言としては、学校の管理職や行政サイドのスタッフ自身がPAの理解と体験を深め、県教委やMAP事務局が推進のためのハブ組織として機能すること等があげられる。
著者
布施 晴美
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、双生児と母親との母子関係形成プロセスの特徴を明らかにすることを目的に、双生児育児中の母親を対象に双生児が生後1か月から18か月になるまでの期間に縦断的調査を実施した。双生児育児を始めた最初の1か月というのは母親にとって重要な時期であるが、母子の関係性を見る上で、3か月も注目すべき時期であることがわかった。双生児が3か月になる頃は育児に慣れる時期と考えられるが、この時期にうまく育児に取り組めているのか、母親が自信を喪失していないか、双生児をどのようにとらえているのかを確認する大切な時期であると考えられた。