- 著者
-
志田 未来
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.107, pp.5-26, 2020-11-30 (Released:2022-06-20)
- 参考文献数
- 20
本論の目的は,これまで逸脱集団として扱われてきた生徒の相互作用を詳細に描くことにより,逸脱研究に対して新たな視角を提示することにある。既存の逸脱研究は,生徒の相互作用を下位集団に限定してきた,生徒を下位文化に染まる受動的な存在だと仮定してきた,という2つの課題が残されていた。そこで本研究ではFurlong(1976)のインタラクション・セット概念を用いて彼らの学校経験について分析を行った。分析より以下が明らかになった。①ある生徒の行動によって,それまで逸脱することはなかった生徒たちの「適切なふるまい」が作り変えられたことが逸脱の契機となっていた。②彼らはインタラクション・セットへの参加者に応じて逸脱の強度を変え,その意味も変化していた。関係性のない教師には「消極的逸脱」を,関係性のある教師には「積極的逸脱」を行っており,後者は「コミュニケーション系逸脱」とも呼べる,教員との関係性構築のための代替手段の機能を有していた。③受験制度はインタラクション・セットに大きな影響を与える外圧であった。3年生になると,最小限の努力で入試を成功させるということが「状況の定義」を行う際の新たな判断基準に採用されていた。 以上より,彼らの相互作用の場は集団ではなく常に構築されるインタラクション・セットとして捉える必要があること,そして逸脱に対して彼らが持つ価値規範をも累積される相互作用の過程で常に創造し直されていることが明らかになった。