著者
池谷 のぞみ
出版者
東洋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

救急医療は119番通報にはじまって、それを受ける災害救急情報センターにおける救急管制員、現場に派遣される救急隊、医療機関における医師および看護婦をはじめとする医療スタッフなど、多様な領域の人々が分業を担うことによって、短い時間のなかで最適な治療を患者に施すことをめざしている協働作業である。そのためには、適切な情報環境の構築が常に重要な課題のひとつとなっている。今年度は大学病院における救急救命センターにおいてフィールドワークを行った。特に、救急車で運ばれる患者への対応をめぐる、医師および看護婦間の情報伝達と患者への実際の対応に焦点をあて、消防庁からのホットラインへの対応をはじめとして、それを受けた情報伝達、初療の場面から入院までを、研究者がその場にいあわせて録音および録画の技術で補いながら観察記録を行った。当該センターは大規模な改築工事を開始したところで、改築前と後でどのように一連の業務が変わったのか、そのメリット、デメリットを解析し、提言を行うことも求められているため、今後も引き続き同様のデータ収集を行っていく予定である。2001年7月に英国マンチェスターでは、すでに収集したデータをManchester Ethnography Groupで提示し、今後の進め方についてもアドバイスおよび意見交換を行った。さらに、同時期マンチェスターで開催されたIIEMCA(International Institute of Ethnomethodology and Conversation Analysis)主催の会議において、医師による患者に関する情報共有および治療方針の決定、ならびに教育の場として、毎朝行われるカンファレンスに関する研究した成果を発表し、一定の評価を受け、2003年に刊行予定の図書に収録されることになった。
著者
鈴木 康夫
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.香港(1999年)におけるウズラおよびニワトリからのインフルエンザウイルス分離株の一部は、ヘマグルチニン(HA)分子内アミノ酸226がトリ型からヒト型へ変異していることを見出した。この結果は、自然宿主カモのウイルスが家禽宿主に伝播し、流行している間に、宿主動物の受容体糖鎖による進化上の選択を受け、HA分子内のアミノ酸置換起こり、その置換がヒト型受容体認識特異性を持った場合、ブクを介さず直接ヒトへ伝播する可能性を見出した。2.発育鶏卵しょう尿膜中に、トリまたはヒトインフルエンザHAと特異的に結合するシアロ糖脂質を発見した。また、ヒト、トリ、ブタ、ウマウイルスのいずれにも強く結合できるシアロ糖脂質も見出した。後者は、ヒト、その他の動物インフルエンザウイルス共通の受容体であることが示された。その部分化学構造も明らかにした。3.ホンコン風邪(A/1968,H3N2)の原因ウイルスイラミニダーゼスパイク(NA)は、酸性pHに安定であり、トリウイルスNAの性質を持つことを発見した。また、1968年に発生したパンデミック株(H3N2)のN2は、1971年以降に出現した流行株H3N2のN2ではないことを見出した。4.インフルエンザウイルス感染を阻害する数種の新HA阻害剤を見出した(シアリルラクトサミン含有ポリグルタミン酸、HA3量体の受容体認識ポケットにはまる新規インフルエンザウイルス感染阻害物質、水棲バクテリアから見出した中性グリセロ糖脂質他)。また、グルコサミン6-硫酸および硫酸化スフィンゴ糖脂質(スルファチド)によるNAの阻害活性を見出した。
著者
森田 実穂 上村 博 藤澤 三佳 原田 憲一 土屋 和三 上村 博 藤澤 三佳 原田 憲一 土屋 和三
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

教育、福祉、医療の場における芸術の役割を探求した本研究成果として、学校教育における造形芸術教育環境の悪化がみられ、福祉、医療、精神医療においても、機能回復に重点をおいた造形活動が多い点を調査結果から導出した。それを改善する創造的で能動的、自由な自己表現を可能とする造形教育学習プログラムを、上記分野において、地域の市民への芸術普及活動、環境や自然科学との融合の観点も含めて開発し、実践をおこなった。
著者
松原 哲哉 原田 憲一 椎原 保 中路 正恒 上村 博 水野 哲雄 森田 実穂 曽和 治好 藤村 克裕 坂本 洋三 寺村 幸治
出版者
常磐大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

芸大と過疎地域の連携を目指す研究メンバーと芸大生が、地域の小中高生用の芸術系総合学習プログラムを作成するため、始原的な創造力を持つ「お窯」の制作やその実際的な活用を含む「ものづくり」の実践を京都市右京区の黒田村で展開。この試行をもとに、過疎地域の潜在的な価値を大学生と地元の子ども達が協働し、4種の「お窯」を使って再発見する「お窯プログラム」を開発。
著者
渡部 重十 小野 高幸 阿部 琢美 齋藤 昭則 大塚 雄一 山本 真行
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

スペースシャトル,宇宙ステーション,人工衛星が飛翔する高度100km以上の熱圏には,中性大気中に0.01%ほどのプラズマが混在している.プラズマは磁力線に束縛された運動をするため,中性大気とプラズマ間には無視できない運動量輸送が存在する.最近の衛星観測やモデリングは,中性大気の運動がプラズマの運動に強く依存していること,電磁場を介したプラズマの運動が中性大気の運動をコントロールしていること,熱圏中性大気の東向きスーパーローテーションがプラズマとの相互作用に起因している可能性があること,を明らかにした.しかし,中性大気とプラズマの運動を熱圏上部で同時に測定した例はない.平成19年9月2日19:25に宇宙航空研究開発機構/内之浦宇宙空間観測所からS520ロケットを打ち上げた.このロケットにリチウムガス放出装置とプラズマ・電磁場観測装置が搭載された.〜1000Kのリチウムガスを230km,190km,140km高度でロケットから放出した.リチウムガスによる太陽光の共鳴散乱を地上の多地点から観測し,上部熱圏風の高度分布を測定することに世界で初めて成功した.リチウムガスの拡散から大気温度と密度の高度分布を得ることにも成功した.中性大気の物理パラメータとロケットに搭載したプラズマ測定と比較することにより,中性大気とプラズマ間の相互作用過程を解明することが可能となる.本研究により,ロケットからのガス放出技術,高感度CCDカメラを用いた地上観測技術,画像解析による大気パラメータの導出技術,を確立することもできた.
著者
種村 正美
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

空間のある領域の中に多数の点(粒子と呼ぶ)が配置されているとき、粒子配置の統計的性質を特徴付けて配置データがもつ情報を適切に引き出し、当該分野で有用となる結論を導く手段を提供するのが「空間統計学」の重要な役割である。一方、与えられた配置図データ(粒子座標データ)にもとづいて観測領域を分割して得られるボロノイ・セルやデローネイ・セルの形状の統計分布から、空間データの性質を導き出す手法が「ボロノイ・デローネイ解析」である。しかし、従来は「ボロノイ・デローネイ解析」は「空間統計学」のいわば補助的手段にとどまっていた感がある。本研究計画はボロノイ・デローネイ解析を空間データに関する詳細な情報抽出の手段として、また多様な統計モデルの構築手段として利用することによって、空間統計学との融合を積極的に図ることを目標とした。ランダムな粒子配置の典型であるボアソン点過程に対するボロノイ・セルの統計分布の研究においては、4次元,5次元におけるボアソン・ボロノイ・セルの種々の特徴量に関する統計分布を精度良く求め、多変量の空間統計学へのプロトタイプを提出することができた。また大規模な時空間データのボロノイ・デローネイ分割計算も行った。このデータは国内の余震活動記録であって、緯度・経度・発生時刻の3次元データとなっている。データ数(粒子数)は560,000程度であり、この規模のデータの3次元ポロノイ・デローネイ分割を行うため、統計数理研究所のスーパーコンピュータ・システムAItixと本研究計画で導入したUMIXワークステーションを併用した。今回の大規模計算のためにはデローネイ・セルのリスト作成のために効率の良い計算プログラムを開発した。さらに、全地球規模の余震活動データのボロノイ・デローネイ解析を準備した。後者の計算を実行するためには、球面上のボロノィ・デローネイ分割が必要となる。われわれは、すでにそのためのコンピュータ・プログラムを開発済みである。その他、生物組織におけるランゲルハンス細胞の配置データなどのボロノイ解析を空間配置の分析に用いた。
著者
大西 領
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

様々な大きさの液滴が衝突成長する場合,どの大きさの液滴とどの大きさの液滴とが衝突したのかを特定できないため,衝突頻度(もしくは衝突頻度因子)を直接求めることは困難である.この困難を乗り越えるためには何らかの特別な方法が必要である.本研究では,逆解析という解析手法を用いることによりこの困難を乗り越えることを目的とする.本年度は,測定によって得られる液滴径分布の変化から液滴間の衝突頻度因子を推定するための"非線形"逆解析手法を開発した.これは昨年度に開発した"線形"逆解析手法をさらに発展させたものである.また,直接数値計算(Direct Numerical Simulation, DNS)を用いて小型風洞を想定した数値実験を行うことにより,開発した逆解析手法の有効性を検証した.具体的にはDNSによって得られた液滴径分布の変化から本逆解析手法によって衝突頻度因子を導出し,その導出結果とDNSによる衝突頻度因子データとを比較した.ただし,最も理想的な場合を想定し,液滴は定常な乱流中で衝突のみによって成長すると考えた.なお,凝縮成長を伴う場合や減衰乱流中での試計算を行った結果,凝縮成長や流れ場の非定常性は無視しうると考えた.検証の結果,本研究で開発した線形および非線形逆解析手法を用いれば,最も重要である最頻半径付近の衝突頻度因子を高い精度で推定可能であることがわかった.ただし,線形逆解析手法は,高レイノルズ数流れの場合には導出誤差が大きくなることが明らかになった.つまり,大型風洞を使った実験のような高レイノルズ数流れにおいて測定を行う場合には,今年度開発した非線形逆解析を用いる必要があることが明らかになった.
著者
簑田 昇一 久場 健司
出版者
佐賀医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

ウシ蛙の交感神経節細胞を用いて節前線維の頻回刺激後に生じるシナプス電位(fastEPSP)の長期促進現象(pre-l.t.p.)を調べ次の事を明らかにした。pre.-l.t.p.は伝達物質Achの放出量が長期間増大して発生する。pre.-l.t.p.の発現中ではpair pulseで発生した短期促進は減少し、自発性微小シナプス電位の発現頻度は増大する。CaイオノフォアであるAー23187によりpre.-l.t.p.は増大し、Ca^<2+>緩衝剤quin-2/AMによってその発現は抑制される。これらの結果は、pre.-l.t.p.の発現にCa^<2+>が必要であり、その発現中には神経終末内の基準Ca^<2+>濃度の持続的な増大が生じている事を強く示唆している。pre.-l.t.p.の発生に第2メッセンジャー(プロティンキナーゼ系)が関与しているか否かを検討した。Cキナーゼの活性剤であるフォーボールエステルとジアシルグリセロールのアナログであるOAGはシナプス伝達の効率を増大する。しかしpre.-l.t.p.はこれらの薬物下でも発生しocclusionは生じない。Cキナーゼ阻害剤Hー7を長時間投与してもpre.-l.t.p.は発生する。更にCキナーゼの他にcAMP依存性又cGMP依存性プロティンキナーゼやミオシン軽鎖キナーゼに対しても高い阻害作用をもつstaurosporine存在下においてもpre.-l.t.p.は発生する。それ故上記のプロティンキナーゼ類はpre.-l.t.p.の発生機序には無関係と思われる。一方、カルモジュリン(CaM)阻害剤であるtrifluo-perazineを投与すると、pre.-l.t.p.の発生は抑制される。このことはpre.-l.t.p.の発現にCa/CaM依存性キナーゼが関係している可能性を示唆している。よって別の阻害剤であるWー7やCa/CaM依存性キナーゼ活性剤などのpre.-l.t.p.に対する作用、又これら薬物の膜に対する直接作用例えばCa電流に対する作用などを詳細に検討する必要がある。現在この点に注目して研究を進めているところである。
著者
杉山 あかし
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

本研究は、コミック同人誌即売会という文化活動をカルチュラル・スタディーズ的視点から実証的に分析しようとするものである。具体的課題は、若者たちの自発的な活動として形成されてきたこの文化的な場の構造・実態を明らかにし、その中から現代の若者文化が持つ可能性と、現代の若者が直面している社会的な課題・問題を明らかにすることである。本年度は、本研究3年目の最終年として、以下の各項目を実施した。(1)文献調査(2)一昨年度実施した郵送調査の分析作業の完成および(3)昨年度実施したカセットテープ郵送調査の分析の完成(4)コミック同人誌即売会(コミック・マーケット62)の観察(5)調査結果の妥当性を検討するための、コミック同人誌関係者ならびにコミック同人誌に詳しい研究者への聞き取り調査(6)報告書の作成本年度得られた知見のうち特徴的なことは、「コミック・マーケット」という場の日常化の進行であった。かつて、「コミック・マーケット」は文化運動、あるいは、祝祭論で言う「祭り」としての性格を持ち、日常生活とは一線を画した特殊な場として参加者たちから捉えられていたが、現在では単なる日常生活の一部分としてしか受け取られなくなっている傾向があった。同人誌出版物の書店での流通がめずらしくなくなるといった状況から見て、同人誌文化は社会において一般化する段階を迎えており、これはもはや同人誌文化が特殊なものではなくなり、文化運動としては意味を持たなくなって来ていることを示唆しているようである。大量の一般市民が大衆文化の生産者となり得るという事態は、これまでの大衆文化論の予想してこなかった事態であり、大衆文化論の新たなパースペクティプの構築が要求されていると考えられる。
著者
五神 真 宮野 健次郎 十倉 好紀 永長 直人 宮野 健次郎 宮下 精二 鹿野田 一司 内田 慎一 内野倉 国光 花村 栄一
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、固体中の電子が、そのスピンと電荷さらに格子系の自由度を通じて互いに強い相関を保ちながら運動することによって生じる多彩な物質相に注目し、その多体量子系としての物理学と外場や光による相の制御を利用した新しいエレクトロニクスを開拓することであった。遷移金属酸化物、有機系固体、半導体など幅広い物質系を対象とし、物質開発、物性測定、レーザー分光、X線光学さらに理論を互いに連携させながら研究を推進した。その結果、従来の物性物理学研究では伝導や磁性といった低エネルギーの物性と光領域の高エネルギーの物性が同じ土俵の上で議論される機会はなかったが、この両者の融合を図ることで、独自の研究領域を世界に先駆けて創始することができた。これにより、従来の一体問題の発想では捉えられない新規の現象を次々に発見し、それをきっかけとして、強相関電子系の磁気的性質、伝導、光学応答、非線形光学応答に関する知見とそれを記述する理論研究が格段に進歩した。本研究により、高品質の遷移金属酸化物結晶作製技術の確立、テラヘルツ領域から紫外線領域にわたる超高速分光技術の確立などの技術基盤整備をメンバーの強い連携のもとで進めた。これらを用いて、光誘起金属絶縁体転移の発見、金属絶縁体転移と超伝導機構の関連、軌道量子(オービトン)の発見、超高速光制御機能の発見などの成果を上げた。これらの成果は従来の半導体エレクトロニクスを超える次世代エレクトロニクスにつながる新しい工学を拓く成果であると言える。本研究によって、この東京大学の研究チームを世界的研究拠点としてアピールすることができた。この成果を踏まえ、国際研究拠点として本研究をさらに発展させるため平成13年4月に東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターが発足した。
著者
岡田 信彦 菊池 雄士 壇原 宏文
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ブタコレラ菌(Salmonella enterica serovar Choleraesuis)の細胞侵入による血管内皮細胞の宿主反応を明らかにし、引き続き起こる局所炎症反応についての分子メカニズムを明確化することを目的とし、次のことを行った。(1)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への細胞侵入能について、ブタコレラ菌野生株(RF-1)およびその細胞侵入能変異株(invA変異株)を用いて、血管内皮細胞(HUVEC細胞)および上皮細胞(HEp-2細胞)に対する細胞侵入性について検討した。RF-1株はHEp-2細胞およびHUVEC細胞の両細胞に対して同様の細胞侵入性を示したのに対して、invA変異株はHEp-2細胞およびHUVEC細胞への細胞侵入能は野生株に比べて明らかに減少していた。(2)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への侵入に伴う炎症性サイトカインIL-1α, IL-1β, IL-6,IL-8およびTNF-α)の産生をRT-PCR法を用いたmRNAの定量化を行い、野生株感染血管内皮細胞とinvA変異株感染血管内皮細胞とそれぞれ比較した。その結果、野生株感染血管内皮細胞のみでIL-8の発現が上昇していた。(3)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への侵入による接着分子の細胞表面への発現を蛍光抗体法を用いて観察することを試みた。Green fluorescent protein(GFP)を発現するブタコレラ菌野生株を血管内皮細胞に感染させ、各接着分子の単クロン抗体を用いて蛍光染色した。ブタコレラ菌感染5時間後の血管内皮細胞において接着分子、E-selectin(CD62E)、ICAM-1(CD54)およびVCAM-1(CD106)で細胞表面への発現がみられた。
著者
堀江 秀典 井上 宏子
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

酸化型ガレクチン-1(GAL-1/Ox)はマクロファージを刺激しサイトカインIL-6の発現上昇を促進する傾向が見られたが、更に実験を重ねて統計的有意差を確認する必要がある。IL-1βやLIFの発現を有意には上昇させなかった。次にiNosを加え更に実験を重ねて統計的検討を行った結果GAL-1/Oxは1ng/mlの濃度で有意にiNOSの発現を上昇させた。iNOSは酸化作用のあるNO産生に関与する酵素で酸化型ガレクチン-1刺激によりマクロファージ内でその発現が上昇する。このNOは細胞外に分泌され、神経細胞やその軸索並びにシュワン細胞から分泌された還元型ガレクチン-1を酸化し、酸化型ガレクチン-1とする作用が考えられる。マクロファージから分泌されたNOの作用についてはin vitro並びにin vivoの研究から今後明らかにしていく計画である。次に炎症下でマクロファージを刺激する物質LPS(lipopolysaccharide)のマクロファージへの作用に酸化型ガレクチン-1がどのような作用を示すか検討を行った。10ng/ml,100ng/mlのLPSをマクロファージに作用させそのときのIL-1β、IL-6,LIF, iNOSのmRNAの発現変化を各作用時間1h、2h、3h、4hについて解析した。10ng/mlではIL-1β、LIF, iNOSのmRNA発現を上昇させたが、IL-6につてははっきりした効果が見られなかった。100ng/mlでは4種類の因子の発現上昇がはっきり見られた。この系に1ng/mlの酸化型ガレクチン-1を作用させると、4時間作用させた群では明らかに発現の減少が見られた。その抑制効果は酸化型ガレクチン-1の濃度を0.1ng/ml,0.01ng/mlと下げていくと次第に減少し、LPS10ng/mlでは0.01ng/mlの酸化型ガレクチン-1の抑制効果が、LPS100ng/mlでは0.1ng/ml以下の酸化型ガレクチン-1の抑制効果が見られなかった。以上の結果より酸化型ガレクチン-1がLPSのマクロファージ刺激作用を抑制することが示唆された。今後実験を重ねこの効果が統計的に有意であることを確認し、in vivoでの抑制効果を検討することにより、酸化型ガレクチン-1を炎症抑制因子として確立していく計画である。
著者
山田 泰弘 清島 満 和田 久泰 斉藤 邦明
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

C57B1/6のWTマウスに対し放射線照射を行うことにより、血液幹細胞を死滅させ、その照射マウスに対してWTならびにTNFやIL-6ノックアウトマウスから抽出した骨髄を投与して骨髄移植マウスを作成することに成功した。照射マウスに対して骨髄を移植しない場合には、これらのマウスは1ヶ月以内に死滅してしまうことを確認している。これらの移植済みマウスを1ケ月間無菌状態で飼育し、移植骨髄が生着したのを確認した後に、ガラクトースアミン並びにLPSを腹腔内に投与することにより,急性肝障害モデルを作成した。H&E染色を行ったところ、その時間的経過における肝障害の状態の違いを確認することが出来た。すなわちIL-6 KO移植モデルにおいてWTに比較してより早期の肝障害が観察されると同時に、TNF KOモデルにおいては、その肝障害が遅延することを初めて観察した。血清中の肝機能測定により肝障害の度合いの差異も裏付けられている。生存率の差異においては、さらに顕著であり、WT移植モデルにおいて処置後12〜18時間後に死滅するのに対して、IL-6 KO移植モデルにおいては処置後6〜8時間以内にその全てが死滅してしまう。TNF KOモデルにおいては、処置後16時間後より個体死が認められるようになり、処置後30時間後になってその全てが死滅していくのである。このように各種サイトカインを骨髄中からノックアウトすることにより、肝臓における障害の差が認められるようになったことは、今まで例を見ないことであり、今後は影響を及ぼしたサイトカインの経路を検討し、肝障害機序の解明について検討する予定である。
著者
浅野 太 麻生 英樹 河本 満 緒方 淳 松坂 要佐
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、複数のマイクロホンと全方位カメラとからなる入力装置により会議内容を収録したマルチメディアデータ(映像・音声)から、いつ、だれが、どんな発言をしたかという情報を、音源定位・音源分離や音声認識技術などを用いて自動推定して、会議の構造を視覚化するシステムを開発した。このシステムにより、キーワードを含む場面を簡単に検索・再生し、会議の概要を短時間で把握できるようになる。
著者
簗瀬 英司 岡本 賢治
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

世界に先駆けて、セルロースから直接バイオエタノールを生産できる遺伝子組換え発酵細菌を開発するために、セルロース系バイオエタノール生産のキーとなる遺伝子群の解析を実施した。先ず、我が国独自の発酵細菌であるZymobacter palmaeの全ゲノムを完全解読し、そのゲノム情報に基づき作製したDNAマイクロアレイを用いてエタノール発酵時に発現する遺伝子群の挙動を詳細に解析した。その結果、高効率なエタノール生合成代謝のキー遺伝子群、糖質の細胞内取り込みに働くキー遺伝子群、およびストレスに応答遺伝子群を初めて明らかした。
著者
滝沢 寛之
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

データクラスタリングのためには最近傍のクラスタ探索(最近傍探索)のために高次元ベクトル間の距離計算を多くの回数行う必要があり、大規模な問題に適用する場合にはその計算負荷が大きな課題となる。本研究では平成15年度に、近年のパーソナルコンピュータ(PC)用描画ハードウェア(GPU)の急速な発展に着目し、一般的なGPUを並列プロセッサとして利用すること(GPGPU)で高速な最近傍探索を実現した。さらに、平成16年度はその研究成果を応用して、GPUとCPUとの協調によりデータクラスタリングを高速に行う手法を開発した。この手法は最近傍探索距離の有する2種類の並列性を効果的に利用可能であり、その成果は国際会議において最優秀論文賞を受賞するなど学術的に非常に高く評価された。また、データクラスタリングに適用可能な競合学習をPCクラスタで効果的に並列実行する手法を提案し、その成果が国際学術論文誌に掲載された。データマイニングの重要な要素である可視化についても引き続き検討し、北海道大学-東北大学間のスーパーSINETによる接続実験により、可視化サーバを対話的に遠隔利用できることを実証実験した。物理的に遠隔地にある演算サーバを利用してクラスタリング処理やその後のボリュームレンダリング等の可視化処理を行い、データマイニングに利用可能であることが実証された。その成果は学術論文誌に掲載予定である。Chinrunguengらの手法は、部分歪みエントロピを用いてクラスタの最適性を評価することにより平均歪みを最小化する。しかし、適切なクラスタを形成するまでに多数回の繰返し計算が必要であり、時系列データの時間変化に対して迅速に追従できない可能性がある。本研究では、部分歪みエントロピに基づいて適切にクラスタを再配置する手法を新たに提案し、動画像の適応ベクトル量子化に適用することよって追従速度と歪み最小化性能との両立を実現できることを確認した。
著者
伊豫 雅臣 明石 要一 保坂 亨 羽間 京子 五十嵐 禎人 武井 教使 三國 雅彦 松岡 洋夫
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2003

今年度は1、国際会議開催、2、研究会、3、少年非行に関する調査研究を行った。1、英国精神医学研究所司法精神医学研究部Fahy教授、豪州・クィーンズランド統合司法精神保健センター長Kingswell先生を招聘し、我が国からは分担研究者である五十嵐禎人先生により、英国、豪州、日本における司法精神保健に関する制度、医療、教育・研修、研究についての講演を得た。また、司法精神保健に関連した、最近の生物学的研究について伊豫雅臣が発表し、・千葉大学大学院専門法務研究科 本江威憙客員教授より指定討論を得た。英国、豪州とも触法精神障害者の医療施設として保安度の異なるものを有し、社会復帰に向けた体制が確立されている。また、裁判所と精神科医との連携体制も確立されている。我が国では平成17年度より心神喪失者等医療観察法が施行されるが、未だ整備途中である。また、生物学的診断法の確立も重要であることが指摘された。2、研究会は、検察庁より精神障害者の行った重大犯罪に関する公判記録の閲覧許可を得ることができた。その公判記録に基づき、精神科医、法学者、教育学者、生理学者により研究会を4回行った。精神医学では診断基準が複数使用されているが、精神鑑定においては診断基準を統一化するとともに、是非弁別能力判定についてのガイドラインが必要であることが指摘された。3、少年非行においては「怒り」が重要な役割を果たしており、そのマネージメント法を確立・普及させることが重要であること、また外国人少年非行の防止に関しては日本語学校の役割を認識する必要のあること、さらに非行傾向のある少年に対する校内サポートチームの形成の必要性について調査された。
著者
多田 富雄 栃倉 辰六郎 鈴木 紘一 高久 史磨 上野川 修一 白井 俊一
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

本研究では、食品成分の生体防御系に対する作用を、免疫応答系とそれ以外の作用を介した系で解析した。免疫応答系に関するものでは、無菌およびSPFマウスのパイエル板のTおよびB細胞について、フローサイトメトリーを行ない、消化管が免疫細胞分化の場として重要な役割を果していることを証明した。また代表的な牛乳アレルゲンであるαsl-カゼインを免疫したマウスより、Lytー2^+サプレッサ-T細胞をクローン化することに成功した。食品成分の自己免疫疾患におよぼす影響を検討した結果、低カロリー食がBWF_4マウスにおける自己免疫疾患の治療に効果のあることを立証した。さらに食品によるアレルギーの制御を目的として、患者に造血因子GCSFを投与すると、好中球数が増加することを明らかにした。また、生体の防御ポテンシャルを増強する目的で、ハイブリドーマを検定細胞として、食品中に抗体産生を促進する成分を検索し、卵黄リポタンパク質、スキムミルク、ラクトフェリンなどにその効果のあることを明らかにした。つぎに、好中球、マクロファージなどの白血球の局部浸潤を調べる方法を用い、植物性食品を中心に、免疫賦活作用を持つ成分を検索し、キノコ類、緑黄野菜類にその活性のあることを明らかにした。一部にはインターフェロン誘導活性がみられた。免疫系以外による生体防御では次のような成果が得られている。セノバイオティクス(有機人工成分)の解毒、排泄に必須である肝薬物代謝物質の誘導に食餌タンパク質の量、質が大きく影響することを明らかにした。また生体防御において重要な役割を果たしているビフィズス菌の増殖因子であるβーDフコシルグルコースを酵素的に合成した。さらに、生体防御系に重要な役割を果たしているカルシウムプロテアーゼについて、その構造と機能について分子生物学的研究が行なわれた。さらに、消化管に分布する免疫細胞の組織化学的特徴を解明した。
著者
清水 勇 今福 道夫
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1)代表者の清水は、約1200世代以上にもわたって飼育されてきた暗黒バエの視物質オプシン遺伝子(NinaE, Rh2)のサブクローニングとシークエンスを試みた。方法としては約30-50匹の個体をまとめて抽出材料とし、発色団のレチナール結合リジン残基を含むExon4部分(約210核酸配列)をRT-PCR法で増幅し、サブクローニングしてシークエンスをみた。その結果、16クローン中の5クローンに変異がみられ、その内3クローンでは推定ペプチドのアミノ酸置換を引き起こす、それぞれ異なる非同義置換の変異がおこっていた。これは昆虫類の既存オプシンの分子進化速度から考えると異常な高頻度といえるものである。一方、対照群のハエで同様の調査(甲南大学で明暗サイクル下で飼育したもの)をすると、24クローン中わずか1クローンに、しかも同義置換がおこっているだけであった。さらにそれぞれの遺伝子の全長について調査し、NinaE〔20,000塩基中25個〕,Rh2とも暗黒飼育バエでは有意にミューテンションが挿入されていることが分かった。ついで一匹づつ頭部のmRNAを抽出するなど、実験をさらにすすめると変異がみられなかった。そこで再度、ハエをまとめてサンプルにして計ると、19クローン中6個の変異がみられた。分析法とバッチの違いによる結果の違いについて今後、さらに検討する必要があるが、なんらかの変異がおきている可能性が示唆された。2)分担者の今福は京都大学大学院理学研究科で暗黒条件下で継続飼育しているショウジョウバエをパールの培地で育てている。その成虫の光走性とkinesisを見るとL系統(明暗飼育)よりDD(暗黒)系統のほうが、それぞれ強い傾向を認めた。
著者
遠藤 克彦
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

キタテハ・アゲハチョウ・ベニシジミの3種の蝶では、その成虫に季節型がある。その夏型成虫の発現に、蛹期に脳から分泌される夏型ホルモンが関与していることが知られている。今回、これらの蝶の前蛹または蛹から脳を集め、2%Naclの抽出液をつくり、キタテハの短日蛹(秋型成虫を生ずる蛹)に注射したところ、短日蛹から夏型成虫をつくる夏型ホルモン活性が、これらの抽出液に存在していることがわかった。更に、カイコ蛾の脳を集め、その抽出液をつくり、夏型ホルモン活性を調べたところ、このカイコの脳の2%Nacl抽出液にも、夏型ホルモン活性が存在していることがわかった。上記の3種の蝶とカイコの脳に存在する夏型ホルモン活性物質は、acetoneや、80%ethanolでは抽出されず、硫安によって沈澱(50-60%飽和で、2%Nacl抽出液中の夏型ホルモン活性の50%が沈澱する。)させられることがわかった。また、キタテハの夏型ホルモンについて、その性質を調べたところ、熱にはかなり安定(95℃,5分)であるが、trypsin処理でその活性が失われることがわかった。ついで、キタテハとカイコの2%Nacl脳抽出液をSephcclexG-50および高速液休クロマトグラフィーにかけて調べたところ、いずれの夏型ホルモン活性物質も分子量が3,500から6,000の間であり、逆層クロマトグラフィーの溶出時間もほぼ同じであった。得られた夏型ホルモンの分子量、逆層クロマトグラフィーの溶出時間から、これらの夏型ホルモンは、先に報告されているカイコの前脳腺刺激ホルモンと分子量(4,400)逆層クロマトグラフィーの溶出時間ともほぼ同じであることがわかった。また、SephcclexG-50と逆層クロマトグラフィーの各フラクションをアゲハチョウの休眠蛹に注射し、前脳腺刺激ホルモン活性を調べたところ、夏型ホルモン活性が存在するフラクションと、前脳腺刺激ホルモンが存在するフラクションとがほぼ同じであることがわかった。