著者
田近 敦子 井手 一茂 飯塚 玄明 辻 大士 横山 芽衣子 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.136-145, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
33

目的 厚生労働省は2014年の介護保険法改正を通じて,本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた取組も進めるとし,通いの場づくりを中心とした一般介護予防事業を設けた。しかし,通いの場への参加による介護予防の効果を複数の市町を対象に検証した報告は少ない。本研究の目的は通いの場参加による要支援・要介護リスクの抑制効果を10道県24市町のデータを用い検証することである。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が10道県24市町在住の要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013・2016年度の2時点の自記式郵送調査データを用いた。目的変数は要支援・要介護リスク評価尺度(Tsuji, et al., 2018)の合計点数(以下,要介護リスク点数)5点以上の悪化とし,説明変数は通いの場参加の有無とした。調整変数は2013年度の教育歴,等価所得,うつ,喫煙,飲酒,手段的日常生活動作,2013年度の要介護リスク点数(性・年齢を含む),さらに独居と就業状況を加えた9変数とした。統計学的分析は全対象者,および前期・後期高齢者で層別化したポアソン回帰分析(有意水準5%)を行った。感度分析として,要介護リスク点数を3点,7点以上の悪化とする分析も行った。結果 対象者3,760名のうち参加者は全体で472人(前期高齢者316人,後期高齢者156人),12.6%(11.8%,14.5%)であった。参加なしに対して参加あり群における要介護リスク点数5点以上の悪化の発生率比は全対象者で0.88(95%信頼区間:0.65-1.18),前期高齢者で1.13(0.80-1.60),後期高齢者で0.54(0.30-0.96)となり,後期高齢者で有意であった。また,要介護リスク点数3点や7点以上の悪化を目的変数とした感度分析でも同様の結果であった。結論 非参加者と比較し,通いの場参加者において,要介護リスク点数5点以上の悪化は,後期高齢者で46%抑制されていた。とくに後期高齢者が多い地域に対して通いの場づくりを進め参加者を増やすことが,介護予防を推進する上で有効である可能性が示唆された。
著者
戸ヶ里 泰典 阿部 桜子 井上 洋士
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.146-157, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
27

目的 本研究は日本国内の成人男女を対象として,第1にHIV陽性者に対するパブリックスティグマの実態,第2に標語「Undetectable=Untransmittable(ウイルス量検出限界値未満なら感染しない:U=U)」に関する情報とパブリックスティグマとの関連,第3にパブリックスティグマの変化とHIV陽性者に向き合ってきた経験との関連を明らかにすることを目的とする。方法 国内インターネット調査会社モニターを対象として,性的指向がヘテロセクシャルで,HIV陽性でなく,知り合いにHIV陽性者がいない20歳代から60歳代の男女を対象とした横断研究デザインのオンライン調査を2019年9月に実施し,2,268人を分析対象とした。パブリックスティグマは精神障害者向けのビネットをHIV陽性者向けに改変した社会的距離尺度により測定した。社会的距離は,「隣近所になる」「あいさつしたり話したりする」「自分の子どもや知り合いの子どもの世話を頼む」など6項目とした。回答者に「U=U」に関する情報を提供し,提供前後での社会的距離の各項目の受け入れの変化を「非受入のまま」「受入⇒非受入」「非受入⇒受入」「受入のまま」の4カテゴリで扱った。結果 「あいさつしたり話したりする」以外の項目では情報提供により社会的距離は短縮された(男性のオッズ比1.76~4.18,女性のオッズ比2.25~7.00)。また,「非受入のまま」が多かった項目は「あなたの親せきと結婚する」が男性で57.5%,女性で58.1%,次いで「自分の子どもや知り合いの子どもの世話を頼む」が男性で37.0%,女性で37.3%であった。多項ロジスティック回帰分析の結果,男女ともに「あなたの親せきと結婚する」については男女ともにHIV陽性者と向き合った経験が関連しており,「受入のまま」に比して「非受入のまま」はHIV陽性者に関するテレビ・ラジオなどの番組視聴,映画や演劇の観劇,小説や本の読書の経験が少なかった(男性オッズ比0.38~0.63,女性オッズ比0.50~0.56)。結論 HIV陽性者に対する社会的距離は,家族や子育てなどプライベート面で遠い傾向にあること,「U=U」の説明により社会的距離は各項目で短縮化する可能性が高いこと,HIV陽性者に対しメディア視聴・鑑賞,読書など主体性のある経験が社会的距離の近さに関連することが分かった。
著者
谷津 直秀
出版者
東京動物學會
雑誌
動物学雑誌
巻号頁・発行日
vol.28, no.334, 1916
著者
加藤 俊介 野城 智也 村井 一
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.135-138, 2022-02-01 (Released:2022-02-25)
参考文献数
7

1 つの建物において,テナント毎に要因が異なる環境価値低下に対し,Building Element(以下,B.E.)の関係性を形式化して意味構造を把握し,その上で状況をモニタリングして改善活動に展開することが有用と考える.本稿では,将来の統合・拡張に耐えうる情報基盤となる必要性からセマンティックデータモデルを用いた意味構造記述を提案した.そして,大学の一室のCO2 濃度モニタリングシステムに関わるB.E. の意味構造をモデルで記述した上,周辺システムのモデルと統合する検証をし,部屋などの共通ノードを結節点にグラフ構造が統合されることを把握した.
著者
大駒 誠一
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, 1970-03-15
著者
倉田 めば
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.198-214, 2020

<p>本稿の目的は,当事者である筆者の体験と活動をとおして,回復という現象の特徴を記述し,現在の薬物政策や薬物依存者処遇が,それまでに蓄積してきた当事者活動の豊穣さを簒奪し,一義的な意味に還元する事態について論じることである.すでに逸脱を社会的な視点から考える時代は過ぎ,こんにち薬物依存は自己責任の問題となった.しかし当事者はそれ以前から支援活動を行い,それは時代の変化を超えて存在し続けている.その一つであるダルクは,こんにちの社会からみたら逸脱的な支援を,すでに四半世紀にわたって続けてきた.その重要な考え方は「薬物を使う自由と使わない自由」が本人にゆだねられているということであり,そのことによって実現されるのは「回復の集約とその後の拡散」と表現できるものである.一方,近年の法改正や行政機関の薬物再乱用防止プログラムの実施は,薬物問題への取り組みとして望ましいものとされ,専門家らを巻き込みながら推進されている.しかしながら,それらによって回復という言葉は当初の輝きを失い,当事者活動本来の豊穣さが覆い隠されつつある.</p>
著者
緒方 康介 籔内 秀樹 反中 亜弓 吉田 花恵
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.31-42, 2022

<p>The purpose of this study was to examine mental representations with respect to child abuse and neglect. In particular, we focused on whether child maltreatment is more strongly associated with being a crime or a welfare issue. Study I included 220 university students and 44 correctional experts. They were made to rate the extent to which five practical psychologies were related to five child clinical issues. Multi-dimensional scaling (MDS) showed that (1) child maltreatment posited between Psychology for Human Services (PHS) and Forensic and Criminal Psychology (FCP) in university students, and (2) child abuse and neglect was close to PHS in correctional experts. Study II consisted of 46 university students who were measured twice, before and after a lecture regarding child abuse and neglect. Individual analysis of the MDS results revealed that knowledge about child maltreatment could make PHS closer to but remain the closest between FCP and child abuse and neglect. Study III included 197 university students who were required to select the better procedure (social welfare or forensic) for maltreated children. We found that they reported significantly more of the former than the latter and concluded that university students have a mental representation of child abuse and neglect being a crime, not a welfare issue.</p>
著者
石上 耕大 田村 良一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第68回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.180, 2021 (Released:2022-02-23)

現状のネット通販において,服の生地の風合いが利用者に対して正しく伝えられていないと考えられる。本研究では,「ネット通販における生地の表現方法から感じる風合い」と,「実物の生地から感じる風合い」との差が小さくなるような表現方法を検討した。4種類の生地を対象として,4種類の表現方法に着目した比較実験を行った。実験結果の分析から,風合いの違いに基づき,平面的な画像,立体的な画像というように,表現方法を使い分けた方が良いことが示唆された。
著者
霜野 慧亮 中野 公彦 鈴木 彰一 岩崎 克康 須田 義大
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.85-89, 2022-02-01 (Released:2022-02-25)
参考文献数
11

自動運転の社会実装には,実際の交通環境下で自動運転車両がどのように走行しているのかを,社会に対して適切に伝えることが望ましい.実交通環境下での自動運転車両の走行データ収集は,そのようなコミュニケーションの際に有用な情報をもたらすだけでなく,より高度な自動運転車両の機能開発や運用上の工夫等の観点からも,有益な情報をもたらすと期待される.柏市柏の葉地区では,2019 年11 月から長期間実証実験として自動運転バスが営業走行している.この取り組みは,長期間にわたり自動運転車両が走行していることから,将来的に自動運転車両が実装された際の状況に比較的近い状態にあると考えられる.この自動運転バスにドライビングレコーダを搭載し,運転手による手動介入時の映像データ取得を行い,介入時の周辺交通や道路環境の要因について分析を行う取り組みを開始している.本稿では,この取り組みの概要を紹介する.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1728, pp.26-31, 2014-02-10

彼女たちがいなければ、今頃倒産していた──。女優・宮崎あおいさんのCMで話題になった「アースミュージック&エコロジー」を手がける、アパレル中堅・クロスカンパニー(岡山市)の石川康晴社長は、そう振り返る。 彼女たちとは、1日に4時間や6時間だけ働…
著者
土屋 明彦
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.94-98, 2009-01

昭和の伝統を発する追進農場から「開かれた学校」を目指す平成の組織改革に至る。愛知県立農業大学校は、農商務省愛知種馬所(明治43年)、愛知県種畜場(大正13年)を経て、昭和9年に追進農場として創設されました。現在でも正門は愛知種馬所を残す馬頭道と称する道路に面し、樹齢100年余の松並木の中に、当時の近代建築の追進館講堂(昭和10年)、追進資料室(昭和16年)が建っています。追進館といえば、朝の連続ドラマ(NHK)「純情きらら」の撮影が行われ、追進館に入ると主演の「宮崎あおい」ふんする桜子がピアノを弾く様子や、当時の追進農場で学ぶ学生の様子がセピア色に浮かんでくるようです。以来、農業後継者の育成を目的とした追進営農大学校となり、昭和59年に農業改良普及員等の農業技術指導者の養成を目的とした農業技術大学校を加え、今日の総面積38.99haの愛知県立農業大学校となりました。平成15年には中央教育棟が建設されました。現在、教育部農学科(岡崎キャンパス)、同研究科(長久手キャンパス)、研修部の2部2科制で構成され、「若者に夢と希望を抱かせる学園」、「開かれた農業大学校」を目指しています。平成20年度は、多岐の社会情勢からより魅力ある学校とするため学校教育法に基づく「専修学校」となり、それにより卒業者には「専門士」の資格が与えられるとともに、4年制大学への編入が可能となりました。
著者
赤坂 宗光 露崎 史朗
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.334, 2004

火山における実生の生物学的侵入パターンが異なるマイクロハビタットにより標高傾度によりどのように変化するのか、また実生のパフォーマンスは攪乱地への侵入にとって有利となるかを明らかにするため、渡島駒ケ岳において急速に分布を拡大している北海道非在来種カラマツと、最も優占する在来種のダケカンバに対して播種実験および天然更新実生の分布の調査を行った。発芽、生存、資源分配、分岐パターン、および天然更新実生の分布パターンを3標高帯×3マイクロハビタット(裸地=BA、ミネヤナギパッチ=SP、カラマツ樹冠下=UL)で比較した。<br>対象2種ともに発芽率はLUがBA、SPよりも高かったが、標高間で差は見られなかった。生存率は標高間およびマイクロハビタット間で差は見られなかった。カラマツはダケカンバよりも高い生存率を示した。カラマツは全ての標高において、SPでの天然更新実生の密度が高く、ミネヤナギがシードトラップの役割を果たすことが示唆された。ダケカンバ実生は殆どみられなかった。カラマツは地上部重/地下部重比、高さ/直径比、分岐頻度で示される実生のパフォーマンスを標高・マイクロハビタットで変化させたが、葉重/個体重比は一定であった。BAにおいてカラマツは、地上部の高さ生長が抑制され、分岐の多い形態を示し、より地下部へ多く資源分配していた。この形態は風が強く、貧土壌栄養の環境に適応していると考えられた。カラマツ実生がSPでより細長くなったことから、被陰されたハビタットでは光獲得がより重要であることが示唆された。一方ダケカンバは、殆どパフォーマンスの変化が見られなかった。<br>これらから環境が厳しく、変動が激しい環境では、優れた実生パフォーマンスによって侵入種は在来種よりも全てのマイクロハビタットで高い生存と成長率を示すことができることが明らかになった。樹木限界やさらに高標高の植物群集は生物学的侵入による改変を受けやすいと考えられる。<br>