著者
喜多 記子 中津川 かおり 植草 貴英 田代 直子 HA Tran thi 長尾 慶子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.261-267, 2006-05-15 (Released:2007-05-15)
参考文献数
15
被引用文献数
6 3

ジャポニカ米を主原料とした米粉麺の調製法の確立と,嗜好的に好まれるジャポニカ種米粉麺のテクスチャーの改良を目的に,副材料の添加を検討した結果,以下のような知見が得られた.(1)DSC測定,顕微鏡観察および流動特性測定より,ジャポニカ種の糊化温度はインディカ種よりも低く,高温域で澱粉の膨潤,崩壊によってゾルの粘性が増した.(2)インディカ種は米粉液を75℃,ジャポニカ種は同65℃まで加熱することで,麺の調製を可能にした.(3)ジャポニカ種加熱麺はテクスチャー及び力学試験結果より付着性が高く,軟らかいため,予備実験として行った官能評価の結果からもインディカ米の麺と比較して低い評価であった.(4)ジャポニカ麺のテクスチャー改良のため,タピオカ澱粉を添加した麺は,硬さ,付着性が改良され,官能評価では,ジャポニカ米のみの麺よりも高い評価を得た.(5)ジャポニカ米に豆乳を添加した麺は,力学試験や官能評価では有意な差は認められなかったが,精白米の制限アミノ酸(リシン)の補足効果が得られるため,栄養面と共に食味,食感などの品質の改良が今後の課題となる.
著者
熊本 雄一郎 青山 道夫 濱島 靖典 永井 尚生 山形 武靖 村田 昌彦
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.137-148, 2017-03-05 (Released:2017-04-07)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

2011年3月の福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性セシウムが,2014年末までの約4年間にどのように北太平洋に広がっていったのかについて,著者らが得た最新の観測結果も含めてレビューした.日本列島南方を東向する黒潮・黒潮続流に由来する黒潮フロントの北側,すなわち混合海域及び亜寒帯域に大気沈着または直接流出した放射性セシウムは,東向きに流れる北太平洋海流に沿って深度約200 m程度までの海洋表層中を,日本近海から東部北太平洋のアラスカ湾まで運ばれた.一方,黒潮フロントのすぐ南側の亜熱帯域北部に大気沈着した放射性セシウムは,冬季に同海域で形成される亜熱帯モード水の南への移流に伴って深度約200~400 mの亜表層を速やかに南方に運ばれた.これらの観測結果から,2014年末までに福島第一原子力発電所事故由来の放射性セシウムは西部北太平洋のほぼ全域に広がったことが明らかになった.
著者
三田 有紀子 近藤 沙歩 米澤 真季 大島 千穂 續 順子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.194, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】味覚には様々な因子が影響することが知られており、女性では性周期もその一因とされている。一方、味覚に影響を与える大きな要因として運動も挙げられるが、女性に欠かせない性周期の下で運動が味覚に影響するかどうかは報告が少ない。そこで本研究では、女性を対象とした性周期に伴う味覚感受性の変化と運動との関連性を明らかにすることを目的として、運動経験や運動習慣に着目し、これらが各月経周期で味覚感受性にどのような影響を与えるか検討した。【方法】実験内容に承諾を得られた被験者を過去現在においてともに運動習慣がない者(対照群10名)、過去に運動習慣があり、現在運動習慣がない者(経験群11名)、過去現在両方において運動習慣がある者(習慣群10名)に分けて検討した。被験者には、生活習慣・食習慣・口腔状態、月経、運動習慣に関するアンケート調査と食物摂取頻度調査、身体計測、唾液試験、味覚試験を行った。唾液試験、味覚試験は基礎体温を基に月経期・卵胞期・排卵期・黄体期に分けたそれぞれの時期に実施し、味覚試験は全口腔法および濾紙ディスク法の2種類とした。【結果・考察】運動習慣別に比較したところ、習慣群の味覚感受性は他の群と比べて卵胞期における塩味、酸味で鈍化し、同様の傾向が月経期、卵胞期の甘味、旨味でもみられ、黄体期の苦味では鋭敏になった。一方、月経周期別に各群で比較した結果、習慣群の酸味感受性が排卵期と比べて卵胞期で鈍化したが、対照群、経験群には月経周期による影響がみられなかった。以上の結果から、運動習慣を持つ者は運動による味覚感受性の変化が恒常的にあらわれる可能性があり、女性では月経周期によってその傾向が異なることが示唆された。
著者
除本 理史
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.85-95, 2014-01-24

福島原発事故はいまだ「収束」していない。汚染水の問題がクローズアップされ,抜本的な対策が求められている。事故の被害も継続している。深刻な事故被害の発生を受けて,宮本憲一や吉田文和ら,日本の公害研究の先駆者たちが,その蓄積を踏まえ,福島の事故について考察を行なっている。そこでは幅広い問題点や課題が網羅されており,大変貴重であるが,個別の論点に関する考察をさらに深めていくことが急務である。筆者は,宮本,吉田らの業績に学びつつ,水俣病や大気汚染などの公害被害補償について研究してきた。そして震災直後から,福島原発事故の被害実態と補償問題に関しても,共同研究者とともに調査・研究を進めてきた。本稿ではその成果の一部について,あらためて述べることにしたい。具体的には,責任と費用負担の問題や,「加害者主導」の枠組みのもとでの被害実態と補償の乖離などを取り上げ,最後に,戦後日本の公害問題の教訓から何を学ぶかについて考える。

54 0 0 0 OA 花卉介虫図譜

出版者
巻号頁・発行日
vol.[5],
著者
奥野峻弥 浅井洋樹 山名早人
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告情報基礎とアクセス技術(IFAT)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.12, pp.1-6, 2014-07-25

従来,著者推定研究は小説に対する著者推定を中心に研究が行われており,推定対象を限定した,少人数に対する著者候補者群が取り扱われてきた.これに対し,我々はマイクロブログを対象にした,不特定多数の候補者群に対する著者推定の提案を行った.その際,精度向上のためマイクロブログ特有の叫喚フレーズに対する正規化手法,および計算量削減のため推定に必要となるメッセージ数を削減する手法を提案してきた.本稿では,より多くのマイクロブログ利用者を対象にした著者推定を行う上での問題点,特に学習用データとテストデータの取得期間の差異が精度に与える影響について検証し,学習用データの取得期間が精度に与える影響を小さくする手法を提案する.実験では Twitter ユーザ 10,000 人に対して著者推定を行い,Precision@1 で 0.535,MRR で 0.602 を達成した.
著者
中村 友紀 山中 伸弥
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.531-538, 2008-08-01

分化多能性をもち,その性質を維持したままほぼ無限に増殖させることができる胚性幹細胞,ES細胞は細胞移植治療や創薬試験系への応用に大きな期待が寄せられてきた.しかし,その作製には受精卵が必要になることから倫理的に慎重な運用が求められ,また他家移植となることから免疫拒絶の制御という問題も抱えていた.これらを回避すべく,真に臨床応用可能な幹細胞の開発を目指し,様々な研究が行なわれている.ここでは,その試みから生まれた人工多能性幹細胞,iPS細胞について,樹立までの経緯とそのインパクト,展望について触れたい.
著者
井上 淳子 上田 泰
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.18-28, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
42

本研究はアイドルを応援する(推す)ファンがアイドルに対して心理的所有感を持つことを主張し,その影響について論じるものである。具体的には,アイドルに対するファンの心理的所有感は,同じアイドルの他のファン(同担)に対する複雑な意識を生み出し,さらにその意識が当人のウェルビーイングと推し活動を継続させる原動力となることを理論的かつ実証的に明らかにする。550人のアイドルファンから収集したデータを分析した結果,アイドルに対する心理的所有感は心理的一体感と心理的責任感から構成され,心理的一体感が同担仲間意識に,心理的責任感が同担競争意識に影響を及ぼすことが実証された。また,ファンのウェルビーイングは2つの同担意識からともに正の影響を受ける一方で,現在のアイドルを推し続けたいという推し活継続性は,心理的一体感と同担仲間意識から正の影響を受けるものの,同担競争意識から負の影響を受けることが明らかになった。
著者
内田 由紀子 遠藤 由美 柴内 康文
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-75, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

人間関係への満足は幸福感を予測することが知られている。しかし,人間関係が幅広く,数多くの人とつきあうことが必要なのか,それともストレスが少なくポジティブな感情を感じられるような人間関係を維持することを重視するべきなのかについては明らかではない。本研究は,人間関係のあり方が幸福感とどのように関わるのかを探るため,つきあいの数の多さと,つきあいの質への評価に注目した。研究1ではソシオグラムを利用して身近な人間関係のグループを特定し,各々のグループの構成人数や,そのつきあいで感じる感情経験などを尋ねた。その結果,つきあいの質への評価が幸福感と関連し,どれだけ多くの人とつきあっているかは幸福感や身体の健康とは関わりをもたないことが示唆された。研究2ではより広範で一般的な人間関係を対象とし,関係性希求型の項目を加えて,関係志向性における個人差を検討した。結果,一般的にはつきあいの数が多いことと,つきあいの質への評価の双方が重要であるが,人間関係を広く求める「開放型」の人ではつきあう人の数が多いことが,既存の安定的な人間関係を維持しようとする「維持型」の人ではつきあいの質への評価が,それぞれ人生への満足感とより関連することを示した。また,開放型は維持型に比べてより多くの人と良い関係をもち,人生への満足感も高かった。これらの結果をもとに,人間関係が幸福感に与える影響について検討した。