著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、産業技術総合研究所においてロボット制御用の触覚ディスプレイの改良を進め、それを装着した状態でロボットを操作できるマスタシステムの実験を、多くの被験者について行った。具体的な実験としては、コンピュータ上のVR空間に人型ロボットの3次元CGによるシミュレータを構築し、ロボットの皮膚にバーチャルな触覚センサを配置して、その出力を触覚ディスプレイにより操作者の腕にフィードバックする遠隔臨場制御システムを用いて、2005年にMarc Ernst博士がNature誌で発表した、「人間の中枢神経系による視覚と触覚の情報処理が、ベイズ統計における最尤法に従う」ことを、有毛部皮膚を含めた腕全体でも成り立ち得ることを示すデータを得た。また、この実験をもとに、人間の有毛部皮膚における触覚の解像度を明らかにし、その解像度に基づくロボット体表面のセンサの最適な密度と、そのセンサの感じ取った力を人間の皮膚に再現するために必要な触覚ディスプレイの刺激子の解像度の最適値を求めた。ただ、当該研究員は2008年11月から東京大学の特任講師として異動し、またマスタシステムの構築や、それを用いたVR空間でのマスタ・スレーブシステムによる人間の視触覚情報処理体系の解析に時間を費やしたために、ロボットに対するセンサの配置やロボットの制御自体はVR空間における物理シミュレーションに留まり、実環境におけるロボット用の新型触覚センサの開発を行うまでには至らなかった。そのため、現在東京大学で作製している数々の生物型ロボットに触覚を付与し、その触覚をロボット操作者の体表面にフィードバックして提示する研究を継続することで、本研究でやり残したことを随時完了させてゆく予定である。
著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究では、前年度の研究において人型7自由度スレーブアームの1自由度のみをPD制御して、残りの6自由度をインピーダンス制御するという方式であったスレーブアームの制御アルゴリズムを改良し、全ての自由度を等しくPD制御ベースでインピーダンス制御するという方式に切換え、複数の制御方式が干渉しあうということの無い、極めて安定したスレーブアームの動作を可能とした。また、5本指を持つマスタ・スレーブハンドをそれぞれマスタアーム、スレーブアームの先端に取り付け、ハンドも含めたバイラテラル・インピーダンス制御を実現した。スレーブハンドは、親指に3自由度、他の指に各1自由度を持ち、指の間隔を広げるための1自由度を含めた合計8自由度をもつ多自由度ハンドであり、既存のヒューマノイドロボットには不可能な繊細な作業やジェスチャが可能なものになっている。これを制御するマスタハンドも、同じく8自由度を持ち、外骨格型の機構により普段は指に触れることなく追従し、スレーブハンドの指が対象物に接触した場合のみ、操作者の指に触れてスレーブハンドの指先端に働く外力をフィードバックするという方式になっている。この新しい機構と制御方式により、同じく外骨格型のマスタアームと整合性の取れたマスタシステムが構成出来た。このような右腕のマスタ・スレーブシステムと左右対称は左腕のマスタ・スレーブシステムも現在作製中で、両腕を用いた複雑な作業も可能とするテレイグジスタンスロボットシステムを構築している。さらに、東京工業大学の広瀬・米田研究室との共同で開発している、ロボットの移動機構としての段差対応型の全方向移動車については、それが段差を乗り越えるときの手順である動作シーケンスの最適化を研究し、前年度に比べてより滑らかに、素早く段差を乗り越えることが可能になり、それを上半身型のロボットと結合して制御する移動作業の初期実験を行った。
著者
荒木 一視
出版者
広島大学現代インド研究センター
雑誌
広島大学現代インド研究 : 空間と社会 (ISSN:21858721)
巻号頁・発行日
no.1, pp.59-78, 2011-03-22

「アジアに第1次フードレジームは存在したのか」というのが研究の主題であり, 統計資料に基づいてフードレジーム論を検討する。その際, コロニアル・ディアスポリック・レジームと呼ばれる第1次フードレジームに着目し, 具体的には英領インドの農産物貿易に焦点をあてた。英領インドは第1次レジームを主導したイギリスの統治下にある一方, 巨大な人口を擁しアジアとの関係も強い。こうした点から, アジアにおける第1次レジームを検討する上では極めて興味深い対象である。また, 典拠とした資料は山口大学東亜経済研究所に所蔵されている戦前期に収集された資料である。これを用いて, 20世紀はじめの第1次レジームとその崩壊期の英領インドの貿易が, ヨーロッパとヨーロッパ人ディアスポラ国家を基軸として描き出された世界で初めての基本食料の国際市場という第1次レジームの文脈でどのように解釈できるのかに取り組んだ。
著者
三木 さやこ
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.67-84,123, 2000

This article will explore the dynamism of indigenous trading systems in Bengal under colonial control through a case study of the grain trade. In 1794 the government attempted to stabilize prices and to prevent famines by establishing state-run grain storehouses, but these policies were unsuccessful. Two major factors contributed to this failure. First, the government had not fully understood the spatial geography of the Bengal grain trade ; second, there was strong resistance to market intervention from native traders. To understand the background factors that led to this failure, we need to examine the operation of the indigenous trading system which was centered on wholesale grain markets, known as ganjs. The ganjs played an important role in linking producing areas and town markets. The traders in ganjs held stores of grain in their granaries, and by using their knowledge, trade experience, information and trading networks, they controlled both prices, and supply and demand. In other words, although the expansion of Company rule brought major changes to the overall economy, indigenous trading systems adapted to the new situation and continued to play a significant economic role.
著者
白石 大二
出版者
ぎょうせい
雑誌
国文学 : 解釈と鑑賞 (ISSN:03869911)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.54-61, 1960-09
著者
松井 康人 長野 有希子 橋本 訓 吉崎 武尚
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.337-344, 2019-10-15 (Released:2019-10-16)
参考文献数
11

国立大学の法人化に契機として,京都大学では安全管理の強化が行われた.2010 年以降に発生した約 1 900 件の事故情報を対象としてリスクを定量的に評価するために,アンケートのパラメータ間の比較と自由記述部の自然言語処理を用いた分析を実施した.分類毎の事故の報告数では,針刺し,転倒,交通事故,体液曝露,切れ・こすれの合計が,総報告数の7 割近くを占めていた.発生月は6 月が最大であり, 11 月も多い二峰性を示していた.自然言語処理では,車道から歩道に移動する際の自転車による転倒など,分類調査だけでは分からなかった傾向を,ベクトル俯瞰図から得た.またこれらの転倒は,接触型とスリップ型に分類でき,それぞれの要因についても明らかにした.
著者
水野 芳子 田中 学 西村 あをい Mizuno Yoshiko Tanaka Manabu Nishimura Awoi 東京情報大学看護学部 Faculty of Nursing Tokyo University of Information Sciences
巻号頁・発行日
vol.23(1), 2019-09-30

高等教育機関に学ぶ学生の障害観に関する研究の動向を明らかにし、看護基礎教育における教育方法の検討及び課題についての示唆を得ることを目的に、文献検討を行った。「障害観」「障害者観」「学生」をKey wordsとして医学中央雑誌及び国立情報学研究所のデータベースを利用し文献検索を行い、該当した文献の研究内容の比較検討を行った。対象論文は15編であり、研究者の専門分野は多岐に渡っていた。研究内容から教育方法として、重症心身障害児(者)との接触・援助体験や事前学習、対象の反応の意味や特徴を把握できるような臨地実習指導の工夫が示唆された。
著者
穴吹 まほろ 石井 裕
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.151-160, 2008-06-30 (Released:2017-02-01)
参考文献数
24

We introduce AR-Jig, a new handheld tangible user interface for 3D digital modeling in Augmented Reality space. AR-Jig has a pin array that displays a 2D physical curve coincident with a contour of a digitally-displayed 3D form. It supports physical interaction with a portion of a 3D digital representation, allowing 3D forms to be directly touched and modified. This project leaves the majority of the data in the digital domain but gives physicality to any portion of the larger digital dataset via a handheld tool. Through informal evaluations, we demonstrate AR-Jig would be useful for a design domain where manual modeling skills are critical.
著者
奥田 誠一
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

キュウリモザイクウイルス(CMV)感染タバコ葉から全RNAを抽出し,CMVのゲノムRNAあるいはサテライトRNAの配列を基にしてプライマーを作製し,ヘテロな分子が互いに結合していると想定してRT-PCRで増幅してクローニングを行い,塩基配列を決定した。すると,CMVに存在するゲノムRNA1〜3どうしがランダムに直鎖状になったと考えられるRNA分子が容易に検出された。しかし検出されたRNAは(+)鎖どうし,あるいは(-)鎖どうしの結合のみで,(+)(-)という結合は認められなかった。このような結合部分の塩基配列は3'末端側が欠損している場合が多く,一部に挿入も認められた。しかし純化試料からは結合したRNA分子は検出されなかった。さらにサテライトRNAを持つCMVの感染葉からは,ゲノムRNAどうしだけでなく,サテライトRNAとCMVゲノムRNAが結合した分子も検出された。同様な実験をキュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)の感染葉についても行ったところ,やはり(+)鎖どうしや(-)鎖どうしが直鎖状に結合したRNA分子が検出され,RNAウイルスが持つRNA依存RNAポリメラーゼによるテンプレートスイッチングの結果と考えられた。とくにサテライトRNAとCMVゲノムRNAの結合は,ゲノムRNAの増殖阻害を引き起こしていると考えられた。また研究の途中で,容易にウイルスRNAをPCRで検出できる簡易直接チューブRT-PCR法の開発にも成功した。さらに,結合を確認するために,感染性全長cDNAクローンも完成させた。
著者
荻 慎一郎
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

秋田藩領には阿仁銅山をはじめ院内銀山など、近世日本を代表する鉱山があった。本研究では、秋田藩領北部の阿仁銅山をはじめ、八森銀山、大葛金山などに関する基本史料を各所蔵機関等において調査し、写真撮影で収集した史料をデジタル化と出力化して整理した。本格的な研究がなかった八森銀山研究に着手し成果があった。また個別鉱山研究に加えて鉱山相互の関係や交流、鉱夫の葬送など鉱山社会史研究の面でも多くの知見を得た。
著者
清水 昭俊
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.543-634, 1999-03

マリノフスキーは,「参与観察」の調査法を導入した,人類学史上もっとも著名な人物である。その反面,彼は理論的影響で無力であり,ラドクリフ=ブラウンに及びえなかった。イギリス社会人類学の二人の建設者を相補的な姿で描くこの歴史叙述は,広く受け入れられている。しかし,それは決して公平で正当な認識ではない。マリノフスキーがイギリス時代最後の10年間に行ったもっとも重要な研究プロジェクトを無視しているからだ。この論文で私は,アフリカ植民地における文化接触に関する彼の実用的人類学のプロジェクトを考察し,忘却の中から未知のマリノフスキーをよみがえらせてみたい。マリノフスキーは大規模なアフリカ・プロジェクトを主宰し,人類学を古物趣味から厳格な経験科学に変革しようとした。植民地の文化状況に関して統治政府に有用な現実的知識を提供する能力のある人類学への変革である。このプロジェクトは,帝国主義,植民地主義との共犯関係にある人類学のもっとも悪しき実例として,悪名高いものであるが,現実には,彼の同時代人でマリノフスキーほど厳しく植民地統治を批判した人類学者はいなかった。彼の弟子との論争を分析することによって,私は,アフリカ植民地の文化接触について人類学者が観察すべき事象とその方法に関する,マリノフスキーの思考を再構成する。1980年代に行われたポストモダン人類学批判を,おおくの点で彼がすでに提示し,かつ乗りこえていたことを示すつもりである。ラドクリフ=ブラウンの構造機能主義は,この新しい観点から見れぽ,旧弊な古物趣味への回帰だったが,構造機能主義者は人類学史を一貫した発展の歴史と描くために,マリノフスキーのプロジェクトの記憶を消去した。戦間期および戦後期初めの時期におけるマリノフスキーの影響の盛衰を跡づけよう。
著者
岡嶋 泰一郎 下池 朋子 井上 薫
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.279-283, 1997-06-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
4

9名の肥満症患者で, 高たんぱく・低カロリーダイエット食, ハイプロッキー®(クッキーおよびリゾットタイプ)を用い, 減量治療を行った. 9名中, 5名は14日間ハイプロッキーのみ(916kcal/日)を摂取し, 軽度ではあるが有意の体重減少が得られ, 総コレステロール値も低下した. 9名中2名ではハイプロッキー以外のカロリー摂取(200~300kcal)があったが体重は減少傾向を示した. 他の2名ではハイプロッキー摂取を10日間行い, 以後は低カロリー食を摂取したが, 体重は減少傾向を示した. 全例, 治療の支障となるような副作用はなかった. 以上の結果より, ハイプロッキーは肥満症治療に有用であるが, ハイプロッキー単独で長期のダイエットを行うことの困難性も示唆された. ハイプロッキーは減量治療の動機づけなど短期に使用することで肥満治療における有用性が期待される
著者
Shigeru Miki
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.569, pp.326-337, 1934 (Released:2007-05-24)
参考文献数
7
被引用文献数
2 4
著者
杉山卓著
出版者
秋元書房
巻号頁・発行日
1981
著者
岡﨑 滋樹
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.63-90, 2019-10-10

本稿は、「畜産」と「台湾」という視点から、戦前農林省による資源調査活動の実態に迫り、政策との関わりによって調査の性格が如何に変わっていたのかを明らかにした。これまでの満鉄や興亜院を中心とした資源調査に関する研究では、調査方法そのものについて詳細な検討が進められてきたが、その調査がいかに政策と関わっていたのかという部分は検討の余地が残されていた。したがって、本稿では、まず調査を左右する政策立案の実態を検討し、その政策が調査に対して如何なる影響を与えていたのか、調査報告が如何に政策に左右されていたのかという、当時指摘されていた「政治的」な調査活動の側面に注目した。
著者
宮武 慶之
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.37-62, 2019-10-10

江戸時代後期に茶の湯道具の収集で著名な松江藩七代藩主松平治郷(不昧/一七五一~一八一八)の元には多くの道具商が集った。この道具商のうちの一人に本屋惣吉(了我/一七五三生)がいる。本屋惣吉については、従来、元は貸本屋であり、冬木家の道具流出に関与し、それらの道具を不昧に売却したことが知られる。また天保年間に成立した『江戸名物詩(初編)』では江戸新右衛門町角の道具商である本惣を紹介しており当時、成功したことがわかる。