著者
美添一樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.686-693, 2008-06-15
参考文献数
6
被引用文献数
11

囲碁は,主なボードゲームの中でコンピュータの挑戦を拒み続けてきた唯一のゲームである.囲碁の難しさは良い評価関数を作ることが困難であるということに起因していた.しかし2006年にコンピュータ囲碁の世界にまったく新しいアルゴリズムがもたらされた.評価関数が不要という画期的な探索アルゴリズム,通称,モンテカルロ木探索と呼ばれるものである.登場から2年あまりで9路盤ではプロ棋士を破るほどの強さを獲得した.そのアルゴリズムの性質や理論的背景について述べ,今後の展望を探る.
著者
長谷川 千春
出版者
大東文化大学語学教育研究所
雑誌
語学教育研究論叢 (ISSN:09118128)
巻号頁・発行日
no.33, pp.91-105, 2016

魔術師マーリンにはアーサー王宮廷の騎士や王の言動にも影響を及ぼす言葉の力がある。中世ウェールズの伝説的予言者ミルズィン(Myrddin)が源泉とされているマーリンに関する伝説・文学作品は、ブリテン島内だけでなく、ヨーロッパ大陸へと広がっていき、ラテン語、フランス語、英語など、複数の言語で成文化された。このように地理的・言語的にも広範囲に発展をした中世アーサー王文学の中で、マーリンはブリテン島ケルト社会で実権を握っていたドルイド僧と同一視されることがある。その一方で、15世紀後半サー・トマス・マロリー(Sir Thomas Malory)の『アーサー王の死』(Le Morte Darthur)におけるマーリンは、魔術師、予言者、ドルイド僧の範疇を超え、軍師のような一面も見せる。本稿では、マーリン像の起源と発展を確認した上で、彼の権威ある言葉が、ケルト文化やキリスト教などに強く影響されながらも、いかに騎士社会で異彩を放っているかについて論じる。
著者
松園 潤一朗
出版者
一橋大学大学院法学研究科
雑誌
一橋法学 (ISSN:13470388)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.107-128, 2019-11-10

This article examines the law and litigation system of Muromachi Shogunate in the Sengoku period. The focus is centered on the Eishō era(1504-1521)when Yoshitane Ashikaga(the 10th shogun of Muromachi Shogunate)administered it. The previous studies found out the proceedings of Suit by the shogun and the members of his staff, but the whole of the legal proceedings mainly proceeded by bugyonin who were well versed in legislation and precedents has been unraveled. According to the review of historical materials on the history of law system, during the Eishō era Yoshitane Ashikaga made an effort to improve the legal proceedings from pendency to judgment, established law code which was used as sources of law, and aimed to give orders to peasants as well as ruling class to comply with the judgment. Therefore, his administration is an important turning point in the the legal history of Muromachi Shogunate.
著者
末松 剛 スエマツ タケシ Suematsu Takeshi
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-21, 2020-05-31

平安京の成立を考える上で、これまで「第一次平安京」説と称される、当初の平安京はのちの平安京とは異なる形態であったと理解する研究がある。本稿では、その理解をめぐるその後の研究史を整理するとともに、儀礼研究・古記録研究の観点から、あらためて関係史料を読解し、「第一次平安京」説を可能とする史料の読解は成立しないことを論じた。論説(Article)

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著者
龍田 真
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.360-372, 1991-07-15
被引用文献数
2
著者
長尾 宗典
出版者
筑波大学
巻号頁・発行日
2015

この博士論文は全文公表に適さないやむを得ない事由があり要約のみを公表していましたが、解消したため、令和02(2020)年4月13日に全文を公表しました。
著者
倉橋 真也 村尾 和哉 寺田 努 塚本 昌彦
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.237-248, 2017-01-15

トイレの便器にセンサを組み込むことで,ユーザの生体情報を日常的に取得し,健康管理などに応用できるようになった.トイレは多くの場合,複数人が共用するため採取した生体情報をユーザごとに分類する必要があるが,カメラや音声,体重計による個人識別はプライバシの観点から適切ではない.タッチパネルなどの機器を設置して操作することでの個人識別も可能であるが,本来不要な操作であるため操作を忘れることもある.そこで本論文では,トイレで自然に行われる動作であるトイレットペーパの巻き取りの個人差に着目し,芯に角速度センサを設置したトイレットペーパの回転特性から個人を識別する手法を提案する.評価実験により提案システムの有効性を確認したところ,識別精度は実験室環境において5人から1人を識別する場合に83.9%,実環境において5人から1人を識別する場合に69.2%となった.さらに,提案手法を用いて,体調管理を推進するライフログアプリケーションと,トイレットペーパの使いすぎを抑止するアプリケーションを実装した.
著者
山本 志乃
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.1-19[含 英語文要旨], 2010-03

旅の大衆化が進んだ江戸時代の後期、主体的に旅を楽しむ女性が多く存在したことは、近年とくに旅日記や絵画資料などの分析から明らかになってきた。しかしながら、講の代参記録のような普遍化した史料には女性の旅の実態が反映されないことから、江戸時代の女性の旅を体系的に理解することは難しいのが現状である。本稿では、個人的な旅日記を題材に、そこに記された女性の旅の実態を通して、旅を支えたしくみを考える。題材とした旅日記は、❶清河八郎著『西遊草』、❷中村いと著「伊勢詣の日記」、❸松尾多勢子著「旅のなくさ、都のつと」の3点である。❶は幕末の尊攘派志士として知られる清河八郎が、母を伴って無手形の伊勢参宮をした記録である。そこには、非合法な関所抜けがあからさまに行われ、それが一種の街道稼ぎにもなっていた事実が記されており、伊勢参宮を契機とした周遊の旅の普及にともない、女性の抜け参りが慣例化していた実態が示されている。❷は江戸の裕福な商家の妻が知人一家とともに伊勢参宮をした際の日記で、とくに古市遊廓での伊勢音頭見物の記録からは、旅における女性の遊興と、その背景にある確かな経済力を確認することができる。❸は、幕末期に平田国学の門下となった信州伊那の豪農松尾家の妻多勢子が、動乱の最中にあった京都へ旅をし、約半年にわたって滞在した記録である。特異な例ではあるが、身につけた教養をひとつの道具として、旅先の見知らぬ土地で自ら人脈を築き、その人脈を故郷の人々の利用に供したことは注目に値する。女性の旅人の存在は、街道や宿場のあり方にさまざまな影響を及ぼしたと思われる。とくに、後年イギリスの女性旅行家イザベラ・バードが明記した日本の街道の安全性は、女性の旅とは不可分の関係にあり、江戸時代後期の日本の旅文化を再評価するうえで、今後さらに女性の旅の検証を重ねていくことが必要である。
著者
横山 順一
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.103-112, 2017-02-28

本稿では、ある社会福祉法人が指定特定相談支援事業所を設立し、事業を展開していく過程を事例的に取り上げながら、障害者相談支援事業における計画相談支援の実施上の課題の一端について考察することを試みた。その結果、相談支援事業の本格実施前の準備期間における相談支援事業体制の準備不足が再確認された。また、相談支援専門員の業務範囲のあり方についての課題が明らかになるとともに、計画相談において重要とされる「継続性」「専門性」「中立性」のそれぞれにおいて、安定継続した事業所の運営の困難性や、相談支援専門員の専門性や中立性の担保についての課題等が明らかとなった。In this research, practical problems in planning consultation support in the Program of Consultation Support for Persons with Disabilities were discussed, referring to case examples on the process of developing a project of a designated specific consultation support office established by a social welfare corporation. As a result, it was reaffirmed that not enough preparation was conducted for the formulation of Consultation Support services in the preparation period before the full-scale implementation of the consultation support program. Furthermore, the task regarding the scope of work of consultation support specialists was clarified, and at the same time, the difficulties in the stable and sustained operation of the facilities from the perspective of "consistency," "expertness" and "neutrality" were regarded as important in planning consultation. In addition, the task of assurance of expertness and neutrality of consultation support experts were revealed.
著者
藤實 久美子
出版者
九州大学基幹教育院
雑誌
鷹・鷹場・環境研究 (ISSN:24328502)
巻号頁・発行日
no.3, pp.1-24, 2019-03-22

河鍋洞郁(暁斎)『絵本鷹かゝみ』はその筆勢の美しさから人びとを魅了してきた。本論文の目的は、この板本『絵本鷹かゝみ』を史料学の立場から分析することにある。本論文ではまず暁斎の生涯を追う。ここでは幕臣の家および狩野派「御絵師」集団のなかの暁斎の位置に留意して述べる。つぎに『絵本鷹かゝみ』諸本の書誌を比較する。その結果、現在、広く利用される河鍋暁斎記念美術館発行の影印本と、早稲田大学図書館所蔵本は類似しており、ともに金花堂中村佐助版の後印本であるD 対して国立国会図書館所蔵本・もりおか歴史文化館所蔵本は初印本(明治12年6月出版)であるとの結論を導く。第3に、「文久或年壬戊三月十六日改之」と墨書がある校合摺「鷹鏡」(早稲田大学図書館所蔵)を紹介し、この時期に『絵本鷹かゝみ』初編の出版準備が進められていたことを明らかにする。第4に、板元である金花堂須原屋(中村)佐助に関する情報を整理する。第5に、江戸時代の出版手続きを確認して、そのなかでの校合摺の位置づけを行う。第6に、幕末の書籍統制と『絵本鷹かゝみ』出版の関係を素描する。最後に、明治中後期に松山堂藤井利八から出版された求板の後印本(スミソニアン協会フリーア美術館所蔵)を紹介する。