著者
田邊 優貴子
出版者
国立極地研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

・試料分析とデータ解析(平成30年4月-6月)平成28年12月から平成30年2月にかけて南極湖沼で採取した湖水試料および湖底生物群集試料を国内に持ち帰った。これらの試料について、元素分析計(スミグラフNCH-22)で炭素・窒素・リン濃度の分析、HPLC(Shimadzu社)で植物色素の分析、湖水・間隙水試料は栄養塩オートアナライザー(Bran +Luebbe社製)を用いて溶存無機栄養塩(リン酸・アンモニウム・硝酸・亜硝酸・ケイ酸)の分析、TOC分析計(Sievers 500)を用いて全有機炭素・溶存有機炭素の分析、蛍光分光光度計(FluoroMax-4、堀場製作所)を用いた分析による溶存有機物の詳細解析、次世代シーケンサー(MiSeq)で一次生産者(シアノバクテリア・藻類)と分解者(菌類・バクテリア)の遺伝子解析を実施した。また、UC Davis安定同位体分析サービスに炭素・窒素の安定同位体比の分析を依頼した。・カナダ高緯度北極調査(平成30年7月-8月)北緯83度にあるワードハント島でカナダと共同で野外調査を行った。湖内の湖沼学的パラメーターの鉛直分布を測定し、湖底から深度毎に生物群集試料を採取した。また、平成28年7月にワードハント湖に設置した係留システムを回収し、2年分の水中環境データ(クロロフィル、溶存酸素、光、水温)の取得に成功した。カナダチームが長年取得しているこのエリアの気象・湖氷データと合わせてデータ解析し、水中環境と植物プランクトンの動態を明らかにし、国際誌に論文として投稿した。・試料分析と総合解析(平成30年8月-平成31年3月)現場および分析により得られた情報を統合することにより、エリア毎の一次生産者の環境応答と系内の生物多様性および物質循環プロセス、および、過去の環境変動パターンの違いから湖沼生態系の遷移プロセスとの関係について解析を開始した。
著者
矢ケ崎 典隆 矢ケ崎 太洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.99-118, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
19

ゲーテッドコミュニティとは公共アクセスが制限された隔離住宅地で,塀などの障壁に囲まれ,門によって出入りが管理される.アメリカ合衆国では,近年,ゲーテッドコミュニティが増加し,多分野から関心が集まっている.地理学研究者は,地域の枠組みにおいてゲーテッドコミュニティを解釈し,研究手段として地図を用いる.本報告はロサンゼルス大都市圏オレンジ郡中部を事例として取り上げ,現地調査に基づいて117か所のゲーテッドコミュニティを確認し,土地利用図を作成した.そして,住宅タイプ,門番小屋,共有レクレーション施設に着目して3分類し,地図化した.ゲーテッドコミュニティの形態と分布には地域差が確認され,白人富裕層が多い地域で,1990年代後半から新規住宅地開発が進行する過程で増加した.こうした調査と地図化の作業を蓄積することにより,モザイク状に分断されたロサンゼルス大都市圏の全体像を把握することができる.
著者
尾花 充 三浦 雅展 柳田 益造
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.111(2004-MUS-057), pp.47-52, 2004-11-06

メロディーに対する印象評価の際には,ゲシュタルト的輪郭を聞き手が認識することが重要であると考えられている.現存するメロディーの多くは動機が繰り返される形で構成されており,こういった形のメロディーは,繰り返された動機を何度も認識することにより記憶されやすくなるであろうと考えられる.この予測のもとに,メロディーの輪郭として類型を5種類設定し,各類型の特徴に関する評価実験を行なった.その結果,それぞれの類型が覚えやすいと感じるかどうかなどといった印象をある程度確認することができた.
著者
山田 一郎
出版者
The Institute of Noise Control Engineering of Japan
雑誌
騒音制御 (ISSN:03868761)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.23-27, 1990-02-01 (Released:2009-10-06)
参考文献数
9
被引用文献数
4
著者
Yoshitake Hirano Osamu Nitta
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
Journal of Physical Therapy Science (ISSN:09155287)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.319-322, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
19
被引用文献数
3

[Purpose] The purpose of this study was to examine the effect of nutritional status on the prognosis of patients with severe hemiplegia who were recently admitted to a convalescent rehabilitation hospital. [Participants and Methods] Eighty patients with stroke and severe hemiplegia were divided into two groups based on their serum albumin levels: normal (serum albumin 3.5 g/dL or more) and undernourished group (serum albumin 3.4 g/dL or less). Background characteristics, cognitive function, neurological symptoms, physical function at admission, and outcome were compared between groups. [Results] There were no differences found between groups in terms of cognitive function, neurological symptoms, physical function at admission, destination, and length of stay at the hospital. In contrast, age and duration from onset to admission were significantly lower in the normal group than in the undernourished group. The ability to walk and perform activities of daily living (ADL) at discharge was significantly higher in the normal group than in the undernourished group. [Conclusion] As a result, the findings of the present study suggest that in patients with severe hemiplegia, nutritional status at the time of admission determines the improved walking and ADL ability at the time of discharge.
著者
池内 淳
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.25-29, 2017-01-01 (Released:2017-01-01)

2011年に「図書館法」が改正された際,公共図書館が収集するべき資料の種別に電子的資料を含めることが明記された。しかしながら,平成27年度の文部科学省委託調査によれば,電子化資料を利用者に提供している図書館は日本全国で約16%であった。さらに,米国では90%以上の図書館が実施している電子書籍サービスについては,日本では,54自治体の図書館が提供するに止まっている。そこで本稿では,(1)出版界と図書館界との関係,(2)都道府県立図書館の役割という二つの観点から,公共図書館に電子書籍サービスを導入することの意義と効果について論じた。
著者
福山 圭 大類 洋 桑原 重文
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2015

<p>【緒言】</p><p> 後天性免疫不全症候群 (AIDS) は世界的に問題となっているHIV(レトロウイルス)感染症である。現在,作用機序の異なる薬剤を併用する多剤併用療法(HAART) が行われており飛躍的な予後の改善が図られている。しかし生涯にわたる多剤併用療法は予期せぬ副作用の発現と多剤耐性ウイルスの出現という新たな問題に直面しており,新薬の創出と供給は創薬化学およびプロセス化学上,喫緊の研究課題である。</p><p> 近年4'-C-置換ヌクレオシドの特異な生物活性に注目が集まっている。4′-ethynyl-2-fluoro-2′-deoxyadeno- sine (EFdA, 1)は大類,満屋,ヤマサ醤油(株)の共同研究により創出された逆転写酵素阻害剤である (Figure 1)<sup>1)</sup>。近年,ヤマサ醤油(株)からメルク社(米国)へのライセンス供与が行われ,抗エイズ薬としての実用化研究が進められている。同様の作用機序を持つ代表的処方薬であるアジドチミジン(AZT, ジドブジン, EC<sub>50</sub> = 22 nM, HIV-1<sub>NL4-3</sub>)等に比べ数百倍から数万倍という桁違いに強力なHIV複製阻害作用(EC<sub>50</sub>= 50 pM)を有することに加え,急性毒性を示さない(LD<sub>50</sub><sub> </sub>>100 mg/kg,マウス,p.o.),様々な耐性ウイルスに対しても有効である,長い血中半減期 (t<sub>1/2</sub>= 17.2 h) を持つ等の優れた特性から,極めて有望な抗エイズ薬候補と考えられている<sup>2)</sup>(Proc. Jpn. Acad., Ser. B 2011, 87, 53)。</p><p> 一方,本化合物の臨床開発における最大のネックは1の供給体制が十分でない点にある。既存の2つの合成法(大類法<sup>1)</sup>,桑原法<sup>3)</sup>)が知られているものの(Figure 2),原料価格,収率,立体選択性の点で問題を残していた。この様な背景の下,我々は真に実用的なEFdA合成法の開発に着手した。</p><p>【フラノース4位の新規増炭法の開発】</p><p> フラノース誘導体の4位を増炭する方法としては,安価で大量に入手可能なdiacetone-D-glucose (2)から5工程で得られるアルデヒド3をaldol/ Cannizzaro反応により4-ヒドロキシメチル化して4を得るMoffattらの方法<sup>4)</sup>が唯一の報告例であるが,生成する2つの水酸基の選択的保護に問題があった(Scheme 1)。</p><p> 我々は,3-ケトフラノース誘導体6とホルムアルデヒドとのアルドール反応について検討した結果,K<sub>2</sub>CO<sub>3</sub>やEt<sub>3</sub>Nを塩基として用いると4位の立体化学の反転を伴って,アルドール反応生成物 7とそれがホルムアルデヒドと過剰反応を起こした8の混合物が定量的に得られることを見出した(Scheme 2, Table 1)。</p><p><sup></sup></p><p> 8は報告例の少ないアセタール/ヘミアセタール連続構造を持つ新規糖誘導体であり,還元処理により7とともにアルコール9へ立体選択的に変換できた(アルドール反応完結後,濾過により塩基を除去し,濾液に水とNaBH<sub>4</sub>を加えることで簡便に四置換の4位炭素を持つ9を得る手法を確立した;白色結晶,100 g スケール,2から3工程,通算収率93%)。9の3位,5位および5'/6'位は選択的な修飾が可能であり,自由度の高い新規な四置換炭素含有合成ユニットになり得るものと考えている。</p><p>【水酸基</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
阿部 里加
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.70, pp.129-144, 2019-04-01 (Released:2019-04-18)

Im Liebesbegriff bei Augustin, in dem Arendt die Struktur der Nächstenliebe im Christentum philosophisch analysiert, unterscheidet sie zwischen amor mundi und dilectio mundi (beide „die Liebe zur Welt“). Darüberhinaus versucht Arendt zu zeigen, dass der Mensch wie ein Fremder existiert, während er in dieser Welt ist, gleichzeitig jedoch auch nicht existent ist. Dieser Widerspruch wird durch den Begriff der Isoliertheit, im Zusammenhang mit denen der sibi sufficere (Autarkie), der dilectio (Liebe) und des uti (Gebrauchs), expliziert. Der Begriff der Isolierung impliziert sowohl die Unabhängigkeit von der Welt als auch von Gott und findet seinen Ursprung im griechischen sibi sufficere (αυτάρκει) sowie in den Begriffen ordinata dilectio (geordnete Liebe) und uti. Das sibi sufficere lässt den Menschen die irdische Welt vermeiden, weil es die absolute Abwesenheit von Bedürftigkeit und die völlige Freiheit von anderen bedeutet. Auf der Grundlage der ordo amor (Liebesordnung) hat ordinata dilectio ihren Ursprung in Gott und im „eigenen Ich-selbst“ und führt bei der diligere invicem (gegenseitigen Liebe) unter den Christen zur Indirektheit. Diese Indirektheit hebt die gegenseitige Angewiesenheit der Menschen radikal auf: Die Beziehung zwischen dem Menschen und der Welt zum uti. Folglich liebt der Mensch sowohl seinen Nächsten als auch andere als ein Objekt des uti. Weiterhin führt die ordinata dilectio auch zwischen dem Menschen und zwischen Gott zur Indirektheit. Nach Arendts Interpretation ist es möglich, dass der Mensch bei Augustinus räumlich „Vor Gott“ (coram Deo) und durch die Objektivität außerhalb der Welt steht. Im Hinblick auf die Konzepte ordinata dilectio und uti nach Augustinus bedeutet somit die Isolierung eine Weltentfremdung und deutet auf eine Vorbedingung der christlichen Nächstenliebe hin. Außerdem verweist die Isolierung nicht auf die Versöhnung mit der Welt, sondern eher auf die Ablehnung und die Entfremdung von der Welt. Deshalb erklärt Arendt: „Aus der Weltentfremdung an sich entsteht neben der alten societas auch ein ihr gegensätzliches neues Miteinander und Füreinander“. Ohne eine Isolierung von der Welt kann der Mensch keine wahre Verbindung mit seinen Mitmenschen sowie kein neues vita socialis (soziales Leben) aufbauen.
著者
荻原 直道
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.193-199, 2014 (Released:2016-04-16)
参考文献数
35

生得的に四足性である霊長類の二足歩行運動を分析し,そこからヒトの二足歩行運動の力学的特徴を対比的に明らかにすることは,ヒトの直立二足歩行の起源と進化を考える上で多くの重要な示唆を提供する.本稿では,我々が進めてきたニホンザル二足歩行の比較運動学・動力学的分析から明らかになってきた,ニホンザルとヒトの二足歩行メカニズムの違いについて概説する.また,どのような筋骨格系の構造改変がヒトの直立二足歩行の進化に重要であったのかを構成論的に検証するために,ニホンザル筋骨格モデルに基づく二足歩行シミュレーション研究も進めている.本稿ではこれらニホンザル二足歩行研究から,ヒトの直立二足歩行の進化に迫る試みについて紹介する.
著者
渡辺 実 野田 伸司 山田 不二造 藤本 進
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.367-372, 1981-05-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1

生体試料中のウイルスに対するエタノールの不活化作用について研究を行つた.エタノールの反応に十分な水分が含まれている限り, 液相および固相, いずれの生体試料中においても, エタノールのウイルス不活化作用は, エタノールの濃度に比例して上昇する. 血清原液およびPBS中のポリオウイルスは, いずれも90%エタノールによつて10秒で不活化を受けるが, 70%エタノールによつては, 前者は1分, 後者は10分, 即ち10倍の感作時間を必要とし, 血清による阻害効果が著明であつた: また凝固家兎血液およびHeLa細胞に感染したポリオウイルスは, いずれも90~99.5%エタノールにより速やかに感染価の低下が示されるが, 80%以下の濃度では不活化の進行は緩やかであつた.これに対し乾燥血清中のウイルスには, 高濃度のエタノールによる不活化効果は低く, 99.5%エタノールには殆どウイルス不活化作用は認められなかつた. しかしこの条件下においても70-80%エタノールのウイルス不活化効果は最強ではなく, 乾燥血清中のNDVおよびワクチニアウイルスは40~60%エタノールによつて最も高い不活化効果が示された.最も効果的な消毒が要求される場合には, 被消毒物件の水分およびウイルスの種類に応じたエタノール濃度の選択が必要と思われる.