著者
星野 悦子 阿部 純一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.344-350, 1984-02-29 (Released:2010-07-16)
参考文献数
10
被引用文献数
8 7

Psychological reality of a “central tone” in the highly “tonal” melody was investigated by using the method of “final tone extrapolation”. Five kinds of stimulus tone sequence were made from each of the 35 six-tone melodic sequences (original sequences), for which rating scores of “tonality feeling” had been obtained; i.e., a two-tone sequence using the first two tones, a three-tone sequence using the first three tones, and so on up to a six-tone sequence using all of six tones, of each of the original sequences. Twenty-four subjects were asked to add an appropriate “final tone” to each of the stimulus tone sequences by using a keyboard of an instrument. For each of the sequences made from the “tonal” original melodic sequences, the final tone chosen tended to be restricted to a few specific tones in all five types of the tone sequences, while for the “atonal” original melodic sequences, the final tone chosen was diversely different. The results were discussed in relation to the “coherency” of a melody and other processing characteristics of human melody cognition.
著者
山田 毅
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.613-627, 2000-10-31 (Released:2009-02-19)
参考文献数
87
被引用文献数
1

私は, 結核菌が薬剤耐性を獲得する生化学的機構を解明するための研究を行い次ぎのような結論を得た。患者由来の多剤耐性結核菌は突然変異によりリボソームの構造を変え蛋白合成阻害剤であるバイオマイシンとカナマイシンに対して耐性を獲得していることを証明した。又RNA合成阻害剤であるリファンピシンに対してはRNAポリメラーゼの構造を変え耐性を獲得している。このように薬剤の攻撃をうける菌体の分子の変化に加えて透過性の変化により耐性を獲得している菌株もあり, 複数の機構が同じ菌株でおこり高度耐性を獲得している。最近では, 結核菌では, このような突然変異とその選択による耐性獲得機構はほとんどすべての抗結核剤に対して普遍妥当的にみられる機構であることが多くの研究者により明らかにされている。臨床医は多剤併用療法により薬剤耐性獲得に対処しているが, 完全に菌を排除することは不可能である。結核菌は宿主のなかで増殖をますます遅くし viable but non-culturable の状態に姿を変えあらゆる化学療法剤に抵抗するようになり且つ免疫機構に抵抗し人が生きている限り残存菌として人と共生することになる。我々はその機構を解明しこの機構に打ち勝つ薬剤やワクチンを開発し結核を根絶しようと考えた。遅発育性の機構解明の研究はその一つである。我々はDNAと強く結合する蛋白質のひとつが遅発育性を演出していることを発見した。このように, 結核菌が人に感染しても約95%の人は発病せず菌は残存菌として共生することになるが, 結核菌は眠った状態でも常に抗原を分泌し続け宿主の免疫力を高めているので逆にこの性質を利用することで結核以外の病気にも抵抗する免疫力を高める工夫が考えられる。我々はアジュバント活性最大の弱毒性結核菌BCGに様々な難病の予防抗原を分泌させ結核以外の感染症の予防にも効力を発輝するワクチンをつくるための基礎的実験を試みた。その結果, エイズ, マラリア, ハンセン病, 膀胱癌の予防実験を動物実験と試験管内の培養細胞レベルで試み成功した。癌の特効薬として有名な丸山ワクチンは弱毒結核菌の抽出物であり精製されていないために再現性が疑問視されているが, 我々の研究は分子生物学と免疫学のきちんとした手法でBCGに付加価値をつけ加え, しかも生菌を利用している点が異なる。
著者
澤井 敦
出版者
慶應義塾大学法学研究会
雑誌
法学研究 (ISSN:03890538)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.137-162, 2016-02

関根政美教授退職記念号はじめにI 構造化と存在論的不安 1 存在論的安心と存在論的不安 2 ルーティーンと構造化II ハイ・モダニティと存在論的安心 1 ハイ・モダニティの輪郭 2 抽象的システムと存在論的安心 3 親密な関係性と存在論的安心III ハイ・モダニティと存在論的不安 1 抽象的システムの綻びと「経験の隔離」 2 ルーティーンとしてのアディクション 3 存在論的不安とライフ・ポリティクスおわりに
著者
木下 秀明
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.151-163, 2006 (Released:2008-01-25)
参考文献数
28

Michiaki Nagai, the only professor of gymnastics (now known as physical education) at Tokyo Higher Normal School, was the only person who maintained that the aim of kendo (swordsmanship) should be not simply to advance its techniques but to build up spiritual ability through swordsmanship practice, taking the place of gekiken, a part of kenjutsu (swordsmanship), which was hitting practice with a bamboo sword. He first suggested this idea at the first special school for swordsmanship instructors selected from middle schools across Japan, held by the Ministry of Education in 1911. The aim of this article is to clarify when Nagai decided to change the name from gekiken to kendo by researching all of his articles and books describing martial arts, including swordsmanship, published from 1909, when he returned from abroad study, to 1915, when he wrote the foreword for kendo, the first great reference book for instructors, written by S. Takano, the swordsmanship instructor of the School. It is concluded that because Nagai did not have any idea about the name for swordsmanship with a bamboo sword at the beginning of his research, he used gekiken as the subject name for the School. However, he decided to use kendo instead of gekiken in August 1910, when the School adopted kendo as the subject name. As soon as the Ministry adopted gekiken as the official term for the school subject in July 1911, he acted publicly to use kendo for the School, in spite of the decision of the Ministry.
著者
上川 龍之進
出版者
日本政治学会
雑誌
日本政治學會年報政治學 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_134-2_155, 2012

It is generally thought that large companies have a more powerful influence on policy making than citizens' groups in contemporary Japan. In 2006, however, it was decided that the maximum interest rate should be lowered, which the groups aiding victims of consumer lending asked for but which the consumer loan companies strongly opposed. How did 'weak' citizens' groups win against 'strong' large firms? Through analyzing this case, this article examines the political influence of large corporations and citizens' groups. <br>&nbsp;&nbsp;This article is organized as follows. To begin with, it traces the history of regulations on the maximum interest rate. Next, it depicts the political process of abolishing the 'gray-zone' interest rates in 2006. Finally, it examines the resources of the consumer loan companies and the success factors of the groups aiding victims of consumer lending by comparing this case with the case of 'defective cars problem' analyzed by Hideo Otake.
著者
神里 達博
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.875-886, 2016-03-01 (Released:2016-03-01)
参考文献数
18

本稿は,近年急速な発展を遂げる情報技術が,社会の中で適切に発展していくための条件について,科学技術の社会史や生命科学の倫理問題の経緯を踏まえつつ,考察するものである。具体的には,科学技術観の歴史を簡単に確認したうえで,1970年頃に広がった「科学技術に対する懐疑」の思想について議論する。また,生命科学,とりわけ分子生物学において,倫理的な問題意識が登場した背景について検討する。さらに,このような動きの延長線上にあるものとして,「ヒトゲノム計画」に伴って提唱された「ELSI」という研究プログラムについて確認する。そのうえで,情報技術におけるELSIの現状と可能性を,EUと日本の事例を参照しつつ,考察する。
著者
関川 雅彦
出版者
国公私立大学図書館協力委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.11-19, 2014-09-05 (Released:2017-10-31)

わが国の大学図書館の管理運営の状況について,文部科学省が実施する学術情報基盤実態調査報告をもとに分析した。分析対象は,資料購入費,図書館運営費,図書館職員数,業務委託,年間購入冊数,電子ジャーナルアクセス可能タイトル数等である。図書館の予算,図書館職員数,年間購入冊数のいずれも減少を続けており,職員は臨時の割合が専任の割合を超えた。業務種別では整理業務の比率が下がり,業務委託は全面委託が急増し,全体の10%に達している。
著者
中林 雅士
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.317-323, 2011-08-01 (Released:2017-04-20)
参考文献数
5

大学財政規模が縮小する中,図書館運営予算も削減を余儀なくされている。加えて,大学間の競争は激しさを増しており,図書館はこのような環境変化の中で,自らのミッションを堅持しつつも,新たな環境に適応する必要に迫られている。直近の課題の1つは,図書館運営費の安定確保である。図書館を取り巻く多くのステークホルダーに対する社会的責務を果たすためには,財政問題を避けては通れない。本稿では,図書館運営費の安定確保について,図書館と国庫助成,図書費,業務委託費を取り上げつつ考察する。
著者
津上 智実 Motomi TSUGAMI
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
no.34, pp.43-62, 2020-03-20

本稿は、朝鮮総督府の機関紙『京城日報』の調査によって、永井郁子(1893〜1983)の6度に及ぶ朝鮮楽旅の全体像を明らかにすることを目的とする。調査の結果、41点の記事(1928〜1932)が見出され、永井の朝鮮楽旅は『京城日報』 によって口火が切られ、その後、民間新聞の『釜山日報』や『朝鮮新聞』に引き継がれていったことが判明した。特に第一回(1928年)と第六回(1932年)については、『京城日報』が強力に梃入れしたことが明らかとなった。これらの記事から42件の独唱会の存在が知られ、それらはあくまで部分的なものではあったが、演奏会の曲目や観客の反応等が分かるものも含まれている。 演奏曲目については、第一回の朝鮮楽旅が行なわれた1928年はシューベルトの没後100年を記念する年であり、シューベルトを集中的に取り上げる方向でプログラム変更がなされた。第一回(1928年)と第二回(1930年)のプログラムでは、初めに「泰西名曲(ベートーヴェンやシューベルト)の邦語訳詞歌唱」、次に「各国民謡九曲」ないしは「各国名曲九種」(日満露独英米仏伊拉)、最後に「新日本音楽」(宮城道雄作曲による新箏曲、ないし永井郁子考案の浄瑠璃歌謡曲)を置くという組み立てであったが、第六回(1932年)になると、「泰西名曲の邦語訳詞歌唱」が姿を消して、代わりに「新日本歌謡曲」として邦人作曲家の作品がまとまって取り上げられ、歌うに値する邦人作曲家の歌が出てきたという判断が永井の側にあったと理解される。 エヴリヌ・ピエイエが『女流音楽家の誕生』(1992/1995)で論じたように、輝かしい活躍をした女流音楽家たちの多くが忘却の淵に沈められている。日本歌曲の黎明期に貢献した永井郁子の事績を掘り起こし、しかるべき再評価に繋げるべく、問題の解明を続けて行きたい。
著者
鎌田 大資
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.114-125, 2008

初期シカゴ学派の社会学者たちは19世紀から20世紀の変わり目に、世界ではじめて大学での社会学の制度化を勝ちとった。彼らの営みを画期としてその前後で社会学における実証主義的な知の生産と蓄積、すなわち社会調査に向かう体制の変遷が認められる。19世紀中盤の社会学の発祥以来、総合哲学の頂点に冠せられる社会学という位置づけが生まれ、1892年開設のシカゴ大学に社会学が設置されてしばらくは同じ形での模索がつづく。そしてパークとバージェスが協同した学生指導により、また『科学としての社会学入門』(1921)での移民周期説、『都市』(1925)での同心円理論、自然地域概念などから枠組みを得て、1925年ごろには一定の基準のもとに都市シカゴに関する社会調査の知見を蓄積する調査研究体制が整備される。だがやがて初期シカゴ学派の凋落に伴い、量的社会心理学のサーベイ調査を主流にすえながら傍流として質的社会調査も継続される、量的、質的という二極分化をともなった現行の調査研究体制の祖形が成立した。本稿では、シカゴにおける都市社会学の形成に大きく貢献しながら、主流派の量的社会心理学への移行にも努力したバージェスの活動を取りあげ、今後、質的、量的調査の設計や知見について考察するためのインプリケーションを探る。
著者
永井 多賀子 鶴崎 翠子 洞口 敬 上井 浩 長岡 正宏
出版者
東日本整形災害外科学会
雑誌
東日本整形災害外科学会雑誌 (ISSN:13427784)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-5, 2020 (Released:2020-04-29)
参考文献数
16

大腿骨近位部骨折患者では約60%が栄養障害にあり,術後合併症や死亡率上昇に寄与している.そこで大腿骨近位部骨折患者の栄養評価と筋力およびADLの関連について検証した.栄養状態リスクのある患者はリスクのない患者より退院時ADLが有意に低く,筋力がADL獲得に影響していた.栄養状態リスクがある場合は運動療法と並行して術前から適切な栄養管理を行うことで機能的予後を改善できる可能性が示された.
著者
坪井 聡 上原 里程 Tsogzolbaatar Enkh-Oyun 小谷 和彦 青山 泰子 中村 好一
出版者
自治医科大学
雑誌
自治医科大学紀要 = Jichi Medical University Journal (ISSN:1881252X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.63-69, 2013-03

目的 東日本大震災後の栃木県における自殺の動向を明らかにする。方法 2008年1月から2011年6月までの間に栃木県内で発生したすべての自殺者のデータ(警察データ)と,警察庁が公表している自殺統計を用いて記述疫学研究を行った。結果 2008-2010年の総自殺者数は栃木県で1,795人,全国で96,784人であり,2011年上半期では栃木県で281人,全国で15,906人であった。2011年上半期における栃木県の月別自殺率3月から5月にかけて増加していた。栃木県では,4月は45-64歳と65歳以上の男女で身体の病気の悩みによる自殺が多く,5月は20-44歳と45-64歳の男,20-44歳の女でうつ病の悩みによる自殺が多かった。結論 東日本大震災の後,全国と同様に栃木県においても自殺率の増加がみられた。被災地の周辺地域においても地域資源を活用した自殺予防を早期に開始するべきなのかもしれない。