著者
中井 専人
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.187-199, 2015-03-31

多雪,少雪の地域的な分布と変動を定量的に把握するため,積雪深観測地点ごとの冬季最深積雪をもとにした"多雪指数"を定義し,その全国分布図を作製した."多雪指数"を用いることにより,積雪の多い冬でも広域の積雪分布の特徴がかなり異なることを示し,山雪-里雪,西偏-北偏,太平洋側-日本海側という経験的に言われている多雪の偏りについて定量化を行った.平均多雪指数と冬季モンスーン,大循環等の指数との関係を調査したところ,2010年代では1980年代より温かくても多雪になる傾向,また寒冬及び冬季アジアモンスーンが強いほど多雪になりやすい傾向が示された.北極振動指数,WP指数(西太平洋パターン指数),Nino3.4指数についてはいずれも負の値が大きいほど多雪となりやすいという結果が得られたが,多雪指数の変動のうちこれらを説明変数として説明できるのは半分弱であった.
著者
石元 孝佳
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.16-17, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
10

近年金属ナノ粒子特有の触媒活性や水素吸蔵特性などが実験的に見出されている。このような金属ナノ粒子で発現する物理・化学現象にはナノ粒子の構造的特徴のみならず電子状態が大きな影響を及ぼしていると考えられるが、既存のアプローチでは金属ナノ粒子の電子状態計算が困難なため、金属ナノ粒子の発現機構の解明には至っていない。そこで本研究では大規模計算システムを活用することで2nmを超える金属ナノ粒子の電子状態計算を実行し、安定性や構造変化・状態密度などを解析した。
著者
藤井 幹也
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.14-15, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
6

非断熱遷移を起こす系の時間発展を記述する古典的軌道について考察をした.まずは,古典的軌道の科学的妥当性を明らかにするために非断熱経路積分の定式化を行い,半古典近似を用いることで,量子時間推進演算子に古典的軌道が埋め込まれていることを明らかにした.続いて,エネルギースペクトルが古典的軌道を用いて記述できることを明らかにした.
著者
小寺 正明
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.10-11, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
10

化学情報学の生命科学への応用は薬学研究が主流であるが、生命情報学との融合により、さらに幅広い研究への発展が期待される。私の興味の中心はオミックスと呼ばれる生命科学ビッグデータであり、未だ隔たりの大きい二つのオミックス、すなわち遺伝子系オミックスと化合物系オミックスを結びつける融合的研究である。例として、昆虫と植物など異種生物間の化学相互作用ネットワークの群集生態学的視点による解析を紹介したい。
著者
河合 健太郎
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.8-9, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
7

デノボデザインは,創薬研究の効率化に寄与できる優れた技術であり,過去数十年間にわたり精力的に研究されてきた歴史がある.特に,最近のケモインフォマティクス技術の発展に伴い,新たなデノボデザイン手法の提案だけでなく,実際の創薬研究への応用例も盛んに報告されるようになってきた.演者らは最近,既知の活性化合物の構造を利用し,新しいドラッグライクな薬物構造の設計を行うための方法論を開発したので,その内容を紹介する.また,計算機実験により提案手法の有用性を評価したので,その結果についても併せて紹介する.
著者
塚本 僚平
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.291-309, 2013-09-30

近年,消費の多様化や本物志向の進展が指摘されるなか,産地ブランドや地域ブランドへの注目が高まっている.一部の地場産業でも,産地の維持・発展の方策として,産地ブランドの構築が図られている.本稿では,2000年代以降,産地ブランドの構築に積極的に取り組んできた愛媛県の今治タオル産地をとりあげ,ブランドの構築が市場における優位性の獲得に繋がるか否か,ブランドの存在が産地維持要因の一つとなり得るかどうかについて検討した.今治タオル産地におけるブランド構築事業は,従来の問屋依存的で,有名ブランド品のOEM生産を軸とした企業体制からの脱却を意図したものであったが,産地の認知度の高まりを見る限り,当該事業は一定の成果を上げたといえる.また,問屋への依存度の低下や流通経路の拡大・多様化,リピーターの獲得といった現象も生じた.なお,今治産地では1980年代から海外生産や国内での一貫生産化,分業関係の見直し,外国人技能実習制度の利用といった生産面における戦略も展開された.それにより,分業構造に大幅な変化が生じていたが,これらの戦略は,製品の高品質化やコスト低減といった点でブランド構築事業との関連性を有していた.ただし,一部の企業では企業戦略と産地ブランドの特性が相容れないケースもあり,産地ブランドが全ての企業にとっての立地継続要因にはなり得ていないことも明らかになった.

1 0 0 0 OA 集古十種

著者
松平定信 編
出版者
郁文舎
巻号頁・発行日
vol.甲冑之部 1, 1905
著者
小市 俊悟 越野 広雪 佐藤 寛子
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.66-69, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
9

NMR分子構造解析システムCAST/CNMRシステムの機能の一部として,自動分子構造推定法の開発を2004年に開始した.データベースを利用した推定法なので,データの質・量に依存するところはあるが,正しい分子構造を自動推定し,天然物分子構造解析へも応用できる段階に入った.NMRデータから立体構造を計算機を用いて推定する試みは,化学に計算機が導入された1960年代から取り組まれているものの,未だに実践的な解決には至っていない部分もあり,ケモインフォマティクスにおける最もクラシカルな未解決問題の1つとして現在も取り組まれている.CAST/CNMRにおける自動分子構造推定法の特徴は,情報学の最新成果,特に効率的なグラフアルゴリズムを応用したことである.この特徴が,近年の計算機の高速化とも相まって,高速な推定を実現している.部分構造検索の機能に関しては,すでに構造訂正などへの応用が始まっている.
著者
石渡 明 市山 祐司
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2007年度年会
巻号頁・発行日
pp.58, 2007 (Released:2008-09-02)

かんらん石スピニフェックス組織は,長さ1メートルに達する薄板状のかんらん石の平行連晶組織であり,超苦鉄質のコマチアイト溶岩に特徴的とされる.露頭では一般にコマチアイト溶岩の上半部にスピニフェックスが発達するが,下半部は斑状組織のかんらん石沈積岩であり,岩床の場合も同様である.一方,かんらん石スピニフェックス組織は,北極海の海嶺玄武岩(顕微鏡サイズ)やコラ半島原生界の鉄ピクライト溶岩上部の玄武岩質部分などにも見られ,変成蛇紋岩や中世の製鉄遺跡の鉱滓などからも報告されている.最近,Ichiyama et al.は福井県小浜市南部の丹波帯緑色岩体から,長さ10 cm以上,間隔1~2 mmのかんらん石平行連晶(仮像)よりなるスピニフェックス組織を呈する玄武岩の転石を発見した.この転石は多数の鉄ピクライトの転石を伴うので,下部が鉄ピクライト,上部が玄武岩質岩石からなる分化した溶岩または岩床に由来すると考えられ,鏡下でも化学組成でも,コラ半島Pechenga地域原生界の同様の溶岩と酷似する.両者とも「石基」のチタン普通輝石が顕著な逆累帯構造を示す.Faure et al.(2006)によるスピニフェックス組織の再現実験は,結晶核密度が低く(事前にリキダス以上の温度に保ち除去),過冷却度が高く(リキダスより40~60℃下で結晶化開始),適度な温度勾配と冷却速度で結晶作用を行えば,スピニフェックスが成長することを示す.かんらん石スピニフェックス組織を示す丹波帯の玄武岩はノルムかんらん石をもち,かんらん石がリキダス相だったと考えられる.コマチアイト中だけでなく,玄武岩中にもスピニフェックス組織が形成されることは,化学組成を重視するIUGSの超苦鉄質火山岩分類案の妥当性を支持する.
著者
細矢 治夫
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.64-65, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
15

既知化合物の少なさや、目立たぬ性質等の原因で、ポリエンの化学は等閑視されて来た。「交差共役」も有機化学の中では軽視されて来た。しかし最近、新化合物や、物理学者の興味をひく性質が見出され、交差共役というキーワードが頻出している。我々はその交差共役の重要性を認め、ポリエン化学の理論的な再構築を始めている。先ず、最も基本的な交差共役炭化水素を、ケクレ構造を1個しかもたない、直鎖以外の非環式、及び単環のポリエンと決めた。これにより、ラジアレン、フルベン、キノイド等も交差共役系にふくまれる。これらの安定性は、トポロジカルインデックスZと極めて高い相関関係にある。同様に、「平均共役長」Lによってもその安定性を半定量的に予測できる。更に、これらの議論を「有機電子論」の理論的裏付けと適用限界の示唆にまで拡げる。
著者
高畑 常信 鴨田 恒子
出版者
徳島文理大学
雑誌
徳島文理大学研究紀要 (ISSN:02869829)
巻号頁・発行日
no.77, pp.1-39, 2009-03

Deng-Shiru (1743〜1805) was one of the most remarkable and influential shufa-jia(calligrapher) and zuanke-jia (seal engraver) during the Qing period (1644-1911), and leftan extraordinary impact for future generations."Deng-Shiru Fashu-Xuanji" (1963, Renmin-Chubanshe) is a collection of works ofDeng-Shiru selected for publishing by Deng-Yizhe descended from Deng-Shiru. So far,there have been some studies dealing with part of this publication, but no comprehensiveresearch paper is available. This study aims to integrate past studies and present newresults.The contents are as follows:1) Rewrite the scripts written with ink brush by Deng-Shiru in Zhuan-shu (the engravedseal style of Chinese character writing), Li-shu (the square plain style of Chinesecharacter writing), Kai-shu (the square style of Chinese character writing), Xing-shu (theintermediate style of Chinese character writing), Cao-shu (the cursive style of Chinesecharacter writing) into the modern Chinese characters2) Translate the scripts into Japanese.3) Collect past research papers.4) Annotate on the important related writings obtained by searching works of Qinglitterateurs.5) Describe the new findings and results of the study.
著者
山本 典史
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.60-63, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
2

プリオン病は正常型プリオンタンパク質(PrPC)が病原性異常型(PrPSc)に変化した結果,複数のPrPScが凝集することで分子間βシート構造を骨格とするアミロイド線維を形成し,脳内に沈着することで発症する.プリオン病の初期過程ではPrPCの一部分が変性した過渡的中間体PrP*がPrPScへの構造変化を橋渡しする役割を担う.したがって,プリオン病の機序を解明するための手掛かりは,このプリオン形成中間体PrP*にある.本研究ではPrP*の構造的特徴を抽出する手段として,二次構造情報に基づく新しいカーネル主成分分析(SSPCA; Secondary Structure PCA)を開発した.SSPCAを適用することで,プリオン形成中間体PrP*の有力な候補として,PrPCの構造の一部がヘリックス→ストランド転位した特徴的な変性状態を明らかにした.
著者
倉 陸人 阿部 浩士 高橋 崇宏 江間 義則
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.58-59, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
8

化学気相堆積法における反応機構自動解析システムを開発した。システムの推論エンジンはバイオインスパイア―ドアルゴリズムの実装によって開発した。また、バイオインスパイアードアルゴリズムの性能を、評価関数の収束値のメジアンと四分位偏差、および、計算時間の実測値を用いて評価した。アルゴリズムの中でCMA-ESは探索能力、収束安定性、計算時間の観点から最もよい性能を示した。
著者
寺前 裕之 須田 岬 湯川 満 島野 洋佑 高山 淳 坂本 武士
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.56-57, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
1

近年、生物活性を有する2-アザスピロ環化合物が報告されているが、効率的な合成法は少ない。我々は、先行実験により化合物の超原子価ヨウ素試薬による環化反応をおこなうことで2―アザスピロ環化合物が得られることを見出した。しかし、この反応ではアリル基側鎖の置換基効果が顕著に見られることから、反応中間体であるフェノオキセニウムカチオンの高次元アルゴリズムによる安定構造計算からその反応機構を検討した。
著者
田中 健一 金子 弘昌 長阪 匡介 船津 公人
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第38回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.52-55, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
6

化学工学プロセスにおいて実時間測定が困難な変数の値の推定にソフトセンサーが広く利用されている。しかし、触媒の劣化や製造銘柄の変更等に伴い説明変数Xと目的変数yとの関係が変化した場合、変化前のデータから構築されたソフトセンサーでは変化後の予測が困難となる。この問題はソフトセンサーモデルの劣化と呼ばれ、対応策として各種適応型ソフトセンサーモデルが提案されている。本研究では適応型ソフトセンサーモデルの中でJust-In-Time (JIT) モデルの予測精度改善を目指す。JITモデルはクエリのXの値が類似しているデータを選択、もしくは類似度の高いデータに大きな重みを与えて構築されるため、Xの値は類似しているがyの値が異なるデータが存在する際に不適切な回帰モデルとなる。本研究では、Xの全ての領域においてより新しい状態のデータのみを選別したJIT用データベースの管理手法およびJIT用データベースを用いた回帰モデル構築手法を提案する。
著者
水田 敏夫
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
岩石鉱物鉱床学会誌 (ISSN:00214825)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.202-215, 1978-07-05 (Released:2008-08-07)
参考文献数
42
被引用文献数
2 4

Peridotites characterized by the texture of elongated olivine crystals, are found in the Higo metamorphic belt mainly composed of psammitic gneiss. The peridotite mainly consists of olivine, orthopyroxene, tremolite, serpentine, and talc. Spinifex-like olivine crystals, partly altered to serpentine and magnetite, consist of randomly oriented plates parallel to (010). The elongated olivine crystals in same handspecimen are chemically homogeneous, and the compositional zonation of the crystals has not been observed by microprobe analysis. However, the chemical composition of olivine ranges from FO83 to FO92 in different handspecimens. The NiO content of olivine varies from 0.2 to 0.5 weight per cent and the MnO content from 0.1 to 0.2 weight per cent. The NiO and MnO contents are about the same as those of komatiitic olivines. On the other hand, the olivines in the Higo perioditite contain a negligible amount of CaO and remarkabIly differ from those of extrusive peridotite (komatiite). The rocks are free from clinopyroxene and contain large and prismatic orthopyroxene. The extremely Ca-depleted orthopyroxenes (En89-En92) are interlocked with tabular olivines in each other. The Al2O, and Cr2O3 contents of orthopyroxenes are relatively lower than those of orthopyroxenes in alpine peridotites. From the mineral assemblages of peridotites and metamorphic rocks, and from the chemical composition of olivine and orthopyroxene, it is suggested that the peridotite bodies suffered from the regional metamorphism of amphibolite facies (approximately 700°C, 3-4kb). This conclusion is also supported by the data concerning Mg-Fe2+ distribution between olivine and chromian spinel in the Higo peridotite.
著者
土手内 靖 尾崎 牧子 西山 記子 長谷部 淳 谷松 智子 西山 政孝
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.60-65, 2015-01-25 (Released:2015-03-10)
参考文献数
7

Levofloxacin(LVFX)により激しい溶血性貧血を起こしたと推測される症例を経験したので報告する。症例は69歳男性。腹痛・発熱が1週間続くため近医を受診,腸間膜リンパ節炎と診断されLVFXが処方された。2日間内服したが症状の改善なく,当院に緊急入院となり,抗生剤をLVFXからCefmetazoleに切り替えた。入院3病日,嘔気,血圧低下,褐色尿および眼球黄染が出現,血液検査で著明な貧血(Hb 6.7 g/dL)と溶血所見を認めた。翌日にはHb 4.0 g/dLと貧血が進行し,直接抗グロブリン試験(direct anti globulin test:DAT),間接抗グロブリン試験(indirect anti globulin test:IAT)強陽性を呈したことより,自己免疫性溶血性貧血と診断された。その後赤血球濃厚液を4単位輸血,ステロイド剤を大量および漸減投与し,貧血は改善,自己抗体は急速に減弱し,IATは13病日に,DATは28病日に陰性化した。43病日に薬剤リンパ球刺激試験を施行したところ,LVFXに対し陽性であり,臨床経過と併せ,本例はLVFXによる薬剤性免疫性溶血性貧血(Drug-induced immune hemolytic anemia:DIIHA)と推測された。DIIHAは稀な疾患であるが抗生物質,降圧剤など身近な薬剤での報告があり,本例のように重症化することもあるため,注意が必要である。DAT陽性例に際しては患者の貧血,溶血の有無に留意し,薬剤が原因であることも念頭に置いた精査が重要である。
著者
由谷 仁 中川 恵嗣 諏訪園 秀吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1944, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)をはじめとする神経難病においては,筋力低下の進行が発声器官におよび,コミュニケーションに大きな問題をもたらす症例が少なくない。また進行に伴い通常のスイッチが押せなくなるなどの障害が頻繁にありうるため,様々なスイッチや意思伝達装置を再検討し,身体状況に合わせて使用しているのが現状である。2013年末,パーソナルコンピューター(以下PC)のマウスカーソルを視線で操作出来る装置The Eye Tribe Tracker(以下EyeTracker)が開発された。我々は第68回国立病院総合医学会に於いて,EyeTrackerをALS患者に試用し,臨床での有用性を検討した。その際,マウスカーソルは眼球運動にて動かし,クリックは右足関節底屈による空気圧スイッチにて行う方法であった。今回は注視によりクリックが可能となるソフトウェア「しのびクリック」(吉村隆樹作)を使用し,眼球運動および注視によって意思伝達装置を操作出来るようにした。このEyeTrackerをALS患者1名と演者にて試用し有用性を検討したので報告する。【方法】対象者はALSにて意思伝達装置を使用している60歳代女性1名(以下,症例)と演者で,症例はADL全介助,右足関節底屈にて空気圧スイッチを操作している。使用機器はEyeTracker(Eye Tribe社製)およびEyeTracker用専用ソフトウェア,意思伝達装置としてHeartyLadder,クリックするソフトウェアとして「しのびクリック」,それらをインストールしたPC(OS:Widows7)である。環境設定として,Bedの背上げ角度は15~30°,アーム式PC固定具およびHeartyLadderCD付属のワンタッチ短文入力画面を使用した。方法は眼球運動および注視によって同一の短文(17文字)入力を行った。評価としては,1)利用の適否,2)試行した時間,3)入力に要した時間,4)生じ易いミス・誤作動,5)眼球運動・瞬目・開閉眼など,6)要望・感想とした。【結果】1)演者は利用可能,症例では入力が不安定。2)演者は30分程度,ALS患者は一週間に一度30分程度を3ヶ月程度実施。3)演者は32秒,症例はミスが多く不可。4)マウスカーソルが,見ている場所と若干ズレることにより正確な入力が難しい。クリックまでの時間設定が難しく,選んでいない文字を選択し易い。5)症例の眼球運動はゆっくりでも速い動きでも特に問題なし。瞬目・開閉眼は上下眼瞼部の動きが不十分で努力を要す。連続5分程度使用すると,上眼瞼部の軽度下垂が認められる。6)一文字に焦点を合わせること,注視すること,それを短時間でも継続することが疲労をもたらしやすい。【考察】演者では文章作成可能であったが,症例では困難であった。この問題点を大きく分類すると「目でマウスを動かすこと」と「目でクリックすること」の2点に分けられる。「目でマウスを動かすこと」はPCとEyeTrackerと目との位置関係を適切に設定すること,視線をEyeTrackerがしっかり認識することが必要不可欠である。その際,眼瞼下垂によって瞳孔に上眼瞼が近づきすぎるとEyeTrackerが上手く認識出来ないことが多いと思われる。「目でクリックすること」はしのびクリックを使用して可能であるが,文字を一定時間注視し,視線を固定することが必要となる。この一定時間注視し視線を固定することが症例では難しく,ミスが多くなり文章が作成できなかった要因と思われる。また瞬きでクリックできるような改善も望まれる。よって現時点での最もよい適応としては,上眼瞼部の下垂が少なく,連続で注視しても目の疲労が少ない人であると考えられる。また現在,使い易くするためには個人でプログラミングする必要があるため,技術を持った人間が多く関わることで,より適応範囲が広がると思われる。以上から,現時点での(ソフト開発を自在に行わない範囲)EyeTrackerの臨床適応範囲が明確となり,症例を選べば極めて有用である可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】EyeTrackerにより視線入力を可能にすることで,更なる症状の進行にも対応出来る可能性が広がり,コミュニケーションの継続が期待できる。また,世界中でIT及びプログラミング教育の必要性が叫ばれており,日本に於いても国策として「産業競争力の源泉となるハイレベルなIT人材の育成・確保」という項目が挙げられている。今後はrehabilitationとITはより密接な関係が必要であり,我々の活動分野の拡大にもつながるため,非常に意義がある。
著者
山崎 英則
出版者
神戸親和女子大学教育専攻科
雑誌
教育専攻科紀要 (ISSN:13432850)
巻号頁・発行日
no.12, pp.23-39, 2008-03
被引用文献数
1

ディルタイは『精神科学序説』(1883)の中で生の哲学を前提とした精神科学の体系的な基礎づけを行っている。彼は知覚,思惟,論理学,意識,省察,思慮について明らかにしていく。彼の場合,生こそが哲学の出発点であった。彼の弟子のシュプランガーは生のプロセスを有意味的な連関として,精神科学的心理学に基づく精神科学的教育学を構築した。この論文では,生の哲学者の代表的存在である2人に焦点を合わせて,人間学とそれによる教育論を紹介し,その応用可能性について探っていきたい。