著者
河合 直樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.586-593, 2000-03-15
被引用文献数
3

木目模様は最も代表的なテクスチャの1つであり,コンピュータグラフィクスによるソリッドテクスチャ生成技法も種々報告されている.従来の技法では木目の年輪模様の再現に注力されてきたが,年輪以外の微細組織の表現や繊維の流れに関する研究は少なく,得られる質感は十分ではなかった.本論文では樹木の内部構造に着目し,木理と呼ばれる樹木内部の繊維配向性をモデル化する.代表的な木理のパターンと一般的な木理の記述手法を示した後,レンダリング時に必要な局所的な座標変換に基づいたモデルを示す.次に微細組織の例として道管と呼ばれる鉛直な組織について,代表的なパターンのモデリング技法を示し,呈示した座標変換を作用させて表示することで,木理のモデルの妥当性を検証する.続いて微細組織の簡易的な表現として提案されている明度シフト法を,年輪構造と微細繊維組織を一元的に記述する手法として一般化し,木理による座標変換を作用させることにより,樹木構造の合理的な記述手法を提案する.最後に繊維の勾配に依存する鏡面反射モデルを導入し,木理の影響で材面に現れる光源と視点に依存する反射現象をシミュレーションする.これらの手法を導入することで,従来法よりもリアルな質感表現が可能になり,CG映像や産業デザインにおいて有用な品質高いソリッドテクスチャを生成することが可能な技法を示すことができた.Wooden grain is one of the most representative of textures. However the solid textures of wooden grain are not enough to represent the reality of a material because of their lack of microstructures and fiber stream, with the exception of annual rings. In this paper, a geometric model is proposed for wooden grain and fiber stream by concentrating on the internal structures of wood. Representative features of wooden grain are described and geometric transformations for rendering are introduced. Geometric models of vessels are given as examples of typical microstructures. Then the effect of modeled grain is verified by calculating the image of the vessels on lumber. The shifting brightness technique is also extended as an easy way to express microscopic fibers. It is integrated technique for expressing all the vertical structures including the annual rings. Finally a specular reflection model which depends on the gradient of fibers is introduced. Then cross grain, which is an anisotropic reflection caused by varied fiber gradients, is simulated. This new procedure can generate more realistic wooden textures than before. This procedure makes it possible to provide high-quality solid textures which are useful for CG production and industrial designs.
著者
篠原 勝次 山本 吉朗
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌. D, 産業応用部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. D, A publication of Industry Applications Society (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.126, no.9, pp.1161-1170, 2006-09-01
被引用文献数
14 15

The direct ac/ac converters have been investigated in the last two decades because they had no dc-link component for large energy storage. In, Japan, 10kVA-40kVA matrix converters were developed in 2005. The direct ac/ac converters are classified into two main categories, namely, the matrix converters and the direct ac/ac converters with dc Link. And various control strategies for them have already been proposed. This paper discusses and summarizes main circuits, control strategies, overvoltage protection, and ride-through capability of the direct ac/ac converters.
著者
細谷 律子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.332-338, 2014

難治化したアトピー性皮膚炎患者の中には,掻破が習慣性になっているものが少なくない.無意識に,イライラして,衝動的に,あるいは不安から逃避的に皮膚を掻破していることが多く,心理的依存状態を形成している患者もいる.掻破行動やかゆみ,あるいはアトピー性皮膚炎そのものにとらわれている(精神交互作用が生じている).そのような患者に筆者は単に「掻くな」と指導するのでなく,生き方や考え方の転換を目指し,外来森田療法を行っている.日記を介在させたり,患者同士が経験を話し合える場を提供しながらあるがままの態度の実践を指導する.その結果患者に気づきと意識の転換が生まれると,とらわれからの解放,症状を受容する心が生じる.さらに人生の受容につながっていくことも多い.勇気をもって自己実現に挑むようになり,これらの結果掻破行動は減少し,皮膚のバリア機能の回復が促進し皮膚症状はめざましく改善していく.
著者
林 良雄 PILLAIYAR THANIGAIMALAI
出版者
東京薬科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

受入研究室におけるこれまでの研究から、SARSシステインプロテアーゼを阻害できる新しい阻害機構として、親電子性アリールケトン構造が有効であることを確認し、P1部位側鎖部にピロリドン型環状構造を有するアミノ酸誘導体およびカルボキシル基部分にチアゾール-2-ケトンを有するトリペプチド型化合物(Cbz-Val-Leu-amino-3-oxo-3-(thiazol-2-yl)propyl)pyrrolidin-2-one)が比較的良好なウイルスプロテアーゼ阻害活性を有することが解っていた。実用的創薬化合物の創製に向た阻害活性向上のために、平成23年度はP4部位およびアリールケトン部位の構造活性相関を進め、親水性構造をP4位に有し、10nMレベルの強い阻害活性(Ki)を示すトリペプチド誘導体を見いだすに至った。本年度においてはこの研究を更に進め、P3部位を除去した「ジペプチド型ペプチドミメティクス」の創製に新たに挑戦した。即ち、P3位Val残基の除去した。その結果、最初は酵素阻害活性が大きく低下したが、種々の誘導体を合成し、構造活性相関を検討したところ、阻害活性が徐々に向上し、先ずは中程度であるが興味深い酵素阻害活性を示すジペプチド型化合物を得ることに成功した。そこで、この化合物のP3位にあるN-arylglycine構造に注目し、構造最適化を行なった結果、酵素阻害活性(Ki)値が6nMという強力な阻害活性を示すジペプチドミメティック化合物を得た。標的プロテアーゼとのコンンピューターを用いたドッキングスタディーから、この化合物のIndole環窒素原子が、プロテアーゼのGlu166残基と新たな水素結合を形成することが示唆された。この相互作用は、化合物がプロテアーゼを強力に認識する上で有効であったために、阻害活性が大きく向上したものと考えられる。
著者
空海 書
出版者
平凡社
巻号頁・発行日
vol.第1帖, 1935
著者
大島 伸一
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.49-57, 2015
被引用文献数
4

超高齢社会の急速な進行によって,医療需要の重心が高齢者層に大きく移動しており,医療のあり方,医療提供のあり方について,バラダイムの転換が求められている。<br>20世紀は「治す医療」を展開し,大きな成果を得た時代であった。治すとは臓器の傷害の原因を見つけ,これを取り除くものである。60歳台までは,病気は一つの臓器に一つの傷害として現れるため,「治す医療」への要請は高かった。しかし,平均寿命が80歳を超えた21世紀では,老化という過程に生活習慣病が加わる慢性の全身疾患という病態への医療需要が最大なものとなる。<br>高齢者では,全身との適正な均衡状態を考慮に入れずに,一臓器の傷害を治そうとすれば,全身と個別の臓器機能との調和に不都合が生じ,全身状態が悪化する。そのため高齢者の医療ではただ治すだけでなく,その人が求める生活が実現できるように自立機能を整えて支えてゆく医療が必要となる。<br>もう一つは,病院中心の医療から地域全体で診てゆく医療へのパラダイムの転換である。日本は,これまで誕生から死までの全てを病院で行う医療の提供体制を構築し,皆保険制度で支えてきたが,その限界がはっきりと見えてきた。<br>今後は,財源にもサービス提供にも限りがあるという理解のもとに,医療の有効,効率的な提供方法として,病院には病院にしかできない機能に特化し,医療・介護を一体的に地域全体で提供してゆく体制に変えなければならない。
著者
大柴 小枝子 小舘 亮之 荒川 薫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会総合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp."SSS-4"-"SSS-5", 2010-03-02

ブロードバンド環境の構築など電子情報通信分野における急速な技術進歩は、競争のグローバル化を進展させている。そのため経済の持続的な繁栄や市民生活の安定、ざらには、社会を取り巻く環境、エネルギー問題対策など、未来を切り開くためには科学・技術の一層の発展と研究成果からの絶えざるイノベーションの創出が求められている。そのようなイノベーションを創出できる研究開発人材の確保が重要となるが、一方で、将来を担う研究者となるはずの博士号取得者が就く常勤職が少ないなど、その就職が社会問題化している。本企画では、企業・研究所のトップ・経営層、第一線で活躍する大学教育者の視点から、「今必要とされている理工系人材」および、「将来のイノベーションシステムのあり方」について課題を提議する。さらにパネルディスカッションにおいては、産業界において博士号取得者を有効に活用するにはどうしたらいいのか、大学でどのような人材教育をすべきであるか、未来を切り開く理工系人材にはどのようなことが求められているか、などの課題を参加者とともに考える。
著者
河田 耕一
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.1137-1138, 2006

企業の研究所は時代とともに変化する.ここでは1960年に設立され、2003年に閉鎖したM研究所をケーススタディとして、その歴史と各時代での研究思想、およびいくつかの研究についての成功·失敗要因を分析し、次の時代での研究所のあり方を考える.
著者
高橋 雅洋 岸 光男
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.137-147, 2006-04-30
被引用文献数
4

85歳高齢者,歯周組織の健全な若年成人(以下,健常者)およびその中間年齢層にあたり,歯周治療後のメインテナンスのために定期受診している者,合計292名から舌苔を採取し,菌種特異的PCR法により,4種の歯周病原性細菌と2種のミュータンスレンサ球菌を検出し,検出率を比較した.また,85歳高齢者と健常者においては歯科疾患関連細菌の検出と口腔内状況との関連を検討した.結果を以下に示す.1.無菌顎者の舌苔からの4種の歯周病原性細菌の検出率は低かった.また,有歯顎高齢者を含むその他の被験者群中では,健常者からのPorphyromonas gingivalis, Treponema denticolaの検出率が有意に低かった.これらより,歯周病に罹患していない者,歯周病感受性がない者の舌苔は,歯周病原性細菌の棲息部位となりにくいことが示された.2.健常者において舌苔と歯垢からの歯科疾患関連細菌の検出状況を比較したところ,T. denticola以外の細菌で,舌苔と歯垢からの検出に関連が認められた.さらに歯周病原性細菌に関しては,舌苔からの検出率が歯垢より高く,いずれか一方から歯周病原性菌が検出された場合には,主として舌苔からであった.これらの結果から,舌苔は口腔他部位への細菌の供給源であると同時に受容部位としても働き,さらに口腔他部位の細菌叢と相互に関連し合って,口腔全体の細菌叢を構成しているものと考えられた.
著者
大和 礼子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.40-40, 2002-03-31 (Released:2010-11-18)

スウェーデン政府は1995年から「女性の権力調査」というプロジェクトを行った。本書は, その一環として1996年に行われた, 質問紙とインタビューからなる調査報告書の翻訳である。この調査研究の理論的枠組みは次のようなものである。 (1) 家族生活の組織方法についての伝統的規範が弱まった現代のスウェーデンにおいては, 家事・賃金労働, 家庭内のお金の組織化は, 夫妻 (サムボとよばれる同棲関係を含む) 間の「交渉」によって決められる部分が大きい。 (2) なにが交渉に影響を及ぼすかについて, 3つの仮説 ((1) 経済的合理性, (2) ジェンダーに関する文化的既成観念, (3) 権力資源) がある。 (3) この研究では, 交渉において夫妻間には利益の不一致があることを前提にする, つまり (3) の権力資源仮説にとくに注意を払う。 (4) 交渉の結果は, 短期的・長期的に夫妻関係に影響を及ぼす。このような枠組みのもとで調査研究が行われた結果, 明らかになったのは, 第1に, 男女平等規範の浸透にもかかわらず, 実際の家事・賃金労働, お金の組織化には多様性があるということである。一方の極には家父長的な分担を行っている家族, もう一方の極には男女平等な分担を行っている家族があり, そして残りはこの2極の間に位置している。2極の間に位置する家族には, 共通したジェンダー関係のパターンがみられ, それは「男女ともに賃金労働につき家計に貢献することが基本とされるが, 子どもが幼い間は母親が育児の責任をおもに取るべきであり, また家事は男性も一部しなければならないが, おもに責任をもつのは女性である」というものである (ただしこの共通性を強調しすぎるのは危険だと著者らは述べている) 。第2に, なにが交渉に影響を与えているのかについては, 経済的合理性, ジェンダー観念, そして権力資源のどれもが, ある程度影響を与えている。ただし育児休業の取得については, 「育児は母親の責任」というジェンダー観念の影響が強い。第3に, 交渉の結果, とくに家事の分担に関して, 妻の側に不満が高く, これは家事分担に権力がかかわっていることを示す。また交渉についての不満・対立によって関係の解消 (離婚) にいたる場合もあるが, 過去の交渉の結果は, 離婚後の生活についての交渉や, 生活そのものにも影響を及ぼす。以上のような骨格だけの紹介では十分示すことができないが, この調査研究は「交渉」という概念を採用し, インタビュー調査を合わせて行ったことによって, 家事の分担, 育児休業の取得, お金の管理方法や配分などが夫妻間で決められていく過程を生き生きと描き出しており, 夫婦関係についてのさまざまな洞察や新たな仮説を考えるためのヒントに満ちている。また第1章で, この問題を考察するための3つの主要な仮説が, その学説史をも含めて整理されていて有用である。夫婦関係に関心をもつ人, 現代のスウェーデン家族に関心をもつ人には, ぜひ一読を勧めたい。
著者
加藤 康子
出版者
北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院 = Graduate School of International Media, Communication, and Tourism Studies, Hokkaido University
雑誌
国際広報メディア・観光学ジャーナル
巻号頁・発行日
vol.20, pp.35-54, 2015-03

The “OYOYO” is an art community organization operated by members of a civic volunteer group in Sapporo. Through their activities the members of OYOYO attain the skills to overcome the difficulties of daily living in Japanese modern society and empower others wll being. Although OYOYO is a specialized community in arts, why does this community exercise such an empowering function? This paper provides several lines of evidence that an art community organization can function as “the intermediate area where anybody can negotiate a framework of values throughout their actual practices and conversations. This study will explore generating mechanisms of empowerment by participant observation research.