著者
荒井 修亮 光永 靖 坂本 亘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

世界に生息するウミガメ類は亜熱帯域から熱帯域を中心に、摂餌・産卵回遊を行っている。現在、ウミガメ類の全種において、その生息頭数が減少していると言われている。特に東南アジアにおけるアオウミガメ、タイマイ、オサガメ、ヒメウミガメについては絶滅の危機に瀕しているとされているが、その生態については全く未解明であった。このため本研究において、これらのウミガメ類の内、特にアオウミガメについてその回遊経路を解明すべく研究を開始した。具体的にはアオウミガメの回遊経路を人工衛星送信機(アルゴス送信機)を甲羅に装着することによって追跡を行った。平成13年度に12台、平成14年度に12台の合計24台のアルゴス送信機をタイ国のタイ湾側とアンダマン海側、並びにマレーシアのタイ湾側で産卵のために上陸したアオウミガメの雌成体に装着して追跡した。その結果、タイ湾側においては湾奥に位置する産卵場から放流したアオウミガメは大きく次の回遊経路を辿った。1.タイ湾を東へ海岸沿いに回遊し、カンボジアないしはベトナム沿岸へ行く経路。2.タイ湾を東へ沖合を横切り、南シナ海へと辿る経路。3.沿岸を回遊する個体。アンダマン海においては、産卵場であるシミラン諸島フーヨン島からの放流個体の殆どがアンダマン海を横切り、インド領であるアンダマン諸島沿岸へと回遊した。このようにタイ湾およびアンダマン海ではそれぞれ摂餌を行う海域が異なっていることが明らかとなった。これらの海域の個体が遺伝的に隔離されているか、あるいは交流があるのかについて、DNAによる解析を行った。この結果、両者には殆ど差違がないことが分かった。本研究期間中、タイ国を中心にアセアン諸国のウミガメ研究者を招き、SEASTAR2000ワークショップを3回(平成13年度プーケット、平成14年度及び15年度バンコク)開催し、プロシーディングスを出版した。更に本研究の成果を下に平成16年3月、タイ側共同研究者1名に京都大学学位が授与された。
著者
関 礼子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.461-475, 1997-03-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
28
被引用文献数
3 2

本稿は, 自然を地域社会の「環境世界」と捉えるという視点から, 自然保護運動における運動行為者の「自然」の意味を考察するものである.ここで中心的に見てゆくのは, 地域住民の運動から, 世論を巻き込んだ全国的運動に展開した, 愛媛県今治市の織田が浜埋立反対運動である。この運動を通して, (1) 織田が浜という自然が, 客観的抽象概念としての自然ではなく, 地域社会の行為や文化, 歴史を映し出す具体的なものとして保護運動の対象となっていること, (2) 運動は世論喚起をするなかで新たな運動行為者をリクルートしてゆくのだが, 新たに運動に参与する人々にとっても, 織田が浜は単なる客体ではなく自分史を投影するものとなっていることを明らかにする。住民が自分の地域の自然を守るという態度は, 地域外部の人々にも開かれている。織田が浜を離れた人, 今治や愛媛を離れた人にとって, 織田が浜運動は思い出や郷里を守ることに繋がった。また, 海を汚染や埋立から守るという点で, 同じような経験を持つ人々とも繋がった。地域が自然と育んできた関係性を運動を通して考察することから, 自然保護運動が, 運動行為者の記憶を守る運動, 故郷への精神的紐帯を求める運動でもある点を論じる。そこから, 自然が持つ社会的な意味がより明確に浮かび上がってくると考えるからである。
著者
古屋 宏二 川中 正憲 山野 公明 佐藤 直樹 本間 寛
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.320-326, 2004
被引用文献数
4

北海道の多包性エキノコックス症患者血清材料を用いて, 市販エキノコックス症血清診断キット"<I>Echinococcus</I> Western Blot IgG" (以下FIA (French immunoblot assay) と略; Ldbio Diagnostics, Lyon, France) の臨床検査的評価を行った. 使用した80血清のうち64検体は術前多包性エキノコックス症患者血清, 9検体は術後患者血清, 7検体は北海道の一次検診でELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 陽性となり感染が疑われた住民の血清であった.<BR>1987年から1993年の間に北海道立衛生研究所で実施したウエスタンブロット血清検査法 (Hokkaido Western blot method, 以下HWBと略) による試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち53例が陽性, 6例が疑陽性であっ た (陽性例+疑陽性例の割合: 92.2%). 53陽性例のうち43例が多バンド形成の完全型, 10例が寡バンド形成の不完全型と判定された.<BR>一方, FIAによる試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち60例 (93.8%) が陽性, 4例が陰性であった. 60例の陽性例のうち, 47例 (78.3%) がP3, 5例 (8.3%) がP4, 8例 (13.3%) がP5パターンを示した. HWBで完全型と判定された血清のすべてはFIAでP3パターンとなり, 高力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>反対に, HWBで不完全型あるいは疑陽性と判定された血清のほとんどはP4あるいはP5のような他のパターンとなり, 低力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>極端に低力価の抗体を示す症例の病理学的解釈はさておき, FIAの使用はHWBで判定が苦慮される疑陽性例について血清学的に判定を容易にするなど, FIAは高感度で有用な試験法であると考えられた.
著者
田口 由香
出版者
大島商船高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構大島商船高等専門学校紀要 (ISSN:18814891)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.69-75, 2011-12-01

This paper aims to study the relationship between the Choshu Clan and Britain under sending troops of the Tokugawa shogunate to the Choshu Clan, and focus on a point of view of Britain. In 1864, the Tokugawa shogunate ordered feudal lords to send their troops to the Choshu Clan. In 1866, the war between the Tokugawa forces and the Choshu clan finally broke out. British ministers to Japan communicated with some Choshu retainers several times during the two years. In this paper, the relationship between both sides is made an analysis from point of view of Britain, based on some British despatches and letters.
出版者
京都大学西洋古典研究会
雑誌
西洋古典論集 (ISSN:02897113)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.3-3, 2010-03-28
出版者
日経BP社
雑誌
日経情報ストラテジ- (ISSN:09175342)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.212-215, 2001-02

「A店の空調設備の修理は、来週までに完了する予定だったな。念のため、工事の進ちょく状況を確認しておこう」。 愛知県に地盤を置く家電販売店チェーンのエイデン。店舗の空調設備の保全を担当する、エイデン開発の米津義人企画部課長は、デスクにあるパソコンの操作を始めた。しばらくすると、画面上には全店舗の空調設備の一覧表が表示される。
出版者
日本交通社
巻号頁・発行日
vol.第1号, 1922
著者
Yuki Sonoda Akari Hayashi Yasuto Minamida Junko Matsuda Etsuo Akiba
出版者
(社)日本化学会
雑誌
Chemistry Letters (ISSN:03667022)
巻号頁・発行日
pp.141202, (Released:2015-01-27)
被引用文献数
1

Nanostructures of porous carbon materials were controlled with a soft-template method for the purpose of expanding their applications. When 2,6-dihydropyridine hydrochloride, a nitrogen containing compound, was used as a carbon precursor in addition to resorcinol, larger pores over 50 nm appeared besides mesopores. The condition of such large pores being formed was examined in detail, and then acidity was found to a key factor for large pores rather than the presence of nitrogen atoms.
著者
ヤーッコラ伊勢井 敏子 広瀬 啓吉 中 貴俊
出版者
中部大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は,フォルマント数値を用いて空間スペースにおける母音位置の三次元可視化(3軸上にF1~F3,F1~F2+F4を使う)を実現するものである.研究者が言語内および言語間の母音距離を表示できること,さらに,外国語学習者がユーザーフレンドリーなツールとして母音学習に役立てるために開発することを目的とする.全言語の母音表示を可能とするものである.本年度の研究成果として,研究者が未知の母音音素(各言語においてフォルマント母音図で位置が決まらない母音音素)について定量的にフォルマントの計測をし,位置を決め,更にその位置から伝統的な母音図を応用予測して適切な母音を決定できるようにするため,IPA母音すべてを任意に選択できる機能を追加した.また,学習者が英語モデル母音音素を何度でも聞こえるよう,母音をクリックするだけで音声が聞こえるように改善した.また,モデル音素を静的に置き,母音フォルマントを基本に学習者の音声が動的に動くシステム作りのベースを開始した.実験として日本語学習者の英語母音習得(特に短母音)の程度を英語母語話者と比較した.3次元フォルマント母音図とフォルマントの単純グラフを比較表示すると,前者の方が後者より圧倒的に視覚的効果があるだけでなく,母音間の距離感がより明瞭に分かることを実証した.本研究は今後音声認識技術を取り込めば全言語対応の母音学習ツールとしてより効果が見込め,これまでの研究成果発表の経験から,研究者にも学習者にも需要が高まるであろうことが十分予見できる.なお,本研究のベースとなった3次元可視化システムの応用性について,英語の筆記体を取り上げた.筆記体は現状の英語教育では看過されている.実態調査を行ったが,多くの大学生が読めないし書けないけれども,読みたいし書きたいという要望が多かった.更に,習得により将来何らかの利益があると考える学生が多かった.アルファベット筆記体を英語学習者に習得させることには意義がある事を実態調査が示した.即ち,アルファベット筆記体を3次元空間スペースで認知学習させる重要性も高まったと見てよいだろう.

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著者
富山房編輯部 著
出版者
富山房
巻号頁・発行日
1926
著者
植阪 友理 光嶋 昭善
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.398-411, 2013 (Released:2014-05-21)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

説明文に比べると研究は少ないものの, 文学作品の指導が子どもの表象や認識に及ぼす影響を検討することは, 生涯にわたって文学を楽しむ大人を育成するためにも重要である。文学は読み手が体験を踏まえて再構成する自由度が大きく, 説明文よりも多様な状況モデルを許容する。中でも俳句は最も文字数が少なく, この特徴を強く有している。一方, 現在の俳句指導は解釈が定まっている名句の鑑賞が中心であり, 作句活動や相互の鑑賞活動はあまり行われていない。このため俳句本来の面白さに気づくことが難しい状態である。そこで名句の鑑賞のみならず, 作句活動や相互の鑑賞活動を取り入れた新たな単元構成を提案し, 子どもの認知に及ぼす効果を検討した。また, 鑑賞会では, (1)創作者を匿名とし, 創作者も鑑賞者と一体化して鑑賞させる, (2)鑑賞や創作の技法を明示的に教えるなどの工夫を加えた。ある児童の句に着目してやり取りを分析した結果, 異なる状況モデルを共有することで, 個々の児童の想定を超えたより豊かで新しい状況モデルが生み出されうること, 文学に対する興味が喚起されていることなどが示された。最後に, この指導から得られる新たな心理学研究の可能性を論じた。
著者
井川 克彦 長谷部 弘 阿部 勇 奥村 栄邦 西川 武臣 小林 延人 高橋 未沙 土金 師子
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

江戸後期において上田小県地方は生糸主産地の一つであり、その生糸は前橋の生糸市に集荷され、桐生などの絹織物の原料となった。横浜開港後にその生糸生産はさらに拡大して明治を迎えたが、この地方では器械製糸業がなかなか勃興しなかった。上田商人や生糸流通構造の実態を明らかにすることに努めた結果、養蚕と結合した農家小商品生産の部厚い存在、買い集める上田生糸商人の資本基盤の小ささを見通すことができた。
著者
黒田 俊郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会中国支部研究集録
巻号頁・発行日
no.40, pp.30-31, 1999-07-29

東北タイとラオスはおおむね熱帯モンスーンの地帯にある。したがって雨の降る雨期と雨の降らない乾期とが季節的に巡って来る。そしてたいていの稲作は雨の降る雨期に行わる。灌漑設備があれば乾期にイネを作ることは可能であるが、残念ながら人工的な灌漑設備のある水田は多くない。人工的な灌漑設備をもたない水田-天水田-では、村人は豊作を祈って年々の雨の降り具合に一喜一憂することになる(第1・2表)。

1 0 0 0 OA 吉田松陰

著者
徳富猪一郎 著
出版者
民友社
巻号頁・発行日
1905
著者
小井土 雄一 近藤 久禎 市原 正行 小早川 義貴 辺見 弘
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.495-501, 2011-12
被引用文献数
1

背景:今日の急性期災害医療体制は,阪神淡路大震災の反省に基づき研究が行われ,研究成果が国の施策に活かされることにより構築された.その本幹を成すものは,災害拠点病院,DMAT(災害派遣医療チーム),広域医療搬送計画,EMIS(広域災害救急医療情報システム)の4本柱である.今回の震災においては,くしくもこの新しい急性期災害医療体制が試される結果ともなった.しかしながら,今回の震災における医療ニーズは,阪神淡路大震災とは全く違ったものであった.DMATにおいても,これまで超急性期の外傷を中心とする救命医療に軸足を置いてきたが,今回の震災においては,また新たな対応を要求された.目的:今回の震災においてDMATの医療活動が効果的に行われたか後方視的に検証し,課題を抽出することにより,DMAT事務局として今後のDMATのあり方に関する研究の方向性を示すことを目的とした.方法:2011年3月11日発生した東日本大震災に対して,DMAT380チーム,1,800人の隊員が全都道府県から出動した.全380チームの活動報告書を基に,指揮命令系統,病院支援,域内搬送,広域医療搬送,入院患者避難搬送などそれぞれのDMAT活動実績をまとめ,課題を抽出した.活動報告書は著者らが所属するDMAT事務局が共通フォーマットを作成し,2011年6月にインターネット配信し回収した.結果:今回の震災では,DMAT隊員1.800人を超える人員が迅速に参集し活動した.指揮命令系統においては,国,県庁,現場まで統括DMATが入り指揮を執った.急性期の情報システムも機能し,DMATの初動はほぼ計画通り実施された.津波災害の特徴で救命医療を要する外傷患者の医療ニーズは少なかったが,被災した病院におけるDMATの病院支援は十分に効果的であった.本邦初めての広域医療搬送が行われたことも意義があった.また急性期の医療ニーズが少なかった一方で,発災後3〜 7日に病院入院患者の避難等様々な医療ニーズがあったが,このような医療ニーズに対してもDMATは柔軟に対応し貢献した.考察:本震災において行われた急性期災害医療を,阪神淡路大震災時と比較すると,被災地入りしたDMATの数だけをとっても,隔世の感を持って進歩したと言え,これまでの研究の方向性が間違っていなかったことが証明された.しかしながら,今回の地震津波災害においては,阪神・淡路大震災に認められなかった様々な医療ニーズが出現し,その中には今まで研究されていない領域のものもあった.東海・東南海・南海地震が連動した場合は,今回と同じ医療ニーズが生じると考えられ,DMATに関しては,これまでやってきた阪神淡路大震災タイプ(直下地震)の対応に加え,更なる対応が必要と考える.研究の方向性に関しても,今まで課題に挙がっていなかった部分を,今回の教訓をもとに進めて行く必要がある.