著者
坂井 聰 浅香 正
出版者
(財)古代学協会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は,古代イタリアにおける都市起源の歴史的状況を,紀元前5世紀を中心に文献・考古学の両面から考察することを目的とした。研究代表者坂井は,主としてイタリア中南部のカンパニアを対象地域とし,まず前8〜5世紀における文化的状況を考古史料をもとに概観し分析を加えた。その結果を踏まえこの地域における都市の代表例として,ポンペイ遺跡をとりあげ,その都市起源に関するデータを過去の発掘報告から抽出した。とりわけ城壁建設の起源とその変遷過程に注目し,現存する城壁に先だって少なくとも2種類のより古い段階の城壁が存在することを,古代学的証拠より確認した。そのうち最も古い段階の城壁は,併存する遺物から見て前6世紀に建設されたと考えられ,先に概括したこの時期のカンパニアの全般的な政治・文化状況から,ポンペイ都市建設が,エトルスキ人の影響下に行われたとする結論を導いた。その次の段階の城壁は、従来の研究によればエトルスキ段階以降の前5世紀の建設であるといわれてきたが,ポンペイ遺跡の他の発掘データと比して,この時期に大規模な城壁建設が行われたとは考えにくく、前5世紀以降の建設である可能性を指摘した。またポンペイ都市における公共建造物の建造を中心に,都市建設後の発展に関する歴史的背景研究を行い,都市の本格的成立はヘレニズム時代以降のことであることを明らかにした。研究分担者浅香は,以上のカンパニアにおける状況と対比して,中部イタリアを対象に都市建設の歴史的背景を研究した。とりわけローマの都市起源問題を,伝承・考古史料の両面から検討し,前7〜5世紀におけるイタリア半島中南部の都市建設に関する全般的な研究見通しを立てるための,基礎的研究を行った。
著者
紺野 昇
出版者
大阪府立住吉高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

平成24年から施行の小・中学校新学習指導要領では理科での実験・実習の重視が述べられているものの、一方では、久しく小・中学校での「理科離れ」が大きな教育課題になっている。そこで、中学校理科教育の充実に役立てることをねらいとして、中学校で扱う理科実験の方法を紹介する教材や、科学に関する情報の提供を行うDVD教材の開発と、データ検索のための専用簡易ソフトウェアの開発を試みた。今回、中学校の第一分野を中心に中学校で扱う理科実験に資する教材データベース(独自に開発した専用検索エンジンソフト付き)と、科学教育に関わる動画像などの教材資料集を制作し、DVDでの配布を試みることとした。取り扱うデータは、中学校理科教育の内容を、学年と第一分野(物理・化学)と第二分野(生物・地学)の分野に6分野、さらに環境教育とその他基本実験の2分野を加えた計8分野別に、協力者とともに約150件(H24.4頒布時は80件、その後、最終データは約150件へ拡充する予定)の実験教材のデータを作成した。第一分野では実験方法等を紹介する教材を中心に、第二分野では授業を補足する教材を中心にデータベースを制作した。また、データベースの検索エンジンソフトは、Visual Basicの開発ツールにより専用のデータベース検索エンジンソフトも開発し、同時に頒布することとした。このソフトは、キーワードでの検索の他、データ名の一覧からリスト検索する方法を併用した。このデータベースには、抄録テキストの他に、画像や表も表示できるタイプに利便性を高めている。なお、このデータベース編集ソフトも今回開発した。これらのデータベース公開に向けて、Webサイトの準備も進めている。
著者
橋本 由紀子 米良 重徳 中川 香代
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では近年の企業の社会貢献(CSR)の国際的新動向を鑑み、CSRの質的向上が急務であることから、有用なCSR評価指標の開発を試みた。そのためにRavi Kirloskar Quality Performance Model(RKQP MODEL)指標を使用し、インド、プネ市の産業地区における多国籍企業を含む合計10社のCSR担当者計14名、住民計200名、地域リーダー計20名に面接聞き取り調査を実施し、結果を経年度比較と因子分析を行い、評価に重要な6因子を抽出した。また、質的調査により、住民参加型、専門部署による運営等、高評価の要件を導き出し、今後のCSRの動向を整理し、課題を提起した。
著者
根岸 雅史 投野 由紀夫 長沼 君主 工藤 洋路 和泉 絵美
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来の言語テストは、専ら「宣言的知識」を測定してきたと思われる。そこで、本研究では、「手続き的知識」を測定することのできるテストの開発を試みた。このために、大規模英語学習コーパスのテキスト分析を自動で行うことにより、学習者の習得段階を明らかにし、これを反映するようなテスト方法を模索した。「テスト」という手法自体は必ずしもうまく機能しなかったものの、作文の「チェックリスト式採点」はある程度の信頼性のある結果を得ることができることわかった。
著者
金子 恵美子
出版者
会津大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

当初の予定通り、前期後期の二回にわたり、対象群、実験群の学生それぞれ20名程度の発話を、13回程度の訓練の前後で録音し、それを書き起こした後、複雑さ、流暢さ、正確さの変化を測定した。その結果、前期においては大きなタスク効果(発話を引き出すために使用された質問が、学習者の発話に影響を与えること)が出てしまい、作動記憶効率化訓練の効果はタスクによる影響を取り除いたという想定のものとにしか結論づけることができなかった。一方、後期は作動記憶効率化訓練を行った学生の発話の変化を詳細に分析した。学生の構文的複雑さや長さが向上しても、流暢さ劣化することはなかったが、間違い数が増加した。つまり、複雑さと正確さのトレードオフ現象が観察された。また流暢さの伸びと、訓練当初の流暢さには負の相関関係がみられた。このことは、訓練開始時にすでに流暢に話せる学生は、作動記憶効率化訓練を行っても流暢さが伸びるわけではないことを示す。昨年度の結果から、極端に発話スピードが遅い学生には、このような訓練が有効であることがわかった。
著者
安達 登
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東北地方縄文人のミトコンドリアDNAの遺伝子型を明らかにすべく、東北大学所蔵の東北地方縄文人骨・計35個体を試料としてDNAを抽出し、ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析によりこれら人骨の遺伝子型を明らかにすることを目的として研究を進めた。すべての試料について、control regionおよびcoding regionの塩基置換をダイレクトシークエンス法およびamplified product-length polymorphism(APLP)法を用いて検出した。得られた結果をもとに、現代人のデータベースを用いて東北縄文人骨のmtDNAをハプログループに分類した。検査した35個体のうち、14個体について結果が得られた。観察されたハプログループは、N9b(7個体)、M7a(6個体)、D4b(1個体)の3種類であった。前年度までの研究で「縄文的遺伝子型」の有力な候補の一つと推定されたハプログループN9bは全体の50%と高頻度に観察され、北海道縄文人の分析結果と併せ考えれば、このハプログループが「縄文的遺伝子型」の一つであることは、少なくとも北日本においてはほぼ間違いないものと考えられた。しかし、北海道縄文人と比較すると、東北縄文人ではM7aが著しく高頻度であり(北海道で6.4%に対して東北では42.9%)、北海道でみられたD1aおよびG1bが観察されず、現代日本人で主体的なハプログループであるD4bが1個体のみではあるがみられるなど、これらの縄文人集団は遺伝的に必ずしも近縁であるとはいえないと考えられた。なお、東北縄文人の分析結果は既報の関東縄文人の分析結果とも大きく異なっており、今回の結果から縄文時代には既に日本人に遺伝的地域差がみられた可能性が示唆された。
著者
宮崎 歴 大石 勝隆 勢井 宏義
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

我々は睡眠リズムのパターンを乱すようなこれまでの断眠ストレスとは異なる新規のストレス負荷方法 (PAWWストレス: Perpetual Avoidance from Water on a Wheel)を見いだした。PAWWストレスをマウスに負荷すると睡眠覚醒の日内リズムが乱れ、入眠障害や活動期の眠気、休息期の頻繁な覚醒などを示す。このモデルマウスに対し、食品成分の投与を行い、その睡眠に対する影響評価を行った。また、睡眠障害モデルマウスのから血液を採取し、NMRによるメタボローム解析を行い、睡眠障害のバイオマーカーになるような代謝物の差異が認められるかどうかを検証した。
著者
遠藤 徹
出版者
東京学芸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、江戸期の高野山鎮守天野社(現、丹生都比売神社)で約二十年毎の遷宮の際に行われていた舞楽曼荼羅供とそこで唱えられた南山進流声明を、当時の式次第に則して復元的に把握することを試みたものである。とくに注目したのは、雅楽曲と声明が共奏する箇所である。当該法要が最後に行われてから百七十年を経た今日、現行伝承で当該箇所を重ね合わせても音響は調和しない。そこで、当初の意図を読み取りつつ検討した結果、声明の音程の変化を想定することになった。
著者
濱野 香苗
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

介護保険の導入が高齢者の生活上でのサポートシステムに与える影響を評価することを目的に、佐賀県の離島在住の第1号被保険者及び第2号被保険者の身体的、精神的、社会的、霊的面への介護保険の影響を明らかにした。第1号被保険者には平成17年6月〜11月、半構成的質問紙を用いて面接調査を行った。性別は男性50名、女性70名、年齢は65〜97歳、平均76.3歳であった。家族構成は配偶者と2人暮らし31.7%、配偶者と子供家族と同居26.7%、子供家族と同居23.3%、独居18.3%であった。介護保険導入により高齢者センターが建築され、入浴を含むデイサービスが開始された。それに伴い、老人会はデイサービスを手伝うボランティア活動を始めた。デイサービスや送迎バスの利用は、坂道が多く活動範囲が制限されていた第1号被保険者にとって、身体的に安楽になったばかりでなく、楽しみが増え、精神的にも良い影響があった。社会的、霊的面への影響はなかった。地域を基盤とした精神的サポート、手段的サポート、日常生活での支え合い等のサポートシステムは高い割合で維持されており、介護保険の影響は見られなかった。生活への影響は、少ない年金から介護保険料を引かれることによる経済的影響、デイサービスやボランティアに行くようになったことであった。第2号被保険者には平成18年6月〜12月、半構成的質問紙を用いて面接調査を行った。性別は男性51名、女性53名、年齢は40〜64歳、平均53.1歳であった。家族構成は親と同居51.9%、配偶者と2人暮らしおよび配偶者と子供と同居20.2%、子供と同居および独居3.8%であった。第2号被保険者においては、身体的、精神的、社会的、霊的面への介護保険の影響は見られなかった。また、地域を基盤としたサポートシステムへの影響も見られなかった。生活への影響は介護保険料に対する負担感であった。
著者
田渕 五十生 池野 範男 草原 和博 秋山 伸隆 大知 徳子 中澤 静男 森本 弘一 西山 厚 吉澤 悟 五島 政一
出版者
福山市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

「ESD」は「21世紀における市民教育」(Citezensip Education)である。我々は、「ESD」のツールとして、新しく「世界・地域遺産教育」と云う概念を造り、「何処でも誰でも」実践ができる「教材事例集」を作成した。それは、研究協力者が日本の世界遺産の全てにフィールドワークを行い、授業実践にかけて作成したものである。それを使用すれば「何処でも、誰でも」ESDにアプローチ可能な内容になっている。また、日本の教育現場では、「グローバル・シティズンシップ教育」の概念は未知である。我々は、その概念を紹介して「多文化共生」の実践事例集付きの冊子を刊行した。
著者
高尾 将幸
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は長野オリンピック開催地である白馬村および近隣自治体の事例からスポーツ・メガイベントが地域社会にもたらした固有のインパクトを解明することであった。調査の結果、(1)オリンピック関連インフラ整備が地域住民の生活圏に変化をもたらしたこと、(2)道路網整備によって宿泊を伴わない日帰り観光客が増加している一方、外国人観光客および移住者の増加をもたらしたが、そこでも固有の課題が生み出されていること、(3)地域社会におけるネットワークによって地域活性化の独自の試みが継続していること、が明らかになった。
著者
横山 祐典 NOT Christelle
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度は、海水および炭酸塩のウラン系列年代を決定するために、高精度セクター型誘導プラズマ質量分析装置(SF-ICPMS)の分析を中心に行うとともに、有孔虫の飼育試料の局所分析をレーザーを使ったICPMS(LA-ICPMS)によって行った。ウラン系列年代測定法の確立は、機器の不安定な挙動や化学処理中の混入元素除去方法の確立などに時間がかかったため、高精度の分析は行うことができなかったが、誤差がまだ大きいものの、安定な分析は行えるに至った。また、飼育有孔虫の局所分析については、共同研究者から提供された、複数の異なるpH区で飼育した有孔虫試料について、微量金属の挙動をLA-ICPMSにより分析した。この研究は現在進行中の人為起源気候温暖化に伴う、大気二酸化炭素上昇と並行しておこるとされる海洋酸性化が、海洋生態系へどのような影響を与えるかについて、予測する上で重要なデータを与える研究である。海洋酸性化が、特に炭酸塩の殻を持つ生物に与える影響は、マイナスであるとするものの他に、pH区間によってはプラスに作用するという報告もあり見解の一致は見られていない。今回の研究では、特に過去の水温復元やpH復元に利用されている微量金属の挙動について明らかにした。その結果、全ての種において一致した挙動を示すのではなく、また元素によっても異なる挙動を示し、問題の複雑さが明らかになった。しかし、一般的に言えることは、共生藻をもつ種と持たない種によっての挙動の一致は認められ、今後の実験のデザインをする上で貴重な情報となった。この研究はこれまで報告が無いことなるpH環境下で飼育された有孔虫試料の局所分析を行った世界で初めての研究となり、結果を国際誌に投稿した。
著者
本間 猛
出版者
東京都立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究課題は、最近の言語理論である最善性理論(Optimality Theory)の展開を調査し、その知見を日本語音韻論の理論的研究に応用することが目的であった。この目的を達成するために、最善性理論の枠組みに基づく研究において提案されている「制約」を詳しく検討し、その結果に基づき、制約を分類整理し、その目録を作ることを具体的な目的に据えた。最善性理論とは、1992年前後からアメリカの音韻理論の研究者が中心となって開発をすすめてきた言語理論で、その理論では、「制約」(constraints)が、重要な役割を果たしている。言語は、互いに相矛盾する可能性のある複数の制約の相互作用の結果、生み出されるものであるとされる。ある制約の要求を満たすためには、別の制約を破る必要があるかもしれないということである。また、制約は、普遍的であると考えられ、どの言語の文法にも含まれており、ある特定の言語の文法は、ある特定のしかたで順位付けられた制約の階層であるとされる。平成11年度におこなわれた研究を引き継いで、平成12年度(今年度)は、さらに、制約の分類整理のための基準を検討した。その結果、制約は、有標性制約群(Markedness constraints)、忠実性制約群(Faithfulness constraintsまたは、Identity Constraints)、整列制約群(Alignment constraints)に大別されるとする見方が有力であることが分かった。さらに、それぞれの制約の群は、下位区分を持っている。有標性制約群は、分節有標性制約群(Segmental markedness constraints)や音素配列有標性制約群(Phonotactic markedness constraints)などに分類される。忠実性制約群は、どの要素が他のどの要素に忠実であるかにしたがって、下位区分される。要素間の関係については、対応理論(Correspondence Theory)と呼ばれる下位理論が開発されている。最近の成果については、The Prosodic-Morphology Interface(Kager,van der HulstおよびZonneveld編集,Cambridge University Press)に収録されているMcCarthy and Prince(1999)"Faithfulness and Identity in Prosodic Morphology"が参考になる。本研究課題の成果として、忠実性制約群の下位区分の一つである共感制約(Sympathy Constraint)を用いる共感理論(Sympathy Theory)に関する二つの論文を仕上げ、出版の予定である。共感理論とは、実際の出力の形式と潜在的に出力になりえる形式との間の忠実性を問題にする理論である。詳しくは、McCarthy(1999)"Sympathy and Phonological Opacity"(http://www-unix.oit.umass.edu/^-jjmccart/にて入手可能、Phonology Cambridge University.Pressにて、出版予定)を参照のこと。また、英語の音素配列に関する論考をまとめ、著書の一部として、出版の予定である。
著者
柳瀬 亘
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

地球上には熱帯低気圧(台風やハリケーンの総称)、温帯低気圧、ハイブリッド低気圧(複数のメカニズムが影響)など、実に様々な低気圧が形成していることが衛星画像や天気図からもわかる。このような低気圧の多様性を理解するため、低気圧の気候学的な分布を解析した上で、低気圧の発達と環境場との関係を高解像度の数値モデルによる理想化実験で調べた。この結果、気候学的な低気圧の発達や性質は単純化した環境場でも説明できることが確認された。また、亜熱帯は熱帯低気圧の発達にとっても温帯低気圧の発達にとっても中途半端な環境場であること、海洋の西部はハイブリッド型の低気圧が発達しやすい環境であることなどが示された。
著者
山延 健
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

高分子の融液からの結晶化は、材料成形プロセスおよび成形物の構造物性と密接に関係する極めて重要な過程である。従って、結晶化過程をリアルタイムで解析し、また結晶化物を平均値としてではなく、局所的に超微細構造解析し、結晶化機構を解明することは、学問的にも工業的にも重要な課題である。NMR法は結晶化過程、特にダイナミックスについてリアルタイムに観測する有用な方法である。本研究では、パルスNMR法の高感度化を行い、更に様々な応力下で測定を可能にし、溶融結晶化機構をリアルタイムで解明するともに、結晶化過程の結晶の生成、成長、厚化等を詳細に解明し、高分子材料成形の基礎的研究手法を確立することを目的とする。上記の目的のためにまず、プローブの高感度化を行った。これはプローブのフィリングファクターを改善することで達成される。そこで、試料管径を半分の5mmとしてプローブの設計を行った。その結果、プローブの感度が約20倍向上した。このプローブの性能を確認するためにポリプロピレンの重合パウダーの構造解析を行った。ポリプロピレンの重合パウダーは結晶化度が非常に低く、これは重合直後の結晶化により、通常の結晶化とは異なる機構で結晶が生成しているものと考えられる。そこで重合パウダーの熱処理による結晶化挙動を調べることにより、元の重合パウダーの構造を推定した。その結果、重合パウダーでは結晶部のサイズが非常に小さく、周りの中間相や非晶の運動開始により容易に結晶成分の構造が壊れることが明らかになった。また、上記のプローブをMXD6ナイロン、ポリカーボネートの結晶化機構の解析に応用し、結晶化の詳細な解析をすることができた。また、応力下の測定として延伸状態での測定を超高分子量ポリエチレンについて行った。その結果、この手法により絡み合い状態の解析方法を確立することができた。
著者
吉田 敬 高村 明 梅田 秀之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究ではr-processやνp-processなど重元素合成に関するネットワークの拡張やニュートリノ駆動風におけるこれら重元素合成の計算を行い,r-processのベータ崩壊率に対する依存性や極超新星のニュートリノ駆動風におけるνp-processについて調べた.しかしニュートリノ自己相互作用については動径方向近似での計算は可能となったが角度依存性の導入や最終的な定式化には至らなかった.そのため今後も研究を継続していきたい.超新星元素合成についてはニュートリノ元素合成で作られるフッ素の銀河化学進化や超巨大質量星を起源とする極超新星における元素合成の特徴を明らかにした.
著者
永松 敦
出版者
宮崎公立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

従来の狩猟研究は東北地方のマタギや九州地方の山間部の狩猟習俗を研究対象としてきた。総合地球環境学研究所の研究プロジェクト「日本列島における自然-自然相互関係の歴史的・文化的検討」2007~2011(研究代表者、湯本貴和氏)に参加する機会を得て、阿蘇地方を調査することができたのが、私の研究の大きな転換点であった。阿蘇と同様の視点で諏訪・富士山麓にも足を運んだ。現実的には、生物の個体数維持が大きな要因であることを理解するようになった。
著者
片倉 賢 ELKHATEEB A.M. ELKHATEEB A.M
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

ヒトや家畜のトリパノソーマ症は発展途上国で蔓延している原虫性疾患であるが、予防・治療薬の開発が進んでいないNeglected Tropical Diseases(NTD、顧みなれない熱帯病)である。申請者らは、安全で安価な治療薬の開発を目的として、薬用植物から天然の抗寄生虫活性物質を含む植物の探索を行った。その結果、ニガキ科の薬用植物であるBrucea javanicaに含まれるクアシノイド類が強力な抗トリパノソーマ原虫(Trypanosoma evansi)活性をもっていること、およびクアシノイドの構造と活性とに相関があることを明らかにしてきた。平成23年度は、クアシノイド類が原虫のどの器官を標的としているかを明らかにするためにbruceine類の安定同位体ラベル誘導体の合成を試みた。すなわち、重水素ラベル無水酢酸を用いて重水素ラベルbruceine Aとbruceine Cのアセチル誘導体を合成した(Elkhateeb et al, 2012)。これをトリパノソーマ原虫に作用させ、安定同位体顕微鏡システムを用いて観察した。その結果、解像度は薬剤のターゲット器官を認識できる程度であったが、蓄積した同位体ラベル化合物の検出にはいたらなかった。安定同位体ラベル誘導体の標識部位がアセチル基のメチル基のみであったことが原因と考えられたため、今後は安定同位体ラベル部位を増やし検出感度をあげることが必要である。
著者
梅宮 典子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

気温30℃RH60%の条件に設定した人工気候室において、被験者前方2mの気流吹き出し壁床上1.5mに扇風機を顔面にむけて設置し、夏季の日中に、気候馴化が完了したと思われる時期の19名の大学生を対象に、1回の実験内において扇風機を運転⇔停止して気流条件を変更する実験をおこない、気流が変化する場合の局所発汗速度による発汗反応の変化と主観申告による熱的快適性について考察した。結果として、(1)被験者顔面近傍(前方30cm)における平均気流速度、変動係数は、運転時で0.71m/s,37.1%,停止時で0.043m/s,46.5%,(2)運転時、停止時とも、温冷感はNeutralより暑い側,発汗感は中立より「汗をかいていない」側,(3)停止時には気流が「弱すぎる」一方でその他の気流評価には左右に差がなく,運転時には「つめたい」,「さわやかな」,「涼しくなった」,「快適になった」側にある一方で「強さ」には左右に差がない,(4)室内雰囲気評価は「暑苦しい」以外で扇風機運転を経ることによって改善したが,「暑苦しい」は第二回停止時に最も評価が低くなる,(5)局所発汗速度は全実験を通じて0〜0.20(mg/cm2/分)の範囲にあったが,その経時変化特性は実験あるいは被験者によって異なる,(6)局所発汗量は、同一実験における運転時と停止時のあいだで、r=0.71〜0.96で相関が高い,(7)発汗申告は申告時の発汗速度を必ずしも反映しない,(8)温冷感申告と発汗速度とはほぼ関係がないが、発汗速度が大きい場合には、発汗速度が大きいほど暑い側の申告が得られる,(9)運転時には発汗速度が大きいほど快適側に申告する場合がある,(10)停止時には発汗速度が大きいほど不快側の申告が得られる場合がある,ことが明らかになった。一方,文献調査によって発汗申告評価の歴史的変遷を調べ,(11)温感研究の初期には発汗の主観申告が重視されていたことを確認した。
著者
平岡 眞寛 佐治 英郎 富樫 かおり 溝脇 尚志 松尾 幸憲 吉村 通央 中村 光宏 小久保 雅樹 澤田 晃 門前 一 板坂 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

放射線治療の成績向上には、生物学的画像情報の治療計画への統合と腫瘍や正常臓器の動きへの対応が必要と考えられた。我々は、放射線治療計画における生物・機能画像情報の有用性の評価、腫瘍動体評価と生物・機能画像の4次元化法の確立、および動体追尾SIB-IMRT治療の実現に向けた基盤技術開発の3つの要素に分けて研究を行った。それぞれF-MISO-PETによる低酸素イメージングにおける最適な撮像タイミング、呼吸同期FDG-PETの有用性、4次元線量計算モジュールの開発などの研究成果を挙げた。今後これらの研究成果が放射線治療の高度化と成績向上につながるものと期待される。