著者
原田 杏子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.54-64, 2003-03-30
被引用文献数
7

本研究の目的は,一般の人々による日常的な相談・援助場面の会話に注目し,「人はどのように他者の悩みをきくのか」を明らかにすることである。会話データから帰納的な分析を行うため,質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。データ収集においては,大学生の同年代・同性ペアによる実験的な相談・援助場面の会話を録音した。データ分析においては,<概念のラベル付け>から<最終的なカテゴリーの選択>へと至る4つの段階を経て,データからカテゴリーを生成した。その結果,他者の悩みをきく際の発言として,【推測・理解・確認】【肯定・受容】【情報探索】【自己及び周辺の開示】【違う視点の提示】【問題解決に向けた発言】という6つのカテゴリーが抽出された。生成されたカテゴリーを先行研究と比較すると,悩みのきき手が自分の体験を開示したり,問題を受容するよう促したりするところに,臨床面接や援助技法とは異なった日常的な相談・援助のあり方が見出された。これらのカテゴリーは,データに基づいた暫定的なものではあるが,今まで研究対象として見過ごされてきた日常的な相談・援助に実態像を与えるものとなった。
著者
寺田 喜平
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

水痘ワクチン接種後、特異細胞性免疫や抗体が陽性化しても、約20%に軽症ではあるが再感染することが明らかになっている。しかし、その原因については不明である。私どもは、水痘ワクチン接種は自然感染と異なる経路で感染することや接種後ウイルス血症が少ないことなどから、分泌型IgA抗体(sIgA)分泌が誘導されるNALTへの抗原刺激が少なく、ウイルス侵入部位で第一に働くsIgAが低いためではないかと推論した。水痘感染約3ヵ月後に唾液を採取した自然感染群26名と水痘ワクチン接種群28名、少なくとも水痘感染後2年以上経過した群23名、小児悪性疾患寛解中の群23名、60歳以上の高齢者群20名、小児科で働く医療従事者の群14名、抗体が陰性である陰性コントロールの群11名を対象に、唾液中の水痘帯状庖疹ウイルス(VZV)特異sIgA抗体をELISA法で測定した。ワクチン群が自然感染群に比較して有意に(P=0.0085)低値で、2例はcut-off値以下であった。高齢者の群は低くなく、帯状庖疹を既往歴に持つ人はない人に比べて高い傾向にあった。医療従事者の群は最も高く、有意にほかの群より高値であった。水痘ワクチン接種後は、自然感染後に比べ有意に唾液中のVZV特異sIgA抗体は少なかった。しかし、帯状疱疹のリスクの高い悪性疾患患者や高齢者では、sIgAは低くなく、帯状疱疹の既往のある人ではかえって高値であった。これは細胞性免疫は低いために帯状疱疹になってもsIgAが保たれているため、水痘の再感染は非常に稀であることを反映していると思われた。sIgAが保たれる原因として外因性あるいは再活性化した内因性VZVによるものと考えられた。現在、不活化した水痘ワクチンを鼻腔内へ噴霧し、sIgA抗体を賦活化することができるか検討中である。

5 0 0 0 OA 内外珍談集

著者
鏡陽学人 編
出版者
靖献社
巻号頁・発行日
1915
著者
早田 輝洋
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.25-33, 1998-04-30

This paper rejects Matsumoto's (1984, 1995) arguments that o_1 and o_2 in Old Japanese (OJ) are allophones of the phoneme /o/. Matsumoto claims that a restricted distribution of the phonetically unmarked o_1, its low frequency, and the anomalous direction of its merger with o_2 should be regarded as denoting their status as allophones, rather than two different phonemes. The phonological distinction of vowel quantity in OJ and pre-OJ, and Short-mid-vowel-raising in pre-OJ (Hattori 1976, 1979a, b) and Vowel-shortening, which shortens the vowel of the first syllable in a disyllabic morpheme containing two long vowels in pre-OJ, can explain all the alleged anomalies and serve to invalidate Matsumoto's arguments.
著者
山下 俊一 大津留 晶 高村 昇 中島 正洋 光武 範吏 難波 裕幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

チェルノブイリ原発事故後激増した小児甲状腺がんの成因と長期健康影響を明らかにする研究目的で、すでに確立した海外拠点との学術交流による分子疫学調査を計画的に推進することができた。特にWHOやNCRP、EUなど欧米の放射線安全防護に係わる国際プログラムに積極的に参画し、低線量被ばくのリスク評価・管理について交流実績を挙げた。旧ソ連3ヶ国(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)における放射能汚染地域の住民データ、生体試料の収集から遺伝子抽出活動を継続し、放射線誘発甲状腺がん疾患関連遺伝子群の探索を行い、候補遺伝子のSNPs多型を解析した。その結果、DNA損傷修復酵素、がん抑制遺伝子群のSNPsの交洛関係を見出した。同時にChernobyl Tissue Bankという国際共同研究体制の運営に継続参画し、放射線誘発甲状腺がんの潜伏期や被ばく時年齢、病理組織像などの違いを詳細に検討し、臨床像の特徴についての解明を試みた。その結果、放射線被ばくによる甲状腺癌は非被ばくの散発性甲状腺がんと比較してもその予後や再発率に大差なく、通常の診断治療指針の遵守による生命予後の良さを明らかにすることができた。網羅的遺伝子解析の途中結果では疾患感受性遺伝子SNPs候補を見出している。上記研究成果は国内外の学会で報告すると同時に、WHOなどの低線量被ばく安全ガイドラインへの取組に保健医療行政上からも貢献している。放射線の外部被ばくによる発がんリスクだけではなく、放射性ヨウ素類の選択的甲状腺内部被ばくにより乳幼児・小児期被ばくのリスクが明らかにされ、今後の原発事故対策や放射線安全防護基準策定の基盤データの整備につながり社会的波及意義が大きいと期待される。
著者
木下 隆志 正井 佳純
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要
巻号頁・発行日
no.14, pp.31-39, 2013-03

障害者の雇用の促進等に関する法律の基本理念では,「障害者である労働者が,職業生活において,能力発揮の機会が与えられること」「職業人として自立するよう努めること」の2つの理念が掲げられている。しかし,精神障害者の雇用促進の課題のひとつとして,障害の自己開示・非開示の問題が存在する。非開示就労の多くは,事業所側の障害の無理解による就労の幅が狭まることを懸念してのことであり,就労先事業所との丁寧な支援体制を構築する必要がある。本研究では,精神障害者の就労の課題と現状を明らかにするため実態調査を行い,開示・非開示で就労する違いに着目して,双方の当事者の支援のあり方について考察する。In the basic principles of the law on promoting the employment of disabled persons, two principles are emphasized: (1) Workers who are disabled be given the opportunity to fulfill their potentials in their working life, and (2) Efforts be made for their independence as professionals. However, one of the issues in promoting the employment of mentally disabledpersons is the question of self-disclosure or non-disclosure of the disability. Most cases of non-disclosure at work are due to the concern that the range of work will be narrowed dueto lack of understanding of the disability by the company, and considerate support systems at the workplace need to be established. In this study, we conducted a field survey in order to clarify the issues and current conditions of mentally disabled persons at work, and to consider the state of support for both such workers who are working with disclosure andwith non-disclosure.
著者
植竹 勝治
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理研究会誌 (ISSN:09166505)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.57-63, 1991-09-17
被引用文献数
2

牛と人の電気生理学的反応の類似性に基づき、牛にも人と同じ色覚メカニズムが存在すると仮定し、色覚異常の場合には識別が困難な色パネルの組合せを用いて、2者択一の識別学習手続きにより、ホルスタイン種育成牛の色覚検査を実施した。試験には生後約5ヶ月齢のホルスタイン種育成雌牛4頭を用い、野外に設置した迷路型の識別学習装置の左右にランダムに配置した赤と白の色パネルの赤側を報酬側として選択するよう予備訓練した。予備訓練は1セッション12試行とし、供試牛が赤側の識別を学習するまで続けた。識別学習の成立は、牛が12試行中10試行以上報酬側を選択することを基準に判断した。また、訓練の初期に牛が片側への位置偏好を示したので、位置偏好修正訓練を考案し、実施した。予備訓練の後、色覚異常の場合には識別が困難な赤と青緑(第1異常)、赤紫と緑(第2異常)、青と緑(第3異常)の3組の色パネルを用いて、それぞれ前者を報酬側とする識別学習(本試験)を順に10セッションづつ実施した。試行のやり方ならびに識別学習成立の判断は、予備訓練と同様に行った。さらに、本試験期間中に報酬側の識別が学習されなかった色の組合せについては、それが真に色パネル間の識別困難によるものかどうかを追試験により確認した。追試験では、本試験期における牛毎の学習状況に応じて、試験期間の延長あるいは位置偏好修正訓練の導入を行った。その結果、赤と青緑の組合せでは、本試験期間中に、すべての供試牛赤側の識別学習を成立させた。赤紫と緑の組合せでは、逆に、すべての供試牛が本試験の10セッションでは赤紫側の識別学習を成立できなかったが、しかし、追試験期には、すべての牛が赤紫側の識別学習を成立させることができた。青と緑の組合せでは、1頭の供試牛しか本試験期間中に青側の識別学習を成立することができなかったが、追試験によって他の3頭もすべて青側の識別学習を成立させた。したがって、ホルスタイン種牛が人と同じ色覚メカニズムを有するならば、その色覚は正常な3色型であることが示唆された。 日本家畜管理研究会誌、27(2) : 57-63.1991. 1991年5月24日受理
著者
谷口 将一 紀平 一成 高橋 徹 小西 善彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.53, pp.7-12, 2012-05-17

海洋レーダ等,見通し外領域までの観測を行うため, HF帯以下の周波数を用いる.このとき,波長が長くなるためアンテナ開口径が大きくなり,小型化が必要である.小型化の一つの手法として,スーパーディレクティブアレーの適用が考えられるが,実際は素子間相互結合に起因したアクティブ反射係数による反射損が大きい.本報告では,素子間相互結合を考慮し,反射損を定量的に評価し,信号対雑音電力比(SNR)との関係から,システムとしての成立性の確認を行った.その結果,反射損を考慮したSNRの劣化は小さいことを確認した.また,アンテナ開口径を拡大させずにサイドローブレベルを低減する構成を提案した.以上の検討より, HF帯受信アンテナとしてスーパーディレクティブアレーが適用できる可能性があることを確認したので報告する.
著者
Stuart Semple Chantal Esterhuysen Jeanne Grace
出版者
理学療法科学学会
雑誌
Journal of Physical Therapy Science (ISSN:09155287)
巻号頁・発行日
vol.24, no.12, pp.1239-1242, 2012 (Released:2013-01-17)
参考文献数
28
被引用文献数
7 21

[Purpose] Kinesio taping has been postulated to reduce injuries by improving proprioception. To date there remain few studies that have assessed the impact of Kinesio taping on postural stability and by inference proprioception in team sports. The aim of this study was to establish if bilateral application of Kinesio taping of the ankles would improve postural stability in rugby union players. [Subjects] The participants were 31 healthy semiprofessional rugby players (age 19.57 ± 0.76 y; body mass 91.87 ± 11.81 kg; stature 1.82 ± 0.08 m). [Methods] Postural stability was measured using an experimental crossover study design. [Results] Significant improvements in overall stability, anterior-posterior stability, and medial-lateral stability were observed under the taped versus non-taped conditions. A secondary finding was that differences in postural stability may be associated with playing position, in that backline players exhibited significantly better overall stability under the non-taped condition compared with forward players. [Conclusion] These results suggest that Kinesio taping may enhance postural stability in a position-dependant manner in semiprofessional rugby players. From a mechanistic point of view, these findings may help to explain why Kinesio taping may be beneficial; however, the impact that the tape may have in contributing towards the prevention of ankle injuries is yet to be established.