著者
井出 明
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.446-451, 2006-10-01

本稿では,技術論として語られがちなフィルタリングを,社会制度の一環として捉えている。フィルタリングソフト導入の理念は青少年の健全育成のためであり,十分に合理性を持つ。しかし,無限定なフィルタリングシステムの導入は,社会に新たなる検閲制度を持ち込むことに他ならない。考察の方向性としては,インターネットを民主主義実現のためのインフラと認識した上で,フィルタリングが民主主義システムの根幹を支える"表現の自由"という価値概念を破壊しかねないという観点から批判的な考察をくわえたい。そして最終的には,今後のフィルタリングシステムをどのように運営していくべきかという視点から提言を行う。
著者
北村 勝朗 生田 久美子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

スポーツの指導場面で用いられる言葉の中で,動作イメージの形成に有効に作用すると指摘されている比喩的な言語に関しては,それがどのような構造によって成立しているのかに関しては未だ十分に解明されていない,そこで本研究では,修辞的なわざ言語が用いられている指導場面をフィールドとし,修辞的な指導言語が用いられる場面における指導者の伝達意図と選手の認知過程について,インタビューおよび行動再検証によって,動作イメージが形成されていく全体像の分析を行った.初年度の平成14年度は,体操競技,フィギュアスケート競技,および伝統芸能におけるわざ言語の抽出を中心に行い,どのような場面で,どのようなわざ言語が用いられるのかについてのデータ蓄積を進めた.2年目の平成15年度は,体操競技に焦点をしぼり,ビデオ映像を用いたインタビュー(行動再検証)を用いてジュニア体操選手のわざ言語理解とわざ言語によるイメージ形成過程について分析を行った.最終年度の平成16年度は,競技種目をバスケットボールと体操競技に限定し,より詳細なデータ収集・分析を実施した.本研究の主な成果として,下記の点があげられる.「わざ」言語の生起場面では,学習者の動作結果について指導者が提示する婉曲的なフィードバックにより,学習者は自身の持つ動作感覚と運動感覚をもとに,課題とする動作の本質的な理解を手探りで深めつつ,新たな運動図式を組み替えていくという作業を行っている.また,修辞的な言語を用いたいわゆる比喩表現によってスキルに関わるフィードバックを得た選手は,比ゆ表現の中で伝達を意図されている動作の根本原理(例えば,遠心力を利用した姿勢や動作構成のあり方)についてのイメージと大きく関連する感覚を,自身が持つ記憶の中から検索し,再構造化することにより,複雑な動作を1つの動作図式として組みかえるといった作業を行っている.以上のように,修辞的なわざ言語は,選手の動作イメージの活性化につながり,その結果,選手がこつをつかむことに貢献している一連の構造が明らかとなった.
著者
廣瀬久和 河上正二編
出版者
有斐閣
巻号頁・発行日
2010
著者
湯川 治敏
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的はロングパイル人工芝に対して適用可能な緩衝性能試験器とその評価法の開発である.スポーツサーフェスは様々な運動様式に対する特性が考慮されるべきであるにも関わらず,従来の緩衝性能試験は単一の落下重錘試験による緩衝性のみによって評価している為,充分な緩衝性能の検討が行われているとは言いがたい.そこで筆者らが開発した緩衝性能試験器をロングパイル人工芝に対しても精度良く計測可能な改良を施し,さらに多段階・多面積衝撃試験法によって非線形Voigtモデルを用いたモデル化を行った.これによりロングパイル人工芝に対して様々な落下衝撃に対する緩衝特性をシミュレーションによって検討する事が可能となった.
著者
直田 健 今田 泰嗣 小宮 成義 高谷 光
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

申請者らは、短い笛の音を合図に自由運動分子がマスゲームのように整列を始める、今まで行い得なかった音響照射のみに応答する小分子の集合精密制御が、新しい洗濯バサミ型有機金属分子の設計と合成、それを用いる新しい分子集合重合により行い得ることを明らかにし、これにより流体の新しい流動性制御の手法を初めて見出している。音響照射によってのみ誘起される分子の合理設計のための指針を確立することを目的に、多くの関連化合物の合成とその動的挙動の解明を行った。ペンタメチレン鎖を有するアンチ型2核パラジウム錯体の有機溶媒の溶液は安定で、長期間の保存においても自発的なゲル化等は起こさないが、これに3秒程度の極短時間超音波(0.45W/cm^2,40kHz)を照射すると、瞬時にゲルが形成され流動性を消失する。この際、溶媒にシクロヘキサンを用いた場合光透過性は保持されるが、酢酸エチル、アセトン、トルエン等では光透過性も消失する。本ゲル化はゲル化剤の配座変化のみによって生起するため、ゲルからゾルへの相転移は熱可逆的であり、ゾル-ゲル相転移が完全瞬時自由制御できる初めての例である。本研究では、これら瞬時ゲル化技術による流動性、弾性、光透過性等の物性と、音圧、周波数、ゲル化剤の分子構造、溶媒と添加物の種類などの内的、外的要因との相関を多角的に検討し、安定溶液の瞬時ゲル化および速度可変ゲル化技術を確立することに成功した。
著者
Isao YAMAMOTO Hironobu FUJIWARA Masashi KAMOGAWA Atsushi IYONO Valeri KROUMOV Takashi AZAKAMI
出版者
日本学士院
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
vol.85, no.10, pp.485-490, 2009 (Released:2009-12-14)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

Temporal correlation between atmospheric anomalies and earthquakes has recently been verified statistically through measuring VHF FM radio waves transmitted beyond the line-of-sight. In order to locate the sources of such atmospheric anomalies, we developed a VHF interferometer system (bistatic-radar type) capable of finding the arrival direction of FM radio waves scattered possibly by earthquake-related atmospheric anomalies. In general, frequency modulation of FM radio waves produces ambiguity of arrival direction. However, our system, employing high-sampling rates of the order of kHz, can precisely measure the arrival direction of FM radio waves by stacking received signals.(Communicated by Seiya UYEDA, M.J.A.)
著者
グェンファムタンタオ 岡部 誠 尾内 理紀夫 林 貴宏 西岡 悠平 竹中 孝真 森 正弥
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.269-283, 2011-01-15

本稿では,web上の大量のレビュー情報を要約する際の基盤技術として,単語を意味的カテゴリに分類するための手法,Bautextを提案し評価する.Bautextは弱教師付き手法であり,係り受け関係と相互情報量に基づいた名詞・名詞句のカテゴリ分類を行う.Bautextの特徴は以下の4つである.1)既存のブートストラッピング法等は,性能が多数のパラメータに依存するため,ユーザは良い分類精度を得るためのパラメータ設定を試行錯誤して見つける必要があった(小町ら,2010).一方,Bautextにおいてはユーザは多数のパラメータ設定をする必要がなく,少数の種語を与え,各カテゴリと単語の関連度(配属スコア)を計算することにより,漸次種語を増加させ,分類を自動化させている.2)既存のブートストラッピング法では,反復ごとに多数のカテゴリが1つの単語を獲得しようとするときに再度評価のステップがあった.一方,Bautextにおいては,各カテゴリが独立な特徴語集合を持ち,それをもとに各カテゴリへの単語の配属スコアを計算し,最大スコアのカテゴリが単語を獲得することでこの再度評価のステップをなくした.そのため,ブートストラッピング法と比べて高速な分類アルゴリズムとなっている.3)既存のブートストラッピング法では意味ドリフトという課題がある.意味ドリフトの原因は,反復処理の過程において,新しい単語を獲得するために使われる抽出パターン数が定数個であるため,以前の各反復で抽出できた適切な抽出パターンの影響が消されることにあると考えられる.これに対して,Bautextでは,各カテゴリが,独立な特徴語集合に今まで抽出できた適切な特徴語(抽出パータンと同じ役割)を保存することと反復ごとに分類対象の単語をランダムに選択させることにより,意味ドリフトを制御する効果が期待できる.4)目的の分類カテゴリに加えて「その他」カテゴリを導入することで,本来評価対象となりえない単語が「その他」カテゴリに移動し,目的の分類カテゴリの適合率が向上するという特徴がある.評価実験では,まず「その他」カテゴリの導入効果を確認した.また,代表的なブートストラッピング法であるBasiliskおよびEspressoの2手法とBautextとを比較し,両者に比べ,Bautextが分類精度,速度,使いやすさの3点において有効な手法であることを確認した.We present and evaluate Bautext, a method for classifying terms into semantic categories, as a fundamental technique used for review summarization of drastically increasing volume of user reviews on the internet. Bautext is a minimally supervised technique for classifying nouns and noun phrases based on dependency relations and mutual information. Bautext has four important features. 1) There is no parameter that the user must manipulate except for seed words. Using an existing bootstrapping method, the user has to find a reasonable setting of multiple parameters by trial and error, on which the classification accuracy heavily depends (Komachi, et al., 2010). On the other hand, Bautext has no such a parameter, and after specifying seed words, no user intervention is required. 2) Bautext is a fast method compared with state-of-the-art bootstrapping methods. 3) Bautext is supposed to constrain sematic drift with independent feature sets for each category and the randomly choosing a term for classification in each classifation step. 4) We introduce "other" category to improve the precision. Adding an extra "other" category to the target categories, it is possible to improve the precision significantly on the trade-off between precision and recall. In our experiment, we compare Bautext with two major bootstrapping methods, Basilisk and Espresso, which show that Bautext is superior in classification accuracy, computational expense, and usability.
著者
石田 淳
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.211-228, 2003-09-30 (Released:2009-01-20)
参考文献数
13
被引用文献数
5

階層イメージならびに階層帰属意識にかんするFKモデルは,「中」意識肥大現象などの人々の階層イメージ,階層帰属意識の傾向性を見事に説明している.しかしながら,FKモデルは同一客観階層内での階層帰属意識のばらつきをうまく説明することができない.本稿は,FKモデルに新たな公理を加えた修正モデルを提唱する.新たな公理は,スキャニング・プロセスの打ち切り条件を定めるものであり,行為者の階層イメージ形成過程において,他者の階層的地位の認識にかかるコストを軽減するための「認識の効率性」を仮定したものである.この修正モデルによって,同一客観階層内での階層帰属意識のばらつきが表現されるとともに,経験的データとの適合性も改善される.また,認識の効率化によって生じる意図せざる結果としての「格上げバイアス傾向」が生じる条件も修正モデルによって明らかになる.
著者
鎌田 清一郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. AVM,[オーディオビジュアル複合情報処理] (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1-6, 1999-10-08
参考文献数
33

G.ペアノは,1890年『平面領域内の全ての点を通過するような曲線』を発見し,その存在を明らかにした.現在,単位線分を単位超立方体全体へ移すこのような連続曲線は,空間充填曲線,あるいはペアノ曲線と呼ばれている.この曲線の応用研究は,画像処理,情報検索,計算機ホログラム,リモートセンシングなど様々な分野に及ぶ.空間充填曲線の中で応用研究の最も多い曲線は,ヒルベルト曲線である.ヒルベルト曲線に沿った画像走査により画像の1次元データが得られるが,この周波数スペクトルを見ると,ラスタ走査より低域にエネルギーがより集中することが確認される.この近傍保存性の良さから画像圧縮に利用した研究が数多くなされている.本論文では,まず空間充填曲線についての定義といくつかの例を紹介し,次にその画像圧縮の応用研究について幾つかを概観する.
著者
大谷 雅人
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

対象樹種のうち個体数が多く,花序へのアクセスが容易なテリハハマボウとアカテツについて,在来昆虫相の崩壊が進んでいる父島・母島,在来昆虫相が保持されているがセイヨウミツバチが侵入している兄島,在来昆虫相が保持されている西島・向島において計6地点の調査地を設け,調査地あたり10~20母樹を選定した。6月および8月に,前者については母樹あたり10~30花,後者については100~200花を目安として標識し,2月までに結実を確認できた果実は採取した。しかし,ネズミ等による食害,フェノロジーの差異,台風などの影響により,多くの花が追跡不可能となった。未標識の果実も採取の対象としたが、遺伝解析に十分な数の確保には至らなかった。対象樹種のひとつオガサワラビロウに関しては,予備的調査において生態的・形態的に異なる種内系統が複数存在する可能性が示唆された。このことは進化学的・保全生物学的にも興味深い事象であり,また本プロジェクトの目的である種子生産,種子の遺伝的組成,花粉流動パターンの島間比較のためには,事前にこうした系統を把握しておく必要があるため,遺伝構造の解析,植物体の形態比較,開花フェノロジーの調査などを行った。核SSRマーカーによる解析および核・葉緑体DNAの配列多型から,遺伝的に分化した2つの種内系統、すなわち父島列島各島、母島と多く,幅広い環境に生育し,大型の植物体を有する系統Iと、聟島列島と母島列島南部属島に多く,海岸近くに偏って生育し,小型の植物体を有する系統IIが含まれることが示された。また,両系統とも九州や奄美群島の別変種とは遺伝的に大きく異なること,系統IIまたはその祖先系統から系統Iが分化した可能性が示唆された。両系統の中間的な遺伝的組成を有する成木や実生は稀であり,また開花フェノロジーが異なったことから,系統間の遺伝子流動は生じていないと推測された。
著者
小阪 真二 片倉 浩理 金光 尚樹 水野 浩 和田 洋巳 人見 滋樹
出版者
特定非営利活動法人日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.44-48, 2000-01-15
被引用文献数
4 2

胸腺嚢踵の壁に胸腺腫を合併した希な症例を経験した.症例は28歳男性で, 健康診断にて胸部異常影を指摘された.胸部レントゲソ写真にて心陰影の左側に重なる腫瘤影を認め, 胸部CTにて前縦隔の嚢腫様陰影とその壁に一部充実性の腫瘤影を認めた.胸骨正中切開にて腫瘤を切除したところ多房性の胸腺嚢腫の壁に胸腺腫を合併していた.胸腺嚢腫に胸腺腫を合併した症例は本邦11例目の報告であった.前胸部の嚢腫で胸腺嚢腫が疑われる場合, 悪性腫瘍の合併, 嚢胞性胸腺腫なども考慮に入れ, 慎重に切除することが大切と考えられた.
著者
高木 昌興
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-17, 2009-05-01 (Released:2009-05-20)
参考文献数
72
被引用文献数
6 8

The characteristics of the avifauna of the Nansei Shoto are explained. The Nansei Shoto consists of the Ryukyu, Senkaku, and Daito islands. The avifauna of the islands, in particular in relation to the species endemic to the islands and those species also occurrign in the islands as well as in both Kyushu and Taiwan, was investigated by means of the literature, mainly the “Check-List of Japanese birds. Sixth Revised Edition (The Ornithological Society of Japan 2000)”. The number of breeding bird species on islands was greatest on the largest islands, and reached maxima (37 species) on both Okinawa and Iriomote islands. In order to understand the similarities between the avifaunas of the various islands, Nomura-Simpsons' coefficient of breeding birds on twelve representative islands of the Nansei Shoto, Kyushu, and Taiwan were calculated. The results of the cluster analyses of the similarities among islands were partly explained by the distances between islands. It is inferred that disparities between the similarities of avifaunas and distances among islands result from differences in the environments of each island.