著者
渡部 守義
出版者
明石工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

浅海域底層の生物環境の良否を簡易に評価する指標として、世界中の海に生息する特徴的なパルス音を終始発しているテッポウエビに着目した。その一分間あたりの発音回数(パルス数)が環境指標として利用可能であるかを探ってきた。本研究は、これまでの研究を受け、本手法を実用化するための課題を解決し、テッポウエビの発音計数による浅海域生物環境評価法が誰にでも利用可能できるものにすることである。1.パルス計測システムの開発(テッポウエビカウンター):本装置を用いれば、現地でテッポウエビカウンターに水中マイクを接続し、計測ボタンを押すだけでパルス数(回/分)を表示することができる。2.測定条件明確化のための海域調査:上記テッポウエビカウンターを用い港湾にて各月の定点モニタリング調査と兵庫県の沿岸部のパルス数分布調査を実施した。その結果、定点モニタリングではパルス数の季節変化を再現するとともに夏期の貧酸素発生によるパルス数の減少を確認することができた。また兵庫県の日本海側ではどの地点でもほぼ同数のパルス数であったのに対し、瀬戸内海側ではパルス数が日本海側より多い地点や全く観測されない地点が混在していた。テッポウエビ類は水質よりもその場の生息環境を反映するため地点間の水質の相対比較は難しいと考えられる。3.既存の環境指標生物との関係の明確化:今後も引き続き学会参加あるいは文献検索を通じて情報を収集していく必要がある。本事業により開発されたテッポウエビカウンターは、改良すべき点があるもものの水中マイク一本で海域に生息するテッポウエビ類の生息状況を誰でも簡単に知ることができる装置である。複雑さを増す環境汚染を総合的に評価する指標の一つとしても有用となり得ると考えている。
著者
安嶋 紀昭
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、鶴林寺(兵庫県加古川市)の国宝太子堂内部に描かれている絵画群について、第一にその全図様を把握し、第二に表現や技法の検討を通じて、絵画史上の位置付けを明確化することにあった。荘厳画は、(1)来迎壁の表裏、(2)四天柱、(3)四天柱筋上小壁、(4)側柱筋上小壁、(5)格狭間、(6)東壁春日厨子内壁に分別できるが、(6)以外は永年の薫煙等が画面上を厚く覆い、黒化して、肉眼による識別はほとんど不可能な状態にある。そこで、最新のデジタル撮影装置を駆使して膨大なデータを収集したが、本年度はこれらをパソコンによって合成した復元的図様について、主に表現・技法の観点から詳細に分析した。また、石山寺所蔵重要文化財絹本著色仏涅槃図など、特に線描の質の比較考察に有効な資料をも検証した結果、以下のような成果を得た。荘厳画の図様は、(1)が表面に九品来迎図、裏面に仏涅槃図。(2)が東柱に八菩薩・十二神将、南柱に二菩薩・十羅刹女・八部衆、西柱に倶利迦羅龍剣・五童子、北柱に不動明王・三童子・五部使者・孔雀明王。(3)が飛天と楽器。(4)が千仏。(5)が獅子・麒麟等霊獣。(6)が聖徳太子毘沙門天感応霊験図といった内容であることが確かめられたが、これらの表現は(4)を除き、童子の指や耳の細部、雲や蓮弁のふくらみ、巴文の多様など極めてよく共通していて、すべてが卓抜した技量を誇る一人の画家によって主導されたことを窺わしめる。その異国的描写は、藤原道長の頃に盛んに輸入された北宋の影響を強く感じさせ、古い粉本に拠ることが想定されるが、鋭い打ち込みや抑揚を強調して線描自体に表情を持たせる特徴は、1200年頃の石山寺本には未だ不慣れな点があるのに対し、荘厳画の線描は習熟度の頂点に達しており、その制作は定説の天永3年(1112)ではなく、太子堂改築修理の宝治3年(1249)であることが証明できた。
著者
栗田 和典
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

死刑囚が国王に提出した恩赦嘆願状の収集と検討をつうじて、おもに18世紀前半のロンドンにおける司法行政が、市裁判官の仲介をはさんで、国王および大臣・閣僚と都市参事会の双方によって担われたことを解明した。市参事会は、死刑囚の社会的な環境や治安維持に責任を負っており、都市ロンドンのおかれた状況(戦争の開始と終結や日用品の価格変動)が恩赦の成否を決定した市裁判官の判断に多大な影響を及ぼしたことをあきらかにした。
著者
眞柄 泰基 大野 浩一 亀井 翼
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、札幌市の水道水源である豊平川流域で発生する自然由来の有害無機物質の水道・下水道という都市水循環システムにおけるフローを定量的に把握し、リスク管理限界を明らかにすることを目的とした。豊平川上流部の河川調査により、ヒ素、ホウ素の河川への負荷量のほとんどを定山渓の温泉水(平均濃度:ヒ素3mg/L、ホウ素37mg/L)が占めており、温泉から直接河川に流入するヒ素及びホウ素の平均負荷量は、それぞれ一日21kg、245kgであることが明らかになった。ヒ素の形態別分析により、温泉水中のヒ素はその90%以上が毒性の強い3価の無機ヒ素であった。温泉流入後の河川水中のヒ素は、3価が約22%であった。豊平川を水源としている浄水場の調査より、凝集沈殿-中間塩素処理-砂ろ過においては、原水中で5価の状態であるヒ素しか除去できず、また原水の濁度を指標としたような凝集剤注入量では溶解性5価ヒ素除去には不十分であることが明らかとなった。一方ホウ素は全く除去されず浄水場でのリスク低減は望めない。水道原水として浄水処理システムに取りこまれるヒ素量は一日約7kg強であり、処理により汚泥に移行する量が6kg近いことが把握できた。水道水由来の下水に流入するヒ素量は一日平均1.6kgと試算されたが、実際の下水中のヒ素量は一日約5kgであることが明らかとなり、下水の詳細な調査により、このヒ素量の増加はヒ素を含んでいる地下水が下水管に浸透したことによる可能性が高いことが明らかになった。また、ヒ素を含んだ定山渓温泉街の排水を受け入れている下水処理場の汚泥由来のヒ素量は、札幌市全体の下水汚泥由来のヒ素量の約75%も占めており、ヒ素含有量の低い他の処理場の汚泥と混合され焼却処理されていることから汚泥の有効利用を困難にしていると言える。
著者
沢田 正昭 巽 淳一郎 西村 康 町田 章 村上 隆 二宮 修治
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

陶磁器研究は肉眼観察が基本であるが、さまざまな自然科学的手法を駆使して得られた新しい知見が、産地や年代、さらには製作技法に関する理解を深める可能性を秘めている。本研究は、陶磁器の流通の実態を解明するために、自然科学的な方法論とその具体的な検証法の確立をめざすことを目的とし、米国スミソニアン研究機構と、奈良文化財研究所をはじめとする文化庁関係機関との間で1990年から実施している日米国際共同研究の一環として行なった。まず、陶磁器の産地推定に対する分析手法の確立をめざして、胎土に対する熱中性子放射化分析、蛍光X線分析の比較検討を行なった。分析対象には17世紀中葉の肥前産磁器を選び、生産地資料として現地窯跡出土資料、消費地資料として、東大構内遺跡やベトナムなど海外での出土資料も含めて検討した結果、双方の分析結果は良い一致を示すことがわかった。また、同じ資料に対して大型放射光施設SPring-8において高エネルギー蛍光X線分析を行い、新しい分析手法としての可能性を検証した。釉薬に関しては、瀬戸美濃産陶磁器資料を研究対象とし、蛍光X線分析による成分分析、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)による釉薬層の微細構造解析を行い、不均一な元素分布状態に対する新しい知見を得た。また、スミソニアン研究機構フリーア美術館所蔵の漢代緑釉に対する鉛同位体比測定から、産地推定の可能性を示唆することができた。さらにカンボジアにおける窯跡群の探査を実施し、窯構造の調査を行なうとともに、出土陶器片に対して熱ルミネッセンス法による年代測定も試みた。関係者の相互理解を深めるために研究会に加えて、日米の研究者が一堂に会する国際シンポジウムを開催し、本研究の成果を公開すると共に、陶磁器資料研究に対するさまざまな問題点を議論する機会を設けた。
著者
吉田 秀治 福永 昭夫
出版者
日本セラミックス協会
雑誌
セラミックス (ISSN:0009031X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.167-169, 1997-03-01
被引用文献数
2
著者
片岡 瑠美子 下川 達彌 片岡 千鶴子 五野井 隆史
出版者
長崎純心大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

片岡弥吉の論文「長崎県下キリシタン墓碑総覧」(1942年)と「キリシタン墓碑の源流と墓碑型式分類」(1976年)を基礎として国内及び海外の調査を行った。国内115か所の墓地・墓碑調査、海外では18か所の博物館及び墓地での調査を行うことが出来た。その結果、国内の墓碑について、キリシタン墓碑の概念、その特徴と定義、意義、型式をまとめることができた。海外調査では、ローマ、スペイン、ポルトガルでの調査から、エトルスキの墓地や墓碑を源流とするローマ式墓碑がポルトガルに伝えられ、キリスト教宣教師の世界布教の過程で日本を含む世界の各地に広がったことを確認できた。
著者
吉川 雅之 松田 久司 中村 誠宏
出版者
京都薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 薬食同源の視点から薬効が伝承されている天然薬物の中から香辛料食品に焦点を絞り, 新規機能性成分の開拓を行った. この研究過程で, 特にローズヒップ(Rosa canina)やナガコショウ(Piper chaba, 果実)の含有成分に強い抗肥満作用・抗糖尿病を有することを見いだすともに, 活性発現のための必須構造および作用機序の一部を明らかにした. また, 種々の香辛料食品から新規機能性成分を見いだした.
著者
関野 幸二 松本 浩一 横山 繁樹
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

デンマーク、オランダにおける農業技術開発・普及システムの民営化の経過と特徴を整理した。両国における普及(アドバイス)の内容から各経営に即したオーダーメイドのアドバイスが行われていることを明らかにし、それが成立する要因を検討した。また、日本における公的普及システムを概観するとともに、民間型技術普及の実態を施設園芸資材販売会社の取り組みから特徴を整理した。
著者
池田 良穂 片山 徹 正岡 孝治 馬場 信弘 岡田 博雄 大塚 耕司 奥野 武俊
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本報告書は,平成10年度および平成12年度文部省科学研究補助金を受けて実施された「無人高速電車を用いた滑走型高速船の操縦性能試験法の開発」に関する研究成果をまとめたものである.高速船においては,高速航走時に操縦性能が悪くなることが知られており,時としては操縦不能などに陥ることもある.しかしながら,高速滑走艇は,姿勢ならびに速度を大きく変化させながら旋回もしくは針路変更を行うために,その操縦特性は非常に複雑であり,ほとんど解明されていないのが実状である.本研究では,高速船に働く流体力(操縦性微係数)を計測するシステムを無人高速電車用に開発し,その実験結果の有用性を確かめること,さらには滑走型高速船特有の操縦性能を評価できる新たな試験法を提案することである.平成10年度は,本学既存の実験装置を用いて操縦性微係数の一部である斜航流体力係数の計測を行い,その流体力学的特性について明らかにするとともに,無人高速電車用のPMM試験機の設計・開発を行い操縦性微係数の計測を行った.平成11年度には,平成10年度に作製したPMM試験装置を用いて,滑走艇模型の操縦流体力の計測実験を実施し,同システムによって同流体力が実用上満足できる制度で計測できることを確認すると共に,パソコンを用いた解析プログラムを作成し,計測した流体力から微係数を即座に算出できるシステムを構築した.平成12年度は,上下揺れ,縦揺れおよび横揺れを自由にした状態で模型船に左右揺れと船首揺れを強制的に与える,新しいタイプのPMM試験法を開発し,運動の計測を実施した.その結果,横揺れが大きくなるときに,縦運動が横揺れ周期の半分の周期で大きくなる運動が計測された.この運動は,コークスクリューと呼ばれているスラロームなどの周期的操縦運動や微小な船首揺れに伴う上下揺れと縦揺れの大振幅動揺であり,この大振幅動揺発生メカニズムは,横揺れによって生じる上下揺れおよび縦揺れへの連成流体力が引き金となってポーポイジングが発生したものであることをシミュレーションによって確かめた.上記のように高速滑走艇に特有な操縦性能を評価できる新しい一評価手法を提案できた.本研究で開発された実験システムは,今後の高速滑走艇の操縦性能評価において有用な多くの情報を得るための重要な道具となるものと思われる.
著者
嶋津 岳士 田崎 修 清水 健太郎 松本 直也 藤野 裕士 田崎 修 清水 健太郎 松本 直也 藤野 裕士
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

研究成果の概要:危機管理に関する医学・医療領域からの新しい取り組みとして「緊急事態対応医学」という概念を提唱した。「緊急事態対応医学」はall-hazard approach、cross-sectoral function、lessons-learned approach、service continuity planningを4原則として体系化することが可能で、具体的な緊急事態や災害事例の検証ならびに諸外国の状況に関する調査を通じて有用性が示された。
著者
井上 浩義 甲斐原 梢 甲斐原 梢
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、放射線治療・核医学検査において排出される放射性ヨウ素および放射性テクネチウムが水中において陰イオン性を呈することを利用して、(1)携帯型尿濾過器の開発、および(2)隔膜電気浸透法を用いる放射性廃水濃縮処理システムの開発を目的とした。この目的のために、陰イオン交換濾紙膜を5種類および両性イオン交換濾紙膜を1種類新たに開発・製造した。当該イオン交換濾紙膜およびバイポーラー膜を用いて効率的な医療用放射性廃水の処理を可能とした。
著者
高尾 徹也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

PETを用いて健常成人における尿意を感じる際の脳活性化部位の検討をおこなった。初期尿意では、両側小脳、右海馬傍回、左上前頭葉、左帯状回が活性化され、最大尿意では両側小脳、左下前頭葉、左淡蒼球、島(右側)、左中脳、左視床が活性化されていた。中脳水道灰白質と橋排尿中枢はROI解析を行うと有意に血流の増加があった。