著者
伊藤 英夫
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本年は、4年間の調査・研究を総括した。1.アンケート結果1年間のAACに関するスーパーバイズで、AACに関する知識、授業改善に寄与するという意識,使ってみようという機運など、両校とも一定の成果を上げることができた。それぞれの地域性、学校の特色や背景などによって異なる点もあったが、AACを導入することにより、これまでの音声言語主体の授業の在り方に問題提起をし、個々の児童生徒に対するアセスメントの在り方、特に言語理解と言語表出を分けてアセスメントをする点、コミュニケーションに対する考え方、障害特性を配慮し自閉症を有する児童生徒への視覚支援の有効性などに対する認識を浸透させ、授業改善へのきっかけを作ることができた。2. AACの導入に関する研究養護学校におけるAAC導入に関する共同研究では、以下の研究を行った。緘黙傾向の中学部ダウン症児へのPICの導入では、問題行動や保護者のコミュニケーションニーズに対して、担任が音声言語の限界を理解し、生徒自身の選択でPICを導入した結果、ストレス、問題行動の半減、家庭生活の改善、コミュニケーションの促進に伴う音声言語の促進などを通して、授業改善、QOLの改善などが示された。指示待ち傾向の自閉症生徒の視覚支援では、クラス内で自発行動を促進し、自分の意思の発信できるようになることを目的として行われ、視覚支援を行った結果、学校生活での見通しが立ち、指示待ちが少なくなり、自発行動が促進され、意欲も高まり、音声言語の促進も確認された。小学部でのビッグマックの導入は、VOCAの使用が初めての教員への導入に関する研究として行われた。AAC事態があまり導入されていない養護学校での実践であったが、導入を始めて経験した教員は、対象児が使用している姿を見て、ある程度の効果を実感したものの、他の教員への理解など、導入には困難を感じている。携帯電話の文字入力機能の利用は、通信手段ではなく、文字入力したものを相手に提示してコミュニケーションを図るもので、スムースなコミュニケーションと情緒の安定、かんしゃく行動の減少などが確認できた。これまで重度の自閉症児と思われていた対象児が、さまざまなことをコミュニケーションすることにより、担任のコミュニケーションに対する考えや、生徒理解が深まっていく過程が示された。
著者
渡辺 定夫 花木 啓祐 野澤 康 宇田川 光弘 出口 敦 篠崎 道彦
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、大きく実測調査による考察と、シミュレーションによる考察の2つの部分から構成される。前者からは、空地に直達日射量が多い配置では空地の表面温度が高くなること、直達日射量は街区内空地の植栽によってできる日影や街区内空地の地表面素材の物性とその範囲によっても大きく左右されること、風による温度低減効果は卓越風向と住棟配置の関係が重要であること、単に風が抜けていくだけではなく、高層住棟の場合には特に住棟にぶつかって街区内に流れ込むことも考えるべきであるという結果が得られた。一方のシミュレーションの結果からは、高密型モデル、低密型モデルのいずれに関しても、原則的に南北軸住棟配置のほうが東西軸住棟配置に比べて、熱、風、日照、採光いずれの視点から見ても良好な環境が得られるという結果になった。また、特に冬期の北よりの季節風が強い場合には、それらを分散させて平均化して流すという意味で、南北軸配置のほうが良いのではないかとの示唆が得られた。以上の結果から、南北軸住棟配置のほうが優れているという結果が得られた。わが国の住宅地は、「南面平行配置」という語に集約されるように、すべての住戸が平等に日照を享受して冬も暖かく、衛生的に暮らしましょうというコンセプトでつくられてきた。それに対して、高温化した夏を少しでも涼しく過ごそうとすると、これまでの考え方とは全く異なる配置計画のほうが良いという結果になるということが明らかになったわけである。
著者
小川 朝生
出版者
国立がんセンター(研究所及び東病院臨床開発センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

化学療法の発展に伴い長期的な予後が期待できるようになった一方、化学療法後に慢性的に中枢神経系有害事象(認知機能障害)が生じる可能性が指摘されるようになった。この認知機能障害はchemo-brainと総称される。しかし、認知機能障害と化学療法との関連性、その機序に関する検討は未だ途上である。そこでわれわれは、化学療法前後を通して、脳構造画像の変化を追跡し、その病態メカニズムを検討する研究計画を立案し、脳画像の測定技術を確立した。
著者
池永 満生 滝本 晃一 石崎 寛治
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究の目的は、X線で誘発される突然変異が、どのようなDNAの塩基配列の変化によるかを明らかにすることである。このために、プラスミドpHA7上にクロ-ニングされている大腸菌のcAMPレセプタ-蛋白(crp)遺伝子について解析した。X線を照射したpHA7を大腸菌にトランスフェクションし、ラクト-ス発酵能を指標にしてcrp遺伝子に突然変異が生じているクロ-ンを多数分離した。これらの変異株からプラスミドを回収して、crp遺伝子の全塩基配列(627塩基)をサンガ-法で決定した。96個の突然変異クロ-ンについて解析し、92個の塩基配列の変化を検出した。その内訳は、塩基置換型突然変異が74個とフレ-ムシフト突然変異が18個であった。また、74個の塩基置換の中では、GCからATへのtransitionが56個、ATからGCへのtransitionが1個、残りの17個は、transversionであった。更に興味あることは、56個のtransitionの中で、実に41個が同一の場所(706番目のGC塩基対)に生じていたことである。つまり、この位置がX線による突然変異誘発のホットスポットになっていた。X線による損傷はランダムに生じると考えられており、このように明確なホットスポットの存在は過去に報告された例がない。恐らくは、この部分がcAMPレセプタ-蛋白の機能にとって、非常に重要なアミノ酸をコ-ドしているためだと考えられる。X線との比較のために、ニトロソグアニジン(MNNG)で誘発した突然変異についても解析した。検出した42個のDNA塩基配列の内訳は、GCからAT、ATからGCへのtransitionがそれぞれ39個と2個、フレ-ムシフトが1個であった。また、MNNGについてもX線と同じ場所がホットスポットになっていた。
著者
月城 慶一
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.141-145, 2003-08-20

近年,義足と義手に用いられるパーツは目覚ましい進歩を遂げてきた。義足においては,センサーとマイクロプロセッサーと油圧機構による制御装置を備えた膝継手C-Legが,切断者のQOLを高めるために役立ちつつある。筋電義手は,もうすでに古くから存在するが,日本においては今後,臨床現場においてどのように活用されるかで,それが公的支給の対象として市民権を得ていくかどうか大きく分かれていくだろう。C-Legと筋電義手について『開発の経緯』『しくみ』『QOL』等について報告する。<br>
著者
鹿又 伸夫
出版者
北海道大學文學部
雑誌
北海道大學文學部紀要 (ISSN:04376668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.125-150, 1998-10-23
著者
吉仲 賢晴 福原 知子 長谷川 貴洋 岩崎 訓 安部 郁夫
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物学会論文誌 (ISSN:18831648)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.340-346, 2008 (Released:2009-03-26)
参考文献数
20

廃木材のリサイクルが重要視されている中,生産量が増加している新たな木質系素材としてファルカタに着目し,炭化物を製造してそのトリクロロエチレン (TCE) 吸着性能を評価した。ファルカタを様々な温度で炭化した結果,800℃炭化時にヨウ素吸着性能が極大となった。また,BET比表面積や細孔容積は900℃炭化で最大となり,それぞれ444m2 g−1, 0.196mL g−1であった。また,TCE吸着性能は平均細孔径が最も小さくなった800℃炭化物で最大となり,市販活性炭よりも高い吸着性能を示した。市販活性炭に比べると比表面積や細孔容積の値で劣るファルカタ炭化物が市販活性炭よりもTCE吸着性能が高くなったのは,TCEの吸着に適した径の細孔が多かったためだと考えられ,比表面積や細孔容積の値だけでは,溶液中に低濃度で存在する有機化合物の吸着量を推定することは困難であることが確認された。これらの結果より,ファルカタから製造した炭化物はTCE汚染地下水の浄化に有効な吸着剤になりうることが示された。
著者
澤村 明 寺尾 仁 寺尾 仁 杉原 名穂子 鷲見 英司 松井 克浩 渡邉 登 伊藤 亮司 岩佐 明彦 福留 邦洋 中東 雅樹 西出 優子 北村 順生 澤村 明
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

新潟県の北部に位置する高根集落(村上市、2008年の合併までは朝日村)と、逆に西部に位置する桑取川流域(上越市)である。具体的な集落の分析を通じて、結束型、橋渡し型、連結型というソーシャル・キャピタルの基本概念や、コミュニティとアソシエーションという組織のありかたの基本概念を深化させる手がかりを提供した。
著者
遠藤 裕 肥田 誠治 大橋 さとみ 木下 秀則 林 悠介 斉藤 直樹 本多 忠幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-8, 2011-01-15 (Released:2011-03-25)
参考文献数
14

背景:近年,public access defibrillation(PAD)プログラムの一貫として,学校やデパートなどに自動体外式除細動器(AED)が配置され,多くの救命例が報告されている。しかし,突然の心停止(SCA)の多くは自宅で発生している。今回,地理情報システム(GIS)を用いて,自宅で発生したSCAに対して,現状のAED配置がどの程度対応可能か,更にコンビニ店舗と警察関連施設にAEDを配備した場合について,新潟市を例にとって検討した。方法:平成20年の新潟市における自宅内発生のSCA 848例を対象とした。自宅住所と現状のAED設置場所の地番データを緯度と経度に変換した。次にGISを用いてAED設置場所を中心に,距離200m,100mのバッファを設定し,その内部に含まれるSCA数について検討した。結果:現状のAED設置場所(568箇所)では,距離200m,100m圏内に,自宅内SCA(848例)のそれぞれ23.5%,5.7%が発生していた。しかし,現状の設置場所は学校,スポーツジム,官庁等が多く,AEDへの24時間のアクセスは困難と考えられた。そこで,24時間アクセス可能な場所として,コンビニ店舗(232店)と警察施設(93施設)にAEDを配置した場合を予測した。その結果,AED数は現状の57%に留まるものの,距離200m,100m圏内に,自宅内SCAのそれぞれ16.5%,4.7%が発生すると予測された。100m圏内のAED設置場所当たりのSCA数は現状配置より多く,更にSCA発生数はPADプログラムを推奨する基準よりも多いことから,自宅内SCAに対して有効な設置場所と考えられた。結論:目撃者2名以上が必要という制約はあるが,コンビニ店舗と警察施設へのAED配置は自宅で起こったSCAに対して有効であると考えられた。
著者
鳥居 昭夫
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

不確実性のもとで模索をしなければならないとき、業務の一部を外部に委託することが、十分な合理性を持つことがある。業務の委託を効率的に進める上では、これまで考えられてきたようにインセンティブの供与に拘泥する必要は必ずしもない。電力産業においては特に、インセンティブ供与が与える戦略的効果を図ることが重要である。また、サービスの最終ユーザーが求める品質等が、業務委託契約の段階で十分に反映されるよう図ることが有効である。
著者
中嶋 啓雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

4年の研究期間でそれぞれ1週間程度、二度、アメリカ合衆国へ調査に出かけた。また二度、海外の学会に出席して、そのうち1回は研究成果の一部の発表も行った。国内でもほぼ毎年、東京で史料収集を行うと同時に関連の学会にも毎年、出席し、最新の研究動向の把握に努めた。期間中、代表的な研究成果として雑誌論文1本、共著1冊があり、また海外での学会発表を土台に英文論文を1本執筆し、現在、学会誌に投稿中である。
著者
赤尾 栄慶 方 廣〓 MONIQUE Cohe 富田 淳 GUANGCHANG Fang COHEN Monique MONIQICE Coh COHEN Moniqu
出版者
京都国立博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

平成8・9・10年度の3年にわたって、大英図書館東洋写本部スタインコレクション・フランス国立図書館東洋写本部ペリオコレクション・北京図書館善本特蔵部に所蔵される紀年を有する敦煌写本のうち,200件余りに関して調査研究を実施し、それぞれの書風・書法の観察および紙数・紙高・紙長・紙色・紙厚・簀目・界高・界巾など採録可能な書誌データを収集した。これによって、5世紀から10世紀わたる敦煌写本の書法と料紙の変化がある程度確認できるようになり、1紙の大きさや透過光で見た簀目の数、更には1紙ごとの行数の時代的な傾向などが確認できるようになった。ことに大英図書館東洋写本部において、スタインコレクション中の敦煌写本20件について、透過光による写真撮影を実施し、これによって、5世紀から10世紀にかけての料紙の簀目の様子や紙質の変化を写真によって概観することが可能となったのは大きな成果といってよい。5世紀から10世紀にわたる料紙の変化に関しては、基本的には各時代を通じて麻紙が用いられていたが、製紙技術の向上に伴って隋・唐時代を中心に上質の料紙が製造され、紙を漉く時の簀目なとも細かく、緻密な紙面となっている。また6世紀の写経を中心に、紙継ぎ近くの界線部分の上下に針であけたと見られる針穴の存在を確認し、それらの上下の高さを測定することにより、それらが界線を引くために紙を重ねてあけられたものであるとの見解を有するに至った。書法に関していえば、5世紀は木簡の筆法を伝えて隷意を強く残し、6世紀は隷書風から楷書への過渡期、7世紀前半は楷書、7世紀後半が楷書の写経体の完成期、8世紀以降が衰退期に入り、ことに9世紀以降は粗雑な料紙と乱雑な筆法という傾向にあることなどが確認された。
著者
湯淺 太一 中川 雄一郎 小宮 常康 八杉 昌宏
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.87-99, 2000-11-15
被引用文献数
8

Lispなどの大多数のリスト処理システムでは,不用セルを回収するためにごみ集め(GC)が行われる.一般的に採用されているGCは,ごみ集めの間プログラムの実行が中断されるので実時間処理には適さない.この問題を解決するために,ごみ集めの一連の処理を小さな部分処理に細分化し,プログラムの実行と並行してごみ集め処理を少しずつ進行させる実時間方式のGCが提案されている.代表的な実時間GCであるスナップショットGCは,スタックなどのルート領域から直接指されているセルをGC開始時にすべてマークしておかなければならない.この間の実行停止時間は,ルート領域の大きさによっては,無視できなくなる.そこで,関数からのリターン時にマーク漏れがないようにチェックすることで,スタックから直接指されているセルを関数フレーム単位でマークする方法を提案する.スタック上のルート領域をフレーム単位でマークしていき,ある関数からリターンする際に次の関数フレームがマークされているかどうかをチェックし,マークされていなければその関数フレームをマークしてからリターンする.これをリターン・バリアと呼ぶことにする.ルート領域のマークが終了したら,従来のスナップショットGCと同様に残りのセルをマークする.本論文では,Common Lisp処理系KCL(Kyoto Common Lisp)上でリターン・バリアを実装し,GCによる実行停止時間について,従来のスナップショットGCと比較評価および検討を行った.Garbage collection (GC) is the most popular method in list processing systems such as Lisp to reclaim discarded cells. GC periodically suspends the execution of the main list processing program. In order to avoid this problem, realtime GC which runs in parallel with the main program so that the time for each list processing primitive is bounded by some small constant has been proposed. The snapshot GC, which is one of the most popular realtime GC methods, has to mark all cells directly pointed to from the root area at the beginning of a GC process. The suspension of the main program by this root marking cannot be ignored when the root area is large. This paper proposes ``return barrier'' in order to divide the process of root marking into small chunks and to reduce the suspension time of the main program. The root area on the stack is marked frame by frame each time a new cell is requierd. When a function returns, the garbage collector checks if cells pointed to from the frame of the caller function have been already marked, and marks them if not. After marking all cells directly pointed to from the root area, other cells are marked as in the original snapshot GC .In this paper, we implemented the snapshot GC equipped with the return barrier in KCL (Kyoto Common Lisp). We compare and discuss the suspension times of this GC and the original snapshot GC.