著者
小山 隆太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

我々は、てんかん原性の獲得に寄与する現象として、乳幼児期に生じる複雑型熱性けいれんと、脳内免疫細胞であるマイクログリアに着目した。熱性けいれんは通常38℃以上の発熱によって引き起こされるが、けいれん状態が重篤な複雑型熱性けいれんは、将来のてんかん発症に関与することが示唆されている。しかし、複雑型熱性けいれん後のてんかん原性の獲得過程におけるマイクログリアの役割は殆ど明らかにされていない。そこで、本研究では高温刺激によって誘導する実験的熱性けいれんモデルマウスを利用して、熱性けいれんによるマイクログリアのプロパティ変化を詳細に検証した。その結果、熱性けいれん後の歯状回では、マイクログリアが抑制性シナプスを貪食することで、シナプスE/Iバランスが興奮性優位に傾斜することが明らかになった。なお、シナプスE/Iバランス破綻の結果として、熱性けいれん後のけいれん閾値が低下した。また、これらの現象は、マイクログリアの不活性化薬であるミノサイクリンによって抑制された。マイクログリアは補体を認識してシナプスを貪食するが、我々は、熱性けいれん後の抑制性シナプスに補体が局在することを発見した。さらに、補体の局在化の一因として、熱性けいれん時の脳内温度に活性化領域を有する温度感受性受容体「TRPV4」が関与することを明らかにした。以上の発見は、マイクログリアやTRPV4をターゲットとした「抗てんかん原性」薬の創薬に貢献しうる。
著者
上柳 富美子 近 雅代
出版者
静岡県立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

抗酸化作用の一つと考えられる抗リポキシゲナーゼ活性は、豆類、茸類、にんにく以外の野菜類では、緑色の濃い野菜(ニラ、シソ、ホウレンソウ、ブロッコリーなど)に多く、キャベツ、キュウリのような淡色野菜に少ないことが観察された。このことより、カロテノイドが抗リポキシゲナーゼ活性を示すことが考えられた。そこで、トマトピューレーから抽出、分離、精製したリコペン、ほうれん草から抽出、分離、精製したβ-カロテン、ルテイン、ビオラキサンチン、ネオキサンチンを用いて大豆リポキシゲナーゼの抑制活性を測定した。その結果、同濃度における抑制活性はヒコペンが最も強く、ついでネオキサンチン、ビオラキサンチン、ルテイン、β-カロテンの順になった。以上のことから構造と活性の関係を考察するとリコペンの活性の強さはイオノン環が開いていること、二重結合の数が13以上あることが大きな影響をもっており、その他のカロテノイドでは極性が高い程活性が高くなる傾向がみられた。ゆで調理操作、揚げ調理操作過程におけるカロテノイド組成の変化を調べた。蒸留水と1%食塩水でコマツナをゆでた場合、ゆで時間が長くなるにつれてまずビオラキサンチンが分解、酸化され、次にネオキサンチン、ルテインと続き、β-カロテンは比較的安定であった。1%食塩を加えた方が、総色素量では変化量が少なかったが、各カロテノイド量では、蒸留水とは違いがみられなかった。160℃で揚げた場合は、ゆで操作と同様ビオラキサンチンの減少が大きく、ルテイン、β-カロテンの減少は少なかった。以上のことより、野菜類の加熱調理において、キサントフィル類は、β-カロテンより先に活性酸素の影響を受けやすく、自ら減少することで抗酸化作用を示し、その結果ビタミンA効力を持つβ-カロテンが比較的安定に保たれていることがわかった。
著者
佐々木 顕 BEN J Adams BEN J.Adams
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

デング熱は全世界の熱帯および亜熱帯地域で猛威をふるう昆虫媒介のウイルス性伝染病で、複数回感染するとデング出血熱(DHS)という致死率の高い症状に移行する。デングウイルスは4つの大きく異なる抗原サブタイプに分かれ、近年の人類集団の人口増加と移動性の上昇により、異なる抗原型が同一の地域で流行するようになった。これが宿主の複数回感染を可能にし,抗体特異的エンハンスメント(ADE)と呼ばれる特異な免疫応答現象(過去の感染によって出来た抗体が、2度目の感染で宿主に害をもたらす)によってデング出血熱が起こる。本研究課題では、数理モデルを開発することにより、交差免疫や交差増強がデングウイルスやその他の病原体の疫学動態と進化にどのような影響を与えるかを解明した。複数の抗原サブタイプと交差免疫,抗原依存的エンハンスメント、感染率の季節変動を考慮した疫学動態数理モデルの解析により、各サブタイプは、季節変動性に対する疫学動態の非線形共鳴によって、パラメータに応じて2〜数年おきに大流行する複数年周期の変動を示すこと、異なるサブタイプ流行の同期する条件を調べた。非同期振動は、交差免疫が弱いときに見られ、非同期アタラクタはパラメータに敏感に依存することを明らかにした。また何種類の抗原型が共存できるかについても理論的な解明を行った。これらの成果はMathematical Biosciences誌などに投稿中である。また、ペンシルバニア州立大学のEC Hohnesとの共同研究により、系統学的データを用いて、タイ・バンコクで蔓延するデングウイルスの複数の血清型が過去20年間の進化を解明し、デングウイルスの大きな進化的な変化は周期的に起きており、異なる血清型それぞれが約8〜10年周期で相関を持ちながら振動してきたこと、そして血清型のシフトが宿主の集団免疫による自然淘汰によるものであることを明らかにした。交差免疫あるいは交差増強を取り入れた複数血清型ウイルスの疫学動態数理モデルを開発することにより、このデングタイルス血清型の流行パターンを解析した。この研究成果はProceedings of the National Academy of Science, USAに掲載発表され、日本経済新聞等に記事が掲載された。
著者
張 成
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

セルラネットワークの容量が足りない問題を解決する為に、本研究はモバイルデータオフロードという手法を提案しました。まず、ネットワーク側の観点から、複数モバイルネットワーク事業者のモバイルデータオフロードの問題を考察した。次に、モバイルユーザの視点からWi-Fiオフロード問題を検討した。ユーザの移動パターンが事前にわかっていると仮定し、ユーザのコストを最小化するために、ユーザのオフロード戦略を明らかにした。そして、ユーザユーザの移動パターンは未知であると仮定する。ユーザのオフロード戦略を深い強化学習に基づく方法で解明した。
著者
森本 光明
出版者
東京歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

目的:歯科用金属アレルギーの検査として、リンパ球幼若化反応に注目し、金属の種類や濃度について検討を加えた。方法:金属アレルギーが疑われ皮膚貼付試験陽性を示した皮膚粘膜疾患患者44名を陽性群とし、金属アレルギーの既往が無く皮膚貼付試験陰性であった学生45名を陰性群とした。Hg,Ni,CO,Pdの皮膚貼付試験の試薬を抗原とし、50、250、1250、6250、31250,156250倍の6段階に希釈した濃度系列を用いた。抗原添加時の^3H-チミジンの取り込み量を非添加^3H-チミジンの取り込み量で除した百分率により得た値を判定した。結果:1,0.1%HgCI^2の場合は50倍希釈で陽性群(961.9±504%)、陰性群(652.9±463.8%)ともに最も強い反応を示し、陰性群で200%を越したことにより非特異的なリンパ球幼若化反応を認めた。両群間において250倍希釈時にのみ有意差を認めた。臨床上250倍の濃度の値が重要と考えられた。2,5%NiSO_4の場合は1250倍希釈において陽性群(779.2±564.9%)、陰性群(214.6±107.8%)ともに最も強い反応を示し1250、250倍希釈時に両群間において有意差を認めた。3,2%CoCI_2の場合は6250倍希釈において陽性群(337±225.5%)で最も強い反応を示し、156250、31250、6250、1250倍希釈時に両群間において有意差を認め、6250倍が臨床上重用と考えられた。4,1%PdCI_2の場合は250倍希釈において陽性群(256.0±207.5%)で最も強い反応を示し、両群間において有意差を認めた。この濃度が臨床上有用と考えられた。5.リンパ球幼若化反応において至適濃度の存在が示唆された。現在その他の金属(Ti,Cu,Cr,Zn)についても検討中である。また、今回培養日数を3日で行ったが日数延長することによってより検査の感受性が高まるデータも得ている。
著者
岡田 誠司
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

腰部脊柱管狭窄症の主要な病因は脊柱管背側を縁取る黄色靭帯の肥厚であるが、そのメカニズムに関しては殆ど明らかにされていない。従来の研究では、若年者椎間板ヘルニア患者から採取された『肥厚していない黄色靭帯』と、腰部脊柱管狭窄症患者から摘出された『肥厚した黄色靭帯』の組織学的な比較により、肥厚した黄色靭帯では①膠原線維の増加、②弾性繊維の断片化、③血管新生が認められることなどは明らかになっているが、どのような細胞が膠原繊維を産生するのか、肥厚した靭帯では細胞数に変化は認められるのかなどの基本的なことが解明されていなかった。そこで我々は、マウス腰椎ならびに黄色靭帯の解剖学的解析を行い、ほぼヒト黄色靭帯の特徴を有していることを明らかにした。さらに、マウス黄色靭帯に持続的メカニカルストレスを負荷することにより線維芽細胞の増殖と膠原線維の過剰沈着を確認した。この成果はメカニカルストレスが黄色靭帯肥厚の直接の誘因の一つであることを示した初めての結果である。しかし、メカニカルストレスのみでは中等度の肥厚が限界であり、組織的にヒト疾患で認められるマクロファージ浸潤、血管新生やTGFβなどの線維化関連因子の発現上昇が認められなかった。そこで、黄色靭帯に微小な損傷を加えマクロファージ浸潤を促した結果、血管新生とともに高度の肥厚が確認された。さらに、クロドロネート投与により末梢血中のマクロファージを枯渇させた状態では、微小損傷によっても全く黄色靭帯の肥厚は認められなかった。この結果は、マクロファージ浸潤が黄色靭帯肥厚に深く関わっていることを示唆しており、疾患との新たな関わりを示唆する重要な知見である。なお、本成果はPlos One誌ならびにAmerican Journal of Pathology誌へ掲載された。
著者
山本 範子
出版者
北星学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

中国大陸、台湾の SF を中心に、ホラーや幻想文学などを日本で紹介した。また、中国では日本 SF について講演、発表し、日中 SF の交流に努めた。さらに中国の学者や作家を日本に呼んで、中国 SF の現状などについて発表してもらうなどの企画もたて、実行した。
著者
清登 典子 深沢 了子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度決定した各メンバーの担当事項に基づき、各自が『夜半亭蕪村句集』のデータベース構築のための調査検討を進めた。その結果、昨年度達成すべき目標としていた『夜半亭蕪村句集』春部全468句についてはデータとする①から⑨までの九項目の調査をほぼ終えることができた。ただし、⑦蕪村関係俳書への入集状況調査のうちの同時代俳書の調査検討、⑧作句年次の推定、⑨入集俳書における句形変化、という三点については、調査検討が不十分な点があるために、さらに今後も調査検討を続けていき新しい調査結果が入り次第データに補足していくこととなった。今年度の目標としていた夏部全465句についてもメンバー全員で調査検討を進め、データとする九項目のすべてについて一応の調査を行うことができた。しかし、春部の発句の場合と同様に⑦同時代俳書における入集状況、⑧作句年次推定、⑨入集俳書ごとの句形変化、の三点については不十分な点があるため、今後も調査検討を継続していくこととなった。研究代表者(清登典子)、研究分担者(深澤了子)、研究協力者(金田房子・牧藍子・真島望)の5名全員による研究会を開催し、データ構築の進捗状況や問題点について話し合いを重ねた結果、データ九項目の配列として、③『夜半亭蕪村句集』の四季別入集順番号を冒頭に持ってきたほうがよいという結論に至り、データの配列の変更を行った。研究代表者が、『夜半亭蕪村句集』の出現によって、『蕪村自筆句帳』の欠落箇所の発句配列を推定することができるのではないかとの考えに立って検討した結果を研究論文として発表したほか、研究分担者、研究協力者も蕪村俳諧および蕪村につながる俳諧文学にかかわる研究の成果を発表することができた。
著者
田中 和子 亀田 温子
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

すでに計画調書に明記したように, 本研究は「性差別意識」の構造的解明への第一歩を踏み出す試みであった. 昭和61年度には, 女性社会学, 帰属理論, 情緒社会学, 世代論等, 性差別意識や性別役割分業にかかわる理論的・実証的文献研究の成果をふまえて, アンケート調査およびインタヴュー調査を実施した. これを受けて昭和62年度には, 補足アンケート調査およびインタヴュー調査を遂行するとともに, 収集した調査資料の分析を行なった. ここで得られた知見の主要なものは, 以下のとおりである.1.国際的規模での性役割の流動化を背景に, 日本の大学生のあいだでは, 古典的な意味での性差別意識を持つ層は, もはや少数派となっており, 女性の社会進出も, 少くとも一般論の事柄にとどまる限りにおいては肯定的に受けとめられている.2.しかし, 性別役割分業意識は依然として根強く, しかも性役割の不均等配分が性差別としては意識されにくいという状況が現出している.3.上述の不均等な性役割の配分は, 旧来の男尊女卑思想やストレートな生物学的決定論に依拠することによってではなく, 能力や効率性, 好き・きらいといった選好など, 性別以外の要因に帰属させることによって合理化・正当化され, 結果的に性差別が容認されていく.4.社会一般の事象という水準では着々と進みつつあるかにみえる性役割の流動化も, 問題設定が被調査者にとってより身近なレベルに及ぶにしたがってその度合が減じる. 今回の調査結果から, 両性の日常的関係性にまでおよぶ性別役割分業の変容には, さらにかなりの時間がかかることが予測される.
著者
安井 幸則 橋本 義武 坂口 真
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

コンパクトなEinstein多様体および特殊ホロノミー群を持つRiemann多様体の幾何学をブラックホールの視点から研究することを目標とした.このような幾何学は物理的には,高次元のゲージインスタントンそして重力インスタントンと捕らえられるものであり,超弦理論やM理論の最近の進展から予想される幾何学の新しい方向を探ろうとする問題意識と深く関わっている.特に,コンパクトなSasaki-Einstein多様体に関しては,重力理論/ゲージ理論対応を使って超対称ゲージ理論の強結合領域を調べることができるため,最近大きな注目を集めている.主な研究成果は以下のとおりである.1.Lorentz解を正定置Einstein計量に解析接続する方法と,ある種の極限操作を組み合わせて5次元de SitterKerrブラックホールから球面東上に無限個の非等質な新しいEinstein計量を構成した.2,トーリックSasaki-Einstein多様体上のラプラシアンのスペクトラムを解析した.特に,基底状態のスペクトラムはゲージ理論側のカイラル・プライマリー演算子を再現することを示した,この結果は,重力理論/ゲージ理論対応の1つの検証を与えるものである.3.4次元Tod-Hitchinオービフォルド空間を底空間とするSU(2)束に3-Sasakian計量を構成した.底空間のオービフォルド特異点は全空間では解消されスムーズな7次元Einstein多様体を得ることができた.4.6次元de Sitter NUTブラックホールのBPS極限から新しいCalabi-Yau計量を複素線東上に構成した.この計量は4次元の重力インスタントンの自然な高次元拡張とみなすことができる.5.Sasaki-Einstein計量を持つ5次元多様体が与えられると,ブレーンタイリングと呼ばれる手法を用いて双対な超対称ゲージ理論を構成することができる,我々はこの手法を使って,新しい無限シリーズのクイバー・ゲージ理論を構成した.
著者
有馬 学 季武 嘉也 中村 尚史 日比野 利信 永島 広紀 一ノ瀬 俊也
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は北九州地域の都市を主たる対象に、近代日本の都市化・工業化における地方都市の位置と機能を明らかにすることを目的とする。本研究の鍵となる史料は、今回初めて利用可能になった安川敬一郎の日記をはじめとする関係史料(北九州自然史歴史博物館蔵、以下「安川文書」と略)である。本研究では第一に、「安川文書」の整理を同博物館と協力して行い、その史料情報をデータベース化して活用できるようにした。「安川文書」の活用は、地方財閥の代表的な存在であった安川財閥の企業活動を詳細に明らかにするのみならず、企業、政党、行政、社会運動等の都市主体の動向と相互関係(対抗・競合・協調)を検証し、それによって近代日本の地方都市史研究に新たな地平を開くことを可能にすると思われる。「安川文書」の主要な内容は、(1)安川敬一郎日記、(2)安川家の経営実態を示す帳簿類をはじめとする経営史料、(3)安川宛の書簡および安川の書簡草稿、(4)安川の膨大な意見書類である。本研究ではこれらの分析によって、安川の経済活動のみならず、それと結びついた政治活動、および政治・経済活動を結び付ける独特の国家観、国際情勢認識を明らかにすることができた。帳簿類の検討からは、安川家と松本家の事業上の関係(組織構造)や安川家の投資行動(資産運用のあり方)の実態が解明された。それによれば、安川家は日清戦争時の石炭ブームで得た利益を、鉱区の拡大と鉄道投資に投下し、事業多角化を実現した。また、安川敬一郎日記、書簡、意見書等を、的野半助関係文書、永江純一関係文書、新聞史料などと付き合わせることによって、これまでほとんど言及されなかった安川の政治活動の詳細が初めて明らかになった。衆議院選挙における安川の活動の舞台は北九州ではなく福岡市であり、そこでは安川は政友会系と玄洋社系双方の支持を調達できる立場にあった。安川は中央政界にも人脈をもち、第二次大隈内閣期に立憲同志会と政友会を牽制する第三勢力の形勢をはかったが、その意図は挙国一致による日中関係の安定化と、そのもとでの中国への資本進出にあった。
著者
橋本 健二
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

骨盤運動や走法の違いが走行運動に与える影響を定量的に評価し,新しいスポーツコーチング学を創出すること目指し,人間の構造と運動を模擬可能な2足スプリント・ロボットの開発を目的とする.人間の走行運動解析を通して,骨盤運動が走行運動に寄与していることを見出した.そこで,腰部関節を持ち,膝関節と足関節には弾性要素を持つ2足ロボットWATHLETE-1を開発した.WATHLETE-1は全身で22自由度を持ち,身長1,500mm,体重62kgである.走行運動制御を開発することで,片脚での跳躍運動を実現した.またYaw方向の角運動量制御も開発し,下半身で発生する角運動量を上半身で補償することができた.
著者
工田 昌也
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

研究計画に従い内耳障害の基本的機序にはフリーラジカルとアポトーシスが関係していること、耳毒性薬剤による障害が、抗酸化剤、NOS抑制剤、ニューロトロフィン、アポトーシス抑制剤により軽減されることを、in vitroの実験系を用いて明らかにした。さらに、これらの感覚細胞障害軽減作用には各種薬剤によりフリーラジカルの産生が制御され、それによりアポトーシスが抑制されたことが強く関わっていることが明らかとなった。続いて、各種薬剤の併用効果を検討した結果、抗酸化剤+ニューロトロフィンというような作用機序の異なる薬剤の組み合わせで相乗効果が得られることが確認された。また、感覚細胞障害予防の観点から、HSPに注目しその内耳での働きを検討した結果、テプレノンの投与により、内耳に安全にHSPが誘導され、それにより感覚細胞障害の予防効果が発現することが明らかとなった。また、ラット感染モデルを用いた実験で抗酸化剤が聴力障害を予防する効果があること、抗酸化剤は鼓室内投与、全身投与のいずれでも有効であることが明らかとなった。一方、内耳障害の機序の一つとして中耳からLPSが効率に内耳に移行すること、移行経路には様々な経路があることを明らかにした。さらに、実際の臨床レベルでメニエール病のめまい、難聴に関して抗酸化剤を投与して治療効果を検討した結果良好な成績が得られた。加えて老人性難聴に対しても抗酸化剤による治療が有効であることを臨床的に確認した。これらの成果は40th Workshop on Inner Ear Biology、第13、14回日本耳科学会、第62、63回日本めまい平衡医学会で発表されると共に10編の論文にまとめられた。
著者
池上 重康
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

「桑園博士町」の居住者達が、大正元年12月に発足した「村会」の記録である『村会日誌』、土地閉鎖登記簿などから、各居住者の博士町居住期間や居住箇所が明らかになった。「村会」に参加していたのは戦前までに延べ19名、居住区画は全12区画である。大学より借地ということもあり、各戸の区画が当時の札幌の持家層の標準に比べ圧倒的に広かったといえる。最も狭い敷地で211坪、最大は540坪、平均的なものは、一町角を中小路で半分割した、さらに4分の1の405坪であった。また、「村会」でしばしば議題にあがった土地所有問題については、結局昭和27年秋に払い下げが実施されたことが判明している。「博士町」の呼称は、管見であるが、昭和2年9月10日『北海タイムス』紙に最も古い記述を見ることができる。ここには「村会」構成員以外の北大教授の名前も「博士町」住人として記述されている。この記事から判断するに、一般には桑園での北大教授達のコロニーは認知されていたが、その中で「村会」を開催していたことは知られていなかったと推察できる。一方、「博士町」住人は、自ら「博士町」と呼ぶことに照れがあったであろうし、「村会」と自称していることから考えても、当人たちは「大学村」の名称を用いていたのではないだろうか。また、「博士町」の住宅については、前掲新聞記事に「各博士は文化住宅を建て」とあり、文化住宅の外観を呈していたことがわかる。森本厚吉との関連として月刊誌『文化生活』への寄稿をみると、新島善直、田中義麿の2名のコラムを確認できる。特に新島は「クリスマスツリー」と題したコラムを書いている。林学博士そしてクリスチャンとしての立場で、北海道風景の特質と重ね併せた表現をみてとれる。住宅についての直接的な文章ではないが、文化生活に関連した貴重な記述ととらえることができよう。
著者
井村 誠孝
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は信号処理の改良と多数の種類の感覚を通じた情報提示技術の開発を行った.信号処理における深層学習の利用については,引き続き最新の研究成果の導入を試行し,敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks; GAN)の利用を検討した.嚥下音や発話音をセンシングする際には,音が気導ではなく骨導であることによって生じる音声信号の変調が信号処理に影響を与える.気導音と骨導音の計測に基づき,骨伝達関数を推定することにより,骨伝達関数を考慮した音声信号処理を実施した.頸部の様々な感覚を通じたクロスモーダルな情報提示のために,力触覚ディスプレイの構築を行った.振動による触覚提示について,デバイスの小型化と振動情報からの主要成分の抽出を行った.また相関を用いた周波数応答法により計算機から振動デバイスまでの伝達関数を求め,振動デバイスが出力する振動刺激の適切化を行った.力触覚提示に関しては,新しい手法として以下に述べる3手法を考案し試作システムを構築した.(1) 空気噴流に周期的変調を与えることで力触覚の同時提示を実現する手法では,人の感覚のうちでも複合的なものである「こそばい」や「かゆい」といった感覚を再現可能とした.(2) MR(Magnetoreological)流体を利用して運動に対して抵抗感を生じさせることにより,頭部に対する力覚提示を実現した.(3) 腱に対して振動刺激を与えることによりバーチャルな運動が生じる運動錯覚の利用を試み,振動刺激と外部物体の接触による相互作用の性質について調査を行った.
著者
重村 憲徳
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、マウスを用いて明らかにされた甘味感受特性と甘味受容体(Tlr2/Tlr3ヘテロ二量体)遺伝子多型との相関を"ヒト"において明らかにすることである。方法は、以下の過程で行った:(1)human Tlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型を明らかにする。(2) 見いだされたアミノ酸変異をもったTlr2とTlr3(Tlr mutant)遺伝子発現コンストラクトを作成する。(3) 作成したものを様々な組み合わせでHEK293細胞に導入し、10種類の甘味物質(天然糖、人工甘味料、アミノ酸)に対する応答特性をCa^<2+>イメージング法により検索し、遺伝子多型性とその応答特性との関係について検討する。(1) について:ヒトTlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型解析では、Tlr2に4カ所、Tlr3に2カ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子変異が明らかになった。さらに、うま味物質(グルタミ酸、IMPなどアミノ酸や核酸)の受容体は、甘味受容体と共通のTlr3とTlr1のヘテロ二量体であることが報告されているため、Tlr1についても同様に多型解析を行った。この結果、5ケ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型が明らかとなった。(2)と(3)について:HEK細胞にTlr2/Tlr3のmutantを発現させたCaイメージング解析では、Tlr2の1つのアミノ酸変異がミラクリン(Tlr2/Tlr3に結合し、酸味を甘味に変えるミラクルフルーツ由来のタンパク質)の効果と関連がある所見が得られた。また、うま味感受性と遺伝子多型性との相関解析では、Tlr1/Tlr3の3つのアミノ酸変異が複合的にうま味感受性と相関している可能性が示唆された。以上のことから、カロリーやタンパク質摂取と密接に関連するヒト甘味、うま味感受性の多様性は、味覚受容体の遺伝子多型性によりもたらされる可能性が強く示唆された。
著者
青木 博史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度における主な研究業績は,以下のとおりである。①図書『歴史語用論の方法』(共編著,ひつじ書房,352pp,2018年5月),②図書『日本語文法史研究4』(共編著,ひつじ書房,308pp,2018年10月),③論文「可能表現における助動詞「る」と可能動詞の競合について」(『バリエーションの中の日本語史』岡﨑友子ほか編,くろしお出版,pp.197-214,2018年4月),④論文「準体助詞「の」の発達と定着―文法化の観点から―」(『歴史語用論の方法』高田博行ほか編,ひつじ書房,pp.141-165,2018年5月),⑤論文「「ござる」の丁寧語化をめぐって」(『日本語文法史研究4』青木博史ほか編,ひつじ書房,pp.155-175,2018年10月),⑥発表「丁寧語の発達」(平成30年度九州大学国語国文学会,九州大学,2018年6月9日),⑦招待発表「「補助動詞」の文法化―「一方向性」をめぐって―」(日本語文法学会第19回大会,立命館大学,2018年12月16日),⑧招待発表「「動詞連用形+動詞」から「動詞連用形+テ+動詞」へ―「補助動詞」の歴史・再考―」(シンポジウム「日本語文法研究のフロンティア―文法史研究・通時的対照研究を中心に―」,国立国語研究所,2019年1月13日),⑨発表「「て+みせる」の文法化」(第277回筑紫日本語研究会,長崎大学,2019年3月28日)。古代語から現代語への過渡期である近代語に注目したものとして,いずれも重要な成果である。近年注目を集めている「歴史語用論」に関する図書①(論文④所収)は,様々な分野へ影響を与えるものとして重要である。現在の文法史研究の活況を反映した図書②(論文⑤所収)も,学界への多大な貢献が期待される。口頭発表⑥⑦⑧⑨は多くの反響が得られており,この成果については本科研の期間中に活字化する予定である。
著者
齋藤 暁
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

平成30年度は、昨年度の研究が日本憲法学史に傾斜した反省をうけ、戦後ドイツ憲法学史の検討を主に試みた。具体的には、ドイツ連邦憲法裁判所ならびにその国法学への(相互)影響を、連邦憲法裁判所の創設期から1970年代に至るまで順次考察した。それを通じて、最初期のドイツ憲法学を考察する1つの視座として、戦後初期の帰国亡命者やアメリカ留学経験者が西ドイツの国法学に重要な役割を果たしていた可能性があることを提示するに至った。本来であれば、以上の仮説の検証を行う必要があるが、齋藤は末延財団から在外研究支援奨学金を受給するために、7月31日付で特別研究員を中途辞退することとなった。本研究は日独の比較憲法学史研究であり、両国の戦後憲法学を「国家論の衰退傾向」を補助線として剔抉することを目的とするものであるが、本研究の完成は将来的な課題として残された。なお、辞退までの期間で、立教大学図書館所蔵の宮沢俊義文庫で『憲法講義案』を中心に宮沢の国家論と憲法学に関する史料を蒐集し、また同時に、昨年度の研究を纏めた雑誌論文(拙稿「初期樋口陽一の憲法学と〈戦後憲法学〉の知的状況(1・2・3)--日本戦後憲法学史研究・序説」法学論叢)の公表準備を行った。
著者
富永 修 田原 大輔
出版者
福井県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

資源水準が極めて低いタケノコメバルを放流する事により遺伝的影響を評価し、多様性を保全するために凍結精子を用いた人工授精技術の開発を目的とした。タケノコメバル人工種苗集団を放流することで、瀬戸内海東部の野生集団の年級群間のFst値に有意差は認められなかったものの、2005年以前年級群から2009年級群の間で7.4%の低下が認められた。また、凍結精子保存と解凍方法に関して実験を行い、凍結防止剤の選定および冷却速度、到達温度、ならびに解凍速度および凍結防止剤除去方法を確立できた。しかし、凍結精子を用いた人工授精は一部成功したものの事業化には受精率の改善が必要である。
著者
江藤 祥平
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度の主な実績は、著書『近代立憲主義と他者』(岩波書店、2018)を刊行したところにある。これは過去2年の研究成果の集大成をなすものである。従来の憲法学は、国家権力を「他者」とみなし、「個人」を確立することにもっとも注力してきた。それが人権論の業績であり、この点についてこれまでの憲法学の方向性は間違っていなかったものといえる。他方、国家権力をわがものとして引き受けて論じる傾向は少なかったようにみえる。「抵抗の憲法学」と揶揄されることもあるが、それも全く理由のないことではない。本著書の意義は、ひとえに国家権力そのものを国民が引き受けることの意味を突き詰めて考えたところにある。つまり、国家権力を他者と遠ざけるのではなく、自らそれを引き受けることが、憲法の想定する国民主権に合致するという見方である。その際に用いられたのが、現象学という方法である。物事の本質を見極めようとする現象学の方法は、従来、憲法学で論じられることはほとんどなかった。むしろ政治哲学を重視して、既存の概念の正当化を試みてきたからである。しかし、政治哲学による正当化は、物事の本質、人間の実存の在り方を前提とするだけで、直に捉えることはできない。そこで現象学によって、国家の、人間の本質に迫る必要が生じたわけである。そこから見えてきたのが、人間は自己という観念の内にすでに内なる他者を抱え込んでいるという現象である。これは人間は一人では生きられないという類の議論ではない。およそ人間の本来的な生き方を際立たせようとするなら、不可避的に自己の内なる他者と向き合いざるをえないということである。そこから見えてきた憲法の姿は、これまでのものとはずいぶん異なるものである。一言でいえば、それは無関心でいられない形で、よりよき統治形態を求めて議論する市民の姿である。さらなる詳細は、本著に譲るほかない。