著者
山森 光陽 萩原 康仁
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.555-568, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

クラスサイズパズルと呼ばれる, 学級規模が児童生徒に及ぼす影響を検討する研究群で一貫した結果が得られない現象が見られる背景には, 学級規模と学級規模以外の要因との交互作用の存在が考えられる。学級編制基準は学級規模のみならず, 学年学級数の多少も決定するため, 本研究では学級規模の大小, 学年学級数の多少及びこれらの組合せによって過去の学力と後続の学力との関係に違いが見られるかを検討した。そのために, 小学校第4, 6学年4月に実施された国語の学力調査得点についての67校分の2時点のパネルデータに, 対象児童が第4, 5学年時に在籍した学年の学級数及び学級の児童数を組合せ, 階層的線型モデルを適用した分析を行った。この結果, 過去の学力調査得点が低かった児童について見れば, 学級数の多い学年で小規模な学級に在籍した児童の方が, 学級数の少ない学年で小規模な学級に在籍した児童と比べて後続の学力が高いといった学力の底上げが見られた。この背景について, 学級規模と学年学級数によって異なる学級の質, 学年学級数によって異なる教師同士の協同による教材研究等の頻度の点から考察した。
著者
大熊 勳 吉松 大基 高田 まゆら 赤坂 卓美 柳川 久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.63, 2016 (Released:2018-04-01)
参考文献数
42

北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカCervus nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネVulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月?2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3?5月、夏:6?8月、秋:9?11月、冬:12?2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100?800 mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400 mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200 mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200 mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
著者
千葉 雄大 松村 修 寺尾 富夫 高橋 能彦 渡邊 肇
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.455-464, 2009-10
被引用文献数
1

深水栽培による籾数制御と草姿の改善により、水稲の登熟期における高温による白未熟粒の発生抑制を試みた。2004年から2007年に、水稲3品種(初星、ササニシキ、コシヒカリ)を分げつ盛期から最高分げつ期にかけて水深18cmで深水処理し、生育、収量と白未熟粒割合を調査した。深水処理により、2次分げつおよび上位1次分げつといった弱小分げつが減少して、強勢な下位の1次分げつの穂を中心とした分げつ構成となり、有効茎歩合が高まった。その結果、深水処理により穂数は減少したが、一穂籾数と玄米千粒重が増加し、年次変動はみられたが、慣行栽培と同程度の収量が得られた。深水処理により白未熟粒発生が抑制され、特に、乳白粒の発生を顕著に抑制した。また、深水栽培は、オープントップチャンバーによる高温処理においても白未熟粒発生を抑制し、高温による品質低下防止に効果があった。この効果は、高温登熟耐性の弱い品種ほど顕著であった。しかし、深水処理は茎数を減少させるため、十分な茎数が確保できない場合には減収した。このため、高品質米の収量確保には、有効茎数を確保してから深水処理を開始することが必要であり、深水処理開始時の茎数が330本/m2程度確保できれば、慣行栽培と同程度の収量と、白未熟粒発生抑制の両立が期待できる。

3 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1938年07月04日, 1938-07-04
著者
Danny Maupin Jeremy Robinson Thomas Wills Shane Irving Ben Schram Robin Orr
出版者
Japan Society for Occupational Health
雑誌
Journal of Occupational Health (ISSN:13419145)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.356-360, 2018-09-20 (Released:2018-09-26)
参考文献数
30
被引用文献数
15

Objectives: Fitness is essential to specialist police forces, who have higher occupational demands than general police, and vital to performance and mission success. However, little research has been done profiling the metabolic fitness of these units and how they compare to other populations. The objective of this study was to profile the aerobic fitness of a specialist police unit. Methods: Body weight was measured to account for any impact on metabolic fitness, while VO2 max was estimated via number of shuttles completed on the 20 m Progressive Shuttle Run Test (PSRT) (n=47) on two dates one calendar year apart. Results: There were no significant (p=.116) differences (mean difference 0.40±1.70 kg) in body weight between the initial measures (mean=88.84±8.25 kg) and the final measure (mean=89.24±8.77 kg) 13 months later. PSRT results increased significantly (p<.005) between the initial (mean=72.62±11.76 shuttles) and final assessments (77.51±11.46 shuttles), with a mean increase of 4.89 (± 2.94) shuttles and a small effect size (d=0.42). The mean VO2 max of the specialist police unit was 51.06±3.61 ml/min/kg following the first assessment, and 52.56±3.46 ml/min/kg following the second assessment. This was a significant finding (p<.001), with a mean difference of 1.19±1.27 ml/min/kg and a small effect size (d=0.23). Conclusions: Elite police forces have a higher metabolic fitness than the general population and general duties police officers. Having and maintaining this fitness level is imperative for their operational success and preventing injuries. This research suggests that despite the challenges posed by operational requirements, high fitness standards can not only be maintained, but also improved.
著者
依岡 隆児
出版者
徳島大学
雑誌
言語文化研究 (ISSN:13405632)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-64, 1996-02-20

In einer Gruppe von Grass' Werken gibt es fragmentarische Tendenzen. Von Aus dem Tagebuch einer Schnecke und Ortlich betaubt bis Die Rattin und Unkenrufe wird diese Tendenz immer starker. Deshalb darf man die fragmentarische Form in Grass' jungeren Werken nicht ubersehen. Zum Beispiel, die 'Sudelbuch'-Form, die in Aus dem Tagebuch einer Schnecke und Kopfgeburten angewandt wird, gibt der vielfach zerbrochenen Realitat einen Ausdruck. Was solche Fragmente in der Wirklichkeit verursacht, ist ein Grass'sches poetisches Bild: 'etwas fiel und traf mich.' Das Bild grundet sich auf dem Grass-'schschen Konzept des Gelegenheitsgedichts, demzufolge das Gedicht erst durch den realen Widerstand entsteht. Und das Gefuhl 'etwas trifft mich' bedeutet, daβ etwas Andersartiges plotzlich uns uberfallt, das die die Wirklichkeit verhullende Haut zerreiβt und die Existenz beruhrt. Das geschieht auch als das Vorzeichen zur bevorstehenden Wandlung. In Unkenrufe, zum Beispiel, wird der Geschichte die Wendemarke gekerbt, und etwas Ungluckliches wird real, indem Alexsandra in die Stille und uber das endlose Unkenrufe hinweg sagt: Wir sollten aufhoren jetzt. Die fragmentarische Form, die den sogenannten Camus'schen 'Verzicht auf die Einheit' und die Verteidigung der realen Vieldeutigkeit bedeutet, ist eine der Existenz angemessene Form. Die Locher, die zwischen den Fragmenten entstehen, erzeugen die Spannung, in die die Realitat eintritt. In einer solchen Spannung werden einzelne Fragmente zu 'einem Stuck Bernstein' des alten Paars vereinigt und zu einer neuen Erzahl-Form kristallisieren, wenn auch im Rahmen des Todes.

3 0 0 0 OA 猟奇の社会相

著者
赤神良譲 著
出版者
新潮社
巻号頁・発行日
1931
著者
永吉 絹子 植木 隆 真鍋 達也 遠藤 翔 永井 俊太郎 梁井 公輔 持留 直希 平橋 美奈子 小田 義直 中村 雅史
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.762-771, 2016-08-01 (Released:2016-08-18)
参考文献数
19
被引用文献数
3

今回,我々は腸管子宮内膜症に対し,腹腔鏡手術を施行した5例を経験したので,報告する.症例は20~40歳代の未産婦の女性で,4例は繰り返す腹痛と腸閉塞症状の検査により腸管子宮内膜症が疑われ,1例は原因不明の消化管穿孔の診断で,腹腔鏡補助下に腸管切除が行われた.3例は回腸に,2例は直腸に狭窄病変を認めた.病理組織学的検査より,全例で腸管子宮内膜症と診断された.いずれも術後経過は良好で退院し,現在のところ再発の所見は認められていない.低侵襲性に優れた腹腔鏡手術は,腸管子宮内膜症に対し術後の早期回復と早期退院に有用で,拡大視効果により子宮・付属器が温存でき安全に手術を行える可能性が示唆された.

3 0 0 0 OA 七拳図式

著者
四方赤良
出版者
西村源六
巻号頁・発行日
1830
著者
麻生 将
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.219-243, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
56
被引用文献数
1

本研究の目的は,近代日本の地域社会で生じたキリスト教集団をめぐる排除の事例を検証し,一連の事件を通して排除を正当化する「排除の景観」の性質を明らかにすることである.本研究では,1933年の美濃ミッション事件と,1930年代半ばの奄美大島のカトリック排撃の2つの事件を事例とし,これらの事件において排除する側と排除される側双方の言説を検証した.その結果,次のことが明らかになった.1. 美濃ミッション事件では,排除に関わる言説はナショナル,ローカルのほかにグローバルなスケールが確認された.2. 奄美大島のカトリック排撃事件では,排除の言説および実践はナショナルとローカルの二重の文脈を持っていた.3. 二つの事件では,キリスト教集団の施設に様々な言説が付与され,排除を正当化する物語が込められた「排除の景観」が形成された.
著者
橋本 典子
出版者
青山学院女子短期大学
雑誌
青山学院女子短期大学総合文化研究所年報 (ISSN:09195939)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.13-24, 2001-12-25

人間は常に危機に直面してきた。古来人間の周囲には自然現象の外的危機があった。それを人間は技術により克服してきた。従って技術は本来善である。しかし21世紀に技術連関としての環境にいる人間は自己の所産である科学技術を悪用するという人間の内的・精神的危機に直面している。それはつまり倫理の不在の顕在化である。マルセルは既に1951年に人間を機能の一部にし"物化"してしまう技術,つまり人間性失墜の技術の危険を預言した。技術を自己のものとした人間が技術を偶像崇拝の対象とし,人間自らを自己崇拝するようになり,精神を否定し人間を人間以下(sous-humain)の存在にする現実が生じてきた。このような状況に於いて人格(persona)をどう考えるかがこの論文の課題である。論者は対物倫理(ethica ad rem)の視点から,価値ある芸術作品に対する対話的関係を介して作品を人格とみなす過程を,芸術を"存在者の真理のあらわれ"とみたハイデガーを手懸りに考察した。次に人格を手段として扱うのではなく,目的自体としなければならないとするカントの人格論,カントの主観客観の明確な対立を批判し,人格を主客未分の純粋経験,そして宇宙的統一力の個人への現われとする西田幾多郎の理論を考察した。そして最後にペルソナ(人格)とその歴史的展開としてのペルソナリタス(personalitas)とを明らかにした。