著者
曽根 理嗣 梅田 実
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

有人宇宙活動の長期化や拠点化が進む中では炭酸ガス有効利用は重要である。今日、炭酸ガス還元にはサバチエ反応が用いられる(CO2+4H2→CH4+2H2O)。この反応はメタンと水を生じる。水は活用されるがメタンは廃棄される為、閉鎖系物質収支はマイナスとなる。また当該反応は一般に350℃以上で平衡になる発熱反応であり、高温維持の為のエネルギー投入と熱処理に課題が多い。提案者らは炭酸ガスの酸化力と水素の還元力に着目し、両者の間で燃料電池を構築し、電力と炭酸ガス還元体の同時創出に世界で初めて成功した。当該反応は100℃以下で維持が可能であり、外部エネルギーの投入は不要であり、「発電」が可能である。本提案ではヒトの生活に有効な生成物の選択性と収率の向上を図るために反応機構を解明し、当該技術の実利用を可能にするための研究を進めている。触媒としてPt-Ruを使用し、反応メカニズム解明のための実験を展開した。反応生成物に電位依存性があるが、この電位に電極の接触抵抗が影響を及ぼすことが可能性としてあり得るため、接触抵抗が異なる複数の実験を実施した。ただし、結果としては特に影響を受けているような兆しはなく、従来の燃料電池セルの設計に、反応場に対して影響を与えるようなパラメータはないことが認識されつつある。また、特に当該反応場では、炭酸ガスと水素を反応させている。水素は炭酸ガス側に混入することは、物理的および化学的に可能であり、この混入した水素がカソード側で化学反応を起こしていることが可能性としてありうる。これは、当該反応が純粋に燃料電池反応として期待される生成物を作り出しているのか、生成物生成過程と反応場は別に存在するかを明確にするために重要な要素となる。当該実験には、カソード側に微量の混合ガスを使用して混合ガスごとの反応生成物への影響を見極める必要があり、現在も検討を進めているところである。
著者
中村 佳正 今井 潤 中山 功 代田 典久 近藤 弘一 岡崎 龍太郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

Caratheodoryの補間問題などに登場するPerronの連分数についてはChebyshev連分数のqdアルゴリズムに相当する計算量O(N^2)の連分数展開算法は知られていなかった.これに対して,まず,単位円周上の直交多項式の理論を基礎として,直交多項式の3項漸化式をLax表示とする新しい可積分系Schurフローを導出し,その差分化によって離散時間Schurフローの漸化式を与えた.さらに,離散時間SchurフローによるO(N^2)の計算量のPerron連分数展開アルゴリズムと代数方程式の零点計算アルゴリズムを定式化した.これにより,1)古典直交多項式-Chebyshev連分数-Toda方程式,2)単位円周上の直交多項式-Perronの連分数-Schurフローという対応図式が完成した.Thronの連分数の計算アルゴリズムの開発にも取り組んだ.まず,双直交多項式の3項間漸化式をLax表示とする可積分系である相対論戸田方程式に注目し,その可積分な離散化によって離散時間相対論戸田方程式のタウ関数解を見い出した.さらに,このタウ関数解の漸化式を用いて,Thronの連分数をO(N^3)の計算量で計算する連分数展開アルゴリズムを定式化した.従来,Thronの連分数については離散可積分系に基づく算法は知られていなかった.通常のFGアルゴリズムでは分母が零となり計算できない場合でも本アルゴリズムによって連分数が求められることもわかった.また,第2種Painleve方程式PIIの解のBacklund変換をLax対の両立条件としで表し,さらに,Lax対のひとつを直交多項式の3項間漸化式とみて,直交多項式に関連した連分数の係数がBacklund変換により相互に代数的に結ばれることを示した.この連分数がAiry関数のLaplace変換の連分数展開を与えることを証明した.
著者
新庄 雅斗
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

近年,可積分系理論の数値計算への応用が見出され,可積分な離散戸田方程式と数学的に等価なquotient-differenceアルゴリズムは3重対角行列の固有値計算アルゴリズムとして国際標準となっている.最終年度は,離散戸田方程式の拡張と見なせる離散ハングリー戸田方程式及びその非自励版に対して,一般解の構造や関連する固有値問題を明らかにし,正値性が崩れる場合でも,解の一部が離散時間極限において帯行列の固有値に収束することを示した.これは可積分系由来の固有値計算アルゴリズムの広範な実用化には欠かせない進展である.これらの成果については,国際会議発表を経て, 離散ハングリー戸田方程式については平成29年5月にEast Asian Journal on Applied Mathematics誌に,非自励版については平成30年1月にJournal of integrable Systems誌においてそれぞれ採録された.また,非自励な離散ハングリー戸田方程式に現れるシフトパラメータの連続極限で得られる力学系が,帯行列に関するラックス表示をもつことを明らかにした.これは離散可積分系由来の固有値計算アルゴリズムの背景には,保存量をもつラックス型力学系が存在することを意味しており,ラックス表示の観点から新しい固有値計算アルゴリズムへの応用が期待される.この結果は現在,学会発表を経て,海外の専門誌に投稿中である.
著者
丸野 健一 太田 泰広 高橋 大輔
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

大振幅非線形波動を記述する偏微分方程式の解の構造を保存する差分スキームの構築法の確立とその数値計算法への応用に向けて、これまで離散化に成功していなかったタイプの非線形波動方程式(多成分系、3次元渦糸問題、水面波の数理モデル、水の土壌への浸透を記述する数理モデルなど)の解の構造を保存する離散化を行い、様々な方程式に対して自己適合移動格子スキームを構築することに成功した。さらに、それらを用いた数値計算の精度の検証を行い、自己適合移動格子スキームの有効性を示した。また、自己適合移動格子スキームと離散微分幾何学との関係についても詳しく調べた。
著者
中村 佳正 江口 真透 辻本 諭 小原 敦美 太田 泰広 広田 良吾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

中村は正定値行列の空間上の算術平均演算と調和平均演算の繰り返しによって,与えられた正定値行列の平方根行列に2次収束する算術調和平均のアルゴリズムを定式化した.このアルゴリズムは情報幾何学的には空間の2点間の互いに双対な測地線上の中点をたどる算法という意味をもつ.小原は算術調和平均のアルゴリズムが定義される正定値行列空間を対称錘の空間上に拡張し,これらの平均演算が測地線の中点を定めるなど対称錘の空間の情報幾何構造を解明した.正定値が成り立たない場合,算術調和平均のアルゴリズムは一般に収束しない.近藤と中村は,算術調和平均のアルゴリズムの漸化式の一般項が行列式表示されることを発見した.可解なロジスティックマップについても同様な表示が見つかった.さらに,この表本式と系の可解性に基づいて,不変測度と積分計算によらずに,系のLyapunov指数が正となることを示した.さらに,中村と辻本はアルゴリズム機能をもつ離散時間可積分系のプロトタイプである離散時間戸田方程式(qdアルゴリズム)の並列化の研究を開始した.まず,2個のプロセッサーによる分散メモリ型並列計算機システムを構築し,qd表を左右に2分割してそれぞれのプロセッサーで並列に計算させることに成功した.この並列化によって3重対角行列の固有値計算時間が約60%に減少した.さらに,qd表の特性に注目して一部を斜め45度に分割することでさらに並列化効率が改善されることを確認した.以上の研究は可積分によるアルゴリズム開発の今後の研究において有用になるものと考えられる.
著者
福田 亜希子
出版者
芝浦工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

連続時間および離散時間可積分系がもつ著しい性質に由来する固有値計算等の優れた数値計算アルゴリズム:「可積分アルゴリズム」がこれまでに数多く報告されている。本研究では,超離散可積分系の数理構造に着目した新たな固有値計算アルゴリズムの導出を試みた。qd法の漸化式は離散戸田方程式と一致することが知られており,それを超離散化することで箱玉系の運動方程式に対応する超離散戸田方程式が得られる。本研究ではまず,超離散戸田方程式に関連するMin-Plus代数上の3重対角行列に着目し,トロピカル行列式を用いたMin-Plus代数上の固有多項式の根と超離散戸田方程式の変数との対応を明らかにした。また,3重対角行列を隣接行列とする重み付き有向グラフにおける平均閉路重みと固有多項式の根の関係についても明らかにした。さらに,超離散戸田方程式の解の挙動を調べることで,超離散戸田方程式の時間発展が,Min-Plus代数上の3重対角行列の固有値を計算していることが明らかとなった。このことは,グラフの観点からは,有向グラフにおける最小平均閉路重みを求めていることに対応する。一方,超離散ロトカ・ボルテラ系に対応するMin-Plus代数上の固有値計算アルゴリズムについても検討し,対称な3重対角行列を対象とする固有値計算アルゴリズムが得られた。付随して,超離散戸田方程式,超離散qd型ロトカ・ボルテラ系,超離散ロトカ・ボルテラ系を結ぶ変数変換が得られ,超離散qd型ロトカ・ボルテラ系が,従来知られていた箱玉系のラグランジュ表現に対する別表現を与えることを示した。
著者
元木 英
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

リンパ浮腫は悪性腫瘍治療によるリンパ節郭清や放射線治療などの後に四肢が肥大し、生活の質を著しく低下する慢性の進行性疾患であるが、術後にどのような機序によってリンパ浮腫に至るのか、その発症機序はまったく不明である。リンパ浮腫の発症機構の解析を行った。リンパ浮腫患者のリンパ管では他の炎症性血管疾患同様にリンパ管平滑筋細胞が形質変換し増殖しリンパ管壁を肥厚していることがわかった。さらに私が確立したマウスモデルでは、透過性の亢進した新生リンパ管とリンパ球と単球・マクロファージを主体とした免疫細胞の集積を認めた。炎症プロセスが、リンパ管新生をもたらしている可能性が高いことが示唆された。
著者
神子 直之
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

水環境中の微生物が太陽光の紫外線によりどの程度影響を受けるかを、生残数とその変化速度によって定量的に評価することを目的として検討を行った。微生物の代表として大腸菌群を用い、また、光源として低圧紫外線ランプ、蛍光灯、そして太陽光を用いて様々な照射を行った。結果から数式モデルを導き、様々な照射条件における大腸菌群数の濃度変化の予測式を構築した。まず、低圧紫外線ランプによって発せられる紫外線によって不活化された大腸菌群の、蛍光灯の可視光による光回復の速度を調べ、その反応速度が従来言われていた1ヒット性1標的のモデルよりも、損傷の蓄積を前提とした多ヒット性1標的のモデルによってよりよく説明できることを示した。また、太陽光に大腸菌群を直接照射したときに不活化が進行することを実験的に確かめ、その不活化が紫外線による不活化と比べてゆるやかであり、核酸への直接的な作用以外の水中ラジカル等によるものであることを示した。また、下水処理水に対して紫外線消毒を行った場合に水環境中でどの程度光回復をするのか、大腸菌群に太陽光を照射する実験を行い、その濃度変化の速度が光回復と太陽光による不活化の積になることを示した。その結果を数式化して計算した結果、放流先の水環境の水深が大きくなるほど有害紫外線よりも光回復光が卓越し、濃度の増大が大きくなることを示した。オゾン層破壊による近紫外光の増大の影響は、現在の太陽光成分の有害性が不明確であるためはっきりとした結論を得るには至らなかったが、紫外線消毒後の放流水における光回復は照射強度に応じて増大し、現在よりも光回復量が多くなることが示唆され、衛生状態が悪化する可能性が高くなると考えられる。
著者
姫野 完治 益子 典文 生田 孝至 吉崎 静夫 坂本 將暢 細川 和仁 三橋 功一 後藤 康志 古田 紫帆
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、学校及び研究者によって開発・推進された国内外の授業研究方法論をアーカイブ化すること、多様な授業研究の方法論を教師教育において活用可能なプラットフォームとして構築することを目的としており、本年度は次のような取り組みを行った。1)授業研究に関する文献および資料収集と類型案の作成:教育工学分野における授業研究のみならず、関連する他分野や学校現場で行われている授業研究方法について調査し、最終的に構築するプラットフォームの枠組みを検討した。2)稀有な授業研究方法を伝承するためのアーカイブ方法の検討:カード構造化法やプロッティンググラフ(藤岡)、オンゴーイング法(生田)、授業リフレクション(澤本)などをアーカイブ化するための方法について、解説・手順書だけでは伝わらない実践知を伝える手立てについて、伝統芸能のわざの伝承の観点から検討した。3)教師の思考過程を可視化するための主観カメラを用いた授業研究:既存の授業研究法の伝承に加え、最先端の情報機器を用いて授業中の教師の思考過程に接近すべく、ウェアラブルカメラを用いた授業研究方法を開発し、多様な観点から事例研究に取り組んだ。メンバーが所属している都道府県を中心とする8市町村において、現職教師や大学生、指導主事等の授業中および授業観察中の視線映像を収集するとともに、授業中および観察中に見ていたこと、考えていたこと等を聞き取り、既存の客観カメラでは対象化できなかった教師の思考過程を分析した。4)授業研究プラットフォームの活用方法の検討:今後教員養成の中心を担う教職大学院で指導を担う研究者教員と実務家教員を対象としてアンケート調査を行い、授業研究プラットフォームの活用場面や方法、配慮点等を考察した。
著者
吉葉 繁雄
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.1985年,房総半島南部の外洋に面する天津小湊町(小湊と略記)に勃発したニホンヤマビル(ヒルと略記)の大繁殖はバイオハザードとして地域住民や旅行者に被害を与えつつ永続する気配を見せたので,1987年より小湊に観察調査用の定点(No.1〜9)を設定,年平均15.7(14〜18)回の頻度で生息密度調査を継続したところ,1992年まで増加したのち漸減に転じ,1995年には終息の兆しを見せ始めた。定点を拠点としての調査・実験により明らかにしたヒルの環境医動物学的諸特性および11年間の概要を総括すると次の通りである。2.ヒルの源棲地:小湊北部を占める内浦山県民の森や清澄山(大風沢川・神明川の上流域)と推定。3.異常大発生の要因:小湊の山林事情の変化(薪炭の需要激減で伐採されなくなったマテバシイの葉が繁茂,日光を遮り,餌となる下草が生えなくなる)により、野生のシカがヒルを伴って里へ降り,市街地を俳徊,ヒルを伝搬。ヒルを捕殺する天敵動物の不在も大発生を助長。4.シカとヒルとの特異関係:シカは,ヒルの諸種供血宿主中で伝搬の主役[免疫組織化学的に証明]で,寄生するヒルの固有宿主的役割を演じた。即ち,ヒルは通常の宿主には吸血時のみ付着するが,ヒルの繁殖旺盛の頃の小湊のシカにには,吸血せずに四肢遠位部特に第III・IV趾間や後面に数匹のヒルが付着し,蹄間には,有穴腫瘤が高頻度に存在して穴腔内にヒルが潜居し,ヒルはあたかもシカ固有の体表寄生虫的であった。蹄間有穴腫瘤とヒルの腫瘤内寄生は,小湊のシカに特有の現象で,春日山原始林,金華山などシカの群生地域にも見られなかった。5.厳寒期静居個体〔ヒルの地中越冬期間中の12月後半〜3月前半頃,地表の転石や落板の裏に付着・静居する大型個体〕の正体:シカに運ばれてきて満腹吸血して離脱したものと判明。6.抗山蛭抗体と免疫学的間引き:ヒルに反復吸血されたヒトと哺乳類には,吸血後の創痕からの出血時間延長と凝固阻害とが回復するとともに,殺蛭的に作用する抗体が血中に生じたが,鳥類では不明確[ELISA法]。この抗体は,野性ジカでは幼獣には検体されずに老成獣に顕著[Ouchterlony法]で,ヒルにとって幼獣は安全な食源でも老成獣吸血による免疫学的間引き由来の生息度調節が実在する筈。7.生息密度の低下の原因は未特定であるが,1993年以後のシカの生息頭数の減少,ヒル孵化時期の遅延,当年孵化仔数の減少;1994年以後の厳寒期シカ寄生ヒル・蹄間腫瘤の激減〜消失,ヒルの吸血(食餌ありつき)頻度の低下;1995年頭年末の厳寒期静居個体の消失が随伴した。免疫学的間引き,今冬の寒冷・乾燥気候も大発生の終息化を助長したと推定されるが,雨水の酸性傾向〔pH6.58(5.8〜8.4)海塩混入〔NaCl濃度67.99(10.51〜458.84)mg/l)は無影響と考えられた。8.今後の見込み:大発生は終息し,被害は殆どなくなるが,通常の生息域(分布地)となって時折姿が発見されたり,希に吸血される可能性もありうると予想される。9.対比のために踏査した遠隔のヒル生息域の動向:秋田県(1市2町)では激減,栃木県今市市では緩和,神奈川県丹沢,静岡県千頭・宮城県,金華山では依然活発である。
著者
花房 俊昭 今川 彰久 寺崎 純吾
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.広範囲のエンテロウイルス抗体を検出できる新測定系によるウイルス抗体価の検討発症早期の劇症1型糖尿病患者19名と、年齢・性をマッチさせた発症早期自己免疫性1型糖尿病患者18名および健常コントロール19名において、エンテロウイルスIg-M,Ig-G,Ig-A抗体価を測定した。検討に用いた測定系は、特定のウイルスではなく、エコーウイルス、コクサッキーA群ウイルス、コクサッキーB群ウイルスなど広範囲のエンテロウイルスに反応する抗体を検出し得る測定系である。劇症1型糖尿病患者では、自己免疫性1型糖尿病患者および健常コントロールに比し、Ig-A抗体価が有意に上昇していた。Ig-M抗体価はすべての患者において陰性であった。以上の結果は、劇症1型糖尿病患者では繰り返しエンテロウイルスに感染していたこと、すなわち劇症1型糖尿病患者はエンテロウイルスに易感染性であることを示すと解釈できる。このような易感染性が劇症1型糖尿病の発症に関与していることが示唆された。2.劇症1型患者剖検膵におけるエンテロウイルス抗原の同定発症直後に死亡した劇症1型糖尿病患者剖検膵組織において、エンテロウイルス由来蛋白VP1を免疫組織科学的に同定した。この蛋白は膵外分泌領域に強く発現しており、膵β細胞が残存しているごくわずかな膵島においても、弱い発現を認めた。この結果は、劇症1型糖尿病患者の少なくとも一部において、エンテロウイルスが膵を標的臓器として感染していることを示唆するものと考えられた。
著者
榊原 由貴
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

一般相対論は宇宙論的観測をよく説明するが、この際暗黒物質や暗黒エネルギーといった未知の構成要素の存在を仮定する必要がある。これらの起源を理解するには、長スケールで重力自体の変更が必要になるのではないかという見方がある。長スケールでの重力の変更として自然なものに、重力子に質量を持たせる方法がある。それが、有質量重力子理論である。近年の研究で、有質量重力子理論が一般相対論と同様に時空の計量だけ含んでいる場合は安定な一様等方膨張宇宙解の構成が困難だが、もう一つ計量を導入した双計量重力理論ではそのような問題を回避できることがわかっている。我々は、双計量重力理論を重力として採用した時に標準的な宇宙論を再現でき、精密化が進む宇宙背景放射や宇宙の大規模構造などの観測と無矛盾でありうるかを確認することを目標として、特にビッグバン以前の宇宙を記述するインフレーションシナリオに注目して研究を行った。初年度には、双計量重力理論におけるインフレーション解の構成を実現しうるミニマルなモデルについて行い、その安定性を明らかにした。さらに、構成したインフレーション時空上で生成される重力波のスペクトルを求めた。次年度では、これらの解析を一般の双計量重力理論に拡張し、インフレーション中に重力波と同様に生成される曲率ゆらぎも求めた。結果、インフレーションシナリオに対する宇宙背景放射観測からの制限は、一般相対論の場合に比べ一般の双計量重力理論において厳しくなることが明らかになった。このことから、本研究の結果を利用し観測的に双計量重力理論をモデルを制限できると期待される。
著者
中田 雅也
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

生物には様々な色の変化を起こすものがある。それらの中で、以下の2つの課題について研究した。1.ヒカゲシビレタケ(Pslocybe argentipes)の変色:青色化合物の構造決定・生成機構解明ヒカゲシビレタケは、傷をつけ空気に触れさせると青色に変色する。このキノコは幻覚を引き起こすキノコであり、その原因物質であるシロシン、シロシビンが青色化合物の元であるが、青色化合物の構造については何もわかっていない。そこで、シロシンを化学合成し、FeCl3で酸化したところ、青色化合物が得られた。これをイオン交換後濃縮し、シリカゲルカラムにより分取したところ、別の青色化合物が得られた。これは、MS測定の結果、シロシン由来のポリマーの混合物であることがわかった。一方、天然のヒカゲシビレタケをアンモニア水で抽出したところ、青緑色溶液が得られた。これは濃縮すると緑色固体に変化した。また、濃縮しないでゲルろ過したところ、青色物質はゲルに残った。これらの結果から、シロシンからの酸化で得られた青色化合物と、天然から得られたそれとは現時点では異なる化合物であると判明した。2.カバ(Hippopotamus amphibius)の「赤い血の汗」の色素成分の構造研究動物には様々な色のついた汗をかく種がある。カバは赤い色の汗をかく。これは無色の汗が分泌されたあとに赤い血のような色に変色し、その後褐色物質に変化するものである。この赤色色素がカバを紫外線や菌の感染から守っていると言われているが、詳細はわかっていない。上野動物園の協力により、カバの顔と背中からガーゼで汗を採取した。無色の汗が数分で赤色に変色した。この極めて不安定な赤色物質をガーゼから熱湯で抽出した。この色素も1.と同様に濃縮によって重合してしまうため、抽出した水溶液は約4分の1までの濃縮にとどめた。これをゲルろ過し、褐色溶液、オレンジ色溶液、赤色溶液に分離した。赤色溶液は、イオン交換により精製した。NMRスペクトル(D2O)の結果、6〜7ppmに3Hのビークが観測されたが、不安定なため誘導体に変換した。すなわち、赤色水溶液にNa2S2O4リン酸バッファー溶液を加え還元した。無色になった溶液を塩酸で酸性にしたのち、酢酸エチルで抽出した。有機相にジアゾメタンを加えその後濃縮した。さらに、シリル化(TBSOTf,2,6-lutidine)したのち、シリカゲルTLCにより分取した。得られたサンプルについて、MS、NMR(benzene-d6)、13C NMRを測定した。その結果、この誘導体は分子量は602であり、OMe基3個、OTBS基2個、芳香族水素3個、メチレン水素1個(2H)、メチン水素1個、フェノール性水酸基1個が存在することがわかった。なお、13C NMRは、微量ゆえ正確には判断できなかった。
著者
田中 浩也 小檜山 賢二 井尻 敬
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、微小オブジェクト(5ミリ~数センチ)を対象に、その計測からテクスチャ付き3Dモデル生成までの工程を自動化することを目的とする。特に、微小オブジェクトの表面の模様(テクスチャ)の計測は,通常の写真撮影ではピンボケが発生してしまうため,深度合成技術を採用する。また,複雑な構造を持つ微小オブジェクトの精密な形状取得のため,本研究では形状モデリングにX線CT計測を応用する。初年度では、CT画像によるモデル(モデルA)とSfM法によるモデル(モデルB)の組み合わせによる高解像度のカラーテクスチャ付き高精度モデルの生成自動化に目途をつけた。具体的には以下のサブ課題を実施した。●A1)研究環境の整備 :大型CT装置の整備、および、自動写真撮影装置の設計と構築を行った。●A2)CT画像分割ソフトウエアの実装 :CT画像から昆虫領域を分割する機能を,分担研究者が開発中の画像処理ソフトウエアRoiPainter3D上へ追加した。また,このソフトウエアを拡張することで4DCT画像の解析も試み,研究成果を発表した。●A3)深度合成映像の取得: オブジェクトを中心にカメラを平行移動・回転させながら自動撮影(XY平面:10度間隔、Z軸:3方向、各角度において合焦点位置を変化させた50カットの合計5400カットを撮影)した後、この写真群から108の深度合成映像を自動生成する環境を構築した。●A4)CTモデル/SfM法モデルの自動位置合わせ: CTから生成したモデルAと写真から生成したモデルBを位置あわせ(コンピュータによる自動位置合わせソフトを開発)し,モデルBにモデルAのテクスチャを転写する手法を実現した。●A5)モデルの構築:上記技術を利用し,実際に昆虫サンプルの計測を行うことで40例程度の三次元モデルの構築を行った。
著者
河西 秀哉
出版者
神戸女学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、戦後を対象時期として設定し、象徴天皇制の歴史を総体的に解明すること試みようとしたものである。政治的動向のみならず、社会的・思想的な側面も含めて全体を検討し、象徴天皇制を全体として把握することを試みた。特に、皇居という空間への認識、戦争責任論、明仁天皇・美智子皇后という人に焦点を当て、象徴天皇制がどのように展開してきたのかを検討した。その結果、国民の意識に寄り添いながら展開したことが明らかとなった。
著者
片岡 淳
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、福島原発事故で飛散した137-Cs分布の3次元可視化技術を新たに開拓した。具体的には(1)土壌中で散乱した2次ガンマ線と直接ガンマ線の比率 (2)散乱ガンマ線画像の広がりの両方を用いることで、2次元ガンマ線画像の縮退を解くことができる。シミュレーション及び実験室環境での詳細検証を経て、福島県浪江の森林部においてフィールド試験を行った。137-Csが深度方向に指数関数分布をしていると仮定し、緩衝深度β=2.22±0.05 cmを得た。これはスクレーパープレートによる直接調査の結果と良く一致している。今後は SPECT などで散乱ガンマ線を用いることで、新たな医療応用も期待できる。
著者
安冨 歩 深尾 葉子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、満洲・華北・黄土高原の三地域を研究対象として選定し、歴史的研究とフィールドワークによる研究を併用し、一般的な中国農村社会モデルの構築を目指した。本年度は、第一・二年度における、長距離走破調査の成果をもとに、2006年8月に黄土高原で追加的調査を行うとともに、文献調査とモデルによる考察を推進し、中国農村社会の一般モデルの提唱という目的の実現を目指した。研究成果としては以下の二点が主たる成果である。(1)安冨が兼橋正人(東京大学大学院情報学環博士課程)と協力して、満洲の人口分布を各種の人口統計を用いて解明した。さらに、1970年代から得られる人工衛星画像を利用して、満洲と山東省の集落分布の変遷を調査した。この結果、安冨(2002)が主張した県城のみが突出し、村落との間に中間的な町が見られないという構造が、1970年代には中満と北満に明瞭に見られ、それが改革開放以降、徐々に見えにくくなっていることが判明した。これに対して山東省では、1970年の時点で既に多階層の構造が見て取れる。このような構造的な違いを視覚的に確認することができた。(2)深尾と石田慎介(大阪外国語大学学部生)が共同で高西溝村の社会と環境の現代史を明らかにした。高西溝村は黄土高原のなかにありながら、唯一、まとまった森林と草原を村内に形成し、バランスのとれた高能率の農業を展開し、澄んだ水のため池を持つことで中国全土に知られている。なぜこのようなことが可能であったのかを長期の滞在型調査により明らかにした。現在のところ重要であったと考えられるのは、共産党革命の過程で、村の内部で政治的亀裂が入ることを回避しえたことであり、これによって実行不可能なノルマを主体的に拒絶し、生産性を挙げるために本当に必要なことを村という単位で考えることが可能になったことである。
著者
安冨 歩
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

20世紀前半の満洲(中国東北地方)の歴史には二つの大きな特徴がある.まず第一はその急激な経済発展である.清末におけるこの地域は,長い封禁政策の影響により明らかに辺境性を色濃く残した「後進」地域であった.しかるに辛亥革命以降,満洲は急速な「近代化」に成功し,他の地方とは比較にならない重化学工業地帯がこの地域に出現する.第二の特徴は,この地域が東北軍という中国国内で最も強力な軍隊を有していたにもかかわらず,満洲事変における関東軍の軍事行動に対して脆弱であり,その後の反満抗日運動も,華北等に比して短期間で勢力が衰えたことである.この二つの特徴がなぜ満洲に見られたのかという問題に対し,本研究により一つの回答を提案することができた.まず,満洲における定期市の分布を調査し,中国本土に広く見られる定期市の稠密な分布が満洲には見られないことを示した.満洲における商品流通は定期市ではなく,県城を中心として展開されていたのである.このようなシステムが形成された理由は,(1)モンゴルからの安定した家畜の供給と朝鮮国境からの広葉樹材木の供給に支えられた荷馬車の広汎な使用,(2)冬季の道路面・河川の凍結による荷馬車輸送コストの低下,(3)鉄道の敷設率が高く,華北からの移民が鉄道周辺から開拓を進めていたこと,に求められる.農民が荷馬車を使用することで長距離移動が可能となり,県城商人との直接の売買が主流となった.この接触と鉄直輸送を結合することで,大豆モノカルチュアとも言うべき輸出指向農業が展開し,農民はより強く県城商人に依存するようになった.この県城商人と農民の直接の接触により,県城が農村を掌握する政治力が強く,県を単位とする政治的な凝集性が満洲にあったと予想される.この凝集性こそが張政権の基盤であり,圧倒的な軍事力で華北を支配する原動力となった.逆に満洲事変の際には関東軍に県城を占領されることで県全体が掌握されるという事態をもたらし,県城を占領されても根拠地を維持しえた華北と対照的な結果となったのである.研究成果は「満洲における農村市場」(『アジア経済』投稿中)および「満洲事変と県流通券」(福井千衣と共著:投稿準備中)として纏めた.
著者
安冨 歩
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

1)基礎資料の収集と整理日本銀行金融関係資料・満洲重工業開発社報・満洲中央銀行営業報告書・満洲興業銀行営業報告書財務諸表のコピー作成と収集を行った。2)「満洲国」関係者への聞き取り調査元満洲中央銀行職員への聞き取り調査を行った。特に永島勝介氏より貴重な情報と資料の提供を受けることができた。3)経済データの整備本研究で収集した資料を解析し、金融機関・主要企業の財務データや経済活動に関する数値を抽出した。これにこれまでの研究で既に整理していたデータを統合し、コンピュータに入力した。満洲国経済史を研究する上で基礎となすデータベースの構築ができたものと考える。4)戦時インフレーションの解明上記データと資料の解析により、全く明らかとなっていなかった満洲国の農業金融の研究を行い、戦時インフレーションと農業金融との深い関連を明らかにした。既に行っていた鉱工業方面の研究と接合することで、戦時インフレ下の満洲国の実態の再構成に一応成功したものと考える。
著者
古屋 哲夫 安冨 歩 山室 信一 山本 有造
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

研究実施計画に従い次の様な研究活動を行なった。(1)基礎資料の収集整理(イ)法制関係文献については、満洲国六法をはじめとする諸法制についての法令集のほか、コンメンタールや司法官会議について会議録および旧慣調査についての史料を収集した。(ロ)経済関係文献については、日本銀行所蔵満洲・中国金融関係資料のマイクロフィルム化を重点的に行なった。(ハ)東アジア全体における満洲国の位置づけを明らかにするために、朝鮮や台湾、南洋庁さらに中国内に作られた傀儡政権の人事的リクルートの問題、あるいは物資動員の実態などを明らかにするための史料ないし回顧録などの収集を行なった。(2)研究会活動上記の収集資料の整理・解読を中心にほぼ月1度の共同研究会を開催し、日本の東アジア進出過程における「満洲国」の政治・法制・経済・金融的位置について討論を行なった。(3)その他当初予定した「聞取り調査」は都合により実施しえなかったが、専門研究者をゲストとしてまねき、報告・討論会を開いた。