著者
渡辺 和人
出版者
北陸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

主要大麻成分(テトラヒドロカンナビノール、THC; カンナビジオール、CBD; カンナビノール、CBN)のヒト脳、肺および胎盤における毒性発現機構解明の一環として、以下の点を明らかにした。(1) ヒト脳ミクロソームによる代謝、(2) ヒト肺ミクロソームによる代謝、(3) ヒト胎盤ミクロソームおよびCYP19による代謝、(4) ヒト脳および肺ミクロソームによるMALDO活性、(5) ヒト脳および肺ミクロソームにおけるアナンダミドおよび2-アラキドノイルグリセロール加水分解阻害作用、(6) THC代謝物のカンナビノイド受容体を介した細胞毒性(マウス肺マクロファージJ774-1細胞)。
著者
伊東 信宏
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年2月に、国際フォーラム "Pop-folk genres in East Europe and East Asia: Parallel Phenomena on Both Sides of Eurasia"を開催したが、平成29年度は、このときの報告に基づく書籍『東欧演歌の地政学』の編集を行った。現在までのところ、序論「東欧演歌研究序説」を脱稿し、小島亮(北朝鮮歌謡に関する研究)、奥彩子(レーパ・ブレナに関する研究)、濱崎友絵(トルコのアラベスクに関する研究)、新免光比呂(ルーマニアのマネレに関する研究)、阪井葉子(東ドイツのフォーク・リバイバルに関する研究)、高岡智子(東ドイツのロックに関する研究)、斎藤桂(北欧のフォーク・メタルに関する研究)、上畑史(セルビアのターボフォークに関する研究)による論考が仕上がり、クララ・フルヴァティン(スロヴェニアのターボフフォークに関する研究)、ステラ・ジブコヴァ(ブルガリアに関する研究)の英語論文の翻訳がほぼ完成している。出版社との交渉も進めており、刊行の見通しも立っている。ただし現地の研究者によるレビューを経て完成させたいと考えており、平成30年度の冬にブルガリアでポップフォーク研究の第一世代で国際フォーラムに際して基調報告を行ってもらったヴェンツィスラフ・ディモフ博士(ソフィア大学)、およびロザンカ・ペイチェヴァ博士(民俗学研究所)との面会を行う予定である。その他、東欧各国のポップフォークについては、近年まとまった研究書が刊行されているので、これらをフォローすることにも多くの時間を費やした。さらにロシアのフォークロアの舞台化についても調査を行った。
著者
清水 邦彦
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

路傍の地蔵が道祖神との習合から立てられるようになったという通説の見直しを行った。地蔵盆で有名な京都に関しては、六地蔵参りの模倣として立てられたことを明らかにした。なお、地蔵盆には死者供養的面があり、これは道祖神信仰には見られない面である。京都に関しては、江戸時代では町境に立てられることも多かった、現在ではそうではない。東京23区域では死者供養のために立てられたことが多いものを明らかにした。また、初期のものは、庚申信仰との習合が見られた。石川県金沢市では、江戸初期のものは、造立理由不明だが、後には死者供養を目的とするものが幾つか見られた。
著者
森 一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の初年度である平成29(2017)年度は、「世界への愛」という研究テーマが大きく進捗した一年であった。まず、2017年10月に、単著『世代問題の再燃――ハイデガー、アーレントとともに哲学する』を明石書店から出版した。これは『死を超えるもの 3・11以後の哲学の可能性』(東京大学出版会、2013年)のいわば姉妹編であり、世界への愛をめぐる試論集成である。世代という今日的問題を深く問い直そうとする本書に対する反響は大きく、朝日新聞などで書評に取り上げられ、出版二ヶ月後には増刷となった。また、2018年3月には、初めての書き下ろし単著『現代の危機と哲学』を放送大学教育振興会から公刊した。放送大学ラジオ科目の印刷教材であり、現代人にとっての哲学的思考の重要性を広く、分かりやすく市民に伝える内容でありつつ、ニーチェ、ハイデガー、アーレントについて独創的解釈を展開している。のみならず、年来の「世界への愛」著作構想の第一部という面をもち、「始まりの時間性」や「世界の存続」の謎に挑む大胆な思索の書である。4月から始まったラジオ放送とともに、今後の反響が期待される。論文としては、「ハイデガーからアーレントへ――世界と真理をめぐって」を、実存思想協会編『実存思想論集』第32号に、「『存在と時間』はどう書き継がれるべきか」を、ハイデガー研究会編『Zuspiel』に、「労働という基礎経験――ハイデガーと三木清」を、青土社の『現代思想』のハイデガー特集号に、「世代の問題――マンハイムと三木清」を、明治大学の『異境の現象学』に、それぞれ寄稿した。
著者
根岸 哲 武田 邦宣 中川 寛子 善如 悠介 島並 良 鞠山 尚子 池田 千鶴 泉水 文雄 和久井 理子 川濱 昇 柳川 隆 水野 倫理 中村 健太 川島 富士雄 前田 健 井畑 陽平 手嶋 豊
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

1 海外調査(i)和久井・池田が、欧州諸国において、競争・情報通信当局及び競争法の研究者との間で、特にプラットフォームと競争法の関係につき、相互の意見交換と実務と研究動向の調査を行い、(ii)川島が、北京社会科学院・上海交通大学での長期研究により、科研に係る全般的な論点に係わり、中国独禁法の研究者との相互の意見交換と中国独禁法の対応状況の調査研究を行った。2 研究会、ワークショップ等(i)医薬品・機器規制の競争に及ぼす影響及び先発医薬品・後発医薬品間の競争に係る問題を解明するべく、外資系医薬品企業の2人の法務部長弁護士とのヒアリング・研究会及びSokol米国フロリダ大学教授との研究会を通じ、日米における現状と課題を把握し、(ii)競争法と知的財産権の関係を検討するべく、仁ラボ代表鶴原稔也氏との研究会及びCheng香港大学准教授との研究会「特許・イノベーションと競争法」・「不争条項」を通じ、現状と課題の把握し、(iii)日中米欧の研究者・実務家が参加した国際ワークショップ「企業結合規制の先端的問題-プラットフォーム・ビジネスとイノベーション時代の諸課題」を開催し、企業結合規制の先端的問題の把握に努め、(iv)世界的プラットフォーム事業者アマゾンの最恵国待遇条項の競争上の問題につき、アマゾン側担当の平山賢太郎弁護士との研究会を通じて、研究を深めた。3 シンポジウム(i)日本の研究者・実務家によるシンポジウム「景品表示法の実現手段の多様性-独禁法の視点も含めて」、(ii)日中米欧の研究者・実務家が参加した公正取引委員会競争政策研究センター主催の大阪国際シンポジウム「デジタル・エコノミーの進展と競争政策-IoT、データ、プラットフォーム・ビジネスと法-」に本科研チームが共催者として参加し、国際的な動向把握とともに日本の状況につき発信を行った。
著者
柳川 隆 泉水 文雄 池田 千鶴 水野 倫理 草薙 真一 明城 聡 吉野 一郎 播磨谷 浩三
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

エネルギー・電気通信・鉄道といったネットワーク産業の制度改革の現状と課題、及び解決策について研究を行った。エネルギー産業については、日本、アメリカ、EUのアンバンドリングと再生可能エネルギー促進に関する政策を調査した。また、原子力発電所の所有形態について公的所有とフランスのNOME法について分析した。電気通信事業については、規制改革のインフラ投資の影響についての理論分析と、規制改革がもたらす競争政策上の課題について考察した。鉄道事業では、水平分離された国鉄の新幹線と在来線との兼営の効果と並行在来線の経営の効率性を検証した。
著者
今村 俊幸 大井 祥栄 深谷 猛 廣田 悠輔 椋木 大地 山本 有作 藤堂 眞治
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、数万から数億のコアプロセッサが搭載される計算システム環境下において、過去に蓄積された高性能な数値計算サービスを新しい数学原理に基づき実現することを目的にし、「異粒度数値カーネル構築」と共に「非同期的な数値計算アルゴリズム」の2大テーマのもと、1)非同期的数値計算アルゴリズムに関する理論と実用レベルにある省通信・省同期アルゴリズムについて研究しCAHTRやFDTD向けの手法を提案した。更に、2)超メニイコアでのスケーラブルな軽量コード生成のための自動チューニングなどの核基盤技術研究を推進し次世代数値計算ソフトウェアの新技術創出に繋がる新機軸探究を進めた。
著者
和田 章
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究課題では、赤血球に感染したマラリア原虫の増殖と金属イオンの関係性に着目し、金属イオンに相互作用する新たな分子リガンドを探索した。その結果、マラリア原虫の増殖を抑制する特殊な分子リガンドを発見した。そして、その分子リガンドは、既存のマラリア治療薬であるクロロキンに耐性のあるマラリア原虫に対しても増殖抑制効果を発揮することを明らかにした。さらに、細胞レベル及び動物レベルでの多角的な評価により、新たなマラリア治療薬候補としての有用な特徴を見出している。
著者
大西 弘高 任 和子 西薗 貞子 北野 綾香
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

看護領域の臨床推論と混同されやすい看護過程と看護診断について概念の整理を行った。そして看護領域の臨床推論には、医学モデルに基づく推論と、看護独自の視点に基づく推論の2つがあることが明らかになった。多職種協働の発展に従い、看護師の特定行為研修で医学モデルの臨床推論がカリキュラムに組み込まれたこともあり、看護師の臨床推論と医師の臨床推論は歩み寄ってきている。臨床推論の教育方法としては、複雑さと不確実性の中で患者の経時的な変化を捉えて推論・判断を行う練習をするために、ケース・スタディが有効である。その方法の一つとして、Inquiry-based Learningがある。
著者
橋爪 大輝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究は、政治理論家ハンナ・アーレントの思想を哲学/倫理学的な観点から体系的に解明することを目ざすものである。当該年度は、下記の点において研究の進展を見た。(1)アーレントは、世界において他者とかかわる人間が、かかる他者と世界から後退し自分自身と対話することで自立を確立すると考える。彼女が思考と呼ぶのはこうした動態に他ならない。思考の機制と構造を、論文「〈一者のなかの二者〉の構造と成立機序」(『倫理学年報』第66集、日本倫理学会、2017年3月)において私たちは示した。(2)アーレントは、人びとが形づくる共同性(〈政治〉)が公と私に分かれると考える。このような公私二元化には批判も多いが、私たちはこの二元論が公共性を確保するために欠かせない論理構成であることを、その〈親密圏〉批判を手掛かりに以下の学会報告において論証した。「アーレントの親密圏批判の意義」(ワークショップ「親密さの倫理」日本倫理学会第67回大会、2016年9月)。(3)人びとの共同性が営まれる場は〈世界〉と名指される。世界は、彼女にあってその外延を伸縮させるものであり、彼女は人間が制作する〈もの〉からなる世界を「物世界」と呼ぶ。論文「有用性を越えて持続する〈もの〉」(『社会思想史研究』第40号、藤原書店、2016年10月)では、このような〈もの〉に関する理論を解明した。(4)本研究は2015年度公刊の論文にて、アーレントの政治概念を「関係と主体を同時に出来させる〈あいだ〉の生成」として、高度に抽象的なその理路をひとまず解明していた。とはいえ、彼女は政治を具体性の相においても思考していた。論文「政治の闘争性」(『倫理学紀要』東京大学大学院人文社会系研究科 倫理学研究室、2017年3月)では、彼女の「戦争」や「アゴーン(闘争)」といった概念を糸口に、かかる抽象的概念を具体性の場に受肉させることを試みた。
著者
伊藤 伸一
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

粉体-水混合ペーストなどを乾燥させてできる乾燥破壊パターンは、乾燥のさせ方の履歴に依存して時間発展し、その統計的性質である平均破片サイズや破片サイズ分布などは時間に依存して変化する。特に、時間変化する破片サイズ分布は、平均サイズでスケールする事で時間に依らない分布形へ収束していく事(動的スケーリング則)が知られている。我々は乾燥破壊パターンの時間発展を連続体モデルや確率モデルを使って調べ、破片サイズ分布の時間発展の性質を調べた。本年度はこれらの成果を纏めた論文を2報投稿しそれぞれ受理された。そしてさらなる研究として、確率モデルの詳しい解析と実際に乾燥破壊実験を行なって、理論と実験のそれぞれの破片サイズ分布を比較し、理論の妥当性を議論した。我々はGibratの確率モデルを拡張した確率モデルを考案し、そこに連続体モデルから計算される破片の寿命を取り入れ、乾燥破壊パターンの破片サイズ分布の時間発展を表現するモデルを構築した。そして、その確率モデルのマスター方程式を詳しく解析し、モデルパラメーターと破片サイズ分布関数形の定量的な関係付けを行なった。そのパラメーターと分布形の関係が実際の乾燥破壊実験での亀裂パターンでもあわられるかどうかを検証する為、炭酸水酸化マグネシウム粉体と純水の混合ペーストを用いた乾燥破壊実験を行なった。結果として、実験で得られた破片サイズ分布の関数形は理論が予測する関係を部分的に満たし、乾燥履歴は破片サイズ分布の関数形に残される事が分かった。我々の現段階までの結果は、実測においてパターンの時間発展を追う事が出来なくても、動的スケーリング則と合わせて考える事で、破片サイズ分布の関数形から乾燥履歴を読み取る事ができる事を示唆している。この成果は論文に投稿する予定である。
著者
小尾 高史
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

公的個人認証サービス(JPKI)に対して,新たに電子利用者証明サービスが追加されたが, 1つの公開鍵証明書を利用することによるプライバシーの侵害につながる可能性や,不正にインストールされたマルウエアによりサービス利用時のデータ書き換えなどが発生する可能性が指摘されている.本研究では,JPKIを安全安心に民間分野のサービスで利用可能とするために必要となる,利用者のプライバシーに配慮した利用者を識別するID番号をサービス機関が個別に発行する仕組みの提案,マルウエア等からのJPKI利用端末で受けるサービスの保護について検討及びプロトタイプ開発を行った.
著者
柴富 一孝
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

トリフルオロメチル基は医農薬品の機能向上のために汎用される置換基である。今回我々はβ-フルオロメチルアクリル酸エステルの不斉Diels-Alder反応により,不斉炭素上にフルオロメチル基を持つシクロヘキセン類を高エナンチオ選択的に合成することに成功した。さらに,4,4,4-トリフルオロクロトンアルデヒドへの不斉マイケル付加反応にも成功した。得られたトリフルオロメチル化合物は医薬品候補分子の有用な中間体となる。
著者
涌井 徹也 米杉 政則 西岡 拓哉
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

風力発電の普及促進を図るために二重反転型垂直軸タービンを用いた浮体式洋上風力発電システムの開発を念頭に置いた空力-弾性-制御連成解析モデルの開発を行った.開発の第1段階として直線翼垂直軸型風力タービンを用いた陸上設置式システムの乱流変動風況下での連成挙動の解明を行った.これより,二重反転垂直軸型タービンを設計する際の有益な知見を得ることを目的とした.数値解析を通して,高風速下では回転周波数の翼枚数倍の変動がタービントルクに大きく現れ,弾性振動や荷重変動に大きな影響を及ぼすことを明らかにした.
著者
堀 久美 木下 みゆき
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究代表者による情報発信活動を行う女性の側からの調査・検討に、研究分担者が計画した情報学の側からの調査・検討を加えることで、多面的かつ包括的な研究を実施することができた。初年度は、大きく以下の4項目を実施した。①研究代表者・分担者のそれぞれの専門領域における先行研究から明らかとなった知見について整理・共有したうえで、本研究の対象となる震災記録等について、資料収集・分析を行い、女性たちが残したかった経験、ジェンダーの視点がどのようなものであったかを検討した。②本研究の対象となる震災記録活動に携わる女性団体から研究協力者を得て、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の被災地での女性の記録活動についてプレ調査を行った。プレ調査に基づき、調査方法や調査項目の妥当性等を検討し、次年度の本調査実施に向け、調査計画を具体化した。③震災記録の収集・発信が期待される被災地の専門図書館である男女共同参画センター情報ライブラリー/図書室として、兵庫県、仙台市、熊本県、熊本市の関連施設においてプレ調査を行い、調査方法や調査項目の妥当性等を検討し、精査した。これを踏まえ、次年度の本調査実施に向け、調査計画を具体化した。④上記の3項目の研究実践の途上で、災害に関する男女共同参画センターの情報機能について、長期的な観点からその成果を明らかにすることが、本研究にとって有効であることが分かり、新たに、阪神淡路大震災後から現在までの、兵庫県立女性センターの情報ライブラリー担当者を対象とする調査計画を立案・実施し、考察を行った。
著者
額田 均 八木橋 操六 馬場 正之 土原 豊一 根本 孝一 成瀬 桂子 中村 二郎 マルカス ミュラー 小笠原 早織 辻井 麻里 デニース マックラクラン
出版者
(財)額田医学生物学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

1)高血圧が糖尿病性神経障害の発症・進展に関与していることは、大規模疫学調査から証明されたが、高血圧自体が末梢神経障害を惹起するかは不明だった。今回、高血圧ラットを用いた実験において、高血圧自体が末梢神経障害を起こすことが明らかになった。また、高血圧ラットの末梢神経では、糖尿病性神経に認められたのと同様に、虚血・再灌流傷害に対して形態学的・電気生理学的に脆弱性を認める。2)糖尿病性神経障害の発症機序は解明されていない。糖尿病ラットを用いて、神経内鞘マクロファージの活性化が、その発症に関与していることが証明された。3)末梢動脈閉塞症に伴う痛み・灼熱感、血行再建術後に出現するしびれなどの感覚障害に対しては早急な治療法の確立が望まれる。HGF遺伝子の逆行性神経内導入により感覚障害の改善が認められた。本法は虚血再灌流障害に対する有効な治療法となりうると考えられた。
著者
竹内 幸絵 佐藤 守弘 熊倉 一紗
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究2年目はまず広告業界誌『プレスアルト』の冊子体に記載されていたリスト情報を元に、広告作品の詳細来歴情報(広告主やデザイナー、印刷手法など)についての文字起こしを行なった。情報は5619作品分取得することができた。次にこの文字情報と、初年度撮影済の広告現物スナップ写真(画像情報)6183枚との照合作業を行い、画像情報に適切な文字情報を紐づけて行く作業を行った。およそ8割の画像情報について合致させることができた。最後にデータベースソフトを用いてこの結果を管理する仕組みを構築し、文字情報(例えば企業情報やデザイナー名)から関連する画像情報を呼び出すなどの一括検索が可能な形式に生成した。一方このデータベースとは別に、現存またはコピーが確認できている冊子体298冊の全ページのPDF化を行った。これは脆弱な冊子の記事を研究時に確認閲覧可能とするために必要な作業であった。広告印刷物というエフェメラメディアの研究では、たとえ現物が残っていたとしても制作年すら同定が難しく、まして印刷形式や色数、紙の質などの確定は著しく困難である。この不確かな状況がこれまで広告研究の推進を阻害して来たといえる。本研究の固有性は、破棄され後世に残りにくい広告の実物が現存すること、そしてのみならず、その制作時の来歴が冊子体により明確であるという点にある。従って今回の研究では、数千点の作品画像情報に明確な来歴情報を紐づけて整理することが大きなひとつの目標であった。この当初のねらいの基礎部分を上記の二つ基礎のデータを二年度までに制作することで実装した。すなわちデータベースで数千の作品の検索を行い、その作品のさらなる詳細情報を冊子から読み取るという研究環境を整えることができた。
著者
武田 貴成
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本研究課題では、亜鉛欠乏による炎症のメカニズム解明を目指し、主に細胞外アデニンヌクレオチド代謝に注目して研究を進めた。具体的には、当該年度実施した研究により、主に①in vitro系において亜鉛欠乏培養が細胞外アデニンヌクレオチド分解酵素の活性を大きく減弱させることを確かめ、研究課題の仮説を裏付ける基礎を固めた。さらに②この酵素活性の低下によって、実際にアデニンヌクレオチド分解まで影響するのかを調査するため、新たにHPLCを利用した解析系を立ち上げ、亜鉛欠乏培養により正常なATP、ADPの除去、およびアデノシン産生が大きく阻害されていること見出した。これに加え、③in vivo解析においても、低亜鉛食の給餌がin vitroの結果と同様に各酵素活性の低下、およびそれに伴った細胞外アデニンヌクレオチド分解の減退を引き起こすことを見出した。このような当該年度の研究により、亜鉛欠乏によって正常な細胞外アデニンヌクレオチド代謝が妨害されるという仮説を裏付ける解析結果を得た。これにより今後の研究の方針が決定したほか、これまでに亜鉛栄養と細胞外アデニンヌクレオチド代謝との関連を示した報告は知られていないことから、本解析結果は新規性・独立性という点において大きな意義を持つ。また、今回樹立した各酵素活性の測定系、およびHPLCによる定量系は簡便且つ正確であり、今後本研究課題を遂行していく上でも有用な手法となることが期待される。
著者
立元 一彦 清水 弘行
出版者
群馬大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

アペリンは、1998年に我々がオーファン受容体APJに対する内因性リガンドとして発見した36個のアミノ酸からなる生理活性ペプチドである。アペリンは血管内皮などから分泌され、内皮由来の一酸化窒素(NO)を放出して血圧を降下する。また、アペリンは既知の生体物質の中で最も強力な心筋収縮作用をもち、心不全などの病態生理において重要な役割を担うことが示唆されている。我々は、アペリンが脂肪細胞の産生する新しいアディポサイトカインであることを明らかにし、アペリンが肥満、高血圧症、動脈硬化などの病態生理に重要な役割をもつことを示唆している.本研究では、アペリンの脂肪細胞における生理的役割を検討するため、各種ラットモデルにおけるアペリンの血圧降下作用とマウス脂肪細胞および3T3-L1脂肪細胞におけるアペリンの遺伝子発現とその制御に関する研究を行った。我々は、アペリンが脂肪組織の豊富なラットに対しては強力に血圧を降下させ、脂肪組織の少ないラットに対しては弱い血圧降下作用を示すことを示した。さらに、マウス分離脂肪細胞においてアペリンおよびアペリン受容体の両方のmRNAが発現していることから、アペリンがオートクリンあるいはパラクリン機構を介して作用する可能性を示唆した。また、我々はマウス3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化の過程でアペリンmRNAの発現が増加することを見いだした。分化後の3T3-L1細胞におけるアペリンの発現はインスリンにより増加し、デキサメタゾンにより抑制された。また、インスリンによる発現増加はデキサメタゾン添加によって抑制され、デキサメタゾンによる抑制はインスリン添加によって回復した(1)。これらの結果は、脂肪細胞からのアペリン分泌が低インスリンおよび高グルココルチコイド濃度の条件下で低下することを示唆した。一方、脂肪細胞はアンジオテンシンを産生し、グルココルチコイドはそのアンジオテンシン産生を促進することが知られている。さらに、アペリン欠損マウスではコントロールと比較してアンジオテンシンによる血圧上昇作用が増強される。正常血圧の肥満患者における血中アペリン濃度が、非肥満患者と比較して2倍ほど上昇していることなどから、アペリンが肥満において血圧を正常に保つために抗アンジオテンシン作用物質として重要な役割を担っている可能性が指摘される。しかし、ストレスなどが原因で起る高グルココルチコイド濃度の条件下では、血圧降下作用のあるアペリンの産生が抑制され、血圧上昇作用のあるアンジオテンシンの産生が促進されることが予想される。そこで、肥満高血圧患者においてはストレスなどが原因で起ったグルココルチコイド濃度の上昇によるアペリン分泌機能の破綻が高血圧症の一因となっている可能性が示唆される。
著者
安原 陽平
出版者
沖縄国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、学校での精神的自由の保障を目的として、2018年度から教科化される特別の教科「道徳」における教師の教育の自由について考察するものである。今年度は、研究実施計画を踏まえ、①理論状況の確認・検討、②教育行政ならびに各学校での進捗状況の確認・検討をそれぞれ進めている。①については、教科書使用義務、補助教材選定の自由を主たる対象として研究を進めた。とりわけ補助教材選定の自由については、ハードな規制に加え、ソフトな規制にも目を向ける必要があることが確認できている。この成果については、研究会ならびにシンポジウムで公表しており、次年度以降、論文として発表する予定である。同時に、ドイツにおける学校制度や教育に関する連邦憲法裁判所の判例なども検討し、比較研究の基盤も整えている。②については、2018年度からの開始に合わせて2017年度は小学校で使用される教科書の採択が実施されたため、関連する資料を収集し、検討をおこなった。とくに沖縄県の那覇地区を対象としている。採択された教科書の性格等に加え、採択の審議過程などの考察もおこなった。審議過程に関して、不透明さが残る部分もあり、教科書の内容面に加え、採択の手続的正当性も問題になることが確認できている。また、現職の教師等との研究会・勉強会にも参加し、次年度の準備状況、道徳教育推進教師の役割、保護者対応の実態など、各学校における進捗状況の把握に努めた。多忙化による準備時間の不足、人事考課と給与の連動による萎縮効果など、自律的な教育実践を妨げる諸要素を確認できている。