著者
前田 一之
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

わが国に限らず, 近年の大学ガバナンス改革は, 上意下達型の官僚制モデルを組織の調整メカニズムとして用いる点に特徴がある. しかし, 組織の形態は多種多様でありヒューマンサービス組織である大学において官僚制モデルが有効に機能し得る根拠はない. かかる問題意識に基づき筆者が先に行った研究(奨励研究 課題番号16H00084)では, 選抜性で統制してもなお, 柔軟性と革新性を志向する組織文化が組織の運営効率に好影響を及ぼしている実態が明らかとなった. あわせて, この研究では, 集権型の組織構造が, 運営効率に対して効果を有していない事実も明らかとなった. 一方, この研究では, 単一の個人による認知を組織文化一般として, 取り扱っている点に限界があった. そこで, 本研究ではマルチレベル分析を用いることによって, 大学の運営効率を高めるメカニズムを解明することを目的として実施された. 設定した課題は二つある. 第一の課題は, 大学レベルでの組織文化及び学長リーダーシップが個人レベルの組織コミットメントや集団の協働意識に影響力を持ち得るのか否か検証を行うことである。第二の課題は, 形成された協働意識が運営効率に対して影響力を持ち得るのか否か検証を行うことである.本研究を実施するうえで, 分析の対象は私立大学, 専門領域は人文系学部に限定し, 調査方法としてWebのアンケートフォームを用いることとした. アンケート送付対象者は, 教員に関しては, 全私立大学のHPを閲覧し, 公表されているメールアドレスを収集した. 最終的に収集したデータ数は178大学, 4831人である. また, 職員に関しては公表されている全私立大学の担当者メールアドレス一覧を利用し, データを収集することとした. 大学の組織文化やリーダーシップの定量的調査において, マルチレベル分析がなされたことはなく, 本研究はその点に意義を有する. 現在, 調査は完了していないが, 解析が完了次第, 成果を公表する予定である.
著者
谷口 亜紀子
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

近年、技術系女子学生が卒業後専門職についたとしても就労を断念するケースが半数以上にものぼり、社会的な損失になっている。これは女子学生が在学時に技術系専門職への展望をもてず、キャリアの見通しを立てることができないことが一因ではないかと考えられる。そこで技術系女子学生向けキャリア教育において、ロールモデル供給のあり方がカギになるのではないかという仮説を立て、高専を事例として技術職員の立場から効果のあるキャリア教育方法を模索することを目的とした。まずこれまで断片的に観察されてきた女子学生のキャリア形成・構想上のつまずき事例および技術系専門職としてのロールモデル獲得の成功・失敗事例を網羅的に収集した。女性はライフイベントの影響を受けやすいことや高専の多様性などを考慮し、対象者を30代後半以上の津山高専女性卒業者に限定した。今年度は正職員・パート勤務・主婦など調査協力者10名に対して聞き取り調査を行った。聞き取り調査後、収集された事例の分析を行った。初職を継続しているのは4名であり、長期的な正規職は6名と就労意欲は高かったものの、正規技術系専門職への就労はそのうち2名であることがわかった。これは専門職としての就労を不可能にする社会環境と卒業生個人に内面化されたジェンダー意識(性別役割意識)が原因と考えられる。このうち性別役割意識はキャリア教育の課題であると考えられる。また正規技術系専門職への就労は少なかったものの、津山高専での被教育経験に対して当事者としての満足度は高いことがわかった。そのため、津山高専のもつ機能として「技術系専門職」の教育機能だけではなくカリキュラム外教育を含めた教養教育機能が大きい役割を果たしている可能性が考えられる。ただし、これ自体は津山高専の独自な性質かもしれない。本研究の成果を2017年度日本高専学会第23回年会において報告し、その際に立高専の教職員と広く成果共有を図ることができた。また津山高専校内の発表会においても副校長や主事、教員と成果共有を図ることができた。今後はこうした事例の蓄積を積み上げ、長期的・継続的に調査を行うことが大切である。
著者
後藤 悠里
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

障害者差別禁止法が施行された今、障害学生に対して学ぶ機会を保障することは大学にとって喫緊の課題であり、そのためには、情報アクセシビリティにおけるバリアフリー化が欠かせない。その中でも、授業の情報を伝えるシラバスをアクセシブルなものにすることが重要である。本研究の目的は、障害学生の学ぶ権利を保障することができるシラバスの作成指針を提案することである。そのために、障害学生に、現行のシラバスの問題点や改善点を示してもらい、シラバス作成指針を提案する。本研究においては、以下の手続きを取った。調査は、障害学生4人を含む10人の学生を対象とし、大学で実際に使われている、ランダムに抽出された75のシラバスを評定してもらった。対象者は、それぞれのシラバスに4段階で評価をし、評価が高いシラバス、評価が低いシラバスをそれぞれ5つずつ選ぶ。その後、調査者が対象者に対し、半構造化面接を行った。得られた結果は「シラバスの見やすさ」と「シラバスに必要な情報」の2つにまとめられる。第1の、「シラバスの見やすさ」については、視覚障害学生から意見があった。第2の、「シラバスに必要な情報」は半数以上の学生から意見があった。具体的には、文言の曖昧さや、情報の不十分さについて指摘がされた。以上の結果から、以下の2点が提言できる。第1に、「シラバスの見やすさ」について、インデントを使用する、英字のフォントサイズはやや大きめにするなどの指示が必要である。第2に、「シラバスに必要な情報」について、評価については割合を提示することや学外活動やグループワークについてはより具体的に情報を提示することである。本研究では、障害のあるなしにかかわらず、対象者からシラバス改善の要求が挙げられた。シラバスの改善は障害のあるなしにかかわらず、学生の学ぶ機会の確保に繋がるユニバーサルな取り組みであるといえるのではないだろうか。
著者
田子 澄子
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究目的は、教職専門性向上と教員支援体制を模索し、効果的な教員支援システム構築を推進することにある。つまり、国立大学と附属学校との連携・協働による研修システムを検討するものである。近年の国立大学附属学校では、法人化後の人件費削減、労働時間増加、中間世代教員の減少等から、教員採用人事において困難な状況が継続し、初任者教員採用を余儀なくされる実情を耳にする。本研究が目指す初任者研修システムは、従来型の職場内徒弟制研修やトップダウン型伝達研修ではなく、国内外の人的・知的資源を活用した機能的・融合的なシステムを目指すものである。平成29年度は、平成25年度からの継続研究を踏まえて、下記に示す全国的な基礎調査を実施した。1. 研究目的 : 国立大学附属学校における教員採用人事、教員組織・環境、教員研修体制、等を調査し、初任者教員採用と初任者研修の実際、現職教員環境の実情等を検討。2. 研究方法 : 全国国立大学附属学校へのアンケート調査と事例調査を実施。(1) アンケート調査…平成28年度実施の附属幼稚園調査を基に、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校など209校(今年度は幼稚園51園舎を除く)を対象に、自記式記述回答調査を実施。(2) 事例調査…実地調査として全国より数校を抽出。教育改革事例・教育活動の特色等を現地調査。3. 研究成果 : アンケート調査より計量的傾向を、事例調査より質的特徴を検討。(1) 基礎調査…平成29年度附属学校209校対象の調査回答率は、平成30年度末約43%。アンケート集計結果による計量分析、及び、知見等を総括して研究発表予定。(2) 事例調査…調査対象抽出校は、岩手大学附属小学校・同中学校、茨城大学附属幼稚園、奈良教育大学附属中学校、神戸大学附属幼稚園・同中等教育学校、大分大学附属幼稚園・同小学校、以上8校。(3) 研究発表…平成29年6月 : 日本教育経営学会茨城大会にて、これまでの調査結果等の知見を研究発表。
著者
田沼 伸久
出版者
明星大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究は、特許データに基づき企業のイノベーション活動についての計量分析を行い、その結果を可視化することで、視覚的に地域の産業構造を分析することを支援するシステムを開発することを目的とする。本研究で提案する手法により地域企業のイノベーション活動を可視化することは、地方行政の地域産業に対する理解度を高めることを支援するものであり、地方行政の産業振興政策の立案に大いに役立つものであり、産学官連携によるオープンイノベーション型の地域産業基盤の形成にも寄与するものと考えている。分析対象地域を東京都日野市、府中市、八王子市とし、当該地域におけるイノベーション活動の可視化を試みた。3市は、大手企業の本社機能や研究開発拠点が数多くあり、それらを中心とした中小企業の産業基盤が形成された国内有数の産業集積地域である。出願時期が2004年から2014年の公開特許公報を対象とし、発明者の住所から研究開発が行われている事業所を推定し、①地域別特許出願数の推移、②1事業所あたりの出願数、③ツリーマップによる地域別の事業者の多様性分析を行った。これらの分析の結果、地域別の出願推移(イノベーション活動の推移)とその特性が明らかとなり、どの地域においても減少方向であることが明らかとなった。また、1事業所当たりの特許出願数を地域別に比較したところ、他の2市に比べて、日野市が飛躍的に高い値を示していることが分かった。ツリーマップによる3市の事業所の多様性を分析したことにより、地域産業のイノベーション活動という視点になった各地域の産業構造を明らかにすることができた。また、それらの3市における2004年と2014年の比較を行った結果、年代の違いによる産業構造の変化を視覚的に明らかにすることができた。
著者
山口 光男
出版者
国立大学法人福井大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

1. 研究目的大学と企業が行う共同研究のマッチング活動を行うにあたり, 大学側の研究テーマの成熟度(完成度)と, 企業側の研究吸収能力(大学の研究成果を理解して応用する能力)とのギャップをカバーするため, 本研究では企業側の研究吸収能力を可視化するための指標開発を目的に, 産学共同研究推進に寄与する企業側要因の分析を行った。URAやコーディネーター等は, 大学側の研究テーマ内容に加えて, 企業側の研究吸収能力を把握することにより, 効果的なアドバイスを行うことが期待できる。2. 研究方法先行文献調査を行った後, 企業側の研究吸収能力と共同研究実績に関する因果メカニズムを明らかにするため, 福井大学研究戦略支援データベースに蓄積されている企業データ(東京商工リサーチTSRデータ含む)及び特許保有公開データ等から得られたデータを基に定量分析を行った。RA協議会年次大会での中間発表のほか, 産学連携研究者, 銀行関係者, 企業関係者からの意見等も参考とした。(1) 対象企業 : 福井大学産学官連携本部協力会企業のうち207社(中小企業のうち主に製造業を抽出)(2) 分析手法 : 平均比較検定(t検定), 回帰分析等【被説明変数】共同研究実績, 共同研究規模【説明変数】企業評価(TSR企業評点・4視点), 卒業生の就職状況, 特許出願状況, 研究開発費状況3. 分析結果指標として, 卒業生の就職実績, 特許出願実績, 研究開発費割合, 企業の成長性評価が有力となった。(1) 卒業生・修了生が就職している企業との共同研究は成立しやすい傾向がある。(2) 特許出願の実績がある企業との共同研究は成立しやすい傾向がある。(3) 研究開発費の割合(研究開発費÷売上高)が高いほど共同研究受入額が大きい傾向にある。(4) 企業評価のうち成長性の評価が高いほど共同研究受入額が大きい傾向にある。
著者
名畑目 真吾
出版者
共栄大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題の目的は,単語や文の意味的な関連が日本人英語学習者のテキスト理解とどのように関わっているのかを明らかにすることである。本課題における意味的な関連とは,言語コーパスと統計分析に基づいて算出・評価される,単語や文が表す概念間の類似度を指す。研究期間1年目である本年度では,本課題の基盤となる実証研究及び教材分析研究を行った。実証研究では,2文1組の英文を先行研究に基づいて複数作成し,実験材料とした。これらの英文は文間の意味的な関連度の高低が操作されており,潜在意味解析 (latent semantic analysis; LSA) によってその関連度の違いが数値として評価された。実験では,協力者である大学生がこれらの英文をコンピューター上で1文ずつ読解し,読解後には1文目を手掛かりとして2文目の内容を想起する筆記再生課題が行われた。文の読解時間及び再生課題成績を統計的に分析した結果,全体としては高い意味的関連度を持つ英文ほど素早く処理され,読解後の記憶にも残り易い傾向が示された。この結果は,コーパスと統計分析に基づいて評価される文間の意味的な関連度という指標が,日本人英語学習者の少なくとも2文1組のテキスト処理と記憶に影響を及ぼす要因であることを実証するものであり,英文読解における意味的な関連度の影響を今後の研究においても追及する意義を示すものである。教材分析研究では,英語初学者向けに作成された物語文教材を対象として,文間の意味的な関連度を指標とした分析を行った。その結果,これらの教材の文間の意味的関連度は大人の英語学習者を対象とした教材を分析した先行研究の値よりも高く,学習者の発達段階によって変化する教材の特徴の1つに,文間の意味的関連度が含まれる可能性が示唆された。今後はこの可能性を確証するために,さらに分析対象の幅を広げた検証を行っていく必要がある。
著者
竹濱 朝美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

固定価格買取制の経済効果と太陽光発電系統連系の制度設計を日独比較した。1)ドイツ買取制は,発電・送電分離に基づき,系統運用者に優先給電義務と系統拡張義務を課し,出力抑制に95~100%の経済補償がある. 2)15年間で原子力発電量2800億kWhを再生可能エネルギーに代替する投資費用と天然ガス輸入費用節約を推定した.投資費用と天然ガス輸入費用節約の収支は14年目に均衡する.3)風力・太陽光大量連系の系統運用をドイツ50Hertz区域について分析した.風力・太陽光は110kV以下配電網に優先給電されるため,風力・太陽光出力変動に対応して,在来電源出力の柔軟な調整と広域系統運用が重要である。
著者
池田 光雪
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,画像化されている日本語資料に対するマイクロタスク型クラウドソーシングを用いた効率の良い文字起こし,いわゆるデジタル翻刻手法の設計及びシステムの構築を行うことにより,デジタルアーカイブの更なる利便化等に資することを目的としている.複数の形式や粒度のタスクを組み合わせることや,光学的文字認識の精度により一度に校正する文字数を動的に変化させることなどにより,少ないタスク数でより多くの翻刻を高品質に行うことを目指す.平成29年度の実施内容は次の通りである.(1)デジタル翻刻を複数の段階に分割する設計の検討:既存のデジタルコレクションに対し実際に行われた光学的文字認識の結果を検討した.それにより,まず図画部分のような偽陽性の要因となる部分を除去し,その後文字認識の結果を校正するという二段階にデジタル翻刻を分ける検討を行った.(2)マイクロタスクの粒度に応じたタスク設計:文字認識の校正において,選択式や入力式のタスクを組み合わせることにより少ないタスク数で多くの文字の校正が行えるようなタスクの設計を行った.また,スマートフォンやパソコンといった環境の異なる媒体へのタスクの配信を想定し,媒体それぞれに対するタスクの最適化の検討を行った.(3)試験的なデジタル翻刻システムの実装:(1)(2)の結果を踏まえたマイクロタスク型クラウドソーシングによるデジタル翻刻システムの実装を部分的に行った.
著者
鈴木 真
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は,清朝(1636~1912)康煕年間(1662~1722)の政権上層部の権力構造を,主に当該時期の皇位継承問題を題材として分析し,康煕朝中期の宮廷政没史の実態を明らかにしたものである。皇帝(康煕帝玄〓)・旗王(有力皇族)・権門(有力満洲貴族)の三者間の関係を,清朝の軍事・社会制度である八旗の支配原理の中で捉え直し分析することに主眼を置き,これらの複雑な権力構造の下,一見すると中華王朝的な皇太子冊立がおこなわれたと指摘した。さらに皇太子廃嫡後における諸皇子の擡頭・失脚や,つづく康熙帝の後継者指名と雍親王即位の理由も,そうした権力構造の存在に求められることを指摘した。
著者
中條 清美 松下 達彦 小林 雄一郎 Anthony Laurence 濱田 彰 西垣 知佳子 水本 篤
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,いつでもどこでもだれでも,教育用例文コーパスを使って,DDL(Data-Driven Learning,データ駆動型学習)が実施可能なように,教育用コーパス・検索ツール・教材を搭載したDDLオープンプラットフォームを開発し,その活用と普及を図ることを目的とする。具体的には,平成25‐28年度科研において開発した第Ⅰ期開発版のデータ駆動型英語学習支援サイトSCoRE(Sentence Corpus of Remedial English)に基づき,1)教育用例文コーパスの増強,2)検索ツールの高度化・軽量化,3)DDL実践・効果検証・DDL普及活動の3項目の研究を行い,成果を逐次,国内外に発信することである。平成29年度の研究実績について述べる。1) 教育用例文パラレルコーパスの増強:第Ⅰ期開発版の英語例文・日本語訳データの見直しを行い,例文の増補・改訂,および,インターフェースの改良を加えた第4次開発版SCoREを公開した。2) 検索ツールの高度化・軽量化:SCoREツールのひとつ,「適語補充問題」ツールのログ機能を強化し,教育利用の促進を図った。さらに,ユーザの利便性を考慮し,新たに携帯端末用検索ツール「m-SCoRE」を開発・公開した。3) DDL教材の開発・実践・効果検証:上記1),2)の教育現場への応用研究として,外国語学習者がDDLに取り組むための教材や効果検証テストを開発し,データ駆動型英語学習支援サイトSCoRE(http://www.score-corpus.org/)に収録した。当該サイトは,オープンプラットフォームであり,教師・研究者が自由に収録データをダウンロードできる。大学生および高専生を対象としたDDL指導実践授業の評価と教育効果の検証を行った。研究成果として,雑誌論文を5件公刊し,6件の学会発表を行った。
著者
佐藤 真理子 熊谷 伸子 小出 治都子
出版者
文化学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

袴は,前後2枚の台形状の布を縫製した構造で,腰部と脚部を覆い,前布の襞,後布の腰板,前後二重に締める紐を特徴とする和服の一種である.本研究では,袴を,日本発のクールなファッションとして広く世界に発信することを目指し,市場に関する現状調査,マンガにおけるイメージ分析,日本と海外での意識調査,機能性・快適性評価,伝統的所作における役割分析を行った.その結果,袴は,新しい和のモードとしての可能性を有する.着心地の良い機能的な民族衣装であることが明らかとなった.
著者
中里見 博 杉田 聡
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

アダルトビデオなどのポルノグラフィ被害の実態把握という課題については、「ポルノに関連した被害に関するアンケート調査」を全国の婦人相談員、女性弁護士(一部男性含む)、フェミニスト・カウンセラー約2500人を対象に行ない、311の回答を得た。回答結果を集計・分析した結果、ポルノに関連した被害の相談を受けたことがあったのは167人で、総計267件の被害件数に上った。被害内容は「強制視聴」80件、「模倣行為の強要」73件、「強制だましによる出演」9件など、私たちが想定したあらゆる被害が報告された。婦人相談員を対象にしたこともあり、ドメスティック・バイオレンスの一形態としてポルノグラフィに関連した被害が非常に多発している実態を把握できた。ドメスティック・バイオレンスとしてのポルノグラフィ被害の被害者は、女性(妻)だけでなく、幼い(4歳や8歳)の女児が父親にポルノグラフィに影響を受けた強制わいせつ、ポルノグラフィの強制視聴の被害を受けていた。ある弁護士の回答には、「あらゆる性犯罪の裏にはポルノグラフィがあると思われる」という現状認識があった。法的救済策の比較法研究であるが、アメリカで起草された、従来の刑法わいせつ物規制とはまったく異なる新しい法的アプローチ、反ポルノグラフィ公民権条例について、その全体構造・ねらい・社会的歴史的背景・政治的インパクトなど多面的に分析できた。またカナダ、オーストラリアでも政府がポルノグラフィ被害について調査し認識しているが、イギリス同様ポルノグラフィの蔓延とその被害救済には無力なわいせつ物規制法しか有しない実態も明らかになった。
著者
村上 呂里 那須 泉 西岡 尚也 善元 幸夫
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ベトナムでは、教え込みから子ども中心主義への教育改革に取り組んでいる。本研究は、貧困問題や差別、学力問題や言語問題などの課題を抱える少数民族地域の小学校をフィールドとし、共通の問題を抱えた沖縄で培われた理論や実践に基づき、ベトナムの教育改革の質的向上に参加した。その成果については、日本語版『日本・ベトナム共同授業研究の歩み-教え込みから子ども中心主義へ』(明石書店、2015)とベトナム語版"Tu giao duc nhoi nhet sang giao duc tich cuc"(フォレスト社、2106)として刊行し、ベトナム側にも広く還元した。
著者
間下 克哉 橋本 英哉 宇田川 誠一 田崎 博之 古田 高士
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

(1)コンパクト単純リー群へのカルタン埋め込みの像の極小性と安定性を・埋め込みが位数2または3の自己同型により定められる場合・埋め込みが位数4の内部自己同型により定められる場合についてすでに決定していた.位数4の外部自己同型が定めるカルタン埋め込みの像の極小性および安定性を決定した(2)8次元ユークリッド空間の6次元部分多様体でスピノル群Spin(7)の作用で不変なものを橋本,古田,関川との共同研究により分類した.(3)SU(2)の実既約表現の軌道として得られる7次元球面内の3次元部分多様体で,その上の錐がケイリーキャリブレーションでキャリブレートされるものを全て決定した。(4)SU(2)の実既約表現Vのp階外積表現内のSU(2)不変元を具体的に構成する方法について考察した.一例として,11次元実既約表現の3次の外積内の不変元を具体的に構成した.
著者
阪倉 良孝
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

脊椎動物で唯一自家受精を行うマングローブ・キリフィッシュ(Rivulus marmoratus)を材料とし、これまで知見の乏しい本種の初期生活史を明らかにするとともに、由来の異なるクローン株間での生活史戦略の比較および本種の増養殖研究の実験動物としての有用性の考察を研究目的とした。その結果、形態・組織・生理・行動の各種形質の解析により、本種の初期生活史は4相に分けられた(文献1)。由来の異なる2つのクローン株を同一環境で飼育し、先に得られた初期生活史パラメータと、繁殖パラメータを比較した。その結果、これらの株間で、初期成長と繁殖戦略(産卵数、性比)に有意な差が見られ、2株間には成長・繁殖形質に関わる遺伝的変異の存在することが明らかになった(文献2)。2クローン株間の生活史特性値の変異を決定する機構を調べるために、2株の初期成長の差に着目し、消化酵素活性および画像解析により摂餌行動と遊泳活動度を比較した。その結果、高成長クローンと低成長クローンの消化酵素活性は同等であるのに対し、高成長クローンは摂餌速度と遊泳活動度が低いことが明らかになった。このことから、2株間で摂餌効率が異なることにより、初期成長の差が生じることを示した。さらに、本種の初期生態と栄養要求を理解するために、異なる餌料プランクトンを与える飼育実験を実施し、餌料によって初期成長、魚体の脂肪酸組成、遊泳活動度に差が生じることを見いだした。また,本種の性ステロイドの動態を世界で初めて明らかにすることが出来た(文献3)。また,クローン株特異的な遺伝子マーカーを一部得ている。本研究の意義は、これまでガン研究や環境毒性評価などの実験動物として用いられていながら、手つかずであったマングローブ・キリフィッシュの初期生活史を、様々なアプローチによって詳細に明らかにしたことにある。さらに、成長や繁殖に関わる遺伝的要因と環境要因の相互作用機構に迫り、水産増養殖研究における飼育技法や遺伝・育種に対して様々な応用形態の可能性を示した。
著者
中林 純 中島 賢太郎 川合 慶
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

2000年代前半に国土交通省が全国で発注した公共工事で大規模な入札談合が行われていた可能性についての存在を推定する方法について検討を行った。公共工事等の入札で予定価格を全員が超過した場合に行われる「再度入札」に着目し、談合によって業者が入札する予定の金額を事前に打ち合わせしていた可能性を示した。さらに再度入札に参加した業者の入札行動を分析したところ、期間中に談合を繰り返した可能性が高い業者が約1,000社、またそれらの業者が落札した工事は当該期間中だけで約8,000件、予算規模で約9,000億円にも及ぶことがわかった。
著者
水垣 滋
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、湿原における過去約100年間の土砂堆積実態を明らかにし、1960年代を境に激変した流域の土地利用が土砂動態に与える影響を検討することである。本年度は、湿原内における堆積土砂の年代測定に基づいて土砂堆積量を推定し、昨年度までの流域土砂生産・流送・氾濫堆積過程の解析結果と併せて、土地利用変化に伴う流域土砂動態の変化実態を明らかにした。【調査及び分析】昨年度に引き続き、河床縦横断測量及び浸食量モニタリングと湿原土壌の放射能(^<137>Cs、^<210>Pb)測定を実施した。また、粒度、有機物含有率及び土粒子密度も測定した。【データ解析】湿原内の堆積速度は^<137>Cs及び^<210>Pb測定に基づく年代測定により推定した。また湿原堆積土砂量を推定するため、土層区分と^<137>Cs分析による1963年表土深との関係について検討した。さらに浸食量データより推定した年間土砂生産量を既存の土砂流送量データと比較検討した。【本年度の成果】河川湿原流入部では、明渠排水路工事期間(1960〜70年代)に顕著な土砂堆積が認められ、工事以前(1940〜50年代)と以降(1980年代〜)の堆積速度は十数倍に増加していた。湿原流入部における1963年以降の微細土砂堆積量(約7500t/year)は、土砂流送量(約9900t/year)と同オーダーであり、湿原流入土砂の大部分が湿原流入部で氾濫堆積していることが明らかとなった。一方、中流域で1985〜1990年以降に河床低下が進む流路直線化区間の微細土砂生産量は4400t/yearであり、土地利用開発後の新土砂生産源としての重要性が示された。さらに中流域氾濫原では土砂貯留量の減少が示唆された。以上から、流路直線化により中流域では微細土砂貯留量の減少と生産・流送量の増加がもたらされ、下流湿原内の堆積速度が大きく増加したものと考えられる。